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シナリオ詳細

新緑の抱擁、砂塵への旅路

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●交易への誘い
「すみません、こちらにアレクシア・アトリー・アバークロンビーが滞在していると聞いてきたのだけれど……」
 とある、うららかな午後の事。新緑にあるローレットの出張所にて、アレクシア・アトリー・アバークロンビー (p3p004630)がその声を聴いたのは、とある依頼を終え、休憩をとっている時のことである。
「……あれ、お父さん?」
 アレクシアが小首をかしげる。仲間達と囲むテーブル、そこから声の方を見てみれば、受付に立つ一人の男性、アレクシアの父、アトワール・ラリー・アバークロンビーの姿があったのだ。
「お父さん、私、ここだよ! どうしたの?」
 声をあげて手を振るアレクシアに気づいたアトワールが、顔をほころばせて、
「アレクシア!」
 声をあげた。受付に礼を言ってから、アトワールはアレクシア達のテーブルへとやってくる。
「ああ、よかったアレクシア。実は折り入って相談があってね……おっと、友達の皆さん。私はアトワール。アレクシアの父で、交易商人をやっているものです」
「交易商人?」
 フラン・ヴィラネル (p3p006816)が小首をかしげた。
「深緑内部を旅してまわってるの?」
「ううん、お父さんは、主にラサとのやり取りをしてるの」
 アレクシアが言うのへ、アトワールが頷いた。
「深緑は些か閉鎖的だからね。外との交易を続けるのは、いい影響になるかと思って……そう、実はアレクシア、皆に依頼があってきたんだ」
「お、お仕事の相談ですか? いいですよ、拙者たちも、今一仕事終えてきて丁度フリーな所ですし!」
 夢見 ルル家 (p3p000016)が言うのへ、
「ありがたい。実は、あすから交易の旅に出る予定だったんだけれど、護衛をお願いしていた馴染みの傭兵たちが、前の仕事のトラブルで少し怪我を負ってしまってね。急に動けなくなってしまったんだ」
「おや、傭兵さんたちはご無事ですか?」
 ルル家が尋ねるのへ、アトワールが頷く。
「ああ、怪我そのものは大したことないみたいでね。ただ、しばらく治療にあたることになって。代わりの護衛を探そうにも、急と言う事もあってなかなか見つからない。先方をあまり待たせるわけにもいかないし……と言った所で、この街に、皆さんが滞在しているという話を伺ったんだ」
「話の流れかからすると、依頼は行商隊の護衛かな?」
 シラス (p3p004421)が言うのへ、アトワールが頷く。
「ああ、シラス君、その通りだ。日程は一週間ほどになるよ。この地図を見てくれるかい?」
 と、アトワールは近隣の地図を取り出した。イレギュラーズ達が、それを覗き込むのを確認して、アトワールは現在地を指さす。
「今いる街……クルーヴから出発して、森を抜ける。途中草原のラージィと言う街で補給をして、ラサのオアシス都市、ジルダまで向かう。このジルダが、目的地なんだ」
「へぇ、森、平原、砂漠、って越えていく感じだね。結構な旅になるね!」
 炎堂 焔 (p3p004727)が言う。アトワールが指さしたのは、深緑から出発し、ラサへと入るルートだ。自然、森、平原、そして砂漠、と異なる気候の地域を通るコースとなる。
「となると、結構大変な旅路になるのかな? 道が険しかったり?」
 焔が尋ねるのへ、アトワールは頭を振った。
「いいや、街道として整備されているから、道筋自体は安定したものだよ。ただ、それでも獣や魔物、賊の類はどうしても警戒しなければいけないけれどね」
「確かにそうだ。だが、これは治安のいい行商ルートだよ」
 ラダ・ジグリ (p3p000271)が微笑んで言った。
「私の父の商隊もよく使っていたルートだから、多少は知っている」
「おや、だとすると心強いね」
 アトワールが言うのへ、ラダは苦笑した。
「私自身は、まだまだ駆け出しだけれどね……とはいえ、うん。旅に慣れていないものでも、このルートならさほど苦でもなく進めるだろう」
「と言うわけで、どうかな? 一週間、私の隊の護衛をお願いしたいんだ」
「そうだね、ボクはやってみてもいいと思うよ! 一週間、ちょっとした旅行だと思えば」
 焔の言葉に、シラスが肩をすくめた。
「おいおい、遊びじゃないんだぜ? でも、俺も賛成だ」
「私も参加に一票だ。他の商隊の生活を見てみるのも、良い経験だよ」
 ラダが言う。
「おや、もう過半数、って感じですね! 拙者ももちろん、OKですよ!」
 ルル家がそう言うのへ、
「そうだね。アレクシア先輩のおとうさんの頼みだし、あたしも賛成!」
「ありがとう、皆。と言うわけで、私達、その依頼受けましょう!」
 胸を張るアレクシアに、アトワールは微笑んだ。
「ありがとう、皆。では、早速打ち合わせと行こう。出発は明朝になるから、準備があったら今日のうちにお願いするよ」
 そうして、一同はさっそく、旅程の打ち合わせを始めた。

 翌朝、まだ日の柔らかな明け方のうちに、クルーヴの街のはずれで、イレギュラーズ達は商隊のメンバーと合流していた。
「じゃあ、皆に簡単に、私の商隊のメンバーを紹介しようか。私は確かにリーダーだけど、食糧管理や商品保護などは、仲間達に任せているよ。そこはほかの隊とは違うかもしれないけれど、私の隊のやり方、と言う事で納得してほしい」
 そう言って、アトワールが紹介したのは、以下のメンバーである。
「まずは、レイヴェル。商品の管理や輸送を行う」
 黒髪の、幻想種の男性、レイヴェル。彼は、アトワールと同じような年齢に見える外見をしていた。
「よろしくお願いします」
 にこりと笑う彼の笑顔は、穏やかそうな性格を表している。
「家畜や輸送用のパカダクラの管理を任せているのが、彼女、シエナだ」
 金髪の、耳の形からすれば、熊の獣種だろうか?
「はい、よろしく~。うちの子(パカダクラ)たちも、後で紹介するね~」
 のんびりとした笑顔は、彼女の気質を現している。
「食料や水の管理は、サヴァナさんに任せてある。私も頭のあがらない人だ」
 と、気の強そうな、赤毛の人間種の女性が笑った。
「よろしく。旅は腹が減ったり喉が渇いたりするもんだけど、つまみ食いだけはするんじゃないよ?」
 豪快そうに笑うその姿は、気風の良さを思い起こさせた。
「他にも雑事のメンバーは居るけれど、ひとまずこんな所かな。それじゃあ、一週間よろしく頼むよ」
 アトワールの言葉を合図に、かくして一週間の旅路の幕が上がったのであった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 此方のお仕事は、イレギュラーズ達のへ依頼(リクエスト)によって発生したものになります。

●成功条件
 一週間の旅路を完遂し、ジルダの街に到着する。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●名声について
 此方のシナリオは2国にまたがる依頼となりますが、依頼主が新緑の出身のため、成功時には深緑での名声が上昇します。

●状況
 一仕事を終えて、休息をとっていたイレギュラーズ達。
 そこに現れたのは、アレクシア・アトリー・アバークロンビー (p3p004630)さんのお父さん、アトワール・ラリー・アバークロンビーでした。
 彼の言う事には、自身の商隊の護衛をお願いしたいとのこと。皆さんはその依頼を受諾し、一週間の旅に出ることとなります。
 行商ルートは街道化されており、ある程度の安全は確保されています。そのため、(獣や賊の存在を経過する必要はあれど)気楽な旅になるでしょう。
 旅のルートは、深緑の街『クルーヴ』から出発して森を抜けます。草原地帯に入ったら『ラージィ』と言う街で補給をして、ラサの砂漠に入ります。その後は砂漠を抜け、目的地のオアシス都市、『ジルダ』まで向かう旅路になります。
 行商中では、旅の自然を愉しんだり、商部の人々と交流したりなど……気軽な一週間の旅をお楽しみください。

●遭遇するかもしれない敵
 街道も整備されているため、敵との遭遇は基本的にはないでしょう。
 ですが、獣や魔物、盗賊の類が現れる可能性は0ではないので、警戒自体は怠らない方がいいと思います。
 登城する敵は、すべてイレギュラーズの皆さんよりは格下の相手ばかりですので、本格的な戦闘プレイングを入力する必要は特にありません。

●商隊メンバー
 以下は、同行する商隊メンバーです。他にも、「こんな人いるかな~」と探してみれば、きっとそんな人もいるに違いありません。

 アトワール
  アレクシアさんのおとうさんで、交易商隊のリーダー役です。
  ルートの確認などは、彼に尋ねれば問題ないでしょう。

 レイヴェル
  黒髪の幻想種の、穏やかな性格の男性で、商品の管理や輸送リーダーをやっています。
  実年齢も見た目も、アトワールさんと同じくらいのようです。
  商品に関してなどは、彼に聴くと教えてくれるでしょう。

 シエナ
  家畜や輸送用の家畜(パカダクラやラバなど)の管理を行っている、金髪の、獣種(おそらくクマ)の女性です。
  のんびりした性格ですが、パカダクラの管理に関しては一級品です。
  パカダクラや、ラバなどについて尋ねたいときは、彼女に聴いてみましょう。

 サヴァナ
  赤毛の人間種の女性。彼女は、食料や水の管理などを行っています。食事の用意も彼女が行っています。
  食糧管理と言う事で、商隊を預かる命綱でもあります。皆結構頭が上がらないようです。
  食事などに関しては、彼女に聴くと良いでしょう。

 以上となります。
 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。

  • 新緑の抱擁、砂塵への旅路完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年06月17日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
シラス(p3p004421)
超える者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘

リプレイ

●旅立ち~新緑の抱擁
「では、皆、出発だ。最初は深緑内部だからさほど危険ではないけれど、充分に気を付けて」
 アトワールの言葉を合図に、商隊は進みだした。パカダクラやラバに荷物を引かせ、クルーヴの街を出発する。少し道を進めば、そこはもう、深緑の森林迷宮の内部だ。
 『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は身軽に迷宮の地面をかけていくと、先頭のアトワールに近づいて、背伸びして、父の耳元に顔を近づけた。
「おとうさん! 私の身体が弱いこと、シラス君以外は誰にも言ってないから、ぜっっったい言っちゃダメだからね!」
 小声で、念を押すように。アトワールはゆっくりと頷いた。
「ああ、分かったよ。でも、お前は無理をしてしまう子だから、心配なんだ。そう言う所は、お母さんに似たのかもしれないね」
「だとしても、だよ。……お願い」
 父としては心配があるが、しかし娘の気持ちを慮れぬような父ではなかった。
「わかったよ、アレクシア。ただ、無茶だけはしないでおくれ」
「お義父上! おっと、お話し中でしたか!」
 『離れぬ意思』夢見 ルル家(p3p000016)がぱたぱたと手を振ってやって来るのを見て、アレクシアはアトワールから顔を離して、にこにこと笑った。
「うん、でももう大丈夫だよ。っていうか、お父上?」
 小首をかしげるアレクシアへ、ルル家は胸を張って、
「ええ、アレクシア殿のお父上とあれば、つまり拙者の家族も同然! 将来的にも家族入りすることは確定ですので!」
「うん……うん?」
 困惑するアレクシアをよそに、ルル家はアトワールへと一礼する。
「拙者、夢見 ルル家と申します! 将来的にもうひとりの娘となるかも知れません! よろしくお願いしますお義父上!」
「ああ、よろしく、夢見さん……うん、娘? うん?」
 アレクシアと似たようなそぶりで小首をかしげるアトワール。ルル家はのんのん、と指を振ると、
「お気軽に、ルル家、とお呼びくだされば! 義娘ですので!」
「あ、ああ、ルル家さん」
 アトワールの困惑は続くようだが、ルル家は気にした様子もなく、にっこりと笑顔だ。
「では、拙者、周囲の警戒にうつりますので! お任せください、この宇宙警察忍者ルル家、護衛とかそう言うのも得手としておりますので! ではでは!」
 しゅばっ、と駆けていくルル家の背中を見ながら、アトワールはくすりと笑った。
「賑やかなお友達だね」
「そうだね、すごく元気な子だよ」
 アレクシアも微笑んで見せる。

 周囲を警戒しつつ、迷宮を行く。案内人はもちろんアトワールだ。隊の管理を様々なメンバーに割り振っているアトワールだが、やはり先頭に立つのはリーダーたる彼自身である。
 きり、とした視線であたりを見、先に進むべき道を示す。そんな姿を見ながら、アレクシアは、なんだか不思議そうな表情だ。
「どうかしたかい?」
 尋ねるのは、『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)だ。アレクシアは慌てたように頭を振ると、
「うん。えっと、おとうさんのああいう姿、あんまり見たことなかったなぁって。キリっとしているって言うか、気を張っているって言うか」
「それはそうだろうな。隊の行く末を預かるのが、リーダーと言うものだよ。極端な事を言えば、自分の判断ミスで隊の人間が全滅する可能性だってあるんだ」
「だから、隊のすべてを自分で管理するリーダーもいますね」
 レイヴェルがやってきて、そう言った。
「ウチはかなり、自由にやらせてもらってます。その分、リーダーの負担にならないように、皆も一生懸命ですよ」
「ああ、隊の皆を見れば、それは分るよ。いい商隊なんだね」
 ラダの言葉に、レイヴェルは笑った。
「ジグリさん所のお嬢さんにそう言ってもらえると、光栄ですねぇ」
「いや、私はまだまだ駆け出しに過ぎないよ。でも、家族をそう言ってもらえるのは嬉しいな」
「そっか、ラダさんのご実家も、行商とか交易商人なんだったね」
 アレクシアの言葉に、ラダは笑った。
「ああ、だから分からないことがあったら頼って欲しい……なんてね。私もいろいろ勉強する気持ちなんだけれどね。特に深緑内は経験があまりないからなぁ」
「ふふ、じゃあ、深緑に関してはあたしの方が先輩だね、ラダ先輩!」
 と、少しだけ得意げな笑顔で声をかけてきたのは、『青と翠の謡い手』フラン・ヴィラネル(p3p006816)だ。ラダはくすりと笑うと、
「そうだな。では、色々教えてもらおうかな、フラン先輩?」
「あう、なんかそう言われると気恥ずかしいなぁ……やっぱりさっきのなしで!」
 ぱたぱたと両手を振るフラン。ラダが「ふふ」と笑って見せる。
「みなさん、仲がよろしいのですね。アトワールさんもこれなら安心でしょうね」
「やっぱり、心配してるのかな?」
 アレクシアの言葉に、レイヴェルは笑って頷いた。

 一日かけて歩いて、日が傾き始める。夕刻がやって来る前に、一同はキャンプの用意を始めた。テントを張った小川の近くは、多くの旅行者が休憩をとる地でもある。
「水は貴重だけれど、深緑内ならさほど気にするものでもないのさ。こうやって、気軽に手に入るからね」
 サヴァナが、小川から鍋に水を汲んで言った。
「なるほどー。やっぱりきついのは、ラサに入ってから?」
 フランが尋ねるのへ、サヴァナは頷く。
「お嬢ちゃんは砂漠の旅は初めてかい?」
「初めてってわけじゃないけど、長く旅をする、となるとあんまり経験ないかも。でも、前にね。黒狼隊でキャラバン旅をしたんだ。それで、あたしも、ラサとの交易とかしていきたいし……いろいろ知りたいなぁって」
「そうかい。じゃ、あたしから言えることは一つだ。食料と水は、ちゃんとした奴に管理させるんだよ。命綱だからね」
「サヴァナさんみたいな人に?」
「そ。あたしみたいなしっかりした女に任せるもんさ」
 豪快に笑うサヴァナに、つられてフランも笑う。フランは、そのままサヴァナの料理を手伝う。料理と言っても、深緑内は基本的に火の使用を禁止しているため、あまり大掛かりな事はやらない。魔力で熱を出す札などを使って、野菜やスープなどを温めたりする程度だ。
「材料は、古いものから使ってくんだよ」
「そこは普通のお家と変わらないんだね。献立とか、消費計画みたいなのもちゃんと立ててるの?」
「当り前さ。ま、もうすぐ補給ができるって時はぱあっと使っちゃうけどね?」
 あはは、と笑うサヴァナ。一方、食事が出来上がったころには日は沈みかけていて、そろそろ夜の闇が支配する頃になる。
「この辺りは、あんまり大型の獣もいないみたいだね。さっき、そこでリスの子に聞いたよ」
 『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)がそう言った。指先に灯る炎は、焔のギフトによって生み出された『燃えない炎』だ。その指先を、集めた枯れ枝にちょん、と近づけると、炎が枯れ枝に『燃え移った』。燃え移った、と表現するのも本来は違うのだが、見た目としてはそのように見える。だが、枝は燃え尽きることはないし、炎も焔の意思によらずして消えることはない。
「えー、便利。欲しいなぁ~」
 シエナが言った。
「結構ね~、光源に使う魔術符も高かったりするんだよ~。ねぇねぇ、焔ちゃん、このまま隊に入らない~?」
「えー、なんかそれ、ボクの焔だけが目当てみたいじゃん……?」
 ぶーぶーと文句を言う焔。シエナはケタケタと笑った。

 焔の炎を明かりに、皆で車座になって食事をとる。話題はローレットでの冒険の話から、気づけばフランによるアレクシアの武勇伝語りになっていた。
「――って言う感じで! 本当にアレクシア先輩は凄い人なんですよ!」
 隊のメンバーから、ほぉ、と感嘆の声が上がる。アレクシアは顔を赤らめて、帽子の鍔を引っ張って顔を隠してしまう。
「も、もう、大げさだよ……!」
「でも、本当のことだろ?」
 そう言ってほほ笑んだのは、『竜剣』シラス(p3p004421)だ。
「彼女は凄いですよ、何て言うか……ヒーロー? そんな感じで――」
「ヒーロー、かい?」
 アトワールは笑った。
「なんだか……不思議な気分だ。あのアレクシアがね。でも、そうか。なんだかとても誇らしい気分だよ。妻にも帰ったら聞かせてあげなくちゃね」
「もう、おとうさんまで!」
 アレクシアが顔を真っ赤にして立ち上がった。もちろん、怒っているのではなくて、気恥ずかしさからだ。それから、ぷい、と顔を背けると、
「お仕事だからね、見回りに行ってくるよ。焔君、一緒に来て!」
 と、つかつかと森の奥へ行ってしまおうとするのへ、
「あ、ちょっとまって、アレクシアちゃん!」
 と、焔が一瞬、こちらを見て笑ってから、アレクシアへと着いていく。
「あはは、怒らせちゃったかな。でもほんとなんです。彼女は……俺の憧れでもあって」
「ああ、疑ってはいないよ。きっとみんな、本当に、娘を大切に思ってくれているんだね」
 アトワールが微笑む。嬉しそうに。
「もう少し、色々と聞かせてくれないかな。それから……あの子の事を、頼む。これからも、仲良くしてやってください」
 そう言って、頭を下げた。

●草原の街
 深緑を抜けて、草原へと入る。森林迷宮とは違ったさわやかな風が、一行を出迎えてくれた。お昼ごろには中継地点の街、ラージィに到着した。砂漠の玄関口でもあるこの街で一泊し、翌朝から砂漠を進むことになる。
「砂漠だと、お風呂入れないよね。水浴びとかも難しそうだし……」
 焔が、アレクシア、フランへと言う。今日は自由行動だ。明日からは厳しい砂漠越え、今日の所はゆっくりと英気を養う時間である。
 と言うわけで、三人は買い物に出かけていた。ラージィは中継拠点にもなっているため、ラサと深緑、両方の文化が混ざったような、独特な賑やかさを持っている。
「となると、香水かなぁ? あと、タオルとか! 身体は拭けると思うけど」
 アレクシアの言葉に、フランは頷く。
「うんうん、水は無駄遣いできないからね。でも、お風呂に入れないのは女の子にとって死活問題。此処は少しでも、お洒落で乗り切りたい! と言うわけで、アレクシア先輩の香水の案に賛成!」
「香水かぁ、どんなのがいいのかな? ボク、あんまり香水とかつけたことないから……」
「じゃあ、あたしが皆の分を選んであげる! 焔先輩は、やっぱりラサの雰囲気が会うと思うんだよね。アレクシア先輩は、やっぱり深緑の、お花の香りかなぁ……?」

「アトワールさん、お出かけですか?」
 宿で皆が休息をとっている中、ロビーで涼んでいたシラスが、メモを片手に外に出ようとしていたアトワールを見つけて、声をかけていた。
「うん、少し市場を見ておこうと思ってね。此処は中継地点の街だ。いわば、両国の流行が集まる場所ともいえるから、商品のリサーチをね」
「なるほど……あ、良かったら、俺もついていっていいですか?」
 シラスが立ち上がるのへ、アトワールは笑って頷いた。
「おっと、邪魔するわけではないけれど、私もいいかな? 行商の目利きと言うものを教えてもらいたいね」
 ラダも立ち上がり、
「では拙者も! なぁに、拙者もお店を開いていますので、流行り廃りには敏感ですからね!」
 ルル家も手をあげる。
「じゃあ、皆で市場を見て回ろうか」 
 そう言って、アトワールは笑った。
 四人で市場を見て回る。深緑とラサ、二国の商品が並ぶ市場は、どこか子供のおもちゃ箱のような、色々なものが詰め込まれた楽しさを感じさせる。
「行商って大変ですねぇ。拙者も喫茶店をやっておりますが、これに比べるとめちゃ楽ちんですね」
 ルル家が肩をすくめて言うのへ、アトワールは頭を振った。
「いやいや、お店を持つというのも大変なものだよ。ルル家さんは、しっかりしているのだね」
「あはは、そう言われると照れますね……でも、ありがとうございます! お義父上!」
「そう言えば、今回運んでいる荷は何なのかな?」
 ラダが尋ねる。
「ああ、今回は主に民芸品が多いね。普段は、深緑からは薬草の類をもって行くこともある。当然ながら、ラサにはないものが需要があるよ」
「基本に忠実に、だね」
「うーん、となると、ラサで一発あてようとすると……」
 シラスが唸るのへ、アトワールは笑った。
「商人の立場で考えるなら、誰も見たこともないようなものを、独占して供給する事、かな? まぁ、それができたら苦労はしないんだけれどね」
「難しいんだなぁ……商売人は、向いてないのかもしれないですね、俺」
 がりがりと頭を掻くシラスを、皆が微笑まし気に見つめていた。

●砂塵の旅路
 翌朝、ラージィから出発すれば、そこはもう砂漠だ。此処からが、旅の本番と言ってもいい。熱砂と太陽が、上下から行くものの肌を焼く。
「あ、暑い……!」
 焔が、思わず舌を出しながら呟いた。焔、というか、イレギュラーズ達はアレクシアと同じような帽子をかぶっていて、日除けにしている。他にも、ラダの提案により、頭にターバンのように布を巻いて、とにかく直射日光と熱から頭部を守っていた。
「焔、水は定期的に補給しておいた方がいい」
 ラダが水筒を差し出すのへ、焔はぱたぱたと手を差し出して、受け取った、ごくごくと飲み込む。
「うう、辛いねぇ。ラサには何度か来ていたから慣れていたつもりだったけど、砂漠を渡るとなるとこんなにつらいんだねぇ」
「クーラーが欲しいですね……」
 ルル家も目をバッテンにしながら呟く。
「夜までの辛抱だ。と言っても、夜は夜で肌寒いけれどね」
「うう、温度差で風邪ひかないようにしなきゃ……」
 そんな心配をよそに、夜はやってくる。砂漠の大きな砂丘の影でテントを張ると、昼間とは打って変わって、冷えた風が皆の肌を包み込んだ。
「と言うわけで! キャッキャウフフの砂漠の身体吹きの時間ですが!」
 ぐっ、とルル家が、タオルを手に月に吠える。そのまま、シラスへと視線を向けると、
「当然のことながら、シラス殿はお留守番です!」
「分かってるよ! いちいち指さすなよ!」
 シラスが苦笑した。
「んー、どうかなぁ。シラス君、無人島の時の前科があるからなー」
 焔がニマニマと笑うのへ、
「ん? シラス、覗きでもやったのか?」
 ラダが首をかしげた。
「やってねーよ! 不可抗力だよ!」
「あはは。焔先輩、お背中お流しします……」
 神妙な顔でフランが言うのへ、焔はにこにこと微笑んだ。
「うん! 代りばんこでやろう!」
 そんなことを言い合いながら、女性陣がテントの中へと消えていく。シラスはテントから少し離れたところで、見張りがてらに座り込んだ。冷えた風が、汗を流すように身体をかけていく。護衛の任務ではあったが、敵の類に遭遇することはなかった。なんだか本当に、ただの旅行に来たみたいな気分になって、シラスは苦笑した。
「平和だな」
 あくびなどもしてしまう。考えてみれば、こんなにゆっくりしたことは、最近はなかったかもしれない。仕事ではあったけれど、どこか疲れが取れるような気分もした。
「よいしょ」
 と、隣で声が聞こえた。見れば、そこに居たのはアレクシアで、
「体拭いてるんじゃなかったのか?」
「これからだよ。その前に、少し涼みにね」
 そう言って、シラスの隣に座った。砂漠の静けさが、二人を包んだ。何方ともなくそれを見上げてみると、澄んだ空に浮かぶ満点の星々が、宝石箱を散らしたかのように、辺りに瞬いていた。
「綺麗だな」
 シラスが言った。
「砂漠の空って、綺麗なんだ。……気づかなかった……違うか、きっと、ちゃんと見てなかったんだ」
「忙しかったものね」
 アレクシアが微笑んだ。
「うん。ホントに、綺麗だね」
 アレクシアも言う。真っ暗な空の中に、いくつもの星々が点々と輝いている。何かの形のような星々。川のような星々。いっとう輝く大きな星。色々な星に照らされて、今、その下に自分たちがいる。
「覚えときたいなぁ」
「覚えておきたいねぇ」
 シラスの言葉に、アレクシアが頷いた。今の気持ちを。今の空を。自分たちに余裕がなくなって、空を視なくなることがあったとしても、星々はいつも、自分たちの上に輝いているのだという事を。
「アレクシア殿ー! はやくはやくー!」
 テントから、ルル家の声が響いた。アレクシアはくすりと笑うと、立ち上がって。
「見張り、ご苦労です。それでは」
「はいはい、ごゆっくりな」
 笑い合って、別れる。シラスはしばらく、そのまま空を見ていた。

 長いと思っていた一週間の旅路も、その終わりの時がやってきた。砂漠の気温にもなんとかなれてきたころには、目的地のジルダの街が見えてきていた。
「わぁ、もうすぐ到着だね!」
 焔が言うのへ、
「うん! 長かったような、短かったような。不思議な一週間だったなぁ」
 フランが頷いた。
「おいおい、まだ到着したわけじゃないんだぞ」
 ラダが苦笑した。
「でも、速くお風呂に入りたいですねぇ! あ、シラス殿、覗いちゃだめですよ?」
 ルル家がにやにやと笑うのへ、
「だから覗かねぇって! いつまで引っ張られるんだいその話!」
 シラスが口を尖らせた。
「あはは、さぁ、もう少しだよ。さぁ、いこう、皆!」
 アレクシアがそう言うのへ、仲間達は頷いた。

 もうすぐ、街につく。
 それは、一つの旅の終わり。
 そして、新しい旅の始まりでもあるのであった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 リクエストありがとうございました。
 一週間の旅路、お楽しみいただけましたでしょうか。

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