シナリオ詳細
夢から醒める夢を見る
オープニング
●悪いほうの現実
止めてくれよ。もううんざりだ。
また母さんと父さんがけんかしてる。
ヒステリーを起こした母さんが叫ぶ。
「もううんざり!」
がらがらと食器が割れる音。
母さんが泣いてる。
俺は部屋に閉じこもって、ヘッドホンをつけて、音楽を聴いて、お気に入りのゲームをやって、あらしをやりすごすことにした。
口論の内容は、ロクに学校に行ってない俺のこととか。妹の面倒を誰が見るのか、とか。父さんの浮気とか――といっても夫婦関係はもう冷え切ってる――いつものこと。
妹はびーびー泣いてて、よせばいいのに、お父さん、お母さん、喧嘩しないで、って言っている。
無駄なのに。運が悪かったら殴られるだけ。
ずっと、そんな毎日だ。おとなになったら、出て行こうと思えば出ていけるのかもしれない。
いや、むりかな……。どうなんだろう。
一番悪いのは、そうだな。
「なあ、ショーゴ。何か食べに行くか?」
――たまに、いっしゅんだけ、ある。フツーの日常みたいなときが。
そんなときだった。R.O.Oのテストプレイヤーへの招待メールが来たのは。
●良いほうのセカイ、ネクスト
「勇者様……勇者様! 起きてください!」
めがさめた。
たまっていた経験値? が、レベルにかんげんされていく。寝る子は良く育つ、なんて、ゲームの世界でもそれはおんなじみたい。
「勇者ショーゴは レベルが あがった!
ちからが3あがった
かしこさが2あがった」
ファンファーレ。
少しレベルアップしたみたいだ。
立ち上がると床が遠くって、伸びた手足は大人みたいだった。
そろりそろりと部屋を抜け出して、つま先立ちでつめたい床を踏んで、暖炉の前に行く。
「あ、おきたの、ゆうしゃさん! おはよう」
顔を洗うために、水をはったおけを見る。
水にうつった自分がいた。
この世界では、俺はもう高校生? くらいなのかな。
ネクストって世界で、勇者ってよばれるゲーム。それは俺にとって、とても愉快なことだった。
ここでは、俺は勇者様らしい。『しんたく』の予言した黒い影に対抗する『とくいうんめい……』ナントカ……?
ホントは違う。これは、なんか、たぶん、間違いなんだ。ヘンな世界に来て、うろうろしてたら、見つけたんだ。『勇者バッジ』ってやつ。
多分、これがフラグになってるんだろうな。
ここの村の人たちは、俺がゆうしゃだって信じてる。
俺はキノコさがしとか、失くしものを探すとか、簡単なクエスト……未満の頼み事を受けて毎日過ごしていた。そのたびにみんなから感謝される。
ありがとう、ゆうしゃさま!
俺はちょっと得意になってた。ゲームの世界でも、感謝されるのはとてもうれしい。
「勇者様、助けてください……妹が! 魔物の巣に迷い込んでしまったんです」
妹、ときいて、ちょっと思い出した。
元の世界のこと。
いやだ、戻りたくない。
母さんはまだ泣いてるんだろうか。
妹は、たたかれてないだろうか。
……学校、しばらく行ってないなあ。
魔物、というのとは、戦ったこと、ないけど。
「わかった、いまいくからな!」
まあ、大丈夫かな、俺は勇者だしさ。
●『人見知り』のアカーク
「ああ、勇者様、お引き受けくださって、ありがとうございます!
どうか、娘を……私たちの一人娘を助けてください!」
「……”お引き受けくださって”、だって?」
サクラメントから降り立ったアカークは、けげんな表情を見せた。
「……おかしいな。クエストの”開始フラグ”がもう立ってる。
別のやつらに、先を越されたか? と思ったんだが、そうでもないらしいな……バグ、なのか? もう先に引き受けた人間がいるのか?」
『人見知りの』アカークは、R.O.O初心者によく案内をしているプレイヤーだった。
彼がここへやってきたのは、希望ヶ浜学園・初等部の『ショーゴ』という人物を探してのことだ。両親に黙って、テストプレイに応募して行方不明になった人間だ。不仲の両親も、さすがに心配して、捜索願を出している。
おそらくはいるならばこのあたりにいるはずなのだが……。
「とにかくは、先に出発した勇者っていうのが、ショーゴ、なのか?
このクエストを進めれば、なにかありそうだな」
- 夢から醒める夢を見る完了
- GM名布川
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年06月19日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●バックグラウンド
「ふむ、話を聞くに一種の現実逃避か……」
『ネプチューンライト』エール(p3x009380)はアカークの話に耳を傾けた。
クエストの裏事情……ひとりの少年についてだ。
「か、家庭の事情かぁ~……剣では斬れないな……」
『闇祓う一陣の風』白銀の騎士ストームナイト(p3x005012)は頬を掻いた。今回ばかりは、殴りこんで颯爽と解決! ……というわけにはいかなそうだ。
(何とかしてやりたいけど、中途半端なお節介はかえって悪化させるかもだし……)
いつもの依頼と同じくらい、プレイヤーの思惑はさまざまだった。
助けであったり。自分にやれることはやる、であったり、……かっこいいから! 面白いから――あるいは、単純に、「報酬」が目当ての者もいる。
「ゴブリンっつーとゲームじゃ定番の敵役らしーが、そればっか相手させられんのもなァ。
バグに捕まった少年にゃ同情するぜ」
『無法』天魔殿ノロウ(p3x002087)はクエスト報酬の欄を抜け目なく確かめていたものである。
「ショーゴさんの悩みについては、私は正しく共感できているのかよくわからないですね」
『志屍 瑠璃のアバター』ラピスラズリ(p3x000416)は、あくまで淡々と言うのだった。
「それ以外が酷かった分、郷における子供の育成環境はそれなりに気を使っていたようでしたから。親は居なくとも保護者は多かったのでしょう、きっと」
あきらかに普通ではない環境だった。けれども、生き残る術を学んだ。
「ま、そのショーゴ君とやらがどれだけ大変なのかは他人に理解できるものじゃないし、その事に文句をつけるつもりはないけど……死んでしまっては元も子もないよ」
エールの白い翼がふわりと揺れた。
(私はね、結局の所ショーゴ君の人生に責任を持ってあげる事は出来ないのだわ。
私は彼の家庭環境も、人生も、何もどうしてあげる事は出来ないのだわ。
悲しいけれど……寂しいけれど……結局はそれが、ROOで出会った他人の距離……なのだから)
『憧れと望みを詰め込んで』レモン(p3x004864)は、誰にも見えないように、祈るように手を組んだ。
ただすれ違うだけ。出会っただけ。
それでも、何かのめぐりあわせに祈る。
(だからせめて、ここで出会ったお友達に楽しいひと時を
彼が自分に自信を持つ為の、ほんの僅かな一助を
私には手の届かない彼の人生に、微かな追い風を吹かせられますように……)
造り物の風が、さあと、アバターを追い越していった。
「……この悩みに比べればゴブリン退治のなんと気楽な事でしょうね、まったく」
ラピスラズリは、わざとらしく見張りをするゴブリンを見据える。
さざめく音。
「捕らわれの少女、それを救い出すは心を捕らわれた少年。そんな物語を知ってしまったのなら、喜劇で終わらせるのが謡い手の仕事」
『■■■』名も無き泥の詩人(p3x008376)の深い一音が、詩のように朗と響き渡った。
「主役は彼で俺はただの泥人形さ。紡がせてもらおう少年と少女の物語を」
助けに来た。行動を起こそうとした……その時点で、勇者の素質は十分……。泥の詩人は、そう考えていた。あとは、ほんの少し、道を拓くだけのこと。
「さて、せいぜい頑張って助けるとしようか。悩める若者がこの後どうするか、見物するのも悪くないしね」
エールの言葉に、仲間たちがうなずいた。
(勇者たる条件ってなんだろね)
暗い洞窟。
泥の詩人の音と呼応するように、ぴちゃん、と水滴が”存在”を揺らした。
『不明なエラーを検出しました』縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107)が、パーティーに割り込む。
「うお、なんだ。味方か? 報酬は減らないよな? おっし……ならいいけどな」
「本当に、なんでもありですね」
ラピスラズリがうなずいた。
(力? 聖人性? 勇気?)
『おもしろ』
譛?菴朱剞縺ョ諢乗?晉鮪騾――テレパスが意味を成し、意思となる。礼儀正しい生き物だった。
ああ、勇者の条件とは。
(不死身ノ勇者なんて称号を賜ってしまった身でも気になるところだね。ヒヒ!)
「……いくらちゃんと『帰す』為だって言っても、よくまぁ人様の家庭の事情まで見れるよなぁ」
『結界師のひとりしばい』カイト(p3x007128)はしれっと解説役に回ったアカークを見る。
学校生活のことも考えると、……いつ寝ているんだ、アンタ、と言いたくなるような生活をしていないか?
(俺は中身知ってるけどじきに察されるんじゃねーの、兄貴の奴……)
●小さな少年の歩み
ゴブリンの声、だ。
少年の足がすくんだ。
この先に待ってる敵にも、その先の日常にも……。
進む勇気はまだなかった。
びゅ、という、風を切る音。矢。
目をつむる。……きんと、きらめく剣が矢をはじいていた。
剣を掲げたストームナイトが立っている。
「若き勇者よ、よくぞここまで足を進めた! お前の勇気、優しさ、このストームナイト感じ入ったぞ!」
「ふう、危ないところだったな。立てるか? いや、聞くまでもないな」
レモンにならって、慌てて武器を構える。それでいい、というようにレモンは頷いた。
(助けようとしたその気持ちが、行動に移したこと自体が)
――勇者であることの証明だ。
黒髪をなびかせ、ストームナイトは手を差し伸べる。
「ここからは共同戦線といこうではないか。共に悪逆の徒を乗り越え、救いを待つ姫君を迎えにゆこう!」
あんなふうになりたい。
けれど、あんなふうには、なれないかもしれない。
だって、この手は震えていた。
「嫌なこと、怖いことがわかる。それが勇者の第一条件だ」
どこからか現れた名も無き泥の詩人が、少年の背を優しく叩いた。
「……」
「それを選ばない人もいる。その権利もある。この場にいることが君を君たらしめているということさ」
「……あの、あなたは?」
「名前は、とくにない」
詩人は、暖かいランプを差し出した。
暗がりが消え、また一歩前に進めるようになる。
何かがいる。
キャラキャラと嗤う声は、恐ろしいはずだったが、なぜか、暗闇をなぎ倒すように覆いつくして、不吉なものではないような気がした。少なくとも、今は。
ストームナイトはじっと名もなき泥の詩人を見た。
(うーん、あえて名乗らないのもいいかも……)
……とりあえず、できる範囲で、元気づけようと、手本になるように、歩き出す。
(そうなのだわ、)
……こほん、と、レモンは一つ咳払いをした。
なろうと思えば、ふるまおうと思えば……。
(あらゆる危険から彼を護るのが私の役割)
風を感じながら、あこがれの人の似姿を演じる。
誰からも止められない。
●幸運をおびき寄せるは
道中は、驚くほどに順調だった。
それは、決して幸運によるものではない。
ノロウは、そんなもの信じてはいない。
いい子にして口を開けて待っていたところで、報われるとは限らない。
手を伸ばしてこそ、である。
「単純で助かったな」
少年が洞窟に至るもう少し前のことだ。
ノロウが、ゴブリンの前すれすれに姿を現した。
臭いものには蓋をしろ。やろうと思えば背中から喉を掻っ切ってやることだってできた。だが、今は、こいつは餌だった。
……ゴブリンは人間の武器を持っているらしい。
(ため込んでそうだな?)
「来るがいい」
名もなき泥の詩人は、異音を奏でた。単調なリズムを少しずつ繰り返し、渦を巻くように、引き寄せるだけ引き寄せる。
「はい、上出来ですね。……助かります」
ラピスラズリの、遠当てがゴブリンをなぎ倒した。
もう一体、追いかけてきたゴブリン――Charge。ノロウは接近し、素早く狩りとった。
「うっし」
ついでに、ドロップアイテムの回収も忘れない。
「洞窟にこもって警戒中のゴブリンは厄介ですが、なわばり内を弱そうなのが単独行動していれば排除に動くはず」
ラピスラズリの読みは、驚くほどに当たっている。
「ほどほどに怯えたフリをして仲間が待ち伏せするポイントに誘導すれば、それこそ釣野伏という古来よりの戦術です」
ゴブリンは手近なターゲットに狙いを定め――。
データが壊れています。
データが壊れています。
……理解できない恐怖に凍り付いた。
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧がそこにいた。
不明瞭な音声を発していた声。
不意に、”口”が開いて発音がキャラキャラと明瞭になる。
笑った。
すさまじい衝撃が走り、歪んだ回復エフェクトが文字化けしてダメージを受けている。
首尾よく敵をおびき寄せたラピスラズリは、攻撃の構えを変える。
重なるような追撃が、鋭く襲い掛かる。ゴブリンの武器を落とすと、遠くへと蹴っ飛ばした。
「お願いします」
「よし、ここだな」
待機していたエールの範囲攻撃が、狙いすまして、中央のゴブリンを思い切り吹き飛ばす。ゴブリンは足をもつれさせ、味方同士をぶん殴る。
膠着状態。エールは、これを狙っていた。
衝撃で吹き飛んだゴブリンは見えない何かにからめとられる。
結界の陣の上で苦しみだす。
すでにここは、ゴブリンの良く知る洞窟ではなかった。
カイトが、七星結界・極天の加護を構築していた。たたみかけるように、七星結界・破軍の呪剣が走った。楔状の結界が、ゴブリンの足を縫い付ける。あたりの温度が少し下がる。
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧。
おぞましいアイコンが活性化する。
繧「ク$ィブ◆キル1。
ゴブリンが防御に振り上げた腕は、そのまま刈り取られていく。すさまじいストンプが巻き起こり、地形を変えた。
ここまでが、あらすじ。
周到な用意による幸運の部分である。
ステップを踏んで、レモンは大ぶりの一撃を繰り出す。
革鎧の隙間を狙って踏み込んだ。
あの人をよく見ているから、どんなことをするかはよくわかる。きっとあの人なら、不敵に笑って見せるだろう。
さあ、次はそちらの番だと。
(……憧れの人の真似をしながら使う技だと思うと、悩みすぎて何時まで経っても名前が決まらないのだわよ……!)
少年は、きっときらきらした目で見ている。
じぶんも、そんな目で彼を見ていたころがあっただろうか。
燃えるような感傷を思い出しそうになって、重ねて、踏み込んだ。
(半端なかっこ悪い出来する訳にはいかないの……!)
「はあっ!」
レモンの送り出す攻撃に乗って、ストームナイトのゴッドストームクラッシュが飛んだ。
必殺活殺自在剣による、聖なる銀風。
とどめの一撃は、彼のために……。
すぐさまの少年の追撃は、消えかけたゴブリンに突き刺さり……。
ストームナイトは「やったな」と、微笑みかけた。
キラキラと輝く装備を見下ろしたノロウは、一言。
「……ところでゴブリンって山賊みてーなモンなんだろ?
奪った金とか貴金属とかあったりしない???」
●暗がりの暗躍モノガタリ
「討ち漏らしがあるとクエストが完了しないかもしれねェしな。
なら間引いとくのがベストだろ」
ノロウは、ドロップアイテムを回収しつつ、ゴブリンの後を追っていた。
「おお、いいモン持ってんじゃねぇか!」
すかさずきらりと光る武器を目ざとく見つけだした。
強そうな武器だ。
「っと、こいつは荷が重そうだな。片付けとくか」
洞窟の先を行くカイトは、奥に素早く結界を走らせて、選択肢を奪った。
「本当に呑み込みが早いな……」
アカークは舌を巻いた。
「……つーわけで結界師は敵を邪魔して『気持ちよくさせない』のが仕事だもんで!
バグだろーが最強武器かついでようが『ハメて』やろーじゃねぇの、十全たるお膳立てってモンで!」
どかん。ゴブリンが壁にぶち当たったところに、すさまじい勢いで黒いカタマリがやってきた。
衝撃波がびしゃり、と水たまりをはねて、繝代ャシ@ス=ル2が打ち下ろされた。
『装備 剥がす 楽?』
この暴力は、意思を持っている。ランダムの攻撃ではない。もっと恐ろしく効率的な何か。
『まとめて し ね』
ぐちゃりと、暗闇がひとつなくなる。
「奇襲とかされたくねぇな」
「んー、そうだな。なら……」
二つに分かれた部屋、バグった武器を持ったゴブリンはどちらかに逃げた。なら、どっちも確認すればいい。素早く、確実に――。
「「運試しか」」
紅蒼の双律は二つに分かれた。片方はやれやれといった顔で、片方は、さわやかに片手をあげる。
「セオリー通りなら、良いやつが生き残るんだろ?」
「さて、どうかな?」
小道で待ち伏せしていたゴブリンは狡猾だった。……弱い者に狙いをつけて……。
その先には、NPCの少女が。
「! カイト!」
蒼眼の身体は、自然と動いた。助けに入るアカークの動きは、結界によって止められる。
それはさながらアカークの『なかのひと』の如く。
「おい、どうしてだ?」
「――いやぁ、とっくに気づいてるかと思った」
自分が犠牲になれば他人が救えるならば、『そうする』。
「あれは『お前』だぜ、『兄貴』」
カイトは、不意に消えた。
「っ……」
しかし、ここはゲームの世界だ。
「まま、俺も兄貴もそういうのが仕事だもんで。気にせずやっちゃってくれよ」
消えかけたカイトが笑って言った。言い残して曰く。
「華のあることは華のある奴がやるべき、ってトコ」
ゴブリンたちの足音がする。
(敵が減ってきたから、そろそろ)
エールが、ゴブリンを神秘攻撃で打ちのめした。
「行こうか」
「うん……」
「……助けに、行かなきゃ」
少年は震えながらも、武器をとった。
「この場は私達にまかせて、あなたは先に行くといいでしょう。ええ、すぐに追いつきます」
ラピスラズリが道を開いた。
「でも」
「あとは、任せた」
泥人形が音を奏でる。
肉壁とゾンビアタックは泥人形の十八番。
ありふれた土くれが残り、躓かせる石となった。
「これからクライマックスなんだ、邪魔をするな」
名も無き泥の詩人は語る。
彼は最初から、勇者だったと。
「これは少年が勇者になる物語? いいや違うさ、これは一人の勇敢な少年の物語だ」
「せーの、っと」
エールの一撃が、背後からNPCを狙うゴブリンを打ちのめした。ラピスラズリの一撃が、音もなくゴブリンを打ちのめす。
「よし、今がチャンスだ」
……ゴブリンの数はもうそれほどのこっていない。
ストームナイトの、鋭い突きの姿勢から放たれた光の剣閃が、ゴブリンの防具を貫いた。道を指し示すように。
一方で、かぼそくかき消えた松明のもとで。
Charge。
Life Steal。ノロウの鋭い短剣が、高いDPSをたたき出していた。
「やろうってのかよ? 相手してやるよ」
表示されるダメージの色が、それを上回り回復する。怒涛の連撃、押し込んで一撃。
(殴ってりゃ回復するんで問題なし!)
泥人形の置き土産。
アクティブ1。
ゴブリンの動きは、異様にのろい。びりびりと重苦しい棍棒を取り落とす。キラソードを持ったゴブリンの手は、泥によって固められている。
動けない。残り続けるアバター、再度現れた人形は、何度も、何度も。振り落としても増えるばかり。勇者を待ち望み――。
「少女を助けに君が行くか? それとも私だけで行くか?」
「僕は……」
レモンが、柔らかな手のひらでゆっくりと撫でる。
「行く」
助ける、とはいえなかった。けれども行くと答えた。
「へへ、ためてやがったな。ゴールド。あとこのキラソードもカネになりそうだな」
ノロウがアイテムを漁っていると。
「おっと、おでましか」
……いや、少女の近くのゴブリンを倒したから、手を貸した形になったが、宝をせしめていただけである。まあ、クエストが失敗されても困る。
「囚われのお姫様を助けるのは勇者の仕事だろ?」
(ナカノヒト的に善行積むのは虫唾が走るってーか。礼でも言われたら卒倒しかねねェ……)
「行くんだ!」
レモンとストームナイトが背を押した。
「ありがとう、ございます」
至近距離で反響した声。うう、と頭を抱えた。
(耐えろオレ、これは仕事だ……!)
「勇者様!」
村娘は無事にそこにいた。小さくて泣いている影。
――よくある話ではあるが。
近似して、理解できる。
すっと身をかがめた気配が、地面の方からテレパスを投げる。
『イモウト 大事?』
「……」
『大事 なら 手 握ってなきゃ メ』
「うん」
「大丈夫……ゆっくり考えて選ぶんだ。いい子……いい子、この選択を悩むのは勇気と賢明さの証だ」
ゲームの中の自分は、なりたい自分でしかないけど。
それでも、何かを変えることがある。
「ああ、勇敢だ……素晴らしい。
この試練を終えた時、きっと君はいかなる困難にも立ち向かえる、本当の勇者になっているだろう」
すべての壁を取り除くことはできないけど。
もしも、成長するのなら、もう一歩先に進むことができる。
(主人公は少年だ。彼には、自らが少女を救ったという自信と誇りが必要なのだから)
「我々がこいつらを引き付ける。今のうちに女の子の保護を頼む!」
「ストームナイト、さん!」
「彼女はきっと、今も泣いている……誰かの助けを待っている!」
「ああ。任せておけ」
いかなる危険からも……その言葉の通りに、白銀の騎士ストームナイトは、名乗り口上をあげていた。
正しく、堂々と、朗々と。美しき白銀の鎧が輝いて、ゴブリンたちを威圧する。
●クエストクリア
「おっ、報酬ボックス。へへ。じゃあこれで全部だな?」
「のようです」
ラピスラズリが答える。
蟄伜惠蟶碁㊧。存在は、少女を驚かせないように風景に溶け込んでいる。
ストームナイトと、少年は固い握手を交わした。
「でも……俺、」
「ま、キミのお陰で助かった人もいるんだ。世の中意外となんとかなるものだろう?」
エールの言葉に、少年は目を見開いた。
「いやぁ、勇者って案外大したことないんだぜ」
戻ってきたカイトが、やはり握手を求める。
「そりゃ変な良い草に聞こえるかもしれないんだが、勇者っつーのは『一歩踏み出した』人間の総称なんだからさ」
「腹括って人助けたお前も十分に勇者だろ、現実がどうであれ『それは夢じゃない』訳だ」
勇気づけるカイトを、アカークは眺めていた。
「……大丈夫か」
「ああ、兄貴。さっきぶりだな」
(……本人の目の前でやらかしてくれんなよとは思うが。
まぁ、俺も最悪その覚悟してるつもりだったんだが、
なんでアイツの方が手が早いんだよ全く……)
「……」
彼らはよく似ている。
(まぁ、現実諦めるのはよくある話だが、なかみは『同じ』な訳だから)
「キミがこのあとどうするかは知らないけど、この世界も意外と危険だからねぇ。それを承知の上なら、また来ればいいんじゃない? 相談くらいは乗るよ」
「ありがとう」
たぶん、必ず、なんて言えない。つらい時に助けに行く、なんて約束はできない。けれどもかすかな追い風は、少年の心を後押しした。ログアウト、のボタンを、少年はためらったあとはっきりと押した。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
現実に戻りたくない少年も、自分の意志で立ち向かうことに決めたようです。
周囲の人の手助けを借りながら、きっと良い方向に行くことでしょう。
お疲れ様です!
GMコメント
●目標
・クエスト『勇者の救出作戦!』のクリア
洞窟の魔物を退治して、捕まった少女を救出してください。
●場所
カーキ山
小さな村。
村はずれの小さな山にある洞窟です。
奥にゴブリンと、迷い込んでしまった村人の少女……そして少女を救出に向かった勇者ショーゴがいます。
正面から交戦しようとして、歯が立たず、逃げ帰ってくる様子が見えます。洞窟はすっかり警戒状態ですが、勇者たちならば忍び込んだりなども、また可能かもしれません。
●敵
ボコボコゴブリン(赤)×20……いかにもよくいるタイプのゴブリンです。
ただし、かなり良い数値に設定された武器を持っている個体がいます(よく見るとわかります)。設定ミスなのでしょうが、規格外の強さのやつがいます。危ないですね。
・ボロのこんぼう×16
・キラソード(見た目はそっくりだがよく見るとピカピカしたエフェクトがついている)×4
●登場
・勇者『ショーゴ』
ネクストに囚われた小学生です。
バグで勇者と認識され、担ぎ上げられていますが、実際はそんなに強くありません。
アバターは高校生くらいの見た目をしていますが、中身は小学生中学年程度です。
妹は幼稚園くらい。
帰らなくてはならないとはわかっているのですが、帰りたくはない。妹と救出対象を重ね合わせており、助けてあげたい、とは思っています。でもこれが終わったらたぶん、帰らないと、と思って、複雑な気分でいるようです。
・両親が不仲です。
・NPCのアカークが、「疎遠ではあるが頼れそうな祖父母がいること」を教えてくれます。何か手を回し、背中を押せれば、きっとうまくいくことでしょう。
●『人見知りの』アカーク
「やあ、チュートリアル、やっていくかい?」
初心者の多いサクラメントの近くにいて、操作方法などをよくレクチャーしてくれる親切な人物です。
希望ヶ浜のクエストを気にかけ、よく請け負っています。
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
●希望ヶ浜学園
再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
ローレットのイレギュラーズの皆さんは入学、編入、講師として参入することができます。
入学/編入学年や講師としての受け持ち科目はご自分で決定していただくことが出来ます。
ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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