PandoraPartyProject

シナリオ詳細

R.O.O.の箱入り娘は壁をするりとすり抜ける

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●深窓の令嬢
 訓練用の木剣を打ち鳴らす音が、ここからでもかすかに聞こえる。
 高い、高い、窓の外から、緑の髪の少女――エミリアが物憂げにロベリアの花を見下ろしていた。少なくとも、この世界のエミリア・スカーレット(NPC)は箱入り娘だ。
「エミリア。外の世界は、じつに危険だ――私としては、外の世界にお前を出すわけにはいかないのだ。わかってくれるだろう……」
 鋼鉄(スチーラー)。
 この国では、常に強き者が尊ばれる。エミリアの父、ジェルド・スカーレットは、病弱だったエミリアを、それはそれは大切に育てたのである。
 弱肉強食の外の世界に大切な娘を出すなんてとんでもない。
 というわけで、エミリア・スカーレットはほとんど外の世界を知らずに育った。
「はい、お父様……」
 けれども、日に日に外の世界への好奇心は増すばかりだ。

「うわーーーっ! 物理法則がーーーー!」
「わーーー! コンソールっ! コンソール!(呪文)」
 ものすごいバグのせいで、訓練中の騎士のひとりが空に向かって吸い込まれていった。
「お嬢様、お見苦しいものを。失礼いたしました。夕食でございます」
 使用人が切り分けたパンは増殖し続けて部屋を埋め尽くしていく。思いっきりベクトルを失ったフォークが永遠に回転している。テーブルクロスのテクスチャーは突き抜けて64時代のポリゴンみたいにひきつれていた。
 アイテムが多すぎて、部屋のロードが間に合ってない。
 ため息を一つ。
 お父様曰く、外は危険、なのだという。
 けれど、外の世界とはどんなものだろう。とても気になる……。進行不可能になったクエストアイテムが永久にインベントリに残り続けるように、エミリアの心にはひっかかるものがあった。
 ここから出られたらいいのに――。
 施錠された扉に手をついた。その手は扉をすり抜けた。
「これは……」
 あ、これ、壁の判定抜けてるわ。そのまま腕を伸ばして鍵を開けてみた。今なら――。

●クエスト――「深窓の令嬢を連れ戻せ」
 扉の外にはもちろん見張りだとか、なんならお父様だとか、使用人だとかがいたのだが、扉を開くと結構長いロードが入ったのが幸いだった。エミリアは風のように外へと出た。
 プレイヤーたちとすれ違いながら。
(すごい、これが……外の世界なのですね!)
 誰もいないのに、町の人たちの話声が聞こえてくる。
 あ、いや、ちがった。ただ、ローディングが重いせいだった。
 戻った。
 そんな世界でも、エミリアにとっては新鮮で、とても楽しいものだった。

 一方で。
 愛娘のエミリアがいないことに気が付いたジェルドがたいへんに慌てていたのは想像に難くないだろう。
「エミリアが、いない……と?」
「はっ、閣下……」
「いいか、どんな手を使っても連れ戻せ! なんとしても……」

 そうやって、ジェルドの屋敷に入ってきたときに発生したクエストが、「深窓の令嬢を連れ戻せ」である――。

 後を追ってみれば、市場で「わあ、これは何ですか?」ときらきらと目を輝かせるご令嬢を見つけることができるだろう。支払いをしようとして、金貨しかもっていなくて驚かれたりなどして。
 もしも友好的に接するのであれば、エミリアは、冒険者だというあなたたちに好意を見せるだろう。
 けれども、エミリア本人は残念ながら帰る気はない。
「私は、もう少しこの世界を見てみたいと思っています。まだ、帰るわけにはいかないのです!」
「お願いがあるんです。私に、この世界の楽しみ方を……教えていただけないでしょうか?」

GMコメント

●クエスト目標
・エミリアとこの世界を楽しむ
・戦闘

●状況
エミリア・スカーレット嬢は頑として帰ろうとしません。
この世界の楽しみ方を教えてあげましょう。
深窓の令嬢ですが、ポテンシャルは高めです。
戦闘や、女の子らしいこと、珍しいものを好むようです。
バグも楽しんでくれるでしょう。
あと、もしかするとその辺の盗賊でレベル上げしたら結構強くなるんじゃないでしょうか……。

しばらく過ごしていると父親からの追っ手が来るので、倒すなり、説得するなりしましょう。

●場所
『鋼鉄』の一地方。ラド・バウも近いです。
闘技場や訓練場、大衆向けの酒場や商店などがあります。
ちょうどよいごろつきもたくさんいます。治安が悪いですね。

●追っ手
ジェルド・スカーレット(BOSS)
「帰ってこい……エミリア!」
 鉄帝軍人……じゃなかった。鋼鉄のお偉いさんです。ステータス的に、武芸はそこそこのようです。どちらかというと統率に力を発揮します。

部下×6
 エミリアを連れ戻そうと差し向けられた追っ手です。覆面をかぶっています。

※説得やRPにより、父親の戦意をそぐことが可能です。ノー戦闘ということはないでしょうが、任意に弱体化したりします。

●その他
インベントリに「ダミー」みたいな空欄のアイテムがあったり、
出現フラグが立ってないうちは普通にジェルドにスルーされたり、
なんか、今回やたらバグが多いです(警戒する必要はないんですが)。
思いついたら、いろいろ理不尽な手を使っても構いません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。バグが多いです。いや理不尽なことはないと思うんですけど。あっでもすぐ死にます。

※重要な備考

 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

  • R.O.O.の箱入り娘は壁をするりとすり抜ける完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年06月08日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフルハンマ(p3x000319)
冷たき地獄の果てを行くもの
神様(p3x000808)
R.O.Oの
ハウメア(p3x001981)
恋焔
■■■■■(p3x007903)
リデル
ホワイティ(p3x008115)
アルコ空団“白き盾持ち”
ベネディクト・ファブニル(p3x008160)
災禍の竜血
ルリ(p3x009137)
夢魔女王
アズハ(p3x009471)
青き調和

リプレイ

●バグ・インザ・ワンダーランド(神回)
「これは……! P-Tuberの嗅覚が反応する……! 撮れ高の匂いがするのにゃ!!」
『リデル』■■■■■(p3x007903)は動画のサムネイルを検討し始める。
 面白バグ動画は、視聴者にウケる。
 このゲームの魅力を引き立てるしっかりとしたプレイ動画にしながら、RP……そこはP-Tuberの腕の見せ所。
 あ、あ、と発声を確かめて、今日のアバターを調整し、咳ばらいを一つ。
(では……こほん)
「P-Tuberのアリスです!」

 状況に合わせてシームレスに移行する音楽は今どきの流行り……なのはいいが、明らかに平常時なのにバトルBGMが流れているのはどうかと思う。
「何だこれ、いくらなんでもバグりすぎだろう。バグっていうか作りが雑?」
『AzureHarmony』アズハ(p3x009471)は額を押さえた。
 わりと良い曲なのが、また。
「……まぁそれはそれとして、せっかくだからエミリアさんには色々と楽しんでもらえるといいよな」
 この世界には、神様がいる。
 少なくとも助けて欲しいと声をあげれば、惜しみなく手を差し伸べてくれる。
「かみだよ いつも見ているよ」
 威風が吹いた。
 雲の隙間、差し込む柔らかい陽光を背に、『R.O.Oの』神様(p3x000808)が天空より降臨する。
 ぽかんと口を開けているエミリアは、4枚翼と天輪を持った白金の戦乙女――ハウメア(p3x001981)ともども、天からの使いだと思ったらしい。
「深窓の令嬢のお出掛けというにはちょっと色々と問題はありそうなのですが?
まぁ、本人は楽しそうにしているので、それで良いのでしょう……うん」
 ハウメアは苦笑しつつ、無邪気なエミリアをどこか優しい目で眺めている。
「平時であれば
外に出ない方が
安全で在ったかも知れない。
しかして現状
同期のズレた状態では
何処に居ようと安全でも無く
意図しない脱出が無限に成立すると断言出来る」
「うーん」
『妖精粒子』シフルハンマ(p3x000319)はくるくるとエミリアの周りをまわった。
 観察しているのは、エミリアというよりは、……あきらかに初期装備といった風のエミリアの装備だった。良いものを作ってやりたいと思うのは、クラフト職の性だろうか。
「コレはもう思考一転
育って貰った方が安全
自衛出来る娘の方が安心だろう」
「君が、帰りたいと思うまで、ね」
『ホワイトカインド』ホワイティ(p3x008115)はふわりと笑った。
「俺達も何でも知っている訳じゃないが、解る範囲でなら色々と答えるよ」
『白竜』ベネディクト・ファブニル(p3x008160)、二人の騎士が、それぞれと手を差し伸べた。
「……どうして皆さんはそんなに親切にしてくださるんですか?」
「理由を問うか? エミリア」
『夢魔女王』ルリ(p3x009137)はほとんどゼロまで顔を近づけた。
 くいと顎を引かれ、パチパチとまたたくエミリア。
「あ、あの? どこかでお会いした……でしょうか」
「ほぅ……まさか深窓の令嬢をしているエミリアを見ることになろうとは……何とも面白いことじゃな……本人にも見せてやりたいものだなァ」
 思わず頬を赤らめるエミリアは、いつもより初々しい。
「これはこれで愛らしいから……思わず誘惑し、泣かせて食べてしまいたくなるものよ」
 摘み取るのはおそらく、たやすい。
 とはいえ、ルリにとって現実のエミリアは数少ない「親友」だった。
 ……ならば、趣向を変えよう。
「妾はルリ……エミリアよ、妾と「友達」にならないか?」
「いいの、ですか?」
 特別な相手。こちらでも「友」となるのは必定だった。

●新しい世界
 電子妖精Fevnirが淡く反応する。道を案内するかのように、ベネディクトの使い魔がぽてぽてと過ぎていった。
 当たり判定が雑なため、縁石の上を歩いているかのように座標がずれている。
(果たしてエミリア嬢に都合の良い状況も
何某か意思の介在したバグの一環なのだろうか)
 神様は何者かの意図に思いを馳せる。
「外は危険、か。間違ってはいないだろうけど、でもそれだけじゃない。
楽しいことも強くなれることも、何だって同様にあるものだ。
それらをどう捉えるか、そしてどこに身を置くかが大事だと思うよ」
 アズハの言葉に、エミリアは頷いた。……無条件の肯定ではない。真剣な声色。
 アズハの声は、なぜだかすなおに身に染みる。
「帰りたくないのに無理に帰る事は無い
食事 歓談 遊覧 質疑応答
気が済むまで付き合おう」
「神様は、寛大なものだったのですね」
「全て許すよ 我々は君の味方だ エミリア嬢」
 どこへ行きたい、と聞かれて、エミリアは言葉に詰まった。
 この街をまだ、ろくに知らない。
「そっか。それじゃあ、折角外に出たんだもん。鋼鉄の街を色々見てみたいでしょ?
わたしからは空からの景色をプレゼント!」
 ホワイティの透き通るような光の翅が、しっかりと風をとらえて浮上する。
「まあ……!」
「これが鋼鉄、キミが暮らしてる国だよぉ」
 点滅する街。オブジェクトのロードは遅い。けれども辛抱強く待てば、次々と街並みが豊かに表示されていった。
(綺麗……かどうかは分からないけど、新鮮な景色を届けられていれば嬉しいなぁ)
 定義されていない虚空の穴は、ひょいと神様の導きで避けていく。
「活気がある街は良い街だ 嬢の父も貢献している事だろう 誇らしい事だ」
 神様は存じはしないが。
 それでも嬉しそうな横顔に。確かに親子の絆があるのだとわかる。
 旅人に吹く、良い風のような祝福。
 極めて危機的なバグに近寄らない様に……。
「つかまっててね」
 ホワイティは、アンカーシルクを建物の看板にひっかけて進路を変えた。
「いいね、いいね」
 ■■■■■は満足そうに空撮を確認する。引きのOPを作るのもいいかもしれない。あれをこうして……。

●買い物デート!
「へいお嬢さんー、一緒にお茶しなーい?」
 ■■■■■の誘いに、エミリアは一も二もなくうなずいた。
「ふむ、浮気者じゃのう。わらわも構ってくれるよな? エミリア。ともにショッピングと洒落こもうではないか」
「ふふ、もちろんです」
 ただの日常。
(そんな普通な事で良いのか……? って思うかもしれないけど、それこそが彼女が今まで出来なかった事だから!)
 上から見た世界を、今度はゆっくり歩いていった。
 普通の……まあバグがあったりはするけれども、それでも、エミリアにとっては新鮮なものだ。
「このお店はね、面白い物がたくさん売ってて……このお店のお菓子! 安くてそこそこに美味しくて、いっぱい食べたい時にぴったりなの!」
「これは?」
「あ、その空中を歩いてる人はバグです、外の楽しみじゃないです」
「へいらっしゃい、今ならあえv$ゴッ;が5000兆Gだよ」
 なんて?
 店主は珍妙な動きを繰り返していた。
「駄菓子屋で伝説の剣が5000兆Gで売ってるのは……どうなんだ…?」
 もしかすると……今後、RTAに使えるかもしれない。
「今ならふわふわの綿あめが一人一個無料だよ」
「いただこうか」
 ベネディクトが受け取った。
「はいどうぞ。今なら綿あめが一人一個無料だよ」
 取得フラグが通っていない。
 ふと思い立って、■■■■■テーブルの上に大量の綿あめを置いた。
 ものすごくカクカクと動き始めた。
「これ食べて大丈夫なの……?」

「装備品は重要だな。ふむ……なにも装備がない状態で外を出歩くのはよろしくないな」
「この世界は装備で強さが大きく変わったりするからな」
「装備、ですか……ううん」
 エミリアは、店先のものはどれもしっくりこないようだった。
「よし、自衛の為の装備を作ろうか」
「作る、のですか? 注文して、ひと月くらいでしょうか?」
「ううん、今から」
 シフルハンマは手際よく鍛冶屋と猟師の店を回る。……目当ては鉱石、革。鍛冶の材料。それから、小さな宝石くず。
 材料を集めてのクラフトは、魔法のように目が離せなかった。鋲を打った美しく、整えられた装備の一式。体にぴったりで動きやすい。
「こんなものかな」
 やりきった、という確かな充実感があった。
「すごい、すごいです!」
「やはり、装備を整えて最低限の準備は整えなければな」
 ベネディクトは満足そうにうなずいた。
「話を聞くに君は鋼鉄の生まれだろう?戦う為の武具の手入れなんかもその内覚えておくと良いぞ」
「はい。私、これを大切にします」
 きらきらと表情を明るくする様子は、作り手の喜びである。
「それじゃあ、手入れの仕方は……」

「満足そうじゃのう、エミリア」
 するりと、ルリがエミリアの髪をすくった。
「わらわたちは、お揃いの髪飾りでも買おうか? エミリアの髪の色なら、このあたりが似合うじゃろうか」
「これ、ですか?」
「そういうのも「友達」っぽくて素敵じゃろ?」
 つけてみたいと思っていたのだ。
 どうして、ルリは自分の好みを知り尽くしているのだろうか。
「次は、このお店にしませんか? ……きっと、はじめてですよね?」
「はいっ! 選んでいいんですね? 素敵……」
 渡された服は、窮屈なドレスでもない。ただの、可愛い村娘の衣装。
 エプロンがついていて、可愛らしいフリルが施されていた。シフルハンマの作ってくれた装備ともとてもあっている。
「あの、私からは、こちらを。きっと、お似合いになると思ったんです」
 ハウメアに選んだのは白を基調としたワンピース。
 すごい爆発音がした。それはともかく。
 奥で店員の服が爆ぜているのを無視して、ハウメアは更衣室で着替える。日の光を浴びたワンピースは美しく輝かんばかりだった……。
「……待ってなんでワンピースが突然1680万色にかがやき出すんですか眩しいですよ!!」
「すごい! これが、戦乙女のお力なんですね!」
「違います!」
 ハウメアは顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。慌てて襟に手をかけたが、無慈悲にも「※装備脱着不可※」のダイアログが重なった。
「……なんで呪われてるのよ脱げないじゃない!!」
 機能があったら、ものすごい数のスパチャが飛んだに違いなかった。

●レベリング道場
「楽しく明るい場所もあるけど……ほら、こういう治安が悪い場所もあるんだよ」
「……知りません、でした」
 アズハの言葉に、エミリアは神妙な顔で頷いた。
「こういうところも、まあ、知らないよりは知っておいたほうがいいだろうね」
 シフルハンマはうなずいた。
「ええと、じゃあ面白いかどうかは解らないが。此処に木箱が2個あるだろう?」
「はい!」
 ベネディクトは凛々しい表情のまま淡々とデバッグを行った。
「それを縦に2個重ねて上に載せた木箱をゆっくりスライドさせていくと……あ、震えて来たな」
 すごい勢いで回転し始め、木箱は飛び出した。
「! これが……外の世界!」
「こういう所をこう、押したりするとよくある……あ゛ー!!!」
 ■■■■■が、オブジェクトの境目に吸い込まれていった。
 シフルハンマは隠れていた妖精を逃がしてやった。
「ダメージは無いが見た目は危ないので一応離れよう、でこのまま暫く放っておくと……何故か木箱が凄い勢いで空に射出されて」
 ロケットよろしく、ぽーんと飛び出した木箱。
「何故かそのまま落ちて来ない──暫くすると復活するが」
 モンスターにでもあたったのか、レベルが上がった。
「不思議だろう? 理由は俺にも解っていないんだが」

「……エミリアさんの父親は、エミリアさんを大事に思ってるんだな。守りたくて、危険な場所に行かせたくないんだ。
でもエミリアさんは、外の世界を楽しんで強くなる方がきっといいと思う」
 真剣な顔で、アズハはエミリアを見る。
 エミリアはうなずいた。
 もっと強くなりたい。
 どこまでも飛んでいく、あの木箱のように。
 ちょうどよく、急にワープしてきたゴロツキに出くわした。
「ってちょっと、真面目に話してるのにバグるの止めて?」
 胴体に装備している弓がなぜか攻撃力を持っている。なぜか登場時から毒状態で……。
「油断しないで、きっと大丈夫です」
 ハウメアの一射が、敵を縫い留めた。
「さっきから倒した盗賊が子豚になってますが気にしない事にします、えぇ」
「愉快な不具合だな、まったく!」
 アズハの奏でる音が敵を揺らした。
 急に壁に向かって前進を繰り返す敵。怖い。
「あー…あー、バグってる。よくあるバグですね??」
 ■■■■■が油断なくカメラを向ける。
「でも、急に実戦、だなんて」
「エミリアさん、一緒に戦おう。撃退するんだ」
「なに戦い方なぞ妾が教えてやろう。ええ、よく知ってるからな」
 ルリのロベリアの魔眼が、山賊をおびき寄せた。ターゲットを取って、やってみろ、と手のひらを剣の上から重ねる。
 この軌跡を、知っている、気がする。
(ああ、きっと才能が開く音)
 レベルアップのファンファーレ。弾む「やった、んですか?!」という声に、アズハは耳を澄ませた。

●娘馬鹿、襲来
「もう、夜だねぇ」
 ホワイティが空を見上げる。
「私、帰りたくないです……」
 うつむくエミリア。
「ここは鋼鉄、意志を通す為なら戦うのもやぶさかじゃない。
けれど、話し合いで済むならその方が良いよねぇ。
ね、エミリアちゃん。お父さんに、今の気持ちを真っ直ぐに伝えてみない?」
「え? でも……」
 エミリアの脳裏に浮かんだのは、空を飛んで知った、広い世界のこと。世界のすべてだと思っていた屋敷は、あまりに小さかった。
「なんのことはない。教えた事をしっかりと見せれば納得してくれるじゃろう」
 ルリが指先でエミリアの唇をなぞった。
「……キミなら、ちゃんと思いを言葉に出来るよぉ。"わたしは強くなったから、心配しなくても大丈夫だから"って、お父さんに伝えよう?」
 手のひらを包み込むようにして、『勇気の灯火』をそっと灯した。
「……はい!」

 追っ手を伴って、鬼の形相でやってきたジェルド。
 ルリはふうっと、ため息をついた。
「ジェルド殿はこちらの世界でも家族思い……いや、あれは只の娘馬鹿か」
 敵対イベントのはずだが……。
 まっすぐに、ベネディクトが進み出た。
「初めまして、ジェルド殿。私はベネディクト、冒険者です」
「なっ……!」
「彼女を一人にする事は出来ず、かといってその願いを無慈悲に断るのもどうかと思い、こうして一緒に行動をしています」
「いくら好青年でも娘はやらんぞ!!!!!!!!」
 非の打ちどころのない好青年に、思わずジェルドは叫んだ。
「ち、違います、お父様」
「そうじゃな、エミリアはわらわの友じゃ」
 礼儀正しい態度、淡々と事実を訂正する誠実さに、心打たれつつあった。
「その上でお願いしたい事がございます」
「だめだ!」
「父親の心配も理解するが
行き過ぎた抑圧が結果的に
この様な事態を生んでしまう」
 神様が告げた。
「父親として娘を心配するのは当然の事です。ですが、彼女にも選ぶ事をさせて頂けないでしょうか? 私も父とは関係が拗れたままで、お節介だとは思ったのですが。
良ければエミリアの実力も見てあげて下さい」
 それは、模擬戦の誘いだった。
「他ならぬあなたに見て貰えるなら、彼女も喜ぶでしょうから」
 シナリオは、ゆっくりと別の展開を見せていた。

「良し、エミリア。頑張るぞ!」
 ベネディクトが、勇ましく敵陣に斬り込んでいった。
 部下たちがなすすべもなく倒されていった。
(すごいです!)
 ベネディクトや勇者たちのおかげで、エミリアは自分の気持ちを見つめなおしていた。
 父が、決して嫌いじゃないということ。
「ね、お父さん。
もう少しだけ、エミリアちゃんを自由にしてあげてくれないかなぁ?」
「いこう。エミリアちゃん。……頼りになる友達がいるってこと、教えてあげる!」
 ホワイティはまっすぐ前に出る。高く掲げた武器の先、きらりと光る魔力の光。
「纏めてかかってくると良いよぉ、全部防ぎきってあげる!」
 満月のようなラウンドスラッシュがあたりを凪いだ。
「大事に思っている気持ちはわかりますが、危険だからと閉じ込めるのは良くないですよ?
エミリアさんは籠の鳥ではないですし、ジェルドさんが思っているほど弱くもないんですよ?」
「そんなわけが……」
「心配なのはわかる。こんな世界じゃな」
 敵対フラグがどうかしているのか、配下の一人は樽に殴りかかっていった。シフルハンマは少し遠い目をした。
「けど……彼女の気持ちを抑圧しすぎたら、高い確率で反抗期になるよ。それに、すれ違ってしまうかもしれない」
 シフルハンマのリロードヒールが飛んだ。槌をふるうように、武器と防具の弱点を見切っている。重く、ぴったりとあつらえられた装備は、完全に重心を見切られていた。
 思うようにふるえない。
 ベネディクトが割り込み、活路を開く。
 シフルハンマの魔力の矢が、敵を貫いた。急所を知っている。懐まで飛び込んできた敵を、魔力の槍がはねあげた。
 生存第一、だ。
「貴殿の愛故の拘束行為 当方に開放の準備有り 押さえつけるだけでは反発は必死ぞ」
神の奇跡【雷】が閃光となって辺りを凪いだ。にぎやかな破裂音。驚くほど愉快な、小気味の良い音。
「然と育てた自負あれば 自信をもって外遊させよ」
 神の奇跡【炎】は揺らめくように牽制を放った。
「子の自主性を信じられないのか」
 揺れている。
 ジェルドは揺れていた。
 ただ、ただ、納得がいくまでぶつかり合えば――。おそらくは。
 その間をつくるように、神は演出を加える。
 まあ、楽しくやろうってことだ。

「さあ、自分の身を護れる強さを持っている事をみせてやれ!」
 クエストラインは整った。
 セオリー通りに、魅せるだけだ。
 「見てみなさい!過保護にしなくても、この子は自分の身くらい守れます!」
■■■■■の駆使するスタイリッシュアーツ、ないはずの足場を足場に跳躍する。
「エミリアを何時までも籠の鳥にしておく事など出来まい
ならば自身の目で確かめて見ると良い
……ジェルド殿の自慢の娘は存外強いぞ?」
 ルリは美しく笑った。「ロベリアの魔眼」。
「妾は……エミリアの才を知ってるからなァ」
 ハウメアの光の矢が、追いすがる部下の膝に矢を受けて冒険者を引退させる。
 また子豚が姿を現しているが、双方、真剣だ。
「子もいつかは親になるのだ 貴殿の様に」
 エミリアをかばった神様は、少しばかり女性にやさしい。
(ここなら、よけられる……)
 アズハは飛んだ。
 多少無理をしてでも、結果を引き寄せるために。一撃を託すために。■■■■■はエミリアに力を与え、アズハが敵の姿勢を崩した。
「エミリアさん、今だ!」
 自らを削り、身を挺したアズハが叫んだ。
「お父様!!」
「私、もうか弱い箱入り娘じゃないんです!」

「あ」
 ハウメアは顔を覆った。
 エミリアのいい一撃が入ってジェルドさんの服が景気よく爆ぜる。
「そこまで」
 神様の声が響きわたった。
「一応の気が済んだならば
気持ち良く帰らねば成らぬ」
「心配のやり方はいろいろあるよね」
 護衛をつけるとか。自分が一緒に出掛けるとか。シフルハンマの言葉に、ジェルドはうなずいた。ベネディクトが、一瞬だけ懐かしそうな表情を見せた。
(また戯れる機会はある 父親の顔も立てなければな)
「エミリアさん、よかったらまた一緒に冒険しよう?」
「また「友」として遊ぼう」
 はい、とエミリアは輝く笑顔を浮かべた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ハウメア(p3x001981)[死亡]
恋焔
ホワイティ(p3x008115)[死亡]
アルコ空団“白き盾持ち”

あとがき

家出娘の頼み事、お疲れさまでした!
エミリアは外出の許可をとりつけ、たまにお忍びで遊びに行くことになったようです。

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