シナリオ詳細
世界が世界であるために必要なこと
オープニング
●ミハシラプロジェクト
青い鳥が飛んでいくのが見えた。
ずっと遠くで子供が笑う声が聞こえた。
塀に囲まれた塔の前。
刀や長刀をぬいた完全武装の兵隊たちが、こちらに強い殺気を向けている。
武装は独特で、導火線のない火縄銃のような武器や、柄に複数の宝石をつけた槍など、古い和風のようでいて中華風にも近いような、なんとも個性的である。
その渦中において、珠緒(p3x004426)と蛍(p3x003861)はそれぞれ身構えた。
「話し合いが通じる空気……じゃあ、ないよね」
「ここはネクスト。すでに乱れ歪んでしまった世界。『あのとき』のようにはいかないでしょう」
蛍は武装データを読み込み、一斉展開。
彼女と手を繋ぎ、珠緒もまた武装を展開させ、そこに情報体『御霊』を憑依させた。
「おのれ狂人どもめ、ふざけたまやかしを……!」
兵達より放たれた弾丸。
蛍が周囲に展開したフィールドによって弾を止めると、珠緒が猛烈な速度で接近――抜刀。兵を切り倒すと、目を細めて小さく首を振った。
もう止まれやしない。兵達は叫び、そして蛍たちもまた叫びをあげた。
「『御柱(みはしら)』は――巫女には触れさせん!」
「いいえ奪わせて貰うわ。巫女も――そこに囚われた人の魂も!」
歪み狂ってしまったこの世界には、『御柱』なんていらないんだから……!
戦いは始まった。
だがその前に、ここまでの経緯を語るべきだろう。
●ワールドオーダーズ
練達中央、ROOログインルーム。
開いた自動扉のさきには八つのヘッドギア型ログイン装置と、かたわらの椅子に腰掛ける『希望ヶ浜学園校長』無名偲・無意式の姿があった。
「久しぶり……なのかな。最近練達に来ることが増えたから、ちょっと麻痺してきちゃった」
藤野 蛍と桜咲 珠緒。彼女らを含めた八人のローレット・イレギュラーズが部屋へと入り、無名偲校長はその様子に振り返る。
振り返ったきり、手元の端末を操作して大きな画面にでかでかと画像を表示した。
眼鏡をかけた茶髪の女学生を正面からうつした顔写真である。表情や学生服の様子からして、生徒手帳に貼り付けるような証明写真なのだろうか。
続いて、彼女の写ったさまざまな写真が表示されては重なっていく。
――名前、裏桜町 絹糸(ウラオオリ キイト)。年齢15歳。希望ヶ浜学園所属、帰宅部。ウォーカー。
「ProjectIDEA――電脳世界に仮想混沌を作り混沌法則を研究するという、練達の計画がある。海洋でいえば大遠征にあたるだけの、きわめて重要な計画だ」
海洋王国が大遠征を成功させたことで世界が大きく回ったことは、いうまでもないことである。練達における完全な仮想世界の構築はそれだけでも大きな価値をもち、混沌法則の研究が成就したならば元世界への帰還とて夢ではなくなるかもしれないのだ。
――などと語っている内に、写真の女学生は友達とファミレスで自撮りをしたり、カラオケで歌ったり、文化祭の準備にいそしむ画像が表示されていく。
「その計画に、希望ヶ浜分隊……つまり希望ヶ浜生徒のうち外界に抵抗の少ない人間が研究員として参加していた。ROOのテスター、というわけだな」
何気ない口ぶりだが、視線は珠緒と蛍に向いている。ウォーカーを用いた仮想世界実験。なにも初めて聞く言葉ではない。
「だが実験のさなかおきた大規模なバグによって、彼女を含め多くの研究員がROO内に取り残された。エネミーユニットやNPCのデータにとりこまれる形で、だ」
画面に表示されていた女学生の画像がブラックアウトし、かわりに塔が表示される。
「これは……」
その塔に、珠緒は見覚えがあった。わずかな面影として、だが。
御柱の塔『邪摩都』。
防壁に囲まれ、無数の兵によって守られた塔。
ROO世界ネクストの正義国(天義に相当する国)に存在する宗教施設である。
塔の最上階には巫女が納められ、100年にわたって民に安寧と平和をもたらす……とされている。
情報では『塔に巫女を閉じ込め続けることで高度な予知が出力される』とあるが、実際に出力されているところは観測されていない。
しかも最悪なことに、塔最上階に納められた巫女のNPCデータに、研究員『裏桜町 絹糸』の意識が囚われてしまっているという。
「研究員の解放条件はシンプルにひとつだけだ。塔の『御柱の部屋』から巫女を引き離すこと。部屋を出るという条件が満たされれば、研究員は解放される」
「…………」
シンプルにと述べたが、その条件が言葉にするよりずっと難しいことを蛍たちは直感していた。
宗教施設。重要な部屋。重要な巫女。
ならばそれらを守る兵隊が必ずいる。
彼らに『巫女を見せてください』と口に出すだけでも争いがおこりそうなのに、部屋から引きずり出せとなると。
「戦いは、避けられない……か」
ピクリと震える蛍の手を、珠緒がぎゅっと掴んだ。
「大丈夫です。御柱が世界の安寧に必要であればともかく、機能しない宗教施設であるなら……それは、過ちでしかありません」
破壊しましょう。そう頷く彼女に、蛍もまた頷いた。
「うん。そして、助けだそう。望んだ犠牲でないのなら、それは救いださなきゃいけない魂だ」
- 世界が世界であるために必要なこと完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年05月26日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●『前に進むことが生きることなんだとして、保存と凍結は生きていると言えるのか』
石のタイルを滑り、塀をも滑走していく『Lightning-Magus』Teth=Steiner(p3x002831)。塀の頂点から飛び出し2回転と1ひねりを加えると『邪摩都』敷地内へと着地。
背部に固定していた大口径電磁ライフルをアクティブにした。
「塔を昇って、囚われのお姫様ならぬ巫女様を助けだせってか。
面白ぇ。そういう王道展開、嫌いじゃないぜ!」
「……」
その横で背筋を伸ばし、じっと腕組みをしていた『夜告鳥の幻影』イズル(p3x008599)が目を覆う布状のアイシールド越しにそびえたつ塔をみあげた。
「現実でないだけマシとはいえ、実際に捕らわれている方にしてみれば現実とそう変わらないか……なんとか、そこまでたどり着いて貰わなければ、ね。第一、このままでは無意味な生贄とかわらない」
仮想バイクがブレーキをかけ、後輪をスライドさせながら停車する。
ヘルメットを脱いでゆるやかに首を振った『Fascinator』セフィーロ(p3x007625)の後ろ髪が、ながれるように揺れた。
「仮想世界でも空気はあの国にそっくりね。偏屈な上に盲信的なところとか。
どうせ仮初の世界なら、本物よりマシになったって良いぐらいなのに」
「本国のほうはマシみたいだけれど? 歪みどこにでも現れるのね」
タンデムシートから降りた『吸血鬼令嬢』シャルロット(p3x002897)がすこしだけ乱れた後ろ髪に手櫛をかけて払った。
まるで翼を広げる鳥のように髪が広がる。
「巫女を監禁して未来を予言してもらって、幸せになる?
宗派ってものがあるんでしょうけどこの国、そんな人道とか無視したとこだったの?
幸せはね、他人をめちゃくちゃにして得るものじゃない、塔に監禁したのが運の尽きってことを教えてあげないと」
すぐそばの塀の上に腰掛けていた『恋するサテライト』ヴィオラ(p3x008706)が、猫耳をぴこんと動かした。
「「神の子。はあ。何処の世界でも似たようなものなんですね。……全く、不愉快です。
これだから宗教とか神とか嫌なんですよねー。一人の少女を犠牲にしないと崩壊する世界とかさっさと崩れちまえって感じ……ごほん」
咳払いをすると、塀から飛び降りてぱしぱしと手を払った
「早く救出してあげましょ、ね! それにしても、生身での戦闘ははじめてです。がんばりますよーっ!」
意気込み充分の仲間たち。
しかし彼らの主観にあるのは、愚かな信仰とそれによる犠牲であった。
混沌世界の天義が抱える闇の部分を、まるでこの『邪摩都』というエリアに詰め込んでいるかのように。
「本来はそういう場所じゃあなかったハズ……なんだけどネ」
『R.O.O tester?』アイ(p3x000277)は複雑な気持ちで仲間たちの様子を見ていた。
かつて『シミュレート』した邪摩都はひとつの国でありたった一人の犠牲によって国の平和が本当に保たれるという仕組みで動いていた。その当事者であるところの珠緒がそれに納得し、シミュレートであるとはいえ彼らの国を守護することを選択したのがよい例である。
「また来れタ……は良いけれド、どうやら前来た時とは別物と考えたほうが良いらしいネ」
「部分的な情報で再構成したのか、持ち込み者の悪意か。どちらにせよ、あまりに酷い歪みぶりです」
『R.O.O tester?』珠緒(p3x004426)は塔の上を見た。
珠緒当人にとって、邪摩都は今や過去のもの。その過去が自分自身にとって必要な過去だったのかといえば、とても複雑なところではあるが、仮に『だから蛍と出会えたのだ』としたのなら、悪くない対価だったのではないかとも思える。
「邪摩都の印象がこれで固定されてしまうとしたら、とても悲しいですね」
「うん……」
彼女がどれだけあの世界を大切に想っていたのかを、『R.O.O tester?』蛍(p3x003861)は知っていた。だから、歓迎こそしないものの、認めないなんてことはない。
けれどそれを、決定的な形で歪めたのだとしたら。
それが人為的なものでなかったとしても。
「ボクにとっての特大の地雷を踏んだわね。このツケは高くツくわよ!」
取り出したメガネを装着すると、蛍のレンズに情報がはしった。
吹き抜ける風の暖かさが。
差し込む陽光の熱が。
踏みしめた地面の硬さと、地に立つ自らの骨が。
ここが『世界』であると知らしめる。
この実感の向こうに、もしかしたら……。
●『一緒にいることと、存在を感知できていることは、違うようで似ている』
「狂人どもめ、ここを巫女の聖域と知って立ち入るか!」
「『御柱(みはしら)』に近づくことは許されぬ。立ち去れ。さもなくば命を落とすと知れ!」
刀を抜いた兵士たち。
セフィーロは仮想バイクのペダルを踏み込むと、アクセルをひねりながら飛び乗った。
猛烈な速度で走り出すバイクが兵士の一人を跳ね飛ばし、数人を吹き飛ばしたところでバイクが転倒。
素早く離脱し跳躍していたセフィーロは団子状に倒れる兵士たちを背に着地した。
「傍迷惑なバグに付き合うのは正直勘弁ね。
だけれど。喧嘩に負けて良いかどうかはまた別の話。
腹の虫のおさまりが悪い儘じゃ、夜に気持ちよく眠れないからね」
イズルはその上をひらりと飛行すると、鎖剣を展開。
きりもみ回転しながら敵兵の間を突っ切り、兵士たちの中をを穿っていく。
「ここは強行突破ができそうだ。さ、先へ」
地面を靴底で削りながらスピン。着地したイズルは小さく振り返り、フリーにした手で仲間たちを手招きする。
シャルロットは頷き、美しく飾ったドレスをなびかせながら走った。
それを阻もうと立ちはだかる巨漢の兵士。
鎧に守られたそのボディめがけ――。
「アトラトル!」
『紅槍』の術を用いて紅蓮の二重螺旋槍を顕現。発射。
鎧を回転によって穿ち抜き、兵士のボディを貫通していく槍。
直後、シャルロットは槍を足場にして兵士を駆け上り飛び越えていく。
「今日この日、この塔にいることが運の尽き。迷信を捨て帰るなら生きていられるわ?」
彼女たちはたちまち塔内へと侵入。
大きくカーブを描いた階段を見つけると、ヴィオラは猫耳をたてて加速した。
階段の上から兵士が次々と現れ、一部の兵士は上階より弓を構え高速で連射してくる。
「それにしてもエネミーが多い! なんだってんですか!?」
対するヴィオラは刀によって飛来する矢を切り落としながら駆け上り、薙刀を打ち込む兵士の攻撃を刀によってまた受けとめた。
「でも、この程度なら…………!」
力によって押し返し、相手の足を斬るヴィオラ。
転倒し階段を転げ落ちていく兵士をしりめに階段を駆け上がり、アイはさらなる加速をかけてダッシュ。
上階より弓を射ていた兵士たちへ急接近すると、投影術式によって生み出した無数の短剣を発射――しながら彼らの間をすり抜ける。
彼らの胸や顔面に突き刺さる短剣。衝撃によって転倒する彼らをまったく無視し、アイは次々と階段を登っていく。
「ここでは、使えそうだな」
Teth=Steinerは階段から飛んで壁へと飛びつくと、両足を壁へと吸着。腕の端末を操作すると肩に保持していたクライマーグローブを装着。壁に両手をつくようにして急速に滑走していく。
いち早く上階へとたどり着いたTeth=Steinerは背部に固定していた大口径ライフルを第三腕(マジックアーム)を用いて操作、薙ぎ払うような小刻みな連射によって兵を打ち払いフロアを制圧してしまった。
「経験値の足しにもならねぇ奴等は、引っ込んでろ!」
制圧したフロアを駆け抜ける蛍と珠緒。
珠緒は刀に『御柱』の力を憑依(インストール)すると、さらなる上階で待ち構えていた二刀流鎧武者の斬撃を急速にかがむことで回避。
がら空きになった隙間をくぐり抜け、防御の弱い部分を的確に切り裂いて通り抜けていく。
感覚が研ぎ澄まされ、全身を毛細血管のようなエネルギーラインが走って覆う。
アバターのダメージレベルを感知してモードチェンジが起きたのだろう。
それを察すると、蛍がこくりと頷いてセーラー服のポケットに手を突っ込んだ。
取り出した単語帳。書かれた異界の数式カードを一枚ピッとちぎり取ると、それを珠緒へと発射した。
謎の推進力でもって珠緒の背に張り付いたカードがバッテリーの役割を果たしエネルギーを珠緒のアバターへ供給。
モードチェンジ状態をギリギリ保ちつつ体力を維持するように調整をかけた。
「進もう、珠緒さん! ボクがフォローする!」
「はい……対話が通じぬのならば、見える傍から斬り捨て御免なのです」
●『エゴイズムが生命の理由になるなら、空間に生命は満たされ生命の新規生成は不可能となる。生き続けることは、生まれることの拒絶を意味した』
進み続けるものはいつか止まる。それが快進撃と呼ぶにふさわしい優勢であっても。
「残る側の方が良いだろうね。奥の方により良質な護衛が振り分けられている可能性を考えると、様々な状況に対応できる人がそちらへ向かう方が良さそうだ」
イズルは足を止め、残る仲間たちもまた足を止める。
塔中腹を過ぎ随分と登った頃だろうか。『御柱』まであと僅かというところで、顔を紋様の布によって覆った僧服の者によって止められた。
花形の輪がかかった錫杖を一度だけ地に突いただけで桜色の雷が走り、容易な進みはできぬと牽制したのである。
イズルはゆうらゆらと鎖剣を操ると、僧への攻撃チャンスを伺った。
隙はない。が、作ることはできそうだ。
その方法は、イズルにはもう思いついていた。
「現実でないとはいえ、『死』の軽さに戸惑うね」
ヒュンと音をたてて飛ばした鎖剣が僧の腕へと巻き付き、錫杖ごと引く。
伝達した激しい電流がイズルを焼き焦がすが、急速に距離を詰め忍ばせていたナイフを喉へ差し込む速度とそれは同等であった。
「先へ」
つぶやくように言うイズルに頷き、セフィーロたちは上階へと駆け上がる。
が、階段をあがった先に待ち構えていたのは奇妙な形の剣を握った三人の兵士であった。兵とひとくくりに呼ぶには強烈な威圧感を持つ彼らの顔は能面に覆われている。
彼らは剣を構え、すこしでも時間を稼ぎ後続の兵たちが駆け上がってくるのを待つ姿勢をみせていた。
「悠長に戦ってる暇はなさそうね」
こきりと拳を鳴らすセフィーロ。
Tethとヴィオラもまた歩み出ると、シャルロットや蛍たちに目配せした。
「使い古された月並みな台詞だけれど、敢えて言いましょう」
「ああ、定番のお時間だな」
「一回やってみたかったんです」
三人は全く同時に走り出し――。
「「此処は任せて先に行け!」」
剣を繰り出す能面の兵士。セフィーロはその腕を掴んで抑えると脇腹に膝蹴りをいれ組み合う姿勢へと持ち込んだ。
「ちゃんと救ってあげてくださいね、てっぺんの巫女さんのこと」
応援に入ろうとした別の兵士めがけ、ヴィオラの剣が豪速で襲う。
鍔迫り合いに持ち込むと、至近距離で睨み合った。
「さあさあ、お兄さん。私が相手です。倒すまでは一歩もどいてやりません」
その横を走り抜けていく蛍たち。
3人目の兵士が追いかけようとしたその時、Teth=Steinerがブレーキ&ターンによって上階への通路に立ちふさがった。
脇腹から回り込むようにしてせり出す大口径電磁ライフル。
その銃身が上下にバガッと開くと走る電流をそって実弾砲を発射。それを剣で真っ二つに切って迫る兵士に対し、Teth=Steinerはボディ各所より伸びた羽状のパーツを起動させた。
グリーンのゲートが発生し無数の魔導機構砲が出現。
「死にてぇ奴は前に出な! 纏めてブチ抜いてやらぁ!!」
一気にぶっ放した高温プラズマ柱が残る兵士たちを巻き込んで激しく発光する。
その寸前に飛び退きローリングをかけたセフィーロが、『早くいけ』の合図を仲間たちに出した。ヴィオラを連れて階段を塞ぐ位置へと集合する。
能面の兵士たちは落ちた面を拾い上げ、再び装着。
更に下の階より無数の兵たちが駆け上がってくる。
ヴィオラとセフィーロはそれぞれ顔を見合わせ、エネルギーマガジンを排出したTeth=Steinerがバックパックからそれをリロード。
「稼ぐぞ。俺たちは生き残れば勝ちじゃない。『誰かがたどり着けば勝ち』だ」
「当然」
「捨てて困る命じゃありませんしね!」
更に駆け上がった先に広がった光景に、蛍は思わず足を止めてしまった。
木目の床タイル。並ぶ窓から差し込む夕日。
フロアに並ぶ学習机と、大きな黒板。端には『日直 藤野 姉ヶ崎』と書かれていた。
ありきたりすぎてシャルロットは顔をしかめたが、蛍にはわかる。
「ここ……ボクのクラスだ……」
ガタンと音をたてる掃除用具入れ。
続けてあちこちの机がガタガタと揺れ、開いた掃除用具入れや引き出しの空洞から形容し難い粘液のようなものがはいでてきた。
それらは一つに合わさり、かろうじて人の形をとる。
粘液の怪物は上階への通路へちらりと頭を傾けると、すぐに蛍たちへと目を向けなおす。
『さっさと登れ。その背を食いちぎってやるから』と……そう述べているように見える。
「すこしばかりタイミングはズレてしまったけれど……」
シャルロットが歩み出て、赤いオーラを槍状に成形。握り込む。
「さて、この世界初の強敵戦……楽しみましょうか!」
槍を投擲し、更にエネルギーを爪状に整形。相打ち覚悟で怪物へと突撃をしかける。
その隙に珠緒たちは上階への通路へと走り進む……が。最後に足をかけた蛍がぴたりと止まり踵を返した。
「蛍さん!」
呼びかける珠緒に、ピッと小指を立てて見せる蛍。
「行って! 最後に一人、珠緒さんが成し遂げてくれれば、それがボク達の勝利よ!」
蛍は単語帳からカードを何枚も一度にちぎると、シャルロットへと放った。
シャルロットはヴァンパイアクローによって怪物の半身を破壊。と同時に怪物の放つ爪がシャルロットのアバター体の半分を破壊させ血を吹き上がらせた。単語帳に書かれた圧縮ルーン文字によって急速に再構築されていくアバター。
構築されていくアバターで、シャルロットは妖艶に笑った。
たどり着いた『御柱』。
広い通路の先に、その扉はあった。
否。そのまえに。
「ここから先へは、誰も行かせない」
体の半分以上がピクセルモザイクによって崩壊した青年が立っていた。
大きな両手剣を握り、しっかりとこちらに向けている。
アイは目を細め、そして理解したように刀を抜く。
「繧、繝?い窶ヲ窶ヲ縺セ縺滉シ壹▲縺溘↑」
自分でも聞き取れないほど乱れた音声が口から漏れたが、気にしない。
やるべきことは、そう多くはないはずだから。
「――投影術式『剣舞』!」
生み出した短剣がホーミングして青年へと次々に放たれる。
その全てを剣によって打ち払っていく青年。実力は互角――だが、それゆえに。
「あなたの役目はここまでです」
自らを『壁』にして迫っていたアイの後ろから、珠緒が素早く現れ斬撃を繰り出した。
青年の脇腹を切り裂きすり抜けるように背後へと回る。
がくんと脱力した彼の体重を背に受けながら、珠緒は息をついた。
●『君のいない物語』
ドアをくぐった先には、見覚えのある装置があった。
珠緒はそこに繋がれた少女を抱えあげると、接続を説いて部屋を出た。
機能不全を示すアラートと赤いランプが部屋を照らすその中で、珠緒は振り返る。
「模造品を一方的に見せて終わりでは、ありませんよね?」
「珠緒?」
何をするつもり? と顔をあげるアイをよそにして、珠緒は装置へと駆け寄り接続端子を握りしめた。
「こうして駆け付けたのです、顔くらい――」
ノイズが走った。
すべてに、である。
視界にうつる全てのものが、まるで眼球のレンズに直接ヒビが入ったかのように崩壊し。
そして。
「……え」
珠緒たちは、焼け野原の上に立っていた。
それまでの戦いがまるで嘘だったかのように。全てが消え、そこにいた。
目の前には倒壊した塔。死に絶えた人々。その中央には不自然な噴水があって。
彼女が。
手を振りながら。
振り返――。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
クエスト完了
研究員は救出されました
正義国から御柱の塔『邪摩都』とその関係団体が消滅しました
GMコメント
●オーダー
・成功条件:『御柱の巫女』の奪取
塔へ突入し、『御柱の巫女』を部屋から引っ張り出します。
おそらくですが巫女は立って歩くことすら困難なほど衰弱しているため、その作業自体は容易でしょう。
困難になるのは塔への突入と、塔内部の防衛をきりぬけ部屋へたどり着くことにあります。
●御柱の塔『邪摩都』
正義国に存在する宗教施設です。
この施設を守る兵も、その信徒たちも、巫女を塔に納めておくことで自分たちが幸福になるための預言をしてくれるものと信じ、閉じ込め続けています。
彼らへの説得はほぼ不可能であるため、塔のセキュリティガードを突破し強引に部屋へと至る必要があります。
また、この施設および兵たちは似たような旅人世界の情報がモチーフになっているようですが、『邪摩都』の解釈など様々な部分で異なっているためもろもろ別物として考えるのがよいでしょう。
●エネミーデータ
・邪摩都兵
やや和風の装備でためた兵士達です。
数はかなり多いですが、戦闘力は(皆さんの基準からすると)かなり低いようです。
・上級幹部
高い戦闘力をもった術士たちです。
簡単に突破することは難しく、塔の途中途中で現れるため時には『ここは任せて先に行け作戦』をとる必要も出るでしょう。
戦闘不能(死亡)者の発生も覚悟しておきましょう。
●ROOとは
練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline
※重要な備考
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
遘√r隕九▽縺代※
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