PandoraPartyProject

シナリオ詳細

モリ・モズ。或いは、その烏、毒性につき…。

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●やがて死に至る毒
 独立都市『アドラステイア』
 とある研究施設の奥に、その生き物は捕らわれていた。
 ガラス張りの白い部屋。
 中央に置かれた鳥かごの中には、1羽の烏がおさまっている。
 赤い瞳をした、大きな烏だ。
 眼差しからは、高い知性が窺える。
 元々、烏は賢い生き物だ。けれど、その烏の備えた知性は、一般的なそれを遥かに凌駕する。
 コードネーム:モリ・モズ。
 突然変異によるものか、モリ・モズはその体内に強い毒を有しているという。
「んー? んん? 上手くいかないね。ぜんっぜん、上手くいかないね」
 ガラス越しにモリ・モズを見やる白衣の女性。
 青白い肌に赤い瞳が特徴的な彼女の名はグレア・グアム。この研究施設の総責任者であり、アドラスティアで使用される“洗脳薬”の新規開発を担当する医師である。
 モリ・モズをじぃと見やって……否、グレア・グアムの視線の先は、モリ・モズの足元に転がっている無数の死体に向けられていた。
 鼠やイタチ、犬や猫、鷲やトカゲといった動物たちの死体である。
「モリ・モズの体内にある毒……それを上手く培養できれば、より良い薬が造れると思ったんだけど」
 手元の資料に視線を落とし、グレア・グアムは首を傾げた。
 そこに記されているのは、どの動物に、どれだけの量の血液を注射したのかという記録であった。
 そして、モリ・モズの血液を注射された動物は、どれもそう長い時間をかけずに死に至っている。
「狂暴化に筋力の向上。正常な判断を行えなくなるという欠点はあるが、洗脳兵にそんなものは不要だからね」
 グレア・グラムをはじめ、アドラスティアの大人たちが下す命令に従うだけの知能が残ればそれでいいのだ。
 幸いなことに、この世界には孤児も奴隷も多くいる。
 洗脳兵が命を落としたとしても、誰も悲しまないし、補充も容易だ。
「とはいえ、今のままじゃ投薬から5分もしないで死に至る……もう少し生存時間を伸ばさないと、さすがにね」
 使い物にならないよ。
 なんて、言って。
 グレア・グラムは手元の資料を部下へ渡して溜め息を零した。

●モリ・モズ抹殺指令
「モリ・モズと命名された烏の抹殺。それが、今回の依頼の内容だ」
 そう言って『黒猫の』ショウ(p3n000005)は手元の資料へ視線を落とす。
 アドラスティアにある研究施設の位置と、その大まかな内装についてが記された地図だ。
 以前、イレギュラーズが救出したアドラスティアの元マザーから得た情報を元に作製したものである。
「研究所には、6名の研究者と15人の警備員が詰めている。警備員のうち10名ほどは研究施設の外に配置されているようだが……」
 研究所へ立ち入るためのルートは3つ。
 地下水道を辿るか、施設の後方にある死骸排気口から侵入するか、正面入り口から突入するかの3通りだ。
「もちろん、どの入り口にも警備員は配置されているようだがな」
 施設の内部には、広い通路が1本。
 その左右には研究者やグレア・グアム、警備員たちの私室や休憩室が並んでいる。
 通路を進み研究施設の最奥にある重厚な扉を抜けた先が、モリ・モズの隔離されている研究室だ。
「研究員たちはともかくとして、警備員は相応の訓練を積んでおり、拳銃を武器として所持している。体術にも長けた者たちのようだな」
 拳銃による攻撃には【呪縛】【封印】が、体術による攻撃には【失血】【体制不利】【窒息】がそれぞれ付与されている。
 研究施設の設備を保護するためか、行動を阻害することに長けた技を行使する傾向にあるようだ。
「モリ・モズを抹殺するためには、研究施設の最奥に辿り着いてガラス壁を破壊するか、飼育室のシャッターを開ける必要がある。当然、ガラス壁も、シャッターもかなり頑丈な造りとなっているだろうな」
 特にシャッターの開閉は容易ではないだろう。
 なにしろモリ・モズはこの世に2羽と存在しない貴重な烏だ。
 飼育室のシャッターを開閉できる者はごく僅かだと予想される。
「モリ・モズの血は猛毒だ。【廃滅】や【狂気】【重圧】の状態異常といえば分かりやすいか?」
 万が一、取り逃がしてしまえば甚大な被害を引き起こすことになるだろう。
 確実に、今回の依頼で仕留めてしまう必要がある。
「モリ・モズが飼育室から外に出てしまった場合だが……施設の通気口を移動される可能性があるな。人が通れるサイズではないが、烏であれば問題なく通過できるだろう」
 通気口を使用された場合、モリ・モズを補足できるタイミングは施設の外部に脱出した直後のみということになるだろう。
 幸い、外に繋がる通気口は施設の前方に集中しているので、待ち伏せをすることは容易であろう。
「それと、これは不確定な情報なんだが……研究員や警備員は“モリ・モズの血薬”を所持している可能性がある」
 それを服用すれば、その者は遠くないうちに命を落とすことになる。
 けれど、生存している間は身体能力が飛躍的に向上する。
 投薬後には【ブレイク】【飛】を備えた攻撃が可能となるだろう。
 ハイリスク・ハイリターンというには、リスク面が高すぎるが、人間、追い詰められると何を仕出かすか分からない。
「何しろここはアドラスティアだ。人道に悖る、唾棄すべき行為が日常的に行われている場所だからな」
 なんて、吐き捨てるようにそう言って。
 ショウは視線を伏せたのだった。

GMコメント

●ミッション
モリ・モズの抹殺

●ターゲット
・モリ・モズ
一般的なそれより幾分大きな身体を持つ烏。
突然変異か血液に毒素を持っている。
毒素を利用した薬物開発のため、現在はアドラスティアに捕えられた状態。

血毒:神中単に中ダメージ、廃滅、狂気、重圧
 モリ・モズの血は強い毒である。


・グレア・グアム
アドラスティアに所属する医師。
女性。
青白い肌に赤い瞳が特徴。
彼女の造った強化薬は、警備員や研究員に配布されている可能性がある。

モリ・モズの強化薬
 投薬された者の身体能力を強化する。
 投薬された者の通常攻撃には【ブレイク】【飛】が付与される。


・研究員×5
モリ・モズの研究を行う研究員たち。
施設内に5名滞在している。


・警備員×15
研究施設の警備を担当するアドラスティアの大人たち。
拳銃を武器として携えているほか、格闘戦も得意としている。

精密射撃:物近単に中ダメージ、呪縛、封印
格闘術:物至単に大ダメージ、失血、体制不利、窒息


●フィールド
アドラスティア下層の研究施設。
施設の内部には、広い通路が1本。
その左右には研究者やグレア・グアム、警備員たちの私室や休憩室が並んでいる。
通路を進み研究施設の最奥にある重厚な扉を抜けた先が、モリ・モズの隔離されている研究室。
モリ・モズと接触するためには研究室のガラス壁を破壊するか、シャッターを開ける必要がある。

研究所へ立ち入るためのルートは3つ。
地下水道。
施設の後方にある死骸排気口。
正面入り口。
※人が通れるサイズではないが通気口も存在する。モリ・モズはそこを通って施設外へ逃走を図る可能性もある。


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • モリ・モズ。或いは、その烏、毒性につき…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年05月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
紅劔 命(p3p000536)
天下絶剣一刀無双流
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
玄界堂 ヒビキ(p3p009478)
斧鉞

リプレイ

●アドラスティアの研究施設
 研究施設正面。
 鋼の扉の左右に控え、それを守護する2人の男の見つめる先に現れたのは都合8名のイレギュラーズだ。
 背丈も年齢も様々ながら、アドラスティアの構成員ではないことが一目で分かるその出で立ちに、警備員は手にした銃を構えて問うた。
「何者だ! ここは関係者以外立ち入り禁止となっている。早々に立ち去れ!」
 不審者へ向け、退避を促すと同時に周辺を周回している他の警備員たちへも急ぎ応援を要請した。警備員たちが所有する、ごく短距離間でのみ通信を可能とする魔道具によるものだ。他の出入り口を守護している警備員を覗く4名が、急ぎ正面へと移動してくる。
 結果として、警備員たちの判断は正しかった。
「敵兵力は分散しているでしょうから、逐次増援が来ても数で不利にはならないでしょう」
銀の髪をした細身の女……『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)が手にした槍を腰の位置で引き絞る。
 眩いほどの燐光が、槍の切っ先に集中し輝く刃を形成していた。
 警備員たちは、その様子から明確な敵意を察知する。銃の引き金に指をかけるが、些か距離が遠すぎる。
「来るぞ! 退避!」
 迎撃を一時中断し、2人の警備員は射線から逃れるように左右へ分かれた。2人が移動を開始すると共に、解き放たれた光刃が地面を抉り、鋼の扉に深い裂傷を刻み込む。

「まったく度し難い奴等ね!」
「だが、地味に厄介だな。先手を打って行動阻害していきたい」
2刀を手にした『天下絶剣一刀無双流』紅劔 命(p3p000536)は右へ、鞭のようにしなる剣を構えた『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は左へ。
 地面を這うように疾駆する2人は、それぞれ警備員へと斬りかかる。
 命が刀を顔の前で交差させた、その瞬間、彼女の肩で血が散った。
 横合いから現れた別の警備員が、彼女へ向けて銃弾をばらまいたのだ。
 衝撃によろけた命の前に、警備員が駆け寄った。彼は命へと手を伸ばし、細い首を締め上げる。それと同時に命の脚へ自分の脚をかけ、体勢を崩す。
「い、っつぅ」
「すぐに痛みも感じなくなる」
 流れるような動作で、顔面から地面に倒れた命の後頭部へ銃口を突き付けた。
 しかし、彼が引き金を絞るより速く、その手首がへし折れる。
「時間をかけ過ぎると敵の増援が来るかもとは思っていたけれど、予想以上に早いわね」
 砕けた手首から血が滴った。
苦悶に喘ぐ警備員へと前蹴りを叩き込みながら『狐です』長月・イナリ(p3p008096)は正眼の位置に木剣を構えなおす。
「後方からも来るぞ!  挟み撃ちは避けたいからな……俺が抑える!」
 2振りの曲刀を低く構えた『斧鉞』玄界堂 ヒビキ(p3p009478)が、慌てて背後を振り向いた。【超聴力】により強化された彼の耳は、未だ姿を見せない誰かの足音を、確かに聞き取っていたのだ。
「注意してくれよ。アドラステイアである以上、子供である可能性もある……斬れるかい?」マルク・シリング(p3p001309)の問いかけにヒビキは無言で頷いた。

 マルクが杖を一閃させれば、眩い光が視界を白に染め上げる。
 視界を焼かれ、足を止めた警備員の顔面を赤い光球が叩き潰した。警備員の顔面を潰し、跳ね返ったそれはサッカーボールだ。
 地面を転がるボールを足で受け止めて『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)は研究所へと視線を向ける。
「研究つってもどうせロクなもん作らねぇのは、目に見えてるっス」
 この施設で研究されている薬物には、人体の機能を飛躍的に向上させる効力がある。その代償として、投薬からそう長い時間をおかないうちにその者は正気を失い、死に至るとされていた。
 舌打ちを零した葵は、研究所の入り口へ向け狙いを定め、ボールを蹴るべく足を後ろへ振り上げた。
「オレ達で軽く捻り潰してやるっスよ」
 高く響く渇いた音と、空気を切り裂き飛ぶボール。
 葵の放ったシュートが扉を打ち破るその寸前に、ガードへ回った影がある。太い腕で葵のシュートを受け止めたのは、筋骨隆々とした大男だった。
 身体中に浮き出た血管は絶えず脈動し、瞳や鼻からは血の雫が滴っている。
 破れて、身体に纏わりついた衣服から察するに彼も警備員だろう。けれど、その様子はとても正気を保っているようには見えない。
「人の命をなんだと思っているんだろう。こんな非道な行い、許す訳にはいかないよ」
 葵のシュートを受け止めたことで、男の腕は大きなダメージを負っていた。皮膚や裂け、指は砕け、肘からは骨が突き出している。
 それでも彼は痛みに悲鳴をあげることもなく、扉の前に立っていた
 その様を見て『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)はきつく唇を噛み締める。
 “モリ・モズの強化薬”。
 強い力と引き換えに、理性と命を失う劇薬を警備員は飲んだのだろう。

●モリ・モズの強化薬
 リィン、と響く魔力を孕んだその音は、警備員の耳朶を通過し脳を震わす。
 スティアの奏でる旋律に惹かれ、彼女へ意識を向けたその背をアーマデルの鞭剣が裂いた。意識を失い、倒れた男の背を踏み越えてアーマデルは扉へ向けて疾駆する。
 
 強化薬に意識を侵され、正常な思考を損ねていても【福音】の音色は無視できない。
 スティアへ目掛け、拳を振るう男の腕を極寒の魔力が包み込む。
 キシ、と軋んだ音を鳴らして男の腕は凍りの華に包まれた。腕を凍結させたまま、男は構わずスティアの胸部を殴打する。
「う……ぐ」
 骨と内臓が悲鳴を上げた。
 血を吐き、地面を転がるスティアの眼前で、男の腕が砕け散る。氷の破片を撒き散らし、片腕を失ったその男はしかし、苦悶の声を上げることもなく追撃のため前へ出た。
 【怒り】によるものか、それとも正常な思考を失っているせいか。
 どちらでもいい。
 護衛が消えたその隙に、アリシスの放つ光の刃が正面扉を真っ二つに斬り裂いた。

「アドラスティアの企みを阻止してあげるのよ! 急いで! 研究室へ!」
 スティアの号令に従って、イレギュラーズは研究所へとなだれ込む。
 先頭を駆けるアーマデル。
 その後ろに命とイナリが続く。
「やはり投薬されれば危険も増すか。油断せずに行こう」
 スティアが抑える警備員の背へ向けて、ヒビキは鋭く2刀を振るう。背を十字に斬り裂かれ、姿勢を崩した男の顔面を葵の蹴りが撃ち抜いた。

 警備員が血を吐いた。
 人の身に余る“強化薬”の副作用か。顔を潰され、片手を失い、もうじき命を尽きようとしている。その者がどのような人生を送って来たのかは分からないが、その終幕としてはあまりにも無残なものだ。
「スティア嬢、葵殿も先へ……もり・もずに逃げられることがないよう、出口を塞ぐ」
 一閃。
 ヒビキの刀が、警備員の首を裂く。
 血を吐き、力を失い倒れたその巨体を脇へ退け、ヒビキは扉の前で足を止めた。
 ヒビキの見つめるその先には、数名の警備員の姿があった。
 正面での騒動を聞きつけて、残りの出入り口を警備していた者たちが応援に駆け付けたのだ。
「何、死にかけるくらいなら慣れたものだ」
 ここから先へは通さぬ、と。
 赤毛の鬼がその身に戦意を滾らせる。

 通路に並ぶ男は3人。
 揃いの衣服を身に纏い、胸の前に構えた銃のトリガーを引く。
 連続して鳴る渇いた銃声。
 それはまっすぐ、命の膝、肩、腹部を撃ち抜いた。
「命さん!? そんな無茶な……!」
「だって、剣豪なんて斬るしかできないのよ。できることが少ない分、できることはしてかないとね」
 戸惑うイナリをその場に残し、命は通路を駆けていく。
 彼女の通ったその後には、血の雫が滴っていた。
 銃声が鳴る度、命の身体が大きく揺れて、零れる血の量も増していく。
 しかし、彼女は止まらない。
「もう薬を打たせないわ」
 一閃。
 飛ぶ斬撃が、男の腕を斬り裂いた。
 弾幕が減ったその隙を潜るようにして、命は一気に男たちへと近づいていく。
 地を這うように振るった刀が、男の膝を斬り裂いた。
 上方へ向け、身体を伸ばし刀を薙ぐ。
 男の胸部を、構えた銃ごと裂いてみせる。
「侵入者は排除する。命に変えても」
 焦点の合わない瞳を命へ向けて、男は銃のトリガーを引く。
 渇いた銃声。
 硝煙の臭い。
 火花が爆ぜて、射出された弾丸が命の胸部を撃ち抜いた。

「渡された薬を飲めば、君たちは数分後には死ぬ。信仰を果たすこともできず、救われる事も無く、ただ死ぬ。それでも、薬を飲むのかい?」
 倒れた命へ銃を向けた男たちへ、マルクは問うた。
 男たちへ差し向けられた杖の先には、魔力の光が灯っている。
「今退くのならば追わない」
 そういってマルクは、自身の背後、外へと通じる扉の方向を指し示す。
 既に1人、薬を飲んだ男を見た。
 人智を超える力と引き換えに、血を吐き、正気を失った男の姿を目にした。
 もはや人とは言えぬほどに、おかしくなったその男は、物も言わずに命を落とした。
 人の一生の終わりと呼ぶには、あまりに無残な光景だった。
 けれど、しかし……。
「それで貴様らを排除できるのならな」
 1人の男は命へと向けた銃のトリガーを引き絞る。
 1人の男はマルクの胸へと銃口を向けた。
 1人の男は懐へと手を伸ばし、薬の瓶を掴み取る。
 彼らが行動を終えるよりも僅かに早く、マルクの放った閃光がその視界を白へと染めた。

 【パンドラ】を消費し、命は意識を取り戻す。
 振るった刃が、男の手にした銃を弾いた。
 刹那、壁を蹴って前へと跳んだイナリがその顔面を木刀で打つ。折れた前歯が宙を舞い、苦悶の呻きを最後に零して男は意識を失った。
 アリシスの槍が、アーマデルの鞭剣が、残る2人の意識を奪う。
 その懐から転がり落ちた薬瓶を、イナリは僅かの躊躇いも無く踏み砕いた。
「服用後に死んでしまうお薬ね……随分な欠陥品だわ」
「しかし、モリ・モズの血薬とやらが死亡する位の副作用があるのならば、余程に強力ではあるのでしょうね」
 強い効果のある薬品には、相応の副作用が伴うものだ。
 人体とは生理現象の連続で機能しているものだ。薬の効果でそれを狂わせるのならば、それなりのリスクが生じることは当然と言える。
「こんなものを造り出して……それとも、好きでやっているとも限らないでしょうか」
 通路を進むアリシスの眼前には、自室へと逃げ込んでいく研究員の姿があった。
 警備員たちと違い、彼らの戦意は薄いように思われる。
 ともすると、彼らは生きるために“モリ・モズの血薬”の研究に携わっていただけなのかもしれない。
 けれど、しかし……。
 この研究所の室長を務める研究員。
 グレア・グアムと名乗る女だけは、おそらく自身の意志でもって血薬を造り、配布したことにきっと間違いはないだろう。

 銃声が鳴り、怒声が響き、悲鳴が上がる。
 そんな喧噪に包まれてなお、それはじっと身じろぎの1つもすることはない。
 ガラスの壁の向こう側、1羽の烏がじぃとこちらを見つめていた。
 その瞳には、確かな知性が窺える。
「あぁ、騒がしくしてごめんねー。すぐに静かにしてあげるから、少しだけ我慢しておくれよ?」
 烏……モリ・モズへ向けてそう告げたのは白衣を纏った1人の女性。
 青白い肌に赤い瞳が特徴的な彼女の名はグレア・グアム。この研究施設の総責任者であり、アドラスティアで使用される“洗脳薬”の新規開発を担当する医師である。
「室長! 何を悠長なことを言ってるんですか! ここも危険なんですから、すぐに退避を!」
 そんな彼女へ怒鳴り付けるのは、痩せた身体に薄い頭髪の男性だった。白衣を纏っていることから判断するに、彼は研究員の1人なのだろう。
 さらに2人、広い部屋の入口付近には警備員が控えている。
「んー? んんー? 君、逃げたいのかい?」
「それは……当然でしょう?」
「なぜ? 怖いのかい?」
「怖いに決まってる!! 何の目的でここに攻め込んだかもしれない賊どもが、すぐそこにまで迫っているんですからね!!」
「なるほどなるほど。じゃあ、怖くないようにしてあげよう」
「そんな方法があるのなら、さっさとそれを成してください。貴女がモタモタしているせいで、他の連中は血相を変えて逃げて行った! 警備員たちも多くが倒れてしまった今、誰が
モリ・モズを護衛するんです!!」
「君だよ」
 淡々と。
 今日の天気を訪ねるような気安さで、グレア・グアムはそう言った。
 刹那、彼女は手にした注射器を男の首へと突き立てる。

「……やることがやけにえげつねぇな」
「同感だ。相変わらずヒトの命が軽すぎる」
 研究室へ踏み込んだ葵とアーマデルの視界には3人の男の姿があった。
 血を吐き、白目を剥いた彼らの様子は、とても正気のそれではない。イレギュラーズの到着より先に“モリ・モズの血薬”を飲んだのだろう。
 部屋の奥に佇む女性が、そんな3人を観察している。
「やぁ、思ったよりも速い到着だったね」
 なんて。
 好奇心と狂気に濁った赤い瞳をにぃと細めて、女はそう告げたのだった。

●モリ・モズ
 渦巻く魔力が法衣を揺らす。
 マルクの掲げた杖の周囲に燐光が舞った。
 空中に魔力の線で描かれた陣が、眩いほどの光と熱を周囲へ散らす。
「また人を人ならざる者にする薬を作るつもりか。イコルだけじゃなく、こんなものまで」
 魔光閃熱波。
 マルクの放った熱閃が、迫る男の胸部を射貫いた。

 胸を射貫かれ、血を吐きながらも男は歩みを止めはしない。
 空気を唸らせ、振るった拳がマルクの胸部を打ちぬいて、その身体を後方へと弾き飛ばした。
 刹那、男の側頭部を光の刃が刺し貫く。
 いかに肉体を強化しようと、脳を破損すればおよそ人は生命活動を停止する。
 それを成したのはアリシスだ。
「向かってくるものは先にことごとく殲滅します」
 銀の髪を靡かせながら、アリシスは視線を壁際に佇むグレア・グアムへと向けた。
 視線を受けたグレア・グアムは両手を上げて降参の意志を示している。
 けれどその口元には、隠し切れない愉悦の笑みが張り付いていた。

 2人の敵を引きつけながら、スティアは防御に専念していた。
 振るわれる拳がスティアの脇を激しく打った。
 その腕を、イナリの木刀が打ち返し、肘の骨を粉砕する。
 頭上より放たれた殴打が、スティアの頭部を激しく揺らす。
 伸びきった腕にアーマデルの鞭剣が巻き付き、体勢を崩した。倒れた男の首筋を命の刀が深く抉って絶命させる。
「簡単に倒れる訳にはいかないから!」
 リィン、と鳴った幻想の音色。
 暖かな燐光に包まれて、スティアの傷はじくりと癒えた。
 
 足を引きずるようにして、通路を進む男が1人。
 赤い髪は、血でべったりと濡れていた。
 血の雫を零しながら、ヒビキはようやく研究室へと辿り着く。【パンドラ】を消費し、意識を繋ぐ彼の手には、血に濡れた研究資料が握られていた。
 道中、施設から逃走を図ろうとしていた研究員を捕まえ、押収したものだ。
「直すためでなく壊すための薬か。まったく、悪人共は何処でも碌でもないことをするものだな」
 ポツリ、と。
 そう呟いたヒビキの前で、1人の男が倒れ込む。
 血の泡を吹き、命を散らしたその男の背には深い裂傷が刻まれていた。

 イナリと命の斬撃を受け、ガラスの壁が砕け散る。
 けたたましい音が鳴り響き、瞬間、モリ・モズが翼を広げた。
 ガラス片を回避しながら、まっすぐに向かう先は通気口。
「おぉ、やはり賢いね」
 なんて、感心するようにグレア・グアムはそう言った。
「毒性を帯びているのが血なら返り血にも注意を」
 モリ・モズの逃走経路を塞ぐように、アーマデルの鞭剣が宙を薙ぎ払う。
 ひゅおん、としなる刃を避けて進路を変えたモリ・モズへ視線を向けたのは葵であった。
「悪いっすね。あんたを逃がしてしまえば問題発生待ったなしっすから」
 通路へ向けて飛ぶモリ・モズへ狙いを定め、葵は手にしたボールを落とす。
 大きく脚を背後へ引いて、脳の内でカウントを取った。
 一つ。
 二つ。
 ボールが地面に触れる寸前、渾身の力で蹴りを放った。
 空気が振るえるほどの衝撃。
 放たれる魔弾は、狙いを違わずモリ・モズへ迫る。
 一瞬。
 音を置き去りにするほどの速度でそれは空を翔け、モリ・モズの身体を背後より粉砕してみせた。
 ぐちゃり、と。
 潰れた身体が、血飛沫を共に廊下を転がる。
 長く捕らわれた1羽の烏は、とうとう青い空をひと眼も見ることはなく、床を汚す血と肉片へ姿を変えた。
「やぁ、お見事。それで、ねぇ……君たちなら、この薬の副作用に耐えきれたりはしないかな?」
 なんて。
 拍手と共に、グレア・グアムが取り出した小瓶をアーマデルの剣が薙ぎ払う。
「あぁ! ちょっと、貴重な」
「貴様は! 人の命を何だと思ってるんだ!!」
 グレア・グアムが次の言葉を発する前に、スティアの拳がその頬を打った。
 意識を失い倒れた彼女を睨みつけ、スティアは肩を震わせる。
 警備員も、研究員も、モリ・モズも。
 結局のところ、グレア・グアムからしてみれば、等しく“実験材料”に過ぎなかったということだろう。

成否

成功

MVP

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。
モリ・モズの排除とグレア・グアムの捕縛に成功しました。
依頼は成功となります。

この度はご参加、ありがとうございました。
1羽の烏は命を失い、多くの命は救われました。

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