シナリオ詳細
得意げな顔でしゃぼんだまを吹いてくる荒い熊
オープニング
●
燦々と輝く太陽の光がアジュール・ブルーの空から降り注ぐ。
空高くトンビが旋回しどこか遠くへ飛んで行った。
「今日も良い天気だなぁ!」
白と黒のツートンカラーの髪をした少年がバスケットを持って町の中を歩いて行く。
青い瞳に強い輝きを宿し、少年は目的地へと向けて進んでいた。
「んっとー、今日はスージーのばあちゃんの所へ行って、それから……あ、ジェフおじさんにも呼ばれてたんだっけか」
足腰の弱ってしまったスージーを気遣って、彼女の為に買い物を代わってあげているのだ。
ジェフにはきっと薪割りなんかの雑用をお願いされるのだろう。
小さな町だから皆助け合って生きている。少年はこの町の皆が大好きだった。
少年の名は『アンドリュー・アームストロング』。
空色の瞳をキラキラと輝かせ、お肌もつるんとした『少年』である。
身長は170cmほどあるが『少年』である。
現実世界では筋肉ムキムキ両乳首兄貴『黒顎拳士』アンドリュー・アームストロング(p3n000213)だが、この町のアンドリューは愛らしい少年であった。
無辜なる混沌への強制召喚を打ち破り、元の世界へと帰還することを目標にしている練達の科学者達によってつくりだされた仮想環境『Rapid Origin Online』――通称『R.O.O』の中に、イレギュラーズはダイブしていた。
事の発端は予期できないエラーによるシステムの暴走。
フルダイブ型の仮想空間に深刻なバグが発生し、練達科学者、及びR.O.Oのゲームマスター(三塔主)の権限の一部を拒絶したのだという。
つまり、ログイン中の『プレイヤー』が閉じ込められるという深刻な状況が発生した。
三塔主からの依頼を受けてローレットのイレギュラーズ達は早速『R.O.O』へとプレイヤー登録をする事となった。何故エラーが起きたのかを探り、閉じ込められたプレイヤーを救い出すのがイレギュラーズの目的なのだ。
●
「いつもすまないねぇ」
「ううん。大丈夫だよ、スージーばあちゃん。……だって、俺が怪我したりした時手当してくれて撫でてくれたじゃん。お互い様ってヤツだろ?」
スージーの家にやってきたアンドリューはにっかりと歯を見せて笑った。
「それにしても、ジェフ坊はまたアンタを使ってるのかい? まるで息子みたいだね」
「ふふ、おじさんをジェフ坊って呼ぶのばあちゃんぐらいだよ。そうだね。俺の父さんの親友だし。実際、父さんと母さんが死んでから面倒見てくれてるのはジェフおじさんだから」
冒険者仲間だった両親とジェフ・ジョーンズ。不慮の事故で両親を失ってからはジェフがアンドリューの保護者となってくれていた。
「そうかい。まあ、ジェフ坊もアンタの事を本当の息子だと思っているさ」
「うん。そうだといいな」
朗らかな笑顔が空間を和ませる。
されど、騒々しい足音と共に男が一人スージーの家へと駆け込んで来た。
「――おい! アンドリュー! 手伝ってくれ! 西の森に『荒い熊』が出やがった!」
「ジェフおじさん!? あの『可愛い顔して実は凶悪な荒い熊』が現われただって!?」
「そうだ。あの荒い熊だ。しかも、今回は五匹もいやがる」
「五匹か。ちょっと厳しいね。誰か応援を呼ばないと」
アンドリューは早速、ジェフと共に冒険者が集まる酒場へと走って行く。
――――
――
「すみません。どなたか、『荒い熊』ラクーンを追い払うの手伝って下さい!」
冒険者が集まる酒場の入り口でアンドリューが声を上げた。
あなたは興味深そうにアンドリューとジェフの話に耳を傾ける。
「西の森に『荒い熊』ラクーンが五匹現われたんだ。たまにこの町に現われるんだけど、今回は五匹も来たんだよ。だから、助けてほしいんだ」
「しかも、今回は何やら変なものが森の広場にいやがる」
ジェフの言葉にあなたは首を傾げた。変なものとは一体何だろうか。
「オレンジ色で、こう、まあるいんだ。んで、顔がついてる。笑顔。そう笑顔だ。でも、圧が強い。頭の所に赤い葉っぱを乗せてな、お洒落をしてる。あと、茶色くてのっぺりとした身体がついてる」
攻撃してくる事はないが、『荒い熊』ラクーンの動向をじっと見つめて居るらしい。
「……とにかく、熊を倒して町の平和を取り戻すんだ!」
「おー!」
アンドリューとあなたは拳を上げて立ち上がった。
- 得意げな顔でしゃぼんだまを吹いてくる荒い熊完了
- GM名もみじ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年05月27日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
其処には居ような空気が漂っていた。
洗井……荒い熊『ラクーン』とオレンジ色のまあるいオブジェクトが距離を保ちつつ向かい合っている。
得意げな顔でシャボン玉を吹いている熊と圧の強いオレンジ色。
『航空海賊忍者』夢見・ヴァレ家(p3x001837)は目の前に流れる空気に唾を飲み込んだ。
「あのオレンジ色の物体から、なんだかすごい圧を感じます。奴を始末しろと。これは、そう、まるで自分のものだと確信していた人を寝取られたかのような」
布団の中で得意げな顔でシャボン玉を吹くアライグマとアンドリュー。それを棒立ちで見ているオレンジ色のまあるいオブジェクト。何故かその光景まで脳裏に浮かぶ。何故なんだ。教えてブルーバード!
「逃してしまったら後で祟りがありそうな気がします。できるだけ倒す方向で行きましょう!」
「荒い熊……つまるところは害獣退治の依頼かあ。
こういうのが回ってくるのは混沌の世界でもこのネクストでもあんまり変わらないんだね」
歯車飾りのついた帽子を少し上げた『どこまでも側に』ミドリ(p3x005658)は広がった視界に荒い熊を捉え魔法剣を鞘から抜いた。
「アレを撃退するのが今回の仕事だ……まあ、とにかくやっちゃおう!!」
ミドリの言葉に『亘理義弘・ゼロ』義弘(p3x000398)は拳を手の平に打つ。
「さて、これも仕事と言っていいのか、それともゲームなのか。
まあ、ゲームするのが仕事ならそれでいいのか……。
深く考えないようにするか。少なくとも敵を殴り倒さなけりゃならねぇ状況だ。
迷っていて死にたくはねぇな」
イレギュラーズがR.O.Oの世界に入り込む理由は、閉じ込められた練達研究員を助け、バグの調査をするという大きな名目がある。
その一環でこうしたクエストを熟し、ネクストに慣れていくのも立派な仕事なのである。
義弘の肩に乗った『妖精粒子』シフルハンマ(p3x000319)は荒い熊に視線を上げた。
熊が5体。シフルハンマにとってR.O.Oの初めての依頼が熊退治だった。
その時は1体だけだった熊を今回は5体倒さなければならないのだ。難易度がかなり上がったといえよう。
されど、熊の種類も違うしレベルアップや装備の充実を経て皆強くなっているだろう。
シフルハンマの脳裏に情報端末の画像が浮かび上がる。男の胸を洗う熊と変なオブジェクトの絵だ。
何処かその画像と目の前光景がクロスしてしまう。何故なんだ。
「どうした?」
「いや……まあ、あのイラスト情報制度Eだろうし、気にしたらダメか、今回もシフルハンマを生存させるために頑張ろう」
真剣な表情で荒い熊を見つめるシフルハンマに義弘は一瞬だけ視線を向け、再び前に向き直る。
二人の横に並ぶのは『Cobalt』リナシタ(p3x007279)だ。
「愛くるしい顔のとても強い熊、ですか。
ファンシーでゆるい見た目のキャラクターは強い、知っています。リナシタは賢いので」
デスゲームの主催者はファンシーでゆるい見た目で目が真っ黒なものが多い。お約束というやつだろう。
「そうですね。確かに外見は可愛らしく、一見危害を与えるようにも見えないのですが……」
荒い熊から村の少年アンドリュー・アームストロングとジェフ・ジョーンズへと視線を向ける『夜桜華舞』桜陽炎(p3x007979)。ジェフ達が即座に対応できるということはこの見た目が可愛らしい荒い熊に何度も苦しめられているということなのだろう。
「見た目は可愛いんだがな。あのシャボン玉が厄介なんだ。皮膚を溶かす強酸だ」
「そういうことであればご協力は惜しみません。ご安心を、退治の努力は致します。
くれぐれも――アンドリューさん、ジェフさんは自らの命を大事に」
桜陽炎はアンドリューとジェフに念を押すように頷き、小さく息を吐いた。
「そうだよぉ! アンドリューさ……君もジェフさんも気を付けてねぇ! じゃないと、可愛い顔して実は凶悪な荒い熊に洗われちゃうよぉ! 恐ろしいねぇ……!」
「洗われる……」
何処を洗われるのかは聞いてはいけないと『ホワイトカインド』ホワイティ(p3x008115)は首を振る。
ホワイティはそっとオレンジ色のまあるいオブジェクトに視線を向けた。
みっしり並んだオブジェクト。どこかで見たことがあるような気がする。
「……まあるい飴……「M」……?」
「……!」
ホワイティの言葉に反応するようにざわざわと動き出すオブジェクト。
一斉にホワイティを向いた。
「ひっ! 圧が強い」
「いやね、なんだかあのオレンジ色……こっち見てる気もしない? てかホワイティさん見られてない?」
ホワイティとオブジェクトを交互に見つめるコル(p3x007025)は心拍数を跳ね上げる。
「……笑い返さないと……( ・◡・*)にこ」
「( ・◡・*)にこ」
オブジェクトと交信するホワイティを見つめ、やっぱり圧が強いと唸るコル。
「気にはなるけれど、クエストをしっかりクリアしなくちゃ。それにしても、熊……荒い熊?
熊は確かに手強い獣だけれどもあのシャボン玉、ヤバイんだよね? さっき強酸とか聞こえたしね」
ゲームの世界は荒い熊がシャボン玉を吹いていたりと何でもありなのだろう。
ならば。
「そう、これはゲーム、アバターのファッション位は思いのままよね。なんだかあの熊たちには良く効く弱点がある気がするの」
コルは深々と被っていたマントを取り払う。
こんがり焼けた小麦色の肌が陽光に煌めき、白いバニー衣装に美しいコントラストを与えていた。
荒い熊たちはコルの褐色バニー姿に釘付けだ――!
「効果はバツグンね!」
コルの影から飛び出したのはミドリだ。
ホワイティに一瞬目配せし、タイミングを合わせ駆け出して行く。
「さぁ、騎士の役目を果たすよぉ!」
風を切るミドリの剣尖は荒い熊が攻撃に気付くより先に一体の間合いへと到達した。
ブラッディレッドの血飛沫は中空を舞い、地面へと鮮血を散らす。
「見た目は可愛いけれどそれによらず強いって話だし油断はできないね」
一番近い荒い熊に接敵したホワイティは陽光を宿す剣をアジュール・ブルーの空に掲げた。
剣先から解き放たれる光の渦に荒い熊が目元を抑えホワイティに突進する。
「かかってこい、だよぉ!」
ホワイティの叫びは戦場に響き渡った。皮膚を焼く攻撃。体当たりの衝撃に頭が揺れる。
彼女が掲げる大盾は誰かを守りたいという意思そのものだ。
普段は戦場の最前線に出る事が無い彼女がこのネクストでは誰かを守る盾になる。
身体を小刻みに震わせた荒い熊はミドリを向いた。
「あのシャボン玉が攻撃……見た目からどれくらいの威力なのかが想像できないのが少し怖いなあ」
口に咥えたシャボン玉を出す筒に息を吹き込み、泡をミドリへと飛ばす荒い熊。
後衛のミドリが一歩前にでた理由は自身の実力を試して見たかったという理由がある。
ミドリは体力が減れば減るほど、実力を発揮する『底力型』なのだ。
「痛てて……、うわ。結構痛いなこれ」
シャボン玉はミドリの皮膚を焼き、浸食していく。ヒリヒリと焼け付く痛みに眉を寄せるミドリ。
自分の体力は性格に画面へ表示されている。まだ引くには早いとミドリはシャボン玉を躱そうともせず剣を振った。
「まだ、まだ――!」
ミドリの生み出したチャンスにリナシタは地を蹴りつけ戦場を駆ける。彼女の指先に光が集まり弾けると、青く輝く光球が衛星のように回転した。
「さて、リナシタの役目はタンク。いわゆる壁役です」
指先に浮かべた青き『Orbit』が一番効果的に発揮される場所へ。
殺傷能力が無い只の光なれど、目の前に浮かぶ青い光源を払おうとするのは生き物としての摂理。
リナシタが指を天に翳せば、青輝は星の摩天楼を描くように広がり荒い熊を包む。
怒りに震える荒い熊は、その時点で狂気に侵されているのだ。
一斉にシャボン玉をリナシタに向ける荒い熊。
「リナシタは強いので痛みなどへっちゃらです」
少女の皮膚を焼く匂いが戦場に血霧を伴い漂う。皮膚の奥に突き刺さる痛みに意識が千切れそうになったけれど。それでも、リナシタは負けないと首を振った。
「……いえ、痛いのは痛いですよ。でも我慢できます。強いですから」
けれど、自分が痛みを負う事で仲間のダメージが減るのならば。リナシタは覚悟を持ってその身を危険に晒すのだろう。
「く、熊と。なんか変なオブジェクトだー! 変なオブジェクトは……下手に攻撃をしない方がいいかな?
とりあえず熊を攻撃して追い払おう! 生存第一で頑張るよ!」
シフルハンマは盾を掲げ、詠唱を唇に乗せる。
広がる魔方陣から解き放たれるパールアクアの旋律魔法。
荒い熊へと絡みつく魔法の歌声は内耳から精神攻撃を炸裂させた。
「ともかく、敵は荒いクマ『ラクーン』だ。……アライグマ、ラスカ」
義弘がオレンジ色のまあるいオブジェクトを一瞥すると首を横に振っていた。
「……おっとこれ以上は言わないほうがいいか」
五体居る敵の中からミドリが体力を削っている敵へと義弘は駆け抜ける。
「確実に一体ずつ仕留めていこう。攻撃を集中させるんだ」
「ええ。盾役の方が攻撃を引き付けている間に、一体ずつ集中攻撃して倒していきましょう」
ヴァレ家はミドリが相手取る荒い熊の背後に回り込んだ。
正面には義弘が陣取る。
「俺の攻撃はこの拳で殴り付ける他ねえからよ。右ストレートでぶっ飛ばす。熊だろうがなんだろうが関係ねぇ。この拳で退治させてもらうぜ」
荒い熊に唸りを上げる義弘の右拳が叩き込まれた。
「オレンジ色の物体が密集している箇所は逃げ道に出来ないでしょうから、極力、その方向に追い詰めて攻撃するといいかも知れませんね!」
金属糸で荒い熊をしばき倒すヴァレ家。鋭い切れ味の金属糸に荒い熊の毛がむしり取られていく。
ヴァレ家の攻撃に続けて桜陽炎は双剣の柄に力を込めた。
リナシタとホワイティが他の荒い熊を引きつけてくれている間に、至近距離から上段でクロスした斬撃が敵の胸部を切り裂く。分厚い皮を剥ぎ取り、内蔵にまで達した剣先に荒い熊が絶叫する。
「アンドリューさんとジェフさんも続いてください」
「分かった!」
「任せろ!」
アクロバティックなアンドリューの蹴技とジェフの精霊剣が荒い熊に傷を刻んだ。
治りの早いアンドリューはともかく、ジェフに刻まれた傷跡は多い。
ネクストではアバターである自分達とは違い、この世に元々存在している彼等はやり直すことなんて出来ないのだ。桜陽炎は用心深く彼等を守れるように意識を研ぎ澄ませる。
「――風と共に切り刻みましょう。花弁が如く」
薄付く桜の花びらが吹雪となって戦場を覆った。
それにしてもと桜陽炎は戦場を見渡す。現実世界の自分よりも遙かに高い目線に違和感を感じたのだ。
「これがあの人の視点ですか」
桜吹雪の中零れた言葉は青き空に消えて行く。
コルは荒い熊を蹴り飛ばし地面に転がした。
ストローを咥えたまま顔を上げる荒い熊に褐色バニー姿のコルのヒールが食い込む。
「弱いのはここかなー?(邪道) それともここかなー?(鬼道)」
グリグリと毛皮に食い込むヒールの堅さ。もとい、肉体的ダメージは凄まじい。
けれど、荒い熊にとってローアングルからの踏みつけバニーは至高のひとときだったに違いない。
「ところでこの周りの妙な物体は何なんだろうな。
……触れちゃいけねえ気がするから、マジで触らないようにするが」
義弘の言葉にシフルハンマもオレンジ色のまあるいオブジェクトに視線を向ける。
「謎のオブジェクトは……気になるけど、気にしない! 襲ってこないみたいだし、熊にバフを渡してるわけでもデバフばらまいてるわけでもないなら、攻撃するリソースを割いてまで攻撃する必要はないよね!」
二人の言葉に身体を左右に振るオブジェクト。
●
義弘とコルがサクラメントに飛ばされ、荒い熊も二体まで減っている。
「そこのタヌキども、こっちを見なさい!」
ヴァレ家の声が戦場に響き渡る。一斉に振り向く荒い熊。
「そしてストローを捨ててシャボン玉を吹くのを止めなさい! アンドリューの左側の初めてがどうなってもいいのですか!」
その言葉が放たれた瞬間。場の空気が変わった。
オレンジ色のまあるいオブジェクトが戦場を駆け抜け、アンドリューを捕まえたヴァレ家の周りをぐるりと取り囲む。
「ひっ!」
オブジェクトはお互いを見つめ合い審議している様子であった。
うち一体がフワリとヴァレ家に触れると彼女のアバターは何故か低身長童顔成人男子になり、オブジェクトは満足げに頷き元の位置に戻って行く。
「ちょ、ちょっとどういう事なのですか!!!」
この不思議な状況にアンドリューは困惑していた。
リナシタの『アクティブスキル』。固有名詞を登録しわすれていたのではない。良い名前が思い浮かばなかったのだ。
「ええ、リナシタは思慮深いので」
そう。彼女は深く考える性格だ。慎重に事を進めるのが性分なのだ。
ヒーラーが居ないということは体力も自分で回復せねばならない。
そのために再生を持っている自分が盾役として此処にたっているのだ。しかも強化外骨格Ωには相手の攻撃を跳ね返すスキルを付与している。完璧ではないか。
「そう、問題ありません。リナシタは強いので」
「流石だよぉ~! リナシタちゃん!」
「いいでしょう。リナシタを褒める権利を差し上げます」
ホワイティは頼もしいリナシタに笑顔を見せる。
ミドリはホワイティに目配せする。
「さあ、ここからが本番だよ!」
体力をギリギリまで削ったミドリが口の端を上げた。
「窮鼠猫を噛むという言葉があるくらいだ、追い込まれたあとのぼくの強さ、見せてあげるよ?」
エメラルドの一閃。
返して、ジェイドの二閃。
光のパーティクルを散らし、荒い熊の体力が削れて行く。
「――陽光の力、受けてみるといいよぉ!」
重なるは守護剣。陽光の力を宿した聖なる剣。ホワイティの刃だ。
叩き込まれた刃に荒い熊『ラクーン』は静かにその場へと倒れ込んだ。
●
その様子を見た残り一匹が少し寂しそうな顔で逃げて行く――
「しかしこの周りのオレンジ色は何なのでしょう? 普段より匹数も多いとのことだからこの町の守り神といったところなのでしょうか。だとしたら、お任せを。桜の舞、しかとご照覧あれ」
桜陽炎は美しき舞いを戦場だった広場に舞い散らせる。
ミドリは他に敵が居ないか警戒をしながら周囲を見渡した。
けれど、戦場に居るのは自分達とオレンジ色のまあるいオブジェクトだけ。
「もう大丈夫かな。それにしても、……圧がすごいね。ちょっと触ってみようかな。それでぼくになにかあったとしても……まあ、ここはゲームだし……ね?」
ミドリは戦場の隅に居るオブジェクトに近づき、恐る恐る触ってみる。
頭のオレンジの部分だ。よく見ると紅葉の葉っぱの様な気もしないでもない。
触り心地は柔らかな芝生の様で悪く無い。別の個体を触ってみると今度は猫の様な触り心地だ。
個体差があるらしい。総じて触り心地は良い。夢中になって色んな個体を比べてみる。
しばらくそうしていると突然サワザワとオブジェクトが左右に揺れだした。
『――幼児化……低身長童顔成人男子……幼児化……低身長童顔成人男子』
「ひぇっ!?」
一瞬だけ幼児化したミドリがオブジェクトから手を引くと、元の姿に戻る。
「な、何だったんだ」
リナシタは戦場の隅で見守っていたオレンジ色のまあるいオブジェクトに近寄ってみる。
触らないように気を付けて。じっと見上げてくる圧がじりりと近づいて来た。
茶色い小さな手が伸びてきてリナシタは首を傾げる。
「握手ですかね?」
きっと感謝の気持ちを伝えたいのだろう。素直に手を出したリナシタとちょんと触れあい。
満足したように左右に揺れた後、葉っぱの擦れる音を残しながら森の方へ走り去っていった。
「オブジェクト、消えちゃったねぇ。圧は強いけど、やさしそうな笑顔だった( ・◡・*)」
「優しそうな笑顔……」
しみじみとオブジェクトが去った方向を見つめるホワイティにシフルハンマが怪訝そうな顔をする。
「きっと、荒い熊とは何かあっただけで……普段は優しいオブジェクトなんだよぉ」
清らかなホワイティの瞳にシフルハンマは何処かオブジェクトを思い出していた。
「行ってしまいましたね。あれは一体、なんだったのでしょうか……」
元の航空海賊忍者少女の姿に戻ったヴァレ家は去って行ったオレンジ色のまあるいオブジェクトを見つめて居た。
「ひとまず、倒した荒い熊は丁重に葬ってあげましょう。次からは挑発する相手は選ぶのですよ……」
ヴァレ家が荒い熊を持ち上げると光の粒子になってサラサラと消えて行く。
「また何かあったら呼んでください。ええ、桜の精はいつも現界しているわけではありませんが―助けを求める声には、きっと駆けつけますから」
桜陽炎はアンドリューとジェフに微笑んだ。
「ありがとう! 兄ちゃんたち強いな! また今度稽古を付けてくれよ!」
「ふふ、ではまたの機会に」
元気の良いアンドリューへ約束をして。桜陽炎は落ちていた紅葉を拾い上げる。
「忘れ物ですかね」
吹いて来た風にゆっくりと紅葉を乗せてアジュール・ブルーの空に舞い上がっていくのを見つめた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
無事に荒い熊『ラクーン』からアンドリューを守る事が出来ました。
MVPは危うい橋を渡ったその度胸に。( ・◡・*)にこ。
お疲れ様でした!
GMコメント
もみじです。PPP100本目の依頼です。
アンドリューの初めてをアライグマに奪われました。悔しいです。
――おわかり頂けただろうか。
アンドリューはショタである。
筋肉ムキムキ両乳首の兄貴ではない。
身長170cm程あるが、れっきとしたショタである。
●目的
・『荒い熊』を追い払う
●ロケーション
オレンジ色のまあるい圧の強いオブジェクトが戦場の隅にみっしりと並んでいる以外は普通の森の広場です。戦闘が終わればそのオブジェクトは何処かへ消え去ります。
日中で視界も足場も良好。存分に戦えます。
●敵
『荒い熊』ラクーン×5
人を襲いそうもない優しく愛くるしい顔をしています。
しかし、騙されてはいけません。とても強い熊です。
得意げな顔でしゃぼんだまを吹いて攻撃してきます。
ある程度ダメージを与えれば、逃げて行きます。
●NPC
○アンドリュー・アームストロング
強い光を宿した空色の瞳。元気いっぱいの愛らしい少年です。
身長170cmほどのショタです。
剣の腕はそこそこ。バネの聞いたアクロバティックな戦いをします。
○ジェフ・ジョーンズ
アンドリューの保護者。冒険者上がりの商人。
腕っ節はそこそこ。精霊の加護を受けているらしい。
●ROOとは
練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline
※重要な備考
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
Tweet