シナリオ詳細
荒野に見える軍旗
オープニング
●
ざわざわと人々が騒めいている。
白百合の花を背に咲花・百合子(p3p001385)はその様子を見ていた。
「入門したばかりであれば仕方はあるまいか」
風に煽られた髪を払い、どよめきを前に腕を組む。
視線の先にいるのは、美少女道場に入門したばかりの――いわゆる新兵とでもいうべき者達だった。
鉄帝人ということもあり、基本的には身体は頑丈だが、それでも緒戦は一般人だ。
現状ではとても実戦には出せる様子ではない。
目の前に百合子が立っただけで――外見が目覚ましく美しい華であろうと――それだけで動揺しているようでは甘い。
(これは少し、山籠もりでもさせるべきであるな!)
たおやかに笑んで――そのことを新兵たちに告げた。
腑抜けた表情で互いを見る新兵たちを横目に、既に十全に鍛えた門下生たちがちょっぴりの同情を見せたのを、百合子は見逃さなかった。
「これが今回の新兵でありますか?」
エッダ・フロールリジ(p3p006270)はフロールリジ騎士団に新たに配属された兵士達を見渡して、ちらりと視線を彼らの先輩格の兵に向ける。
「――貴様ら」
スイッチを切り替えるように、エッダは兵士達を見渡して声を上げた。
「貴様らはこれより、フロールリジの一員である」
強気を尊び、弱きを助くことこそを是とするその在り方を、この者達には教え込まなくてはならぬ。
その為には――一度環境を改めねば。
この地では――故郷でぬくぬくするだけでは誇りを保てない。
騎士として、その矜持を示さねばならぬのだ。
「行くよー! 皆! 山籠もりだ!」
割と軽いノリの長谷部 朋子(p3p008321)と、その新兵たちも、そこへと歩みを進めている。
山に囲まれ、自然と共に暮らしてきた彼女にとっては、場所こそ違えど庭にも等しき山間での訓練は新兵への恒例行事である。
割と同じような装いをして続く新兵たちと共に、朋子は山籠もりへ赴くのだった。
割と蛮族感ある一行の足取りは軽く、せっせと進んでいく。
「ウオオオオッ!! プリン! プリンダ! プリンヲ作ルノダ!」
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)がグッてポーズを決める。
「うぉぉぉぉ!」
合わせるように筋肉ムッキムキのマッチョが雄叫びを上げる。
「マダマダ! プリン!」
再度ポーズを取ってみせれば、再びの雄叫びが響く。
「――ダメダ! プリン力ガ足リテイナイ! ユクゾ! 修行ダ!!」
うおぉぉぉって雄叫びを合わせて、彼らは走り出した。
「これが今回の新兵か……普段なら領内で訓練してもらうけど……」
レイリー=シュタイン(p3p007270)は少しだけ考えた様子を見せる。
ちらりと視線を向けた先にあるのは、1枚の羊皮紙。
そこには同じように鉄帝に領地を持つ数人のイレギュラーズで合同の新兵訓練をしないかという誘いだった。
「せっかくだし、行ってみようか」
許諾のサインをしながら、レイリーは立ち上がって新兵のもとへ指示を出しに歩き出した。
「ヴァリューシャ!」
マリア・レイシス(p3p006685)の声を聞いたヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)はそちらに顔を向けた。
「マリア、どうしましたの?」
「聞いたかい? これ」
差し出されたのは1枚の羊皮紙。
「新兵訓練、ですの?」
「そう! ちょうど最近、新兵を雇っただろう? 良かったら、行ってみないかい?
エッダも行ってるみたいだよ」
「そうですわね……行ってみましょうか」
2人はお互いの領地の新兵を連れて、訓練場まで進んでいく。
「なるほどねぇ、面白そうじゃないかい」
リズリー・クレイグ(p3p008130)は羊皮紙を片手に笑った。
「ちょうど新人どものケツを叩いてやらないといけないと思っていた所だし」
さらさらと許諾のサインを記して、リズリーは立ち上がる。
「ちょっくら行ってくるかね」
直ぐに歩き出して、新兵がいるであろう場所へと進んでいく。
「新兵訓練、か」
羊皮紙を見つめイグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)はぽつりと呟いた。
問題は、自分の領地は基本的に雇った傭兵が守りについていることだ。
(彼ラをオレがクンレンするのもおかしいし……あ、でも)
「そういえば、ソウイウ人がいたっけ」
イグナートの領地に住まう人々は基本的には『武力の低い者』だ。
そんな彼らの中から10人ほど、自分達で戦えるようになりたいという者が出ていた。
「セッカクだし、彼らを連れてイッテみよう」
そう決めるや否や、イグナートはさらさらとサインをし始めた。
●
――イレギュラーズの新兵たちが訓練場に姿を見せるのとほとんど同じころ、
訓練場である荒野から山を幾つも越えた先で、いくつもの天幕があった。
その中でも一番大きな物の中で、数人が机を囲んでいた。
「ヴァルラム卿、本当に越えられっか?」
鹿の獣種が問いかければ、ヴァルラムと呼ばれた茶褐色をした狼の獣種が鼻で笑った。
「本当に越えられるか分からぬところを越えるから、
敵は仰天するというもの。違うかね、エフィム殿?」
鹿の獣種――エフィムは、苦虫をすりつぶしたような顔を浮かべた。
「そりゃあ、そうだけどよ……無謀だろ」
「私が以前に読んだ文献によると、このルートの山間より険しき道を人が越えて敵の背後に出た例がいくつかある。
そう考えれば、我々にだってできるだろう」
そう言ったのはヴァルラムの隣にいる大鷲の飛行種だった。
「てめえは空飛べるからいいよなぁ! 俺達は崖を登ったり下りたりすんだぜ?
分かってんのか、イリダール」
「ふん、鹿なら越えてみせろ」
イリダールと呼ばれた大鷲の男が鼻で笑った。
「まぁ、そういがみ合うな。疲弊はしよう。だが、疲弊した先にいるのは新兵の束だ。
多少疲弊しても、ひよこ共に潰されると思うか?」
ヴァルラムの言葉に、エフィムも言葉を抑えた。
「ヴァルラム様、いつでも出発はできますよ」
そう言ったのは2mほどの兎の姿をした獣種だった。
「サーヴァか、よくやってくれた。それでは諸君――行くとしよう。
新兵を失えば鉄帝にとっても多少は痛手になろう」
ヴァルラムがにやりと笑って、机の上にある地図へナイフを突き立てた。
- 荒野に見える軍旗完了
- GM名春野紅葉
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年05月27日 22時05分
- 参加人数9/9人
- 相談10日
- 参加費---RC
参加者 : 9 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(9人)
リプレイ
●
新兵の訓練場に姿を見せた9人のイレギュラーズは直ぐに各々のやり方での修行に移っていた。
荒野に面した山間の一部、数日のうちに雨が降ったのか、ぬかるんだ窪地があった。
「敵を見つけてもすぐにはかかるな。相手が背を向けるまで何時間でも待て。
相手が油断した時こそが喰い時よ」
泥にまみれながら『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)はじっとしていた。
「……ゆくぞ、3、2、1、かかれ!」
その言葉と同時、百合子は跳躍。窪地から這い出る蛇のように挑みかかる。
それに続くように、連れて来た兵士達が遅れながら突撃していく。
「追撃は許さぬ、対応され始めればさっさと帰還するのだ」
対応され、押し返されるよりも前に、百合子達は踵を返して窪地の奥へと走り抜けた。
「百合子様、こんなふうにならなくてはならない理由は何ですか!」
追手の来ていないことを悟った1人の兵士が叫ぶ。
合わせるように、他にも2、3人がブーイングを始める。
「随分と活きのいい新兵共であるな!
だが、良い。貴君らのような威勢がいいだけのウジ虫を立派な美少女にするのが吾の役目である!
いいか美少女に大切な事! それは、勝利、そして勝利、最後に勝利である!
美しさとは容姿ではない! 勝利した者が定めるものこそが美である!
文句は一度でも人の首を縊ってから言うがよい!」
獰猛な笑みを零す百合子に、兵士達はぐぅ、と押し黙る。
鉄帝軍の新兵たちが突撃をしてくるのが見える。
その様子をしかと見ながら、『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は鎧を着ている新兵たちを見回した。
「白兵トツゲキしてくるアイテは出来るだけ2,3人で協力して攻撃を受けるようにするんだ!」
槍を、剣を片手に突撃してくる兵士達に対して、新兵が数人がかりで押しとどめるべく動いていく。
動きは鈍い。だがそれでも今はいい。
「ジョウハンシンだけで受けちゃダメだよ。身体ごと、全身で抑え込むように!」
挑みかかってくる兵士に対応する新兵の動きを見ながら、イグナートは声をかける。
彼らが守りを続ける中、イグナートは流星のように抑えている鉄帝軍兵のもとへ挑みかかり、撤退に追い込んでいく。
変わるように、鉄帝兵は銃を構えて弾丸を撃ち込んでいく。
対応するように、兵士達が盾を並べるようにして押し込んでいく。
その間を縫うように鉄帝兵の方へ走り抜け、彼らを退けたイグナートは再び新兵たちの方へ帰っていく。
「一度負けても生き残って今度は勝つ! オレの領地を守る兵士になるなら基本のスローガンだから覚えておいてね!」
「「「はい!」」」
元気よく、兵士達が声を上げた。
「ふむ!諸君!今から訓練を開始する!
君達はヴァリューシャの部隊相手に発見されないよう偵察し、
発見された場合可能な限り損害を抑え撤退し、情報を私の元へ持ち帰る訓練を行う!!」
近くにあった木陰に身を隠して『雷はただ前へ』マリア・レイシス(p3p006685)とその新兵たちは作戦前のミーティングを始めている。
「君らの仕事は、死力を尽くし味方へ情報を持ち帰ることだ!
情報の量と質も重要だが、正確さが最も重要であり、どんな情報も持ち帰れなければ意味がないことは重々留意して訓練に臨むように!」
そこまで言って、少しだけ目を閉じ、呼吸と共にスイッチを切り替えた。
「当然訓練中ヴァリューシャは君達に突撃を成功させようと全力で部隊を動かす!
双方健闘を祈る!」
「皆、この訓練で一人前になって、先輩達を見返してあげましょうね!」
神官服を身に包む新兵たちを見渡して『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は笑む。
「マリィの部隊が相手でも気を抜いては駄目。それじゃあ折角あちらが一緒にしてくれるのにあちらに失礼ですわ」
普段であれば隣接する領地、友人、あるいは友人の友人のような関係の者だっているかもしれない。
でも、全力でやるのが筋というものだ。
そんな風に視線を上げた所で、マリアの新兵たちがこちらへ向かってくるのが見えた。
「情報を持ち帰られては後が不利! 確実に殲滅しますわよ!」
掛かり気味に新兵たちは喊声を上げて突っ込んで行く。
「ほら、最初から全力疾走すると、敵に到達する前に疲れてしまいますわよ。最初は少し余裕を持って!」
それを叱咤するように、ヴァレーリヤは声をかけつつ、突撃を開始した。
(相変わらずこの集まりの意義はわからない)
所々で行なわれるイレギュラーズと新兵の訓練を眺めながら、『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)は理性的におもう。
軍人は国家の機構の一つ。歯車の一つであるべきだ。
それなのに、またもこうして彼らと共にこんなところまで来たのは、どうしたことだろう。
それは『軍人』として考えれば考えるほど、矛盾を極める。
幸いというべきか、兵士達へ見せる顔として冷厳であろうとすればそのような些末な迷いなど覗きようもない。
簡易に構築された陣地の中、エッダは集めなおした兵士を見渡した。
「勇者は要らない」
一つ、エッダは言葉に漏らした。
「前に進める臆病者でいい」
口答えをした兵士が走っているのには目もくれず、エッダは残る者達へと静かに言葉に変えていく。
「喜べ、貴様らの命は平等に軽い」
軍人として、静かに前を見た。
「――だが、貴様らが戦争の勝利条件だ」
真実を淡々と、言い聞かすように言い渡した。
「さぁ、みんな、張り切っていくよ!」
ネアンデルタールを担ぐようにして『蛮族令嬢』長谷部 朋子(p3p008321)は声を上げた。
基礎固め的に行われた体力づくりを熟した新兵たちの体はある程度できつつある。
今日からはより実戦に近づけた訓練の予定だった。
「ほら、あそこに重装備の奇兵がいるでしょ、あの人たちを敵軍だと思って。
守りを固めるあの騎兵を乗り越えなきゃ、私達は町へ入れない。
これを如何に崩して敗走させるかが勝敗の肝だよ!
その為には何が必要か」
新兵たちを見渡して。
「そうだね、そのためには敵の弱みを見抜く目と戦闘勘を養わなくちゃね!
手を変え品を変え、体力使い果たすまで突撃突撃突撃だー!!」
「「「おーーーー!!」」」
兵士達が声を上げて走り出す。それに負けじと朋子も走り出した。
「皆よ!今から来るのは民を蹂躙する敵だ!
突破を許したら、君らの大事なものが喪われると思え!」
相対する『守戦卓越』レイリー=シュタイン(p3p007270)は姿を見せ、徐々にスパートをかけ始めた朋子の部隊を見据えつつ声を上げた。
「盾を押し立てて守り切るんだ!」
雄叫びを上げて、騎兵隊が突っ込んでくる。激しい衝撃に、新兵が呻く声を聞いた。
レイリーは陣形の前衛に身を押し立てた。
ヴァイスドラッヘンホーンを押し立て、フリューゲルでネアンデルタールを抑え込む。
「泥臭くなろうと、血に塗れようと、真正面から受け止める――」
自らを奮い立たせるように雄叫びを上げて、押し返す。
敵が一度下がり、もう一度攻めてくる。
それを幾度となく繰り返す。
「さぁ、声張りな!」
ベアヴォロスを地面へ突き立て、堂々と立つ『厳冬の獣』リズリー・クレイグ(p3p008130)は腹の底から声を上げる。
それに応じるように、新兵どもが声を張り上げた。
「ウオー!」とも「ウガー!」ともつかぬ全力の喊声と共に、兵士達が疎らに突撃を開始する。
「よし、それでいいよ! 多人数で思いっ切り叫べば敵への圧になるし、何よりテメエのビビってるアタマを麻痺させられんのさ!
新兵どもが綺麗に突撃カマせるなんざアタシも思っちゃいないからね。
自分が出来る全力で声を上げながら突っ込みな!」
続けるように、リズリーは自ら兵士達の前に立つ。
「さぁ、もう一度だよ! 大事なのはやられた時に即座にやり返せる度胸。
0:1で終わらせないことが勝利への近道さ」
兵士達が雄叫びを上げる。
「新人といえども、心は既にマッチョの一員」
なんかこう、グッ、ってポーズ決めて『甘い筋肉』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)が立っている。
両手を腰に置いて胸をグッて開いて、プリンはそのマッチョを見せつけ。
「故に、それにふさわしいだけのプリンを得るため……ひたすらに応援練習である!
より良い声を出せるものこそより良いマッチョだ! 復唱――!」
動かし息を吸って、声を張り上げる。
「フレーッ! フレーッ! プ☆リ☆ン!」
「「「フレーッ! フレーッ! プ☆リ☆ン!」」」
「マッチョだマッチョだ! プ☆リ☆ン!」
「「「マッチョだマッチョだ! プ☆リ☆ン!」
すごいキレッキレの動きでマッチョ達が応援団の練習を開始する。
「マダマダァ! モット上ノプリンヲ目指スノダ!」
自らのオーラを噴出させて、マッチョ達は荒野に歌う。
背中を押さんと思いを込めて、応援歌よいざ全域にまで届けとばかりに歌い続ける。
●
道ならぬ道を突っ走り、転げ落ちながらもなお、ソレらは疎らに進み続ける。
ソレらの姿をマリアの兵士が視認できたのは、まさに偶然だったと言えよう。
「これは偶然にしては質が悪い部類だね……。
諸君落ち着け! 訓練を思い出せ! 私達の任務は偵察だ。
君は他の部隊にこの情報を伝えに行ってくれ」
その一人がどこかへ走り出すのを見てから、マリアは他の者に視線を向けた。
「それ以外の者は正確な敵の布陣と数を探る為、偵察を行う! 当然私も出撃する。
訓練を思い出せ、くれぐれも深追いはしてはいけない」
草木を被せペイントでカモフラージュしながら改めて釘を刺して走り出した。
「マッチョ隊、チュウゥモォーク!」
スピーカーボムを用いて、マッチョ達の注目を浴びて、一つ喉の調子を整える。
「特二良イ応援ヲシタマッチョハ……」
マッチョ達が次に紡がれる言葉を待つようにごくりと固唾を飲んだ。
「──一年間、特製プロテイン☆プリン食ベ放題ダッ!」
――刹那の沈黙、そして。
「「「うおおおおおお!」」」」
地響きが鳴るかのような歓声が響き渡る。
山間を裂くようにして姿を見せたシルヴァンス兵の中央、茶褐色の獣種はその眼光を鋭く細めていた。
「サーヴァ、お前は退路を確保しておけ」
「承知しました……」
兎の獣種が下がっていくのを見て、ヴァルラムは開けた荒野の方を見た。
「ひよこ狩りってだけじゃあ、終わりそうに無さそうだな?
おい、各将に伝えろ。どうやら、ひよこがちょっぴりばかし成鳥しつつあるのがいる見てえだってな。
――まぁ、でも、作戦は変わらない。好きにしろとな」
近くにいた私兵へ伝令を命じながら、マシンガンを何時でも打てるように準備を始める。
敵が動く。銃弾をぶちまけながらこちらへ近づいてくる敵軍の足並みはそろっている。
「オレたちは前線をイジする!
アシさえ止めてやればウチの他のおっかない連中が襲い掛かってくれるぞ!」
こちらを新兵だと判断しているからか、敵の攻撃はかなり重い。
そのうちの1人が崩れそうになっているのを見て、イグナートは跳んだ。
拳を握ってその兵士を横から殴り倒す。
エッダは敵の動きを予測して部隊を押し上げていく。
抜群の戦略センスを以って導き出された予測は殆ど未来予知の如く敵の軍勢を押しとどめようと試みる。
「構え、押し、留めろ」
兵士達が向かってくる敵軍に対して黙って守りを固めながら押し込んでいく。
その空を、幾つもの影が飛んでいる。
それらを無視して、エッダは敵軍を見据え続けた。
敵の中央あたり、茶色の狼と眼があった気がした。
ヴァレーリヤは向かってくる敵軍を遠巻きに見ていた。
(相手も戦闘を避けたがっていたり……なんて話はありませんわよね)
前へ進んでくる敵軍を見て、静かにおもう。
(少しでも多く、無事に故郷に帰してあげないと)
兵士達の方へちらりと視線を向けてから、深呼吸する。
「貴方達にも、主の御加護があらんことを」
祈りを捧げ、メイスを構えた。聖句が響き、火が灯る。
一斉に噴いた紅蓮の炎が放物線を描いて敵軍に襲い掛かり、数人が直撃を受けた様子があった。
「思いがけず本番がやってきたけど、今こそ訓練の成果を見せる時!
役割は覚えてるね? 突撃陣形を取って、味方の防衛部隊が足止めしてくれた隙に敵軍を蹴散らすんだ!」
魔法を受けて微かに崩れた箇所めがけ、朋子は真っすぐに駆け抜けた。
横槍を突きこむように突撃してから、押し切られたあたりで一度下がる。
「ほらほらほら、一瞬たりとも止まっちゃダメダメ! 動き続けて敵の弱みを探し続けて、見つけたら徹底的に突きまくるんだ!
「私はレイリー=シュタイン! 我が軍に怯える臆病者しかいないのか!」
レイリーは敵軍の中から姿を見せて横に広がろうとする一団を見据え、声を張り上げた。
大げさに相葉を奮い立たせ、武器と盾をわざとかち鳴らせば、抜け出した騎兵達がこちらに向かってくる。
幾つもの弾丸を撃ち込みながら、敵軍が接近してくる。
「ひよこ共が良く言うじゃねえか!」
鹿の獣種――エフィムが戦闘で声を上げながら突っ込んでくる。
百合子は静かに息を潜めている。
「アレを見ろ」
空を舞い、うろついている敵兵がいる。
「アレは吾等と同じく弱った所を叩こうと動く奴らよ。
吾等はこれより、アレを叩く。
――喰いやすい相手を選んでやっておるのだ、僥倖に咽び十全に動け」
獰猛に笑って背後へ回り込み、機を窺って息を潜める。
「山越えたその足で襲撃とはずいぶん舐めた真似してくれるじゃないか。許せないだろ? なあ、新兵共」
情報を聞いたリズリーは新兵へ小声で声をかけた。
「ヘラヘラ笑ってピクニックに来た野郎共の喉笛食いちぎってやりたいだろ?」
黙って、それでも確かに頷いた新兵たちに笑みを浮かべて。
「なら、アタシに着いてきな」
集結する敵を見据え、マリアは跳んだ。
牽制とばかりに紅の輝きを走らせた後、草木に隠れた所で兵士がいるのを見た。
「……エッダ君はこのまま進むのか。了解。
こちらで分かった情報を改めて伝えてほしい」
その背中、敵兵の怒号と混乱を制するような号令が響き渡るのを聞いた。
「俺の応援を聞けぇ!」
マッチョの1人が叫ぶように声を張り上げた。
「私の応援も負けていないぞッ!」
続けるように1人が言って、続けるように10人の合唱が響き渡る。
「「「マッチョ! 筋肉! マッチョ! 筋肉!」」」
戦場とならんとしている荒野に、マッチョ達の応援歌が野太く響き渡る。
「突き崩せ! 腕は良いが押し切れない相手ではないぞ!」
ヴァルラムが怒号に近い指示を与えて兵士を押し出してくる。
銃弾が撃ち込まれ、空から降りてきた敵兵の攻撃が降り注ぐ。
「ムリせず、自分がやれることをやるんだ!」
抑え込むべく死力を尽くし、押し返さんと前に出る兵士達を見るイグナートの視線は、敵軍の奥を向いている。
10の兵士に囲まれた大将首、取るのは至難のように見えた。
敵軍の中へ紅蓮の炎が降り注いでいく。
「おー、相変わらずようく燃やすでありますなあ。ヴィーシャは。
後で酒でも持ってってやるか」
その炎がどこから来たのか理解して、エッダは自然と口に漏らし。
「勇気を奮うな。耐え続けろ」
攻めえ掛からんとする兵士を押しとどめ、敵の押し込みに揉まれながら耐え続けた。
「さぁ腹から声を張り上げろ! 武器を振り回せ! 敵を殺さないと味方が死ぬよ!」
遮二無二突っ込んで行く新兵たちの先頭で、朋子は自分の居場所を示すように示すように突き崩していく。
反撃の銃弾が幾つも撃ち込まれ、数人が傷を負う。
押し込む突き崩すべく突いた後に続く波のように友軍が突撃してくる。
「ぶち抜け!!」
エフィムというらしき獣種が突撃を繰り返してくる。
レイリーは自らの存在を示すようにして先頭に奮い立つや、向かってくる敵と真正面からぶつかり合った。
「絶対にここは通さない! みんなの力で押し止めよう!」
軽装の騎兵の突破力を押し殺す重装騎兵の防御力が発揮されているのは、朋子との訓練の賜物であろう。
レイリーに合わせるように、兵士達が声を上げた。
「行くぞ――」
刹那、百合子は飛翔した。
兵士達が雄叫びを上げながらついてくる。
「――なに!?」
真っ赤に熱を帯びた剣を握る大鷲の飛行種が目を見開いた。
「――獲った」
拳を叩き込んで、そいつを地上へと叩き落とす。
ほぼ同じように、新兵たちによる奇襲気味の強襲により敵兵が落ちていく。
リズリーは黙して息を潜めていた。
空、落下する飛行種の一団を見て。
「さぁ――行くよ。細かいとこはアタシに任せて、心の準備をしておきな」
落下してきた敵兵めがけ、リズリーと新兵たちが突貫する。
綺麗に入った追撃を受けて、敵兵が倒れていく。
「ぐぅ! この連携力の高さ、統一の取らなさ……まさか、お前達は――」
大鷲の飛行種が目を見開いていた。
●
「新兵の中にイレギュラーズが混じってるなんて聞いてなかったな」
「そりゃあ俺もだ……退いた方がいいな」
降り立つと共に文句を口に出したイリダールに合わせてヴァルラムが頷いた。
「運が悪かったってとこだ。追撃されちゃあ敵わねえ」
退路のサーヴァは健在。退くこと自体はできる。
それでも険阻なる山岳を越えるのだ、追撃を受ければその損害は計り知れないだろう。
「銅鑼を鳴らせ。撤退だ。エフィムには悪いが新兵相手にこれ以上の損害はなっちゃいない」
――銅鑼が鳴り響く。
敵軍が下がっていき、取り残されかけていたエフィム隊も撤退を開始した。
「さぁ、鬨の声をあげよう!」
朋子は声を上げてネアンデルタールを天に掲げた。
同じように兵士達が声を上げた。
ほぼ同じタイミングで、レイリーも声を上げた。
「……終わったか」
エッダは誰にも気づかれることなくひとまず一息をついた。
「――さて、新兵諸君。死ぬ思いをして敵を受け止めた気分はどうだ?」
兵士達の中には明らかに疲弊している者、必死にそれを隠そうとするものなど様々だ。
「――華々しいいくさぶりなどどこにもないが、何。すぐ慣れるさ」
各々の顔で、各々の眼でエッダを見る兵士達へ、エッダは静かにそう言って静かに目を閉じた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
なお、戦闘終了後、この新兵訓練場では奇襲対応用の部隊が駐屯するようになった模様です。
GMコメント
春野紅葉です。大変お待たせいたしました。
それでは、新兵訓練&遭遇戦と参りましょう。
早速詳細をば。
●オーダー
【1】新兵訓練を行う。
【2】強襲軍を退ける。
●友軍データ
皆様は各領地などから10人の新兵を引き連れてきています。
これらの兵科はお任せします。
ただし、各個人で1兵科で統一しておいた方がよろしいでしょう。
●フェイズ
当シナリオは2フェーズに分かれます。
1フェーズ目は新兵訓練、2フェーズ目で強襲軍を退ける実戦タイムが始まります。
【新兵訓練フェーズ】
文字通りの新兵訓練です。
どんなことをやっても構いません。
とはいえ指針は必要なので、下記のような行動を行えます。
下記以外の事も可能です。その場合は【5】を選んでください。
その訓練でどのようなことをやるのかを提示してください。(例:延々鉄帝兵の攻撃を受け続ける、山籠もりする、など)
【1】ゲリラ訓練
領兵と共に遊撃要員としての訓練を行います。
森林や荒野などで団体行動を行い、迅速に標的を倒す訓練を行います。
【2】突撃訓練
領兵と一緒に標的に向かって突撃する訓練です。
主体的な攻撃運用の訓練となります。
【3】陣形訓練
領兵と共に突っ込んでくる鉄帝兵の攻撃を防ぎ、包囲する訓練を行います。
主力の防衛陣形訓練になります。
【4】偵察訓練
哨戒、偵察などを行う訓練です。
【5】その他
上記以外に行いたい方法がある場合はこちらを選んでください。
【強襲軍遭遇戦フェーズ】
荒野に面した山間を踏破したシルヴァンス兵が60人ほど姿を見せます。
数では皆様の方が圧倒しており、かつ敵軍は慣れない山間部を踏破し疲弊しています。
『慣れない山間部を踏破して新兵訓練の場に姿を見せた』のですから、相応には熟練と考えられます。
足し引きしておおよそ均衡した戦力状況となります。
なお状況上、新たに陣地を組む暇はありません。
陣地構築する場合、その分だけ敵に休む時間を与えてしまいます。おすすめはしません。
●エネミーデータ
・『褐色の』ヴァルラム
茶褐色の狼の獣種です。今回の大将です。
悪路の山間を踏破し、新兵を叩いて自分たちの優位に立とうと考えていました。
統率力に長けた智将タイプの狡猾な指揮官です。
武器は鉄帝軍から鹵獲したと思われるマシンガンです。
・ヴァルラム私兵×10
全員が狼の獣種。ヴァルラム直下、敵軍の中央でヴァルラムを守る新鋭部隊です。
パワードスーツに身を包み、銃器とナイフで武装しています。
ヴァルラムを守ることを優先します。
・ヴァルラム軍兵×20
ヴァルラム指揮下の混成獣種部隊です。
鉄帝軍から鹵獲したシールドと銃器を駆使して本隊として前進してきます。
・エフィム
鹿の獣種です。前衛部隊を率いる指揮官です。
鉄帝から鹵獲したライフルを持っています。
皆さんの側面に回り込むような動きを行おうと試みます。
・エフィラム兵×10
鹿の獣種で構成された騎兵隊です。
鉄帝軍から鹵獲したライフルを持っています。
・イリダール
遊撃部隊の大将です。
大鷲の飛行種。戦場を俯瞰し、弱った場所を攻撃します。
・イリダール兵×10
エフィムが皆さんの足止めを目的とするのに対して、
新兵狩りを行おうとする主力です。弱った場所へと突撃してきます。
穂先が熱を持ったり、冷気を纏ったりする化学的な剣、槍などを持っています。
・サーヴァ
敵の後衛部隊を司っています。2mぐらいある兎の獣種です。
戦いが始まった後、退路を確保するため本隊の後ろから警戒しています。
パワードスーツに身を包み、ごつい手甲を嵌めています。
・サーヴァ兵×10
パワードスーツに身を包んだ兎の獣種部隊です。
基本的に退路確保に従事しています。
●特殊ルール
【統率不発】
敵軍の攻撃を受けた際などに兵士達は上記の状態異常を受ける場合があります。
それは本物の実戦が思ったよりも恐ろしかったり、迫力に気圧されたり、
あるいは逆に功を立てたいと意気込みすぎていたり、様々でしょう。
この状態では兵士は動いてくれません。
1Tを消費し、激励を飛ばす必要があります。
【統制】【統率】【戦略眼】など、それっぽい非戦があるとより効果的です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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