PandoraPartyProject

シナリオ詳細

嘘みたいな本当の話と宝探し

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 嘘みたいな本当の話をしよう。
 無辜なる混沌(フーリッシュ・ケイオス)には異世界から召喚されしイレギュラーズであり、その強制召喚を打ち破って自力の帰還を成し遂げようとする者たちの勢力が存在している。これを各勢力は中立国家のひとつとして認知し、探求都市国家アデプト――通称『練達』と呼んでいる。
 この練達にて、最近とあるフルダイブ型VRMMOが開発された。それがRapid Origin Online、略してR.O.Oだ。アバターと呼ばれる自身の姿や声を設定し、混沌と似て非なる『ネクスト』という世界で冒険することになる。しかし本来なら混沌世界の『法則』を研究すべく造られたこの仮想環境で、研究者たちを困らせるような事態が発生しているのだった。
 すなわち――ログインしたプレイヤーが帰って来られず、ゲーム内へ閉じ込められているということ。
 彼らの安否は不明であるが、混沌では帰って来ず行方不明事件として取り上げられていたりもする。早速R.O.Oへとログインしたプレイヤーたちは、その幾人かが『救出対象』となっているクエストも発見しているだろう。
 ログインしたままログアウトできない、嘘みたいな本当の話。囚われの彼らを救出すべく、イレギュラーズたちは随時R.O.Oの世界へとログインしている最中なのであった。



 幻想のギルドに設置されたサクラメント(ログイン・ポイント)でログインしたあなたは目を開いた。ローレットではない。ローレットはこのネクストという世界に存在しないのだと言う。それがなぜかはわからない。まあ、近いものがあるのならば不便はしないだろう。
 各地の拠点となるような場所などでサクラメントは用意されており、ログインするとそこから始まることになる。ログアウトはクエスト受注中以外――つまり死亡時とクエスト攻略後――でないとできないらしいが、場所を問うことはない。次のログインが近郊のサクラメントに設定されるそうだ。
 ひとまず、現状に置いてローレットに属するイレギュラーズはログイン/ログアウトが可能である。閉じ込められた、という話は今のところないようだ。
 サクラメントの設置された拠点(ギルド)から出ると、清涼な風があなたの肌をくすぐった。そして賑やかな声や、ついでに美味しそうな匂いも一緒に運んでくる。
 現実なのかと疑ってしまう程に世界は精巧で、実に本物らしい。試しにその辺に生えていた雑草をぷちっと千切ってみたが、葉の質感も千切った感覚も現実のままだ。
 それでもここは現実世界でなく仮想世界。現実とは異なる姿――人によっては同じ姿――を持った電脳空間である。

 さて、あなたはクエストを受注するために掲示板を確認した。簡単な採取クエストから危険なモンスター退治まで用意されているそれは現実世界のローレットとどこか親近感の湧くものだろう。それらを眺めていたあなたは1枚の依頼書へ目を留めた。
 魔法具の確保依頼。海洋……ではなく航海(セイラー)の島に眠る魔法具をギルドが保護したいという内容である。差し詰め『宝さがし』といったところか。
 航海は造船と航海の技術に優れており、貿易で莫大な利益を上げている国である。ちなみに聞き及んだことのある有名人も居れば、今は亡き人物と同名の存在も確認されているのはこの国に限ったことではない。
 R.O.Oは数値的なところも滅茶苦茶で、結構平気でアバターが死ぬ。多分その内イレギュラーズの中でも1度は死んだと言う者ばかりになるんじゃないかと思う。現実では死なないから気にしないか、だからこそ死を回避したいかは人によるのだろうが――全くの犠牲無しでクエストクリアするのは難しいと、そう思わせる内容であった。

GMコメント

●成功条件
 魔法具『サクラメント・レコーダー』の回収

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 不測の事態に気を付けてください。

●エネミー
ボスエネミー『アングリーモンキー』
 怒っているように顔を真っ赤にした大型のサルです。怒っているわけではないようです。見た目は結構可愛いヤツです。
 ハングリーモンキーを取りまとめる親玉で、魔法具を祭具として崇めています。彼を倒すことで祭具を手に入れられるようになります。デスカウント覚悟で挑んだ方が良いですが、頑張れば全員生存の可能性もあるでしょう。
 彼は非常に手数に優れており、また攻撃力は危険です。手先が器用なので、その辺にあるものを武器として使用する可能性があります。

エネミー『ハングリーモンキー』
 お腹を空かせたように腹へ手を当てている中型のサルです。腹が空いていても空いていなくても腹へ手を当てています。
 かなりの頭数が群れており、アングリーモンキ―に従っています。彼らは何としても祭具、ひいてはアングリーモンキ―を守ろうとしますし、侵入者を殺さんとかかって来ます。デスカウント覚悟で挑んだ方が良いですが、頑張れば全員生存の可能性もあるでしょう。
 彼らは数は力と言わんばかりに物量で殴り掛かってきます。また、それなりに俊敏です。あんまり頭は良くなさそうです。


危険エネミー『???』
 正体不明ですが、この無人島が無人島である理由です。四つ足の獣という噂がありますが、あくまで噂なので真偽は定かでありません。
 こいつに遭遇したら全力で【生きることを優先】してください。容易に死にます。ヤベーやつです。

●ロケーション
 混沌における海洋王国と同等の国、ネクストの『航海』が舞台です。
 とある島には今回の回収対象である魔法具があるのだという情報が仕入れられています。

 島は無人島であり、皆さんは航海の技術によってそこまで送り届けられます。
 ボスエネミーが魔法具を守っているとされていますが、その場所を見つけるためにはプレイングや非戦スキルなどを駆使する必要があるでしょう。

 周辺を砂浜に囲われた無人島は、内陸へ入るほどジャングルの様相を呈しています。足場は悪く、視界も悪く。このどこかに魔法具があるそうです。

●サクラメント・レコーダー
 魔法具。権限がないプレイヤーは使用することができません。
 拠点に蓄積されたメモリーを吸収・再現するマジックアイテムです。

※メタに解説すると『壊れたサクラメント(ログイン・ポイント)を復旧できるアイテム』です。上記説明にある権限がないプレイヤーとは皆さんのような一般プレイヤーを指しています。


●ご挨拶
 愁と申します。R.O.O開始しましたね!
 今回は海洋と打ちかけて航海と書き直す作業がとても、非常に、多かったです。手癖で書いてしまう。
 というわけで今回は海洋じゃなくて航海、航海です! 航海での宝探し、存分にお楽しみくださいね!

※重要な備考

 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

  • 嘘みたいな本当の話と宝探し完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年05月29日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

グレイシア(p3x000111)
世界の意思の代行者
Siki(p3x000229)
また、いつか
アイ(p3x000277)
屋上の約束
ヨハンナ(p3x000394)
アガットの赤を求め
エクシル(p3x000649)
ツナ缶海賊団見習い
ミーナ・シルバー(p3x005003)
死神の過去
ジョージ(p3x007332)
よう(´・ω・`)こそ
ゴルド(p3x007874)
しょしんしゃ

リプレイ


 魔法具『サクラメント・レコーダー』。無人島にあると言うそのマジックアイテムは、拠点に蓄積されたメモリーを吸収・再現する――プレイヤー視点で言い換えるなら、壊れたサクラメント(ログインポイント)のデータを読み取り、復旧させる力を持つと言う。
「成程……これを探せばいいんだネ?」
「わーい宝探しぃ! ……って言っても、ちょっと違うかぁ」
 『R.O.O tester?』アイ(p3x000277)は気合十分にクエスト詳細のウィンドウを閉じる。こういう時こそ自分のスキルが輝く時なのだ。
 逆にウィンドウを開いた『しょしんしゃ』ゴルド(p3x007874)は小さく唸る。場所はここ――クエスト開始用にサクラメントが設置されていたから実感は湧きにくいかもしれないが――ネクストの『航海』にある無人島のひとつ。魔法具を守るモンスターの他にも、クエスト上では存在のみ示唆される危険モンスターがいるようだ。
(集まった仲間が心強いから、きっと大丈夫だと思うけど)
 それでも油断は禁物だ、とゴルドは気を引き締めて指先を立てた。ぽう、と灯るトーチの光を導に、いざ。『世界の意思の代行者』グレイシア(p3x000111)をはじめとした仲間たちも光についていく。
(無人島で宝探し、といってもその実……やる事はモンスターを狩ってのアイテムドロップか)
 見つけるまでの過程は確かに宝探しかもしれないが、前者の表現で思い浮かべるのは遺跡に用意された仕掛けを切り抜けるとか、知恵を駆使して謎を解くだとか――そういうことかもしれない。
 しかしそうでないから簡単、というわけでもないのがこのクエストだ。出会ったら全力で逃げろと書かれているモンスターが居る。ここにいるメンバーは魔法具を持つモンスターを対処するだけでなく、その危険モンスターに対しても注意を払わなければならない。可能な限り死者は出したくないものだ。
「死んでもリアルで死ぬことは無いとはいえ、明確に戦力ダウンになるのは……やはりいただけない」
「ああ。それに……『死を覚悟せよ』と言われると、それを乗り越えていきたいと思うのは性だろうな」
 空も海も自由に行き来する生物、ジェットペンギンの『よう(´・ω・`)こそ』ジョージ(p3x007332)。彼だけでなく、他のメンバーもこれが初めてか、数回目か。いずれもR.O.Oの世界に触れ始めたばかりだろう。

 故に――今この時点で。あまり、この世界の『死』に慣れたくはない。

「さあ、探すか」
 ジョージはアクセスファンタズムでペンギンを呼び出す。そして咥えられるような立て札を持ち出した。
「俺たちの前を先行してくれ。何かしら気配や痕跡、敵を見つけたらこれで合図するんだ」
 ジョージから立て札を受け取ったペンギンは頷き、ぽてぽてと彼らの前を歩き出す。『青の罪火』Siki(p3x000229)もまた捜索を行うため、ふわりと浮き上がった。姿を変えては見つかりやすいだろうから、今は人間形態のままの方がやりやすい。
「厄介ではあるが、宝探しみてぇで面白いことは確かだな」
 『ノスフェラトゥ』ヨハンナ(p3x000394)は蝙蝠を召喚し、空へ放す。一定距離を保って周囲を飛行させ、視界の補助とするのだ。
(やべぇ敵と遭遇しちまったら全力で逃げて……先に発見した場合は、遭遇を避けるべく動くか)
 蝙蝠が小回りをきかせ、ジャングルの中を飛び回る。危険エネミーを早期発見できると良いのだが。
 とはいえ、今のところはそれらしき気配もなく。かと言って件の魔法具を崇めているらしいモンスターも見かけない。
 故に今だからこそ、『死神の過去』ミーナ・シルバー(p3x005003)はチェーンソーを手にしていた。れっきとした両手武器である。しかし今持っているのは木を伐採するとか、無害な動物オブジェクトで切れ味を試してみようとか、そういうことではない。
(いやだってほら、動力源あるし)
 本来そういう使い方じゃないし、そも動力源をこの方法で使うかもわからないけれど。
(ここは現実じゃないんだから――もしかしたら飛べるかもしれねぇじゃん?)
 チェーンソーを寝かせ、ガイドバーへ足をつけるミーナ。思い切って飛び乗ってみれば、媒体飛行の能力によってチェーンソーはゆっくりと浮いた。
「お……おお……!!」
 飛べた。ミーナもチェーンソーも地面に接していない瞬間である。だが飛ぶことに全力を注ぐことになりそうだし、少なくとも戦闘では良い的だろう。
 いそいそと降りるミーナの傍ら、『ツナ缶海賊団見習い』エクシル(p3x000649)はクエスト詳細ウィンドウを開いて読み返す。
 サクラメントとは拠点ポイントとも、ログイン・ポイントとも呼ばれる地点である。現実(混沌)ならば空中神殿から各国の拠点へ移動する、あの仕組みが近いだろうか。
 それを修理できるアイテムということは、これを回収し使用してもらう――一般プレイヤーは使えないそうだから、使用者は上位権限を持つ者になるだろう――ことで行動範囲を広げられる、ということでもあるのだろう。
「よしっ、依頼成功目指してがんばろうー!」
 えいえいおー、と拳を突き上げるエクシル。その足元に伸びていたつる植物に足を取られるも、グレイシアが腕を引く。
「大丈夫か? 足場も視界も悪いな」
 木々に囲まれた場所だ。死角も多い。エクシルは礼を言い、自分の有利な場所へと木に登った。キャットウォークの力があれば、地面を行くより枝や綱渡りできるような蔦上の方が安全である。
 エクシルが上へ登ったことを見届けたグレイシアは、生命の鼓動を探すべく意識を集中させる。近くに感じるのは仲間のもの。探すべきはもっと、もっと遠くへ。
「……あちらにいくつか、感じるな」
 目を開けたグレイシアは、今しがた感じたものを仲間へ知らせた。そこそこに強そうだが、自分たちで対処できなくはないだろう。少なくとも『接敵時に撤退推奨』とまで言われるほどではない。
「よし、そちらへ向かおう」
 ジョージはひとつ頷き、先を歩いていたペンギンへ方向転換を指示する。アイは彼らについていきながら、周囲を見回しつつ魔眼を発動した。彼女の力であれば痕跡を見つけやすく、そしてそれが何であるか調べることもできるだろう。
「見落としが無いようにしないとネ!」
 アイと共に周囲を探っていたジョージは折れた枝を見つけ、ふわふわと飛んでいく。周囲を見渡すと、他にも同じような枝があるようだ。まるで――何かが無理やりに通って行ったかのような。
 さらに辺りを窺うと、樹木に爪痕のようなものも見られた。出来たばかりというわけではなさそうだが、恐らくはマーキングだろう。
(ここは既に、危険エネミーのテリトリー……いや、この島全部がそうなのかもしれないな)
 ジョージは自らの眷属へ視線を向ける。痕跡があるたびに立札を咥えて体を揺らす眷属は、まだ敵を見つけたことはないが――最後まで気を引き締めて行かなければ。
「にしたって、変な猿もいたもんだなぁ」
 ミーナは思わずと呟く。海洋にはいなかったと一瞬思うが、もしかしたらミーナが知らないだけでいたのかもしれない。というか今もいるのかもしれない。まあ、現実で会ったところで同じ生態とも限らないだろう。
 何はともあれ、祭具さえ手にすればクリアである。そのためにはボスエネミーらしい『アングリーモンキー』を倒す必要があるが。
「この辺りは滑りやすいな……」
 ヨハンナは頑丈なブーツ下の感触を確かめる。この場で戦闘になったら不利なのは自身らだろう。できればこの区域は抜けてしまいたいところだ。
 顔を上げたヨハンナは蝙蝠の目も借りながら資格を減らして進む。それを視線で追ったエクシルはひょいと隣の枝へ飛び乗った。皆よりほんの少し高い視線でも、これほどの足場があるなら難はない。
(あまり遠くまでは見れないけれど、動くものなら)
 海賊猫の目は動体視力は判別力に重きを置いている。故に先ほどから飛び回る仲間の蝙蝠へも目がいくのだが、他に目に留まるものと言えば風に揺れる木の葉のみ。ゲームとは思えぬグラフィックである。
 最初に異変に気付いたのは、生命の鼓動を感知するグレイシアだった。大雑把ではあるものの、これまでとは比にならない生命力の源を感じる。猿たちがいるのとはやや離れているが、このまま真っすぐ向かえば途中で鉢合わせかねない。
(こちらにはまだ、気づいていない……か?)
 それなりに距離があるからだろうか。ならばまだ回避できるはずだ。グレイシアの言葉に一同は若干迂回しながら進んでいく。
「安全に情報が取れるなら取っておきたいケド……」
「確実な安全は、保障されないだろうな」
 だよネ、とアイはジョージの言葉に肩を竦める。遭遇しただけで逃げ出さなければならない相手だ、たとえ遠くから観察していたとしても何が起こるかわからない。
(いざとなったら、隠れてやり過ごすか……済まないが、眷属に囮になってもらうか)
 ジョージのそんな思いを読み取ったのか、先行するペンギンがぷるぷると小さく身を震わせた。



 何はともあれ一同は危険エネミーとの遭遇を避け、順調に進んだ。暫しするといよいよ、猿エネミーたちの姿も見えてくる。
「ちょっと皆、一瞬離れてろ。一気に足止めする!」
 真っ先に駆け出したミーナは猿たちの視線を集めながらスキルを発動した。体力もある、防御の心得もある。数が多くとも――思っていたより多いが――早々に倒れてしまう自分ではない。
 飛び込んできたハングリーモンキーたちが次々にこけたりしつつも、ミーナへ向かって爪を向ける。その頭上から降りてきたSikiはその身を、まるで空を写したような竜へと変貌させた。
 其は龍と成りて、明け染むる東の空を往く。
(龍へと成った女は『青の罪火』ですべてを焼き尽くす。そんな、嘘みたいな本当のお話を始めようか)
 ぐわりと開いた口から零れる吐息は青の炎へ。猿たちが火という存在に本能的な怯えを見せる。
 しかして、これはまやかし。故にゴルドがタイミングを合わせて火の雨を降らせにかかった。青と赤の炎が空から降り注ぎ、猿たちが逃げまどう。
「いいね、雰囲気出てる」
 ゴルドとSikiはアイコンタクトをして、それからにっと笑みを浮かべた。
「アングリーモンキーへの道を切り拓くよ!」
 エクシルはその扇動と共に前のめりに突っ込んでいく。無数にいるハングリーモンキーの間を縫い、踊るように身を翻し、複数体を一気に斬り刻んだ。その足元を影が長く長く――夕陽でも浴びているかのように長く伸びて。
「その生命力、頂こう」
 グレイシアの影は一直線にアングリーモンキーへ。拘束せんと伸びあがったそれに、しかし腕を取られたのは庇ったハングリーモンキーだ。その隙にアングリーモンキーは拳大の石を握って全力投擲する。
 かなりのスピードで飛んでいくそれとすれ違いに、ヨハンナのスキルによる魔の力が敵陣へ向かって飛んでいく。追ってアイの投影術式によって生み出された短剣が飛んだ。
 仲間たちの攻撃によって前を埋め尽くさんほどだったハングリーモンキーが押され、動きを鈍らされていく。ジョージはペンギンたちと共にジェットスライドでアングリーモンキーの元へとジェットスライドで飛び込んでいった。
「行くぞお前達! ここが初陣だ!」
 群れを形成するペンギンたちがジョージの声に呼応したように鳴く。ちなみに彼らがどこから来てどこへ去っていくのかは――謎である。
 空中へと逃げることで包囲網を脱したSikiは、体勢を立て直して再び突っ込んでいく。その耳に聞こえるのは、エクシルの意志を奮い立たせる歌。海賊が逆境を跳ねのけんとする時に歌うそれ。
 グレイシアの影が一瞬拡大し、無数の刃を放つ。先ほどアングリーモンキーを捕らえたスキルに比べれば多少精度は落ちるものの、これだけ多くのハングリーモンキーが居れば全く当たらない、なんてことはない。
(それに、集まっていれば良い的だね)
 Sikiは仲間たちがいないところへ向けて炎を吐く。彼女の吐息はまやかしの炎でも、本物を混ぜて行けば嘘だって真実に思えるかもしれない。
 だがしかし、いつまでもまんべんなくダメージを与えているわけにもいかない。まとめて一網打尽にできる規模でもなければ、時間がたてば敵味方入り乱れた混戦状態だ。
「そろそろ、か」
 ミーナは攻撃へ打って転じる。強烈な一撃を、より弱っているように見えるハングリーモンキーへ。ゴルドもSikiの攻撃に紛れさせながら火の玉を打ち出していく。その視線はちらり、と周囲へ向けられた。
(生木は燃えにくいって聞いてるから大丈夫だと思うけど……)
 果たして現実のように延焼するのかさえ、定かではないけれど。『もしも』を考えれば口の中だってカラカラに乾いてきそうだ。ゲームの中だけれども。
 あくまでエネミーたちに非はなく、その手中に在る祭具を頂きたいだけである。彼らが応戦するのは至極当然のことなれば、こちらが反撃する以上の被害は避けたいものだ。
「ま、体力がわずかなら優先的につぶすけどネ!」
 アイの前でハングリーモンキーが倒れる。それは輪郭が一瞬歪んだかと思うと、パッと光りが弾けて消えてしまった。エクシルの防御の合間を縫った一撃をくらった敵も同様である。
 少しずつハングリーモンキーの頭数が減っていく中で、ジョージは彼らや武器になりそうなものもまとめてジェットスライドで跳ねのけていた。勿論目指すはアングリーモンキーである。
(今の俺には、このペンギンを召喚する事しかできない。ならば、共に戦ってくれる彼らから、存分に力を借りよう!)
「行くぞ!」
 ジョージの声にペンギンたちが続く。アングリーモンキーはそれでも果敢にかかってくるが、周囲の取り巻きが減っているのは気のせいではない。その視界の隅で、紅の焔が噴出した。
「汝、命を喰らう者なり。いざ獲物を――呑み込め」
 ヨハンナの足元に描かれた陣から噴き出した焔はうねりながらアングリーモンキーへと。それを当てるための積み重ねは、仲間たちがしてくれた。

 しかし、不意にモンキーたちの様子が変わった。おろおろと狼狽え、中には逃げ出すものもいる。ゴルドはそれを見て咄嗟にグレイシアを振り返った。
「もしかして――」
「ああ。逃げるぞ!」
「遅れるなよ!」
 グレイシアが頷き、ミーナが皆へと声をかける。
 そう、奴が来たのだ。名前も明かされぬ危険エネミーが。
 モンキーたちが逃げるのも生存本能故だろう。同じ方向へ逃げざまに、ミーナは彼らが盾になるよう位置を取る。
「情報を手に入れるのは……やっぱり無理かナ!」
 アイは一瞬立ち止まろうとして、やめた。モンキーたちの様子からして、逃亡に余裕なんてないだろう。彼らが必死な以上、自分たちも必死で逃げなければ死ぬ。逃げても死ぬかもしれない。
(極力死にたくないが……もしもの時は覚悟を決めるサ)
 腹をくくるアイ。その後方からようやく、その姿が露わになる。それは狼にしては大きく、熊にしては俊敏だ。どうやらかの標的は――3メートルもの龍になっているSikiらしい。
 Sikiは低空飛行しながら逃げ続ける。もっと上空へ逃げれば逃げ切る事はできたかもしれないが、上昇する間に捕まる可能性もあった。だが。
(速い……!!)
 徐々に距離を詰められていく。焦りを覚える傍らで、死ぬ感覚について考える自分がいた。ここでなら――ゲームの世界でなら、体験してみるのも悪くないのかも、と。
 しかし、その間に割り込む影がひとつ。
「ヨハンナ!」
「こんな結末、誰も望まねぇだろ?」
 にっと笑ったヨハンナは向かってくる危険エネミーを見据える。あれは獲物を欲する目だ。そこから導かれるバッドエンドに――ヨハンナは、介入する。全ては美しいシナリオの為に!
 エネミーは猿を蹴散らし、ヨハンナの身体を咥えてそのままどこかへ消える。戦闘もままならぬ状態の今、グレイシアが意識を集中させればエネミーはあっという間に索敵範囲外へ出たことが知れた。連れていかれたヨハンナがどうなるのか、大体の想像がつくことではあるが――暫くすればまた、ログインしてくることだろう。
(戦力ダウンは痛いが、相手も相当の痛手を喰らったようだ)
 蹴散らしていったモンキーの数はそれなりだ。今ならば、むしろ今であるからこそ畳みかけられる。仲間たちもそれを察したか、再び臨戦態勢を取った。
 ボスと取り巻き諸々を巻き込んでペンギンの群れで突撃するジョージ。そこへゴルドは追い打ちをかけていく。ハングリーモンキーもまだ残っているが、アングリーモンキーを倒せば勝ちだとSikiたちもボスを狙い撃つ。
 ――彼らのアイテム欄に『サクラメント・レコーダー』の名前が表示されたは、それから程なくしてのことだった。

成否

成功

MVP

ヨハンナ(p3x000394)
アガットの赤を求め

状態異常

ヨハンナ(p3x000394)[死亡]
アガットの赤を求め
エクシル(p3x000649)[死亡]
ツナ缶海賊団見習い

あとがき

 お疲れさまでした、冒険者たち。
 無事にクエストクリアです。

 この度は遅くなり申し訳ございませんでした。
 またのご縁がございましたら幸いです。

PAGETOPPAGEBOTTOM