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シナリオ詳細

<ナグルファルの兆し>隷属の末路

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●奴隷商の兄を名乗る男
 よう、アンタ達かい?
 あの化け物を追ってるって言うのは。
 おっと、そうおっかない目を向けねぇでくれるか? 俺はびびりでよう。
 ああ、わかってるって。俺を信用出来ねーって面してるのはよくわかるよ。
 そうだよな、”俺が”あの化け物になっちまった女を奴隷に落としたって言っても信じられねーわな。
 まあ、最初から話してやるよ。
 あぁ心配すんな、そんな長ぇ話じゃねーからよ。

 俺には出来の悪い弟がいたんだがよ、そんな出来の悪い弟でも可愛いもんでな、よく目に掛けてやってたんだよ。
 俺は何でもできたし、今やこの幻想(くに)でそれなりの暮らしができてる。小金持ちって奴だ。
 でも弟はだめだった。粗野で乱暴で、頭のネジがどこか吹っ飛んでやがった。
 まーそんな弟でも仕事を与えればそれなりに働いたんだ。アイツは俺には懐いてたからな。
 だから、アイツにぴったりな仕事を与えてやったんだ。
 わかるだろう? 奴隷商人の仕事だよ。
 待て待て、そんな苛立った視線を向けるなよ。
 いいか? 奴隷商だって立派な仕事だ。
 奴隷ってのは安価な労働力で、貴族様のような金持ちこそこういうのを欲しがるんだよ。
 そこに需要がある限り供給は産まれ続けるわけだ。
 それに奴隷だからって不幸になるわけじゃねーよ。良い貴族に拾われりゃ、それなりの生活ができるんだ。自由はなくてもな。
 ま、それはそれとして、弟にその仕事を与えたんだ。
 あぁ勘違いするなよ、いま噂になってる闇奴隷市みたいなアングラな奴じゃねーよ。借金取りの延長みたいな奴だ。
 金がなけりゃ労働力になってもらう。それだけだ。
 乱暴者の弟には良い仕事だったんだがな。そう最初は上手くいってたんだ。
 だが、ある日、地方の村の三人家族と問答になってな。
 娘は渡せない、返済を待ってくれ。
 弟も上手く交渉すれば良い物を、どこか勘に障ったのかキレちまったのよ。あっけなくな。
 気づけば家主夫妻は血塗れ惨殺。
 残った娘も今にも弟に殺される寸前なわけよ。
 たまたま視察に出向いたらその現場だぜ? 俺は焦ったもんよ。
 弟はその場に居た奴全員殺して逃げようかと考えてたみたいだが、俺はその娘にちょっとばかり同情しちまってな。
 災害や事故みたいなもんだったが、生きてる以上殺すのは忍びないと思っちまったわけよ。
 だから、俺は弟に言って聞かせたんだ。

 ――この女は、お前の奴隷にしろ、ってな

 そのあとは殺した奴等の後始末やら証拠隠滅で忙しくなっちまってな。状況をよく確認してなかったんだが……どうやら弟は奴隷ってもんが気に入っちまってな。
 奴隷商の仕事をまともにやらず、個人的な奴隷を力任せに作っては、自分の代わりに働かせ、夜には男と寝させ、日銭を稼いで暮らしてたらしい。
 俺は顔を覆ったよ。完全に表にだせないようなアウトローになっちまってた弟にな。
 そこからは、弟との距離をとって、関係を断とうとした。弟には悪いが、俺も保身のためだ。
 だが、あるとき弟が死んだという噂が耳に入った。
 現場を見に行ったが、肉片すら見つからなかったよ。赤いシミに、弟のお気に入りのブレスレットが転がってただけだ。
 俺は怯えたね。だれかに殺されちまった弟。こんな人間離れした殺害を行える化け物はどこのどいつなんだってね。
 ま、それはたまたま街で”あの化け物”を見たときにわかっちまったけどね。

 さて、話はここまでだ。
 ここにきて話を聞いた以上、お二人さんとお仲間さんたちは”俺の依頼”を受けてくれるんだよな?
 簡単……というわけじゃないだろうが、なあに噂に名高い英雄であるローレットのイレギュラーズなら出来ることだろう?
 数日後、弟が隠れ家にしていた廃村に、弟の遺品整理をしにいく。
 というのは、建前で、俺と弟との関係がバレないように証拠隠滅にいくだけだ。
 俺もそれなりの地位をこの幻想でもってるんでね。
 アンタ達はそのボディーガードだ。
 俺の予感はよく当たると言うんだが……たぶんあの化け物、来ると思うぜ。
 なにせ奴隷に落とした男――それも弟と瓜二つの俺がいるんだ。間違いねぇさ。
 ヒッヒッヒッ、いやぁ怖くてしょんべんちびりそうだぜ。
 おっと、俺を殺すような真似はするなよ? アンタ達の名声に傷がつくってもんさ。
 じゃぁ、頼んだぜ。数日後、町外れの東の丘で落ち合おう。
 ――そうそう、化け物のことが知りたいならこの封筒の中身を見るんだな。じゃぁな。


 立ち去った男から視線を外して、『紅の弾丸』ワルツ・アストリア(p3p000042)が「フン」と鼻を鳴らす。
「胡散臭い、いけ好かない奴よね。どこまで真実かわかったもんじゃない」
 訝しむワルツに、『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は真剣な表情を崩さないままに苦笑した。
「たしかに。でも、あの魔種の少女を追っていって掴めた手がかりはあの男の人だけだった。
 あの魔種を追うなら、この話に乗るしかないって思うな」
「そこは同意ね。
 あの魔種を野放しにしとくわけにもいかないし……借りは返したいしね」
 特技を返され傷ついたことはまだ最近のことだ。一矢報いたいとワルツは肩に掛けたスナイパーライフルを担ぎ鳴らした。
「うん。それにあの魔種の子は自分には何もないって言ってたけど……」
 男から受け取った封筒の中身を確認する。
「……マリアナ・セルネイ――それが、あなたの名前……」
 アレクシアのつぶやきは、静かに風に乗って空へと消えた。

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 魔種を追う二人の行動が手がかりを掴みました。
 魔種とどのようにぶつかるかは、皆さんに委ねられています。
 やや心情よりのシナリオとなります。

●依頼達成条件
 ・魔種マリアナの撃破(HARD相当)、もしくは幽鬼二十五体の消滅
 ・依頼人の男ゲルヘンの死亡
 ・依頼人の男ゲルヘンを故意に殺害(悪属性)

 いずれか一つ以上達成で成功となります。
 ゲルヘンを故意に殺害した場合のみ、得られる幻想名声がマイナス値になります。

●情報確度
 このシナリオの情報精度はBです。
 情報は正確ですが、情報外の出来事も発生します。

●このシナリオについて
 『<フィンブルの春>デモリッシュスレイヴ』のアフターアクションにより発生したものとなります。
 前回シナリオはこちら(読まなくても問題ありません)
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5582

●魔種マリアナについて
 鬼の仮面をつけて、ゆらりゆらりと歩く少女。憤怒に連なる魔種。
 元奴隷であり、奴隷であること以外一切をなくされた純種の女の子です。
 名前はマリアナ・セルネイ、貧困層の生まれで父アドス、母マーサと三人家族。
 貧困ながら幸せな生活を送っていたが、借金取りと奴隷商人を兼ねていたゲルヘンの弟ドルヘンによって両親を殺害、自身も殺されかけた後ドルヘンの奴隷となる。
 その後暴力によって隷属を余儀なくされ、ある日魔種へと反転する。
 誰も助けてくれない、汚れ腐った世界を全てぶち壊すという怒りとともに。

 前回の戦いでわかった能力は以下。
 ・隷属の呪縛(物理・特レ・万能・識別・必中・防無・疫病・流血)
 魔種マリアナのHPが最大値を下回ると、手番時に自動発動。回避不能の全域攻撃ですが、威力はそこまで高くありません。

 ・隷属からの解放(Exスキル)
 魔種マリアナへの攻撃は、攻撃を行った対象に攻撃から1ターン後、反射される。
 この際の反射攻撃は、受けた攻撃の能力と同じものが反射され、攻防判定をすべて無視して必中(クリーンヒット判定)する。
 ただし、この反射は庇うことができる。
 庇った場合、全て必中(ライトヒット)判定となり、命中回避判定以外の攻防判定が行われる。

 ・魂の救済(Exスキル)
 幽鬼が存在する限り魔種マリアナのHPは1以下にならない。
 HPが10%未満となると、幽鬼一体と融合し、HPを最大値まで回復し、全てのBSを解除する。
 この行動は魔種マリアナの手番を消費しない。
 幽鬼が一体も存在しない場合、このスキルは発動しない。

●幽鬼について
 魔種マリアナを守るように周囲を固め、視界に映る全てのものを殺し、破壊します。
 その数、66。
 能力的にはそう強いモンスターではありませんが、数の暴力が厄介です。
 また物理攻撃に対して耐性が強めです(効かないわけではありません)
 一体の攻撃に合わせて近場の二体までが手番を飛ばして連携攻撃してきます。
 半数は魔種マリアナの周囲から動くことはありません(近接距離まで近づかないと攻撃してきません)

●依頼人ゲルヘンについて
 奴隷少女の魔種を追っていたイレギュラーズにコンタクトをとってきた男。
 子悪党のような雰囲気を持つが、身なりはきちんとしており、情報屋の裏取りでもある貴族に使えてるビジネスマンという。
 弟ドルヘンを溺愛していたが、一家惨殺の現場を見てから態度を変え、家族はいないと周囲には話していた。
 闇奴隷市が噂になったころ、ある街で魔種マリアナを目撃し、次は自分が殺されるかもしれないと内心怯えている。
 必要ならばどんな汚いこともする純種の人間。

●戦闘地域
 幻想東の廃村が戦闘地域になります。
 障害物はあるものの、自由な戦闘が可能でしょう。
 
 そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。

  • <ナグルファルの兆し>隷属の末路完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年05月24日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ワルツ・アストリア(p3p000042)
†死を穿つ†
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
私のイノリ
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
エル・エ・ルーエ(p3p008216)
小さな願い
マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)
彼方への祈り

リプレイ

●怒りの矛先
 弱々しくも、しかし痛烈に心に刻み込まれるような、そんな乾いた音が鳴った。
「……ローレットの英雄、勇者さま達ってのは、出会い頭に人の頬を叩くもんなのかい?」
 悪びれた様子もなく、それどころか嫌らしい笑みさえ浮かべて依頼人の男――ゲルヘンと名乗った――が嫌味を言う。
 その態度に、『ふゆのこころ』エル・エ・ルーエ(p3p008216)はもう一度怒りに震えるままに、ゲルヘンの頬を叩いた。
「エルは、怒っています。
 ゲルヘンさんは、弟さんが、酷い事をし始めた時に、めっ! って、言えた筈です――」
 魔種マリアナを生み出した原因であるゲルヘンの弟を、諫めることが出来ていれば彼女の悲劇を止めることができたかもしれない。その事を強く訴えるエル。
 だが、ゲルヘンはまるで他人事のように首を振るう。
「弟の奴を更正? 無理無理、そんなこと聞き入れるタマじゃなかったよ。こんなことになっちまってはいるが、俺ぁベストな選択をしたと思うね。それよか、この後なんだが――」
「そうやって、自分勝手、ばかり! 自分勝手、大嫌い、めっ、めっ、めーっ!」
「おっと、勘弁してくれよ。俺ぁ依頼人で護衛対象だぜ? あんたらも止めてくれよ」
 ゲルヘンが周囲のイレギュラーズへと視線を送る。
 この依頼に集まったイレギュラーズは、しかしエルの行動を咎めることはなかった。
「まあ依頼人に手を出すのはプロとして言語道断だけれど、そうされても言い訳できないってことくらい理解しているでしょ?」
 『紅の弾丸』ワルツ・アストリア(p3p000042)が睨めつけるように言うと、ゲルヘンは鼻を鳴らして、
「へっ、あの奴隷女に同情しているのか? さすが英雄さま達だ。下々の人間にお優しいこって」
 と、皮肉を口にする。
「やっぱり、いけ好かない奴……」
 あえて聞こえるようにワルツが呟くが、ゲルヘンは馬耳東風と言わんばかりの態度を崩さない。
「それで、アンタ達にはあの”化け物”とやり合ってもらうが……勝算はあるのかい?」
 依頼人としてぜひ聞きたいところだと、ゲルヘンが言う。『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)はこくりと、頷いた。
「”マリアナ君”の戦い方は把握している。相手が魔種である以上、”絶対”なんてことはないけれど……勝つ為の準備はしてるつもりだよ」
「ふーん……そうですかい。ま、それはなによりでさぁな。あの化け物を殺してもらわなきゃ、こっちも困るって話なんでね」
 ゲルヘンのトゲのある物言いに、アレクシアは不快そうに顔を背けた。
 奴隷として落とされたマリアナ・セルネイ。彼女を奴隷に落とした張本人は、いま彼女のことを化け物と呼ぶ。
 彼女を――精神的には――救いたいと考えているイレギュラーズにとってみれば、ゲルヘンという男の態度は苛立たしさを覚えるものだった。
「ともあれ、魔種という脅威との戦いになるから、貴方には隠れていてもらいたいかな。正直、誰かを守りながらというのは、魔種相手には難しい話だと思うから」
「そんなに恐ろしい相手なのかい。いや、たしかにやばそうだとは思ったが、天下の英雄様の力を持っても、難しいとはね」
 魔種という存在のことをよく知りもしないゲルヘンの言葉に、『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は吐き出しそうになる言葉を飲み込み閉口する。言葉を引き継ぐように『汚い魔法少女』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)が”直接的”に言う。
「死にたいなら付いて来てもいいけど、誰も率先して守ろうと思わないんじゃないかな?」
「おいおい、それじゃ護衛の意味がないじゃねぇか」
「だって、あなた好感度低いし。典型的な嫌われ者よね、あなた」
 メリーの言葉は正鵠的を射ている。それに、魔種を相手に誰かを守りながら戦うのはそれだけでリスクが大きいことは、全員が理解していた。
 そんな周囲の空気を読んで、ゲルヘンが観念したように手を上げた。
「チッ、わかったよ、あの化け物が死ぬ瞬間が見れねーのは残念だが、大人しく隠れておくよ。命あっての物種だからな。死ぬのだけは避けなきゃなんねぇ」
「そうそう(わたしの)身の安全が第一よね! 常識的に考えて」
 メリーの言葉の真意を理解せずに「気が合うな」などと言ってるゲルヘンに、メリーは用意した秘密の隠れ家の位置を教えた。
「再度の忠告になるが、決して戦場には近づかないことだな。俺達は神ではない。拾いきれないことはいくらでもあるんだ」
 経験則として、実感のこもった言葉で言う『黒狼の勇者』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)。説得力のある言葉にゲルヘンは「お、おう」と頷き了承した。
 それからゲルヘンは廃屋へと向かい、自身に関係ある残された物品をバッグにしまい込むとそそくさと用意された隠れ家へと走って行った。
「素直に隠れ家にいると思う?」
「どうでしょうね。自分の命がかかっている以上、素直に従うとは思いますが……どうも、護衛以上の成果を求めてるように思えてなりません」
 『雨は止まない』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)の問いに『永久の新婚されど母』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)がそう返す。
 護衛以上の成果――それは当然、魔種マリアナの撃破を差している。
 マリアナを退けるだけでもローレットの依頼としては問題はないが、彼の魔種が苦しみ彷徨いながら破壊活動を繰り返していることを考えると、早期に終わらせてあげたいと考える者もその場には少なくなかった。
「まあゲルヘンが出てきて死んでも別に依頼的には問題ないわけだし、どちらかというと勝手に逃げられることが懸念材料かな」
 メリーの懸念にシキは頷き、もう一つと付け加える。
「それに私達が魔種を倒しきれるか、もね。こればかりはやってみないとわからないけどさ」
「そうですね」
 魔種を倒す。口にするのは簡単だが、それがどれだけ大変かはローレットにいるものならば理解はしているはずだ。
 それに、魔種マリアナは一連の闇奴隷市関係の被害者とも言える。
 ただ命を奪うだけではなく、僅かでも救いが与えられるなら――そう願う者もいる。
「ゲルヘンさんには、エルのファミリアー、ついて行かせます」
「それは助かるね。勝手に逃げても追いかけられそうだ」
「では、彼女が来るのを待とうか」
 ベネディクトの言葉に、全員が頷いて、イレギュラーズ達は廃屋の中で腰を下ろした。
 ゲルヘンを狙う、魔種マリアナがこの場に現れるその時間まで――。

●慟哭
 その気配は、静かに近づいてきた。
 冷たく冷め切っていながらも、深い怒りを含んだ気配。同時に肌が粟立つような死を予感させる気配。
「きたか」
 黒狼王の血統を持つベネディクトが最初に気づき、それを合図に他のイレギュラーズも静かに武器を構え、廃屋の外へと移動する。崩れかけた家屋が並ぶ道の真ん中に、その少女はいた。
「……あなた達……この間の……」
 見知った顔を見つけて、鬼の面をつけた魔種マリアナが声を低くする。
「……言ったはずだよ……次は殺すって。あの男はどこ……アイツと同じ顔をした、あの男は……!」
 言葉と共に、マリアナの周囲に幽鬼が出現する。情報通りならば、その数は六十六体。
「小鳥さん、お願いします」
 エルが水色のファミリアーを上空へ飛ばし旋回させる。
 幽鬼は数が多く、隙あらば囲まれることも多くなるだろう。エルが視界共有を用いて、上空から陣形を確認するのは極めて重要と言えた。
 幽鬼の半数がマリアナを守るように周囲を固め、もう半数がイレギュラーズへと有無を言わさず襲いかかる。
「……終わらせよう、その怒りを。例え君がもう何も無いのだと世界を見限ろうとも」
 誰よりも先に迎え撃つはベネディクトだ。銀槍を構え幽鬼達を相手取る。
 幽鬼達の連係攻撃は脅威だ。半実体であり浮遊する掴み所の無い相手が、全周から次々に襲い掛かってくる。
 それらを巧みな槍捌きで受け流しながら、ベネディクトは踏み込んでいく。紅き闘気が走り槍閃の軌跡が稲妻の如く描かれる。
 物理に耐性を持つ敵だ。銀槍を振るうベネディクトに返る手応えは薄い。しかし、それでもベネディクトが切り込んだ意味は大きい。幽鬼達の陣形を乱し、連携の軸を崩した。これによってイレギュラーズは大きな有利を得たと言って良いだろう。
「隙が生まれた……! 数は多いけれど、限界まで根絶やしにしてみせる!」
 ベネディクトが作り上げた有利な状況を、ワルツが狙い澄ます。
 構えた大口径のスナイパーライフル”Cauterize”に魔力を装填する。呼吸を止めると同時に照準を合わせ、止まることなくトリガーを引き絞った。
 まるで竜の咆哮のように銃声が轟く。
 同時、銃口の先から青白い稲妻を纏った弾丸が発射され、稲光を撒き散らしながら、まるで意思をもった蛇のように、幽鬼達を次々と撃ち貫いた。
 この攻撃に魔種マリアナは巻き込まない。
 前回の戦闘経験から、マリアナへの攻撃は手痛い反射となってくることをワルツはよく理解している。マリアナを攻撃するのは、取り巻きを片付けてからだ。
 ワルツの攻撃に合わせて、アレクシアも動いた。
 神聖なる閃光を放ちながら幽鬼達を焼浄していく。
「あなた達もマリアナ君のような境遇の人達なのかな……」
 怨嗟と思われる声を上げる幽鬼達に、思わず胸が痛くなって悲しみに顔が曇る。
 マリアナを守るように陣形をとる幽鬼達。
 最初はマリアナが操っているのかと思ったが、その動き、行動を見ればそうではないと分かる。
 幽鬼達は自発的にマリアナを守っていた。
 そう仲間――否、まだ”生きている友達”であるマリアナを。
 幽鬼達は、マリアナと同じ境遇にいて、死んでいった者達なのだ。
 悲しみに彩られた幽鬼達の攻撃を受け流しながら、アレクシアは彼女達へとかける言葉を探していた。
「状況的有利だけれど、数的不利はまだまだ変わらないわね」
 アレクシア同様に、神気を閃光に変えて幽鬼達を焼き払うメリーは、努めて冷静に戦況を分析していた。
 他のイレギュラーズとは対象的に、メリーは魔種を打ち倒そうという使命感は希薄であった。
 それは当然と言えるかもしれない。
 数多くの魔種を倒してきたイレギュラーズだが、その戦いは常に甚大な被害と、犠牲の上になりたってきたものだ。
 ゲルヘンにも言ったように、”自らの安全”を第一に考えるメリーにしてみれば、ここで魔種を無理矢理倒すメリットはそう多くはない。
 そして、現在の戦況。数的不利な状況は、気を抜けば一気に崩れる状況にある。魔種へと至る前に全滅も十分にあり得るのだ。
 この状況を予測していたメリーは、生き残る為の選択肢を用意していた。
「ゲルヘンの様子は?」
「いまの所、大人しく、しています」
 隠れ家を用意し、ゲルヘンの所在を確かなものとする。そして監視し、いざとなればゲルヘンをエサとする。
 あらゆる選択肢を用意し、生存を狙うメリーは、この戦場において一番冷静だったと言えるかも知れない。
 戦場で有利な距離を取りながら、幽鬼達に魔力の塊をぶつけるマグタレーナ。
 不意に、幽鬼達に囲まれ制止している、鬼の面をつけたマリアナと視線が合った気がした。
 思わず、言葉が漏れて、マリアナへと語りかけた。
「勝手な言い草かも知れませんが、自分には何もない。などとは思わないで欲しい――」
 返答は期待していなかった。ただ言葉が届けば良いと。
 だが、思いもかけず、マリアナから返答がくる。
「……いいえ、私にはなにもない。もう、なにも……」
 諦めにも似た言葉。怒りと苦しみと絶望に染まった心の中で、輝くものなどありはしないように。
「そんなことはない。何か……何か残っているはずです」
 名前、身分、衣服に生きる意味すら失っても――奪えないものは必ずあるのだと、マグタレーナは思う。
 これ以上、マリアナを苦しめるな。そう言わんばかりに幽鬼がマグタレーナに襲いかかる。その攻撃を受けながら、マグタレーナは彼女達のために出来ることを考え、覚悟を決める。
 僅かでも、マリアナに残るものがあるならば、どうかそれを思い出し抱きながら――安らかな眠りの旅を、捧げましょう。
 彼女(マリアナ)に残るもの――それは……。
「――マリアナ君!!」
 アレクシアが声を上げた。
 失われたはずの、彼女の名前を呼びながら。
 幽鬼達の動きが僅かに止まる。そしてその中心で、魔種マリアナが一歩後ずさった。
「……その名前……どうして……」
「君のことは聞いた……そうなってしまう怒りも憎しみもわかるよ……。
 でも、君は言ったよね。全てを壊した後は自分も死ぬって――」
 アレクシアは胸に手を当て、いま内にある思いを吐き出そうとする。
 マリアナは魔種であり、どうしようもないほどに人類の敵だ。放っておけば、あらゆる街を破壊し、人を殺め続けるだろう。
 だが、そうした倒すべき敵であると同時に、此度の事件に関わる奴隷少女であり被害者だ。
 たとえ、倒し滅ぼすことになったとしても、その心には救いを与えたかった。
「――そんなことはさせない! そんな終わり、君も悲しみを抱えたままじゃない!
 だから私は君を止める! 少しでも、君を救うために!」
 それはただの自己満足かもしれない。けれど、僅かでも可能性があるのなら、マリアナの心を救って終わりにしてあげたかった。
「マリアナさん、もう怒らないで、大丈夫です」
 エルが、マリアナのことを想い、瞳に涙を溜める。
 彼女の悲しい運命に――彼女を貶めたゲルヘンという男に、エルは怒りを隠すことはなかった。
 マリアナという一人の少女に関わったものたちが、正道のものたちならば、このような事態にはならなかっただろう。あるいはゲルヘンが弟を更正させれば……弟がすこしでも人の心をもっていれば――。
「エルが、代わりに、怒りますから。だから、もう――」
 涙を零すその姿が、マリアナの昏く深い絶望に染まった心の中の何かを救い上げたのかもしれない。
 頭を垂れたマリアナが、肩を振るわせ、首を振るう。
「……もう、遅いよ……私の怒りは、私達の絶望は、もう誰にも塗り返せない……」
 鬼の面の内から、一筋の雫が零れた。
「……助ける事が出来なくて、済まなかった」
 ベネディクトの重く押し殺した歯噛みする言葉が響く。
 マリアナが言うように、もう手遅れだったのかもしれない。叶うならば魔種へと落ちる前に救い上げたかった。
 傲慢かもしれないが、ベネディクトもアレクシアもそう想わざるを得なかった。
「もう、止められないんだ……本能が、意思とは関係なく、身体を、友達達を動かす……」
 マリアナの鬼の面が割れる。
 音を立てて落ちた面。隠されていたあどけない少女の顔は――瞳が一つ無く、傷だらけだった。
 その素顔にイレギュラーズ達は息を飲む。同時に、ゲルヘンの弟に対する怒りが沸騰する。
 どのような生き方をすれば、まだ十代の少女をここまで傷つけることができるのか。
 怒りと悲しみに暮れながら、シキは目を逸らさずにマリアナへと言葉をかけた。
「ねぇ”マリアナ”。この世界は酷く残酷で、理不尽も、どうしようもないほど満ちていて――
 恨む気持ちが分からないって言ったら嘘なんだ」
 その顔を見れば、憎悪と絶望に染まってしまうのも理解できる。きっと誰だってそうなるだろう。
「それでも君の名前だけは。君が君である証は、ちゃんとここにあるよ――私は、君を助けたかった、よ」
 シキの想いはマリアナへと届いただろうか。
 片方しかない瞳を閉じて、涙を零すマリアナの表情は、変わらず無だ。けれど、どこか救われたようでもあった。
 けれど、すべては手遅れなのだ。魔種へと転じたことによる世界への怒りは、たとえ心が救われようとも消えることはない。
「……! いけない!」
 スティアが、魔力を周囲へと広げ花弁を生み出す。傷を癒やし、仲間達をバックアップする。なぜならば――
「自傷……!」
 マリアナは自らの身体を爪で引き裂いて、身体を傷つける。本人の意思ではない。それは本能が、全ての存在に対する怒りが、破壊を生み出すために行っていた。
 マリアナが傷付くと同時に、戦場となっていた廃村に赤いシミが次々と生まれていく。イレギュラーズの身体にも同様にシミが広がり――切り裂くように痛みが走った。
「くっ!」
 アレクシアがアトラスの守護を広げ全員のダメージを肩代わりする。
「マリアナ!」
 スティアが、声を上げる。
「貴女の家族はこんなこと――悲しい思いをして欲しくないと願っていたはずだよ」
「そうかもしれない……もう顔も思い出せないけど……もう自分じゃどうしようもできないんだ……」
 スティアはその言葉に、悲しくなって目を伏せる。
 マリアナと境遇は違えど、愛してくれた人達が自分のことを想ってくれていたということはわかる。
 マリアナの家族だって、きっとマリアナの幸せを願っていたはずなのだ。
「全てを妬んで、憎まないで――貴女を愛してくれた人達がいることを忘れないで……」
 スティアの言葉に、マリアナはもう一度涙を流して。
「あなた達は優しいね……もっと早くあなた達と出会えていたら――」
 その言葉を最後に、マリアナの様子が一変する。
「完全に飲まれたか……! どうする、仕留めるか?」
「まだ幽鬼を全滅できてないわ! マリアナに火力を集中したとしても……届くかどうか……」
 残る幽鬼を仕留めながら、ベネディクトとワルツが状況を確認する。
 自傷によって、権能たる呪縛を解き放ち続けるマリアナ。それらをかばうアレクシアとマグタレーナもそう長くは持たない。
「回復し続けるのも限界かも……!」
 支えるスティアも状況が厳しいことを零していた。
「ここまで、だね」
 シキが仲間を諭す。それはつまり、撤退を意味していた。
「ゲルヘンは?」
「あ! 隠れ家から、でてきてます! 逃げようと、してるみたい」
「なら――」
 そこからのメリーの判断は速かった。
 仲間の撤退を指示しながら、マリアナへ告げる。
「この廃村から西にいった山中にお目当ての男がいるよ」
 これが依頼人の故意の殺害となるかは、微妙なところだが、今は生き残ることを優先するべきだ。
 メリーの言葉を聞いた途端、マリアナは言われた方角へと歩き始めた。
「……ありがとね。名前、呼んでくれて。
 でも、もう来ないで……きっと、次は、もう……」
 その言葉だけを残して、マリアナは薄暗い山の中へ幽鬼と共に消えて行った。


 はぁ……! はぁ……! はぁ……!
 なんで、こんなことになっちまったんだ……! あいつら高い依頼料だしておきながら負けちまったのか!?
 天下のローレットも結局この程度だっていうのかよ……!
 ちくしょう、あいつら、生きて返ったら覚えてろよ! 評判ズタズタにして後悔させてや――ぎゃぁッ!!
 痛ぇ、足が、肉ごと持ってかれちまってる……!
「お前だけは、逃がさない!」
 ひっ! お、お前……! ふざけんなよ! 俺はお前を救ってやったんだぞ!? 俺がお前を奴隷にしなきゃ、お前はあの時あの場所で死んじまっていたんだぞ!? それを、なんで――!
「……こんなことになるなら、あのときパパとママと死にたかった……何もかも奪われて生きることの辛さ、お前にわかる……?」
 や、やめろ……くるな……! この化け物が! 寄るんじゃ――ゴヒュッ……。
「……なにも返ってこない、何も取り返せない……。
 このままじゃ、きっと自分で死ぬこともできない……。
 だれか……わたしを……おわらせて……」

 静かな山の中、魔種マリアナは数少ない幽鬼達とともに、歩き続けるのだった。

成否

成功

MVP

エル・エ・ルーエ(p3p008216)
小さな願い

状態異常

アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)[重傷]
大樹の精霊

あとがき

大変遅くなり申し訳ありませんでした。

依頼は魔種討伐はならなかったものの、成功用件を満たしておりましたので成功となります。
なお依頼人については事故として処理されました。

依頼参加ありがとうございました。重ねて遅れてしまい申し訳ありませんでした。

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