PandoraPartyProject

シナリオ詳細

クリエイターズ・トリート!

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●渇いた嘆き
 音楽、美術、ダンスーー
 創作とは果てのない旅路だ。
 ひとつの「好き」から生み出されたものを荒野のような地に放して待っている。

 誰かがその作品で、乾きを潤すのを待っている。

 飲み込んだ時の感動も、味わいも、衝撃も。
 全ては受け手によって変わるもの。

ーーそこに優劣なんてありもしないのに。

「お兄ちゃん……もう、いいよ…」
 吹きすさぶ風が砂埃を巻き上げ、痩せたロバと旅人ふたりに打ちつける。ロバに跨る少女は小さく咳をして、ぐったりとロバの背にしなだれた。
「何言ってるんだよリタ! 大丈夫、もうすぐ芸術の都アルタヤに辿り着く。
 あそこは芸術家を囲ったサロンが沢山あるって噂だぜ、きっと俺達もおこぼれに預かれる!」
 行手をはばむ風が止んだ。最後まで諦めない者に奇跡が降ったのだ。希望を胸いっぱいにして前を向いた少年はーーしかし。
 砂に半ばまで埋もれた都を見上げ、がくりと膝をついた。

●作り手の力
「ムーサという女神達を知ってるかい?
 音楽、美術、ダンスーーあらゆる芸術を統べる神様さ」

 集まった特異運命座標に話しながら、蒼矢は砂漠の様なざらりとした表紙の本を皆に見せた。

「彼女達の加護の元に生まれたムーサ人という種族の人間は、水を飲んでも喉の渇きを癒せない。代わりに必要なのが芸術だ。
 なのに彼らの都は今、エンターテイナーが誰もいなくて大飢饉に見舞われてるんだって」

 何故、そんな事になってしまったのか。
 一部の特異運命座標の質問に、蒼矢は困った様に笑う。

「鋭いね。芸術が世界を満たしていた頃、ムーサ人はグルメだったんだ」

 あの作品は舌触りがイマイチだ。
 あの作品はパンチが弱くてつまらない。
 過激な評価が増えていき、愛想をつかせたエンターテイナーはどんどん都から離れていった。
 それが現状を引き起こしてしまったのだ。

「彼らも懲りてるとは思うし、何より困ってる人を見捨てたりは出来ないよ!
 ねぇ、頼むよ特異運命座標。君達の力で彼らを救ってくれない?」

NMコメント

 今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
  GWだしいろんなエンターテイメントを楽しみたいぞぉ! 宜しく特異運命座標!

●目標
 最高のエンターテイメントを披露する
 もしくは満喫する

●できること
 芸術と思える物を披露すれば、なんでもムーサ人は喜んで飛び付きます。
 演劇、音楽、美術に料理。非戦スキルやギフトの他にも、ギャラリーを呼んで戦闘試合を見せてみるのも構いません。

 また、この機会にいろんな芸術を楽しむ側にまわってみるのも楽しいところ。作られた芸術品や民芸品の並ぶバザーに寄ってみたり、道中に見かけたパフォーマンスに足を止めてみたり。まったり観光して過ごすのも可能です。

●場所
芸術世界『モイラ』
 ムーサ人という美術の女神に創られた人間が住む異世界。
 はるか昔は花が歌い鳥が踊る緑の楽園でしたが、今は枯れ果て荒野が広がっています。
 特異運命座標が向かうのは、荒れ地で砂に埋もれかけた渇きの都アルタヤ。玉ねぎ頭の豪奢な宮殿とセメントを固めて作った四角い民家が沢山あります。文化レベルは幻想の田舎ほど。

●登場人物
 リタ&シャム
 渇きを満たすために都へやって来た貧しい兄妹。都も滅びかけているのを知り、意気消沈しています。

『境界案内人』神郷 蒼矢(しんごう あおや)
 半人前のお気楽境界案内人。実は同人活動をしており、自分も役に立とうとネタになりそうな題材を探しているようです。

 その他、芳董の担当している境界案内人(ロベリア、赤斗、黄沙羅)は呼ばれれば登場いたします。

●書式
 グループで参加する方は一行目にグループタグか相手の名前とIDの記載をお願いいたします。

 説明は以上です。それでは、よい旅路を!

  • クリエイターズ・トリート!完了
  • NM名芳董
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年05月07日 15時30分
  • 章数1章
  • 総採用数13人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

天閖 紫紡(p3p009821)
要黙美舞姫(黙ってれば美人)

 立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は――
(うっわ、凄い美人さんだ!)
 面食いな蒼矢は驚くと同時、首を傾げた。この女性……2時間前も同じ場所で依頼の掲示を見ていた様な?
「あの~」
「えっ、ああっ、すみません! 考え込んでいたらぼーっとしちゃって!」
(2時間も!?)
 蒼矢が話を聞いてみると、彼女の名は紫紡。
 特異運命座標として無辜なる混沌に飛ばされたものの、馴染めにいるのだという。
「お役に立ちたいと思うのですが、戦闘の依頼はまだ怖くて。仲間の足手まといにならないか不安なんですっ」
「なるほどねぇ。確かに特異運命座標は危険な事を託される事も多い」
「……」
「でも、何かしたいから考え込んでいたんでしょ?」

――そうだ。
 この依頼を知った瞬間、私は希望を見出した。
 芸を嗜んで生きてきたこの身なら――誰かのお役に立てるかもっ!

「大丈夫、紫紡は独りじゃない。僕は境界案内人……君の一歩を支える力だ!」

 蒼矢が指を弾いた瞬間、辺りが歓声に包まれた。
 気付けばそこは都の広場、赤い絨毯の敷かれたステージ!
 期待の目を集めた紫紡は舞台の中央で膝を折る。座した牡丹は静々と、お辞儀をひとつ。

「本日は、渇きの都アルタヤへお越しくださり、誠に有難うございます。
 最終最後の演目が終わりますまで、隅から隅までずずずいーっと、お付き合いの程、御願い(おんねが)奉りまする」

 鉄扇を持ち、優雅に舞った日本舞踊は――荒野を潤す華となった。

成否

成功


第1章 第2節

アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切

 月明かりの下、スラリと銀の刃が夜風を薙ぐ。
 鞘から引き抜かれた直刀を構え、アーマデルは目を細めた。
「はぁッ!!」
 大きく闇を薙いだその瞬間――ばらりと刃が蛇腹にしなり、鞭のように鋭く地面を叩きつける。

 蛇鞭剣ウヌクエルハイア。
 その長き銀の流動は神たる蛇の如く、優雅にされど強かに。
 柘榴の果実酒めいた甘さを残り香に、舞う主と幻想的な夜を見せた。

「綺麗…」
 舞台を見上げて渇きを癒す女性に向け、アーマデルは視線を投げる。
「渇きを満たしたければ、お前自身がやってみろ」
 供給を受けるだけでなく、自ら飢えをしのぐ努力を。心根を育て直してくれることを願おうと、強めの助言をしたところで――
「すっごい! 今の何?」
 興奮気味に肩をバシバシ叩いてくる境界案内人。
「舞踊…正確には剣舞だな。武器と肉体を正確に動かす訓練の一環だ」
「クールだね。それにいい香りもしたし!」
「それは『捩れた一翼の――』神郷殿、会わないうちに明るくなったな」
 神郷と呼ばれた男はアーマデルを嗅ぐのを止め、きょとと目を丸くした。
「僕は蒼矢。君とは初対面だよ?」
「…んん? 蒼矢殿だって?赤斗殿ではなくて?」

 勘違いはここで終わらない。二人のやり取りを見たあの女性は、
(褐色イケメンが絡まれて困ってる姿って…『萌え』だわ!)
……と想いを同人活動によって発散し、後に自給自足のムーサ人として祀られる事になるのだが――
 それはまた、別のお話。

成否

成功


第1章 第3節

耀 澄恋(p3p009412)
六道の底からあなたを想う

 目と目が合った瞬間、恋に落ちる音がした。

 澄恋から愛情を買って以降、赤斗は気づけば白い服を視線で追う様になっていた。
(いい加減、仕事に集中しねぇと)
 今日だって仕事で芸術世界を訪れたのだ。気を取り直そうと彼が深呼吸をした直後――
「さあさあ皆様! わたしの作品、見ていってくださいね!」
 心臓を吐き出しかけた。澄恋の声である。
「よ、よぉ。展示会でもしてるのか?」
 白無垢乙女の手作り品とは何だろう。和柄の巾着とか、心のこもった和菓子とか?
 折角だから見せてくれ、と声をかけた赤斗の前に――ごろん。
『ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ー…』
「うぉああぁー!?」
 断末魔めいた呻きをあげて転がされたのは、昆布出汁がほんのり香る旦那様の右腕(試作品)だった。
「何を隠そうこのわたし、愛しの旦那様をつくっている最中なんですよ」
「だん……え?」
「なかなか良い出会いがないなあと悩んでいるときに聞いたJKたちの会話「アンタかれぴつくらないのぉ?」にヒントをもらいまして、実行してみた次第です」
 試作品はこの他にも左腕や右足もあるのだとか、イケボを毎晩囁いてくれるとか、嬉々として話す澄恋の前で、衝撃を受けた赤斗は一言。
「四肢だけじゃ駄目だ」
「…えっ?」
「人体錬成には賢者の石がつきもの! 今度一緒に探しに行こう!」
「まあ! 赤斗様、協力してくださるのですね!」

 後日、諸々に悩み悶絶する赤斗の姿が目撃されたのは言うまでもない。

成否

成功


第1章 第4節

雨紅(p3p008287)
愛星

「リタ、待っていてくれ。今助けを呼んで来るから」
 シャムは妹の頭を優しく撫でた。見回せば、都の広場は酷い有様だ。
 渇きが広がり嘆きの声をあげる気力すら誰の身にも残されていない。残酷な現実に彼が諦めかけた時――

「恵みの“雨”が大地を潤すように」

 凛とした声が場に響いた。
 戦槍『刑天』を振るい、優雅に舞う雨紅の武舞が人々の心に染み渡る。
 燃える様な鮮烈な紅を纏いながらも、彼女の舞は柔らかな慈愛に満ちていた。

「リタ、凄いよあのお姉さん! とっても綺麗だ!」
「ふしぎな踊り。刃物を使ってるのに……何だかとっても優しいの」
 少女が見上げた雨紅の口元は紅で彩られ、仮面をつけているにも関わらず穏やかな笑みを感じ取れた。
「ムーサ人の皆々様の、その身も心も、満たすことが出来れば幸いです」
 舞の余韻を残して一礼した雨紅に返礼として降り注いだのは拍手の雨だ。
「お姉ちゃん、ありがとうっ!」
 元気を取り戻したリタの声に、彼女はふわりと微笑みを見せる。
「もし私が“芸”を奪われたらと思うと、私はちゃんと生きていけるのかわからなくなります」

 それは自分にとって、生死に関わるものではないはずなのに――
 明日への希望を得るためには欠かせない、無くてはならないものだから。

「だからでしょうか、芸術によって、乾きを癒す……それを不思議と思うと同時に、少し共感もできる気がします」

 昔、私の中に染み渡った、憧れの“芸”のように。

成否

成功


第1章 第5節

御子神・天狐(p3p009798)
鉄帝神輿祭り2023最優秀料理人

 ずぞぞぞー。
「ほうほう、なるほどなるほど……。現状は理解しました」
 同志から事情を詳しく聴き終えると、お汁まで飲み切り「ソーメン(so:'men)」と祈りを捧げた天狐はFUMアルタヤ支部を後にした。
 握りしめた『麺罪符』を天へ掲げ、彼女はキリリとした笑みで叫ぶ。
「えぇ、やりましょう! やってやりますとも!――境界案内人さん、あれを!」
「合点承知!」
 リヤカーうどん屋台を引いて蒼矢が颯爽と現れたのは、サポート役だから……ではなく、無辜なる混沌で噂になりはじめた彼女のうどんを食べたいという食い意地からだ。
「道具も本格的だね。これは期待できそう!」
「もちろんです。芸術的なメッチャ美味しい1杯を作りましょう!」

 お汁は美味しくコクのある作り。
 麺は手打ちでシコシコもっちり。噛むほど広がる小麦の香り。
 薬味に青ネギ、半熟の温泉卵。お好みで醤油を絡めて召し上がれ!

「さぁ出来ましたよ! 目で!舌で!思う存分うどんを味わってください!!」
「やったーお腹すい…」

 ざわ、と店の様子を見に来ていたムーサ人達に波紋が広がる。

 香り自体は食欲をそそられるが、麺はピンクに白の水玉模様。紫色にぶくぶくと泡立つ一皿は毒沼に咲くラフレシアめいた狂気の芸術を帯びていて――

「僕、さっきご飯食べたばっかだったよ。アルタヤの人に譲ろうかな」
「いや、俺もちょっと……」
「私も……」
「遠慮せず! おかわりも用意できますから!」

成否

成功


第1章 第6節

エルシア・クレンオータ(p3p008209)
自然を想う心

「わかりました…燃やします!!!」
「待てぇい!!」
 エルシアの即決に説明を終えた境界案内人はマッハでツッコミを入れた。
「…えっ、どうしてですか?」
「それは僕の台詞だよ。何で急にそんな過激な…」
「だって、炎は芸術なんです。
 何せ、全てを浄化してくれるんですから…悪しきものも、罪さえも」

 それは毎回形を変える、滾る意志の顕現でもあって――
 ひとたびその力を身に宿したならば、どんな絶望さえも跳ね除ける事でしょう。

 或いは、天に…太陽や星々に近付こうという願い。

「人々を照らす希望を我が身も得ようという、人らしい渇望の象徴だとは言えないでしょうか?」
「言われてみれば、確かに…」
 精霊との疎通ができる彼女らしいスピリチュアルな説明に、蒼矢も次第に頷きはじめる。

「同時にそれは象徴に留まらず、実際の利益さえ与えてくれる存在。
 雑草を肥料へと変え、パンを焼き、人々を温めてさえくれる…
 この滅びかけた世界を再生するために、私は燃やします」

 次の瞬間、エルシアの周囲が熱気を帯び、辺りが赤く染め上がる。
 熱風の中で、どこからか花一輪の匂いがした。

「いきます…攻撃集中からの全力火線砲II!!!!」
「納得しかけたけど無作為はダメぇっ!!!!」

 ちゅどーん! すごごごご!!

 間一髪。彼女の一撃はたまたま通りかかった馬車の荷車に直撃し、大量のさつま芋を燃焼。
 エンタメとグルメの両方でムーサ人を潤す事になったとか。

成否

成功


第1章 第7節

御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの

 さて。特異運命座標のエンタメを語るのであれば、その存在は欠かせない。
「オーッホッホッホッ!」
 パーフェクトな高笑いと共に都の中央広場へ現れる人物。
「芸術をお披露目する場と聞いて! 馳せ参じましたわ!
 さあ! このわたくし!」

  \きらめけ!/
  \ぼくらの!/
\\\タント様!///

「‪──‬の! 華麗なる姿をとくとご覧あれー!!」
 ズビシィッ!とアートトリートエクセレントポーズを決めたタントに拍手喝采が沸き起こる。
「なんじゃ、よく分からんが楽しいのぅ」
「嗚呼、愛の手を入れるだけで俺達も元気になって来るな!」
 ムーサ人の掴みはバッチリ。そのままタントはぺっかぺかにおでこを光らせ仁王立つ。
「さあ! 今こそわたくしのきらめきポージング10000連発を…」
「タント様ー、そろそろ帰る準備はじめるよー」
「ぬっ、時間がないですの? では100くらいで!」
 境界案内人の一言を契機にタントはカッ! と覚醒した。
「よっ! ほっ!はいっ!」
 輝きと共に流れる様に繰り広げられるアバンギャルドでエクストリームなポーズの数々!
 終わる事には分厚いギャラリーの囲いができ、歓声が辺りを包んでいた。
「皆様に喜んで頂けましたかしら!」
「最高だったぞ嬢ちゃん!」
「えぇ、とにかく派手に潤ったわー!」
「まあ! ありがとうございますわー!ありがとうございますわー!」
 両手をぶんぶん振って応える姿に、拍手が枯れる事はなく――

成否

成功


第1章 第8節

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛

「カンちゃん、また何か企んでるでしょ」
「こ、これはしーちゃんといちゃいちゃするチャンス!」
(いえいえわかってます。芸術の都の方のお腹をふくらませるんだよね)
「本音と建前が逆になってるんだけど」

 悲恋を嘆き続けた時に比べれば、約束の18歳までなんと短い事だろう。
 それでも互いに触れ合いたい。せっかく気持ちを通わせたから――だから踊ろう、二人で一緒に。

「ねえしーちゃん、ワルツの基本ステップは覚えてる? 僕が教えてあげたんだから覚えてなかったら承知しないよ」
「教えてもらったのは覚えてるよ。でも足を踏んだらごめんね」

 史之の左手と睦月の右手が重なり合い、互いの重心を調節して支え合う。

「いち、にい、さん……そうそう上手」
「カンちゃん、支えにくいからもう少しこっち」

 ぐい、と腰にまわした腕で睦月を自ら抱き寄せながらも史之は頬を桜色に染めた。

(心臓が早鐘をうち続けてる……俺も人のことはとやかく言えないな)

「かわいすぎるんだよ……バーカ」
「……? しーちゃん、何か言った?」

 なんにも、と返す史之の口元は優しく緩んでいて、睦月もつられて微笑んでみせる。

「睦月ー! 史之ー!衣装の準備ができ…うわー!」
「しーちゃん大変! 蒼矢さんが舞台衣装の雪崩に埋もれちゃった!」
「そうだねカンちゃん。惜しい人をなくした……」
「いや、生きてるからね!?」


 ひらり、真紅のスカートが情熱的に波打つ。
 衣装を改めチャイナロリータ風で華やかに着飾った睦月と、彼女と対なす金糸の刺繍が施された黒の長袍を纏った史之。
 二人の姿はムーサ人の注目を集め、優雅なワルツはいつまでも続く。

「見て! あの子とっても綺麗……!」
「エスコートする眼鏡の殿方も素敵……なんて凛々しいのかしら」
「本当にお似合いのペアね…心も身体も潤っちゃう!」

 きゃあきゃあと騒ぐ少女達と睦月の視線が合えば、彼女はパチンと慣れた様子でウィンクひとつ。
 人心掌握術も合わさって、感動のあまり失神する観客まで出はじめた。

「いけるね、しーちゃん。これならきっと都の人達も満足して――」
「睦月」

 最後のステップを踏んだ後、その瞬間は訪れた。睦月の頬を優しく史之の指が触れる。
 眼鏡のレンズ越しに向けられた視線は真っ直ぐ、彼女の心を射抜くほどで。

「――ッ!?」
「固まっちゃってどうしたの。なんだかご機嫌斜め?」
 頬に触れたからかな、なんて素直に謝ろうとする史之に睦月は慌てた様子でわたわたと言葉を返す。
「ちが、え……っと」
「じゃあなに?」
 その時、ステージ脇からの黄色い歓声が睦月の耳に届いた。
 耳まで赤くなったまま、睦月は口を尖らせる。

「僕のしーちゃんが見世物になるのがちょっと不満なだけっ!
 ねぇ、どんなにしーちゃんがすてきでもあげないよ。あげないんだから!」
「大丈夫」
 外野へ視線を外した睦月の意識を再び奪い返すがごとく、耳元へ唇が寄せられる。

「俺は睦月のものだよ」

成否

成功


第1章 第9節

ボーン・リッチモンド(p3p007860)
嗤う陽気な骨
ヒナゲシ・リッチモンド(p3p008245)
嗤う陽気な殺戮デュラハン
シオン・リッチモンド(p3p008301)
嘲笑うリッチ

「おねーちゃんはどんな芸を見せてくれるの?」
 近寄ってきた子供に虚をつかれ、ロベリアは一瞬目を見開いた。
「何もしないわ。乾いているなら特異運命座標のところへお行きなさい」
 優しく背中を押して子供を見送った後に、彼女はふぅと嘆息する。

(毒を作って殺すのを芸とは言わないでしょう? 私には何もない。……嗚呼。でも、ひとつだけ)

 小さく口ずさむメロディ。その旋律に懐かしい音色が重なり、思い出が蘇る。

 君に歌を。俺には花を。そして幕は再びあがる――。
「あの時の歌、覚えていてくれたのかい」
「忘れる理由がないわ」

 短く答えたその言葉に棘はなく、大切な思い出として胸の内に閉まっていたのがよく分かる。
「カッカッカ! それなら今日は新しい旋律を思い出として覚えてくれよ。何たってこのボーン様のヴァイオリンの演奏は世界一だからな!
 芸術世界の危機くらい、どーんと任せておいてくれ! そうだろう、ヒナゲシ、シオン」
 ボーンは霊体のヴァイオリン『Etheric O』を巧みに操り、コンサートマスターの絶技をもって歌を紡ぐ。
 ストリートビートを意識したアップテンポのリズムは誰が聞いてもノリやすく、ギャラリーが手を叩く。場の空気が一帯になったところで――その歌姫は赤兎に乗って現れた!
「HAHAHAHA! ムーサ人の皆!お待たせー! 歌姫ヒナゲシ推して参る……って、あれ? 役者が足りないんだZE」
「おっと。もしかしてシオンのやつ、都の中ではぐれちまったのか?」
 シオーン、シーオーン―……とギャラリーの真ん中で大声で呼びはじめた両親に、建物の影に隠れていたシオンは頬を真っ赤にしながらうずくまった。
「ああああぁ、あのバカ親達ー! そんな事されたら余計に出て行きづらいじゃない!」

 芸術世界が芸術不足で飢餓状態にあるのはわかってるし、その為に馬鹿親達が音楽活動をするのも理解した。
 理解はしていた……けれど! 私も歌うとは!言ってないんですけど!?

「もうそろそろ慣れなさいな」
「無茶言わないでくださいよロベリアさん、あとその神出鬼没なところも慣れないんですけどロベリアさん!?
 嘘、どうして分かったの完璧に隠れてたのに!」
「あら。それは私がシオンに慣れたからじゃないかしら。喜んでくれるわよね?」
「ううぅ、嬉しいですぅぅ」
 ロベリアの笑顔の後ろに猛虎が見えた気がしてシオンはがっくりと項垂れる。
 そのまま手を引きギャラリーの真ん中へと連れて行かれ、両親の元へと顔を出した。

「待ってたぜシオン、まずは一曲いけるか?」
「いや、あの私は……」
「うーん? シオン、何でそんな微妙な顔するのかな?こう見えてお母さんは昔は『聖女』として歌って踊れるなんちゃってアイドルとしてブイブイ言わせてたんだZEー!
 まあ、今はデュラハンだから踊ると首取れて大惨事になっちゃうから! HAHAHA!」
「お母さんの事を心配してる訳じゃないの。私歌うとかあまり自信無いんだけど……ロべリアさんも人前で歌うなんて嫌ですよね?」
 見捨てられるのを恐れた子犬のように縋る瞳で見つめるシオン。彼女の幼気な表情を見たロベリアは、うーんと唇の前で手を合わせながら考えて――
「他人に聞かせられる自信はないわね」
「……! それじゃあ!」
「でも、三人なら怖くないわ。三人なら」
「やったー! 歌姫三人のボーカルユニット結成なんだZE!」
「嘘……でしょ……」

 絶望するシオンの手を取り歌うロベリアは自愛に満ちたしっとりとした歌声で、聞く者全てを癒やしてゆく。
 ヒナゲシはパワフルに、聖女としてのカリスマ全開! 赤兎のいななきも上手く絡めた圧倒的なパフォーマンスで熱狂的な信者を増やす。
 そしてシオンは一生懸命。時々掠れるような拙さと真の強さが込められた声で歌い、応援したくなるような儚い魅力を見せつける。

 そんな歌声達をまとめ上げるのがボーンの圧倒的な奏楽テクニック。
 個性豊かなパフォーマンスがぶつかって打ち消されないよう、器用に、そして時折大胆なアレンジで感動を呼び起こす。

「……っ!」

――歌いきった!
 シオンがそう思った瞬間、割れんばかりの拍手が降り注いだ。
 歓声と熱狂。心が高揚する瞬間。
(そっか……お父さんも、お母さんも、"皆の希望"を浴びて国を治めてきたんだ)

「し、仕方ないわね!もう一回歌ってあげる! べ、別にアンコールに応えたって訳じゃないからね!」

成否

成功


第1章 第10節

イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

 世界から音楽が消えたなら。
 音楽一家に生まれ、幼い頃から音楽と共に育ってきたイズマにとって想像もつかない状況だ。
 今は他の物にも興味があるものの、音楽なくば彼の人生は成り立たない。

「なるほどね……確かに、芸術には技術も必要だし、好き嫌いもあったっていい。
 でも芸術は無限に生み出せるものじゃないし、味わう側の品性も試されるものだ」

 この都がまた芸術で満たされることを祈って――

「あら? この音…」
 キラキラとウインドチャイムの様な輝く音に耳を奪われ、都の人々は周囲を見回した。
 それらしい楽器は見当たらず、代わりに音の出どころを耳で探れば微笑みかけるイズマの姿。
 響音変転で衣擦れの音を楽器に変えて周囲の気を引いた後は、鍵盤を叩きジャズ・ミュージックを奏でだす。

(刺激的なロック、重厚なクラシック……色々あるけど。
 今回は俺一人だし、自由で味わい深い音を届けるならこれに限る)

 最初はテンポよく馴染みやすい旋律から始めて、途中で一旦落ち着いて。
 スウィングに絡めてギフトを使い、ビートを刻んでアレンジしたり。
 紡ぐ旋律だけでなく、選曲順とテクニックで観客の感情の波を揺さぶり尽くし――

 最後はまた盛り上げるようにテンポを上げて、終わる。

 わっ! と歓声があがり、天が割れんばかりの拍手を浴びながら、彼は笑った。
「得意なのは打楽器なんだけどね、ソロならこっちの方がいいと思って。結構練習したんだよ?」

成否

成功

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