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シナリオ詳細

クリムゾンクロスblue、もしくは、青き氷炎の魔術師

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●晴天のヴァルラモヴナ
「魔女よ――」
 指を突きつけ、まるで死の宣告のように囁く青髪の青年ヴァルラモヴナ。
 なびくマントは雲一つ無い空のように青く、首から下を占める甲冑もまた目も覚めるような青に染まっている。
 風もないのに揺れる首元のファーが、まるで獣の尾のようにざわりと波打った。
「鉄槌を受け、廃滅せよ。我らが正義――正しき教えのもとに!」
 突きつけた指から渦のような青き炎が走り、天義パウネロ教会より派遣された銀星騎士団およそ五名がまとめて渦に飲まれていった。
 かぶとが吹き飛び、身体もまた吹き飛んだ団長とおぼしき壮年の男性が煉瓦の壁に叩きつけられ、否たたき壊し、民家の屋内へと転がり込む。
 戦闘の音におびえ竦む女生とその腕に抱かれた幼子を見て、咄嗟に身体を起こす騎士。
 取り落としていた剣をとり、ゆっくりと歩み寄るヴァルラモヴナへと突きつけた。
 目を細め、ゆっくりと首を振るヴァルラモヴナ。
「よせ、人間のふりをやめるのだ魔女どもよ」
「よせ、この人達には手を出すな悪魔どもめ」
 奇しくも言葉のトーンがかぶったことで、ヴァルラモヴナは片方頬と目尻をひきつらせ嫌悪を露わにした。
「人間のふりをするなと、言っているだろうが!」
 空中に生まれた無数の氷塊が素早く削られ、美しい氷の槍と変わっていく。そしてそのすべてが、屋内へと機関銃の如く打ち込まれていった。
 その様子に、先ほどまとめて吹き飛ばされていた騎士たちが立ち上がりヴァルラモヴナへと襲いかかる。団長の声を叫ぶ者。罪なき民を傷つけたことへの怒りを叫ぶ者。そのすべてに対して、ヴァルラモヴナは失笑の表情を返した。
「貴様らは既に人を辞め、旅人などという魔の外来種に魂を売ったというのに……なぜそこまで人間ぶろうとする」
 ドッ、という小さな地響きに次いでヴァルラモヴナ周囲の地面が爆ぜ、石膏のように白い人型の怪物が複数体現れた。
 頭部はヤツメウナギの如くグロテスクな筒状をし、背丈はおよそ3mには達しようかという巨体。突然のことに身構えた騎士たちだが、各一人ずつが怪物に腕と足を掴まれ、乱暴に引きちぎられていく。
 飛び散る血が僅かに鎧へはね、ヴァルラモヴナは取り出したハンカチでそれを拭った。
「だから滅ぼさねばならないのだ。貴様ら魔女は」

●クリムゾンクロス、ヴァルラモヴナ分隊
 アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は天義につてをもつ情報屋ラヴィネイル・アルビーアルビーやその他ネットワークを駆使し、ある集団の情報を追っていた。
 その集団の名は――。
「『クリムゾンクロス』……やはり他にも活動の形跡があったか」
 天義の東沿岸部に存在する独立都市アドラステイア。その中でもひときわ異彩を放つ実験区画フォルトゥーナとの共同で開発されたオンネリネン実験部隊クリムゾンクロス。
 専門的な単語があまりに多いが、要約するに怪しい実験によって作られた異教徒部隊である。
 このクリムゾンクロス小隊は数名の聖銃士と数体の強力な聖獣、そして指揮下にある少年兵たちで構成されている。
 構成メンバーは活動のたび微妙に異なり、いまアーマデルが追っているのは『浄化計画』という作戦の一部であり、構成メンバーは聖銃士のヴァルラモヴナと複数体の聖獣ペネムという顔ぶれであった。
 アドラステイアとは浅からぬ縁をもち、特にオンネリネンの子供達のひとりを無力化、保護した経緯をもつアーマデル。大量に並ぶ専門用語を読み解くのは彼にとって難しいことではない。
「浄化作戦というのは……確かアドラステイアの一部層が推進している旅人(ウォーカー)の抹殺を目的とした作戦か。周辺地域でかなりの規模で行われているらしいが……」
「ん……その通り、です。今回襲われた村は、住民の2%が旅人(ウォーカー)でした」
「2%で……これ、か」
 村の人口はこの襲撃後に72%減少。当時その場にいた者の殆どは抹殺され、生き残ったものは運良く逃げ延びた者か、より運良く村を元から離れていた者だけだ。
 地元の防衛戦力である騎士団も全滅し、現地には死体しか残っていないという。
 そして……同じ悲劇がもう一度起ころうというのだ。
「クリムゾンクロス小隊は過激かつ攻撃的な部隊です。特にヴァルラモヴナ分隊は、すべての旅人を抹殺するべきと、その協力者すらも抹殺するべきと考えている危険な集団です。次の村へ到達する前に、被害を抑え可能な限り迎撃しなければなりません」
「ああ……その通りだ」
 同意しつつ、しかしアーマデルはこうも考えていた。
 保護した少女ミーサの、『皆を、助けてあげてください』という言葉。
 ヴァルラモヴナは、どうすれば『助ける』ことができるのだろうか。と。

GMコメント

 あなたはアドラステイア・オンネリネン・クリムゾンクロス・ヴァルラモヴナ分隊の次なる襲撃計画を事前に察知し、襲撃が行われる集落へ先回りすることができました。
 村人に急速な避難を促し、そしてヴァルラモヴナ分隊を迎撃しなければなりません。

●避難誘導
 己のスキルや工夫等をもって住民避難を促してください。
 コツは、できるだけ大勢に、できるだけ早く、できるだけ確実に住処を離れさせることです。
 一応『言ってることを信じて貰う』という要素もいりますが、皆さんのいうことは極端なことでなければ概ね信じてもらえるものとします。
 地元には防衛戦力はありますが、これをかり出すと避難する村人の護衛がなくなるので、地元の防衛戦力はそっちに預けておきましょう。

●迎撃作戦
 ヴァルラモヴナ分隊の迎撃を行います。
 避難がしっかり行われていれば村をがっつりフィールドとして利用できるので、なにかしらやりたい作戦があったら皆さんの間で話し合ってみてください。

・ヴァルラモヴナ
 アドラステイアの聖銃士。オンネリネンというアドラステイア外部への派遣部隊のうち、フォルトゥーナ実験区画との共同開発によって生まれたクリムゾンクロス小隊の一員。
 炎と氷の魔術を使い分けるアタッカー。だが戦闘データはあまり集まっていないので分からない部分が多い。

 実証はえられていないが、身体の一部を一時的に聖獣化させる強化能力をもっているものと思われる。
 ただし常時使っている様子はないので、いわゆる本気モードや制限解除モードのようなものかもしれない。

・『聖獣』ペネム
 アドラステイアが聖銃士へと与えた使役モンスター。
 聖銃士の命令に忠実でそこそこの知性をもつ。
 全長3m近い人型のシルエットをもつが、頭部はヤツメウナギに酷似している。
 怪力や瞬発力の他、粘液を槍のように硬化させる能力をもち投げ槍など応用のきいた戦い方も可能。
 ローレットは以前にも戦闘経験があるが、ハイレベルなギルド員が二人がかかりで戦っても倒し切れていない程度には強い。
 外見のわりには知性がはたらくようで、回り込みをかけたり戦力の投入タイミングを計ったりといった器用な戦術も用いる。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

■■■おまけ解説■■
●独立都市アドラステイアとは
 天義頭部の海沿いに建設された、巨大な塀に囲まれた独立都市です。
 アストリア枢機卿時代による魔種支配から天義を拒絶し、独自の神ファルマコンを信仰する異端勢力となりました。
 しかし天義は冠位魔種ベアトリーチェとの戦いで疲弊した国力回復に力をさかれており、諸問題解決をローレット及び探偵サントノーレへと委託することとしました。
 アドラステイア内部では戦災孤児たちが国民として労働し、毎日のように魔女裁判を行っては互いを谷底へと蹴落とし続けています。
 特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/adrasteia

●聖銃士とは
 キシェフを多く獲得した子供には『神の血』、そして称号と鎧が与えられ、聖銃士(セイクリッドマスケティア)となります。
 鎧には気分を高揚させときには幻覚を見せる作用があるため、子供たちは聖なる力を得たと錯覚しています。

  • クリムゾンクロスblue、もしくは、青き氷炎の魔術師完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年05月08日 22時04分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
私のイノリ
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
メルナ(p3p002292)
太陽は墜ちた
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女

リプレイ


「みんな、聞いて。この村を武装した集団が狙ってる。誰を、じゃない。どこを、でもない。
 この村のみんなの命を手にかけるために向かってるの。
 彼らの目的は食料でも奴隷でも、ましてや家や宝石でもない。
 みんなの命を奪うことだけを目的に、怪物の群れをつれてやってくる。
 話し合いなんてできない。今は逃げるしかないの!」
 『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)の演説をうけて、はじめは半信半疑だった人々は耳を傾け始めていた。
「分かったよ。貴重品をまとめてくる。家に閉じこもってる奴にも話してくるよ」
 完全に内容を信じ切ったというには少々怪しいところだったが、スティアの話自体は受け入れてくれたようだ。
 その様子に『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)も頷き、二人は残る人々の避難誘導をすべく走り出す。
「目的を達成する為には手段を選ばないなんて……。
 非常に危険な思想の持ち主のようだね。
 これ以上、好きになんてさせてあげない!」

 村の避難は進んでいた。『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は周囲のざわつきに怯え家に閉じこもろうとしていた人々に手を差し伸べ、時にはあえてたより、連鎖的に避難民を増やしながら村の中央へと移動していた。
「『全ての旅人を抹殺するべき』ね……。
 自分達とは違うものは、怖いわ。
 でも、それから目を背け続けちゃいけない」
「その通りだ。だが価値観異なる者を『助ける』のは難しい。
 法や理、人道、慣習……集団によって異なり、唯一絶対の価値観など無く。故に『正しさ』の在処も人の数ほどある」
 足の不自由な老人を馬車へ補助し、『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は小さく首を振った。
「それでも、死ねばそこで終わりだ。
 生きていれば、所変われば……見えるものも変わるのだろう。
 往くべき処へ送る事が『救い』を与える事であった俺が、必ずしもそうではないと思うようになったように」
 二人はすこしだけ前……そう、ほんのすこしだけ前に特別秘密教会で面会した人々のことを思い出した。
 だれもをいちどに救うことなどできない。
 差し伸べた手が必ずしも掴まれるとは限らない。
 けれど。
「差し伸べなかったら、掴めないわ。差し伸べ続けることがつらかったとしても」
「ああ、続けなければ……まずはそこからでしか、変われない」

 一方で、『揺らぐ青の月』メルナ(p3p002292)は怪我で松葉杖を使っているという女性を背負って小走りに避難所へ向かっていた。
「実験部隊なんてものまであるなんて。あそこは、内でも外でも命を蔑ろにしてばかりだね。
 子供達は悪くない。けど今は……村を守る事に集中しなくちゃ」
 不安そうにする家族へあえて微笑みかけ、頷いてみせるメルナ。
「大丈夫! 村も、避難する皆の背中も、必ず私達が守ってみせるから」
 同じく人々をとりまとめて避難所へと到達していた『雨は止まない』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)。
 腰に片手をあて、胸を張るようにあごをあげる。
「それにしても”ようやく”だ。ようやくの先回り。不甲斐ない結果は見せられないねぇ……」
 目の前の憎いなにかを壊し続ければ、オンネリネンの子供達はすこしはスカッとするかもしれない。
 大人のいうことを聞いて戦って、大人から言うとおりのご褒美を貰っていれば幸せかもしれない。
 一方で、オンネリネンの子供達をすべて消し去って、街ごと爆破してぜんぶなかったことにしてしまえば楽かもしれない。
 今不安がっている村人たちも安心するかもしれない。
 けれど、どちらか一方だけを助けるつもりは、シキにはなかった。
「守るさ、ぜんぶ。私は欲張りなんだ」
「それは、私もだよ」
 避難民を送り終え、振り返るメルナ。
 二人は頷いて、迎撃準備のために走り出す。

「みなさん、大至急お話があります。まもなくここへ危険な軍隊がやってきます!」
「これから、アドラステイアの騎士たちがこの村に攻撃してくるんだ。ぼくたちがなんとかするから……あっちに逃げて!」
 『メサイア・ダブルクロス』白夜 希(p3p009099)と『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)が大声でむけた呼びかけは、多くの人々を動かした。
 希の呼びかけた、旅人改悪説を布教しているアドラスティアの部隊クリムゾンクロス。
 村人たちは半信半疑でこそあったが、希の真剣な様子にひとまずは言うとおりにしてみようかという話になってくれた。
 彼らは家の戸締まりや貴重品の持ち出しをしっかりとしてから、希たちの誘導するとおり村の中央にある集会場へと避難していく。
 はじめは村の外に出すべきかと考えたが、クリムゾンクロスのヴァルラモヴナ部隊がどの方角から攻めてくるかわからない以上、はちあわせのリスクを避けるには中央へ避難するのが無難だった。
 ある程度の避難を終えると、リュコスは深呼吸をしてきびすを返した。
 長い髪が風をまいて、すこし灰っぽい空気が流れていく。
 独立都市アドラステイア。
 狂信の子供達。
 あの町が生み出した悲劇の一端と、リュコスはコーヒーを挟んで話しをした。
 みんな、不幸になりたくてなったわけじゃない。
 ひどいことをしたくてしたわけじゃない。
 幸せになりたくて、誰かのためになりたくて、どうしようもない袋小路に入り込んでしまった。
 自分じゃ抜け出せないような穴にはまってしまった。
「……だったら、引っ張り出してあげなきゃ」
 きっと自分も、できるはずだから。


 人生すべての場面において、いつも準備ができるとは限らない。
 受験勉強やスポーツ大会のようにコンディションを合わせることができる場合もあれば、路上でのエンカウントや突然のトラブルのように準備を全くさせてくれないこともある。
 今回はある程度クリムゾンクロス小隊の動きを先回りできたとはいえ――。
「余裕で準備ができたとは、さすがに言いがたいねぇ」
 シキは村の南東より侵攻が確認できたペネムの一団に備え、村から調達した廃材や空の酒樽を主要な道路に転がして進路を妨害するという手をとっていた。
 短時間で敵を妨害できるという点において、かなり冴えたやり方である。
「こっちは敵の動きを見てから行動できるもんね。手間を一個でも増やせば有利! ってわけだね」
 ナイスアイデア! と酒樽を嫌な方向に転がして鍋やら漬物石やら適当なもので輪留めをしていく。
 迂回してくれれば進路が狭まり、破壊するなら攻撃を一手遅らせ、丁寧に解除などしはじめれば格好の奇襲チャンスとなる。敵もそこまで愚かだとは思わないが……。
 一通りの準備を終えたところで、メルナはあらためて両手剣をぬいた。
 しっかりと柄を握り、呼吸を整える。
 一度閉じた瞳をひらけば、青く澄んだ満月の夜空のような、深く冷静な目になった。
 その様子を見て、『来たのかい?』と処刑剣を握り込むシキ。
 民家のそばに身を潜めてみれば、大通りをペネムの一団が進むのが見えた。
 きょろきょろとあたりを見回しているようで、なにかを探しているようにも見える。
 そしてペネムのうち一体が、ぴたりとメルナのほうへ顔を向け、動きを止めた。
 それだけだ。それだけの動作だが――。
「気付かれた! 飛び出すよ!」
 メルナは直感で飛び出すと、すさまじい速度で粘液の槍を投擲してくるペネムの攻撃を回避。
 路上へあえて転がり出ると、身を低く構えて積み上げた樽を遮蔽物とした。
 次の攻撃を構えたペネム――に、あえて建物を回り込んだシキが背面より奇襲をかけた。
 先述した罠の効果はもうふたつ。敵側から見た『咄嗟の攻撃のしずらさ』と『それにとらわれた時の隙』である。
「『ちょっとした時間稼ぎ』が……生死を分けることもあるんだ」
 すぱん、と処刑剣がペネムの腕を切断。
 攻撃モーションにあったペネムがバランスを崩して転倒し、樽に板をたてかけることで簡易ジャンプ台としていたメルナが罠を飛び越えて斬りかかる。
「何度も何度も。好き勝手はさせないから……!」
「それと『飼い主』へ伝言! せっかくだから、私たちのことも知ってからあーだこーだ言ってくれるかなぁっ」
 メルナとシキによる交差斬撃が、ペネムの肉体を強引に分割していく。

 一方こちらはリュコスと希。
 南西部の田園地帯より、泥水を踏んで進むペネムの一団を農具置き場として使われていた小さなガレージからのぞき見ていた。
 ペネムはきょろきょろと何かを探している様子で、その一連の動きから何らかの探知能力があるもの……と、希はふんだ。だが即座にこちらを見つけていない所からして、それほど強力なものでもなさそうだ。
 希が『作戦開始』のハンドサインを出すと、リュコスはわざと田んぼに突っ込んで幼い子供のように鳴き真似をした。
 その様子に気付かないペネムではない。
 確実に殺せる、と考えたのかペネムは粘液の槍を作り出し、リュコスめがけて襲いかかる。
 泥水を踏み弾きながら跳躍し――たペネムを、安定したフォームで空中に浮遊した希が不思議な囁きによって打ち抜いた。
 反撃をしかけようと咄嗟に槍を放つペネムだが、希はまたも不思議な囁きによって治癒フィールドを形勢。
 リュコスは攻撃対象が希にうつったその隙をつくかたちで急接近。宙返りからの跳び蹴りをたたき込み、ペネムを思い切り吹き飛ばした。
 田園の上を泥にまみれながら転がっていくペネム。
「Uh……目がどこにあるかわからない。怖いんだよ……」
 一方リュコスは安定して着地しつつ、希に『あとは任せて』の合図をだした。
 頷き、希は低空飛行モードにはいると特定方角に向けて一直線に飛び出していく。

 教会のたつ大通りを、スティアとエイヴァンのペアが駆け抜けていく。
「住民避難は完璧。バリケードをつくる時間はなかったけど、そこはがんばりでフォローかなっ!」
 教会を通り過ぎた所で二人同時にブレーキ&ターン。
 追跡していたペネムがここぞとばかりに投擲する粘液槍を、エイヴァンが前に出て防御を開始。
「もっといえば、味方と合流する時間も欲しかったかな!」
 スティアは腰のつりさげベルトから取り外した本を開き、吹き上がる魔力を天使の羽根のように可視化して散らしていく。
 大きな羽根が無数に空中に生まれて回転し、そしてそのすべてが白いラインで繋がっていく。
 なぜ?
 いまこの瞬間、大量の氷の槍と炎の手が襲いかかっていたからだ。
 魔法の奔流が被さるが、スティアは周囲を包み込む白い聖域を線と面で包んだ殻によって防御していく。
「逃がさん。ウォーカーを……魔女を守護する邪教徒たちよ」
 杖をかざし、指でくるくると回して突きつけるように構えるヴァルラモヴナ。
 青いマントを魔炎の風圧でなびかせ、取り出した銀の眼鏡を片手で振るようにして開く。
「我ら『オンネリネンの子供達』。ファルマコンの名の下に選ばれし聖戦の神兵である。
 世界を廃滅せし魔女の手先どもよ、死して平和の糧となれ!」
 合わさった魔炎と魔氷が巨大な翼のような形を作ると、ヴァルラモヴナはスティアめがけ全力をぶつけ――ようとした、その瞬間。
 民家の窓を突き破って希が現れた。使い捨てのジェットパックを放り捨て、囁きのまほうを放った。
「貴方も人をもう信じられないの? 外で過激な強制布教活動はダメよ。壁の中でやりなさい」
「――!?」
 索敵可能範囲外からとんでもない速度で接近し打ち込んできた希に、ヴァルラモヴナもペネムも反応ができなかった。
 直撃を受けてぐらりと片膝をつくヴァルラモヴナ。
 そこへ更にアーリアとアーマデルが駆けつけた。
 狙いは一本、ヴァルラモヴナ。
 アーリアはとろんとした色の小瓶に口をつけると、つやめいた唇で小瓶にキスをした。
 同時にアーマデルは蛇鞭剣ウヌクエルハイア&蛇銃剣アルファルドを同時展開。蛇腹に伸びた剣がヴァルラモヴナへ巻き付き、そこへアーリアの投げた小瓶がぶつかる。広がった凶悪な魔女の呪いがヴァルラモヴナへと浸透していき、ここぞというタイミングでアーマデルは呪殺弾を発射した。
 非実体弾がヴァルラモヴナの胸を打ち抜いていく。
「彼が弱っていれば、どうにか捕縛出来ないかしら。
 キシェフを抜いて、あの施設で休ませれば――せめて、身体くらいは」
「そうできれば何よりだが……」
 ぐったりと傾いたヴァルラモヴナの背より、炎と氷の翼が再び広がった。魔法の……ではない、まるで身体から直接はえたかのように飛び出し、彼の両手それぞれもまた炎と氷のそれへと変わっていく。
「あれで弱っているなら、俺たちは殺虫剤をふきかけた文鳥なみに弱っていることになるな?」
 肩をすくめるアーマデル。アーリアは額に手を当てた。
 そして、希へとゴーサインを出す。
(この中ではお前が一番はやく集会場へたどり着ける。
 安全な方角から村人たちを逃がせ。ここは俺たちが――)
(時間を稼ぐわぁ)
 変異したヴァルラモヴナをアーマデルとアーリアがそれぞれはさむように陣取った。
 顔半分を魔炎で覆ったヴァルラモヴナがぎろりと二人をにらみ、手にした眼鏡を冷静に装着した。
 未だ稼働しているペネムたちをエイヴァンとスティアがそれぞれはさみこむ。
 そちらはスティアたちに任せるのがよいだろう。
 ペネムもそれなりの強敵であるとはいえ、スティアたちの能力ならしばらく押さえ込むことが出来るはずだ。
「『助ける』のは、せめて決着がついてから……か」
 アーマデルは再び蛇腹剣を放つ――とみせかけて急速に後方へとびながら足止め用の非実体弾を乱射。
 常人ではとてもではないが回避できないような銃撃を、変異ヴァルラモヴナは魔氷の腕でつかみ取った。
 衝撃ははしった……が、それを無理矢理殺して魔炎の腕を横一文字に振り込む。津波のようにはしる炎に、アーマデルは素早く防御に転じた。
 同時に、反対側からはさみこんでいたアーリアが魔法の手袋で投げキスを放ち、ヴァルラモヴナを四方から立ち上がった箱によって包み込んでいく。
 二秒ほどで内側から打ち破り、『今度はこちらの番だ』といって魔氷の腕を素早く延長したアーリアの首を掴む。
 今の戦力で打ち倒せる……とは、思えない。
 だが。
「みんなが避難する時間が稼げれば、私達の勝ちよぉ」
 うっすらと笑うアーリア。
 その狙いに気付いたヴァルラモヴナは希の向かった方角へと飛び立とうとするも、足首にアーマデルの蛇腹剣が巻き付いていく。
「貴様……!」
「逃がさん。……と、今度はこっちが言う番だな」
 振り払おうと放たれる魔法の炎を、素早く割り込んだスティアが聖域化した殻によって防御する。殻は破壊されるも、新たな羽根を大量にちらし何重にも殻をかさねていく。
「これ以上の虐殺なんて、させないから……!」






 結果として、ローレット・イレギュラーズは依頼通り村の虐殺を防ぐことに成功した。
 戦闘には敗れ撤退することにはなったが、その頃には追加避難誘導に協力したリュコスやシキ、メルナたちの活躍によって村人たちは無事村を離れていたのだ。
 ヴァルラモヴナたちの目的が村人全員の抹殺であったために、彼らは村を占領できこそしたものの、非常に苦い思いをしたことだろう。
 そして。
「いつかこの決着はつけるぞ。魔女の手先――いや、ローレット・イレギュラーズ!」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――依頼達成
 ――村は占領されましたが、肝心の村人は救うことが出来ました。
 ――天義正教会よりの配慮によって、村人たちの移住先はすぐに用意されるようです。

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