PandoraPartyProject

シナリオ詳細

小夜啼鳥を啼かす為

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『にせもの』が本物になるために
 軍靴の音高らかに。無数のモンスターを引き連れて『元・領主』が姿を見せたと聞いている。
 領主『代理』は地が蹂躙される前に人々を派遣する用意を調えていた。
 領主を追い遣ったとしても、彼はまた攻め込みに来る。
 此の地に住まう民を護る為の騎士団を編成し、彼を食い止めなくてはならないのだ。
 ――勿論、団員も民ではあるのだが。それでも、

「……頼めますか」

 静かな声で、領主『代理』はそう言った。苦しげに表情を歪めて、頭を深く下げる。『貴族』らしからぬ男のその行いに団員達は響めいた。
 この様な事になった理由は分からない。傭兵の派遣申請をし、モンスターを倒すことを望めど『それを繰り返す』だけの蓄えを彼は持っては居なかった。
 ローレットでも傭兵でも、何でも其れ等を動かすならば賃金が発生する。『元・領主』による悪政はそうする事を難しくしていた。領地の経営は傾き続けている。騎士団に頼らず幾度も彼等を呼んでいれば、領の寿命は縮まるだろう。
 未来のために。領主代行が苦しみながらも選んだ選択肢出会った事を民は知っていた。
 知っていたからこそ「代行様、頭を上げて下さい」「私達は、この地を護る為に戦えるのです」――決意、していた。

 少年少女は盗み聞き、勢いよく扉を開いた。鈍い音と共に縺れ込んだ複数の幼さの残るかんばせ。
 それらがその場に居た騎士団団員の子等である事に気付いて領主代行は「ああ」と呻いた。此れから、彼等から親を取り上げ、戦場に送らねばならないのだ。
「父さん! 行かないで! 大丈夫だよ、俺、いっぱい、働いて傭兵を呼ぶから!」
「お母さん、お母さん!」
 悲痛な声だった。喉が引き裂けんばかりに、子供らは懇願し叫んだ。
 それでも、騎士団も、領主代行ももう決まったことだからと首を振った。悠長に子供らを宥めている暇も、無かった。

 誰もが、確信していたのだ。
 屹度、彼等は此処で死んでしまう。ちっぽけに、簡単に。革命は血を求める者なのだから。
 誰もが、理解していたのだ。
 屹度、これが最後の別れになると。
 それでも、彼等は向かわなければならなかった。
 目の前で泣きじゃくる小さな我が子。彼等の掌が、真っ赤に染まらないために。此処で止めなくては――


「少しだけ急ぎで、いいかしら」
 ごめんなさいね、と『灰薔薇の司教』フランツェル・ロア・ヘクセンハウス (p3n000115)は肩を竦めた。
 幻想の辺境に存在する領で革命が起こったらしい。『動乱』により領主の圧制へと打ち勝つためのレジスタンスが、各地に発生したモンスターを利用して何とか領主を追い出した――迄は良かったが、領主がモンスターを連れて戻ってきたというのだ。
「この依頼は、気持ちの良いものでは無いと思うわ。
 まず、革命に手を貸す訳ではないの。領主代行をしているレジスタンスのリーダーから懇願された、少し苦しくなるお話」
 領主代行は、領主が必ずしも報復にやってくると考えていたらしい。ソレに備えて騎士団を編成していたそうだ。
 案の定、領主は様々なモンスターを従えて、領へと舞い戻った。己を馬鹿にしたと領地を蹂躙するために。
 確かに、その凶行を止めるとなればなかなかの重労働だ。ローレットではそうした事件にも依頼があれば介入している。
 ――だが、領地の民は「これは自身らのやるべき事だ」「他者の力を借りては領主と同じだ」と譲らないのだという。

「皆に手伝って欲しいのは、騎士団の出立を邪魔する子供達を食い止める事よ。
 手段は何だって良いのよ。戦えない子供達は武器を持ってでも、彼等の出立を食い止めるでしょうね」
 騎士団は多くが素人だ。全員が生きて帰る保証はない。寧ろ、呆気なく死んでしまうことだろう。ちっぽけに、簡単に。
 革命を成せたとしても――領主の首を取り、死という終焉を与えることが出来たとしても。
 犠牲は多くなるはずだ。
 子供達とてバカではない。ソレを理解していたのだ。此れから戦に出る両親との別れを食い止めたい一心で武器を手にしている。
「もし、此処で、子供達を放置すれば騎士団は出立できない。彼等一同からの、小さなお願いなの。
 ……自分の命可愛さに、他の人が死んだら、もっともっと悔みきれないほどの後悔をしてしまうから。
 だから――だから、子供達を止めて欲しい。良い別れにならないかも知れない、それでも」
 それでも、彼等が生きて居行く未来が存在して居ればそれでいいから。
 フランツェルは其処まで告げてから、「お願いできるかしら」と肩を竦めた。浮かべた笑みは唯、苦いだけだった。

GMコメント

夏あかねです。部分リクエスト有難うございます。
心情シナリオ、と呼ぶべきかも知れませんね。

●成功条件
『子供達』を食い止める(死亡させれば失敗)

●幻想の郊外に存在する小さな領
 名すら大して誰も知らぬような、そんな場所。星穹 (p3p008330)さんとヴェルグリーズ (p3p008566)さんが偶然、フランツェルと聴いたレジスタンスの噂。
 悪政に苦しんだ領主を領から追放することに叶ったという輝かしい結果。そして、その結果、モンスターを引き連れた領主が戻ってきたのだそうです。
 革命の最中で有るために、其れ等全ては『大人』で引受けるとし、自身らの力で為す事を彼等は望んでいます。
 その為に騎士団を編成し、元領主へと対抗する力を用意した――つもりでした。ですが、呆気なく彼等は死ぬでしょう。
 それでも、行かねば子供達の未来がないと彼等は決意しています。その決意は揺らがず、固いのです。

 ・騎士団には子供を持つ親が居ます。それは大勢かも知れませんし少数かも知れません
 ・騎士団の親たちは子供の為にこの改革を成そうとしています。
 ・誰もが「誰かに頼れば良い」と分っています。それでも、自身らで成せない改革は、良い結果を生まないことを知っているが故に傭兵を雇うことはしません。
 ・親たちは子供達が武器を手にすること無き未来を目指しています。
 ・騎士団を送り出せば『団員の大半は死に絶えるでしょう』が『元領主の首を取る事ができます』=未来は安泰です。

●子供達 10名
 騎士団に両親(または父か母)が居る子供達です。年齢層は8~13才。
 武器を持ち、力尽くでも親を止めようとする子供も居ますし、何を言われたって理解出来ないと叫ぶ子も存在します。
 彼等は全員『おかあさん(おとうさん)をかえして!』と叫んでいます。
 喩え、将来自身が武器を手にすることが無くても、掌が真っ赤に染まることが無くても。それでも、おかあさんとおとうさんにはいてほしかったんだ。

 子供達が騎士団に追い付く前に介入可能です。
 説得または力尽くでの対処を行って下さい。出来る限り、その心に寄り添い、貴方の気持ちを伝えるようにしてやって下さい。
 親を此れから亡くすのです。できるだけ、寄り添った対応をする方が好ましいと依頼人である領主代行からメッセージが入っています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 小夜啼鳥を啼かす為完了
  • GM名夏あかね
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年05月15日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
星穹(p3p008330)
約束の瓊盾
※参加確定済み※
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
※参加確定済み※
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者

リプレイ


 その依頼書を初めて見たときにマルク・シリング(p3p001309)は納得できないと呻いた。
 領地を襲う不平を正すために、命を賭す。ただの美談になるしかないその現況を全ての見込み是としろというのは余りにも――
「僕は領主のやり方には納得していない。必要なときに外部から然るべき協力を仰いで、足りない部分の助力を得る事も、指導者に必要な資質の筈だ」
 ファミリアーの足に手紙を括り付ける。それが『最後の時間』が差し迫った大人達への最後の説得だった。
 彼等が納得しているから――それを是としない存在が居る事は子等を見れば解るでは無いか。
 彼等が決意しているから――それが唯のハリボテの英雄譚としか語られない事は端から見れば理解出来るではないか。

 ――貴方がやろうとしていることは、未来を拓くための犠牲なんかじゃない。
 無能な為政者が無為な犠牲を積み上げて、血塗られた未来を作る自己満足の愚行だ。
 今からでもここにいる8人を、ローレットを頼れ。依頼に必要な資金は、後から工面すればいい。
 けれど、死んだ人は、決して帰ってこない。
 貴方が真に領地の未来を願うなら、取るべき選択肢が他にあるはずだ。

 その手紙を受け取った領主は「遣らせて下さい」と呻いた。馬鹿らしい自己満足だらけ、そう言われようとも彼等はそうすることで己達が間違いではないと言いたかったのかも知れない。
 圧政より解放されて辿り着いた果てに。自身らが犠牲になってでも導いた最善は間違いではなかったと――そう言いたかったのだろう。
「自己犠牲は唯の自己満足です。未来の英雄譚は血塗られた歴史であろうとも美談として語られる。ですが、残された子等は――……」
 マルクの問い掛けに領主は唯、哀しげに首を振るだけだった。
 もう決めたことだと、そう返されて何も出来ないままに俯いて。
「どうしてもですか」
「……どうしても、です。もう少し早く――貴方と、出会いたかった」
 大丈夫だと手を差し伸べてくれれば、先に散っていった彼等は戦場へ行くと決めることはなかったのだろうと。


「自己犠牲の精神って奴は素晴らしいわね、その行為が最善策といえるのかは知らないけど……」
『狐です』長月・イナリ(p3p008096)は小さな声音で呟いた。風に髪飾りを揺らして、イナリは街道に立っている。
「何というか……やりきれないわね。
 これが依頼でないのなら、すぐにでも騎士団を追って援護するというのに。実際にやることは親を想う子の足止めになるなんて、ね」
 例えば、マルクのように領主に直談判する事は許されても、此れから騎士団を追って彼等が死なぬように取り計らうことは『依頼』外になる。そう思えば『「Concordia」船長』ルチア・アフラニア(p3p006865)は「悔しい」と呟くことしか出来なかった。
 とは言えども此れは仕事だ。オーダーは『子供達の足止め』である。ルチアが、イナリが何を思おうとも感傷も感情も出すべきではないのだろう。
「あぁ、何故このような……いえ、これは既に決まった事、私が口を出して変えられる事ではありません、か……」
 領主が「もしも皆さんに出会うのが早ければ、先に戦場に出ていった者達も救えましたか」と泣いた言葉から『断ち斬りの』蓮杖 綾姫(p3p008658)は並々ならぬ決意を感じていた。誰かが犠牲になった後――そうして、進んできた道を今更返ることは出来ないか。
「いいえ、いいえ、拙達に任せて頂ければ、簡単に、とは言えませんが――」
 其処まで紡いでから『敏腕整備士』橋場・ステラ(p3p008617)は哀しげに眉を顰めた。「いえ、もう決まって、止まらないのですよね?」と問うた言葉にマルクが神妙に頷く。
「親は子よりも先に命を失うのが大抵で通常なのだという。なら、此の非日常も当然と割り切るべきなの?」
 ぽつりと呟いた『死ぬまで死なない』星穹(p3p008330)は悔しげに唇を噛んだ。傍らに立っていた『全てを断つ剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は神妙な面立ちの儘、星穹の言葉を聞いている。
「ヴェルグリーズ様。私が、もしも泣いてしまいそうになったら……叱ってくださいね。約束、です」
 呟かれた言葉に、ヴェルグリーズは小さく頷いた。それでも、何処か困ったような顔をして、苦く笑いを噛み殺して。
「叱る? ……自分が許せないのならいくらでも叱ってあげる。でも、早すぎる別れはいつだって辛いものだから、それでいいんだ」
 誰だって、泣き出してしまいそうな現実が其処には存在して居るとヴェルグリーズはそう言った。
「……大人たちの身勝手に振り回される子供達、ですか。大人達のやることや言い分も理解はできますが、ままならないものですね」
 理解出来るからこそ、儘ならぬものなのだと綾姫は呟いた。
 街道に向かってくる子供達は、皆決意したような顔をしていた。『汚い魔法少女』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)は其れ等を一瞥してから肩を竦める。
「親が子供のために犠牲になるのは当然でしょ? 親なんか使い捨ての踏み台として扱うべきなのよ。
 それが分からないバカとは分かり合える気がしないし、分かり合いたくも無いわね」
 少女にとっての心情だった。掛ける言葉は無いが、説得をすると言う仲間達の話を聞かぬ子供も簡単に通す気は無かった。
 面倒ね、と呟いた声音が空気に溶け入り消えて行く。誰だ、と叫んだ子供の嗄れた声は泣いているかのようであった。


 ――親として、此の地に残す子供達に捧げる言葉を手紙にしてはくれないか。

 そう頼んだイナリに領主は快く了承した。その頼み事の代わりにと、騎士団には戦況が有利になるようにと情報を齎した。
 aPhoneで情報の録音などが出来るだろうと考えたステラは出来るように改造だって何でもしてみせるとメッセージや声を子供達に残してくれないかと望んだ。可能な限りの協力が欲しい、練達の機械で在ると言う旨を語れば彼等とて無碍にはしない。
「一言でも良いのです、遺す言葉になるかもしれませんが、帰ると約束をして約束を果たす為に、ギリギリでも頑張れるかもしれないじゃないですか」
 責めて、其れだけでも良いからと。領主代理に頼み込めば彼はマルクの説得に苦い顔をしていたそのかんばせに哀しげな色を湛えておずおずと頷いた。
 使命感による自己犠牲。其れ等を行う彼等から手紙や形見となる品々を集めながら綾姫は「祝福の祈りを送らせて下さい」と囁いた。
 記憶は朧気であれど、武神から権能を預かる剣の巫女であった身の上だ。出来うる限りの『危険』から遠ざかって欲しいと静かに祈りを込める。
 ああけれど――
「子の幸ある未来を望み戦いに臨む皆様に武運長久を」
 ――此れから死にゆくとされる人々に長久を、だなんて皮肉でしかないではないか。
「子供達に恨まれる覚悟と、『仕方ない』で済まさないでください。そして、子供達の生活の保障と騎士団の残す平穏の維持を」
 領主代行は「解っている」と呟いた。彼とて、この決断は辛いのだろう。莫迦なことをして居ると解っていると、と呟いた言葉に「どうして」とはもう言えなかった――

 眼前の子供達の前へとするりと歩み出して割って入ったルチアば「御免なさいね、ここから先に通すわけには行かないの」と肩を竦めた。
 紅色の髪が風に揺れている。普段ならば戦闘の作戦を、と立案する彼女も今日という日ばかりは戦闘とは口にはしたくはなかった。
「どいてください」
 少年が、真っ直ぐにルチアを睨め付ける。鋭い眼光には決意が乗っているのが嫌とと言うほどに解った。
 出立する騎士団達を手で追い払う。先に行くのだとジェスチャーを行ったルチアに苦しげに頷き走り去って行く背中。
「お母さん!」
 呼ぶ声の前にそっとマルクは膝を付いた。武器は持ってはいない。子供達を前にして、戦う力など必要ないからだ。
「少しだけ、話を聞いて欲しい」
 静かな声音でそう言った。待って居ては両親達が居なくなってしまうと隙を付いて走り出そうとした子供の体が落とし穴へと落ちた。膝から崩れるように躓いた子供達を見下ろして星穹はぐ、と息を飲む。
「どうしてッ! お母さんが――!」
「……どうか、どうか話を聞いてくれませんか。貴方達のお母様や、お父様から。預かっている想いが。未来が、あるのです」
 紡ぐ言葉は震えていた。汚い大人だと罵られても、最低だと詰られても、外道だと責められても。
 星穹はその傷みさえも許容しなくてはならないと。誰かの家族を殺し、誰かの家族を救う。そんなちぐはぐな仕事が傭兵稼業であると、嫌という程理解しなくてはならなかった。
「ッ、嫌だ!」
 駄々をこねる子供が飛び込んだ。その体を受け止めたステラは首を振る。「攻撃をしてくるなら幾らでも受けましょう、それで気が済むなら幾らでも」と静かな声音で告げるステラがびくともしないことに気付いて子供は崩れ落ちた。
 涙に濡れて、呻く。どうして、どうしてと呟き続けるその言葉に綾姫は息が詰る。誠心誠意、心を尽くして下手なゴマ科知りゃ理詰めな会話は避けることを心がけた。
「……話だけを、少しで良いのです」
「で、でも、そうすると……」
 解っているよとヴェルグリーズは苦しげに微笑んだ。彼等の両親は彼等のためを思った。それでも、拭いきれない心の痛みは、其処に残ったままだから。
「話を聞きたくないなら聞かなくても良いわよ。けど、力尽くで止めさせて貰うから。
 どうこう言うつもりはないもの。私達は止めに来たんだもの。手っ取り早くボコったら終わりじゃない? 話すだけ良いと思って」
 メリーはふん、とそっぽを向く。その傍らには彼女が引き連れる獣の姿があった。子供達は茫然とイレギュラーズを見る。自身らを止めに来た――命を奪わいという範囲で。
「……も、もし、無理に追いかけたら……?」
「聞く必要があるわけ?」
 メリーの言葉に子供達はひ、と息を飲んでから指先を震えさせた。視線を合わせたマルクが「大丈夫だ」と宥めるその声に縋るように頷いて。


「止める気持ちはよく分かるわよ。私だって、立場が同じならそうしたでしょうね」
 己と父を亡くしているのだろルチアは最初にそう言った。故国を護る為、死地に往った父を止める機会すら無かったのだ。
 両親を亡くしているというのは何もルチアだけではないとゆっくりと歩み出るのはイナリ。
 イナリは小さな子供の手に手紙をそっと握らせて微笑む。だが、彼女には『両親』は存在して居ない。元より、彼女には傷ましい記憶など、ない――だが、優しい嘘のように、彼女は紡ぐ。
「私も君達を同じ様に両親を早くに亡くし、君達と同じ様に両親の後を託された。……最初は勝手に後を託された両親が憎かった、悲しかった」
 ぐ、と息を飲む。その声音から滲む悲痛な気配に子供達が息を飲んだ。
「でも、両親が自らを犠牲にしてまで託してくれた物――私の命があるから、今こうして大勢の人達を力になれる行為が出来る。
 だから今は納得出来なくても、悲しくてもこの場で立ち止まるべきだ! 両親は君達にこの地を託したのだから!」
「ええ。ええ……貴方達のお母様やお父様から、託された未来と思いが、貴方達を永らえさせる」
 星穹は『泣いてしまわぬように』とわざと表情を硬くした。ヴェルグリーズは「星穹さん」と彼女の名を呼ぶ。
 泣いてはいけない、泣いてはいけない――泣いてしまったら、子供達を説得出来やしないのだから。
「命は、必ず尽きるものです。彼らとて我が子を置いて死にたいとは思っていないでしょう。
 ですが、ですが。其れでも。貴方達の未来が、輝かしいものにならんと願って、其の命をもって、未来を拓こうとしているのです」
「お父さんが居なくっちゃ……未来なんて!」
 苦しい思いだ。ヴェルグリーズはその言葉に頷いた。そもそも、簡単な言葉だけで理解をしてくれるのならば、彼等はここに居ない。

 ――お父さんとお母さんはこの場所を護る為に戦いに行きましたよ。

 それを理解して納得できるなら、武器など握ってはいない。彼等が疵だらけになる事だって無いのだ。
「きっと親御さん達は皆の未来を守る為にこれから戦いにいく。『この先も一緒にいたい』……それはきっと親御さんも思っていることだ。
 でもそれでは獣の牙からキミ達を守れない、だから武器を取ったんだ。その覚悟を俺は尊重する、これまでもそうしてきたから……」
「僕らだって!」
「――君たちを護る為なんだ」
 呻いた。それでも、一緒に居たいと願った子供達は死に物狂いで向かおうとするだろうとヴェルグリーズとて解っている。
 分っているからこそ止め切れやしないのだ。
「此処で彼らが武器を取らねば、貴方達も獣の餌になって終いなのです……屹度。貴方達の笑顔が好きだったのでしょう。
 宝石よりも煌々と輝く笑顔が、其の声が――どうかずっと響くようにと願って」
 ああ、泣いてしまいそうだ。
 星穹が苦しげに呟く言葉に、「不幸なことは誰だって訪れることがある。そんなの、納得できないよね」とマルクは困ったように肩を竦めた。
「僕の話を聞いて欲しいんだ。僕は、貧しい村の生まれでね。冬になれば食べる物にも困るような村だった。
 ……僕が十歳くらいの頃かな。ある時、食べ物が手に入らない冬が来てね。
 このままでは、村は飢えで全滅する、そんな危機に瀕した事があったんだ」
 思い出話は、苦しい思い出だった。それでも、彼等の考えを変える切欠になればとマルクは願っている。
「その時ね、村の大人たちは、唯一暖の取れる村長の家に、村の子供達と食料を集めて、僕らを生かそうとしてくれた。
 親は、大人は、いつだって君たち子供の未来を願っている。
 それが、己の命を犠牲にする事になっても。大人たちの気持ちを、君たちの両親の気持ちを、分かってあげてほしいんだ」
「……そんなの、そんなの嬉しくないよ」
 ぽつり、と呟かれた言葉に「そうね」とルチアは頷いた。髪を撫でて微笑んで。「納得なんて出来ないでしょう」と頷く。
「でも、ね。これだけは知っておいて。これ以上なく、貴方達は愛されているのよ。
 ……その愛を、否定するような事をするほうが、お父さんやお母さんは悲しむのではないかしら」
「愛してくれてるなら、ずっと一緒に……」
 ――もう、居られないことを、分っている。表情がそう語っていた。
 メリーは最後の砦のようにその場に立ってまじまじと見詰めていた。往くならば、力尽くだ。簡単に意識さえ奪えば終わってしまうのだから。
「おかあさん……おかあさん!」
 走ろうとした子供の体を星穹は抱き留めた。ヴェルグリーズがそっと一歩踏み出して子供を見遣る。
「死の間際ですら、貴方達の幸福を願うのでしょう。
 ならば、私は、貴方達を阻むことで、彼らの戦いに報います。往きたいのならば、私達を越えてお往きなさい!」
「話があるなら聞こう、不満ならいくらでもぶつけるといい、不安ならば寄り添おう。
 やれることを全てやってそれでも武器を取るというなら――俺はその覚悟も尊重しよう、俺達を倒して進むといい、倒せるものなら、だけどね」
 二人の言葉に子供達はどうして、と叫んだ。
 此処で、イレギュラーズに負けるならば親達にとっては足手纏いなのだと、苦々しくルチアは言う。
 愛されているからこそ、遠ざけられた。愛されているからこそ、戦う事を識らぬようにと願われた。
「お母様やお父様から、メッセージを預かったのです。帰るという約束が、皆に誓ったことが、屹度、力になりますから」
 ステラは曖昧な笑みを浮かべて肩を竦めた。それが力になってくれるならば、どれ程嬉しいだろうか。
「大したことなかった」と笑いながら帰ってくる両親の腕に収まり泣いている子供達の幸福な光景が、どれ程見たかったか。
(……情報は与えた物、あとは、其れが有利に働けば……)
 イナリはイレギュラーズとして出来る最大の『干渉』を行ったつもりだった。
『莫迦なことを』と領主代理に告げたときに、其れまでの血濡れた歴史を、蛮勇を否定をしないでくれと嘆願する彼等の表情を思い出しマルクは首を振る。
「君たちを護る為なら、死んだって良かった。そんな、無償の愛情は……屹度、君たちの為だからあったんだ」
 嫌だ、と叫んだ子供達の元で膝を折って、綾姫はそっとその体を抱き締めた。
 ぬくもりがじわりと包み込む。祝福を与えたのだと、ぽつりと呟く。大人達に帰ってきて欲しいと、願っているのだと。
「皆さんの言葉だって、解ります。
 だけど! ……それでも、貴方達のおとうさん、おかあさん達は――貴方達に平和な未来を残してあげたかったんです……」
 ――未だ、納得できないかも知れない。
 それでも、今此処で足を止めて泣き崩れた子供達に輝かしい未来が来てくれればと願うことしか出来なくて。

「――子の幸ある未来を望み戦いに臨む皆様に武運長久を」

 どうか、綴られない歴史に幸福が訪れていることを。今は願うことしか出来なかった。

成否

成功

MVP

蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者

状態異常

なし

あとがき

 部分リクエストシナリオでした。ご参加ありがとうございました。

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