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シナリオ詳細

護衛団の模擬訓練

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●護衛団の新設

 ランバート商会が悲劇に見舞われたのはほんの一月ほど前のことだった。
 注文を受けた商品を買い手の元まで運ぶ道中で魔物に襲われた。安全な街道と油断し護衛を雇わなかったことが仇となった。主人は殺害され、荷物は何処かに持ち去られてしまった。
 生き残った従者、クリスの依頼を受けたイレギュラーズの活躍によって魔物は退治され、敵討ちを終えた。そこまでは良かった。
 残された人間にとってはここからが試練だった。広い人脈を持っていた主人が亡くなったことで多くの取引先を失い、収入が激減した。跡継ぎとして期待されていたクリスが番頭とともにほうぼうをまわり、小さな仕事を繋ぎ止めることが精一杯だった。
 ランバート商会は何人もの孤児を引き取っており、彼らを食べさせていくだけでも相当な資金が必要となる。今のところは遺産で賄えているが、このまま無収入に近い状態が続けば三ヶ月ともたない。事業の拡大は急務であった。
 本格的な商売の再開時期を巡っては何度も話し合いが行われた。クリスは自前の護衛団を持つことを主張した。イレギュラーズのような信頼のおける人物を自らで育てるべきとの強い思いを語った。
 番頭は護衛団を持つことには賛成だったが、それは商売の再開と並行して行うべきだと主張した。資金は一日一日と減り続けている。一日の遅れが命取りになるとの指摘に対して、クリスは明確な答えを持っていなかった。
「護衛団ですか。それは良いことだと思いますよ」
 考えあぐねたクリスは八剱 真優(p3p009539)と矢矧 鎮綱 景護(p3p009538)に事情を打ち明けた。二人は敵討ちに協力したイレギュラーズであり、依頼の後もクリスを気にかけて頻繁に顔を出していた。
「ただ、どれくらいの強さがあれば安心して任せられるのか見極めがつかなくて。みなさんのように、というのは高望みだとわかっているのですが」
「強さにこれで十分という基準を設けることは困難だろうな。コボルトのような魔物でも数が集まれば思わぬ苦戦を強いられる」
「ですが、鍛錬だけに一生を費やすわけにもいきませんね。実践でしか得られない経験もあります」
 しばし思いを巡らせた真優は妙案を思い付いたと手を叩いた。
「この件、私達イレギュラーズに預けてください」

●善意の襲撃

「新設された護衛団の模擬訓練をしてほしいというのが今回の依頼です」
 物騒な依頼ではないことを前置きして『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は詳細な説明を始めた。
「依頼者はランバート商会の若き主人、クリスさんです。亡くなったご主人の跡を継がれたみたいなのですが、最初の仕事として自前の護衛団を結成されました。彼らに実践に近い形式で経験を積んでもらうことが目的です」
 模擬訓練は実際の交易路を利用して行われる。馬車に荷物を積み、クリスが御者となって街道を進む。護衛団はその馬車を囲んで敵の襲撃に備える。決まっているのはこれだけである。
「道中は見渡しのいい平原や数キロほど続く森なんかがありますので、襲撃者を装って荷物を奪い取ろうとろうとしてください。護衛団の人たちはみなさんに依頼が出てることを知らされてないので、本当に襲われたと思って対応してくると思います」
 戦闘要員とはいえ個々の実力は様々である。やり過ぎず、かといって手を抜きすぎず、それぞれの実力を見極めてほしいというのが依頼者の希望であった。
「普段は悪い人たちと戦ってるみなさんだからこそ、本当に悪い人たちがどんなやり方で襲い掛かってくるかもよくわかってると思います。たくさんの経験を積んでもらうためにも、いろんな襲撃案を出してみてください」
 むしろ普段の依頼より物騒になってしまったかも、と笑いながらユリーカはイレギュラーズを送り出した。

GMコメント

 アーティです。
 よろしくお願いします。

●成功条件

 しっかりと経験が積めれば成功となります。
 どんな場所でどのように襲撃するかを考えてください。

●護衛団

 様々な経験を持つ者たちです。
 具体的なことは決まっていないので、こんな感じの人がいるかも、とプレイングに明記していただければそれっぽい人が護衛団員になります。

●襲撃候補地

 襲撃プランを事前にクリスに知らせるため、これら以外の場所でも寄り道できます。

・平地
 見渡しの良い平原です。

・森
 街道の途中で通る数キロ続く森です。
 木々に囲まれて薄暗いため隠れるには最適です。

・街中
 目的地として定めている街です。
 街の人たちには事情を説明してあります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 護衛団の模擬訓練完了
  • GM名アーティ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年05月05日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

志屍 志(p3p000416)
密偵頭兼誓願伝達業
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
金枝 繁茂(p3p008917)
善悪の彼岸
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌
矢矧 鎮綱 景護(p3p009538)
忠義はかくあるべし
八剱 真優(p3p009539)
忠義はかくあるべし

リプレイ

●襲撃準備

 荷物とクリス・ランバートを乗せた馬車は穏やかな街道を進む。
 馬車は様々な経歴を持つ男女によって警護されている。各々の役割において腕の覚えのある者たちだが、本格的な護衛任務はこれが初めてとなる。
「良い緊張感ですね。あれだけ警戒されていれば手出しも容易ではないでしょう」
 出だしは合格と『忠義はかくあるべし』八剱 真優(p3p009539)は太鼓判を押す。
 真優自身は商隊から身を隠しているのだが、クリスの傍でくつろぐファミリアーの猫を通じて護衛団の動きを注意深く見守っていた。
「クリス様にはもう少し、落ち着いていただきたいのですけれど」
 護衛団の誰よりも緊張した様子のクリスを見て小さなほほ笑みを漏らす。
「あれをいつまで保てるかが問題ね。疲れ切った後でも冷静でいられるか。ふふ、楽しみだわ」
 同じく商隊の内部から観察を行う『狐です』長月・イナリ(p3p008096)が楽しげにつぶやく。
 イナリが呼び出したファミリアーは子ネズミであった。こちらは護衛団には見つからないよう馬車の荷物に紛れている。馬車を追い掛けるように飛ぶ小鳥もイナリが呼び出した個体であり、進路の確認といざというときの安全対策は万全であった。
「この訓練が皆様への餞となることを願うばかりです。イナリ様、よろしくお願いいたします」
「はいはい。私が本格的に動くのは明日だから、今日いっぱいは連絡係に努めておくわね」
 あまり気を張りすぎないようにね、と気遣いの言葉を残してイナリは他の仲間の元へと向かった。
「頼もしい方々ばかりですね、景護」
 傍らにたたずむ『忠義はかくあるべし』矢矧 鎮綱 景護(p3p009538)は主人の言葉に静かにうなずいた。
「彼らの経験は得難いものです。依頼を問わずに受ける組織だからこその人材、と言えるのかもしれませんね」
「皆様には及ばないところもあるでしょうが、私達だからこそ出来ることが必ずあるはずです。行きましょう、景護!」
「御意に。こうした一歩の繰り返しが世を変えていくと信じましょう」
 同じ狐の面で顔を隠し、それぞれの役割を果たすために動き出した。
 二人が馬車の動向を追う一方、交易路の先ではイナリから報告を受けたイレギュラーズが襲撃の準備を進めていた。
 中でも『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)は形から入ることにこだわっていた。迷彩柄のバンダナを身に着け、口元をスカーフで覆う。さらには海賊を思わせるような旗まで用意していた。シンボルマークはバンダナとバッテン傷が特徴のギャングイルカであった。
「ベルーガ盗賊団の旗揚げですわー。ほら、皆さまも如何ですかー?」
 予備に用意したバンダナを最初に手にしたのは『焔鎮めの金剛鬼』金枝 繁茂(p3p008917)だった。
「これで少しは目立つ外見を誤魔化せればいいが」
 頭の角を隠すようにバンダナを縛り付ける。
 恵まれた体格も相まって、繁茂の出で立ちは盗賊を騙るのにおあつらえ向きであった。
「あらー、これは早くも代替わりかもしれませんねー」
「適任ではないだろうな。盗賊団なら多少は口が回るほうがいい」
「そうそう。アンタじゃ見目麗しすぎるかもしれないが、女頭目ってのはロマンがある。おれの口八丁でうまく言いくるめてやるよ」
 続けて『陽気な歌が世界を回す』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)がバンダナを手に取る。背中を曲げ、眉尻を下げ、三下に見えるようイメージを固めた。
「盗賊団ってくくりは悪くないかもな。なら俺はベルーガ盗賊団に襲われた無力な子ども、に見せかけた盗賊団員ってところか」
 バンダナに手は出さなかったものの、『騎空団』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)もメリルナートの作戦に乗った。
「おしゃべりはそこまで。そろそろ予定の位置に来るわよ」
 小鳥の視覚で馬車を追っていたイナリが先制攻撃役を務める『遺言代筆業』志屍 瑠璃(p3p000416)に視線を送る。
「瑠璃さんは誰を狙うつもりなの?」
「一番のやり手は先頭を歩くウェードさんでしょうね。体力がありそうなのはしんがりのアルジオさんですが。どちらを狙うかと問われれば」
 一歩前に出た瑠璃は先頭に狙いを定める。
「リーダー格を潰せば組織は瓦解。そういうものでしょう?」
 一瞬の瞬きの後、赫い視線が剣士風の男、ウェードを貫いた。

●敵襲!

 胸を押さえたウェードは歯を食いしばりながら立ち上がる。
 先には忍者装束を身にまとった女性。視線を交わした瑠璃は目を見開いた。
「立つなウェード! 伏せろ!」
 仲間の呼び掛けに反応して身をかがめる。
 間一髪のところで赫い視線は剣士の頭上を通り過ぎていった。
「あの方は、カミラさんでしたか。死角になっていたでしょうに」
 女性団員であるカミラは馬車の側面に立っている。瑠璃が攻撃を仕掛けたのは幌馬車を挟んだ反対側だった。
「ファミリアーを何処かに忍ばせているのか、もしくはイナリさんのような透視能力か。攻撃の意思を示した途端ですから、エネミーサーチが妥当ですね」
 分析を行う瑠璃にボウガンが向けられる。身動きせず立ち尽くす瑠璃は格好の標的であったが、カミラは構えただけで矢を放つことはなかった。
「この距離の戦いは対応不可、ですか。この場は十分ですね」
 身を翻して護衛団の視界から姿を消した。
 入れ替わるようにして小さな影が浮かび上がる。よくよく見ればそれは軍馬にまたがった女性の姿だった。バンダナを身に着けた女性の手には二又の槍が握られ、柄に括り付けられた盗賊旗が風になびいていた。
 前足を上げていなないた軍馬のパルモーラが地面を蹴って駆け出す。大地を揺らす進撃に護衛団は一斉に身構えた。
「さぁ、いきますわよー。やつらの積荷をみんな奪っておやりなさーい」
「で、でもカシラァ、あっちのほうが数が多いぜ」
 威勢の良い掛け声を上げるメリルナートの背後では、腰の引けたヤツェクが必死の形相で軍馬にしがみついていた。
「また悪いクセですのー。次に弱気なことを言ったらアレですよー、アレ!」
「ア、アレだけは、アレだけはカンベンしてくれぇ!」
 震える手でリボルバーのグリップを握り、カミラから離れた場所を狙う。
 反撃のボウガンを腕に受けたヤツェクはわざとらしく悲鳴を上げた。
「や、やられちまったよォ、カシラァ~」
「それくらいで騒ぐんじゃありませんのー。ベルーガ盗賊団、参りますわー」
 馬上から振り下ろされる槍をウェードは太刀で弾き返す。
 加減したとは言えうまく捌かれたことに感心し、攻めを強くして二撃目を繰り出した。
「待ってろウェード! 俺様、がっ」
 加勢に出た巨漢の護衛団員、アルジオの身体がオーラの縄で縛られる。
 足止めを受けて振り返った先ではさらに大きな体躯を持つ繁茂が後方から迫っていた。
「馬車の中身を置いていけ。大人しく従えば命だけは助けてやる」
「ふざけんじゃねえ!」
 振り上げられた拳を繁茂はあえて防御せず、痛みで相手の力量を図った。
「力比べは望むところだ」
 相手の腕を引っ張り、前かがみになったところを狙って顎を蹴り上げる。さらにうめくアルジオの髪を掴んで無防備な腹部に膝蹴りを食らわせた。
 巨体がくの字になってよろける。それでも足を踏ん張って耐えた。
「まだやるつもりか。荷物で済めば安いものだろう」
 気炎を揚げるアルジオとがっぷり四つに組み合う。
 本気の力比べでは明らかに繁茂が勝っていた。一方的にならないよう力を抑え、拮抗している様を演出した。
「撤退! 撤退ですわ―!」
 初手はこれで十分とメリルナートは星夜ボンバーを地面に投げ付ける。
 派手な光と音に護衛団員は怯む。その隙に繁茂は軍馬に駆け寄った。
「言の葉に加護を」
 ヤツェクの口八丁がより信憑性を増すよう力を与え、急ぎ足でその場を立ち去った。
 繁茂の離脱を目で追ったメリルナートが軍馬を走らせる。背後から悲鳴が上がり、ヤツェクが落馬した。
 取り残されたヤツェクは当然のごとく護衛団に囲まれる。今にも泣き出しそうな声を上げ、拝み倒すように命乞いを始めた。
「お、おれは嫌だったんだ。盗賊家業なんか。で、でもカシラが、あの女が足抜けさせてくれなくて。なぁ、頼むよ。おれを警備兵に突き出してくれ。あの女が居ない塀の中がおれにとっての楽園なんだ!」
 元来の口の上手さに繁茂の力が加わり、言葉が真実味を帯びる。
 一貫して下っ端に見えるよう努めた結果は一部団員からの同情を誘う成果を収めた。
「で、でもアンタたちなら大丈夫だ。アイツが逃げ出す姿なんか初めて見た。へへ。アイツもようやく年貢の納め時ってわけだ」
 下卑た笑いを浮かべるヤツェクを、小柄な護衛団員であるロッタは不信感を隠さず見下ろしていた。

●闇夜の亡霊

 予想外の襲撃を受けたランバート商会は負傷者の手当もあり、スケジュールにかなりの遅れを生じた。
 道中の森にたどり着いた頃にはすっかり暗くなっていた。二人一組で夜番を立て、他の護衛団員はたき火を囲んで横になった。
 ひとり馬車の中で休んでいたクリスは猫の導きを受けて森を見やる。クリスからは輪郭しかわからなかったが、その先には真優が隠れ潜んでいた。
「そろそろ宜しい頃合いと思いますが、いかがでしょうか」
 言葉には出さず念話で問い掛ける。
 クリスが了承すると、真優のすぐ隣で控えていた景護が立ち上がった。
 真優から十分に離れた場所で前方に手を伸ばす。握り込むと同時に見張り役のウェードがうめき声を上げた。
「昼間の盗賊か! やはり諦めていなかったな!」
 仲間の制止を振り切って森に駆け込む。
 ウェードの呼び声に呼応するように景護は姿を現した。明かりの届かない暗い森の中で、光を放つ手甲に照らされた狐面が浮かび上がる。
 景護が太刀を抜く。二人は刀を手にしばし睨み合った。
 痺れを切らしたウェードが動く。鍔迫り合いを景護は軽々と押し返す。飛び退いた剣士は威嚇の剣圧を放って森の中に飛び込んだ。
 草を踏み荒らす音が景護の耳に届く。背後からの迫る姿を捉え、太刀が振り下ろされる前に素早く斬り付けた。
「小細工は無用。目に見えぬ亡霊を斬れるのは真の力のみだ」
「世迷い言を!」
 混乱するウェードの攻撃は精彩を欠く。
 戦意喪失を悟った景護は太刀を鞘に納めた。
「心を乱せば先はない。ゆめゆめ忘れぬことだ」
 最後の一振りを身に受けた景護の姿がすっと夜の闇に溶け込む。
 残されたウェードは自分が商隊から離されていることに気づき、駆け出した。
 一方、リーダーを失った商隊では護衛団員が漂う雲に力を奪われてうめき声を上げていた。
 敵の位置を察知しているカミラがボウガンの矢を放つが、闇に紛れた瑠璃に狙いが定まらなかった。
「馬車を囲んでまとまっていれば安心だと思いましたか。一塊の的にしか見えませんでしたよ?」
「不気味な奴め! 消えなっ!」
 二度目の矢に追い払われた体で瑠璃はその場を離れる。
 敵の正体を掴むことすら叶わなかった護衛団員は誰ひとりとして休むことができず、眠れぬ夜を過ごした。

●逃げ場のない戦い

 木漏れ日の差し込む森の中に馬の蹄と車輪の音が響き渡る。
 中腹まで進んだところで倒れている人の姿を発見した。注意深く近付いて声をかけると、アルヴァはそれで意識を取り戻したように目を開いた。
「じ、実は、街に行く途中だったんだけど、盗賊に襲われて」
 イルカの旗、という言葉に団員はどよめいた。
「あ、あいつらが、きっと馬車も荷物も。ちくしょう」
 アルヴァは街まで連れて行ってほしいと懇願する。
 子どもをひとりで残しておくわけにはいかず、馬車から離れて先頭を歩くという条件付きで同行を許可した。
 さらに森を進むと、車輪の壊れた馬車が道を塞いでいた。アルヴァは慌てた様子で駆け寄り、中を覗き込んだ。
「お、おい。大丈夫か。頼む、来てくれ。まだ息がある!」
 切迫した雰囲気に釣られたウェードが駆け寄る。
 馬車まであと一歩。アルヴァが自然に避けた場所に足を踏み込んだ瞬間、地面に穴が空いた。
 落とし穴の発動を合図にアルヴァが御者台から顔を出す。その手には馬車の中に隠しておいた狙撃銃が握られていた。
「お前、やっぱり盗賊の一味か!」
 睨み付けるロッタには構わず引き金を引く。車輪を破壊された幌馬車はバランスを崩して傾いた。
「お前らの目は節穴か? 俺みたいな子どもを放置して荷物だけ奪うなんて、そんなもったいないことを盗賊がするはずないだろう」
 目にも留まらぬ速さでランバート商会の馬車に駆け寄り、荷物に手を伸ばす。
 阻止しようと動いた護衛団の身体を、天から降り注いだ光線が貫く。のたうち回るロッタはいつの間にかロープを外して逃れていたヤツェクの姿を認めた。
「お前もか。クソったれ!」
「おしかったなボウズ。最後まで意識を切らさなければおれを見逃すこともなかっただろうに」
「撤退だ! だれでもいい、クリスを連れて逃げるんだ!」
 落とし穴から這い出たウェードが指示を飛ばす。答えたアルジオはクリスを抱えて後方に走った。
「残念だけど、こっちは行き止まりよ」
 待ってましたとばかりにイナリはダイナマイトの導火線に火を点ける。
 爆炎が上がり、巻き込まれた木々が次々と倒れて退路を遮断した。
 煙の立ち込める中、中性的な外見に姿を変えたイナリが二人の前に立ちはだかる。言葉遣いも男性のように変え、声で気づかれないよう可能な限り低く抑えた。
「さあ、全部いただくとしようか。抵抗してもいいが、命の保証があると思うなよ」
「ヤサ男が。そんな身体で何ができるってんだ」
 クリスを他の護衛団員に託し、イナリに掴み掛かる。
 殴り付けるよりも前に巨体が霧に包まれ、吹き飛ばされる。首を振ったアルジオは困惑しながらイナリを見上げた。
「身体がどうとか言ってたが、その筋肉こそ飾りか?」
 怒り狂ったアルジオが果敢に立ち上がる。どれだけ挑んだところで力の差は歴然であり、完膚なきまでに叩きのめされた。
 後方に隙がないと判断したカミラはあえて前方に進む。馬車を避けた先に活路を見出すつもりだったが、淡い期待は巨大な陸亀の登場によって打ち砕かれた。
 アズメリナの妨害と時を同じくして、周囲から草を擦り合わせる音が響き渡る。イレギュラーズが次々と姿を現したこともあり、護衛団員は尋常ではない数の敵に囲まれていると読み違えた。
「荷物を諦めるか、殺されてから奪われるか、選ばせてあげますわ―」
 メリルナートを中心に、じりじりと護衛団を追い詰める。
 抵抗の余地もないと悟ったクリスが猫のファミリアーにうなずきかける。木の陰から真優が現れ、狐の面を取り払った。
「お疲れ様でした。これにて訓練は終了となります」
 猫を抱え上げた真優は唖然とする護衛団員に歩み寄り、応急手当を施した。

●訓練を終えて

 無事に訓練を終えた一同は目的地の街で食卓を囲んだ。
 緊張から開放された護衛団員の雰囲気は明るく、イレギュラーズへの賞賛と至らない部分の反省、そしてほんの少しの愚痴が自然と漏れ出した。
「訓練ってのはわかったけどよ、ここまでやるかって」
「やると決めたら徹底的ですわー。間違った自信をつけられても困りますものー」
 ロッタの苦言にメリルナートはにこやかに答えた。
「そもそもアンタは俺を怪しんでただろ。あそこは何が何でも同行を拒むべきだったよ」
「おれから目を離したのも失態だな。戦いで貢献できないなら、せめて警戒心を磨かないとな」
 アルヴァとヤツェクの苦言に返す言葉もなく、ロッタはやけ食いに走った。
「その点ではよく気がついたのはカミラさんですね。気づいた上での対応力には改善の余地はありますが」
「あの距離から狙われるとはね。正直、甘く見てたよ」
 瑠璃の丁寧な指摘をカミラは素直に受け止めた。
「俺様が力負けするとはなぁ。自信をなくしちまったぜ」
「そう落ち込むほどではない。お前の一撃は十分に効いた」
「おっ、だったら次は俺様が」
「なるほど、次の襲撃ではより苛烈に攻めるとしよう」
 冗談交じりの繁茂の言葉にアルジオは豪快な笑いを返した。
「クリスと親交の深い者がいるとは聞いていたが、いや、感服した」
「果敢に攻め続けた胆力は称賛に値する。だが攻め手が一本調子で読みやすかったな」
「型を読まれたこちらは一方的に崩されて為す術もなし、か」
「勝つことが不可能だとしても、その場から逃れ仲間を救う手段は他にあったのではないか」
 景護とウェードは同じ剣士として通じるものがあったのか、戦場での振る舞いについて様々な意見を交わした。
「個々に関してはそんなところね。でも一番の問題は連携が取れてないことだと思うわ。護衛団っていう決まったメンバーで組む利点をまったく活かせてないように感じたわ」
「私も同じ感想を抱きました。どなたもご自身の戦いに精一杯で、他の方の状況が見えていないように感じました」
 個人の能力に期待するのであれば傭兵を雇えば良い。護衛団を結成する意味を自分なりに考えることをイナリと真優は強く求めた。
 経験の浅い護衛団にとって、今回の模擬訓練は荒療治に違いなかった。それでもこの経験は必ず良い結果を生むことになると、依頼者であるクリスは感謝の言葉を述べた。

成否

成功

MVP

ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございました。
皆様の襲撃は新設の護衛団にとって非常に良い経験となりました。

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