PandoraPartyProject

シナリオ詳細

クラマ怪譚。或いは、武器狂いのお武家様…。

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●黒鋼船のクラマ
 豊穣。
 カムイグラのある港町に、突如としてそれは現れた。
 黒い鋼で覆われた巨大な帆船。
 濛々と黒煙を吐き出す煙突が、甲板上に数本あった。
 戦艦に搭載された大砲や、動力の補助として石炭か何かを利用しているのだろう。
 風を受け、ぱんと張った黒い帆には赤の墨で狐の紋が刻まれている。
 夜明け前にはまだ遠かったその船影も、昼になるころにはすっかりと目視できる距離にまで迫っていた。
 そのころになると、港町の住人達は好奇心半分、恐れ半分といった面持ちで大勢が船着き場に集まっている。
 野次馬、というやつだ。
 異彩を放つ鋼鉄船をひと目見ようと終結した人々。
 その数は100を裕に超え、ともすると200か300人はいるかもしれない。
「なぁ? あの船、朝からあそこに停泊してるが、いったい何のつもりなのかね?」
「さてねぇ? 難破船って風でもないが、いかにも頑丈そうだしなぁ。侵略かね?」
「侵略か。そりゃいいやな。"武器狂い"様のお屋敷を襲ってくれるってんなら、喜んで力を貸すんだが」
 などと、住人たちは言葉を交わす。
 そんな住人たちの様子を遠目に眺めつつ、甲板の奥で1人の女が紫煙を燻らせくっくと笑った。

 太陽が真上に上るころ、港に声が木霊した。
『あーぁー……あぁ、うむ。港町の住人たちよ、聞こえておるかや? 我の名はクラマという』
 鈴が鳴るような女の声だ。
 脳に直接響くような女の声に、住人たちは騒めいた。
 そんな彼らを嘲るように、脳の奥で女は笑う。
 くっくと震えるその笑い声は、ただひたすらに不快であった。
『これは忠告である。我はこれより"武器狂い"とやらの屋敷を襲うが、怪我をしたくないのなら、早々に逃げ出すがいい』
 と、それだけ言って女……クラマの気配が、皆の脳のうちから消えた。
 
 一方そのころ、ある屋敷では1人の男が怒りの声をあげていた。
 場所は街の中央区画。
 武家屋敷の並ぶ通りの一角。ひときわに大きく、そして異彩を放つ屋敷の庭である。
 門も塀も、すべてが黒い鋼で造られた屋敷だ。
 広い庭には、巻き藁がいくつも並べられている。
 まるで要塞のような雰囲気。見れば、庭の隅には鍛冶場が建設されていた。
 この街を治める武家の男が住む屋敷である。
 彼は各地から鉄や鋼、武器の類を収集することを趣味としていた。
 街人たちの税を引き上げてでも武器を買い漁るその行いから、街の者たちは彼を"武器狂い"と揶揄している。
 一言でいうなら"悪徳領主"の類であろうか。
「どこの誰かは知らんが、儂の街に攻め込むとは良い度胸だな。狙いは儂の武器か? それとも港か?」
 ふぅ、と熱い吐息を零し、"武器狂い"ことダンジョウは踵を返し、屋敷の奥の部屋へ向かった。
 そこはダンジョウの私室であろう。
 頑丈な鉄の襖。
 広い部屋の壁や床には、所せましと刀や槍が並んでいる。
 さらに奥には、龍の意匠が凝らされた黒い甲冑。
「誰ぞ有る! 戦の支度を急がせよ。これより賊を迎え討つ!」
 屋敷全体に響き渡る大音声で、彼は戦の開始を告げた。
 
 そこから先は、まさに混沌、騒乱といった有様である。
 忠告に従い逃げ出すもの。
 クラマの襲撃に乗じ、街を収める武士"武器狂い"へ反乱する者。
 混乱に乗じ、盗みや火付けを働く者。
 クラマを排除しようと、彼女の船へ攻撃を仕掛ける者。
 そして、再びいつもの日常が戻ってくることを信じ、いつも通りの生活を続けようとする者。
 
●濛々たる黒煙が咲く
「と、それが少し前の出来事。そこから先はお察しの通り、街を戦場にクラマとダンジョウの小競り合いが続いているわ」
 そう告げて『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)は深いため息を零した。
 事の起こりから数日。
 始めのうちこそ、激しい攻防が繰り広げられていたが、現在はその勢いも弱まっている。
 クラマ、ダンジョウ共に保有していた戦力のほとんどは戦傷や疲労により既に戦線を離れていた。
 現在は、ダンジョウ自身が前線に立ち、攻め込んでくるクラマを相手に抗戦を続けているという状態である。
「クラマは豪奢な着物をまとった獣種の女性ね。【氷漬】や【炎獄】、【封印】を付与する術を身につけているそうよ」
 クラマの連れてきた配下たちは、既に全員が戦線を離脱している。
 つまり、彼女1人で"武器狂い"ダンジョウやその配下たちと渡り合っているということだ。
「一方、ダンジョウは龍を模した甲冑を纏った大男。得物は刀が主だけど、槍や弓など数多の武芸を修めているとか……」
 また、ダンジョウの攻撃には【失血】や【必殺】が付随する。
 残る4名の部下たちによる【ショック】【体制不利】の付与にも注意が必要だろうか。
「戦場は武家屋敷通り。クラマはその端にある屋敷の1つを占拠し拠点としているそうよ」
 乗ってきた船に関しては、戦線を降りた配下たちに管理を任せているようだ。
 また、戦線には加わっていないものの、クラマの身の回りの世話をするべく街の住人が数名ほど屋敷に待機している。
 ダンジョウに対し、恨みを抱いていた者たちだろう。
 クラマという得体のしれない侵略者は、住人たちにとって必ずしも敵ではないということか。
「それで、依頼の内容だけれど……」
 そこで一旦言葉を区切り、プルーは困ったように眉根をしかめた。
「騒動を終わらせること……なのよね。さぁ、どうしましょうか?」
 クラマに味方するべきか。
 ダンジョウの陣営に加わるべきか。
 はたまた、両者を打ち倒すべきか。
「ねぇ、どれが一番良いかしら?」

GMコメント

●ミッション
騒動の鎮圧

●ターゲット
・クラマ×1
豪奢な着物に華奢な体、金の髪を長く伸ばした獣種(狐)の女性。
若いようにも見えるし、それなりの年齢にも見える。
広範囲への攻撃を得意とするが、性格ゆえか体質的な問題か、疲れることを非常に嫌う。
そのおかげで、ダンジョウ屋敷は今も健在。
現在は武家屋敷通りの隅にある屋敷を占拠。そちらで休息中。

妖術・狐炎:神中貫に中ダメージ、炎獄
 火炎の狐が疾駆する。その様はまるで矢のようだ。

妖術・雪狐:神近範に中ダメージ、氷漬
 吹雪の中に白い狐の影を見る。

妖術・幻想:神遠範に小ダメージ、封印
 それは夢か幻か。目に見えるものが真実であるとは限らない。

・ダンジョウ×1
港町を治める鬼人種の大男。
刀や槍、弓をはじめとした武器の扱いに長けた武士。
"武器狂い"とあだ名されるほどに武器の収集に執心しており、そのせいで住人の生活を苦しめることもある。
そのため住人からの評判はすこぶる悪い。

武技の極み:物近単に大ダメージ、必殺、失血
 雨の日も、風の日も、雪の日も、彼はただ己の武を磨き続けた。


・ダンジョウ配下×4
ダンジョウの配下であり、彼に心酔している武者たち。
鬼を模した鉢がねと、面頬を装着している。
得物は刀。
ダンジョウより賜った名刀らしい。

武技の求道:物近単に中ダメージ、ショック、体制不利
 流した血と汗と涙は、いずれ力になるだろう。

●フィールド
豊穣の港町。
武家屋敷通り。
上から見ると「L」のような形状をしている。
通りの幅は狭く、ところどころ戦闘の余波で塀が崩壊している箇所もある。
ダンジョウの屋敷は最奥部。
反対側、入口付近にはクラマの占拠している屋敷がある。
ちなみにダンジョウ屋敷の塀や扉は鋼鉄製。
クラマの拠点には、彼女に協力する街人が数名滞在している。


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • クラマ怪譚。或いは、武器狂いのお武家様…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月25日 21時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

彼岸会 空観(p3p007169)
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)
竜の狩人
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者
火夜(p3p008727)
夏宵に咲く華
八重 慧(p3p008813)
歪角ノ夜叉
不動 狂歌(p3p008820)
斬竜刀

リプレイ

●武器狂い様の治める地
 武家屋敷通りを火炎が奔る。
 塀を、地面を、門を焼き迫る業火の荒波を、その男は気合一閃斬り裂いた。
「っぇい!!」
 空気を震わす大音声。
 裂かれた火炎は、火の粉となって武家屋敷を朱に照らした。
「はっははは!! お主だけは、いつまでたっても元気じゃの」
「ほざけ! 弄ぶように街や部下を焼きおって!」
 刀に灯った火の粉を払い、巨躯の鬼種が怒声をあげた。
 身に纏った黒い甲冑には無数の傷や焦げ跡が残るが、男……ダンジョウの戦意には僅かの陰りも見当たらない。
 ダンジョウの背後に並ぶ4人の武者もそれは同様だ。
 武家屋敷通りの中央に、悠然と佇む金髪の美女……クラマと名乗った妖術師に敵意の籠った視線を向ける。
 一方クラマは、ゆったりと煙管を吹かしながら、にまりとした笑みを浮かべてそれを見返していた。
「失礼な物言いじゃの。部下はともかく、街は焼いておらんよ。この辺りの武家屋敷以外はな」
 なんて、言って。
 クラマが腕を掲げれば、その掌にごうと燃える火球が灯った。

●妖術師クラマ
 妖術師クラマ。
 武器狂い様ことダンジョウの治める港街に突如として現れた女の名前だ。
 金の髪から覗く尖った耳。
 着物の裾でゆらりと揺れる太い尾。
 彼女は狐の獣種のようだ。
 クラマの目的は不明だが、武器集めの為に住人たちから税を絞るダンジョウは、民草から嫌われている。そのこともあり、民の中にはクラマの味方をする者たちがちらほらと現れ始めた。

 混沌極まるこの街に、8人の男女が訪れたのはつい先だってのことだった。
「ところで、そこの主らは我の敵かや? はたまた味方か? なかなかの実力者揃いのようだし、後者であれば手間が少なくてありがたいの」
 ちら、と背後へ視線を向けてクラマは問うた。
 その手に灯した業火の球が、ごうと勢いを増す。

 下段に刀を構えた武者が、地面を蹴って跳び出した。
 姿勢を低く、地を這うように。
 鬼を模した鉢金と面頬で顔を覆った男だ。
 ダンジョウの配下にして、彼に師事し武を極めんとする武者である。気迫、速度ともに文句のない疾走。
 十数メートルの距離を、あっという間に詰めていく。
「戦の最中に敵から目を離すなど笑止千万!!」
 敵が余所見をしている隙に、攻勢に出ることを卑怯と宣う者も中にはいるだろう。
 正々堂々をこそ、多くの人は好ましく思うことだろう。
 けれど、これは戦だ。
 命と街と財を賭けた大戦。
 戦においての正々堂々とはつまり“使える物は何でも使うし、打てる手は容赦なく打つ”ことを指す。
 この場合で言うのなら、戦の最中に敵から目を逸らしたクラマにこそ落ち度があるということだ。
 けれど、しかし……。
「どちらかってんなら、クラマさんの味方っすね。を放置して暴れてんのはどっちも同じですが、治めているダンジョウさんが何もしなかったの、個人的に気に食わねぇですし」
 濃緑色の髪を靡かせ前へ飛び出た『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)が、武者の刀を受け止めた。頭部の左側から垂れ下がる歪な巨角に刃が触れて、カキンと高い音を鳴らした。
 その身を包む朧な闘気の鎧を持って、クラマの盾となった彼はけれど一撃、二撃と繰り出される斬撃を受け、数歩後ろへと下がる。
「ほぉ? 味方であったか。ならば重畳。そのまま我の盾となれ」
 と、言い捨ててクラマは通りを前へと進む。
 そんなクラマに追随するように、物陰から数名のイレギュラーズが姿を現した。
「ローレット所属の不動狂歌だ、ついでだからそこの腰巾着共々掛かってきやがれ」身の丈ほどもある大太刀を構えた 不動 狂歌(p3p008820)を筆頭に『夏宵に咲く華』火夜(p3p008727)、『帰心人心』彼岸会 無量(p3p007169)と続く。
「増援の数は7か……儂は狐の相手をする。貴様らは、取り巻き共を抑えよ」
『はっ!!』
 短く。
 威勢の良い応えを返し、鬼武者たちが一斉に行動を開始した。
 クラマの周囲を固める狂歌、火夜、無量の注意を逸らすべく、通りの左右に散開しながら前進を開始。
「いい鎧にいい武器。それもダンジョウがくれたものなんでしょ?  趣味のために人に迷惑かけるような人は、趣味の人として軽蔑しちゃうなボク!」
 迎え撃つべく、火夜は刀を正眼に構える。
 ちなみに、華奢な身体にツインテールと、一見すれば少女のような外見であるが歴とした男性である。
「火夜殿はそのままダンジョウの元へ。この場は俺に任せてもらおう」
 勇み足で前へ出ようとした火夜を、幽かな声が制止する。
「役者は揃った。さぁ、舞台の幕を上げようか」
 タン、と。
 軽い音を鳴らして、塀の上に現れたのは人形を抱く痩躯の忍。名を『零れぬ希望』黒影 鬼灯(p3p007949)という彼の手には、不吉な朱の光が宿る。
 月光にも似たその光が、迫る武者たちを照らした。 
 刹那。
 武者の1人が、胸を押さえ歩を止める。
「さあ、Step on it!! さっさと終わらせましょう!」
「えぇ、参りましょう。それにしても、また貴女と轡を並べる日が来て良かった。ウィズィニャラァム」
 敵の眼前で歩を止めた者の末路として、それはまさしく“正しい”ものだ。
 巨大な銀食器にも似た得物を振るう『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)が、跳ねるように武者へ肉薄。
 鎧と鎧の隙間を狙って斬撃を1つ叩き込む。
 刀を掲げ、それを弾いた武者であったが続く無量の一閃には対応できずに胸部を深く切り裂かれた。
 横目でそれを興味深げに一瞥し、クラマは狂歌、火夜を伴い前進を続ける。
「忍か。我の部下にも忍はおるが、さて……どちらの腕がより優れておるか、気になるのぅ」
 などと、塀の上に立つ鬼灯へ向け笑いかけるクラマの様子を、鬼灯は怜悧な眼差しで見下ろした。
「ううん、あの狐さんもなんだか企みがあるのかしら?」
 鬼灯の腕に抱かれた少女の人形……章姫は彼にだけ聞こえる程度の声音で、そんなことを呟いた。

 4人の武者は孤立していた。
 1人は慧が抑えに回る。
 2人はウィズィと無量を相手に切り結ぶ。
 残る1人は火夜と激しく斬り合っている。
 ダンジョウは、屋敷の前に陣取ったまま動かない。クラマ、狂歌の接近を彼は黙って待ち構えていた。

 キリリ、と弦を引き絞る。
 番えた矢はダンジョウの額を向いている。
「一発ぶっ飛ばせば目ぇ覚めるかね?」
『日向の狩人』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)が矢を射った。
 宙を疾駆する1本の矢は、けれどあっさりダンジョウによって斬り捨てられる。
「っと、やるね」
「そのようですね。とはいえ、これ以上の蛮行は見過ごせませんし、ちゃっちゃと騒ぎを鎮めましょう」
 ミヅハの隣、剣を構えた『断ち斬りの』蓮杖 綾姫(p3p008658)が大上段に剣を構える。
 剣に宿った膨大な魔力の渦を見て、ダンジョウは僅かに怯んだようだ。
 クラマたちから目を離さぬまま、腰を落として刀を正眼へと構える。正眼とはつまり、剣術における基本の型だ。
 攻めに特化しているわけでもなければ、防りに重きを置いているわけでもない。だからこそ、いかなる局面にも対応ができる、優れた構えともいえる。
「ダンジョウ様、お下がりを!!」
 慧の腹部を蹴り飛ばし、踵を返す武者が1人。
 けれど、彼は間に合わない。
「行かせませんよ」
 一閃。
 振り下ろされた刀の閃き。
 不可視の斬撃が地面を抉る。
「っ⁉」
 踏鞴を踏んで、武者はその場で立ち止まった。戦の場において、直観力に優れるか否かが勝敗を分けることもある。その点でいえば、彼は勝者であっただろう。
 あと1歩。
 たったそれだけ踏み込んでいれば、その身は綾姫の斬撃に斬り裂かれていただろうから。
「うん? お主……街の者ではないのか?」
 と、綾姫を一瞥しクラマは告げる。
 そんな彼女に黙礼を返し、綾姫は再び剣を上段に構えなおした。

 時刻はしばらく遡る。
 武家屋敷通りの端。ある屋敷の一室で、クラマは紫煙を燻らせていた。
 もうじき空は朱に染まる。
「行くかな」
 と、そう呟いてクラマはゆるりと立ち上がった。すぱん、と小気味の良い音を鳴らし戸を開ければ、隣室で待機していた人々が見送りのために廊下へ出てきた。
 皆一様に痩せている。武器狂いことダンジョウの圧政により、食うに食えない日々を送っているのだ。
「見送り、大儀である。しばし待っておれよ。この街はじきに我の手中に治まるでな」
 呵々と快活に笑い、民の捧げるにぎり飯を一つ手に取った。
 にぎり飯を運んできたのは、艶やかな黒髪を持つ線の細い女である。
「この街を手中に治め、クラマ様はいかがなさるのですか?」
「うん? 気になるか? 気になるであろうな」
 ふむ、と顎に手をあててクラマは僅かに思案する。
「何も……考えてはおらんな。我は力を欲しておる。我の妖術と、配下たち、海を渡る鋼鉄の船。とくれば、次は武器と兵糧であろう」
 民の生活を脅かすような真似はせんよ、と。
 そう言い残し、クラマは戦場へと向かう。
 その背を女……綾姫は、だまって見送っていた。

 綾姫が剣を振るえば、黒き妖精が刃と化して疾駆する。
 ダンジョウはそれを刀で難なく弾き跳ばすが、直後思わず瞠目するはめとなった。まったく同じ軌道に置かれたミヅハの矢が、その視界に映ったからだ。
「今回の騒動、原因はあっちのおば……おねーさんだが遠因はアンタにある。悪いが大人しくしてもらうぜ!」
「……小僧。弓の腕はともかく、話術の才には欠けるようじゃの」
 クラマの小言を聞き流し、淀みの無い動作で2の矢、3の矢を射るミヅハ。そのことごとくをダンジョウは身を捻ることで回避した。
「今回の仕事は騒動の鎮圧で、あんたのご機嫌取りは業務のうちに入らねぇんだ」
 悪戯者のような笑みをクラマに返し、ミヅハは弓に矢を番えた。
 ダンジョウは身を捻ることでミヅハの矢を回避したが、姿勢が崩れた今の状態で次の攻撃は避けられない。警戒の視線はミヅハをしかと捉えているが、生憎と敵は彼1人ではないのだ。
 ごう、と投げられた火球がダンジョウの眼前に着弾。業火によって、彼の視界が朱に染まる。
「ぬぅ!? 目くらましか!? いや、まさかこの機に屋敷を……」
 ダンジョウを無視し、クラマが屋敷を襲う可能性に思い至ったことこそが、まさに不運であっただろう。
「おら、余所見してる余裕があんのか!」
 火炎の壁を突き破り迫る狂歌の斬撃を、ダンジョウは正面から喰らうはめになったのだから。
「小癪な真似を」
「何が小癪だ。おっさんの好きな剣術勝負だぜ!」
「吠えるな、小娘!」
 ダンジョウの黒い鎧に罅が走った。
 刀と刀とが激しく打ち合う。体格の差か、正面切っての力勝負では狂歌が僅かに不利のようだ。よろけた拍子に当て身を喰らい、彼女の身体は背後へ跳んだ。
「っぇぇぇえええええい!!!」
 空気を震わす大音声。
 まるで猿の叫びのようだ。
 下段より真上へ向けてのかち上げ一閃。狂歌の胸部と額に深い傷を刻む。
「っ……」
 【イモータリティ】を行使しながら狂歌は後退。
 その後を追い、ダンジョウはさらに1歩前へと踏み込んだ。
「手負いの獣を逃がすのは、儂の矜持に反するのでな」
 踏み込みからの鋭い突きが、狂歌の額……黒い角を激しく打った。

 巨角を盾に慧は駆ける。
 勢いに押された武者は、武家屋敷の塀にその背を叩きつけられた。
「復役だからって倒しやすいと思ってもらっちゃ困るっすよ」
 武者の手からは、既に刀が落ちている。
 加えてその全身には、鬼灯の手繰る赤い魔糸が絡んでいた。
「貴様、まだ動けるか⁉」
「俺の役目は頑張ってくださってる皆さんが倒れないように支えるコトっすが、その俺が倒れちゃ意味ないっすからね」
 無数の傷を負いながらも、慧は未だに立っていた。時折、隙を伺っては、自分や仲間たちに治癒の術式を行使しているのだ。

 慧を横目でチラと見やって、火夜は問うた。
「クラマさんは何でこんなに戦いを長引かせてるんだろうね? 寧ろ、長く戦うのが目的だったり?」
「俺が知るか! 奴が屋敷に攻め込んできて、俺たちはそれを迎え撃つ! それ以外に何がいる?」
「うぅん。クラマさんの目的を知らなきゃ、後々面倒なことになると思うんだけどなぁ」
 火夜の身の丈を超える長大な刀を、空気を唸らせ振り回す。
 鎧を着こんだ武者であれど、遠心力を加算されたその斬撃をまともに受けては長く持つまい。事実、受け流しと回避に集中力を向けすぎたのか、その武者の息は荒かった。
「ともかく、争いごとはすぱっと終わらせないとねー」
 低く、火夜は腰を落とした。
 身を捻り、後方へと構えた刀に力がこもる。
 武者が防御の構えを見せた、その刹那……。
 渾身の力を込めた斬撃が、防御の上からその胴を深く切り裂いた。

 左右から叩き込まれた斬撃が、ウィズィの胸部に傷を刻んだ。
 飛び散る鮮血。金の髪が朱に濡れる。
『殺った』と、2人の武者は確かにそう思っただろう。
 己の武技をいかんなく発揮し、叩き込んだ渾身の一撃だ。事実、先だって無量は既に打倒している。手応えも十分だった。
 残るは1人。
 金髪の女を仕留めて、ダンジョウの援護へと戻る。
 それがきっと、この場において最も冴えた行動だ。
 本来であればもっと早くに援護へ回りたかったのだが、それは叶わなかったのだ。直観か、はたまた【怒り】ゆえか、この場で彼女を斬らねば気が済まなかったのである。
 ただ1つ、彼らに誤算があったとすれば……。
「……お互い、傷だらけですね、ウィズィニャラァム」
「ハッ、この程度で倒れるものかよ……!」
「お喋りは後に致しますか……」
 倒れていたはずの無量がよろりと立ち上がる。
 倒れかけていたウィズィが、歯を食いしばり地面を踏んだ。
 一気呵成に攻めるウィズィ。
 刃の長い幅広の刀剣……銀食器のナイフにも似たそれの相手に不慣れなこともあり、2人の武者は防戦に回るはめになる。
 さらに合わせるように放たれる無量の斬撃は、ひどく避け辛いものだ。
 鎧を斬られ、肉を抉られ、後退する2人。
 そして……。
「よし、射程圏内だ」
 塀の上に立った忍がそう告げた。
 黒い覆面より除く、鋭く冷たい不吉な眼差し。皮膚に走る茨の紋様は、朧げながらも、不気味に赤く光を放つ。
「本当に鬼人になったのであれば、不吉の月になど屈するまいな?」
 空を赤く染め上げる、不吉な月を2人の武者は幻視した。
 心のうちより湧き上がる恐怖と不安に苛まれたその時には既に、彼らは鬼灯の術中に嵌っていたのだ。
 慧が抑えていた者を含めた3人の武者がそれを知るのは、意識を失う直前だった。

●クラマ怪譚
 傷だらけの鎧。
 突き刺さる数本の矢。
 血溜まりに膝を突き、荒い呼吸を繰り返すダンジョウ。その眼前では、狂歌もまた朦朧とする意識をどうにか繋ぎ、地面に座り込んでいた。
「いや、見事であった。大将首はお主が取るか? それとも我がやるか?」
 などと宣いながらクラマは前へ。
 けれど、その眼前に無量が回り「待った」をかけた。
「目的を達した今何もなしに悪徳領主を倒し快刀乱麻活劇……とは思えませぬ」
 彼女の手は刀の柄にかかっている。
 答えによっては、クラマへ斬りかかる心算だろう。
 慧の治療を受ける狂歌や、追いついてきた火夜、鬼灯もクラマを囲むように距離を取って立っている。
「目的のぅ。武器と兵糧が欲しいだけじゃが……こ奴を生かしておいては、それも叶わぬであろう?」
 だからここで首を取る、と。
 クラマの答えに、無量とウィズィは視線を交差させた。
「ま、待て……儂とて領主よ。賊に領地を奪われたなどあってはならん」
「ふむ? で、あれば……どうする?」
 と、クラマは告げた。
 なるほど確かに、ダンジョウは武器に狂って圧政を敷いた。しかし、元より海の幸が豊富な土地であり、輸出入も栄えていることから民に餓死者は出ていない。
 生かさず殺さず、といったギリギリの状態ではあるが。
「この状態で一揆など起こされてはたまらん。税は下げることになるが……その内から幾分、そちらに兵糧と武器を回す。貴様が街に滞在することも許そう」
 手にした刀を地面に置いて、ダンジョウは兜を脱いで低く首を垂れた。
 綾姫は置かれた刀へ視線を一瞥した後、クラマを見やった。危うく刀を手に取りそうになったことは余談である。
「どうしてもというなら、儂の首は持っていけ。だが、部下たちに手を出すことは許さん」
「……ふむ? そうじゃの」
 ちら、とクラマは背後を見やった。ミヅハ、そして鬼灯の腕に抱かれた章姫へと順に視線を彷徨わせ、彼女は煙管を咥えて告げる。
「幼子の前で殺生も、な。いいじゃろ。そちらの提案を受け入れる。それと、有事には兵を貸してもらうぞ」
 そう言ってクラマは、置かれた刀を手に取った。
 首の代わりとして、持ち帰るつもりなのだろう。
「街の住人ではないようだが、お主らも助力、大儀であったな。この場は退くが……気が向いたら、我の手足となり働いて見んか?」
「お誘いありがとうございます……何かあったらすぐ駆け付けますから」
「……“何かあったら”か」
 善事も悪事も、等しく“事”に違いはない。
 ウィズィの瞳をじぃと見返し、どこか愉し気な様子でクラマは港へ立ち去って行った。

成否

成功

MVP

不動 狂歌(p3p008820)
斬竜刀

状態異常

ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)[重傷]
私の航海誌
不動 狂歌(p3p008820)[重傷]
斬竜刀

あとがき

お疲れさまでした。
この度はクラマ怪譚にご参加いただき、ありがとうございました。
ダンジョウとクラマの合戦は一応の終わりをみせ、クラマは撤退していきました。
依頼は成功となります。
クラマは武器と兵糧を手に入れ、ダンジョウは命と街を守り抜くことが出来ました。

また縁があれば、別の依頼でお会いしましょう。

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