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シナリオ詳細

<フィンブルの春>物語領の偽勇者、猫(?)にしっぽを掴まれる。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「邪魔なんだよ畜生が!」
 街中に怒鳴り声が響いた。
 何事かと声の方を振り返った住人たちが見たのは、冒険者風の装いをした大男が足元の猫を蹴り飛ばす瞬間だった。
「ミギャン!!!」
 悲鳴を上げそのままヨタヨタと逃げ出そうとする猫を、一人の住人が慌てて抱え上げ病院へと走り出す。
「あんたら何してんだ!」
 別の住人が大男に、そして大男の行動をニヤニヤと笑いながら見ていたその仲間に向けて声を荒げた。
 ここは多くの猫が住まう土地。猫好きなイレギュラーズ『希う魔道士』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)が治めるエアツェールング領――通称「物語領」。猫好きな住人も多く、何らかの理由で猫に近づかぬ者はいても猫に危害を加えるような者はまずいない。
「アア?! クソ猫が邪魔だったから退かしただけだろうが!」
「邪魔だからって蹴り飛ばさなくても――」
「うっせぇ黙れや」
 抗議する住人の胸倉を、大男が掴み上げる。
「ねぇねぇ、これが何かわかる?」
 大男の連れがこれ見よがしに見せつけるのは、金色のメダル――ブレイブメダリオン。
「俺らは次代を担う勇者候補なわけ。あんたらみたいな庶民とは違うんだよ!」


 奴隷市、レガリアの盗難、魔物の大量発生。
 幻想王国を覆う策略の影――狙われた地域の多くがイレギュラーズの領地なのは、何某かの意図があってのことなのか。
 背後で蠢く何者かの姿は未だ見えず……そんな中、現幻想国王フォルデルマン三世の唐突な思い付きで『勇者選挙』が始まった。
『大量発生した魔物討伐に功績をあげた者にブレイブメダリオンを与え、多く集めた者を勇者とする』
 それはイレギュラーズの協力を仰ぐための宣言だったが、幻想国内でにわかに勇者ブームが巻き起り、本来ローレットだけで行われるはずだったブレイブメダリオン・ランキングにそれ以外の者が参入し始めた。
 勇者に憧れた者、勇者を志す者、我こそ新世代の勇者と主張する者。有力貴族を後ろ盾とした勇者候補がメダリオン・ランキングへと参入し、『メダリオン争奪戦』が幕を開けた。
 古廟スラン・ロウと神翼庭園ウィツィロのそれぞれより出現した古代獣たちは依然幻想各地を襲撃し続けており、幻想の貴族たちはこれを払った者こそが新世代の勇者となるだろうと目しているらしい。
 悪徳貴族によるドサクサ紛れの悪行や奴隷商人による暗躍も続き、更には不正に擁立した勇者候補生モドキへ不正にメダルを供与するためにマッチポンプ的な悪事を画策する悪徳貴族もいるとかいないとか。
 様々な思惑が渦巻く中で告知されたメダリオン・ランキングの最終集計日である『約束の日』。
 ランキングは最終段階へと突入し、国内には大きな動乱が巻き起ころうとしていた――。

「みゃーん!」
 幻想王都、ギルド「ローレット」のほど近く。大きな鳴き声を上げながら飛んでくるもふもふ生物に気付き、ヨゾラは微かに首を傾げた。
「おや、こんなところまで来るなんてどうしたんだい?」
 ぽすん、と自分の腕の中に納まったその不思議生物――自領の執政官『幸せ招くけもの』フローエ・つのねこなはとに問いかける。
「にゃー! にゃ! にゃにゃ!」
 何かを懸命に訴えているのだが、如何せん言葉が……と思っていた時、パン、とクラッカーがはじける音がした。
「ヨゾラ、君の領地に良からぬ者たちがいるよ」
 ヒラヒラと舞い散るクラッカーのリボンや紙吹雪と共に現れたのはもう一人(?)の執政官『神出鬼没の道化猫』ニアルカーニャ・クラウン・チェシャール。
「にゃ!」
 ニアルカーニャの言葉にフローエもこくこくと同意するような素振りを見せた。
「良からぬ者?」
 問い返すヨゾラにニアルカーニャが頷く。
「本人たちは次代の勇者候補を名乗っているがね」
 実際、襲撃してきたモンスターを撃退したり奴隷商人らしきものを捕らえたりそれらしい動きはしており相応の実力もあるようだ。
「ただ、あまりに素行が宜しくない。住人や猫たちへの横暴な振る舞いも目立つ。それに……彼らはブレイブメダリオンを見せびらかしていたのだが、ヨゾラが持っていたモノと微妙に違うような気がしてね」
 不審に思ったニアルカーニャはフローエと協力してこっそり彼らのことを調べたらしい。
「どうやらモンスターの襲撃も奴隷商人の話も『自作自演』のようだ」
 襲撃してきたモンスターは古代種のような強いものではない上に単独で、どこかで捕まえてきたモンスターを意図的に街の近くで解き放った可能性が高いことがわかった。
 『しかるべき場所に預け相応の裁きを受けさせる』と捕らえられたはずの奴隷商人は、領地の外であっさり解放され件の勇者候補たちから多額の金銭を受け取っていた。
 こうなってくると彼らのブレイブメダリオンも本物かどうか……。
「お金の出所や彼らの後ろ盾まではわからなかった。しかしいずれにせよ、真っ当な勇者候補ではないと思わないかい?」
 尋ねるニアルカーニャに、厳しい表情をしたヨゾラが視線を向ける。
「彼らはまた『良からぬこと』を企んでいるらしい。君の領地の外れ……いや、ギリギリ領地の外なのかな? ヒトの近づかない古い建物の中で、また『奴隷商人』と接触しようとしているよ」
 どうする――?
 ニアルカーニャの言外の問い。その答えは、もう決まっていた。
 厳しい顔のまま、ヨゾラは他のイレギュラーズの助力を求めるべくローレットへと足を向ける。
 偽勇者とでもいうべき存在を、領民や猫たちに横暴を働く存在を、許すわけにはいかない。
「その勇者候補とやらには『相応の裁き』を受けてもらわないとね――」

GMコメント

 乾ねこです。
 ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)さんの領地に不正を行う「偽勇者」のグループが現れました。
 彼らは奴隷商人と取引し、奴隷事件をでっちあげようとしています。
 取引の現場に赴き、彼らを退治してください。

●成功条件
 偽勇者グループ及び取引相手である奴隷商人の撃退あるいは捕縛。

●戦場
 偽勇者グループと奴隷商人はヨゾラさんの領地エアツェールング領のほど近くにある廃屋寸前の古い建物の中で密会をしており、そこで戦闘を行うことになります。
 もとは倉庫かなにかだったようで屋内とはいえかなり広く天井も高いので戦闘にもあまり支障はありません。
 東側と西側、建物のほぼ中央に向かい合うようにして出入口が一個所ずつあります。どちらも廊下やエントランスのようなものはなく、屋外から大きな両開きの扉を開けて中に入ると即戦場となるフロアにでます。

●敵の情報
 ヨゾラさんの領地「エアツェールング領」で横暴を振るう偽勇者グループと彼らと取引しようとしている奴隷商人、奴隷商人が連れてきた奴隷兵が相手です。
 偽勇者グループは「時代の勇者候補」を名乗るだけあってそれなりの強さを持っています。奴隷商人と奴隷兵の強さはそこまででもありませんが、奴隷兵の数が少々多いようです。

・偽勇者(タンク)2名
 片手に剣、片手に盾を装備した偽勇者グループの盾役。体力と防御力が優れています。通常攻撃の他、盾役らしく相手に「怒り」を与えて自分に注意をひきつけたり仲間を庇ったり、時には相手に張り付いてその行動をブロックしたりしてきます。

・偽勇者(ヒーラー)2名
 杖を装備した偽勇者グループの回復役。範囲、単体、遠近の治癒魔法の他、各種状態異常の回復も行います。余裕があれば神秘系の攻撃魔法も行使してきます。

・偽勇者(アタッカー)2名
 偽勇者グループの攻撃役。投擲可能なナイフと細身の剣を駆使して戦います。ナイフには毒が仕込まれているようです。

・奴隷商人 1名
 偽勇者たちの自作自演の協力者。取引が明るみに出なければ、エアツェールング領にて奴隷売買をしようとしたとして偽勇者たちに捕まる(ふりをする)予定でした。
 奴隷商という身分に加え、不正に加担しているという自覚はあるらしく隙あらば逃げ出そうと考えています。
 最低限の戦闘能力はあるようです。

・奴隷兵 十数名
 奴隷商人が「売買用の奴隷」という名目で連れてきましたが、実際は護身目的の奴隷兵でした。特殊な攻撃等はしてきませんが、全員並の盗賊程度の強さはあるようです。
 洗脳なのかそういう薬を使用しているのかは不明ですが、奴隷商人の命令に忠実に従い他の言葉は聞き入れません。
 少なくとも、奴隷兵がこの戦闘中に正気を取り戻すことはありません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。


 ちなみに。
 オープニングで蹴り飛ばされた猫さんは幸い軽い脳震盪を起こしただけでした。
 病院で診察後、保護した住人の手厚い看護を受けそのまま家猫化し飼い主に甘え倒しているようです。

  • <フィンブルの春>物語領の偽勇者、猫(?)にしっぽを掴まれる。完了
  • GM名乾ねこ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月26日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
スピリトへの言葉
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
希う魔道士
リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)
紅炎の勇者
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
夜に一条
クンプフリット・メーベルナッハ(p3p008907)
砂翔ける曲芸師
レイクルイズ・ラントカルテ(p3p009628)
アリス・アド・アイトエム(p3p009742)
泡沫の胸

リプレイ


 物語領の執政官『神出鬼没の道化猫』ニアルカーニャ・クラウン・チェシャールと『幸せ招くけもの』フローエ・つのねこなはとの案内で木々の合間を歩いていく。
 ここは幻想王都郊外、物語領にも隣接する林の中。歩き進めるうちに見えてきたのは、大きな古い平屋の建物。
「勇者様御一行はあの建物の中で密会中さ」
 少々皮肉めいた言葉と共に、ニアルカーニャの小さな手が件の建物を指す。
「ニアルさん、フローエさん……調べて教えてくれてありがとう」
「にゃ♪」
 礼を言う『希う魔道士』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)に、フローエがすりすりと頬を寄せた。
 フローエの仕草にほんの少しくすぐったそうな顔をした後、ヨゾラは自領で起こった問題を解決すべく集まってくれたイレギュラーズの面々にも頭を下げる。
「皆も……ありがとう、今日はよろしく」
「お礼なんていいよ! 猫さんをいじめるなんて許せないもん! 奴隷商人と一緒にズルしてたりこの辺りの人達にも酷い事をしてるみたいだしこのままにはしておけないよ!」
 『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)の言葉に、他の面子が次々と同意の意思を示す。
「古人曰く『ネコと和解せよ』。猫をいじめる奴に勇者なんて名乗る資格はないってコトだね!」
 うんうんと頷く『砂翔ける曲芸師』クンプフリット・メーベルナッハ(p3p008907)。
「猫…もだけど……領民…ということは…女の子…にも……?」
 物語領内の女性が被害を被っている可能性に気付いた『蕾の蜘蛛』アリス・アド・アイトエム(p3p009742)が呟く。
「それは…許されない……絶対……」
「大体勇者だってんなら品性もないと……だっていうのに奴隷商と手を組んで裏で好き放題だなんて絶対許さないし」
 はっきりと言い切る『新兵達の姉御』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)の脳裏には、この騒ぎの元凶と言えなくもない人物の姿が浮かんでいた。
(相変わらずあの考えなしの馬鹿王様が……)
 是非ともきつく言ってやらねばと決意するミルヴィの脇で、半ば呆れた様な顔をしているのは『スピリトへの言葉』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)だ。
(人間ってなんでそう騙りたがるのかしら。しかも自作自演ってさーすがにちょっと見え見えじゃない?)
 大仰に息を吐き、物語領の領主へと視線を向ける。
「ヨゾラも大変ね」
 人間に対する呆れと同情が入り混じったオデットの呟きに、ほんの僅かに苦笑してみせるヨゾラ。
「さあ、ここから先は僕らの仕事だ」
 軽く息を吐いた後、ヨゾラはニアルカーニャとフローエに退避を促した。
「にゃ!」
 フローエはわかった、とでもいうかのように一声鳴いて飛んでいき、ニアルカーニャも言葉を一つ残しての姿を消す。
「ヨゾラ、君と君の仲間の武運を祈っているよ――」


 東と西、二手に分かれて建物へ近づく。
「あ、突入する時にこれを投げるから気を付けてね」
 途中、そう言いながらオデットが取り出したのは虹色どころではなく様々な色に輝く林檎。投げるとその輝きそのままに周りに光をまき散らすのだとか。
 オデットの言葉に頷く東班のイレギュラーズ。その後彼らは気配を殺し、建物の東にある大きな扉の前へ。
「西側も準備できたみたい」
「だね」
 予め召喚し西班に渡しておいた小動物の視界を通じ、状況を確認したミルヴィと焔が囁くような声で仲間に知らせる。
 東班である彼らの側には、レイクルイズ・ラントカルテ(p3p009628)が召喚した小鳥が追従している。こちらの状況も、彼を通じて西班に伝えられているはずだ。
 互いに視線を交わし、頷き合う。大きな両開きの扉に手をかけ、一気に開け放つ。
「! 誰……」
 誰何の声より早く、オデットが室内へと投げつけた林檎が色鮮やかすぎる閃光を放った。
「うわっ!」
「きゃ……」
 閃光の中から驚いたような声がする。
「すー…っ」
 追い打ちをかけるように、ミルヴィがスピーカーボムを利用して猫の唸り声様な甲高い絶叫を上げた。
「……シャアアアアア!」
「なっ、なんだ!? 何事だ!!!」
 誰かが慌てふためく声。混乱に乗じ、東班の面々が一斉に屋内へと突入する。
「奴隷商人、及び勇者を名乗る者達よ。私達はローレット――貴方達を捕らえます」
 そう宣言するなり、『春告げの』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は神鳴る縛鎖を放った。
 紫電の牙を持つ光鎖の蒼蛇が奴隷商人たちに襲い掛かり、その身を感電させていく。
「イレギュラーズか!」
 叫んで戦闘態勢に入る偽勇者たち。紛い物でも「勇者」を名乗るだけはあるということか、オロオロしている奴隷商人に比べれば遥かに反応が速い。
 盾を構えた大男がイレギュラーズの背後にある扉にチラリと視線を送った。
「おっと」
 視線に気付いた焔が扉に向けて手を翳す。途端、扉の周囲に炎が燃え上がった。こちらの扉からの強行突破は難しいとでも判断したか、チ、と誰かが舌打ちする音がした。
(実際は全然熱くないんだけどね)
 内心で舌を出す焔。あの炎に何かを燃やすような力はないが、そんなことは近づかなければわからない。片方の逃げ道が塞がれたと思わせることが出来れば向こうの動きも読みやすくなるはずだ。
「逃げられるとでも思った?」
 挑発めいた言葉と共に焔が名乗り口上を上げる。直後、盾を持った偽勇者の一人と奴隷兵が数人、彼女に怒りに満ちた目を向けた。
「わ、私を守れ! そいつらを近づけるな!」
 奴隷商人が叫ぶ。そのまま西の扉へと駈け出そうとした商人の前で、閉じられていた西の扉が勢いよく開かれた。
「残念だけどこっちも塞いでるよ!」
 開いた扉から飛び込んできたのはレイクルイズとクンプフリットの二人。レイクルイズはそのままの勢いで奴隷商人に近づき、多段牽制を放つ。
「ギャ……!」
 簡単に悲鳴を上げる奴隷商人。連れている奴隷兵はともかく、彼自身は戦闘慣れしていないのかもしれない。
 チラリとそんなことを考えながら、クンプフリットはとこからともなく取り出した投擲ナイフに簡易封印の力を乗せる。狙うは偽勇者グループのヒーラー、二人のうちの一人。 放たれたナイフは狙い違わず対象へと突き刺さり、その力の発動に封印という名の枷をつけた。
 焔に意識を奪われたタンクの脇を抜け敵陣の只中へと飛び込んだ『蕾の蜘蛛』アリス・アド・アイトエム(p3p009742)もまた、ヒーラーを抑えるべく名乗りを上げる。
「アリスは…みんな……守る……」
「っ、舐めるな!」
 偽勇者のアタッカーがアリス目掛けてナイフを投げつけた。咄嗟に急所を庇ったアリスの腕にナイフが刺さり、その身に毒が沁みこんでいく。もう一人のアタッカーも手にした剣でアリスを斬らんと肉薄し、口上に巻き込まれた奴隷兵も動き出す。
 焔への怒りに囚われたタンクが彼女へと突進する。
「てめえらの相手は俺だ!」
 少し小柄な、しかしがっしりとした体形のもう一人のタンクが叫んだ時、彼の近くにいた幾人かのイレギュラーズの胸に、怒りの感情が湧き上がった――しかし。
「させないよ」
 仲間の元に駆け寄るヨゾラの背に光翼が生える。羽ばたきと共に舞い踊る光刃が近くの敵を切り刻み、仲間の怒りを鎮めていく。
「やってくれるじゃない」
 ミルヴィがくすりと笑った。
「じゃ、これはお・か・え・し♪」
 人を惹きつける笑みを浮かべたまま、ミルヴィはその瞳に情欲を込め敵を覗き込む。老若男女、誰しもが抗えないほどの衝動に捉えられたタンクの目の色が変わった。
(とりあえずやりすぎた悪い子にはお仕置きが必要ってことでいいわよね)
 オデットが片手を天に掲げる。
(妖精の本気、みせちゃうわよ)
 使役するは熱砂の精。巻き起こった砂嵐が、ヒーラーを中心とした敵を叩きのめす。
「リースリット・エウリア・ファーレルの名に於いて。降伏なさい、言うべきことを言えば命までは取りません。しかし――逃げようとするならば、容赦はしません」
 リースリットの勧告に、まだ正気を保っていたらしいアタッカーの男が答えた。
「ハッ、んなもん信じられないね! アンタだって腐った幻想の貴族サマだろうが!!」
 憎しみか、侮蔑か。いずれにせよこの偽勇者たちは幻想貴族という存在をはなから信じていないらしい。
 おそらくは、後ろ盾となっている貴族のことすらも……。
「どっちにしたって今更戻れねーんだよ!」
 広い倉庫に、男の声が響いた。


 奴隷兵の攻撃を捌きながら、偽勇者のタンク二人と向かい合う焔とミルヴィ。盾を掲げて突進してきたタンクの巨体を焔の細身の体が受け止めた。
「……っ!」
 ともすれば弾き飛ばされそうなほどの一撃に、全身の力とバネで対抗する。突進の止まったタンクの盾を思い切り弾き上げ、ほんの僅かに相手と距離を取る焔。そこへその身に邪剣の極意を宿したミルヴィが飛び込み、誘うように問いかける。
「勇者サマ達、アタシとは踊ってくんないの?」
 ミルヴィの妖しくも美しい剣舞と視線がタンク二人と諸共に巻き込まれた奴隷兵に流血なき意識への傷を幾度も刻む。反撃とばかりに横薙ぎに払われたタンクの剣先を華麗なステップで躱し、挑発めいた視線を送って見せる。
 クンプフリットが投げつけたプレゼントボックスがヒーラーの前で弾けてあらゆる災いを浴びせかけ、リースリットも焔の魔法剣でもう一人のヒーラーへと斬りかかった。
 仲間の盾となるべきタンクは怒りに囚われ、それを癒すはずのヒーラーもまた怒りと封印で十全に動けない。アタッカーの二人は回復系スキルを用意しある意味「立ち続けること」を考えたアリスがばら撒く怒りに巻き込まれ、彼女に攻撃を集中させてしまっている。
 事実上の機能不全に陥った偽勇者グループは、イレギュラーズの攻撃に徐々に追い詰められていた。
 ミルヴィの脇から飛び出した焔がタンク二人の合間をすり抜ける。炎縛札で狙うのは、仲間の攻撃でダメージが蓄積しているであろうヒーラーの二人。札から噴き出た炎に絡みつかれたヒーラーたちが、まず最初に戦闘不能に陥った。
「貴様らっ……!」
 その場に倒れ込んだ二人を見て、タンクの一人が声を荒げる。
「ふぅん、一応仲間意識はあるんだ?」
 オデットが少々意外そうに小首を傾げた。
「でも、人の心配をしている暇があるかしら?」
 言葉と共に放たれたオデットの魔曲・四重奏が声を荒げたタンクを直撃した。リースリットの神鳴る縛鎖がタンクを巻き込み、ヨゾラが放った光翼乱破の光刃が敵を切り裂きつつ宙を舞う。
 一人のタンクがその体をふらつかせた。剣を振り上げ攻撃に転じようとしたもう一人のタンクに、焔が迫る。
「させないよ!」
 相手の懐へと飛び込みその体を宙へと跳ね上げる。そのまま自身も飛び上がり、空中で一撃を加えタンクの巨体を床に叩きつける!
「グアッ?!」
「勇者サマ、もういい加減しんどいでしょ? アタシの舞で眠るといいんじゃないカナ?」
 ミルヴィの躍動する肢体に合わせて振るわれる美しい曲刀が、タンクたちの意識を刈り取っていく――。


「邪魔だ!!!」
 死に物狂いなアタッカーの容赦ない一撃がアリスを襲った。自身のスキルとヨゾラのサポートで敵の攻撃に耐え続けていたアリスがついに倒れ、アタッカーの二人が正気を取り戻す。
 自分たちの不利……いや敗北を悟った偽勇者が取った行動は、倒れる仲間に背を向けての逃走だった。
 彼らが向かう先は西の扉――しかしそこにはレイクルイズとクンプフリット、それに手薄な西の戦力を補うべく戦闘の合間に移動したリースリットがいる。
「言ったはずです。逃げようとするならば、容赦はしないと」
 全てを灼き斬る光の剣を放つリースリット。その一閃に耐えきれず、片方のアタッカーが床に手をついた。
 クンプフリットがもう片方のアタッカーの足を止めるべく攻撃を仕掛ける。しかし、その足を止めるには僅かに足りない。
「止めとく、だからお願い!」
 ひたすら逃走の隙を伺うアタッカーの前に、今度はレイクルイズが立ちはだかった。
(時間を稼げば、ローレットの兄ちゃん姉ちゃん達が絶対どうにかしてくれる)
 信じて、敢えて挑発めいた言葉を投げかける。
「散々『勇者様だぞ!』って威張り散らしといて最後は逃げんの?」
 その言葉に相手の表情が歪む。
「勇者ってさー、もっとかっこいいものだと思うぜ?」
「退けっ!!」
 激高したアタッカーが剣を振り上げた。半ば叩きつけるようにして振り下ろされた剣の刀身がレイクルイズを直撃し、小柄な体が冷たい地面へと崩れ落ちる。
「ガキが」
 言い捨てて走り去ろうとするアタッカーの足を、朦朧とした意識のまま掴むレイクルイズ。
 足を掴む手がいとも簡単に払われる。稼げた時間はほんの僅か、しかしそのわずかな時間こそがアタッカーの逃走を阻む結果となった。
 アタッカーがレイクルイズに気を取られたその一瞬、一気に距離を詰めたヨゾラの壱式『破邪』が彼の意識を闇に沈めたのだ。
「あわわわわ……」
 全滅した偽勇者たち。残る奴隷兵もあと僅か……逃げようとして転んだのか単に腰を抜かしたのか、床に尻もちをついた奴隷商人の顔を蠱惑的なミルヴィの瞳が覗き込んだ。
「逃げちゃ、イーや♪」
 奴隷商人の耳に届く甘い声は、次の瞬間冷たく苛烈なものに変わる。
「……ここで絶対仕留めて裁きは受けて貰うよ!」
 怒りに囚われ座り込んだまま剣を構えた奴隷商人の前に飛び込んできたのは、光の翼を持った少女。
「ぼっこぼこにして痛い目にあってもらいたいところだけど、裁くのは私じゃないものねー」
 仕方ない、とでもいうかのように光の翼の少女――オデットが聖光を放った。
「う……ぐっ……」
 聖なる光に貫かれ、奴隷商人もまた地に伏せる。

 残る相手は奴隷兵のみ。それまでの戦いで数を減らした彼らにイレギュラーズが後れをとるはずもなく、ほどなく戦いは決着した。


「貴方達の振る舞いは聞きました」
 リースリットの厳しい声が古い倉庫の中に響く。
 偽勇者と奴隷商人の闇取引の現場は今、彼らを糾弾する場と化していた。逃れられぬようしっかりと捕縛された偽勇者を取り囲むのは、正しく勇者候補である八人のイレギュラーズ。
「この国において『勇者』の名は貴方達のような者が名乗って良いほど安くは有りません」
 建国王たる勇者王アイオン、そしてその物語。幻想貴族の一員であるリースリットにとって、「勇者」の呼称は王家の権威を示すものに他ならない。
「故に、その名を汚す行いを許す事は出来ません」
「オレは権威とかよくわからないけどさ。勇者って人として尊敬出来て、記録も、そして誰かの記憶に残るようなすごい人だと思うぜ?」
 戦闘で受けた傷故に僅かに顔を顰めながら、レイクルイズが口を開く。
「偽物のくせに好き放題して、……猫傷つけて。オレ何よりそれが許せねーけど!」
 レイクルイズの言葉にクンプフリットと焔が無言のまま頷いた。
「アンタたち、マジで何がしたかったのさ」
 子供向けの絵物語と違い、メダルを稼いで勇者になってちやほやされてめでたしめでたし、ではないのだ。その先にある重圧、そしてそれを背負う覚悟がなければ「勇者」「英雄」とは呼べまい。
「まあいいや」
 レイクルイズがはあ、と大きな息を吐いた。
「ありがとね、アンタたちのお陰でオレたちがメダル貰えるよ。アンタたちはここで終わり」
「そうだね、こんなモノを持ってたら無罪放免ってわけにはいかないだろうし」
 言いながらクンプフリットが取り出したのは偽勇者たちが意識を失っている間に回収した偽のブレイブメダリオン。
「ホントよくできてるよね。何処で手に入れたのかな?」
 言葉だけは優しげに問いかけるクンプフリット。しかし、それに答える声はない。偽勇者たちはそれぞれにそっぽを向いたまま、沈黙を貫いている。
「ヨゾラ、『これ』どうするの?」
 埒が明かない、とでも思ったのだろうか。黙り込む偽勇者と気を失ったままその脇に転がされている奴隷商人を指さし、オデットが問いかけた。
「私は相応の裁きを受けさせるべきだと思うのだけれど」
「……僕の希望は証拠品諸共憲兵辺りに突き出した上での牢獄行き」
 偽勇者たちを冷たい目で見降ろしヨゾラが答える。珍しく言い捨てるような口調になったのは、その怒りの大きさ故か。
「猫達にひどい事した偽勇者達に奴隷商人……君等の願いは未来永劫叶えないよ、僕はね」
 操られていた奴隷兵の罪を問う声はなく、彼らは一旦物語領内の病院に収容されることとなった。個々人の精神および身体状況を確認した上でそれに合わせた治療、あるいは支援が行われることになるだろう。

 イレギュラーズの決定に忌々し気に顔を歪める者、あるいは諦めたように目を閉じる者。無言のままそれぞれ反応を示す偽勇者たちに、ヨゾラは艶やかとすらいえる笑みを向けこう言った。

 猫や皆に優しくできれば、こんな事にはならなかったのにね――と。

成否

成功

MVP

レイクルイズ・ラントカルテ(p3p009628)

状態異常

レイクルイズ・ラントカルテ(p3p009628)[重傷]
アリス・アド・アイトエム(p3p009742)[重傷]
泡沫の胸

あとがき

 お疲れ様でした。
 偽勇者及び奴隷商人は捕縛され、証拠品と共に憲兵に突き出されることとなりました。
 おそらくは厳しい尋問と裁きを受け、牢獄に送られることになるでしょう。
 操られていた奴隷兵については、一旦物語領の病院に収容されました。
 心身の健康状態によって治療、もしくは生活支援等が行われる予定ですが、具体的な内容は皆様のご想像にお任せします。
 MVPは仲間を信じて敵の逃走を阻んでくれた方に。

 ご参加ありがとうございました。ご縁がありましたらまたよろしくお願い致します。

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