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シナリオ詳細

<フィンブルの春>殲剣の切っ先、至らずや

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 春の息吹が窓辺から吹き抜けてくる。
 穏やかな陽光を背にして、テレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)が微笑んでいた。
「お越しいただきありがとうございます、マルクさん」
 恭しい礼をしたテレーゼは視線を部屋に通されたマルク・シリング(p3p001309)に向ける。
「僕に何かお手伝いできることができたんですか?」
 今、この国――幻想『レガドイルシオン王国』は『勇者選挙』なるものに沸いている。
 それは当初、ローレットのイレギュラーズに向けて行われ始めた文字通りの『現代の勇者』を決める選挙である。
 魔物の大量発生に端緒を発したそれは、その討伐に最も貢献した者を勇者とするという、現王フォルデルマン三世の(場合によってはいつものとつく)おもいつきだ。
 何はともあれ、魔物が大量発生するという現実的課題がある以上、何かお願いされるのではないかと、マルクは判断したのである。
「勇者選挙……実のところ申しますと、私は『勇者そのもの』にさほどの興味はないのです。
 権威として、寓話や御伽噺として、であればそれは素敵だと思いますけど」
 向かいに座って、メイドの持ってきた紅茶に舌鼓を打ちながらテレーゼがぽつ、ぽつと語りだす。
「マルクさんのお耳にも届いているかもしれませんが、一部の貴族は自分の家で擁立したその『勇者候補』とでも呼べるものがいます。
 あくどいものであれば自分の権益の為、少ないでしょうけど、純真であれば純粋に応援したいから、という者もいるでしょう。きっと」
 表情から感情の読み取りにくい語りだった。
「ここからが本題なのですが、ブラウベルク家からも、勇者候補を出すことといたしました」
「え? そ、それはいったい……」
「現在はマルクさんの領地に出向しております、あのメイナードさん達です」
「メイナードさんとイングヒルトさん達、ですか?」
「はい。なので、少しの間ご領地から撤収することになります。
 と言っても、『今のこの混乱が何らかの形で収まるまで』の短期間です。ご安心ください」
「で、でも、どうしてですか?」
「色々と理由はあります。1つの理由として、うちの戦力の過半数は傭兵さんの皆さんです。
 いくら擁立するとして、言葉は悪いですが後見するのが傭兵、というのは体裁が悪いのです。
 それ以前に彼らはうちの領地を守るので手一杯です。
 もう1つは、あの方たちに謀反人の敗残兵という汚名を雪ぐために最も都合がいい舞台を用意できるから。
 最後に、ブラウベルク家に対外的に利用できる戦力がいることを示したいからです」
 そこまで言うと話を切り替えるように一息入れて。
「そして、これは『なぜ擁立するのが彼らなのか』ではなく、そもそも『なぜ勇者候補を擁立するのか』ですが。
 この先にどうなるのか知りませんし、分かりませんけど、『何かが起こった時に口を出せる大義名分は欲しい』のです」
 そのためには、何かしら関わっている必要がある、そういうことなのだろう。
「で、でも、どうしてそれを僕に?」
「彼らはマルクさんのもとに出向しています。
 半分はマルクさんご自身の戦力のように扱っていただける方々です。
 そのマルクさんに一切の説明もなしにおこなうのは、流石に失礼でしょう?」
 そう言って、貴族(せいじか)らしい笑みを零す。
 そこで、テレーゼはコホン、ともう一つ息を吐いた。


「さて、個人的なお話はここまでにしますね。
 ここからはイレギュラーズのマルク・シリングさんにお願いしたい依頼、です」
 切り替えたように今度は柔らかく笑って、テレーゼは何やら文書を取り出した。
「これは?」
「マルクさんがおっしゃっておられた通り、私に暗殺者が差し向けられようとしているようなのです。
 うちは派閥としてはフィッツバルディ公に属していますし、仮にも貴族ですから、今更それ自体、思うことはないんですけど。
 これは皆様に依頼をお願いする良い機会と思いまして」
「……僕達イレギュラーズにその刺客を倒してほしいということですか?」
 問いかけたマルクは、受け取った資料をさらりとめくっていく。
「簡単に言うとそうなんですけど……ここでもう一つ、条件があります。
 今回の依頼は、ブラウベルク家が擁立する勇者候補生と共に刺客の討伐していただくことです。
 暗殺者達の大将首を倒した方にメダリオンが配られると思います」
「あの人たちと共闘……ってことですか」
「はい。そして――遠慮なく勝っていただきたいのです」
「いいんですか?」
「はい。候補者は出すだけでいいのです。うちは小貴族です。
 勇者の後見、なんて色々と政治的な立ち回りはする余力がありません」
 大義名分は欲しいが、実際には勝ちたくない――だから、遠慮なく勝て、ということのようだ。
「分かりました……って、あれ? 迎撃する場所はここなんですか!?」
「仕方ないのです。ここにきて、私を襲う寸前にならないと、敵が私を襲うべく来たと証明できません。
 それに、皆さんが付いてるんですから、何の心配もしていません。頼りにしていますからね?」
 テレーゼが信頼に満ちた笑みでマルクを見据えていた。


「分かっているな?」
 男は目の前の犬に向けてそう声をかけた。
 犬の眼は胡乱で、一切の隙なく男を見ている。
「はい、父上。必ずや――テレーゼ・フォン・ブラウベルクの命を取ってまいります」
 犬の瞳のその向こう側、犬の耳より届いた言の葉を聞いて、青年は静かに頷いた。
 向こう側の父に聞こえたかどうかなど知りはしない。
「このダリウスが、我が家の栄光を為して御覧に入れましょう」
 静かにそう告げて、白刃が奔らせる。
 血飛沫が散り、眼前の鳥の首が落ちた。

GMコメント

さて、そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
<フィンブルの春>一本目、マルク・シリングさんのアフターアクションでもあります。

●オーダー
【1】『灰色の殲剣』ダリウスを勇者候補生よりも先に討伐する。


●フィールド
 ブラウベルク領の領都・ブラウベルクにある領主邸、特に庭部分です。
 足元は芝生と石が敷き詰められている部分などがあります。
 リプレイ開始時、イレギュラーズは館を背に布陣し、勇者候補生らは館の入り口を背に布陣します。
 敵軍を取り囲む形です。大将は敵軍の戦闘、イレギュラーズ側に立ちます。

●エネミーデータ
・『灰色の殲剣』ダリウス
 灰髪灰眼、顔の右側を斜めに覆う仮面を付けた剣士であり、洗練された剣術を使う武人です。
 今回の暗殺者達の大将首です。
 ずば抜けた物攻、防技を持ち命中、回避が高め、HP、反応、抵抗、CTが並、その他はやや低め。
 積極的に攻めかかるアタッカーです。

<スキル>
絶斬(A):卓越した剣技で対象を斬り伏せます。
物至単 威力大 【邪道:中】【失血】【致命】【必殺】

絶翔斬(A):高速で打ち出された剣圧が遠くまで伸びて対象を斬り伏せます。
物遠単 威力中 【万能】【飛】【恍惚】

絶死惨貫(A):近距離を貫く鮮烈なる刺突です。
物近貫 威力中 【スプラッシュ3】【ショック】【乱れ】【崩れ】

殲剣之理(A):其は殲滅の理。ただ斬り、ただ穿つのみ。
自付与 【瞬付】【副】【物攻:中】【命中:中】【反応:中】

・暗殺兵×20
 雇われた暗殺者達です。詳しい内訳は以下。

〔重装歩兵〕×5
 重装備な歩兵です。盾と剣を握り、見る人が見ればいわゆる騎士のようにも見えます。
 物攻、防技、抵抗、反応が並、それ以外は低め。
 戦闘時の前衛、主力ともいえます。

<スキル>
押し出し(A):全身を力に変えて対象を押し込みます。
物至単 威力中 【乱れ】【崩れ】【停滞】

〔軽装歩兵〕×5
 軽装備の歩兵です。片手剣を握り身軽な手本のような暗殺者です。
 命中、CTが高いです。

<スキル>
確殺剣(A):その一撃は速く、確実に首を刈り取るでしょう。
物至単 威力小 【連】【邪道:中】【致命】【必殺】

〔銃撃兵〕×5
 軽装備の銃兵です。中距離射撃戦闘を行ないます。
 物攻、命中、反応が高いです。

<スキル>
名手連射(A):対象を連続する射撃で追い詰めます。
物中単 威力中 【崩れ】【氷結】【泥沼】


〔魔術兵〕×5
 杖と魔導書を握る魔術師です。中~遠距離戦闘を行ないます。
 神攻、命中が高いです。

<スキル>
エレメンタルバースト(A):一帯にあらん限りの魔術を撃ち込みます。
神遠範 威力中 【万能】【業炎】【氷結】【ショック】【泥沼】


●友軍データ
・ブラウベルク子爵属メイナード隊
 ブラウベルク家に属する兵士。
 マルクさんの領地にも出向していますが、今回は勇者候補としてテレーゼに擁立されています。
 今回は競合相手でもあります。

・メイナード
 青髪青眼の青年。20代後半。メイナード隊の隊長です。
 やや長めの剣を佩き、甲冑に身を包んだ姿は騎士のように見えます。
 戦場ではタンクとして堂々とした堅実な行動を行い、着実に抑えながら前線を押し上げるでしょう。
 腕も悪くありません。少なくともブラウベルク家にとっての『勇者候補の本命』を名乗らせるだけはあります。

・イングヒルト
 紅髪赤眼の女性。20代前半。メイナード隊の副隊長でもあります。
 槍を片手にやや軽装な鎧姿をしており、騎士というよりは戦士といった雰囲気があります。
 戦場では手数と反応速度を駆使して攻めかかり、本命のアタッカーへつなぐサポート役のような動きを熟します。

・メイナード隊兵士×10
 ブラウベルク家に属し、平時はマルクさんの領地にて駐屯するメイナードの部下たちです。
 今回は全員が勇者候補生のパーティという体です。
 アタッカー役の大剣を持つ重装歩兵が3、タンク役の片手剣と盾を持つ重装歩兵が3、サポート役の軽装槍兵が2、同じく軽装の弓兵が2。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

  • <フィンブルの春>殲剣の切っ先、至らずや完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月29日 22時46分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ワルツ・アストリア(p3p000042)
†死を穿つ†
エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
クロバ・フユツキ(p3p000145)
傲慢なる黒
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
シラス(p3p004421)
竜剣
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼

リプレイ


 暗殺者達が館の門を潜り抜けるより少し前、マルク・シリング(p3p001309)はメイナード達に声をかけていた。
「メイナードさんの武人としての矜持を損なうつもりはない。だから勝ちを譲ってくれと言うつもりはない。
 ただ、一番重要なのはテレーゼ様を守る事だ。なので、連携して対応したい。力を貸してもらえないかな?」
「ええ、分かっております。テレーゼ様からもマルク様やイレギュラーズの邪魔をせぬよう言われております」
 こくりと頷いたメイナードに頷いてから、マルクはそれから、と一つだけ。
「誰も死なないように。これだけは僕からの命令」
「――分かった」
 力強く頷いて、握手を交わして、2人は一度別れた。
(うー、馴染めん。一人一人が弩級に強い面子ってのは分かるけど……)
 若干、一種の緊張感を持っているのは『紅の弾丸』ワルツ・アストリア(p3p000042)だった。
 若干のアウェーを感じつつも、ふるふると顔を振る。
(そもそも、仕事は楽しむものじゃないし。私は私でベストを尽くしましょう!)
 両頬を叩いて気合を入れた。
「暗殺、ねえ」
(正直、政争にはまったく興味無いし、勝手にやってろって気持ちもあるけど。
 他ならぬマルクさんの仕事だ、疎かにはできないよな)
 『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)は何やら相談している様子のマルクの方を見てながら思っていた。
「穏やかじゃあないね。何にせよそんなことはさせないよ」
 グローブを締めなおす『雷はただ前へ』マリア・レイシス(p3p006685)は風牙の言葉につなげるように呟いた。
 ちなみに、隣になんかいる。
「貴族様の館でお酒が飲めそうとくれば来ない選択肢はありませんわ!」
 ――ということらしい。アルハランドの領地防衛はいいのか、トラコフスカヤちゃん……。
「難しい話だったね……とにかくテレーゼさんを殺させなんてしないよ!」
 おめめぐるぐるさせてた『青と翠の謡い手』フラン・ヴィラネル(p3p006816)はふるふると顔を振ってひとまずそれらを振り払う。
「ていうか暗殺者だってばれちゃ失格だよね、うん!」
 まさしくもってその通りだった。
 その手とギフトの蔦はせっせと館の入り口に罠を張り巡らせていた。
 ほんのわずかでも時間稼ぎをして万が一を供えるためだ。
 そんなフランをせっせと手伝っているのがトラコフスカヤちゃんであった。
「えぇ、止めましょう」
 白紙の魔導書を開き、『夜咲紡ぎ』リンディス=クァドラータ(p3p007979)は強く言葉にした。
 頼れる仲間――マルクの領地を守る彼らも、守り抜こうと、羽筆を握る手に力がこもる。
「ブラウベルク家に刃を向けるならばそれは公に盾突くのと同じだよな」
 『双竜の猟犬』シラス(p3p004421)はその双眸を猟犬のように鋭くして、小さく呟いた。
 旧オランジュベネ地方はフィッツバルディ公爵の後見を受けたブラウベルク家が管理し、一部がイレギュラーズに開放されている地方だ。
 そのブラウベルク家を攻撃するのは黄金双竜――フィッツバルディ公に盾突くことを辞さぬともとれる。
 猟犬を自負するシラスからすれば、倒すことに微塵の躊躇もない。
「わたし達を信頼して命を預けてくれたんだから、その信頼には答えないとね」
 懸念していた事項は大丈夫そうだとメイナード隊の方を見ていた『赤い頭巾の悪食狼』Я・E・D(p3p009532)は頷いて赤ずきんの下、ケモミミをピクリと揺らす。
「来た」
「……流石に守りを固めているか」
 姿を見せた21人の敵。その中央にいる顔を半分覆い隠した男がそう言った。
た。
 男――ダリウスがちらりと背後を見るのとほぼ同時、メイナード隊が敵の背後で取り囲むように広がっていく。
 その時、ダリウスが僅かにメイナード隊を二度見した――ように思えた。
「勇者候補生、暗殺者、イレギュラーズ……さて。お前らと同じようにこちらも”仕事”だ。
 乗り気かと言われたらそうでもないのだけれど死んでも悪く思わないでもらおうか――」
 双刀を抜き放ち、『死神二振』クロバ・フユツキ(p3p000145)は静かに宣戦布告を通達する。
「命など、あの頃から惜しくない」
 静かに告げて剣を抜き、ダリウスが動く。

 それより早く、跳躍した影。
「先手必勝!」
 圧倒的速度で爆ぜるように飛び出した風牙は槍を投擲する。
 放たれたのは実体にあらず、練り上げられた気。
 打ち込まれた槍は真っすぐに敵陣へと炸裂する。
 数人が中てられて隙が生まれたのを確かめるや、一気に前へ。
 身を低く、這うように或いは臥せるように駆け抜け、一瞬の踏み込みと同時に周囲を薙ぎ払う。
 鮮やかな槍捌きが隙だらけの敵に傷を刻み付ける。
 風牙の最高速度に合わせることができた『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)は先頭に立つ男の前へ躍り出た。
「別に俺自身は勇者なんてものに然したる興味はないんだが……勇者なんてもんは誰かになれって言われたからなるってもんじゃないだろ?
 自分自身が成そうと思ってやってきたことの過程やその結果、それが誰かに認められて、自然にそう呼ばれるもんだろ」
「何か勘違いをしているようだが、私も勇者(そんなもの)に興味などない」
 エイヴァンの言葉に静かに告げて、敵は静かに剣を取る。
「私が興味があることは――お前たちの後ろで呑気に生きているあの小娘だけだ」
 敵の眼の色が変わる。尋常じゃない速度で放たれた斬撃が凍波の大盾の向こう側からエイヴァンの身体を大きく切り裂いた。
 圧倒的タフネスさが功を奏して、致命傷とまではいかない。
「見つけた、大将首」
 続けるように動いたシラスは極限の集中へ入り込むと、ダリウス目掛けて魔術を放つ。
 フィンガースナップの音が不快音となってダリウスの耳を打つ。
 躱すことも許されぬ完璧なタイミングで打ち込まれた魔術にダリウスの視線がこちらを向いた。
「行かせるわけないだろ」
 そちらへ動こうとするダリウスの眼前に立ちふさがり、エイヴァンは目の前の敵を見る。
「あっちに行きたいのなら俺を倒していくことだな」
 堂々と立ちふさがる宣誓をあげ、凍波の大盾を構え、押し付けるようにしてせめぎ合う。
 大口径のスナイパーライフルを担ぎ走ったワルツは射線を整え、引き金を弾いた。
 撃ちだされた一条の稲妻が真っすぐに戦場を駆け抜ける。
 それは最前衛の暗殺者の1人に絡みつくと、そこを中心にのたうつ蛇のような閃光を放ち、周囲を焼き付ける。
 踏み込みと同時、クロバは双刀に鬼気を纏った。
 鮮やかな焔は紅黒の太刀を彩り、眼前の敵兵を焼き払う。
 勢いを殺すことなく、踏み込むと同時、直ぐ近くにいたもう1人の敵兵へ深い蒼の太刀が閃いた。
 双撃は眩き閃光となって敵の動きを縛り上げる。
 紅黒と深蒼の剣舞が舞い踊り、その人たち人達が恐ろしいほどの痛みを伴う斬撃となる。
 そのまま流れるように連撃へ――鬼神の如き剣捌きが躍る。
「暗殺者といいつつ多数の兵を率い、かつ練度も高い。根無し草では無いね」
 ダリウスの様子を見据え、推測を立てるマルクは、手に握る杖に魔力を籠める。
 最前衛へと走り抜け、マルクは杖を地面へと突き立てた。
 大地の魔力を吸い上げて、杖が反応を示す。
 鮮やかな色を放ち、飽和した魔力がマルクの背に大翼を生みだす。
 それらは刃と化して周囲の敵を刻んでいく。
「やってくれる――あの槍使いから潰せ! 恐らくは奴がカギだ!」
 轟いた指示、視線の先は――風牙。
「何をしているのか知らんが、常に先手を打たれるよりはましだと思え」
 粛々とした指示に従うように、敵兵が風牙へ向けて動き出す。
 一連の猛連撃を眺めながら、Я・E・Dは落ち着いていた。
 全身から噴出した漆黒のオーラはやがて巨大な狼のように姿を変えていく。
 けしかけられたオーラは弾丸のように真っすぐに爆ぜ、射程圏内にいた複数の敵兵を喰らい、抉り、刈り取っていく。
 疾走する黒きオーラは獣のように直線状を3度駆け巡り、やがて形を保てないようになったあたりで、Я・E・Dに回収されていく。
 フランの掌に1粒の種が握られていた。それはやがて淡い輝きを放ちはじめる。
 穏やかで温かく、それでいてどこか確かな熱量を持つその種をクロバへと手渡した。
「クロバ先輩、これを飲んで!」
 その種に秘められし加護が、燃費の悪いクロバの魔力の循環性を整えていく。
 リンディスはさらさらと白紙の頁に物語を記す。
 ページが輝き、生み出されしは鏡面を描く魔術。
 淡い輝きに照らされた自分の身体と負担が減少していく。
 それをЯ・E・Dにも与えながら、一つ息をする。
 充実した魔力はリンディスの消費するはずだった魔力の殆どを削っていた。
 2人は互いの位置を確かめながら、間合いを調整していく。
 全身に纏う紅雷の出力を高めながら、マリアの視線は敵陣を向いていた。
 掌を空へ。鮮やかな紅の光が空へと駆けあがり、その色を蒼く染め上げる。
 円を描いた線状の雷が雷雲を呼び、やがて音を立てる。
 刹那の瞬きが戦場に降り注ぎ、僅かな後、轟音が轟く。
 1度などで終わらぬ天槌の裁きが敵陣の動きを阻害していく。

「突撃――!」
 イレギュラーズの先制攻撃に微かに遅れて、背後でメイナードが指示を与え、そちらも動き出す。
 立ち位置上、その多くが後衛であろう銃兵や魔導兵であるようだ。
 堅実に進むメイナードと、横槍を差すようなイングヒルトの攻撃が敵の後衛を突き崩さんと進んでいく。


 徐々にだが敵兵の数は減りつつある。
(正直私が寝てても大勝だと思うけど)
 なんてことを考えるワルツだったが、その魔力砲撃の精度と威力は参加者の中で著しく低いわけではない。
(手加減も無意味だし徹底的に攻めていきましょう)
 思い直して引いた引き金から放たれた雷霆が真っすぐに駆け抜けて、サークルを描きながら複数の暗殺者を取り囲み、縛り上げる。
 チェーン状の雷光が音を立てながら敵を焼いていく。
 マルクはダリウスの近くへと進み出ると、自らの周囲に舞い散る光の羽根を光刃と変えて叩きつけた。
 鮮やかな輝きを持つ羽根はダリウスを庇うように布陣する1人の兵士に大きな傷を齎していく。
 眼前にいる敵へ狙いを定め、クロバは双刀を構える。
 内側に宿る奔流を、急速に活性化させていく。
 全身から暁の空を思わせる焔が迸る。
 それは、彼の”剣聖”に至らんが為に編み出す無明を切り裂く剣。
 踏み込みと同時に放たれた鮮烈なる一撃は、オーバーキルに近い高火力をたたき出し、眼前の敵兵を地面へ叩きつけた。
「逃がさねえ、お前は俺達の獲物だ」
 勢いを殺さぬままにシラスは突貫する。
 組み合わされた超加速は風牙へすら肉薄し、圧倒的な速度はダリウスのそれを置き去りにしていく。
 握りしめた拳を叩きつけ、魔力で強化した脚力をバネに横薙ぎに蹴りを撃ち込んでいく。
 それらをほんの一瞬、本の刹那の内側に食い込まさせるように叩きつければ、回避力と防御技術を駆使する暇さえ与えない。
 エイヴァンが立ち続けている。
 見えた隙に、巨斧に仕込んだ艦砲が開く。
 瞬く間に収束する冷気が、弾丸へと形を整える。
 一瞬、エイヴァンは引き金を弾いた。
 衝撃で腕がブレるのを物ともせず、撃ちだした弾丸はダリウスの身体に微かな傷を付けた。
 不敗の英霊の鎧をその身に反映させるЯ・E・Dは、今にも倒れそうな重装歩兵の1人を見た。
 零れるように、溢れるように噴出した黒いオーラが、マスケット銃の幻影へと姿を改めていく。
「んーーいっくよー。狙ってバーンだね」
 指に添えた引き金を引いた。
 瞬間、弾丸が螺旋を描きながら重装歩兵へと吸い込まれていく。
 それは御伽噺の一つ。夢幻なるオオカミを殺した弾丸。
 ――今はまだレプリカに過ぎぬ一撃。
 縫い連れられたように撃ち抜かれた兵士は、そのまま地面へ倒れていった。
 フランは杖を構えれば、淡く輝く緑色の魔力が仲間達を包み込む。
 穏やかな光が齎す効率性は絶対性を為す根幹。
 それが一番目に見えやすいシラスの動きは軽い。
 絶対性を認め、英雄性を描く壮大なるラグナロク。
 リンディスがさらさらと描いた物語が魔力を帯びる。
 姿を見せたのは魔力の幻影。女性の姿の幻影は多くの傷を受ける風牙のもとへ。
 風牙を包みこむような温かい光が放たれ、その傷を瞬く間に癒していく。
 そこへ、前衛を突破した2人の剣兵が姿を見せる。
 軽装備の兵士達は、フランとリンディスの二人へ刃を振り下ろす。
 斬撃が傷を作る。
「ヒーラーだからか弱くて落としやすいなんて思ったら大間違いだよ!」
 フランは声を張り上げた。
 その身を包み込む優しい緑の魔力は、自身に精神的癒しを齎し、近くにいるリンディスの魔力を一緒に癒していく。
「残念ですけれど、私たち簡単に倒れるヒーラーではありませんから……!」
 同じようにリンディスが声を張り上げた。
 同時、めくられた魔導書に記された一頁が淡い輝きを放つ。
 それはある医師たちの伝承。戦場にて数多の者を救い、治療した者達の記録。
 温かな記録は、2人の疲労感を打ち消していく。
 そんな2人を警戒して、もう1人が全てを無視して屋敷の方へと突っ込んで行く。
 そいつは足元の罠に引っかかってずっこけた次の瞬間、トラコフスカヤの握る酒瓶で思いっきり殴りつけられて目を回す。
 マスコットという存在が繰り出す技としてはあまりにもあれだが、その一撃で頭グワングワンさせた敵へ、イレギュラーズによる追撃が入ってそいつは地面に倒れていった。
「私の仲間のフラン君は優秀でね……罠があれだけだと思うかい?
 雷光を迸らせながら、マリアは堂々と敵へ問うた。
 明確に敵の動きが警戒を帯びていく。
 周囲へ走る赤い雷をそのままに、マリアは再び手を空へ掲げた。
 鮮やかな蒼へと変質する雷霆は再び敵の兵士の身動きを封じていく。
 改めて周囲を見れば、残りの雑兵はメイナード達が請け負っている10人のみだった。
 Я・E・Dは再び狼を呼び出すと、館の方へ走り抜けた敵兵めがけてけしかける。
 疾走するオーラ体の狼が、兵士に食らいつき、噛んだままぶるぶると振り回す。
 兵士の断末魔の声が上がった。
 風牙は眼前の敵を捨て置いて、館に向かった敵の方を向いた。
 敵が撃ち込んでくる攻撃の慣性を逆に利用して、一気に跳ぶ。
 くるりと身を翻し、眼下を駆けるその軽装兵へ、烙地彗天を投げた。
 闘気に包まれた槍は真っすぐにそいつの腹部を貫いて身動きを封じ込める。



 戦いはイレギュラーズ有利に進みつつあった。
 トラコフスカヤの存在は意外にも敵の戦術にある種の壁となって立ちふさがっていた。
 フランが仕掛けた罠で鈍った動きと、トラコフスカヤの酒瓶による殴打で運よく入口へ進めた敵兵は身動きを封じられている。
 その上、イレギュラーズの戦線自体はフランとリンディスによるヒールにより堅実に守りを固め、高火力のアタッカーが揃ったことで優位性は強まっていた。
 それでも開いてしまった分のパンドラの輝きが戦場に満ちる。
 可能性の輝きが幾つか開き、数人の傷を癒していく。
 風牙は疾走する。放たれた銃弾と魔法を潜り抜け、前へ。
 パンドラの輝きが失せる頃、その身体はダリウスの正面にあった。
「――――それが、可能性か」
 ダリウスが表情に険しさを見せた。
 まるで得られなかった物にいら立つような声だった。
「あとはお前だけだ!」
 超高速より放たれた刺突は真っすぐに。
 低い体勢からの槍捌きにダリウスの剣が追い付いてくる。
 烈しい音が響き、勢いを殺される。
 一歩、前に出て、押し込むように打ち出した二の刺しがダリウスの身体に傷を生む。
「ちょこまかと動き回ってくれたな――」
 再び全身の魔力を放出して推進力に変えながら、シラスはダリウスを見る。
 踏み込み、走る。その一歩一歩の動きの度にあらゆるものをそぎ落として、先読みしたように払った蹴りがダリウスの身体を捕らえていた。
 再び開始された連撃が真っすぐに吸い込まれるようにダリウスの肉体へと突き刺さっていく。
 エイヴァンは白狂濤を構えた。
 到底片手で振るえなかろう巨斧を緩やかに構えて、振り下ろす。
 それはただの上段からの振り下ろし。
 されど、堅牢な防御力が受け続けた重さを返すように振るわれた一太刀は真っすぐにダリウスの身体を痛めつける。
 連撃に疲弊するダリウスであれば、当てることなど造作もなかった。
「誕生日パーティには間に合ったか? 間に合ったなら結構、存分に楽しんでもらおうか――最期までな」
 剣を構えなおすダリウスの眼前に身を躍らせたクロバは身を低く構えた。
「たしか、殲剣と名乗っているらしいな。そちらが殲剣ならこちらは滅剣とでも名乗っておこうか」
 充実した鬼気が濃密さを増していく。
 双剣に収束したソレを、クロバは一気に斬り上げた。
 暁を呼ぶ閃光の如き斬撃を、受ければ危険と判断したらしいダリウスが回避行動を取り――しかし連撃の疲労からか足を挫いた。
 迷いなき剣閃が、強かに削っていく。
 ワルツは猛攻撃の流れを見て取るや、再び引き金を弾いた。
 銃口より放たれた漆黒の魔弾は、真っすぐに駆け抜けていく。
 文字通り悪夢を呼ぶ呪われし弾丸は、疲弊を深めるダリウスの肺あたりを撃ち抜いた。
 呻くダリウスの身体を、悪夢の要素がおかしていく。
「テレーゼ様は僕達が守るよ。これ以上、手出しはさせない」
 意識を集中させながら、マルクはダリウスの視線と屋敷の間に立ちふさがった。
 杖の切っ先に魔力が収束していく。
 美しくさえある鮮やかな魔力の塊が、一気に圧縮されていく。
 掌に乗るサイズにまで圧縮されたそれは、真っすぐにダリウスの頭を――いや、ぎりぎりで回避行動を取って肩を貫通する。
「まだあきらめてないね……」
 Я・E・Dは両手に黒いオーラが宿り、その形を変質させていく。
 掌に乗ったそれは必殺を期す弾丸となり、真っすぐに駆け抜ける。
 それが既に傷を受けている部分へ炸裂すれば、ダリウスが血を吐いて――なけなしの体力を振り絞ったようにこちらを見た。
「しぶといね……でも」
 紅がバチバチと音を立てながら爆ぜる。
「私には関係がない! この落雷……防げる物なら防いでみたまえ!」
 蒼き雷運が立ち込め、ダリウスの背後にいた敵兵を中心に、巻き込むように雷霆が落ちる。
 一撃こそ小さいが、連続する落雷はその都度、精神力を削り落とす。
「まだ、まだだ……私は死ねぬ。私は――あの女を殺すまでは死なぬ!
 それが出来ぬのなら――」
 その目が血走り、色を変える。
 跳んで一気に後退したダリウスは一つ呼吸をして、イレギュラーズの後ろ目掛けて走り抜ける。
「やっぱり、無理矢理突破する気だよ」
 Я・E・Dは最後の力を振り絞った様子を見せるダリウスの様子を見て、そう声を上げた。
 その手にマスケットのレプリカを形成させながら、ダリウスの方へ銃口を向けた。
 その視線が、マルクを見ていることをリンディスは確かに見た。
「マルクさんの所には行かせません」
 割り込むようにしてリンディスはダリウスの前に立ちふさがった。
「邪魔をするな小娘!」
 振り抜かれた剣が、三度、リンディスの身体を貫いて身体を赤く染める。
 その準備は既にあった。
 淡く輝く魔導書が、描かれた一頁を、そこにある物語を照らして傷を癒していく。
 その姿を見て、フランは杖に魔力を籠め上げた。
 練り上げられた魔力は、美しい新緑の輝きを以ってリンディスの身体へと降り注ぐ。
 削れた多くの体力は、瞬く間に癒えていく。
 ぎりり、と歯ぎしりする音が、こちらをにらんだダリウスから聞こえたような気がした。
「逃がさねえって言っただろ」
 ダリウスの眼前へ次いで割り込んだのはシラスだった。
 咄嗟に剣で防ごうとした弱弱しい動きを看破して、変則的に撃ち込んだ拳がダリウスの腹部を穿つ。
 撃ち込んだ拳が、敵の血で濡れていた。
 続けるように追いついてきた風牙は槍を振るい、ダリウスの身体へと突き立てた。
 慣性の乗った一撃は、衝撃を伴いダリウスの身体を切り刻む。
 ふらつくダリウスが風牙の方を振り向くのとほぼ同時、エイヴァンは再びダリウスの前にたどり着いた。
「随分とみみっちことをやってるな、ダリウスさんよ」
 挑発気味に言った言葉に、ダリウスからの返答はない。
 視線すらこちらを見ていなかった。
 見ているのはただ、館の方だけだ。
 ズタボロの敵を見据え、ワルツは静かに引き金を弾いた。
 紅の魔弾が疾走する。真っすぐに駆け抜けた弾丸は、シンプルにダリウスの心臓を捕らえて撃ち抜いた。
 ぐらり、ダリウスが倒れていく。
 倒れ伏したダリウスの仮面が、ピシリと割れて、隠された側が露出する。
 その顔には、かなり以前からそうだったであろう痛々しい火傷の傷が残っていた。
 それを嫌っていたのか――あるいはその傷があることで身元がばれやすくなるから隠していたのかは、まだ分からないが。

「……死んだか」
 たどり着いたクロバは地面へと倒れたダリウスを見下ろした後、振り返り未だに抑えられている暗殺者達の方へ向いた。
「おい、お前達。俺は無用な殺生は避けたい主義でね。今後一切テレーゼに危害を加える事がないと誓えるなら行くといい」
 ダリウスの死を見たクロバは振り返るや残る8人へと宣告する。
 だが、止まらない。振り返り、こちらへ銃弾を浴びせかけてきた男をみて、一つ溜息を吐いた。
「であれば――残念ながら、斬る」
 爆ぜるように、一気に駆け抜けた。
 マリアは何度目になるか分からぬ蒼雷の雷雲を呼び寄せた。
 それを見たメイナード達が後退するのを見てから、静かに振り下ろす。
 雷鳴が轟き、最後になるであろう雷光が戦場を焼き払った。
 リンディスは一気に走り出した。向かう先は敵の後ろ、メイナード達だった。
 よく見れば、彼らも傷は多い。さらさらと魔導書に医師団の伝承を記しながら、駆け付けると同時に、それを紐解いた。
 大小さまざまな傷を受けた兵士達の傷が、徐々に癒えていく。

 圧倒的な人数差になったイレギュラーズ側の攻撃に、敵は瞬く間に倒れていった。
「……」
 戦場、倒れ伏したダリウスを見下ろし、イングヒルトが微かに目を閉じて黙祷するような動きを見せたのを、マルクは見逃さなかった。
「……マルク様、少し、私と一緒に来ていただけますか?」
 声を掛けようとしたマルクを制するように言って、イングヒルトが館の中へ歩き出した。


 戦いの後、イレギュラーズはフランの要望通り、ブラウベルク家でランチを御馳走になっていた。
「お酒が美味しいですわ!!」
 ワインボトル片手に言い放つトラコフスカヤちゃんの隣で使用人が空になった瓶を片付けている。
 マリアは更にその横で使用人が持ってきたワインを受け取っていた。
「本当に貰って帰っていいのかい?」
「大丈夫ですよ。最近になって作るようになったうちの名産の一つですから。
 お土産にお持ちください」
 マリアの視線を受けたテレーゼが微笑みながら、頷いたのを受けてお礼をしてから、トラコフスカヤちゃんへ全部飲んでしまわないようにだけ言っておいた。
 ヴァリューシャ分も残しておかないと、と。

「おいしー! 疲れが取れる!」
 紅茶に舌鼓を打った後、ほっと息を吐いたのはフランである。
 その言葉に嬉しそうにテレーゼが笑って。
「紅茶とお菓子ならまだまだありますので、ごゆっくりどうぞ」
 そう言って、視線をお茶請けのお菓子の方へ向ける。
「いただきます!」
 クッキーを一つ手に取って、フランはもくりと口に入れた。

 ワルツがぼんやりしている。
 元々はさっさと帰る予定だったが、なんか気づけばお茶会とランチが始まっていた。
「どうかなさいました?」
 顔を上げればそこには依頼人のテレーゼがいる。
「いえ、なんでもないわ。ごめんなさい」
「そうですか? でしたら、折角ですし少しお話しませんか?」
 きょとんとしたテレーゼがそのまま使用人に紅茶を頼んでお茶請けを渡してくる。

「勇者選挙…いつかの未来に語り継がれる新しい伝説……」
 リンディスはぽつりと呟いた。それに乗じるような陰謀、ひとまず、陰謀の一つは食い止めた。
(マルクさんの地を護る彼らの事も守り抜けましたね)
 休憩をしている兵士達の方へと視線を向けてリンディスはほっと安堵の息を吐いた。
「リンディスさん、さっきはありがとう」
 その声を聞いて視線を巡らせれば、そこにはマルクが立っていた。
「いえ、守り抜けて何よりです」
 少しばかり、2人はその場で休憩を始めた。

「貴族の人達も大変だね。必要だったら自分の命も囮にするだなんて」
 理由は判るけどあまり真似はしたくないな、とЯ・E・Dは思う。
「ならないで済むのであればやらないですませたいですけど、まぁ、その辺は仕方ありません」
 一種の諦観にも似た感情を言葉に乗せて、テレーゼが答えれば、Я・E・Dはこくんと頷いた。
「あのダリウスは狂犬型に見えたかな……あの手の人に狙われる理由ある?」
「あるかと聞かれれば、たしかにありますが……まぁ、その辺は仕方ありませんから」
 ほんのりと笑んで、そう言った。


 お茶会とランチが終わった頃、マルクはイングヒルトと共にテレーゼのもとを訪れていた。
「テレーゼ様。少しお話が」
「どうしました?」
 イングヒルトの言葉にきょとんとした顔を見せる。
「イングヒルトさんがダリウスに見覚えがあったらしいんです」
「ダリウス……?」
「はい。今回の暗殺者達のリーダーだった男です」
「それは……話が早いですね。どこのどなたなんです?」
「ダリウス・アスクウィス……かつて私の許嫁だった男で、旧オランジュベネ家に属した騎士の家系の男です」
「叔父との因縁はまだ晴れそうにないですね」
 テレーゼの小さな言葉を、マルクは確かに聞き取っていた。
(やっぱり、思ってた通りオランジュベネに味方した貴族、か)
 予測は確信となった。
 小さく息を吐いて、マルクは眼を閉じた。

成否

成功

MVP

マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫

状態異常

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)[重傷]
波濤の盾
新道 風牙(p3p005012)[重傷]
よをつむぐもの

あとがき

あらゆるシリアスがトラコスカヤちゃんにねじ伏せられてしまう……。
さておき。お疲れさまでした、イレギュラーズ。

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