シナリオ詳細
黄泉津散策奇譚
オープニング
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神威神楽の動乱を終え、季節が巡る。
鮮やかりし錦の衣を覆い隠した白雪の礫をも攫った花模様。春がやってきた頃に、守護神霊たる黄泉津瑞神は日々、研鑽を積むが如く穢れ祓いに勤しんでいた。
黄泉津が孕んだ穢れ、地に蓄積した其れより民を護る為に己が身を砕いた事で幼神へと相成った小さな神は「瑞」と降った声に気付いて「まあ」と硝子玉のような瞳を瞬いた。
「黄龍、如何なさいましたか?」
「どうやら御所に神使達が来ているようだ。何やら、世情がどうかという話のようだが勅命が在るわけではないらしい。
賀澄もこの後、何の予定もなければ茶会はどうかと誘いを掛けたようなのだが……さて、どうする?」
「どう、とは?」
「分からぬか?」
「ええ……」
「ちょっかいを掛けに行かぬかという問いかけだ」
黄龍の言葉に瑞はぱちりと瞬いた。元来、この神霊は悪戯好きで気紛れで在った。
神使を試し、己が力を与える試練を与えたのとて『身に余る力を悪用しないか』という理由と興味が在ったからであろう。
(……遊びたいのですね、最近はわたしにつきっきりで穢れ祓いをしていましたし。
自凝島の事も気に掛りますが今一時を無駄に、等という程に時期が迫っているわけでも在りませんし、戦の前には余暇も必要でしょう)
まじまじと女人の姿をしている『友神』を眺めて居た瑞は「よいですよ」と微笑んだ。
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高天御所――
黄泉津と呼ばれし島に座する神威神楽の京である。御所での謁見を気軽に叶える事ができるのは神使であれば如何なる時でも、と霞帝が応じるからなので在ろう。傍らで渋い顔をする中務卿は「帝、それから神使殿、申し訳ないのだが……」と苦々しく言葉を吐き出した。
「客人が――」
「晴明よ、相変わらず頭が硬いのう」
晴明の肩口へと子犬の頭をぽすりと乗せた黄龍は「遊びに参ったぞ、神使」と微笑んだ。
「……」
「……そのぅ……晴明、ごめんなさい。あの、賀澄、皆様。本日は斯様な用件で?」
晴明の肩口に腕をちょこんと乗せていた瑞神へと霞帝は「ああ、ご用窺いだ」と微笑んだ。
「最近の神威神楽はどのようで在るかと、確認に参ったそうだ。
神逐より幾分か刻が経つ。各地の様子をその目で見たいそうだが……ふむ、黄龍と瑞殿が来たのならば話は早いな?」
霞帝が視線を送ったのはシキ・ナイトアッシュ (p3p000229)であった。
「貴殿等が良ければこの神二柱を案内役に寄越そうと思うのだが……」
「そんな気軽にカミサマ貸してくれるんですか!?」
驚いた様子の夢見 ルル家 (p3p000016)に霞帝は「構わんだろう」とからからと笑った。なんとも軽ノリで突然の視察が決定してしまったが――さて、中務卿の胃がぎりぎりと痛む。
「相変わらず苦労の耐えぬ職場じゃの。神二柱に案内を頼むという事は向かう場所は決定して居るのかの?」
瑞鬼 (p3p008720)の問い掛けに黄龍は「何処へ往きたい?」と聞き返す。
「実はそこまで神威神楽には詳しいとは云えない――と、言うか神より詳しい奴がいるか?」
キドー (p3p000244)の言葉に霞帝は「その通りだな」と頷いた。黄龍はううむ、と小さく悩むような仕草を見せる。
「戦を求めてきたわけではないのだろう?」
「戦の火があるのか?」
「たわけ、戦などする物か。吾は休暇ぞ」
黄龍は瑞神の肉球でウォリア (p3p001789)をかつかつと突いた。そうされる側である瑞は「ああ、ごめんなさい、ウォリアさま」と幾度も謝り続けている。
「ねえ、鬼灯くん。カムイグラはお花が綺麗なのでしょう?」
「ああ。章殿。先程、帝が仰っていたとおり、この国は四季折々の花を眺めることが出来るらしい」
嬉しそうに声弾ませる章姫に黒影 鬼灯 (p3p007949)は「花見というのは?」と問い掛ける。
「花見、か……」
「良いかもしれないね? 神だけが知っている場所とか……?」
浜地・庸介 (p3p008438)に続き、隠岐奈 朝顔 (p3p008750)も小さく頷いた。折角ならば黄龍ならではの場所にも案内して貰いたい。
「ならば、決めたぞ。神使。目的地は瑞の神域である」
「……神域?」
「うむ。其処に一本のしだれ桜が美しくての。無論、瑞がおらねば、入れぬ場所ではあるが必見じゃ。
それ以外に主らが見たい場所はどれも余すことなく観光しよう。何、『つあーがいど』というのだろう。引受けようぞ」
堂々と微笑んだ黄龍は「吾に任せよ」と堂々と笑みを浮かべたのだった。
- 黄泉津散策奇譚完了
- GM名夏あかね
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年04月17日 22時48分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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神威神楽の観光へ――その『つあーがいど』に守護神と名高い二柱を派遣する行いに『零れぬ希望』黒影 鬼灯(p3p007949)は霞帝は果たして人間であるのかと気になってしまうと揶揄うようにそう言った。
「残念……帝さんは一緒に来られないのねぇ……」
ぽつりと呟いた章姫。父のようだと霞帝を慕う彼女は出来れば霞帝と共に行動したかったのだろう。中務卿NGが掛った以上は致し方が無い。そんなしょんぼりした彼女を見れば嫉妬という苦い気持ちが浮かんできてしまうと鬼灯は頬を掻いた。
「観光を許してくれてありがとう! 楽しませてもらうね」
微笑んだ『龍柱朋友』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)へと霞帝は大きく頷いた。彼の国(いえ)を歩き回るのだ。しっかりと挨拶を行っておこうとシキは礼儀正しく笑みを零した。
「――ところで諸々のお代は帝持ちという事でよろしいですね!?」
そう言ったのは『離れぬ意思』夢見 ルル家(p3p000016)。彼女の言葉に「流石は天香に捕えられても生還した女子だ」と黄龍が揶揄い半分にルル家の頬をつんつんと突く。
「良いぞ、吾が許そう」
「黄龍殿――!」
晴明の叱り付ける声を無視して、行くぞと黄龍はルル家を抱え走り出した。風のように過ぎ去ってゆく二人を見遣った後、章姫がくすくすと笑ったそれだけで鬼灯の本日はハッピーなのだ。
「――して、天守閣と?」
「ああ。賀澄には改めて挨拶と、嘗ての傷跡残る天守閣を……神逐の戦果をこの目に焼き付けたく思う」
堂々と、『終縁の騎士』ウォリア(p3p001789)はそう告げた。ウォリアが望むのであれば是としよう。霞帝は「貴殿の望む通りにせよ」と大きく頷いた。
「ようよう、久しぶりだな。俺の面忘れちゃいねえだろうなァ?
今日は特別ゴタゴタもなく、ゆったりお客さんできるってェ訳だ。遠慮なく楽しませて貰おう。たまには英雄サマとして振る舞うのも悪くない気分だな!」
にいと唇を吊り上げた『最期に映した男』キドー(p3p000244)へと「憶えて居るぞ。よくぞ参ったな、今日はたっぷりと英雄になるが良い」と黄龍が満面の笑みで肩を叩く。気易い神の様子を見れば『凡骨にして凡庸』浜地・庸介(p3p008438)は如何したものかとぱちりと瞬いた。
(神居神楽の旅か……シキ殿の誘いで偶然連れてこられたが、顔見知りもほぼいない。何をすればいいのやら……)
悩ましげな庸介へと黄龍の様子を眺めていた瑞神が「もし」と袖を引く。余りに幼い神様は「カムイグラは余り慣れませんか?」と首を傾いだ。
「あ、ああ」
「ならば、のんびりと参りましょう。わたしも国を足でというのは又とない機会なのです。あなたも楽しめますよう……」
微笑むは神威神楽が存在する島『黄泉津』の名を冠とする瑞神――瑞兆の精霊だ。守護神たる彼女の直々の案内となれば『幽世歩き』瑞鬼(p3p008720)は長生きしてみるものだと大きく頷いた。
「瑞とは浅からぬ縁を感じるが……わしのこの名前は刀子の奴がつけた名じゃしな。
あ奴が何を考えておったのかは知らん。思いついただけかもしれんしの。さて、瑞よ――お手」
「……? あ、はい」
指しだした手にそっと小さな掌を乗せた瑞神は合っていますかと首を傾いだ。彼女は知り合いの小さな犬から『お手』の作法を教わったのだと瑞鬼を輝く瞳で見上げる。
そんな鬼と神の様子にぎょっとしたのは『天色に想い馳せ』隠岐奈 朝顔(p3p008750)。仮にも黄泉津の守護神。子犬のようにお手など――と思ったが、瑞は気にする素振りもなかった。
「うむうむ。さて、瑞よ。許しが出るならわしが運んでやろう。肩車でも抱っこでもよいぞ。神と言えども幼児は甘やかされるべきじゃからな」
「まあ。瑞鬼さまにお任せ致しましょう」
抱っこされた瑞を見遣ってから朝顔は「散策、楽しみです。それに桜も……神域? 神域って……」と笑顔から表情を青く染め上げる。
「し、神域ってトンデモナイ所では……!?」
インスタントカメラをぎゅうと握った朝顔は瑞と目が有って、豊穣の民として聞けないけれど聞きたいことが頭に過って仕方が無かった。
(何故おしゃぶりを咥えてるんです、瑞様……? 何故おしゃぶりを渡したんです、黄龍様……?)
――正解は再誕した瑞に何となく『お守りじゃ』と黄龍が揶揄い渡した結果、律儀にお守りだと咥えてしまった、である。
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御所で、瑞鬼は瑞と遊んでいようと決めていた。天守閣へと向かう仲間達を見送って、のんびりとしていようと考えたのだ。
「瑞はなにかしたいことでもあるかの? わしにできることならなんでもよいぞ」
瑞鬼へ瑞はぱちりと瞬いてから首を傾げ「ではお手玉など」と女房へと声を掛ける。幼児になってからというものの霞帝がつづりやそそぎのお下がりだと着物や玩具を分けてくれるのだそうだ。
「瑞鬼さまにとっての暇潰しになればよいのですが。お手玉はお得意ですか?」
「お手玉ってなあに?」
章姫の問い掛けに霞帝は「お手玉とは」と淡々と説明し始める。彼は自身がともに天守閣を見にいくのは野暮だと考えたのだろう。出掛ける準備を整える晴明を待つ間に章姫を少しでも楽しませようと考えた様子である。
「そうだ、瑞様。お願いがあるんです。これはインスタントカメラと言って練達で作成された撮影が可能な機械なのですが……これで写真を撮っても良いですか?」
神域はおいそれと他人に見せることは出来ない。黄龍は「吾という『ふぃるたー』なしに映るかは定かではないが」と前置きしてから朝顔ににんまりと笑った。
「罪な男よの。天香の義弟へか」
「……はい。それでも…遮那君に今日の景色を見せてあげたくて。何か残したいんです」
そう言ってから朝顔が眺めたのは天守閣――神逐の、戦の気配も通り過ぎたこの国の象徴。
「天守閣……あんときゃ余裕があるとは言えない状況で無我夢中だったよなぁ。
改めてゆっくり見てみれば……壊れちゃいるがなかなか見事な建物じゃあねえか。
この建物について色々聞くなら帝かね? それとも晴明か……。ちょっと興味が出てきた」
「いやあ、立派ですよね! うんうん、この国はそう言う建築が得意なのでしょう」
誇らしげなルル家にキドーは大きく頷いて、修復作業を行う職人の傍らに立って覗き込む。
「修復作業中なら瓦とか装飾とか、普通なら近くでまじまじと見れないものも見れるかね。ゴブリンはこういう細工物が好きなのさ……いや盗まねえ! 盗まねえってホントに! 今日は!」
「『今日は』」
そう口にした庸介が首を傾ぐが慌てたようにキドーは「盗まねえって!」と小さく笑う。そうして、この場所で笑い合える事さえも、どこか不思議で堪らない。
――その地は、神逐以来はまじまじと眺めたことが無かったとシキは顔を上げた。
「よければご一緒してもいいかな、ウォリア」
勿論だと頷いたウォリアは静かに息を飲む。かつての傷跡は気付けば随分と保全されたものだ。眼無き焔で見上げれば、あの日の瑞神が浮かぶようにで。
隣に立っている彼女も、背後に立つ彼等も、黄龍や瑞も。今日を生きる者達はあの日を越えてここに居る――
「……俺らが瑞を引き戻せなきゃここも……いや、やめとこう。終わったことについてグタグタ言っても仕方ねえことさ!」
キドーは頭を振った。友人を助けて欲しいと乞うた黄龍が友を取り戻せた。それだけでいい。『もしも』を語れど、得るものは無いのだから。
澄んだ春風はどこまでも尊い。この風を辿れば、彼等の言う神域の桜があるのだろうか。
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「さあ、折角なので晴明殿も行きますよ! ずっとそんな難しい顔していては一緒に働く方の気が詰まりますよ!」
――そう言って連れ出された晴明は『女性の買い物』には参加できないと慌てたようにウォリアとキドーの方へと向かったのだった。
「晴明殿……」
「まあ、どうかしたの?」
鬼灯と章姫に「買い物に行くなら俺もご一緒しても良いだろうか」と緊張したように晴明は言った。自身が朴念仁と自覚はあれども女性の買い物を邪魔するほど野暮ではないということか。
「花見といやあ酒だろ! 酒! 大丈夫大丈夫。ハメは外さないって。自由時間に色々店を見て回ろうぜ。
黄龍さんよ、あんたほどの大精霊サマ色々いい酒のこと知ってんだろぉ? 勿体ぶらずに教えろよ」
「ああ、無論だ。だが――」
ほれ、と指さした酒屋から店主が黄龍様のためと微笑みを浮かべて酒瓶を掲げている。だが、そのお値段なんと――
「…………なかなかするな。経費で落ちませんかね!? 請求はローレットに!!」
此処で霞帝持ちでと言われなくてちょっぴり安心した様子の晴明の安堵の表情に僅かに不憫になるウォリアであった。
「ウォリア殿はあちらだろう?」
「ああ。鍛冶処やタタラ場などあれば……見学の機会が無いのでな。
さすがに専属になってもらうわけにもいかんが、頼もしい『ガイド』もいる……クク、何も戦ばかりが求める所ではない、期待しているぞ黄龍?」
「任せよ」
案内してくると背を向けて立ち去ってゆく二人を見送ってから鬼灯は折角ならば団子や弁当を購入して土産にしたいと食べ歩きへと向かう。
「……と酒、花見には酒だ。これは必須。章殿はジュースにしておこうね。
あれもこれもと悩んでいたら予想以上に量が多くなったな。まあ、余れば持って帰ろう」
「荷物持ちをしようか?」
問うた庸介に章姫が「有難う!」と微笑んだ。皆と同行し、アクセサリーをチェックしに行った後のシキと合流する予定だ。観光には余り縁は無く、修学旅行さえも無我の境地で乗り切った庸介には、よく分からない遊びではあるが、楽しげな仲間達は見るだけで学びとなる。
「シキ先輩、ルル家先輩ショッピングお誘い有難うございます! アクセサリー、気になってたんですよね」
高天京を巡りアクセサリーを見てみたいと計画した朝顔、シキ、ルル家。朝顔と言えば20歳の誕生日を迎え、イメチェンも視野に入れていた。
「ね、よかったらなにか今日の記念にお揃いで買わないかい? なんて。反物を使った髪飾りとか……あ、これルル家に似合いそう!」
ほら、と店を覗き込むシキに続いて「お揃いもいいですね」と朝顔は品物を眺める。
「どうですかこの桜モチーフの簪は! きっとシキ殿によく似合いますよ!」
「似合うかな?」
ほら、とルル家がシキの髪へと宛がえば、朝顔も「これも似合いそうですね! ルル家先輩はこっちとか」と藤の簪や桜のつまみ細工の髪飾りを手に取る。
そうして三人が顔を見合わせ笑みを浮かべている場所へずずいと差し出されたのは幼児の姿を取っていた瑞である。
「瑞鬼さま?」
「ああ、うむ。瑞にも何かと思ったんじゃが……何、遠慮はするな。神使として動いて珍しく金はあるからの」
折角なら瑞に似合うものも選んで遣って欲しいと言う瑞鬼にルル家とシキは頷き――朝顔は「神様のアクセサリーを!?」と驚愕したのだった。
「あ、じゃあ折角ならつづりちゃんやそそぎちゃんにもお土産として買いたいかな。
彼女達でお揃いになる何かにして……今日は会えなくても、次会う切欠にはなるはずですし……!」
「まあ、巫女に会いたいのでしたら言伝しておきましょう。晴明に」
ね、と微笑んだ瑞に朝顔はぱあと表情を明るくし有難うございますと微笑んだ。さて、酒をチェックしてから瑞鬼は買い足そうかと歩を進める。
「ウォリア殿は味覚は感じない代わりに香りで楽しめると言いますし、お酒や食べ物は出来るだけ香り高いものを選びましょうか!
かき氷のシロップも味は同じで香りが違うだけと言いますし、結構楽しめるんじゃないでしょうか! 黄龍殿や瑞殿はお酒はお好きで? おすすめ等ございましたら案内下さいませんか!」
ルル家の言葉に「瑞はダメじゃぞ。喩え神でも幼子に酒はやらんぞ。身体に悪いからの」と小さな神の唇をぷにぷにと突いた瑞鬼。突かれた側の神は「ええ、今は赤ん坊です」ともそもそとおしゃぶりを咥えて首を傾いだ。
鎚が鋼を打つ音、炎の煌き、どれも心地好きもの――ウォリアはじっくりと、生まれる過程を眺めて感嘆の息を漏らした。
「戦場へ向かうのか、何かを守るのか、それとも美術品として鑑賞されるのか――」
人と火より生まれた『彼等』を見る目は、誰にも分からないほど仄かに暖かく。もっと見て居たいものだが、そろそろ時間だと黄龍に声掛けられる。
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神域に踏み入れた刹那、その場所の澄んだ空気にウォリアは周囲を見回した。まさに瑞神の思いが齎した爛漫の景色が広がっている。
「此処が……神域と呼ばれるに相応しい美しき場所だ」
遮那も共に訪れられたら良かったもののと考えながらルル家は「綺麗ですねえ」と笑み溢す。この景色をお裾分けしたい朝顔は遮那の為にとインスタントカメラで撮影をする――ああ、けれど、現実の方がもっと美しい。
「春といえば桜。風流じゃな。神使たちがこの豊穣にやって来てそろそろ一年になるか。いろいろあったのう……なんて、黄昏れるわけもあるまい」
購入した酒と料理を並べた瑞鬼は盃が行き渡ったかを確認する。朝顔はジュースを盃に注ぎ入れ「瑞様もどうぞ」と微笑んだ。
見事な桜だと鬼灯は折角ならば卯月も連れてきてやりたかったと呟く。神域に入るとは恐れ多いと辞退してしまった彼にも少しのお裾分けを与えられれば良いだろうか。
「まあ、綺麗なお花ねえ」
舞う花弁を掌にちょこりとのせて幸せそうな章姫。皆に盃が行き渡ったのを確認し黄龍の乾杯の声を聞いた後、ルル家はにんまりと微笑み皿を差し出した。
「ささ! それでは皆様! ご堪能下さいませ!」
風を感じて桜を眺め――そうして時を過ごす心地よさ。ウォリアは普段は余り人の食物は取り入れないがルル家達の心配りもあることだ。今日は同じ食事を取るのも良いかと弁当をまじまじと眺める。
(……かつての狂神であった己には、この未来は『見え』なかった。運命という詞を超えた、密かな高揚)
口にも、況してや文字通りの鉄面皮にも顕わさずに盃に舞い落ちるひとひらの桜を眺めてウォリアは小さく笑みを零す。
花見で故郷を思い出せども庸介はおもひでに浸るほど労政はしていない。どう楽しめば良いかも分からないが礼を欠かぬようにと気を配った彼へとシキは「楽しかったかい?」と問い掛けた。
「ああ。俺はこういった催しにはとんと疎く楽しめたとは言えないかもしれんが……誘いに感謝を」
幸せそうに笑ったシキの傍らで、キドーが「あのよお」と小さく呟いた。瑞鬼の膝にちょこりと座っていた瑞がこてんと首を傾ぐ。
「……不尊だけどさ。正直に、正直に言っていいか。俺さあ、犬が怖いんだよね。
でさ、瑞はこう……あんときはバカでかくて犬って感じがしなかったんだよ。現実的な大きさになるとこう……ええい笑うなよ!」
「まあ……犬姿、恐ろしいですか?」
「まあ……でさ実際、あのぐらいになるほど力を取り戻すのにどの程度かかるモンなの?」
「そうですね。途轍もない時間でしょう。みなさまの中で生きている方はいらっしゃるか分からぬほどの――」
それ故に、精霊であった彼女は神霊と呼ばれ、神様と称されたか。キドーはへえと相槌を返しながら僅かに後退した。
瑞に食事を取り分けて甘やかしていた瑞鬼はふと気付いたように「瑞、行くか?」と問い掛ける。
「ええ!」
犬の姿に変化した瑞がキドーへと迫ってゆく。その様子にふ、と笑みを零した晴明へ鬼灯は「酒は足りているか?」と問い掛けた。
「今は仕事ではなく所謂オフの日だ。遠慮することはあるまい。……俺の口元が気になるか? まあ、ギフトだからな、これ」
「贈物は凄いものだな。そうして全てを隠すのも愉快なものだ」
まじまじと覗き込んでくる晴明に「まあ、晴明さんったら!」と章姫が小さく笑う。その光景だけを見れば中務卿が破廉恥だと呟く黄色龍に朝顔は小さく笑みを零した。
「は、破廉恥などでは――!」
「うん、やはり貴殿は見ていても話していても愉しい男だ。今度は帝や弥生も交えて共に酒を飲もうじゃないか」
小さく笑っていた鬼灯に晴明は咳払いを幾つか繰り返しそっぽを向いた。
「晴明殿、こちら、お留守番してた帝へのお土産です! 楽しんで下さいね!」
「ああ、感謝を。……して、お代なのだが……霞帝持ち――」
ルル家の心遣いに一度喜んだ晴明が彼女の力強い頷きに不安げな表情をし――其の儘、青褪めたのは仕方が無いことだったのだろう。
「……あのさ、黄龍。お花見に誘ってくれたのって……次はお花見に行こうっていったの憶えててくれたのかな?
そうだとしたら嬉しいなって。……ふふ、ありがとう黄龍」
「粋な男であろう? 惚れるでないぞ」
揶揄うような黄龍の言葉にシキはくすくすと小さく笑った。
「あと瑞さん。その、ね。よかったらなんだけど! 黄龍みたいに……その、瑞、って呼んでもいいかな……なんて」
「ええ、皆さん。瑞、とおよび下さい。これからも幾久しく――私の子等を、此の地を愛して下さいませ」
舞うしだれ桜の下で、此の地を共に守ってゆくと心に誓いながら。
神威神楽の春は移ろう。次第に巡る四季の姿は、此の地を守った者達へと感謝を伝えるように鮮やかに輝きを帯びて。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
おしゃぶりは、ILさんのアレンジでした。
可愛いのでおしゃぶり吸ってる、赤ちゃんじゃん!!って思いました。気軽にバブっていきます。
GMコメント
リクエスト有難うございます。戦闘はないのでのんびり往きましょうね!
●黄龍ツアー
のんびりと神威神楽を見て参りましょう。
最終的な目的地は瑞神の神域にあるという桜です。天津神宮(瑞神の祀られる場所)の裏手の山に存在して居るそうです。
美しいしだれ桜は神域に護られ、その加護も強く一等美しく見えるそうです。
神威神楽の内部であれば何処へでも行く事ができます(除:自凝島。 ※自凝島は立ち入り禁止です)
御所内も自由に歩き回って頂けます。
スポット一例:
・高天京
賑わいを見せています。戦の傷跡は感じられない賑わいと復興具合です。
・高天御所 白香殿
荒れ果てています。嘗ては巫女姫エルメリアが座した場所です。霞帝は手を付けるにも困っているようです。
・高天御所 天守閣
崩れては居りましたが修復作業が進んでいます。飛行などで登ることかが可能です。
・此岸ノ辺
復興は進んでいるようです。巫女達が今日も頑張ってます。
その他の場所にも行く事は可能です。お気軽にお申し付け下さい。
●NPC
・黄泉津瑞神
・黄龍
ご一緒します。この二人であればどのようにも接して下さってOKです。
また、担当の付いていないNPCであればお声かけ可能です。
但し、霞帝は御所からでれません。つづり&そそぎも此岸ノ辺から出てきません。中務卿、建葉・晴明は如何様にでも。
担当の付いているNPCについては申し訳ございませんがご要望にお応え致しかねます。
●その他
最終目標はお花見です。それ以外はお買いだしや、観光何でもお好きに神威神楽を過ごして頂ければと思います。
どうぞ、宜しくお願い致します。
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