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シナリオ詳細

筑波嶺の 峰より落つる 男女川

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「確か、この辺りで依頼人と落ち合わせるハズなんだけど……」
 いないね、と『Blue Rose』シャルル(p3n000032)が呟く。緋道 佐那(p3p005064)を始めとしたイレギュラーズは辺りを見回した。
 幻想や鉄帝、海洋などの存在する大陸から静寂の青を越え。とはいってもイレギュラーズたちは空中神殿から此岸ノ辺を介して、あっという間に辿り着いているわけではあるが。
 これまで越える事の出来なかった海を越えた先、カムイグラにて一同は依頼人を探していた。なんでも最近ちらほらとカムイグラで起こっている女性失踪事件に関わることのようであるが――。
「……いないね?」
「依頼人ってどんな人なのかしら? シャルルさんは一度顔を合わせたのでしょう?」
 佐那がそう告げると小さく眉を寄せて人探しをしていたシャルルがスンッと無表情になった。え、一体何が。
「女好きだよ」
「……へぇ」
「依頼について詰めていたはずだったのに、いつの間にか周りが女の子だらけだった」
「……へ、へぇ……?」
 ちらりと佐那の脳裏にある人がよぎる。あの人も可愛い女の子がいれば引っ掛けてくるナンパ癖があったが――いやいやそんなまさか。あの人はラサの実家にいるはずで、変わらず鍛錬に明け暮れているはずだ。だがしかし、そういえば、最近あの人の話をとんと聞いていないような気も。するような。しないような。
 その時、他のイレギュラーズが「若い男性なのか」と問う。佐那はシャルルへ視線を向けた。彼女が首肯すれば、あるいはそれと同等の反応をすれば佐那の思い描く人物には当てはまらない。
 が。
「女性だよ。年齢は聞かなかったけど、成人はしてるだろうね」
 淡々と返すシャルルの言葉に佐那は空を仰いだ。ああ、此処で見る春の空は美しい。
 恐らくはちらりと耳にしたこともある『バグ召喚』だとか、もしくは剣の腕を磨きに放浪の旅に出た果てだとかで辿り着いたのだろう。いや、まだ確定という訳ではないけれど。しかしラサでも行く先々で女の子の知り合いをたんまり作ってくるあの人を思えば、嗚呼ほら、なんだかあの人の声まで幻聴して――。
「佐ー那ーちゃんっ!」
「は、」
 幻聴ではなかった。幻覚でもなかった。真正面から飛び込んできたその人に佐那はがっつりと抱擁される。シャルルが若干驚いたような声音で「知り合いだったんだ」と呟いた。
「この人が依頼人。……ええと、そろそろ離れて貰っても?」
「えー仕方ないなぁ。せっかく妹弟子と感動の再開だったのにー」
 口を尖らせながら離れる女性。佐那を『妹弟子』と呼んだこの人物こそがシャルルの言う通り依頼人であり、佐那を拾った緋道家の実娘――緋道 火蓮である。



 ようやく合流を果たした一同は甘味処へと場を移す。ここまで来るのに火蓮が道行くお嬢さんへナンパした回数は片手で足りないが、甘味処までは着いてこさせなかったので良しとしよう。
「それじゃあ、打ち合わせを始めようか。依頼自体は……魔物の討伐、だったね」
「そう。最近、とはいっても大きく出るようなものではないんだけどね。女性の失踪事件が起きてるの」
 失踪した女性は揃いも揃って上玉、見目の美しい者ばかりであるらしい。最近では西の大陸、幻想にて大奴隷市が開かれたということもあってそちらへ流されているのではないか、なんて噂も少しばかり出回ったそうだ。
 しかし――ちらほら聞こえる噂を拾い上げて行くと、攫っているのはモンスターだという話があった。それも以前攫われた女に似た顔を付けた異形であるのだと。
「私の『知り合い』はみーんな可愛くって綺麗だから心配になっちゃうのよね。どんな結果であれ、悪い事には変わりないでしょ?」
「……でもそれ、どうやって見つけるの?」
 シャルルの問いに火蓮はにんまりと笑う。
 女というのは大概が噂好きな生き物だ。しかも結構幅広く色々な噂、もとい情報をどこからか仕入れてくる。
 故に、そんな彼女らと話す機会が多い火蓮もまた情報通というわけだ。
「この前も事件があったみたいなんだけれどね。どうもその時、目を付けられた子がいるらしいのよ」
 曰く、その少女は攫われたという少女と友人だったらしい。友人が襲われたのは別れてすぐのことだったそうだ。
 その日、2人はいつも通りにお茶をして噂話に花咲かせ、またねと普段別れる場所で別れた。しかしその直後に友人の悲鳴が聞こえ、少女は慌てて友人の帰路へと踏み込んだのである。
 視界に映ったのは歪な姿をした女の異形と、その腕に捕まった友人の姿。異形は友人を羽交い絞めにして攫いざま、少女を見ると嗤ったのだという。
 ――次はお前だ、とでも言うように。
 少女はそれ以来伏せっているそうだが、これまで襲われた女たちのことを考えればその選出基準に体調は関係ないと思われる。むしろ抵抗するほどの力もないならば攫うには丁度良い。
「可愛い子のピンチには駆けつけてあげないとね」
「まあ……そうだね」
 可愛らしい人かどうかは置いておいて――イレギュラーズの力が必要とされるのならば、それを遺憾なく発揮する時である。

GMコメント

●成功条件
 異形の撃退、或いは撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。不測の事態に気を付けてください。

●エネミー
・異形『百足女』
 女の胴体から無数の手足が百足のように伸びた異形です。目を血走らせており、その姿かたちを抜きにしても常軌を逸している状態となっています。動きは中々に俊敏です。言葉らしい言葉は喋らず、意志疎通も難しいものとなるでしょう。
 戦い方の全容は不明ですが、呪術的な力を宿しているようです。また、無数の手足による手数の多さも考えられます。1体で行動しているようなので、かなりの強さを有していると想定すべきでしょう。
 エネミーは少女を攫う事を最優先としています。目的を達成したならば早々に逃げるはずです。

●フィールド
 今回狙われている少女の家、彼女の部屋に近い庭で敵を張ることになります。
 時刻は夕暮れ~夜。この時間帯が異形の活発な時間帯のようです。家の中も灯りを落とす為、真っ暗です。
 そこまで広い庭ではない為、場所によっては不利なレンジで戦うことになるかもしれません。
 少女の家については平安時代の邸宅のようなイメージです。

●友軍
・『Blue Rose』シャルル(p3n000032)
 旅人の少女。神秘適性があり、中~遠距離レンジで加勢します。回復はできません。

・緋道 火蓮
 緋道 佐那さんの姉弟子です。ポジティブで姉御肌ですが、可愛い女の子を見たら口説きます。シャルルも口説きました。それなりに情報通な人物でもあります。
 緋道流を実直に極めている人物であり、低FBのトータルファイター型です。締めるべきところはちゃんと締めてくれるので、戦いとなれば頼もしい味方勢力となるでしょう。

・少女『キリコ』
 今回狙われた少女です。10代後半のか弱い女性であり、異形が来たならばさしたる抵抗もできないでしょう。
 イレギュラーズのいる時間帯は自室ではなく、両親の部屋へ移っています。両親もそこにいるため、万が一の時には自らを盾にしてでもキリコを庇うでしょう。
 尚、敢えて少女を自室へ移すのであればどなたかプレイングに記載ください。自身を守ってくれる人が言うのであれば、キリコはそれを信じて従います。

●ご挨拶
 愁と申します。
 豊穣でどうやら、女の異形が出没しているようです。どうぞ守ってあげてください。
 それでは、どうぞよろしくお願い致します。

  • 筑波嶺の 峰より落つる 男女川完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月10日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
緋道 佐那(p3p005064)
緋道を歩む者
すずな(p3p005307)
信ず刄
彼岸会 空観(p3p007169)
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
希紗良(p3p008628)
鬼菱ノ姫
ノワール・G・白鷺(p3p009316)
《Seven of Cups》

リプレイ


 日が天頂を過ぎ、傾き、少しずつ茜色を見せていく。その最中、北条のとある家を訪れていた『狐です』長月・イナリ(p3p008096)はきょろりとあたりを見回した。
(この辺りで良いかしら)
 手のひらに出したのは持ってきたひと粒の種。育てば鈴のような種をつけ、生き物が近づくことで鈴らしい音を鳴らす性質を持っている。
 それを手頃な場所へ置いたイナリは自らのギフトを使い、種からあっという間に種まで実らせた。それはイナリや周囲にいる虫などの生物を探知したか、リリリリ……と音を響かせる。
(成長度合いは良さそうね)
 この音があれば、家の周囲を通る生物を感知できるだろう。その音から遠ざかりながらイナリは灯りの調達についても思案を巡らせた。夜間戦闘に備えているイレギュラーズもいるだろうが、やはり灯りがあるとなしでは違う。家の者に提灯などが借りられないか聞いてみようか。
 一方、家の内側、庭では数人のイレギュラーズが既に待機していた。『緋道を歩む者』緋道 佐那(p3p005064)は少しずつ色が変わり始めた空からちらり、と傍らへ視線を向ける。そこには緋道家の実娘であり佐那の姉貴分である緋道 火蓮がおり、こちらをじっと見つめている。
(すごく、話しかけたそうにしているわね……)
 その目がキラキラと輝いているように見えるのは錯覚――ではないだろう。けれども声をかけないところを見るに、これからの戦闘へ備えて自制しているということか。言葉より雄弁なその表情を見て『自制できている』と断じるかどうかは、まあさておき。
(まぁ。元気そうで何よりではあるか)
 バグ召喚について話には聞いていたけれども、まさか自身に近しい者がそれに巻き込まれているとは思わなかったから。最も、豊穣へ飛ばされても火蓮は楽しく過ごしているようであったが。いつもと変わらず、しかも『Blue Rose』シャルル(p3n000032)まで口説いたらしいではないか。
 積もる話がないと言えば嘘になるが、今する話というわけでもない。もうじき標的が活発になる時間帯でもある。
(俺の想像通りなら、とてつもなくいやな姿のやつが現れるはず。可愛い子をさらって、それにそっくりなツラの、異形)
 『若木』秋宮・史之(p3p002233)は想像する前に顔を顰めた。なんて趣味が悪いのか。『帰心人心』彼岸会 無量(p3p007169)も軽く眉をひそめた。
 人攫い。そしてそれを為すは以前に攫われた女とよく似た風貌の化生。
「どうにもまた……この地にきな臭い空気が澱み始めているようですね」
 根本的なところは不明だが、だからと言って今この地を蔓延る脅威を捨ておくわけにもいくまい。まずはこちらの対処を優先すべきだろう。
「戻ったであります!」
「ファミリアーも預けてきましたよ」
 家の方から庭へ出てきた『鬼菱ノ姫』希紗良(p3p008628)と『《Seven of Cups》』ノワール・G・白鷺(p3p009316)は、狙われた少女キリコとその両親がファミリアーとともに家の奥へ引っ込んでいることを伝える。そこまで進ませず倒しきればイレギュラーズの勝ちだ。
(御三方とも、不安そうでありました)
 希紗良は一家の様子を思い出す。『キサたちが頑張るから安心してほしい』と励ましても、未来は未定で、不確定で。不安を覚えてしまうのは当然の事だろう。
「しっかり守らねばなりませんね」
「はい。ちゃんと安心してもらえるよう、キサも尽力するであります」
 ノワールの言葉に希紗良は頷いた。昔話などならば、少女を攫う化け物なんてよくある登場人物だ。されどそれはあくまで御伽噺だから良い事で。
(そんなことにはさせません)
 その為のファミリアーだ。古来から神の遣いとされたカラスの目を介し、一家に変化がないことを確認したノワールは空へ視線を向けた。
 澄んだ春の水色から、黄昏の茜色へ。さあ、そろそろであろうか。
 『竜断ち(偽)』すずな(p3p005307)も戦いの時が近づくのを感じて警戒を強める。元より人ならざるモノを甘く見るつもりは毛頭ないが、群れを成す小物と違い単独で動くモノは強者の証でもある。今回は少々骨が折れそうだ。
(と言いますが――愉しみでもあるのですよね)
 武を磨く者ならば、誰でも感じることのある高揚感。強者と戦うことができる、その力量を超えられるか確かめられるという機会だ。
「さて、姉弟子? 女の子に現を抜かして、腕が錆び付いてはいないでしょうね?」
「こっちの女の子も可愛い子ばかりで困っちゃうわよねぇ♪ ……なーんて。大丈夫よ、仕事だってしてたもの」
 一瞬ひやりとしかけるものの、後に続く言葉で脱力する。確かに身ひとつで召喚されたならば生活費を稼がなくてはならなかっただろう。錆びてないのならば存分にその腕を振るって貰おうか。
「さてさて……時刻は逢魔が時ッスね」
 『琥珀の約束』鹿ノ子(p3p007279)は腰に淡く光る蛍袋の洋灯を下げ、エネミーサーチと鋭く尖らせた感覚で異形を探し始める。戻って来ていたイナリもまた、耳を澄ませて先ほど植えてきた植物の音を捉えんとしながら目でも異形の影がないか探す。
(それぞれの音は違う。聞き分けられれば、方角だって定まるわ)
 問題は他の生物が通って情報のノイズが入らないかと言うことであるが――こればかりは願うしかあるまい。
 地上からは幾人もが索敵を始めている。それを見た無量は地を蹴り、宙を蹴り、空へと高く昇っていく。空からは地上の情報がより多く手に入る。遠くなる分デメリットは存在するが、仲間がいる今その部分は補ってもらえるだろう。
 周辺に人気はない。皆早々に帰路へついてしまったか。建物などの影が伸び、視認しづらい暗がりを作るが無量には常人ほどの影響もない。
(夜目が利くように鍛錬を積んで正解でしたね)
 さあ、どこからでも来い――全方向を見渡し警戒していた無量は、不意に下から呼びかけられた。
「近づいてるわ! 西の方角!」
 佐那だ。エネミーサーチを共に展開していた鹿ノ子もそれを感じ取ったらしい。それなりの速度で近づいてきているという彼女たちの言葉に無量は示された方角を向く。確かになかなかなスピードで近づいてくる、凡そヒトとは思えぬ影がひとつ。このままであれば家の塀に激突して突入してくるか。
 無量もまた急降下し、その地点へと飛び込んでいく。佐那もそちらへ駆けつけすらりと武器を抜いた。
「さぁて、骨の要りそうな手合いのようだけれど。どれだけ楽しませてくれるかしら……!」
 どぉん、と音を立てて塀の一部が破壊される。欠片などがぼろぼろと零れ落ちる中、女の異形がずるりと内側へ入り込んだ。女の虚ろな目がぎょろぎょろと動き、イレギュラーズたちを捉える。
「ああ、やっぱり趣味が悪いや。ごてごて着飾っちゃってさ。美人は3日で飽きるって言うけれど、おまえは3秒も見ていたくないよ!」
 そこへ史之が挑発をかける。ここからほんの少しだって抜けさせるものか。
 史之に追随して佐那が、そして鹿ノ子も自らへ引き付けんと声を上げた。一度で引っかからなくとも二度、三度と重ねれば。
「どんな目的か知らないッスけど、遮那さんのおわすこの豊穣を乱すなら許さないッスよ!」
「此処をどうしても通りたいと言うのならば、この刃を潜り抜けてみせるのですね……!」
 3人からのアプローチを女が見回している間にすずなが打って出る。前進を阻害し、手数で以て相手に危機感を募らせ、そこへ希紗良もまた加勢した。どのような目的があるのか定かでないが、これ以上の犠牲などあってなるものか。
(気を引き締めて、かかりましょう!)
 敏捷性を高めた希紗良が力強く踏み込み、魔性の切っ先で百足女へと攻めていく。そんな乱撃の最中に史之は頭部を狙ってギガクラッシュを放った。
(さっきから気持ち悪いくらい目を動かしているみたいだけど、何か能力でも持っているのか?)
 能力の詳細は定かでないが、それでも懸念があるなら避けるべきだ。視線を合わせないようにと戦えば、多少精度も落ちるがそればかりは致し方がない。
「虫に氷の霧のようなものを吹きかけて、退治する道具があると聞いたことがあります」
 ノワールの放つ白い波動が百足女に向かっていく。数々の人間の手足を凍りつかせ、泥沼に沈めて。ここまでやってきたスピードを考えるならば、決してノロマな相手ではない。少女を攫われたら一巻の終わりだ。
 纏わりつく白い波動に嫌がるようなそぶりを見せる百足女へ、運命をモノにせんと自らの力を引き上げたイナリが肉薄していく。その後方から、イナリは額に在る第三の眼で百足女を凝視した。ここまでの度重なるイレギュラーズからの攻撃に、さらなる一押し。百足女はぐるぐると回していた目玉を無量へと定めた。

 数多くのイレギュラーズから飛ばされる挑発に、百足女はぐるぐると目を回し、身体を回し。数人が囲いを作って阻害するため動くこともままならない故にその囲いを解こうと暴れまわる。その手数は文字通りに『手の数』だ。
 その腕を切り落とし、すずなはすぐさま刀を返す。
「奇遇ですね、私も手数には自身があるのですよ……!」
 イレギュラーズが止めどない攻撃に打ち破られるのが先か、それともイレギュラーズがその手足を狩りつくすのが先か。百足女の攻撃から悪寒を感じた史之はアイアースの攻勢で態勢を整える。
「貴女も、被害者なのでしょうか」
 無量もまた、的確に攻撃を入れながら呟く。その女がどのような者であったのかはわからないが、恐らく望んだ結果ではあるまい。
「貴女の様な被害者を、これ以上増やす訳には参りません」
 また1本。2本。生々しい腕が、庭に切り捨てられた。
 鹿ノ子の握る刀は傷へ傷を重ね、肉の隙間に狂気を塗り込んでまた切り裂く。一撃は軽くとも、塵だって積もれば山になるのだ。
「月に魅入られたウサギのように、さぁ、踊り狂うッス!」
 苦しみにのたうつ百足女。ノワールはその体を黒いキューブで包み込む。希望などない塗りつぶされた闇――絶望の中へ。
(呪術的な力を宿しているとのことでしたが……何だか私の方が呪術っぽいですね?)
 まだ隠しているのか、それともそちらについては大したことがなかったのか。
「佐那ちゃん、行くよ!」
 火蓮の肉薄に佐那もまた続く。緋道家で育て上げられた時こそともに研鑽を積んだが、それも随分前の事。久方ぶりに見る火蓮の剣筋は変わらず、実直に緋道流を極めているのだと思わせた。
(私も……目指す頂は、まだ)
 彼女が剣の腕を磨き続けるのと同様に、佐那もまたその途中。負けてはいられないと武器を握り、火炎の一撃を叩きつける。
 腕の1本が燃え上がり、斬撃と共にぼとりと落ちる。動きも素早く、攻撃に厄介な呪術を絡めて来てはいるものの、そこまで固いというわけではなさそうだ。
 痛みに暴れまわる百足女が周囲をその体で薙ぐ。反応が遅れた希紗良が跳ね飛ばされるが、彼女はその直前にファミリアーから一家の状態を確認していた。
「あちらは問題なし、でありますよ!」
 その瞳は揺るがない。この程度大したことは無いと、瞳の奥で可能性の光が明滅する。その言葉にイレギュラーズは再び百足女へ視線を向けた。
(この胴体、真っ二つにしたらそれぞれ動くのかしら?)
 異界の神の力を再現せしイナリは片側から手足を斬りはらいながらふと思う。絶対に気持ち悪い事は間違いないのだが、この能力で2体に分裂なんてことになったら困る。片側から確実に削っていくとしよう。
 火力の高いイレギュラーズたちに明らかな疲弊を見せる百足女だったが、逃げる素振りは見えない。しかしイレギュラーズもそれ相応の消耗は受けている。
 反動をいとわず斥力で打撃を与える史之に佐那が外三光で追随していく。ぼとぼとと落ちた手足の数はさて、もはや一体幾つになったのか。
「これ以上余計なことはさせないッス!」
 鹿ノ子は流れるような連続技で、まるで数多くの蝶が羽ばたくように攻撃を加えていく。相手の精神力を削り、自らへ還元する力。呪術もいずれは使えなくなるだろう。
 仕留め時と見てイナリが悪性への瞬間的な変質を遂げ、炎を纏った大剣で攻め立てる。続くは希紗良の操る魔性を得た得物、その切っ先。
 仲間たちが敵を陥れんとした数々のBSでもって、ノワールが無数の晶槍を生成し串刺しにして痛めつける。不調を抱え込めば抱え込むほどにこの技は利くはずだ。
 人ならざる咆哮を上げた百足女が無量の身体をなぎ倒す。――なぎ倒すように、見えた。
「必ず此処で、終わらせます」
 彼女は立っていた。パンドラを燃やし、小さな奇跡を起こして。その心身を鬼と成し、一点の曇りもない刃を百足女へ食らわせる。
 あともう少し、あと一撃。無量の技に魅入った百足女へ、すずなが肉薄した。
「この一刀、ただで済むと思わない事です」
 切り上げて、切り下ろす。たったそれだけのモーションは、しかし刹那の一瞬に行われる。すずなが刀をおさめると同時、縦に赤の線を引いた百足女はどうと地面へ崩れ落ちた。
 動き出す様子は、ない。左右それぞれで再生する様子も、ない。そんな手があったとしても、体力が先に尽きたようであった。



「中々に骨の折れる相手でした……」
 ノワールは動かなくなった百足女を見てほっと息をつく。しかし、その様子が可笑しく感じられたのは気のせいだろうか。それとも、物の怪だからと深く考える必要はないのだろうか。
「……こんなになっちゃうまで気づけなくて、ごめん」
 史之は遺骸の傍らへ膝をつき、刃物を取り出す。せめて、顔だけでも持ち主の家に帰してあげよう。
 しかしここで若干、認識の齟齬が発生していたことが判明する。史之は攫った女の顔へ次々と変えている認識だったが、実際には『以前攫われたと思しき女の顔』なのであって、顔を変えているわけではないそうだ。
 つまり――狙われた少女キリコの友人は、未だ行方不明と言うことになる。
「行方不明になっている御仁の調査もできればよきでありますが……」
 自分たちではあまりに情報が少ない。ローレットなら調べられるのだろうか。
「ともかく、この死体は原型を残したくないッスね。執着心で魂が戻って来られても困るッス」
 庭にこんなものが残っているのも精神的に良くないだろう、と鹿ノ子は一家へ庭で燃やす許可を取りに行く。それを視線で追った佐那は、ずっとスルーし続けていたものに思わずため息をついた。
(あぁもう……視線が刺さる)
 あとは帰るだけ、なのだが背後からすごく、ものすっごく姉弟子火蓮の視線が刺さってくる。そしてその表情は言葉より雄弁なのだ。
 佐那ちゃんとお話がしたい! と。
「姉さん、折角だから少し話していきましょうか。豊穣に居た間の話は……女の子の話以外なら、多少興味もあるけれど?」
 その言葉に火蓮が目を輝かせたのは、言うまでもない。

成否

成功

MVP

彼岸会 空観(p3p007169)

状態異常

彼岸会 空観(p3p007169)[重傷]

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 行方不明の少女は一体何処へ行ったのでしょうね。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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