PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>其は偽善なり

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 事は1ヶ月ほど前――悪徳商人が幻想貴族と組み、大規模な奴隷市を起こしたことから始まった。幻想王国にて奴隷売買は禁止された行為というわけではない。ただ、道徳的にどうなんだという賛否両論があるだけで。
 しかし今回は幻想貴族が絡んでいるとあって――幻想国王がこの事態を憂えているという事態を良い名目に――三大貴族が事態の収拾を、とローレットへ依頼した。他の貴族が勢い付いてしまっては後々の火種になりかねないからである。
 この奴隷商の暗躍を追いすがら、イレギュラーズたちは全く別の方面から重大事件の話を耳にすることとなる。すなわち、王家のレガリアが眠る『古廟スラン・ロウ』の結界に何者かが侵入し、王権の象徴たるそれが奪われたという極秘情報だ。さらには『神翼庭園ウィツィロ』の封印が暴かれた――そしてそこに眠っていた神翼獣ハイペリオンが味方となったことはさらに新しい情報としてローレットへ齎されている。
 だが情報としては悪報、そして後手に回っている状態である。古廟スラン・ロウ近くの町は破壊し尽くされ、幻想各地に現れた魔物は各領地を襲っている。イレギュラーズたちは奴隷の案件を引き続き受けつつも、各々の領地に現れた魔物退治へ力を注いでいた。

 ――と、ここまでが現状の振り返りである。

 中々に慌ただしい状態ではあるが、とある4名のイレギュラーズは直接依頼を持ち掛けたいと言う依頼人により、幻想のとある酒場へ呼び出されていた。
「依頼内容を聞こうか」
 シラス(p3p004421)はテーブル席へ着き、真向かいに座った男を見る。ストローでジュースを飲んだジェック・アーロン(p3p004755)もまた促すように視線を向けた。
「ああ。私はこれでもそれなりに名のある商館を経営していてね。幅広くモノを扱っているんだ」
「幅広く、ですか」
 小金井・正純(p3p008000)の目が細められた。商売人であり、幅広い商品を取り扱っているとなれば幻想を騒がせている『商品』も。
 正純の言わんとしたことに男は頷く。つまりはそういうこと。彼の商館はただの物だけではなく『奴隷』も扱っているのだ。
「先日の大奴隷市の騒動で『余計な輩』が沸き立っていてね。商品の護送を頼みたい」
「ま、確かにおいそれと商品発送も難しいだろうなぁ」
 極楽院 ことほぎ(p3p002087)は男の言葉にニィと笑みを浮かべる。嗚呼、物騒だろうとも――幻想三大貴族、特にバルツァーレク伯を筆頭として。そして秘密裏にイレーヌ・アルエも動き出しているようだから。怪しい馬車でもあれば荷物検め、奴隷がいようものなら捕縛され繋がりのある貴族を炙りだされることは目に見えている。
 故に、彼らはイレギュラーズを選んだのだ。中立たるローレットは善悪問わず依頼を受注する。
「君たちなら理解して貰えるかな? 身寄りもない、力もない、志もない、そして奇跡も持たない……そんな人間が安楽に生きる術など、他に無いのだよ」
 奴隷という存在は普通の人間から考えれば『下の立場』であるのだろう。けれど裏を返せば『下であろうと立場を約束されている』のである。それより上へ行くことはそうそうないが、さらに下へ――目も当てられないような場所へ行くこともない。
 奴隷にとって、奴隷商人と言うのは保護者足りうるのだと男は言いたいのである。
「君たちにはさる幻想貴族の屋敷へ商品を届けてもらうことになる。まあ――普通の、一般人とそう変わらない感性をお持ちの方だよ」
 くれぐれも失礼のないようにと。男は他にも仲間を呼んで構わないと告げ、彼らへ馬車との合流地点を伝えたのだった。

GMコメント

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

●成功条件
 商品を無傷で護送すること

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。不測の事態に注意してください。

●エネミー
・『正義の鉄槌』ガウス
 奴隷解放運動に参加している冒険者の中でもそこそこ名のある人物です。彼はこの運動を通じて名を上げようという意図を知った上で、純粋に奴隷を解放してあげたいと望み参加しています。要は『名声には興味がありません』。
 解放してあげれば救えるのだと妄信しているわけではありませんが、その上で救える範囲ならば救いたいと愚直に願う男です。実際、彼はその名声と共にそれなりの資金も持っており、自らの生まれ育った孤児院へ資金援助もしているようです。彼ならばその故郷で奴隷たちの衣食住を担保してやることもできるでしょう。この場にいる奴隷に限って、ですが。
 剣術の使い手であり、至近~中距離レンジで柔軟に戦います。全体的にやや高めのステータスを持ちますが、飛びぬけて耐久力があるようです。

・冒険者たち(カオスシード)×3
 奴隷解放運動で名を上げようと言う冒険者たちです。女1、男2です。いずれも大体20代前半~後半ほど。元からパーティを組んでいるというわけではなく、この運動で知り合った仲のようです。
 剣や斧など、至近~近距離レンジでの戦いを得意とします。いずれも体力には自信があるようですが、瞬発力は後述するブルーブラッドの冒険者たちに劣ります。

・冒険者たち(ブルーブラッド)×5
 奴隷解放運動で名を上げようと言う冒険者たちです。女3、男2です。年齢は10代後半から30代あたりと幅広め。こちらも元からパーティを組んでいるというわけではなく、この運動で知り合った仲のようです。
 弓や銃などの遠~超遠距離攻撃に長けており、鋭い眼力で獲物を逃しません。また不意打ちを受けません。基本攻撃が範囲となります。

●フィールド
 男と会った町の外で馬車と合流し、そこから半日ほどかけて森を抜け、隣町まで向かいます。そこの幻想貴族邸で商品を受け渡すこととなっています。
 近頃この道中周辺で奴隷解放運動として名を上げようとする冒険者たちが存在しているようです。かなり迂回すれば避けられなくもないのですが、今後の為にも『余計な輩』を散らす為に依頼人はこのルートを設定しました。
 スタートとゴールの町付近はそれぞれ短い草原が広がっています。こちらは見晴らしよく、隠れる場所もありません。
 森は木々が生い茂っており、やや見晴らしは悪いでしょう。

●NPC
・御者
 馬車を操ってくれる御者です。依頼人の商館の者で、戦闘はできませんが、気絶のフリなどして自らが標的にならないような動きをしてくれます。

・奴隷×5
 幻想貴族の買い取った奴隷です。無傷での運搬が必須です。
 いずれも若い男女であり、逃げることは諦めているようです。
 奴隷たちはいずれも外から覗くことのできないような馬車に詰められており、自由を奪われています。

●ご挨拶
 愁と申します。
 偽善で在るより悪で在れ。全てを救うことなどできないのですから。
 それでは、よろしくお願いいたします。

  • <ヴァーリの裁決>其は偽善なり完了
  • GM名
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年04月09日 21時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
※参加確定済み※
シラス(p3p004421)
超える者
※参加確定済み※
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
※参加確定済み※
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
※参加確定済み※
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者
ジュリエット・ラヴェニュー(p3p009195)
ゴーレムの母

リプレイ


 商人から話を受けた4名と、その依頼を見て参加した4名。計8名のイレギュラーズは『商品』を載せた馬車との合流地点へ向かっていた。
「……の護送ですか」
 ぼそりと、周囲にいるイレギュラーズたちのみへ聴こえる声量で呟いた『ジョーンシトロンの一閃』橋場・ステラ(p3p008617)。仲間たちからの視線に気づくと小さく肩を竦める。
「これもお仕事ですから? どうであれ、襲い来るならぶっ飛ばしますよ」
「そうね。……それにしても、純粋な人助けだなんてご苦労なこと」
 『在りし日の片鱗』ジュリエット・ラヴェニュー(p3p009195)は奴隷解放運動のメンバーとして挙げられていた1人の冒険者を思い出す。
 それなりに知名度のある冒険者だ。奴隷解放運動の目的も理解しているらしいし、その上で人助けを掲げているのだとか。
(まぁ、お互い仕事だもの。何を目的とするかなんて自由だわ)
 そしてそこに付随する名声も、悪名も。相手が名声に興味がないのと同じように、ジュリエットとてこの依頼をこなすことで得ることになる悪名を気にしない。
「奴隷という制度に思うところはありますが……」
「ええ。私も普段なら即断してやるところですね」
 『断ち斬りの』蓮杖 綾姫(p3p008658)と『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)は納得できない面もあるようだが、しかし商人の言葉が心に引っかかる。
(立場が低いながらも死ぬ事はない、ねぇ)
 この世界には――いいや、どの世界にだってもっとひどい扱いを受けて死ぬ者はいる。どちらが幸せかなどと比べられはしないが、一度くらい見極めてみるのも良いだろう。
 もしも他の腐った家族と変わらぬと、そう断じたならば。利香が代わりに灼いてしまえば良いのだから。
(それに、本当に……それで救われている存在もあるのかもしれません)
 最も、綾姫は世界を敵に回し、滅ぼしたことがある身だ。あれでどれだけの人間が死んだ、いや殺したのか。それを思えば、奴隷の身の平和を願うなど烏滸がましいことなのかも。
「オレは野垂れ死にするよりゃ奴隷のがマシ、って考え方にゃ頷けるなァ」
 頭の後ろで腕を組む『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)。その手には悪事を行うときに身につけている、顔を隠す類のものは存在しない。
「奴隷の売買がいいとか悪いとかそういう話はどうでも良いのです。これは仕事なのですから」
 『天地凍星』小金井・正純(p3p008000)の言葉に綾姫は頷く。依頼を受けたならばハイ・ルールに則って十全にこなさなければならない。如何様な理由があったとしても邪魔をされるわけにはいかないのだ。
(まあ、はたから見たなら……こちらが悪なのでしょうけれど)
 そう言うのならば正純たちも声をあげようじゃないか――その行為は偽善なのだ、と。
「名を上げに来た連中は気の毒だが、どんな仕事でも手は抜かないぜ」
 それらしき場所を見つけた『鳶指』シラス(p3p004421)がそう呟く。依頼人の言い分は否定しないし、一概に奴隷の良し悪しなど決められない。その捉え方は人それぞれだからこそ、シラスは仕事としてこれを完遂させるのだ。
 馬車と合流したイレギュラーズは御者とルートを確認する。その間に正純は馬車の方へと回り込んだ。どこもぴったりと閉ざされており中が伺い知れないが、『商品』である奴隷たちはこの中に今も居るのだろう。扉の隙間からなら声は聞こえるはずだ、と正純は扉の前へ立って声をかけた。
「半日ほどの行程ですが、どうか馬車の中で大人しくなさっていてくださいね? 大丈夫、私たちは貴方たちを守る為にいますから」
 中から応えはない。どこまで自由を奪われているのかわからないが、この声が届いていれば良いと願って正純はそこから離れた。
「この辺りは草原なんでしょう? 見晴らしがいいなら、ここで仕掛けることはあまりない筈よ」
 戻るとジュリエットが御者の持つ地図を指している。冒険者たちが襲ってくる目星を付けているようだ。
 見晴らしの良い場所で不意打ちをするにはかなり難易度が高く、恐らく正面切って戦うことになる。護衛である自分たちの存在に気付いたならばそれは不利と悟るだろう。
(依頼人も森の中に仕込まれている冒険者パーティを知っての上で、負かしてやれって魂胆なのでしょうしね)
「それなら、森に入る前で小休止を入れたい、です」
 ステラはジュリエットが指したより若干手前のあたりへ指を向ける。半日の大部分は森を抜ける時間で占められるだろう。集中力を持たせるという意味でも、直前で休憩を取って置いた方が良い筈だ。御者と奴隷たちは難しいだろうが、そこは我慢してほしい。

 こうして行程を確認し終えたイレギュラーズたちと馬車は出発し、途中に休憩を挟んで森へと入っていった。
 利香はいつでも戦えるようにサキュバスの姿を取り、視界の良い場所を求めて移動しつつ馬車へついていく。今のところは順調だ。
 しかし油断はできない、とステラと綾姫がエネミーサーチで周囲を警戒する。ステラのファミリアーが木々の間を飛び、枝へ降り、また飛んで。『普通の鳥』として違和感がないように振る舞わせようとしながらそちらの視界も借りて観察する。
「こちらもまだ見えませんね……」
 遠くまで見通す視力を得た正純も歩きながら目視確認を行うが、まだ――。
「いました」
 不意に綾姫が声を上げる。エネミーサーチに引っかかったのは複数人の敵意。ジュリエットへその方向と大体の位置を伝えると、ジュリエットが手頃な草木を探して視線を走らせる。
「ジュリエット、これも使って」
 そんな彼女に『黒の猛禽』ジェック・アーロン(p3p004755)が渡したのは仄かな熱を持つちいさな塊だ。受け取ったジュリエットはそれと手ごろな草木へ己が魔力を流し、ゴーレムを作り出す。ジェックの渡したそれが温度視覚を持つ者に体温と認識されるかはわからないが、死にかけだとかロクな食べ物も貰ってなかったとかこじつけてくれることを願おう。
「さあ、これを纏って。この馬車から逃げるようにあっちへ行きなさい」
 ジュリエットは持ってきていたボロ布をローブのように纏わせて、顔や体を隠す。木々もあって元から視界は良くないのだ、少し離れれば人にも見えるだろう。
 主の命令を受けたゴーレムはゆっくりと、少しずつ速度を上げて――それでも普通の人間から比べたらずっとゆっくりな歩調で――馬車から遠ざかる。
「それじゃ、俺たちの出番だな」
「ええ。上手く使って頂戴」
 シラスの言葉に頷くジュリエット。パーティの一部はあれで引きはがせることを祈るが、囮に引っかかった者を炙ったりするのは他人任せだ。
 ゴーレムを追従するのはシラスとことほぎ。本気を出せばすぐに捕まえてしまうだろうそれを、わざと速度を落として必死に追いかけている風を装おう。
「待てッ! この極楽院ことほぎ様から逃げられると思うなよ!」
「諦めて戻ってくるんだな!」

 ――その瞬間。ざわり、と気配が動いた。

 ことほぎとシラスは視線を交錯させる。何人かはわからないが、引っかかった。2人はまだ追いかけるフリをしながら声を上げ、自身らの居場所を喧伝する。そう、悪はここに在り、と。
(顔隠さなくってイイ仕事って久々だわ)
 ことほぎは表に出ないようこらえながらも内心はニマニマしてしまう。悪事万歳ではあるけれども、いちいち顔を隠さなくてはならないのもそれなりの労力だ。しかしそうして積み重ねた悪名を顔出して声高々に言えるのである。
 着かず離れずの2人を遠く視界に捕らえながら、ジェックは息をひそめて冒険者たちが来る方向を探る。暗がりの多い森もジェックの目からすればなんてことはない。届かぬほど遠くから攻撃を放ってくるならば、こちらも同じ距離で戦おう。
(不意打ちを受けない相手から不意打ちを受けるなんて、ただの間抜けだ)
 さあ、来る。
 森の向こうから2人へ向けて、風を切って複数の矢が仕掛けられる。その方向を見るや否や綾姫たちは走り出す。綾姫は巫女の権能を発揮し、鈍い塵の群れをブルーブラッドたちの周囲へ起こした。
「退け! 敵襲だ!」
 そう告げる敵へイレギュラーズは逃がす隙を与えまいと畳みかける。その一方で別途動く気配に数人が反応した。
「馬車が……っ」

 馬車を護衛していた正純は弓を構える。向こうの冒険者グループもさほど分断はできなかったか。
「そう易々と、奪わせませんよ」
 正純の弓から放たれる矢の雨が敵陣へ降り注ぐ。ジェックは冒険者パーティの追従をことほぎたちに任せ、馬車の扉へ手を当てて押さえる。
「逃げれると思った? ……思わないか」
 開いてもいない、鍵さえかかっている扉だ。元よりイレギュラーズの誰も逃げられるとは考えていないが、馬車のことなど知らぬ冒険者たちに見られるのであれば棒立ちで見守っているより臨場感が出る。
 ジェックはブラック・ラプターを構え、プラチナムインベルタを放つ。馬車の位置が見破られようと奪われる気は、さらさらない。
「どうした、可哀想な奴隷を助けるんだろう? 真剣にやれよ」
 シラスの挑発に折ってきたカオスシードの冒険者が顔を赤くする。まるで真剣でない――暗にそう告げる彼へと冒険者は剣を振りかぶった。
「おい、こっちに奴隷がいるぞ! 合流だ!」
 そんな声が聞こえて来て、敵がはっと視線をそちらへ向ける。しかし彼らが向いた方でも既に戦闘の起きている音が響いていた。
「行きなさい」
 刹那、ゴーレムを創鍛したジュリエットは相手へとけしかける。これで同士討ちしてくれるなら上々だ。
 馬車へ近づいた輩には木の上から降り立った利香が瘴気と魅了の瞳で魅入らせる。完全な魅了とは至らずとも、その黒き瞳が奥深くまで魂を覗き込んで――おいしそうだと舌なめずり。
 そうして利香へ引き付けられた相手をステラが馬車の上から狙い撃つ。高所で視界が確保できる分、今認められている敵影の方向以外も警戒するのはステラの仕事だ。
「アンタが『正義の鉄槌』ガウスか」
 こいつが一番危ないとシラスは踏んでいた。自由にさせたならば壊滅しかねない。故に押しとどめるのは自分の仕事だ。
 ガウスはシラスからの攻撃を持ちこたえながら深く眉を寄せる。その唇がどうして、と動いた。
「あんたのこと、知ってるぞ」
「光栄だね」
「だからこそ、どうしてこんなこと!」
 彼にとってシラスという特異運命座標がどういう人物であったのかなど知らないが。この口ぶりからすれば憧れか、期待か。その手の想いを抱いていたのかもしれない。
 きっと知らないのだろう。シラスの名声は高く、しかし悪名も徐々に追い上げるように高まっていることなど。
「奴隷解放運動? 自分に酔ってんじゃねェの? 正義ってキモチイイらしーしなァ!!」
 ことほぎは監獄魔術をばらまきながら敵と敵、木々の間を縫うように動く。止まることはない、的になどならない。出来る限り引っ掻きまわして、馬車へ近づく者を減らすのだ。
「お前のような悪人に分かるものか!」
「大人しく奴隷を解放しろ!」
「おー暴力で解放しようってヤツが良く言うぜ。やれるモンならやってみろよ!」
 にぃとことほぎが笑う。奴隷を武力で解放しておしまい。衣食住の世話をするでもない冒険者たちの偽善、その犠牲になるなんて奴隷がカワイソウだ。
 そこへジェックの放った一発が飛び、敵の喉元を掠める。彼方から放ったジェックはリロードするとすぐさま構えなおした。
「――中途半端な希望なら、持たない方がマシだよ」
 それは、誰へ向けて言ったものか。そんな言霊の残滓も、次いで放たれた弾幕によってかき消される。
「さぁ、キツイ一発をお見舞いしてやりましょ」
 利香は攻撃を受けながら影を広げる。そこから沸き上がる無数の手は冒険者たちを捉えんと手を伸ばし、その体を傷付ける。どうか、やすらかに、おやすみなさい。
「死にたくなければさっさとお帰りなさいな。こんな事で死にたくはないでしょう?」
「ぐっ……体が、動かない……!?」
 ジュリエットのマリオネットダンスに絡めとられた冒険者が青ざめる。しかしあくまで体の動きを止めるだけだと気が付けばすぐさま元の調子を取り戻した。
(正しいだけの現実なんて、上手くいかないですのに)
 綾姫は遠距離から敵を攻める。しかし足止めされているわけでもない敵は確実に迫り、ステラもまた馬車から飛び降りた。
「拙も前に出ましょう」
 武器を振り回し、暴風域を作り出すステラ。近場ならばこれで事足りるが、厄介なのは遠方からチクチクと飛び道具で攻めてくる相手だ。
(私が狙われても構わないけど、範囲攻撃は馬車が壊れちゃうわね)
「あ~ら、中のかわい子ちゃんが傷付いちゃうわよ? いひひ♪」
 馬車の状態へ視線を向けた利香は声を大きく、遠方まで届くように出す。そうすれば向こうで若干の躊躇が感じ取れた。
(大丈夫そう? まぁ、いざとなったら庇いましょ)
 馬車が無事でなければ、奴隷たちも連れていけないのだから。
 正純は魔性を纏った一撃で敵を撃ち倒す。起き上がる様子が無いのを見てとり、彼女は視線を未だ戦う冒険者たちへ向けた。
「これ以上邪魔立てすれば、その命すら保証しません。名と命、どちらを惜しみますか?」
 ここで撤退を選択するのならば命は見逃そう、と。正純の言葉に冒険者たちが揺らぐ。ここで散るのは御免被るが果たして引いて良いものか――?
「諦めるな! これで負けるようじゃ名をとどろかせるなんてできないぞ!」
 そこへ飛んだのはガウスの声だ。それに冒険者たちは士気を取り戻し、勢いもまた燃え上がったが――イレギュラーズの攻勢に、次第に押されていく。
 半分以上も倒されればイレギュラーズたちの視線はガウスへと向けられた。先ほどの発破といい、やはり彼が最も危険である。
 遠くから自らの異能の欠片を放った綾姫に正純の一矢が追従する。さらに遅れて、ジェックの放った燃え盛る焼夷弾が的確にガウスの身体を貫いた。
「今後の為にも『余計な輩』を散らしたいとのご依頼だ。依頼主の意向には沿わなくちゃね」
「く、そ……っ、まだだ!」
 重ねられる攻撃に、しかしガウスはタフな体の持ち主らしい。血を流しながらも持ちこたえ、イレギュラーズを押してくる。
「だが、もうそろそろ勝敗はついて来たんじゃねーの?」
 監獄魔術を操ることほぎは視線を移す。冒険者もあらかた倒され、残っている数人も随分消耗している。こっちもまあ、消耗具合で言えば近い状態であるが。
「あの奴隷たちにお前の手は届かない、今回は諦めな。死ぬぜ?」
 ひたすらに注意を引き続けるシラスはそう告げる。彼が踏んだ通りガウスは危険な相手だった。イレギュラーズの中でも指折りであろう強さの彼を、他の冒険者からの攻撃もあったとはいえ消耗させているのだ。
(それでも、ここまで囲まれたなら俺達の勝ちだぜ)
 一方、最後の力を振り絞って攻撃を仕掛けてくる冒険者たちに利香は美しい剣の乱舞を魅せる。不意に目のあった冒険者が怪訝そうな顔を浮かべ、あっと何かに気付いたような表情を浮かべた。
 まあ、姿を変えていると言っても同じ国にいるのだ。王都に存在する『雨宿り』の宿を知っていたのかもしれない。
(バレたならそれはそれよ)
 別に構いやしない、と利香は相手を見て口を開く。
「愚直に救える程貴方は裕福ではないし、この世は優しくない。凡人の手に掬える数には限りがあるのよ」
 どんな目的であれど、本当に救える者だけを救わなければ――無責任な救いは、偽善なのだから。
「そろそろ最後の撤退勧告、です。命あっての物種と言いますし……あぁ、これ以上は本当に、容赦は出来ませんので?」
 攻撃を放ちながらそう告げるステラ。ここが最後の分岐点。

 冒険者たちは口惜しそうに唇を引き結び――撤退した。

 倒し、生き残っていた冒険者は軽く尋問して解放する。あとは隣町まで、再び警戒しながら進むだけだ。
 御者によると中で耐えていた奴隷たちは怯えてこそいたものの怪我などはないらしい。
 気を抜かずに進んでいれば、やがて森が途切れて草原の向こうに街が見えた。
(何もない者が行きつく先、ですか)
 あそこにつけば、奴隷たちは貴族へ受け渡される。正純はつい、と視線を落とした。

(私は――恵まれている)

成否

成功

MVP

極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女

状態異常

極楽院 ことほぎ(p3p002087)[重傷]
悪しき魔女

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 偽善を打ち破った悪人たちにも、ブレイブメダリオンは配られました。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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