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シナリオ詳細

荒くれ者たちを癒す歌

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●噂の歌姫

 鉄帝には、かの有名なラド・バウを筆頭に様々な闘技場がある。
 大なり小なり、そこでは己の力を信じる者達が日々武を競っているが……そうした闘技場にも咲く華がある。

「望まれぬ華であろうと咲き誇りましょう。貴方の目に留まるならば、そのまま散ろうと構わない……」

 響くのは、1人の女性の歌。
 闘技場の試合の合間、準備の時間の間などに行われる催し物の1つだ。
 闘技士たちの血沸き肉躍る戦いのみを求めている客にとっては、それは単なる暇潰しに過ぎない。
 事実、鉄帝はそういう……脳みそまで筋肉で出来ているんじゃないかという者の坩堝であることは誰にも否定できない。
 しかし、この場で歌う……「歌姫」と呼ばれる女性がこの鉄帝で一定の地位を築いているのも、また事実であった。
 そしてそれが気に入らない者がいることも、また。
 それを、彼女は控室で思い知る。

「え……」

 そこに広がっていたのは、血だまり。
 自分の付き人が殺されている、目を覆うような光景。
 その犯人の姿は、すでにこの場にはなく……。

●歌姫の依頼
「お仕事です。受けたい奴は寄ってくるのです」

 そんな『旅するグルメ辞典』チーサ・ナコック(p3n000201) の言葉に、何人かが集まってくる。

「鉄帝の闘技場で人気の歌姫たちの連続殺人が起こっているのです」

 始まりは、およそ1か月前。
 一番人気があるとされていた歌姫が、付き人と共に夜道で惨殺された。
 それから1週間に1回、週末に……歌姫が人気のある順に殺され続けている。
 そして、その犯人だが……どうやら、なんらかの魔法的生物であることが分かっている。
 どうにも鉄帝内での捜査の結果、毎回事件現場から何らかの物品が消えており……それが凶器であるだろうことが判明しているのだ。

「つまり……これは魔法生物を使った計画殺人です。実にゆるせねーです。お風呂とか怖くなるです」

 チーサの言葉は、あながち間違いではない。
 日常に紛れた物品が敵対する魔法生物であるならば……まさに「そういうこと」もあり得るのだから。
 そして、今回の依頼は実にシンプルだ。

「今回『殺されなかった』歌姫……ヒルシアの護衛と犯人の撃破。それが依頼なのです」

 魔法生物が事件現場から回収されている以上、犯人は事件現場近くにいる可能性がある。
 そして犯人は、殺し損ねたヒルシアを逃がしはしないだろう。
 捕らえねばならない。償わせなければならない。
 それですべて解決というわけではないが……この一連の殺人事件は解決する。

「しっかり生きて帰ってくるですよ。そしたらまあ……飯くらいは作ってやるのです」

GMコメント

歌姫ヒルシアを守ってください。
護衛、推理など……思う限りの作戦を駆使してくださいませ。

□登場人物
・歌姫ヒルシア
殺し屋が「殺し損ねた」歌姫。
高慢な性格だが、現在は非常に脅えている。

・殺された付き人
現場ではヒルシアに憧れていたのか、殺された時には舞台衣装を着ていた。
そして、彼女が殺された控室では鏡が一枚足りなかったらしい。

・歌姫ノミナ
ヒルシアの次に人気とされる歌姫。もしヒルシアが殺されたなら、次はたぶん……?
性格はかなり良い、という噂。

・闘技者ガガルト
歌姫自体をよく思ってない事を公言する闘技者。
事件が表沙汰になってからも、その態度を変えていない。

・闘技者アルス
色男で売っている闘技者。歌姫も当然のようにナンパする。
明るくナンパな性格。

・クラック
古株の闘技場「ノアーク」のオーナー。歌姫制度をあまりよく思ってはいない。
なお第一の現場が「ノアーク」であり、次の週末に歌姫ヒルシアが歌うのも、この闘技場である。

今回、敵データはありませんが、暗殺に便利な技能を持つ何らかの魔法生物です。
週末まで、冒険開始から3日。
その間、歌姫を守り抜き犯人を捕らえれば成功となります。
戦闘そのものは重要ではないミステリー系のシナリオになります。
皆様の綿密な作戦が鍵となるでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はD-です。
 基本的に多くの部分が不完全で信用出来ない情報と考えて下さい。
 不測の事態は恐らく起きるでしょう。

  • 荒くれ者たちを癒す歌完了
  • GM名天野ハザマ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月28日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
溝隠 瑠璃(p3p009137)
ラド・バウD級闘士
雑賀 才蔵(p3p009175)
アサルトサラリーマン
キサナ・ドゥ(p3p009473)
野生の歌姫

リプレイ

●ケース1:歌姫ノミナ

「やがて来る刹那に私は願う。固く握られたその拳、解かれ差し出されるその日を……」

 ノアーク闘技場に、歌姫の歌が響く。
 歌姫ノミナ。それなりに人気のある歌姫の1人だが……彼女が歌っている間に舞台や試合の準備が整えられていく様子は、やはり彼女が主役ではないのだという事実を嫌味なまでに知らせている。
 それでも、よく分からない芸人の類よりはよほど「歌姫」は確固たる地位を築いている。
 いるが……ただそれだけだ、というのもまた事実ではあるだろう。

「さあ、お待たせいたしました! 次なる試合は……なんとラド・バウD級闘士! 溝隠 瑠璃だー! 対するは堅き鋼・グランド! さあ、如何なる試合を見せてくれるのか!」

 『ラド・バウD級闘士』溝隠 瑠璃(p3p009137)と向かい合う闘技者に視線を送りながら、歌姫ノミナは舞台から立ち去り……そこで、自分が歌っていた時よりも大きな歓声に人知れず表情を曇らせる。
 やはり、闘技場の主役は彼等であり……自分たちは添え物でしかない。
 そんなことは分かっている。分かっているのだ。
 暗い表情で控室に戻り……そこで、ノミナは知らない人物が部屋の中にいることに気付く。

「なっ……!?」
「は? この部屋は使っていないはずでは……」
「な、なんなんですか貴方! だ、誰か……!」
「いや待った! 自分は怪しいモノでは」
「そんな悪人面で何言ってるんですか⁉」
「くっ、割と否定できない!」

 その場に居たのは『アサルトサラリーマン』雑賀 才蔵(p3p009175)。
 歌姫ヒルシアの付き人が殺された現場を探していたのだが……まさか其処が歌姫ノミナの控室になっているとは思わなかった。
 事前確認が甘かったのか、思わぬ不測の事態か……しかし、それでもなんとか警備を呼ばれずに済んだのはあるいは、人心掌握術のおかげだろうか?
 とにかく、才蔵はなんとかノミナの説得に成功し……堂々と控室を捜索していた。

「……そう、この部屋でヒルシアの付き人が」
「ああ、まさか綺麗に掃除されてしまっているとは思わなかったが」

 捜査の為に残されているかと期待もしたが、なくなったという鏡も補充され……この場には、何の痕跡も残っていないように才蔵には思えた。

「で、貴方は何なんですか? 衛兵にも思えませんし……探偵?」
「俺はあくまでも普通のサラリーマンでであって探偵では無いが……まあ、今回の事件解決を『仕事』にはしている」
「そうですか……」

 さらりいまん? と首を傾げるノミナではあったが、才蔵は気にせず辺りを調べる。
 どうやら、この控室にある鏡は大小含む2枚の鏡のようだが……壁についている大きな鏡の留め具は僅かに錆びている。
 となれば「無くなった鏡」とは小さな鏡のほうであるだろうと想像は出来た。

「……厄介だな」

 となると、無くなったのは小さな手鏡。そんなもの、誰でも持ち込めてしまうし持ち出せてしまう。さほどの準備も要らないだろう。
 犯人を絞り込む助けにはなりそうにない。
 そんな才蔵の様子を見ていたノミナは何も言わず……ただ、背中をじっと見ていた。

●ケース2:闘技者アルス

「やあ、凄い試合だったね。まさかタフさが売りのアイツがあんな簡単に……」

 ひと試合終えた瑠璃は、それがアルスと呼ばれる闘技者であることに気付く。
 甘いフェイスに相応しい声。態度や仕草からも、それを活かそうという計算が伝わってくる。
 まあ、それが瑠璃に伝わるかといえばまた別の問題ではあるのだが……。

「どうだい? この後僕と食事にでも。良い店をこの前見つけてね」

 ああ、これはナンパだと。そう気づいた瑠璃は軽く微笑む。
 自らのギフトである「ロべリアの毒」の効果が発揮されているのか、ラド・バウD級闘士としての肩書が効いているのかは分からないが……友好的であることには間違いなさそうだ。

「へえ、僕をナンパ? 中々目が高いと言いたいところなんだゾ」
「まあね。僕も綺麗な女の子の前では、ただの愛の奴隷ってわけさ」
「ふーん。じゃあ、歌姫達をナンパした事あるのかナ?」
「……まあ、ね」

 僅かに歯切れの悪い台詞を返したアルスに、瑠璃は素早く自分の中で考えを巡らせる。
 どうやら用意していた質問のうち「どうしてナンパするのか?」は必要そうではない。
 そういう男だ、の一言で済みそうだからだ。

「ただ、歌姫をナンパするのはしばらく控えようかと思ってるんだ」
「へえ、どうしてかナ」
「だって、あの事件がまだ解決してないだろ? 僕も困ってるんだ。手を出した女を始末してるんじゃないか……なんて言われてね」

 その言葉が本気かどうかは分からない。しかし、すぐに分かるだろうと瑠璃は思う。何故なら……この周辺に紛れ込んでいるのは、瑠璃や……控室を探っているであろう才蔵だけではないのだから。

「そういう意味では、彼女をナンパできる機会がなくなったのは残念かな?」

 言いながらアルスが視線を向けたのは、1人の新人歌姫。
 かの歌姫ヒルシアが推薦したという……瑠璃もよく知る少女、『ロスト・アンド・ファウンド』キサナ・ドゥ(p3p009473)であった。

「ウマは疾走りサメは食らいつき、ゴリラは優しく鳥は歌う! 霊長を自称するならば強者よ! その全てを内包して然るべきだ!」

 なんとも元気で勢いのある歌だが、盛り上がっているようなので何も問題はない。
 しっとりとした歌を歌うことが多い他の歌姫からしてみれば、なんとも異質ではあるだろうが。

「面白い子だよね、彼女。歌姫キサナ……だったっけ? 人気が出そうだ」
「歌姫……殺された歌姫たちをどう思ってるノ?」
「どうって。損失だと思うよ。色んな意味でね」

 どうとも判断できる台詞ではある。しかし本気であるだろうことは、瑠璃にも十分に理解できていた。

●ケース3:オーナー・クラック

「……フン」

 オーナー専用の部屋で、クラックはそう呟いた。
 ステージ上で歌うキサナの歌は、テンションを落とさないままに次に繋げるだろう。
 会場のボルテージを下げて観客同士の乱闘を防ぐ事を主軸に置く他の歌姫たちとは違う雰囲気を持っている。

「才能はある。だが結局は邪道だ。あんなものに頼らずとも闘技場とは本来、戦いだけで染まっているべきなのだ」
「そうですよね。闘い、技を競うからこそ闘技場。浮ついたものなんかいらないですよね!」

 そのオーナー専用の部屋に一緒に居た『無敵鉄板暴牛』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)の同調する言葉に、クラックは気分よく笑ってみせる。

「ハハハ、分かってるじゃないか。軍学校の学生だったか? 流石に理解が早い」

 眼下ではキサナの歌も終わり、闘技者たちが入場してくる。
 始まる戦いは激しく、しかしクラックの表情は再び渋いものに戻っていく。

「だが、そうであるとしても歌姫という仕組みを避けて通るわけにもいかん」
「それは……どうしてですか? ボクとしては、これ以上被害者を出さないという名目で歌姫制度を停止するチャンスにも思えますが」

 勿論、リュカシスの本音はそうではない。
 リュカシス本人としては……そして闘技場を愛する者としては、歌姫はとても良い制度だと思っている。
 様々な闘技者が戦う事で切磋琢磨できるように、様々な職業の方が関わる事で闘技場文化の発展にも繋がると思っているからだ。
 そんなリュカシスの同意に見せかけた質問に、クラックはチラリとリュカシスへ視線を向ける。

「……儂は経営者だ。個人的に要らんと思っても導入せねばならぬものはある。先ほどの試合を見ただろう? ラド・バウの闘士というだけで客は盛り上がる……他の闘技場など、明日にもなくなるかもしれん木っ端ばかりだ」
「それは……」

 瑠璃の出た試合の盛り上がりを思い、リュカシスは何も言えなくなる。
 そう、鉄帝に闘技場がどれほどあろうとラド・バウに勝るものではない。
 そればかりはもう、どうしようもないものだ。
 だからこそ、他の闘技場が生き残りをかけて色々とやっているのもまた事実ではある。

「歌姫は必要だ。どれほど気に入らんものであろうとな」
「……犯人に心当たりが?」
「さて、な」

 言いながらクラックは闘技場の光景に再び視線を向ける。
 そこでは本日2度目の試合となる瑠璃の姿があった。

「だが……短絡的な奴ではあるのだろうよ」

 その言葉の真意までは、リュカシスには分からない。
 クラックの「短絡的な奴が犯人」という言葉が、正しいのかどうかも。
 しかし、思う。
 此度の事件、歌姫という職業へのヘイトスクラムか。
 それとも他被害者はカモフラージュで『本命』ただ一人を狙ったものなのか……。
 その真実がどうであるとしても……皆で協力し、必ずや事件の真相にたどり着く、と。

「しかし、ヒルシアの護衛についていたあの連中……どうにかうちの闘技場に取り込めないものか」

 それは無理だろう、とはリュカシスも言わなかった。
 その「護衛」である、仲間たちの姿を思い浮かべながら。

●ケース4:歌姫ヒルシア

 週末が、明日にはやってくる。連続殺人事件が起こると分かっていても、歌姫たちは自分の舞台に上がらねばならない。
 それが彼女たちの仕事であり、生きる糧であるからだ。
 しかし狙われているともなれば、そういうわけにもいかないだろう。

「……くる。明日には、週末がくるわ……」
「大丈夫です。大丈夫ですわ」

 ヒルシアに縋りつかれながらも慰めているのは『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)だ。
 海洋王国で舞台に立っていた経験も「氷雪の歌姫」という称号もあってか、メリルナートはヒルシアの信頼をこの数日で勝ち取っていた。
 まあ、「氷雪の歌姫」自体はメリルナートにとってはあまり良い思い出のある称号ではないが……そこまでを明かすメリットもない。

「尾行者や監視の類はいません。今のところ安心です」
「そんなの分からないでしょ!」

『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)による宿泊場所を変える作戦は、今のところ上手くいっているように思えた。
 何しろ、オリーブの作戦は徹底している。
 一人になる事を避け、外出も極力しない。
 どうしてもな時は護衛を伴って外出し、部屋には戻らず次の宿泊場所へ向かう。
 食事なども、護衛の誰かが購入から運搬まで行った物以外は信用しない。
 勿論ヒルシアの協力なくしては成立しえない作戦ではあるが、そのヒルシア自身が協力的であったのも大きいだろう。

「大体、なんでアタシたちが狙われないといけないのよ!」
「歌唄いがあまり良い評価を受けていないというのは、ちょっと物悲しくはありますわねー。気風とか、環境とか、受け入れられない状況も有るとは思うのですがー」
「鉄帝がそういう気風だってのは認めるわ。でもアタシたちだって求められるから歌ってるのよ!」
「そうですねえ。それはその通りだと思いますわー」

 基本的に複数で交代しながら付きっ切りではあるのだが、ヒルシアは歌姫繋がりでメリルナートに強くシンパシーのようなものを抱いているように見えた。あるいは信頼構築の為に話をしようとメリルナートが積極的だったのが功を奏したのだろうか?
 何度か愚痴を言うと、そのままヒルシアはメリルナートに抱き着く。

「……分かってるわね、アンタ。この仕事が終わっても残る気はない?」
「それはー……まあ、考えておきますー」
「そうね、考えといて」

 勿論、その選択はない。ないが、今はヒルシアを突き放してはいけない時期だ。
 それが分かっているからこそメリルナートは言わないし、ヒルシアもそれ以上は言わない。

「……でも、解決なんて出来るのかしら」
「シンパイはいらないよ」

 もう1人の護衛である『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が、そう言って拳を握る。

「ナゾは解けないけれど襲って来たヤツをゼンイン殴り飛ばせばカイケツさ! そういうの得意だからね。マカセテよ」
「メリルナート、アイツ……頭の中まで鉄帝よ。間違いないわ」
「あははー……」
「大体あのゴリゴリの男そのものな体格でアタシの身代わりを考慮に入れてたってどういうことよ……」
「事前情報にはヒルシアさんの体格情報までなかったもので……」
「だとしても限度を知りなさいよ」

 オリーブのフォローも、ヒルシアの気分を戻す助けにはならなかったようで。

「いや、体格が近かったらやるってだけだったんだけどなー」
「そんなデカい歌姫いないわよ」

 ふてくされるヒルシアではあるが、別に怒っているとか嫌っているとかではないらしい。
 それに気付いたイグナートは、なんとも微妙な表情をする。

「もしかしてこれ、今日はオレがいじられるやつかー……?」
「まあ、甘んじていじられてくださいー」

 メリルナートの言葉にイグナートは肩を落とし、その肩をオリーブがポンと叩く。

「とにかく、明日には決着がつきます……ヒルシアさんとは、全く関係のない形で」

 そう、作戦はこれだけではない。
 なにも、歌姫ヒルシアを危険にさらす必要は……まったく、ないのだから。


●ケース5:犯人確保

 週末がやってきた。
 ノアーク闘技場でヒルシアが歌う日……なのだが実のところ、ヒルシアの顔を知る者はさほど多くない。
 その舞台衣装を覚えている者はいても、僅かな時間闘技場で歌う彼女たちの顔を至近で見たものなど、然程多くはないからだ。
 だからこそ、この作戦が成り立つ。
『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)が歌姫ヒルシアと入れ替わるなどという……本来であれば無茶な作戦が、だ。

「苦しかったでしょうね、何も殺す必要なんてなかったはずなのに」

 ヒルシアに用意された控室で、ヴァレーリヤは舞台衣装を纏いながら呟く。
 この控室は、ヒルシアの付き人が殺された部屋だ。
 そんな部屋をヒルシアに再び用意するクラックに怒りを覚えはするが、リュカシスの報告ではクラックの動きに怪しげなところはない。
 才蔵の報告では、歌姫ノミナにも怪しいところはない。
 瑠璃の報告ではアルスにも怪しい動きは一切ない。
 歌姫としてヒルシアの紹介で潜り込んでいたキサナからも、「オレが狙われてる気配はねえな」という報告が届いている。
 まあ、「ヒルシアが歌える日が来るまで、オレが『歌姫の座』を温めておくからよ」という台詞でヒルシアが悔しさでイグナートを何度か叩いていたのはさておくが。
 ともかく……今日だ。すでに犯人は絞られている。
 
「必ず解決しましょう。同じ思いをする人を出さないために」

 今頃会場ではキサナの歌が終わり、瑠璃の試合が始まっている頃だ。
 そして……いくつかの試合が終われば「歌姫ヒルシア」の番が来る。
 通常であればヒルシアが舞台へ向かうための準備が本格的に始まる時間。
 そのタイミングで……ヴァレーリヤの座っていた椅子が、ゆらりと動く。

「これは……!」

 無数の刃物をその内から生まれさせる椅子から飛びのくようにヴァレーリヤは離れ、ファミリアーを仲間たちの下へと向かわせる。

「今回は椅子……そして鍵は『時間』……ですのね!?」

 前回犯人は「失敗」した。だからこそ今回は攻撃方法を変えてきたのだろう。
 こうなっては自分がおとりとなったのは正解だった。

「どっせえーーい!!!」

 炎を纏ったメイスでぶん殴れば、椅子型魔法生物はアッサリと崩壊して。

「……そこに居るのでしょう?」
「チッ……替え玉とはな。失敗したぜ」
「そんな失敗をする人は限られてますもの」

 そう、ここ数日の調査で分かったことがある。
 オーナーであるクラック、そして闘技者アルス。この2人は歌姫ヒルシアの顔をよく知っている。
 クラックは当然だが、アルスはそのナンパ男故に女性の顔をよく見ている。
 たとえ魔法生物を介したとしても、ヒルシアと付き人を間違えるはずもない。
 ならば付き人が舞台衣装を着ていた程度で間違える可能性のある者は誰か……答えは絞られる。

「闘技者ガガルト……犯人は貴方ですわね」
「やれやれ……俺としては、あの2人が怪しいと思っていたんだがな」

 気配遮断で潜んでいた才蔵に武器を至近から突き付けられ、ガガルトは観念したように両手をあげる。

「……歌姫なんてものは排除されなきゃならねえ。俺は……」
「その手の懺悔は然るべき場所でなさい」

 駆けつけてきた仲間達に確保され、ガガルトは引き渡される。
 これ以上ないくらいに余計な犠牲を出さない形で事件は解決して。
 歌姫たちは、今日も鉄帝の闘技場で歌い続ける。
 そこに、様々な感情が含まれていたとしても。
 今日も、明日も……その先も。



成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

コングラチュレーション!
歌姫ヒルシアを無事に守り抜きました!

書いていて楽しかったです。
それでは皆様、次のシナリオにて。

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