シナリオ詳細
<ヴァーリの裁決>星辰都市ルルイエに落つる影
オープニング
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星辰都市ルルイエ。それは夢見 ルル家(p3p000016)の領地へ付けられた名である。とはいってもその都市は未だ発展途上にあり、むしろ「え!? 拙者が政治!?」という領主の経営によって領民たちは以前まで苦しい日々であった。それも執政官が付いたことによってマシになったと言うが――領地を立て直し、また発展させていくにはまだまだ苦難が多い。
「えっ!? 街道筋に魔物が現れた!?」
執政官からその緊急報告を受けたルル家は素っ頓狂な声を上げた。つい先日、友人の領地に賊まがいな仕事をする傭兵が現れたと聞いたところへの報告である。ローレットで話を聞いていると、どうも三大貴族やイレギュラーズの領地が良く襲われているような気さえしてくる。
故に、可能性は無きにしも非ずと思っていたが――。
「拙者の領地はリズちゃんの領地内でもありますからね! 荒らされる訳にはいきませんよ!」
執政官からの報告でルル家は最近突然現れた魔物の一種であろうとあたりを付ける。幻想の重要な場所で次々と事件が起こったと同時期、幻想各地に魔物が湧きだしたという話はローレットで良く耳にするのだ。それどころか、それらの魔物たちは各領地を襲っているのだと。ルル家の領地もそのうちのひとつになったのだと考えておかしくはないだろう。
(他にも依頼は舞い込んできているようですが、まずは自分の領地から……ですね!)
かくして。ルル家からの依頼をローレットは受理したのである。
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「皆さん、おあつまりですね!」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はくるりと振り向き、この依頼を受けるイレギュラーズたちを見る。その手にしているのは1枚の羊皮紙であった。
「それでは情報の共有をしますね。ルル家さんの領地を進んでいる魔物ですが、そのうちの1体は怪王種(アロンゲノム)だと思われます」
怪王種とは空繰パンドラの対となる滅びのアークが進行したことにより発生した種である。突然変異的な能力の向上などが見られ、しかもそれは周辺個体へ浸食していくのだという。
原罪の呼び声が周囲の人間を狂気へ陥れ、魔種へ反転させていくように――故に怪王種は『動物の反転現象』とも呼ばれているのだ。
攻めてくる魔物群に怪王種が混じっているのであれば、その個体が群を率いていると考えて良いだろう。
「死神みたいな姿をした鬼みたいなのです……たっくさんの小鬼を引きつれて、ルル家さんの領地内を前進中なのです!」
魔物群は鬼の集団であるらしく、怪王種となった鬼は人並みの大きさをしており、禍々しい雰囲気と大鎌を構えているのだという。その周りを遊ぶように戯れる小鬼たちはその体躯に見合った棍棒を担いでいるようだが――どうやら、彼らは生気を奪っていく力があるらしい。彼らの通った後は植物がしなびて、動物たちも弱っているのだという。その力がイレギュラーズだけに効かない……とは、考えづらいだろう。
街道筋で確認されたそれらは真っすぐにスラムの方向へと進んでいる。このままではただでさえボロいスラム街が立ち直れないほどの被害を受けるかもしれない。そして何より、野放しにしておいたならば――アーベントロート令嬢の手を煩わせかねない。
「そうなる前に拙者達の手で魔物を撃退しないといけませんね!」
「その通りなのです! 皆さん、よろしくお願いします!」
ルル家の言葉に頷いたユリーカは、次いでイレギュラーズたちにぺこりと頭を下げたのだった。
- <ヴァーリの裁決>星辰都市ルルイエに落つる影完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年04月07日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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『離れぬ意思』夢見 ルル家(p3p000016)が所有する領地『星辰都市ルルイエ』へ踏み込んだイレギュラーズ一同は、のどかな街道筋を進んでいた。人々の住む地に近い――言い換えればまだモンスターたちが現れていない周辺は春の陽気で草花が瑞々しい色を見せている。
「鬼、ですか」
小さく呟いた『影を歩くもの』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)はやれやれと言うように瞳を眇める。あっちでもこっちでも、自分の領地でだって人攫いの話があったばかり。あちらも再びがないか心配ではあるが、友人の困りごとであるならば駆けつけないわけにはいかない。
「ありがとうございます、ヴィオちゃん! それに、他の皆も!」
ルル家はヴァイオレットへ、そして仲間たちへにっと笑みを浮かべ、それから真剣な表情に変わる。まさか自身の領地に、それも鬼が来ようとは。
「豊穣ではなくこちらにもいたんですね」
「鬼が出るは豊穣のみかと思うておりましたが、そういう訳でもないのでありますな」
鬼が出るということの意外性に『天地凍星』小金井・正純(p3p008000)と『鬼菱ノ姫』希紗良(p3p008628)も言及する。全くいないとまでは言わないが、そこまで多い訳でもないだろうと。
「これも豊穣の遮那くんへの愛ゆえでしょうか!」
「さて……しかしルル家さんに何かあれば、遮那さんが心配なさりますね」
「むむっ、遮那くんを心配させるわけにはいきません!」
海を隔てた東に居る遮那を思ってキリリと表情を改めるルル家。正純はそれを横目にそれに、と心の中で呟く。
(遮那さんのことを抜きにしても、私も心配ですし)
故に、皆で無事に帰らなければと気合を新たにして。
街道筋の先を見つめる希紗良は高鳴る心臓の上にそっと手を当てる。これは高揚か。それとも緊張か。
(キサにとっては2度目……もとい前回の事は忘れたゆえ、実質此度が初の豊穣外任務)
ローレットに顔を出したりすることで多少は豊穣と異なる街並みなども慣れたものの、こうした戦闘の任務となればまた話は別だ。そう考えると、戦う相手が少しでも自分が見知ったモンスターで良かったかもしれない。
「鬼……3月……はっ!!」
突然何かの天啓を得たっぽいモーションをした『自称未来人』ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)は皆の方へぐるりと顔を向ける。
「わかりましたよっ! これはホワイト節分なんですっ!」
豊穣で見られる鬼と関連する行事と言えば、2月の節分だ。豆を撒いて鬼を追い出す厄払いの儀式。同月に行われるグラオ・クローネも神聖な――同じように食べ物を投げつけ合う儀式なのだろうとヨハナは確信めいた口調で告げる。
「……ぐらお・くろーねは食べ物を投げつけ合う儀式でありましたか?」
「きっとそう、違いありませんっ! そして3月と言えば何があるか……そう、ホワイトデーっ!! 2月に払った厄が3倍返しになっても何ら不思議ではありません!
つまりあの鬼は――この街から払った、厄そのものだということなんですよっ!」
めちゃくちゃ突拍子もない話である。しかしヨハナがあまりにも自信満々すぎて希紗良がちょっと押されてる。グラオ・クローネは贈り物をする日だぞ。
「……まあ、なにはともあれ。せっかく住民たちが得た平穏を潰されるのも、少し気の毒です。気合を入れて追い払うとしましょうか」
「そうでありますな! 被害を出さないために、いざ、参るであります!」
頭上にはてなマークを飛ばしていた希紗良もヴァイオレットの言葉に当初の目的へ思考が軌道修正されたようだ。再び進みだした一同の中、ヴァイオレットはそうっとルル家を見やる。
(ルル家さん、こう言ってはなんですが……執政が上手ではありませんからね)
今の執政官が来てからマシになったという話は聞こえてきたりする。得手不得手は誰しもにあるのだけれど、他人の人生が関わる以上はそれなりに平穏で合って欲しいと思うのだ。悪人にこそ不幸は相応しいのだから。
「誰も住めない土地になる前に片付けると致しましょう。いつも犠牲になるのは、力なき人たちなのですから」
そう告げた『月下美人』雪村 沙月(p3p007273)がつと目を細める。ずっと、ずっと先の方。ちらちらといくつかの影が見える。それなりの大所帯でこちらへ進行してくる影――鬼たちの集団だ。
「これはこれは……本当に絵に描いたような鬼だね……」
『雷はただ前へ』マリア・レイシス(p3p006685)は目を凝らし、近づいてくるその集団を眺める。物語などで聞くような典型的なモノたち。強いて言うなれば怪王種らしき1体のみが異常か。
「頑張って下さいヴィオちゃん! 傷一つ負わないで下さいね!」
「……善処しましょう」
ルル家の言葉にヴァイオレットは僅か瞑目する。そう容易に捉えられるつもりはないが、相手が相手だ。
(それに――ルルさんのため、ですからね)
友人の為であれば、たとえ傷を負ってでも止めて見せようとも。
ヴァイオレットとヨハナが駆けだす。2人の目的はそこらの小鬼たちではなく怪王種だ。
「ホワイト節分リチュアルに則り、3倍の豆にて打ち据える……つまりチョコを沢山食べて元気になってから、血豆ができるまで殴り続ければいいんですよねっ!」
「チョコレートが必要かはわかりませんが、まあ殴り続ければ倒れるでしょうね」
「よぉしこのヨハナ負けませんよー!!」
元気はつらつなヨハナの声が怪王種まで届く。このメンバーの中では一層飛びぬけている彼女の存在は、流石に全くの無視もできないだろう。
「さあ……ワタクシたちがお相手致しましょう」
ヴァイオレットもまた怪王種の前へと立ち、額で開いた第三の眼を前髪の隙間から覗かせた。そのまなこが怪王種を――視線で射抜く。
「さぁレディース&オーガメン! 拙者の右目をご覧あれ! そしてあわよくば御狂乱あれ!」
ルル家に埋め込まれた鴉天狗の瞳が虚無の力を放出する。狂気に、呪縛に囚われてしまえと。通行税も払わぬ鬼に優しく手加減する道理はない。この先で無体を働こうと言うのならば、尚更。
ギィギィと不協和音に似た鳴き声を出しながら逃げ惑い、或いは囚われる小鬼。その姿に『転輪禊祓』水瀬 冬佳(p3p006383)は確かな角を認める。
(サイズは兎も角、全体的な特徴はよく知ってる鬼そのものという感じだけれど……)
敵陣へ攻め込んで陣を展開する冬佳。成された結界の中で清冽なる無数の氷刃が不浄を祓い斬り刻まんと小鬼たちへ襲い掛かる。
その結界外にいる禍ツ鬼は一際大きい。あの個体が特に異常である。
見た目はどれもゴブリンなどの類が近い気もするが、それでも完全一致というわけではない。自身が聞いたことのないだけで、この大陸にもこのような種族が住んでいたのだろうか?
(周囲の小鬼は……あれの影響で変異発生した? いえ、もともと全てこれらの個体で、怪王種の突然変異であれだけあそこまで大きくなった?)
わからないことだらけ。されども止まっていられる暇はない。
それなりのすばしっこさで辺りを駆けまわる小鬼たちは、イレギュラーズへ向かって楽し気に飛び掛かったり棍棒を振りかぶったりと襲ってくる。力を吸い取られた感覚に顔を歪めた希紗良は武器をしかと握りしめた。
「吸いたければ吸うがよいであります。それ以上の力をもって制するのみ!」
厄介な能力を持った敵であるが、その回復量を圧倒する程の攻勢で潰してしまえばこちらのもの。自身の敏捷性を上げた希紗良は素早く攻め入り小鬼へ切っ先を向ける。
戦いを繰り広げる沙月は、ふと足元の植物に元気がないことに気付いた。踏まれたから、というわけではない。全体的にしなびて枯れてしまいそうな雰囲気なのだ。
(植物の力も奪っているということですか……尚更、捨ておくわけにはいきません)
希紗良ではないが、攻撃は最大の防御とも言う。殺人剣の極意を纏った沙月は流れるような所作で次々と連撃を放った。鋭く畳みかける攻撃に小鬼たちが圧倒される。そこへ狙いすませて正純の放った無数の矢が降り注いだ。
(今のは大丈夫そうですね)
高火力な範囲撃ち。正純は様子を伺い、ダメージを受けなかったことへ安堵した。
あちらで――もうヨハナが受けているようだが、禍ツ鬼が攻撃を受けると一部のダメージが自身へ跳ね返ってくる。火力の高さは自覚があり命中率ともに誇れる面でもあるが、ああいった手合いがいると一概に利ばかりとも言えない。
(自身の攻撃で倒れる訳には参りません。慎重に行きましょう)
小鬼たちは動き回り、群れる場所も少しずつ位置を変えていく。それへ臨機応変に対応できるよう、正純は小鬼の動きを見ながら駆け出した。
「遊んでいるところ悪いね! この先には友人の領地があるんだ……一歩も通さないよ?」
蒼雷状態になったマリアが小鬼たちの頭上から大規模な落雷を発生させる。天災にも近しい破壊の閃光は、避けようとした正純と対照的に禍ツ鬼も巻き込んだ。びりりと微かなダメージを感じるが、この程度であればまだ耐えられる。
「まだだよ!」
容赦のないマリアの追撃。度重なる落雷は逃げ惑う小鬼たちを次第に追い詰めていく。それのお零れをもらいながら、ヨハナは執拗に存在を主張して引き付けた禍ツ鬼へ右ストレートを繰り出した。闘気が火焔へ変わり、拳に纏わりつくように燃える。
「熱くない! 痛くもありませんよ!」
多少の反動はもはや仕方がない。大切なのはこの敵が仲間の元へ行かないようこちらへ向かせ続ける事。そして可能な限りこの反動を受けなくて済むよう、ヴァイオレットと共にBS漬けにしてしまうこと。
ヴァイオレットの三つめの瞳に射抜かれた禍ツ鬼は新たな錯覚を覚える。ダメージはない。ただ近しいものを感じ続け、それがいつか本物の痛みになるだけ。
小鬼たちを相手取るイレギュラーズたちは、あちこちへ逃げては襲い掛かってくる敵に多少の苦戦を強いられていた。こちらの力を奪い取り回復するという手段も中々に手ごわい。
「しかし――それも叶わなくなればこちらもの」
沙月が一瞬のスキを突き、攻撃へと転じる。回復を阻害する一手に次いで冬佳が祓魔の光陣を発動させた。彼女が先ほどから少しずつ、念入りに、執拗に展開していた陣により小鬼たちの中で少しずつ仲間割れが起き始めている。
「畳みかけるなら今ですね!」
敵の死角を見定めたルル家が的確に虚無の波動を小鬼たちへ当て、無力化していく。本来ならばどこかから奇襲でも重ねたいところであるが。
「こう遮蔽も何もない街道筋じゃどうしても力押しだね! まぁ負けてはやらないんだけど!」
自らの異能を瞬間的に放電させたマリアが素早く落雷を起こす。先ほどより大きく、強い閃光が何度も地表へと落ち、小鬼たちをうち据えた。
「全滅、とまでは行きませんか」
そのまま倒れ伏した小鬼、起き上がって周囲やイレギュラーズたちから生気を奪い取ろうという小鬼。彼らを睨みつけん眼力で正純は一矢を放つ。狙うは小鬼の、その手に持つ殺傷力高い棍棒。少しでもその威力を下げようという攻撃に小鬼が気を取られる中、希紗良もまた肉薄していく。
「寄らば斬る。寄らずともこちらが寄って斬るであります!」
マリアたちのように遠くから打ち込む術はないが、至近距離での攻撃なら希紗良は磨いてきたその威力を発揮できる。彼女の鋭利な乱撃は、文字通り敵を真っ赤に染め上げた。
小鬼の消耗も目に見えてきたが、それはイレギュラーズもまた然り。冬佳は攻撃から回復へと転じ、神水を媒介にした癒しの術法を行使する。周囲の仲間たちを癒しながら、冬佳は小鬼たちを一瞥した。
(お互いからは生気を奪い合わないのですね)
多少なりとも仲間意識がある、ということだろうか。それとも同族からは奪うことができないのか。いずれにせよそこに在るだけで周囲から生気を奪うような存在も、怪王種も生ける者にとっては須らく危険であり、放置することはできない。
(発生に責がある訳ではありませんが――)
沙月の目にも留まらぬ踏み込みから強烈な一撃が繰り出される。小鬼を仕留めた沙月はその視線をすっと動かし、さりげなく禍ツ鬼の姿を捉えた。
(どのように反撃してくるのか……何も対策しないというのは性に合いません)
最も、その行動は小鬼の飛び掛かりによってすぐさま中断されてしまうことになるのだが。それでも出来る限りのことはしておかなければ、あれを倒すには至れないだろう。
「次、であります!」
惑いの切っ先で小鬼へトドメをさした希紗良が振り返る。そこでは紅雷を纏ったマリアが掌打のコンビネーションで小鬼を攻め立てていた。
「加勢するであります!」
「助かるよ!」
もう小鬼は残り少ない。新たに矢を番えた正純は狙いすましてそれを撃つ。
(奪われるなら、奪われる前にすべて始末してしまえば良い)
それだけの力を持った者たちが、ここに集っているのだから。
「まだまだ! ええ、ヨハナはこんなものではありませんよ!」
パンドラの明滅が次第に消えていく。ヨハナは自身へ引き付け続けながらもできる限り多くの状態異常を怪王種へ付与し続けられるようにと拳を握っていた。
「っ……怒られてしまいますかね」
アウェイニングで自らを持ち直したヴァイオレットはそうぼやく。植物の力がなくなっていく正体はこれのせいかと思ったが、小鬼たちの方も同じような状態の植物が見受けられる。こちらの体力気力を吸収する力が関わっていそうだ。
と、そこへ。
「んもー! あれほど怪我しちゃ駄目って言ったのに!」
ヴァイオレットの示唆した人物が不可避の斬撃と共に飛び込んでくる。傷を負っている彼女を見てぷぅと頬を膨らませたルル家は、その原因である禍ツ鬼を睨みつけた。
その後方より飛び上がった一撃が空を駆け、呪いと共に敵へ振り落ちる。反動を受けながらも正純は次の一矢を番えた。
(モヤのようなものが揺らめいて、怪王種の身体の線が見えづらいですね)
出来るならばその四肢を狙いたいところであるが狙えるか――否、狙うのだ。
「攻撃範囲に気を付けて!」
冬佳は一同へそう声を上げながら散開していく。敵の攻撃範囲が広い以上、迂闊な位置には立てない。そうして相手を少しばかり遠目から見れば、成程。
(死神という呼称は確かに最もらしい)
黒に染まった姿。その手にした大鎌は魂を刈り取るそれのよう。閻魔に仕える地獄の鬼がこの怪王種ならば、先ほどの小鬼は地獄の獄卒か。
「君も回復するんだね! それなら君の回復力と私のAPを削る速度……どちらが上か勝負だよ!」
その側面から肉薄したマリアは膝関節と思しき場所を集中的に攻撃する。顔は良く見えず、眼球を狙うのは一苦労だろう。ならば場所が分かりやすい足元をとマリアの雷纏った攻撃が迫った。
「キサはこちらからであります!」
敵の背後をとった希紗良はモヤの滲む背面から妖刀を振り下ろす。怪王種の不気味な声が耳から忍び込んでくるが、それに惑わされなどしない。
ずっと押さえ続けていたヨハナの限界も近く、ヴァイオレットが代わりにその体を張る。あともう少し。怪王種が倒れるのが先か、ヴァイオレットも倒れてしまうのが先か。
沙月がヴァイオレットの代わりに敵の回復手段を絶ち、イレギュラーズの猛攻が被る。ルル家は限界以上の力を瞬間的に発揮し、多重銀河分身したルル家たちが一斉に武器暗器で肉薄した。
「拙者の大切な友達を傷つけた報い――受けて頂きますよ!」
止めどない連撃。それが止んだ末に、怪王種の手から大鎌が落ちて地面へ転がる。
その体もまた、モヤを収束させながらゆっくりと崩れ落ちて行った。
さわりと風が吹き、植物やイレギュラーズたちの肌を撫でていく。清涼なそれに目を細めるも束の間、正純は周囲にもう危険がないことを確認するように見回した。視界に入る敵性生物はないものの、彼らがやってきた痕はいたましい。
(一体、どこからこんなモノが湧いてきたというのか)
その疑問は沙月も同じだ。豊穣の地であればこのような存在が居ても不思議ではないだろうが、幻想と豊穣を結ぶような何かでもあるのだろうか?
その手掛かりを探すべく、沙月は鬼たちの遺体へ近づく。マリアは遠目に倒れた怪王種を見て小さくため息をついた。
「本当に厄介だった……」
「何はともあれ! 拙者らの勝利ですよ!」
これ以上の進撃がないことは領主としても喜ばしい。顔を綻ばせるルル家にヴァイオレットもふ、と表情を和らげた。
「さぁ皆様! 戻ったら領民の血税で作ったごちそうです!」
ぎょっとするヴァイオレット。止めるべきだろうか。いや戻ったら執政官が止めてくれるだろうか。住民たちと執政官の苦労がしのばれる。
ともかく、帰還しない事にはどうしようもない。仲間の調査が終わったところで一同はルル家の執政官がいる方へ向かっていく。それについていく希紗良は、ふと空を見上げた。豊穣と似た、幻想の空。希紗良は今、幻想の地を踏んでいるのだ。
(この国では勇者がどうのという催し物が行われているでありますが……勇気とは己が心に宿るもの)
勇気ある者が勇者と呼ばれるのならば、その想いは希紗良にもあるだろうか。
あったら良いなと、思う。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
脅威は去ったものの……住民たちはまだまだ苦労が絶えないさそうですね。
それでは、またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●ブレイブメダリオン
このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
このメダルはPC間で譲渡可能です。
●成功条件
魔物たちの撃退、或いは撃破
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。不明点もあります。
●エネミー
・『死神』禍ツ鬼
まがつき。おおよそ成人男性と同等の体躯を持った鬼です。そこそこの知性を持ち、簡単な言語は話せるようですが、会話になるのかは不明です。
全身が褐色肌をしており、その頭には2本の角があります。身には薄汚れた黒いローブを纏っています。手には大鎌を持っています。
周囲には黒い靄のようなものが現れており、本体の輪郭が見えづらくなっています。また、それは【反】の性質を持っているようです。
基本的に前方扇型の範囲攻撃をしてきます。HP・MPを吸収する力を持っている他、精神BS攻撃を放ってくる可能性があります。
・小鬼×12
禍ツ鬼の周囲をついていく、幼児ほどの大きさをした鬼たちです。こちらは人の言葉を解さないようで、よりモンスターらしいモンスターと言えるでしょう。
いずれも赤褐色な肌をしており、頭には小さめの角が生えています。手には体躯に合った棍棒を持っていますが、棍棒は棘が生えており殺傷力が高そうです。
本人(鬼?)達としては遊んでいるかのような様子で襲い掛かってきます。結構すばしっこいです。HP・MPを吸収する力を持っていると思われますので気を付けてください。
●フィールド
ルル家さんの領地の街道筋です。見晴らしは良く、隠れる場所も特にありません。敵はスラムへ向かって真っすぐに前進しています。
●怪王種(アロンゲノム)とは
進行した滅びのアークによって世界に蔓延った現象のひとつです。
生物が突然変異的に高い戦闘力や知能を有し、それを周辺固体へ浸食させていきます。
いわゆる動物版の反転現象といわれ、ローレット・イレギュラーズの宿敵のひとつとなりました。
●ご挨拶
愁と申します。
ルル家さんの領地にも魔物が出没したようです。スラムへ到達する前に撃退してあげましょう!
それではどうぞ、よろしくお願い致します。
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