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シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>金は天下の回りもの

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●不幸な奴隷商人
 下品な笑い声が洞窟の中に響いていた。
 典型的な見た目の山賊達が酒を酌み交わし、これまた典型的な話題も交わす。
「ははは、大奴隷市サマサマだぜ! 攫ってきたヤツがどんどん捌けらぁ!」
 盗賊頭らしき大柄の男は、それで手に入れたであろう大量の金銀財宝に身を埋めている。彼のような大男でも埋もれるような量だ。さぞかし、多くの人を奴隷へと堕としたのだろう。
 なんにしても、盗賊達は気分が良かった。幻想国家の貴族は何かと腐敗した奴らが多い。そこに甘える形で色々悪巧みが出来ていた。だが近頃はイレギュラーズが幅を利かせてきている。それもあっていつ目を付けられて、討伐されるかも分からない。
「それがこの金によって、俺とお前ら共々しばらくは食って飲んで好き勝手にやれるって事だ! ブレイブメダリオンだか勇者選定だかで躍起になってるかは知らねぇが、それが終わった後にまた一仕事――」
「カリギュラのカシラ」
 部下の一人が、青ざめた顔をしながら大男に声を向ける。そんな彼の表情を見て、カリギュラは舌打ちをした。
「んだぁ? せっかく金になるもんがたんまり入ったっつーのにその辛気臭ェツラしやがって。まさか団抜けたいっつーんじゃ――」
「その宝、ほとんど偽造品っす……」
 彼の言葉を理解して、カリギュラ含めて周囲の男達の顔色もサーっと、青ざめていく。
「ニセモノだって? こんな大量のブツ、あんな商人一人がわざわざ……」
「何処ぞの使いっ走りなのかもしれやせん。普段のクライアントと逆に、奴隷救出に躍起になってる貴族やイレギュラーズなんて、いくらでも思い浮かびやす」
「チッ……思惑なんであれそいつ早く呼んでぶっ殺して奴隷取り返しゃだろう!?」
「無理です! 相手が『目を付けられたら敵わない』って雲隠れしてるのカシラも知ってるでしょう!」
「クソがっ!!」
 やり場のない怒りからカリギュラはガラクタの山を蹴り飛ばした。先まで愛おしくてたまらなかったはずのそれが、整形された愛くるしさだと気付いていただのケバケバしい色をした代物にしか思えなくなる。
「えぇい、俺達もこのニセモンをどっかに……いや、それこそ殺される口実作っちまう……せめて、これ造った野郎に仕返しできりゃ……」
 カリギュラは悲痛な顔で地べたを這いずり回る。そのサマは地獄の底で思い悩むカンダタだ。そんな彼に向けて、光さす洞窟の入り口から何者かが一筋の蜘蛛の糸を垂らしてきた。

「……そのニセモノ、何処で造られたか。商人が何処に逃げ込んだか教えてあげましょうか?」

 それが慈悲深い仏だったのか、あるいは何かを企む蜘蛛だったのかは彼らに分かる術はなかったのだが。

●金! 金! 金!
 アーベントロート領・怪盗の隠れ地区。
 善良な執政官――胃痛の薬をいつも飲んでいる――に依頼されて、イレギュラーズ達はこの区にやってきた。よくある山賊退治かと思ったのだが、今回はどうにも毛色が違う。
「山賊さんが、領地の人攫おうとしてるのー?」
 遊びに来ていた『動物好きの』リトル・ドゥー(p3n000176)が、執政官の依頼を聞いて不思議そうに首を捻った。
 山賊達は、わざわざ大勢の徒党を組んで領地攻めをしようとしている。彼らは本来、人攫いや奴隷商人を生業としている人間だ。そんな者達にとって、領地を攻め入るのはあまり賢い選択とは言えない。
 なんといっても領地というのは大抵軍備を備えているものだから、攻める側も被害が大きい。相応の軍隊を持った存在ならまだしも、山賊風情なら交易隊を狙って人を攫ったり物資を貰ったりする方が賢いやり方だ。
 そんな彼らは、血眼になって『ニセ造りの犬ッコロが!!』だとか『奴隷返しやがれ!』だとか『俺にも下着よこしやがれ!!』だとか、“ワケノワカラナイコト”を叫びながら領地へ進軍を続けている。
「アルバお兄ちゃん。心当たりとかは……?」
「イヤーマッタクワカラナイナー」
 アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)は、傍らに奴隷らしき子供達を侍らせながら明後日の方向を見ている。執政官も渋い顔でザラザラと胃薬を飲み込んでいた。……まぁ、その辺りについては後で当人達に教えてもらうとして……。
 問題は、これについてどう対処するかだ。執政官は息を整えながら語る。
「迎え撃てる地点に、軍備の派遣と、簡易的なバリケードを敷いておきました」
 派遣されたのはより抜きの兵士が二十人。実力はイレギュラーズに遠く及ばないが、領地直属の兵士ゆえその忠誠心や士気については申し分ないだろう。
 続けて執政官はイレギュラーズに対して提案を向けた。
「実際に戦闘へ入るまで、少しだけ時間があります。落とし穴といった罠を張る、バリケードを強固にする――」
 迎撃戦においてそういった準備の種類は無数にある。何にしたって、イレギュラーズの得意分野から考えていった方が良いだろう。
 リトル・ドゥーは、考え込む彼らに向けて応援するように大きく手を振った。
「がんばってね! 悪者さん、攻めてきてるけど、イレギュラーズさんが、正義のてっつい? をくだしてくれるってしんじてるからっ!」
 ……執政官は少女の言葉を聞いて、また胃が痛そうに顔を顰めた。

GMコメント

 稗田ケロ子です。今回は領地襲撃依頼です。皆デ頑張ッテ悪者ヲ倒ソウ!

●成功条件
・山賊達を撃退する
・領地の兵士を全滅させない

●ロケーション:
 真昼の野戦。天候による視界不良なし。
 街の方へと続く峡谷地帯で、木盾を並べ立てたような簡易的なバリケードが既に築かれている。(イレギュラーズの得意分野によって、ここから更に強固な陣が築けるかもしれない)
 領地の兵士が生存している限り、山賊達はこの陣をすり抜けは出来ないだろう。
 領地の人々を攫う事を企んでいる彼らを撃退し、この地から悪を根絶やしにせよ。

●味方NPC:
・領地の兵士×二十人
 領地の兵士。一通りの武器を扱える。イレギュラーズの強さには遠く及ばないが、信頼出来る存在。陣を構築する際に『労働力』としても彼らを使えるだろう。
 一方で彼らが一人残らず全滅すれば、山賊を食い止められなくなり依頼失敗となる。
「ナンデオソワレルノカ、ワレワレモシリマセンネ」

・簡易バリケード
 正確には味方NPCではないが、便宜上HPが存在する。
 この設置物の後方に隠れている限り、そのキャラクターは自発行動・被弾の両方共にレンジ『遠距離・超距離』限定となる。
 あくまで即席のバリケードであり、遮蔽物としては非常に脆い……。

●エネミーデータ:
・山賊×30
 剣、弓や銃などの武器タイプを一式揃えている様子である。
 実力については有象無象であるが、集中的に攻撃される事だけは絶対に避けなければならない。

・戦車×3
 重装歩兵が乗り込んだ戦闘用馬車。いわゆる『チャリオット』。
 交易隊の馬車を転用したそれは、対人能力よりもバリケードなどの設置物を破壊する装備へ特化している。頑丈な工兵として認識していいだろう。

・『人攫いの』カリギュラ
 幻想国家で指名手配されている賊の一人。幻想国家が厭戦ならぬ厭「奴隷」ムードだったにも関わらず、人攫いから奴隷商売を続けて大きな財産を築き上げた――はずだった。
 体格は2メートルを超え、謀ろうとした奴隷商人を素手で叩き潰したとの噂もある怪力男。
 異様に高い攻撃力と体力に気をつけるべし。見た目相応に回避と反応のステータスが悪い。

・ヘドウィン
 賊達のナンバーツー。どうやら昔は幻想国家の下っ端兵士だったらしいが、賊の方が儲かると気付いてからはカリギュラと共に人攫いをしている様子。
 まがりなりにも兵士であった経緯からか、戦術眼は確かなもの。彼が戦場にいる限りは山賊達はかなり統率・戦術的に動く。
 槍の使い手としてそれなりに自信があり、意外にも一騎打ちには正々堂々乗るタイプ。

  • <ヴァーリの裁決>金は天下の回りものLv:5以上完了
  • GM名稗田 ケロ子
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月09日 21時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レッド(p3p000395)
赤々靴
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者

リプレイ


「いいかてめえら、俺達で領民を守るぞ! 山賊を一片たりともバリケードの中に入れるな!」
 依頼を受けてすぐさま援軍として派遣されたイレギュラーズは、早速現場の兵士達の指揮を執った。その中でも、『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)が迅速に構築を指示していく。
 防衛的な指示を横目に、物思いな顔をする『《戦車(チャリオット)》』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)。
「攻めてくるのだから全員始末してしまえば楽でしょーに。こー、全力で落とし穴に槍仕込むとか」
「臭えゴミは殺しちまうに限る……が、領主からのオーダーは『なるべく殺すな』だ」
 やれやれと肩を竦めるジェイク。その内心には「アルヴァに何か考えがあるのだろう」と、仲間の感情に添った作戦でもある。
「まー領主の意向ですから仕方ねーですがー。私も相手が槍で串刺しにされるのはあまり好みではありませんし」
 ピリムはそういってお人好しな事を言いながらも、露骨な企み顔を浮かべていた。ジェイクが肩を竦めている理由はそれもあるのかもしれない。……いや、共同で統率を執っているイレギュラーズに対してもあるか。
「ガハハ! 悪人をしばいてカネを貰う。これほど気分の良いもんはねえなっ!」
 下品な笑みを浮かべながら、兵士のもう半分を指揮しているのは『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)。ぜぇぜぇ息を吐く兵士達をこき使いながら、跳ね上げ式のくくり罠や落とし穴をこさえている。
「戦う前から怪我はするなよ。重たいモンは俺とストレイシープが運んでやるから」
 それら陣地構築を率先して手伝うは『風の囁き』サンディ・カルタ(p3p000438)。「相変わらず他のヤツは甘ェなぁ」とグドルフは頭を掻いた。
「ま、理由はどうあれ、おれさま以外の山賊が幅利かすのが許せねえのさ。調子乗った野郎をブチのめすいい機会だ」
 そういって両の拳を打ち鳴らし、もう一度大きな笑い声をあげた。……それを聞いて、『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)は頭が痛そうな仕草をする。
「まぁ……お互いこういう荒事は慣れてるしねぇ。でも、『なるべく殺すな』ですっけ? 相手は殺しに来てるし、そもそも青薔薇の棘はそんな甘い作法は無いのだわ」
「それについては俺も同意するがな」
 レジーナとジェイクはこの領地の管理者――『騎士の忠節』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)の方をちらりと見た。
「殺しは出来るだけ控えろ。死ぬことも絶対に許さん」
「は、はい」
 青年領主アルヴァは、親ほども年の離れた壮年の兵士達に対して檄を飛ばす
「大事な友の為、微力ながら助太刀に来たっす」
 意気揚々と陣地構築を手伝っている『赤々靴』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)。アルヴァがチラチラとそちらの方に幾度も目を配っているのは気のせい、だろうか。
「それにしても、襲い来る理由がわからないっすけど……」
 いくらかの構築が進んだ辺り、レッドが疑問調に首を傾げる。イレギュラーズ達はアルヴァ含めて明後日の方を向く。『断ち斬りの』蓮杖 綾姫(p3p008658)も、兵士達と共に穴を掘りながら乾いた笑いを浮かべていた。
「山賊が領地に攻め寄せているとお聞きしたのですが……いえ、はい。私は何も見ておりませんし聞いておりませんので……」
 アルヴァは話題を制止するように咳払い。レジーナの手伝い人であるミハイルに目を向けた。
 女だてらに、軍事訓練を積んだ兵士達と共に有刺鉄線の補強などを実行しているのは中々に目を引く。
「まさかこれが彼女の本業?」
「彼(he)よ」
 アルヴァ、盛大に咳き込む。
「まぁ、本業と言われれば。少し違うかしら? 本業――観光客なら糞尿を塗りたくるのでしょうけれども。我(わたし)は優しいから油と錆びた有刺鉄線で脱出しにくくする程度にしてあげるのだわ」
 アルヴァとミハイルはレジーナの顔を伺いつつも、少しだけ顔を顰めた。
「何か言いたげな顔ね。……返事は?」
「何も問題ありません。我が薔薇、全て仰せのままに」


 ヘドウィンという人間の本質はカリギュラと同じく卑しい悪党に違いなかったが、それでも副頭領に就けたのはゴマスリが上手いからというわけではない。
「ハッハ! 見えたぞ!」
 イレギュラーズと兵士の一団を目視して、カリギュラが愉快そうに笑う。それは復讐の対象を見つけた事か、先手必勝とばかりにチャリオットに突貫指示を出そうとする。
「待ってくれ。イレギュラーズは能あると聞き及んでいる」
 カリギュラの傍についていた男がそれを制止した。ヘドウィンだ。
「けっ、怯えるのはしょうに合わねぇんだ!」
 彼の意見に耳を傾けなかったチャリオットの一体が、一番槍とばかりに突貫する。
 するとどうだか。視認出来る落とし穴や堀を避けてバリケードを破砕しようとしたが、馬が跳ね上げ式のくくり罠に足を執られ、大きく体勢を崩してしまう。
「う、うわわっ!」
「時間通りっす!!」
「ほら、いったろ。跳ねっ返り野郎がいるもんだって」
 チャリオットから放り出された賊を目の前に高笑いをあげるレッドとグドルフ。
「く、くそっ」
 破れかぶれ。重装を良い事にバリケードの内に徒歩で踏み入り、一人は道連れにしようとするが。
「おいおい、跳ねっ返りがいいにも限度があるぜ?」
 突如としてグドルフがドロップキックを浴びせ、その重装ごと吹き飛ばす。賊は頭を打ったのかそのまま動かなくなってしまった。
「し、死んだっすか……?」
「骨の何本かは折ってやったが、殺しちゃいねぇよ」
「……おう、誰かと思えばグドルフサマじゃぁねぇか」
 そんなやり取りを見て、カリギュラは溜息をつくと共にまた目の色を変えた。下っ端の賊達が少しざわめく。
「ハッハ、『山賊』グドルフ。同業者じゃあテメェを疎ましく思ってるヤツも多いんだぜ。エェ?」
 そういって、カリギュラはイレギュラーズを威圧するように足元に転がったバリケードのなり損ないを容易く踏み潰す。兵士の何人かがそれに恐怖しかけたが、とうのグドルフはというと……小指で鼻をほじっていた。
「へー、何処の馬の骨とも知れねえ三下野郎に褒められてもなァ」
「んなっ」
 露骨な挑発にカリギュラは顔を赤くして、怒りを露わにする。
「チンケな山賊ごっこは楽しかったか? ええ? 最強の山賊であるこのおれさまに勝てると思うんじゃねェぞッ!」
 ついにカリギュラが私怨じみた突撃号令を出そうとしていよいよ本格的な開戦が始まろうとしたところである。

「誰ぞ、我と一騎討ちをしてくれる者はおらぬか!」
 賊達の中から副頭領と思わしき人物、ヘドウィンが前に踏み出して突撃の号令に水をさした。――否、制止した。
「……考えたな」
 彼の行動をみて冷笑するジェイク。ヘドウィンというヤツは、兵士達の銃の射程圏を見切って踏み出してきているらしい。一騎打ちに応じるかどうか考えていると、自陣から誰か一人が飛び出した。
「よぉ、山賊に堕ちた零落兵士。テメェの相手は俺だ」
「うむ、話に聞いた青髪か!」
 アルヴァだ。前線へ踏み入った彼に対して、賊達の弓や銃の照準が向けられる。
「ハハハ、いいじゃねぇか。好きにやらせとけ」
 今度はカリギュラの方が賊らを止めた。
「ヘドが勝ちゃそれでいい。奴の腕前はお前らも知ってんだら。だが負けたら――分かるな?」
 賊達は一騎打ちに手出しをする様子はなかったが、卑しい笑みを浮かべていた。


 さて、賊達の方は一騎打ちをお行儀良く見守っていたわけではない。陣を守るイレギュラーズが一人減ったのを良い事に、いよいよ敵陣に踏み込みを始めた。
「金に目が眩んだ下種め、テメェの腐った性根を直々に叩き直してやるよ!」
 アルヴァが機動の勢いを活かした斬撃を叩き込む。槍が上向きに弾かれかけるが、相手の方もすぐに体勢を立て直す。
「目の前に隠し穴があるぞ!」
 ヘドウィンは賊達の方に指示を向けた。ながら統率を執る余裕があるというのか。
「舐めやがって」
 相手の余裕ぶった態度に、いくらか前の事がフラッシュバックして舌打ちをする。

「よし、射掛けろ!」
 全体的な戦局に視点を移そう。まずは前線を張る者達に対して、お互いの射撃が向けられた。
 独特なフォームで放たれた矢が、放物線を描いてから一点に集中するかのように飛来する。
「!!!!」
 それらの集中攻撃で上半身をハリネズミの如くされた領兵の一人、二人と立て続けに即死した。他のいくらかも巻き込まれの負傷を負っている。イレギュラーズのような勇士ならともかく、二桁以上の集中攻撃ともなると一兵士ではひとたまりもない。
「ハッハ、いいぞ。この調子で抑えの方を殺してイレギュラーズを素通りとくりゃ――」
「ぐえぁっ!!」
 一方で山賊達の方もその辺りの事情は一定は同じくである。――今の撃ち合いで賊側が数人ほど意識を失った。人数は賊が上回ってるはずだが。
「……最優先は兵士に死人をださないこと、だ。その為にも射手を削れ!」
 射手らに指示を発するサンディ・カルタ。射手を中心に支援している彼は、兵士達に飛んできた矢玉のいくらかを指揮杖で見事打ち払ってみせた。彼が警護している以上は、その手元にいる射手らの攻撃が中々に厄介である。
「おい、チャリオット!! てめぇらの出番だぜ!」
 こと、こういった集団戦では役割分担が要だ。それを示すかのようにして、残った二体の戦車がバリケードの方に突撃を仕掛ける。
「応射しますか!?」
「いや、アレにはお前らは不向きだ」
 冷静に分析するジェイク。地形込みでも近距離の間合いに入られた事と、あの重装では一般兵の領分ではあるまい。
「私の出番ですか」
 それを見越したかのようにバリケード内の兵士達よりも、少し奥の方に構えた綾姫が顔をあげた。
「いけるか? あれはちょいと骨が折れるぞ」
 銃に次弾を込めて間合いを計りながら綾姫の方に問いかける。しかし、彼女は微笑んだ。
「鎧を断つ事にかけては、誰にも負けない自信があります」
 彼女の手元にある刀と鞘が、ギャリギャリと音を立てていたかと思うと鳴り止んだ。途端、兵士達の肩を掠めるように異音が宙空を走る。バリケードにいくらか損傷を与えていた馬車の一体が前のめりに転倒する。
 穴に墜ちたか? 御者はそう認識しかけるも、イイヤ違った。馬の半身が文字通り『消失』し、馬車のコントロールを失ったのだ。
「!?」
「鎧を断つのは得意じゃないんだが……」
 宙空に投げ出された重装兵に対して、ジェイクは照準を合わせる。鎧の継ぎ目、装甲の無いその部分。
「デッドエンドワ――よかったな。領主さまがお優しくて」
 その弾丸はまるで致命傷となりうる上半身を避けるように、重装兵の膝の関節部を穿った。
 地面に落ちた賊はそのまま情けない呻き声をあげて、膝を抱えながら蹲る。
「おい、聞いてねぇぞ……」
 重装をものともしない彼らの攻撃に、残った一体の戦車の御者がおおいに怯んだ。
 正直な話、戦車の御者達は後続の突破口を切り開けるくらいに見込んでいた。だがどうだ。バリケードが想像していたよりも強固すぎる。
「大甘だとは思うのだけど、できる限り殺さないように言われているから」
 何者かの声がした。次に馬の嘶きが聞こえ、あろう事か本格的な『チャリオット』が突撃してきて賊側の馬車を押し戻す。
「あっち側に戦車があるなんて聞いてねぇぞ!!」
「だって、言ってないもの」
「もう一押し必要っすか?」
 チャリオット同士の体当たりは威力そのものより、補佐の魔術師の衝撃の青もあって、バリケード破壊の任を『死に体』にされる事が痛恨の極み。
「奴らを狙え!!」
 ヘドウィンの声が響く。レジーナ、レッドを狙う事の指示が飛ぶ。
 レジーナは自分が集中攻撃される気配を感じ取るなり、すぐに賊側の射手らからいくらかの距離を取った。しかし賊側の馬車が踏み込めるわけではない。召喚術の射程が長い。
「や、やった。こっちが圧倒的に有り――」
 前線の兵士がそうやって喜ぶが、その方向からぐちゃりと歪な音がした。
「役立たずどもめぇ。ハッハ、まぁ、いい……俺が大暴れすりゃあ、起死回生ってヤツよ!!」
 前線同士が接敵する。『人攫いの』カリギュラ。素手で人間を押し潰したという噂のある彼が、イレギュラーズの目の前で物の見事に兵士の頭を叩き潰したのである。


「下がれ! カリギュラは俺達がどうにかする!」
 至近の間合いに入っていた兵士が次々に押し潰される。兵士達に甚大な被害が出るとみたジェイクは、すぐ距離を取るように指示を出した。
「援護を飛ばせ!」
 それに呼応したのはサンディである。勢い任せに突撃しようとする賊を、応射にて食い止める。有象無象の賊達はバリケードに阻まれている事もあって、思うように戦働きが出来ずにいる。
 戦場の要はイレギュラーズとカリギュラ、そしてヘドウィンとアルヴァの戦いとなった。
「ふふ、嬉しいぞ! 下級兵士では味わえなかった、この充足感!」
 ヘドウィンの求めるものは兵としての承認欲求だったのだろうか。アルヴァはそれを見て、軽蔑するように舌打ちをする。
「……テメェみたいな志を忘れちまった野郎なんかに俺は絶対負けない」
 その言葉を境に、アルヴァの攻撃は苛烈となる。
「中々どうして……硬いな」
 先に根を上げ始めたのはヘドウィンだった。彼の槍術は堅実的にアルヴァの体力を削いでいたが、それ以上に手の痺れが刺さる。『ソニックエッジ』――。
「悪いな、お前よりもっと強いヤツを討ち取ってきたばかりなんだ。タイマンなら負ける気はないぜ」
 殺術の奇跡的なほど噛み合ったのもあって、、ヘドウィンは手元をおおいに狂わせた。勝てる。そう踏んだアルヴァは、体術を蹴戦に切り替えて槍を踏み折った。
「……ッ!!」
 殺されるならまだしも、不殺で無力化された事に驚くヘドウィン。
「ま、参った。首を刎ねるなりなんなりせよ」
「いや、お前に関しては命を取るつもりはな――」
 そういった会話がなされている最中に、アルヴァの背に数本の矢が突き刺さった。
「あ、アルヴァさん!!」
 レッドの悲鳴を背に、アルヴァはそのまま地面に手をつく。一騎討ちが終わったとみて賊達が矢を放ったのだ。
「ヘド、なっさけねぇなぁ。俺達が手助けしてやるぜ」
「――無粋な!!」
 しかしヘドウィンはこれに怒り狂う。大勢の目の前で完敗した挙げ句、仲間のせいでこれ以上にない醜態を晒す結果になったのだ。彼はその場に座り込んで一切の口を閉ざす。
 継続的な統率を期待していた賊達は、この状態に困惑する。
「全く。考えも、ダメージも浅い浅い……」
 討ち取られたように思えたアルヴァが、その隙をついて立ち上がってすぐさまバリケード近くの仲間に合流する。機動力に長けたアルヴァ特有の戦術である。
「ここに至るまでイレギュラーズの一人も討ち取れてねぇじゃねぇかクソが……!!」
 明らかに劣勢とみてふつふつと怒りが込み上げるカリギュラ。咆哮をあげながら、イレギュラーズの方に突進していく。
「どうも領主サマはてめえが気に食わねェらしい。お優しいことに、今ならその首ひとつで手打ちにしてくれるとよ! 泣いて喜びやがれ!」
 グドルフは山刀を振るい、その頭蓋を叩き割ろうとする。カリギュラが恐れずそれに突き進み、刀の勢いがつく前に兜の装甲でソレを弾き飛ばす。
 そのままの姿勢でショルダータックル。グドルフの巨体が数メートル吹き飛ばされる。
「ハッハァ、力に関しちゃあお前に負ける気がしねぇぜグドルフサンよォ!」
「はん、図体だけじゃねぇみてぇだな」
 ベッ、と血の塊を吐き出す。カリギュラは立て続けに攻撃しようとするが、レジーナがそれに介入する。
 彼女が魔術を詠唱する仕草を見て、カリギュラは放射されるものを警戒しようとするが。レジーナは動作を換えて剣術で切り込んでくる。
「深く鋭く刺さる棘はそれなりの苦痛を与えるわよ?」
「な、舐めんじゃねぇ!!」
 胸を剣で刺突されても、この大男は万全と動く。そして気付かなかった。これみよがしの落とし穴から這い出てくる蟲の存在に。
「何があったのかは知らねーですが、そんなに頭に血が上っていては冷静な判断ができねーんじゃねーですかー?ほら、動きが単純ですよー?」
 穴に潜んでいた蟲――ピリムは、隙が生まれたカリギュラに対して異常な速さで仕掛けた。
「は?」
 カリギュラは足元を鎧で覆っていたのは当然だった。だが、それをモノともしない――たった一刀のもとに、両足の根元を、切断せしめた。
「おい――おい、まて――おい」
 ヘドウィンの指示があったら、たぶん、脅威的なこの攻撃に集団でどうにか対応してみせただろう。だが、それを失した今の彼は――その代償として足と、その命を失する事になった。
 その脅威は、視覚的なソレをもってぞっとした恐怖として戦場を走る。賊達は、全員素肌に百足が這ったような顔をする。
 ジェイクはそれを好機と見て、賊達に呼びかけた。
「死にたくなければ武器を捨てろ! 命まで取らねえ!」


 結果としていえば、頭領と副頭領が無力化された事もあって有象無象はすぐさま降伏の意を示した。
「最初で最後のチャンスだ。服従すんなら衣食住は保証してやる」
 アルヴァはそういって、賊達にそういった保証を示した。
「いや、参った。参った。感服した……」
 口を閉ざしていたヘドウィンが立ち上がり、指揮を執っていたジェイクと一騎打ちで勝ったアルヴァに対して敬礼を示す。
 これを見るにヘドウィンという人間は、兵士としても賊としても根本から向いてなかったのではないかと思う。
「ま、別にいいか。それはともかくとして――」
「領地の事を誰に聞いたか? であるな」
 アルヴァはそれに頷いた。内心、職務に不満を抱いた執政官辺りか領民の誰かだと踏んでいた。何かの間違いでリトル・ドゥーの可能性もあったが――そのいずれでもなかった。
「青髪の――お前と同じ髪色をした獣種に聞いた。イヤに領地の事に詳しかったが――俺はそれしか知らん。アルヴィ」


 ――。


「……どうしたんっすかアルヴァさん?」
「……」
 アルヴァは――異常な頭痛を感じて、ぐしゃぐしゃに表情を歪めるしかなかった――。

成否

成功

MVP

ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼

状態異常

なし

あとがき

 ――お疲れさま。イレギュラーズさん。アルヴィ。

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