PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>巨人は青薔薇の地を踏むか?

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●巨人の行軍
 ざ。ざ。ざ。
 草木が揺れる。大地が揺れる。
 草原を行くのは、悪鬼(オーガ)の群。手にした獲物は様々であるが、それぞれが血に濡れている。その目に憎悪をたぎらせて、その身体に死の痕跡を纏って、悪鬼の群れは、何らかの目的を持つかのように、進軍を続けていた。
 その背後に控えたのは、5体の巨人である。
 うち二体。全身から吹き上るは炎。身体を循環する極熱の血液。それが巨人の体温を極度に上げ、その身体に触れれるすべてを燃え盛らせた。
 うち二体。全身から立ち上るは冷気。身体を循環するは極寒の血液。それが巨人の体温を極度に下げ、その身体に触れるものを皆凍り付かせた。
 残る一体。それは、炎熱の巨人とも、氷結の巨人とも違う、『何か悍ましいもの』であった。それは、見るだけで人を射竦ませるような、恐ろしい目と、憎悪をみなぎらせていたのだ。
 巨人たちは、その誰もが『憎悪』を抱いていたが、その一体の憎悪は、まるで、他の憎悪とはくらべものにはならぬほどの暗く、恐ろしいものであった。
 極限まで弾けた筋肉。鎧のごとく高質化した皮膚。その肉が動くたびに、殺せ、と誰かが吠えるような気がした。巨人が一歩を踏み出すたびに、滅ぼせ、と何かが吠えるような気がした。
 殺せ、と。滅ぼせ、と。憎悪を晴らせ、と。怒りを晴らせ、と。
 それは謳う。それは喘ぐ。それは吠える。それは咽ぶ。
 さながらそれは、憎悪がカタチを持ったもの。何かをひどく恨んだ神のような存在が生み出した、神が己の憎悪を吐き出して固め、命を与えたような、それは憎悪の塊。
「ほろ、ぼせ」
 憎悪が言った。
「ころせ」
 憎悪が言った。
 おう、おう、おう。
 悪鬼たちが吠える。
 ごう、ごう、ごう。
 巨人たちが吠える。
 進軍は続く。憎悪の軍隊は進む。
 その行き先は、麗しき青薔薇の治める――人がアーベントロート領と呼ぶものの一角であった。

●青薔薇と、天鍵の女王
  『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)はこの日、 『暗殺令嬢』リーゼロッテ・アーベントロート(p3n000039)に呼び出され、リーゼロッテが持つ館の一つ、その応接室に居た。
「ふふ。私の招待に応じてくれて、感謝いたしますわ」
 穏やかに笑うリーゼロッテ。レジーナが、リーゼロッテの招待を断ることなどないことを見透かしての笑みであろう。
「この度は、ご招待感謝致します――リズ様」
 優雅に一礼――レジーナは勧められるまま、ソファへと腰かける。
「本当は、このままあなたのお話を聞きながら、微睡の時間を過ごしたかったのですけれど――」
 今日はそうではない。リーゼロッテが言外にそう伝えるのへ、レジーナは頷く。元より、そのような喜ばしい理由で呼ばれたわけではないことを、レジーナは理解していた。
「昨今の……あまり面白くない事件をご存知でして? 市井では、<ヴァーリの裁決>などと呼んでいるようですけれど」
 それは、昨今幻想を騒がせている一連の事件だ。『古廟スラン・ロウ』に何者かが侵入した事件、そして『神翼庭園ウィツィロ』の封印が解かれた事件に端を発したかのように、幻想各地を魔物が襲撃している。
「はい。我(わたし)達ローレットにとっても、無関係な事件ではありませんから……」
 この事件の対応に追われているのは、ローレットのイレギュラーズ達も同じだ。また、イレギュラーズ達自身の領地が襲われるという事件も発生しており、そう言った面でも、休む間もないほどの活躍を続けている。
「そうですわね。『それはそうだと思ってはいたのですけれど』。
 では、此方の写真をご覧になって下さいまし」
 と、リーゼロッテがテーブルの上に並べたのは、練達製のカメラで撮られたらしい、写真であった。そこには、平原を進軍する、悪鬼たちの群れと、五体の巨人の姿が映っている。
「これは――」
「先日、身共が撮影いたしましたのね。この巨人がどこを歩いているか、想像がつきまして?」
 試すような、からかうような視線を、リーゼロッテはレジーナへと向けた。その様子に、レジーナは即座に理解する。
「アーベントロート領内を!?」
「困った正解、ですのよね」
 リーゼロッテは愉快気に、紅茶を一口。それから、巨人撮影の詳しい地点を諳んじる。それは、レジーナにとっても青天の霹靂と言える場所である。
「待ってください、この巨人たちが進む方向には、我(わたし)の――」
「ええ、ええ。レナさん、あなたに下賜いたしました領地が。そしてその先には、身共の直轄地の一つ……つまり、ここがありますわね」
 ぽん、とリーゼロッテは手を叩く。詰まる所。巨人はこの地を――リーゼロッテを目指している。それも、レジーナの領地を横断する形で。
「何故、巨人たちはリズ様を?」
「さぁ?」
「リズ様には、心当たりが?」
「……さぁ?」
 くすくすと、リーゼロッテは笑う。
「ですがこれで、俄然面白くなってまいりました。汚らしい怪物に私の庭を荒らされるのは業腹ですがそれはそれ。私の庭で、私のオトモダチが」
 リーゼロッテは立ち上がる。そしてゆっくりと、レジーナへと歩み寄った。
 ゆっくりと、レジーナの顔へと、己の顔を寄せる。と息を吹きかけるばかりの距離で、ふ、と笑い。
「あなたが。戦う姿を楽しめると言うのなら、少しは我慢も出来ようもの」
 レジーナは腰が抜けそうになった。つまりリーゼロッテは。レジーナが活躍する様を、特等席で見たいとおっしゃっている。もちろん、これには『レジーナたちが絶対にしくじらない』という信頼を寄せてのことだ。仮にレジーナたちが巨人の討伐に失敗したとしても――レジーナの領地は大変なことになるが、それはそれとして――、リーゼロッテは己の麾下の者達を最大限に利用し、巨人を迎撃してみせるだろう。だが、もしそんな事態になれば。
(生きてゆけない――!!!)
 レジーナは、内心悲鳴を上げて走り回りたい気分だった。暗殺令嬢の期待が、どかん、とその両肩に乗ったのである。嬉しい。でも、同時に滅茶苦茶緊張する。
 そんなレジーナの内心を知ってか。リーゼロッテは、くすくすと楽しげに笑った。
「今日のお話は以上ですわ。
 ねぇ、『レナさん』。貴女は私の期待を損ねたりはいたしませんわよねぇ?」
 暗殺令嬢の笑顔は極上の毒気と華やかさを共存している。
 明らかに平静を喪ったレジーナはその言葉に平静を装う努力だけはしてみせた。
「ええ、リズ様。ご期待には、必ず――」
 力強い言葉を紡ぐ薄い唇は喜びにか、緊張にか少しだけ戦慄いていたけれど――

●ステラファミリー直轄地区の戦い
「ボス、めっちゃ気合入ってますね……」
 ステラファミリー構成員の男がぼやく。レジーナとリーゼロッテの対話から翌日。レジーナは領内ステラファミリー構成員を招集すると、巨人迎撃作戦についてさっそく動き始めた。
 一般住民は疎開させ、戦闘員はすべて動員する。街には対城壁級バリスタを大量に設置。さらに、ローレットのイレギュラーズも十名投入される予定である。
「ああ、ありゃ惚れた奴に発破かけられたんだぜ……」
「こほん」
 構成員のひそひそ話に、レジーナは咳ばらいを一つ。
「我(わたし)の領地が危機に陥っているのよ。気合も入ると言うものでしょ?」
 もちろん、それだけが理由ではないのだがさておき。
「全員、準備は良いわね? 第一部隊は、イレギュラーズ部隊と共に前線に。主に悪鬼の群れと戦いなさい」
『ハッ!』
 一糸乱れぬ様子で頷く構成員たち。もはやマフィアというよりは一種の軍隊のようでもある。
「残る部隊は街に留まり、対城壁級バリスタの操作と防衛ラインの維持に努めて」
「ボスはどうされるのですか? イレギュラーズ部隊として前線に立ちます? それとも、司令官として町に留まりますかい?」
 レジーナは、ふむ、と唸りつつ、口元に手をやった。
「そうね、我(わたし)は――」

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 レジーナさんの領地、そしてリーゼロッテの領地の一つが狙われています。
 巨人と悪鬼の群れを迎撃し、すべてを守りましょう。

●成功条件
 すべての敵の撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●状況
 アーベントロート領内に、巨人と悪鬼で構成された軍団が出現しました。
 巨人たちは、レジーナさんの領地を横断し、リーゼロッテが管理する土地の一つへ侵入するルートをとっています。
 このままでは、アーベントロート領内に生じる損害は計り知れません。
 皆さんは、レジーナさんの領地を防衛ラインとし、この場で巨人たちを撃破してください。
 作戦決行タイミングは昼。戦場は、レジーナさんの領地を背後にした草原地帯になっています。

●エネミーデータ
 悪鬼 ×50
  いわゆるオーガの群れです3mほどの体躯から放たれる強烈な一撃や、物理的な圧力を伴う咆哮などが攻撃の主な手段。
  数は多いですが、イレギュラーズの皆さんには、『ステラファミリー構成員』という味方がいます。ある程度は戦う必要があるかもしれませんが、悪鬼の群れは、『ステラファミリー構成員』の戦士たちに任せるのが良いでしょう。
  主に皆さんが戦う相手は、以下の巨人たちです。

 炎熱の巨人 ×2
  この巨人は、炎を纏っていて、その炎を放つ攻撃や、単純な物理攻撃などを行ってきます。
  放つ焔の攻撃は、もしかしたら領地へと飛び火し、領内にダメージを与えてしまうかもしれません。
  巨人たちの中では、一番体力が少ないです。半面、攻撃力は高くなっています。

 氷結の巨人 ×2
  この巨人は氷を纏った巨人です。氷をミサイルのように撃ちだしたり、単純な物理攻撃を行ったりなどしてきます。
  放つ氷のミサイルは、もしかしたら領地へ流れ弾として飛んでいき、領内にダメージを与えてしまうかもしれません。
  この巨人はEXAが高めです。代わりに、攻撃力は、巨人たちの中で一番低いです。

 憎悪の化身 ×1
  憎悪が形を持って生まれたかのような巨人。もしかしたら、『怪王種(アロンゲノム)』になっている可能性もあります。
  吹き出す憎悪のブレスは、皆さんに様々なBSをもたらしてきます。
  防御技術は高いですが、回避と命中は低めです。

●味方NPC
 ステラファミリー構成員 ×40
 皆さんに随伴する、ステラファミリーの構成員です。基本的には一生懸命頑張って、悪鬼の群れと戦ってくれます。
 単純な命令は受けてくれます。たとえば『援護頼む』『防御重視』『攻撃重視』などの短いワードで、皆さんのいう事を聞きます。

 また、街の中には直接戦闘に参加しないものの、ステファラミリーの構成員たちがいます。彼らが健在であれば、2ターンに一回、『対城壁級バリスタ』を使って、巨人に攻撃を行ってくれます。
 ダメージはさほど高くはありませんが、稀に敵の行動をキャンセルしたり、何らかの行動阻害系BSを付与してくれたりします。
 優先的に攻撃したい敵がいれば、指示していただければ、その敵を優先して攻撃します。

●怪王種(アロンゲノム)とは
 進行した滅びのアークによって世界に蔓延った現象のひとつです。
 生物が突然変異的に高い戦闘力や知能を有し、それを周辺固体へ浸食させていきます。
 いわゆる動物版の反転現象といわれ、ローレット・イレギュラーズの宿敵のひとつとなりました。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。


 以上となります。
 それでは、皆様のご参加と、プレイングを、お待ちしております。

  • <ヴァーリの裁決>巨人は青薔薇の地を踏むか?完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月07日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
嫉妬の後遺症
天之空・ミーナ(p3p005003)
紅矢の守護者
エマ・ウィートラント(p3p005065)
Enigma
新田 寛治(p3p005073)
男の子
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護
黒水・奈々美(p3p009198)
パープルハート

リプレイ

●地獄と相対して
 草原にはざあざあと風が吹いている。風に揺れる草たちは、まるでその風に乗ってここから逃げだしたいのかと思わせるほどに、激しく、激しく揺れていた。
 天候は芳しくはなく、厚い雲が太陽の光を遮っている。まるで太陽すら、この戦場を見ることを恐れるように。
 前方を見やれば、無数の悪鬼の群れと、その背後に立つ巨人たちの姿が見える。ごうごう、ごうごうと唸りをあげ、ごうごう、ごうごうと怨嗟の声をあげ、破滅の群れはアーベントロートの地を横断せんと、その歩みを進めていた。
「あわわ……お、お化けとかじゃないけど……け、結構な規模の戦いじゃないの……これ……」
 前方の巨人たち、そして後方に控えるステラファミリー構成員軍団の姿を、交互に、何度も見比べながら言うのは『パープルハート』黒水・奈々美(p3p009198)である。奈々美はあわあわと声をあげながら、自身の『場違いさ』(それはもちろん奈々美の思い込みであって、奈々美もまた、この戦場に立つに値する立派な勇士であるのだが)について考えて、頭をぐるぐると混乱させていた。
「う、浮いてないかしら……あたし……?」
「はっはっは、浮いているというのであれば自分などはまさに。やーい、青薔薇大変な目にあってやんの、って感じでございますよ」
 そう肩をすくめてみせるのは『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)である。
「レジーナ様の領地が襲われ……そしてリーゼロッテ様の領地をも襲われる。これも昨今の幻想の領地への、魔物の侵攻の一環なのでごぜーましょうかね」
 『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)が相槌を打つように言った。連続して行われる、巨人のような怪物たちによる幻想領地への侵攻。その原因はいまだ不明であるが、しかし多くの領地がその侵攻の対象になっているのは確かのようだ。『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)の持つ領地そしてアーベントロートの持つ領地の一つ。それが標的になったとなれば、動かないわけにはいかないだろう。
「あのお嬢様が、この鬼共を駆逐できないとは思えないでありんすが……。
 手を出さないのは十中八九、レジーナ様が理由でありんしょうねえ?」
 エマがそう言う。レジーナも理由の一つかもしれないが、おおよその理由は『イレギュラーズ(おともだち)が活躍しているのを愉しみたい』という事に尽きるのかもしれない。が、それもエマの予想の内でしかなく、結局のところ、リーゼロッテ・アーベントロートの胸の内は、我々に計り知れまい……それが魅力であるというものかもしれないが。
「まさに、前門の巨人、後門の暗殺令嬢だね。行くも退くもなんとやら」
 『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)が苦笑しつつづけた。精神的にも物理的にも、イレギュラーズ達に退路はない。此処を守り切らなければ、多くのモノを失う事になるだろう。それは絶対に避けなければならない。
「大変な状況だけど……まぁ、守り切れば問題ないんだよね!」
 勝たなければならない、という思いに関していえば、この場にいる全員に燃えるその想いは一致するところである。
「ま、なんにしても? しょーがねえでありますから? 助けてやるでありますがね!」
 エッダがそう言って、ぐっ、と手を握りしめた。徹甲の拳がぎりり、と音を鳴らす。
 一方、あわただしく戦闘の準備をしているステラファミリー構成員たち。その陣頭指揮を執るレジーナを複雑そうに見つめるのは、『薔薇に焦がれる』オウェード=ランドマスター(p3p009184)だ。
「レジーナ様……ワシは……」
 ぐ、と拳を握る。やり場のない感情を、そこで握りしめて捨ててしまうかのように。
「どうかされましたか」
 そんなオウェードへと声をかけたのは、『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)だ。彼はゆっくりと一礼をすると、オウェードの隣にたたずむ。その視線の先には、レジーナの姿がある。
「……いや、なに。レジーナ様がな……羨ましい、と。いや、嫉妬すらしておるのかもしれん……」
「暗殺令嬢に関して、ですか」
 寛治はふむ、と頷いた。レジーナとリーゼロッテ、その間には確かな交流がある。それを、オウェードは……リーゼロッテに恋していると語るオウェードにとっては、羨ましい光景だったのかもしれない。
「ワシは……平和を目指すために……戦いに身を投じると決意した。それが今はなんじゃ! 様々な思いが胸の内に渦巻いて……これではとても、勇者を目指すなどとは言えぬよ」
 オウェードは、つよく、息を吐いた。
「リーゼロッテ様のために戦いたい……レジーナ様に、嫉妬もしておる。じゃが、それでも、レジーナ様にはなにか友情のようなものも感じておる。それ故にこの地を守りたい……純粋な正義感だけではない。ワシは……どろどろとした何かを抱えて込んでいるのやもしれぬ」
「それは――誰もが同じでしょう」
 寛治は頷いた。
「私とて、純粋な正義感のみでここに立っている……などと若い事は言えぬほどに、歳をとりました。ですが、それでいいと思えるほどに、大人にもなりました」
 寛治は遠く、遠くをみやる。その視線の先にうつるのは、なんだろうか。寛治はその先を確かに視覚しながら、続ける。
「人は、欲を持つものです。それはどうしようもない事なのでございましょう。正義感などと飾った所で、結局は其れも欲望の一つなのかもしれません。……ですが、それでよいのです。重要なのは、それと上手く付き合う事なのですから」
 それは、本心であったか。励ましの言葉であったか。寛治の胸の内は読めないが、少なくとも、オウェードの葛藤を良しとする優しさだけは理解できた。
「さて、私たちも頭を切り替えましょう。レジーナ様も、ステラファミリーの皆様も、準備ができたようですよ」
 そう言う寛治の視線の先には、装備を終え、レジーナを前に規律よく立つステラファミリー構成員たちの姿があった。
「聞いてちょうだい」
 レジーナが声を張り上げた。
「ハッ!」
 ステラファミリー構成員たちが、一斉に返事をする。
「作戦は事前に通達した通り。汝(あなた)たちは華蓮の指揮下につきなさい」
 ざっ、と、一斉に『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)へと視線が移される。その様子に、少しだけ驚きつつ、華蓮はこほん、と咳払い一つ。
「紹介にあずかったわ、華蓮・ナーサリー・瑞稀よ」
 全員に声が届くように。出来るだけ声を張り上げて。しかしゆっくり、優しげな声で、華蓮は続ける。
「あなた達の背中は、私が押すのだわ! だから私の指示に従ってちょうだい。
 あなた達から見たら、小娘のたわ言かもしれないけれど――」
「いいえ! ボスの……女王の遣わされた天使と思っています!」
 ステラファミリー構成員の男が、真面目に声をあげた。笑い声をあげる者はいない。笑顔のものはいたが、馬鹿にした意味合いはない。それは、華蓮の指揮下に入る事を、心から了承したことを意味していた。天使、というたとえに少しだけ顔を赤らめた華蓮が続ける。
「私からの最上位の命令を、今一つだけ告げるわ。どんな時でも、これだけは覚えておいてほしいの。
 『絶対に、死なない事』。『生きてまた、共に笑い合う事』。
 私も、全力であなた達の事を守るから、皆もどうか、生きて帰ってきてちょうだい」
『はい!』
 ステラファミリー構成員たちの返事。華蓮はレジーナへと視線を送る。レジーナは頷いてから、ステラファミリー構成員たちへと視線をやった。
「巨人が天を突き、悪鬼は地を覆う。
 正しく地獄ね」
 レジーナは言った。眼前に広がる光景は、まさに地獄と言って差し支えないだろう。これからこの地獄に、吾らは突撃するのだ。
「――死は避けられない。
 我(わたし)も死ぬし、
 汝(あなた)も死ぬ。
 皆いつか死ぬ」
 一人一人の瞳を見つめながら、レジーナは言う。悲愴な顔で。しかし、全員を見渡したレジーナは、くすり、といつもの表情を浮かべた。
「でも今日じゃない」
『おう!』
「皆、来るぞ」
 『黒花の希望』天之空・ミーナ(p3p005003)が声をあげた。わずかな緊張が、全員の間に走る。
「相手は巨人だ。わかるな? ただデカいだけのいい的だ。ただデカいだけの木偶の坊だ」
 ミーナが言った。にぃ、と笑う。
「勝てない相手じゃない。巨人殺し(ジャイアント・キリング)をしゃれ込もうじゃないか」
「皆さん、準備をお願いします」
 『ジョーンシトロンの一閃』橋場・ステラ(p3p008617)が言った。全員が、己の武器に手をやる。ざっ、と、一同が足を踏み込む。
「暗殺令嬢……思惑はあるでしょうが、しかし今は。この場を、この地を、この命を守るために」
 その言葉に、皆が頷く。それからステラは、レジーナへと視線をやった。レジーナがゆっくりと頷く。すぅ、と息を吸い込んだ。
 レジーナの胸中に、様々な思いが浮かんだ。青薔薇への夢想。ああ、しかし今はそれを抑え込もう。己の、そして青薔薇の地を踏みしめる不遜な害虫どもよ。今この場で、我らがその愚の代償を払わせてやる。そう、そうだとも、ここには共に立つ仲間がいる。その力を借りてでも、今ここにそのツケを支払わせてやる。
「総員抜刀!
 昨日と変わらぬ明日を勝ち取りなさい!」
 レジーナが叫んだ。
『Save the Queen(女王のために)! Save the Queen(女王に祝福あれ)!』
 ステラファミリー構成員たちが声をあげ、そのが武器を掲げた。
 イレギュラーズ達もまた、その武器を手に抜き放つ。
「総員! 攻撃開始!」
 レジーナの号令の下に。
 今、戦いの野に戦士たちが解き放たれた。

●衝突、戦闘
 ごう、と戦場に強い風が吹いた。双方からかける悪鬼/人。悪鬼の軍勢は、その剛腕と爪を振るいあげ。人の軍勢は、その手に英知の結晶たる武器を構え。
「まずは距離の空いてるうちに先制で攻撃するのだわ!」
 華蓮が言った。すべてを守らなければならない。味方を。この地を。いや、本来ならば、巨人と悪鬼たちすら護り通すことができるのだろうか? それができるであろう誰かにわずかな妬みを感じながら、しかし華蓮はふわり、とその羽をはばたかせると、その手をまっすぐに突き出した。
「構えて……撃つのだわ!」
「イエス、マイエンジェル! まずはご挨拶だ、野郎ども!」
 銃士部隊長が声を張り上げる。一斉に構えたられた筒から放たれる、高らかな銃声。タタタタン、タタタタン、リズミカルに歌うそれが次々と火を噴くや、走りくる悪鬼の身体に、額に突き刺さる。
 ごう、と倒れ伏す悪鬼の死体を乗り越えて、次なる悪鬼が走り寄る。華蓮は続いて声をあげる。
「銃士は下がるのだわ! 続いて剣士隊、突撃! 皆が突破するための穴をあける!」
 華蓮の号令に、剣士部隊長が頷き、吠えた。
「了解! 野郎ども、俺達には善と悪を敷く天鍵の女王と、女王の遣わした天使がいるぞ! ビビるな! 逃げるな! 化け物どもを皆殺しにしろ!」
『おう! おう! おう!』
『Save the Queen(女王のために)! In the Name of Angel(天使に誓って)!』
「突撃ぃ――ッ!」
 ざん、と草地を踏み抜いて、剣士たちがかける! 衝突! 悪鬼の群れの振るう大腕がと、剣士たちの剣が交差した! 怒号。剣戟。飛び散るはどちらの血か。
「深追いはしないで! まずは防御重視! 敵を引き付けつつ後退、イレギュラーズを巨人との闘いに集中させるのよ!」
 華蓮は構成員たちに指示を出しつつ、悪鬼との闘いにうつる。軍団と軍団がぶつかり合い、激しい衝突を繰り返すのを確認しつつ、流される血の回路が、華蓮の心をざわつかせる。理想は誰も死なない事だ。だが……。
「ううん、死なせない。死なせないのだわ……!」
 華蓮は頭を振りつつ、イレギュラーズ達へと叫んだ。
「今! 突破するのよ!」
「了解、だ!」
 ミーナが叫び、突撃する。眼前に居た悪鬼の一人を盾で押しのけ、体勢を崩した瞬間に手にした聖剣で首をはねる。
「ハッ! 木偶の棒の前菜にもならないな!」
 振るわれる次なる大腕の一撃を、ミーナは『劫火絢爛』、その楯をかざして受け止める。
「サイドががら空きでありますよ」
 間髪入れず駆けるエッダが、無防備となった悪鬼の横面を思い切り殴り飛ばした。ぐるん、と首が回転するように骨を折り、悪鬼が勢いよく回転し真玉地に倒れ伏す。
「足を止めているわけにはまいりません。突破突破! 本命は巨人でありますよ!」
「道は開きました!」
 ステラが叫ぶ。大軍の群れの中、僅かに開く道が、イレギュラーズ達の前へと現れていた。
「行きましょう! 拙たちの戦場はこの先です!」
 ステラの言葉に、仲間達は頷く。悪鬼の群れを突破――開ける視界。その前方には、巨人たちの身体が見えた全長にして5m、いや6mほどか? 悪鬼たちも充分巨体であったが、その倍近いサイズだ。
 と、先を進むイレギュラーズ達の眼前に、吹き付けられるのは真っ赤な炎だ。ブレスのようなその炎は、まぎれもなく炎熱の巨人から放たれたものだ。口から、というわけではない。その身体を駆ける灼熱の血液が、周囲の空気を燃やして叩きつけてきたかのような、獄の炎。
「散開して!」
 イリスが叫んだ。ほぼ同時にイレギュラーズ達は散開。飛びずさり、炎の直撃を避けている。が、立ち昇る炎、その熱気が、イレギュラーズ達の肌を焼いた。
「これが相手か……だけど!」
 イリスは着地、ざざ、と草が飛び散る。
「皆、予定通りに行くよ! オウェード君! 私たちで氷結の巨人は抑える!」
「了解じゃぁ!」
 オウェードが叫び、走った。続くイリス。その眼前に現れる、蒼白い皮膚を持つ巨人。
 近づくだけで、空気が冷えていくような感覚を覚える。身体を走る極低温の血液が、周囲すらをも冷やしているのか。
「レジーナ様のために! リーゼロッテ様のために! お前さんは、ここで止まってもらう!」
 轟! 響く咆哮が、氷結の巨人の視線を縫い留めた。見つめられるだけで凍り付くような視線。巨人がその手を持ち上げると、べきべきとその手が凍り付いて、鋭い氷のスパイクが生み出される。刹那、叩きつけられる氷のモーニングスター! 鈍器がオウェードの頭上から振り下ろされ、オウェードを頂点から殴りつける!
「オウェード君!?」
 イリスが叫ぶ――氷煙立ち込める中、しかしオウェードはそれを受け止め、立ち上がる。視界にちらつく死の気配――それを覆い隠すように、尾行をくすぐるのは青の薔薇の花の香りか。それがたとえ幻想にしかすぎなくとも、己にできることが残り香をかぐことだけだったとしても、この想いは確か。そしてこの想いは、可能性の箱をこじ開けてなお余りある価値がある!
「ワシを! 見くびるんじゃぁないぞ!」
 オウェードは、巨人の氷の腕を持ち上げ、反らした。地に落着する腕。体勢を崩した巨人へと、オウェードは跳び、反撃の拳を顔面へと叩き込む! 氷結の巨人が揺れた。確かなダメージを与えた感触。
「やる……私も負けてられない!」
 イリスが呟いた。同時に跳躍。氷結のブレスが、数舜前のイリスの影を撃つ。
「トドメはさせなくても、皆が来るまでに、少しでも消耗してもらうよ!」
 振るわれる『サイ』。全身を回転させるように振るわれ斬りつけられるイリスの一撃が、巨人の腕を切り裂く。じゅう、と冷気が噴き出して、辺りの空気と反応して水滴をちらつかせた。
 一方イレギュラーズ達の本隊は、炎熱の巨人と相対している。真っ先に攻撃能力の高い巨人を鎮める作戦であった。交差する炎とイレギュラーズ達の攻撃。双方に傷つきながらも、確実にダメージを蓄積させていく。
「対城壁級バリスタ、撃ちなさい! 目標、炎熱の巨人!」
 レジーナが叫ぶと同時に、対城壁級バリスタがイレギュラーズ達の頭上を飛んだ。ずん、と雷のような音を立てて放たれた巨大な矢が、炎熱の巨人の肩口を貫いて、その体勢をよろめかせる。
「ひ、ひぃ! あ、あんなにすごい射撃武器があるんじゃあ、あたしの魔法なんて、そんなに意味がないんじゃぁ……?」
 その迫力に、奈々美が思わずつぶやくのへ、
「いえいえ、あくまで主役は私たちですよ、奈々美様」
 寛治は手にした『傘』を構え、魔弾をうち放つ。魔弾は炎熱の巨人の腕を貫き、その腕から血液(ほのお)を噴出させた。
「さぁ、手を止めている暇はありません。私たちは射手。撃ち貫くのが我々の業務(ビジネス)。通貨は弾丸。対価は静寂。スマートに参りましょう」
「わ、わかったわ……!」
 奈々美は炎熱の巨人を『視』た。意識を集中する。巻き起こる魔力。それは歪曲をもたらす変遷。
「さ、さあ、行くわよ! 魔法少女パープルハート! どんな敵でも、やっつけて見せるわ……!」
 どん、と魔力を解き放つ奈々美。歪曲のそれが炎熱の巨人の頭部を叩きつける。ぶおぅん、と空間が歪む音が聞こえ、視覚でも炎熱の巨人の頭が歪んで見えた。ぐらり、と巨人が揺れる。合わせたように跳ぶのはステラ。
「一匹目、拙がいただきます!」
 掲げた掌から放たれる黒の顎。巨大なあごがひらかれて、巨人の頭を飲み込む。ばぐん! 音を立てて黒の顎は巨人の頭へと噛みついた。顎が咀嚼するようにうごめき、それが虚空に消えた瞬間には巨人の頭部もまたこの世から消滅していた。残されたからだから吹き出る獄炎の血液が、じゅう、と地面を焼いて炎を描いた。
「では、二匹目。わっちがいただきんす」
 エマがその手を掲げる。放たれた悪霊が、炎熱の巨人を包み込んだ。途端、内部に吹き荒れる呪いの激痛! 身体を流れる灼熱の血液がぼこぼこと沸騰し、内側からその身体を痛めつける――それは呪殺の効果か。
 ぼえ、と巨人は強く息を吐いた。途端、体中に裂傷のような傷がひらき、その傷という傷から血液を噴出し、地に倒れ伏す。内部より蝕む呪殺の一撃が、その生命を絶ったのだ。
「いいペースだ、こっちもまだ持つぞ!」
 ミーナが叫び、跳躍した。途端振り下ろされる憎悪の巨人の拳。ずどん、と巨大な鉄球が降ってきたみたいに、地が抉れる。
「まだいけるのね! すぐに合流するわ!」
 レジーナの声に、ミーナは頷く。ミーナは駆けだし、振り下ろされたままの巨人の腕の上に乗ってみせた。
「ほら、どうしたよ木偶の坊。こんだけ小さい私だ、一息に押しつぶして見せろよ」
 あざ笑うように挑発。にぃ、と笑みを浮かべ、さらに跳躍――。
「それとも、そんな事すらできないくらいに、弱いってんならさっさと帰りな!」
 振るわれるのは、その手に生み出された虚無の剣。ヴォイドを裂く斬撃が巨人の皮膚を撫でる。
「硬い! が!」
 間髪入れずに振るわれる二撃目。虚無の剣の追撃は、頭上、頂点から憎悪の巨人へと叩き込まれる。
「内側から呪いで満たされれば――意味がないだろうが!」
 ごうん、と爆発する呪いに、憎悪の巨人はのけぞった。
「おお、おお! 呪いよ! 呪いよ!」
 巨人が吠える。がう、と口の端から染み出す赤黒い血液。ぶくぶくと湧き上がる泡。吹き出される毒霧のようなそれは、憎悪が煙となったものか。
「木偶の棒が、生意気に言葉をしゃべる……!」
 途端、ぼう、と吐き出された憎悪の霧、がミーナを包み込んだ。視界が乱される、身体が蝕まれていくのを感じる!
「ち、いっ!」
 ミーナは舌打ち一つ、煙から逃れるべく跳躍。だが、そこへ煙を引き裂いて、巨人の剛腕が迫る――。
「こっちでありますよ、デカブツ!」
 遮る様に、声が響いた。エッダが飛び込み、振るわれる大腕を強かに殴りつける! 二つの勢いが衝突した衝撃が、辺りの空気を震わせた。轟! 両社は同時に反発するように跳んで、巨人は揺らめきつつも大地に足を踏みしめ、エッダはぐるり、と回転しつつ、勢い良く着地。
「ミーナ様、交替でありますッ!」
「エッダ!?」
 ミーナが叫ぶ。
「氷結のデカブツの方への攻撃にご参加を! こっちのデカブツは、自分は引き受けるであります!」
 ぐ、とエッダが構える。ミーナは一瞬、躊躇しつつ、しかしエッダの意思を確認し、頷いた。
「気をつけろ、他の木偶の棒とは感覚が違う!」
「了解でありますよ! ご武運を!」
 ミーナが駆けだしていくのを、エッダは背中で感じていた。同時に、すぅ、と息を吸い、どん、と足を踏み出す。構える手。ちょい、と指を倒し、「かかって来いよ」の意を示す。
「お覚悟なさいませデカブツ」
「憎悪を……我らが憎しみを……」
 呻くように吠える巨人へ、エッダはぎり、と睨みつけた。
「結構。自分は、その憎悪を喰らう者であります」
 エッダは走り、そして跳躍。憎悪を喰らうために飛び掛かった。

●決戦
 イレギュラーズ達の決死の攻撃誘導により、領内へのダメージが最小限に抑えられたことは、自陣営にとって幸運であったと言えるだろう。頭上を飛び交う対城壁級バリスタの矢は、確実にイレギュラーズ達を援護していた。
 一方、防御姿勢をとり悪鬼たちと交戦している構成員たちも、華蓮の決死の援護と指揮により、瓦解することなく持ちこたえていた。戦いは続いてる、だが、それは決して均衡していたわけではなく、確実にイレギュラーズ達が押していた。見るものがいたならば、実にワクワクとしながら、イレギュラーーズ達の攻勢を愉しんでいただろう。
「お前さん、無事かのう!?」
 オウェードが叫ぶ。一方、片腕を押さえながらも、敵の放った氷のミサイルを回避しきる、着地してきたイリスが答える。
「なんとか……だけど、そろそろ危ないかな!」
 事実、ぎりぎりのラインを二人は踏んでいる。短時間とは言え、巨人二人を一対一で抑えたのである。その負担たるや。
「炎熱が倒れるのは見えたぞい!」
「じゃあ、そろそろこっちもトドメ時だね!」
 二人が構え、氷結の巨人に相対する。ごう、と巨人の口の端から氷結のブレスが漏れいでた瞬間、その顔面の空間が歪む。ぐわり、とガラスをひん曲げたみたいな映像が網膜にうつったと思いきや、ばん、と大きな音を立てて、氷結の巨人の頭部が砕け散った。冷たい血液が吹き出て、ダイヤモンドダストみたいにきらきらと空気を凍らせていく。
「ふ、ひひ、やった……と、とどめを、させたわ……!」
 見れば、歪曲の術式の主は、奈々美のようであった。奈々美は一瞬、わぁ、と表情を輝かせると、すぐにあわわ、と慌てたように顔を赤らめた。
「ち、ちょ、ちがうの、ええっと……二人は、大丈夫……?」
 奈々美が尋ねるのへ、
「おう、なんとかな」
 オウェードが答えた。奈々美は頷くと、
「じゃ、じゃあ、そのまま下がって……たぶん、悪鬼(オーガ)との闘いもあるだろうから……倒れる前に……」
「了解だよ」
 イリスが頷き、オウェードと共に後方へと引いてく。途端、奈々美が、ひぃ、と悲鳴を上げた。慌てて駆けだす奈々美を追うように、氷のミサイルが地面へと着弾していく。
「やれやれ、アポイントメントも取らずにやってくるのは、ビジネスマナーに反していますよ」
 援護するように放たれた、寛治の魔弾が、巨人のあごを撃ち抜いた。ぼん、とあごが強制気に奥へと引っ込められ、吐き出していたミサイルの照準が狂い、地面に無駄うちする形になる。
「あ、あ、あ、ありがと……っ!」
「ノー・プロブレム」
「新田、汝(あなた)は援護!」
 同時に、レジーナが叫んだ。駆けだす女王の背中を見やりつつ、
「イエス、クイーン」
 寛治が傘を構える。間髪入れずに打ち放つ魔弾。一発。二発。魔弾が冷気を切って宙を飛び、今度は寸分たがわず同じ場所、額に連続で二発。
 連続する衝撃に、氷結の巨人はたまらずのけぞった。巨人の視線が空を見やる。曇天。その灰色の空より落ちてくるのは、『偽・天乖鍵』を振り上げた善と悪を敷く天鍵の女王。
「断頭ッ!」
 ぶおん、とその刃が振るわれた。ずん、と星降るごとく飛来する女王。交差するようにすれ違う。落ちる星。落ちる刃。刃は巨人の首を斬り飛ばし、ごろん、その頭が地へと転がる。ぶおん、と首から冷血が吹き散った。吹雪のように吹き荒れる氷礫。勢いのまま前に倒れ伏す巨人。
「足を止めないでッ!」
 レジーナが叫んだ。
「すぐに回頭! 目標は憎悪の巨人よ! 動け! 打て、撃て、討て!」
 自身もその言葉に従うように、レジーナが走る。氷結の巨人にを討伐した仲間達が一気に憎悪の巨人へ向けて走る。
「エッダさんッ!」
 ステラが叫ぶ。
「ふふっ、早い……自分まだまだ活躍できるでありますけどね!」
 その身をボロボロにしつつ、エッダが言った。同時。振るわれる憎悪の拳が、エッダを吹き飛ばす。
「おおっと!」
 エマが跳躍。エッダを受け止めた。勢いのまま後方へと吹き飛ばされる二人。ずず、と地を滑って、何とか着地。
「ご無事でごぜーます?」
「問題なしでありますよ」
 エッダは頭を振りつつ、立ち上がった。
「ステラ様! そいつの皮膚は尋常じゃない固さであります!」
「分かりました! ならば、その固さ、無視します!」
 ステラは動いた。跳躍、振り下ろされた腕を蹴って方向転換。弾かれた様に着地、そのままダッシュ。ステップ。背後へと回り込む。
「柔らかい所はここですねっ!」
 ステラの一撃が、さく裂する。フォロウ・ザ・ホロウ。あらゆる防御を無視する一撃。固い皮膚を引き裂いて、振るわれた一撃が憎悪の巨人の背中に傷を作る! 途端、吹き荒れる毒の霧のような血風、それを近くで目にしたステラの脳裏に浮かぶのは、およそこの世の憎悪を煮固めたスープが噴き出しているかのような感覚だった。
「やはり怪王種化して……でも、この憎悪は……?」
 ステラはぎり、と奥歯を噛んだ。
「でも、あなたと話すことなどは何もありません! ここで力尽き果ててもらいます!」
「その通りだ!」
 ミーナが跳躍する。手にした聖剣。振るわれる斬撃が、憎悪の胸元を激しく切り裂いた。
「バリスタ! 撃(て)ッ!」
 レジーナの叫びに応じて、対城壁級バリスタが飛来する空中にいるミーナを脇をすり抜けて、飛来した巨大な矢が憎悪の傷口へと突き刺さった!
「おお、おお! 憎悪(ヘイトレッド)よ! 我が怒りを! 我が憎しみを! 滅びの顕現として汝らに与えん!」
「いらないよ、そんなものは!」
 イリスが叫び、決死の一撃を加える。敵の脚の腱を狙ったサイの一撃。斬撃が筋を切り裂き、
「次はアポイントメントをお忘れなく。ああ、失礼。もう次は無いのでしたね」
 寛治の45口径拳銃の銃弾が、憎悪の膝を砕いた。ごう、と憎悪があおむけに地に倒れ伏す。
「これで終わりでありますよ、ばーか。おとといきやがれ」
 エッダが跳んだ。そのまま、落下の勢い乗せたシンプルな拳の一撃を落とし込む――顔面へと向けて。ぼぐん、と拳が顔面を叩き潰した。ばん、とはじけるような音を立てて、巨人の身体が紫色の煙のようなものへと変質していく。
 それは、見るに悍ましい、憎悪の塊だった。きっと、と誰かが思った。この巨人は、憎悪で膨らませた風船のようなものだったのだろう、と。では、この風船を膨らませるほどの憎悪を満たした存在とは何者なのか――。
 わずかな思考にふける間もなく、憎悪の煙は瞬く間に空気に溶けて消えた。霧散してく。害はないだろう。ただそれは、何事もなかったかのように消えただけだった。
「や、やった……あ、あたし達の勝ちよね……」
 そう言って、奈々美が声あげて――あっ、と固まった。
「ま、まだ! 悪鬼(オーガ)が残ってるわ……!」
「大丈夫だわ」
 声が響いた。そこにいたのは、華蓮と、ステラファミリー構成員たちだった。華蓮はふぅ、と息を吐くと、
「なんとか、こっちは……無傷とはいかないけれど、死者はなしなのだわ」
「とうぜんっすよ」
 ステラファミリー構成員の男が言った。
「こっちには、女王と天使、イレギュラーズの皆さんがついてるんっすから。いや、負けるはずがねぇって」
「あの……ずっと思ってたのだけれど」
 華蓮はかぁ、と顔を赤くして、言った。
「その……天使、って言うの、やめてほしいのだわ! なんだか偉そうにしてるみたいで、恥ずかしいのだわ!?」
 ステラファミリー構成員たちが、どっ、と笑い声をあげた。生き残った事への喜びも含めた、歓喜の笑い声だった。華蓮は顔を真っ赤にして、
「もう、知らないのだわ」
 顔を背ける。その様子がなんだかおもしろくて、イレギュラーズ達も思わず笑ってしまうのだった。

●戦勝の後に
「ステラファミリーの諸君。汝(あなた)達の奮戦、活躍。我(わたし)は心からの敬意を示しましょう」
 戦いの後。イレギュラーズ達、そしてステラファミリー構成員たちは、特に怪我の重いものを除いて、カームバンクル領内広場へと集まっていた。
 怪我の重いもの、とは言うが、しかしさほどの重症者は少ない。これはイレギュラーズ達の戦いの成果と言える。
「此度の戦、間違いなく勝因は汝(あなた)たち多くの英雄たちの力によるもの。
 我(わたし)だけでは成せなかった。汝(あなた)達だけでも成せなかった。『我(わたし)たち』であったからこそ得られた栄光であるわ」
 そこで、と、レジーナはこほん、と咳払い一つ。
「蔵を開けなさい。
 取って置きの酒を出すのよ。
 戦勝祝いなのだわ! 盛大に!」
 おう! と、ステラファミリー構成員たちが歓声を上げた。皆が一斉に動き出す。蔵に向けて。酒場へ向けて。とっておきの酒と、とっておきの食べ物を用意するために。
「なるほど、戦勝祝いでごぜーますか」
 エマが言った。
「せっかくですので、わっちも何かお手伝いいたしましょう。料理はそこそこに得意でありんすので」
 ととと、とエマがかけていく。
「私は……少し休ませてもらうね。流石に体がボロボロで……」
 イリスが言うのへ、
「あら、じゃあ治療のお手伝いするのだわ! ほかに傷ついた子がいたら、救護班の方に来て頂戴!」
 華蓮が答えて、ぱたぱたと走っていく。行き先は、救護用の建物のなかだろう。宴が始まるまでは、治療を続ける気らしい。
「私も、そうだな……しばし休憩させてもらうよ」
 ミーナが苦笑しながら言う。仲間達は皆傷ついていたから、休息も必要だろう。
「宴……となると、噂の暗殺令嬢もいらっしゃるのでしょうか?」
 ステラが首をかしげつつ、言う。
「どうかしらね」
 レジーナが言った。
「彼のお方は気まぐれ……我(わたし)もそのお気持ちを把握できるものではないのよ」
 苦笑するような気持で、レジーナは言う。そう、あのお方の気持ち、少しでも分かるのであったなら、どれだけよかったか……。
「となると……来ないのかしら。え、宴会でご飯食べるのはいいけれど、偉い人に会うのは、ちょっと……コワかったし……」
 奈々美が苦笑しながら言う。
「そうか……リーゼロッテ様が来られるかは、分からないのか……」
 オウェードが言った。安心したような、しかし落胆したような。そんな表情だった。
「じゃが……これだけは確認しておきたい。レジーナ様。ワシは、リーゼロッテ様に逢いたい。それを、あなたは許してくださるか」
「我(わたし)が許可することではないの。リズ様がそう思わなければ、我(わたし)もきっと、会う事は出来ないから」
 レジーナが言った。
「そのうえで……我(わたし)が汝(あなた)の行動を止めることはないわ。汝(あなた)の好きになさい。まぁ、我(わたし)が遅れをとる事はないけれど」
 肩をすくめる。オウェードは、少しだけ微笑(わら)った。
「では、私は失礼いたしましょう」
「いいの? 寛治」
 寛治は恭しく一礼した。
「此度の私の役目はここまで、と存じます。仮に令嬢が現れたとして、私はその逢瀬を邪魔するほど無粋ではございませんので」
 まぁ、と、寛治はウインク一つ。懐から一枚の紙を取り出した。
「私もご令嬢とは色々とアポを取りつけたい身。そのような手段は今回だけではありませんのでね」
 レジーナは肩をすくめた。
「汝(あなた)もやり手だわ」
「そんな事よりレジーナ様。今日はどんなお酒が出るのでありますか」
 エッダがレジーナへと声をかける。レジーナは肩をすくめた。
「そうね。じゃ、お酒が保管してる場所へと行きましょうか? 汝(あなた)もよく働いたものね。一つくらい、好きなお酒を選ばせてあげる」
「やったぜラッキー、であります。ではでは、早速参りましょう」
 レジーナの背を押しつつ、エッダは思う。
(今日の手紙は……巨人の殴り心地と、お酒の味、でありますかね)
 その心に様々な思いを潜ませて。
 イレギュラーズ達は、ひとまずの勝利の余韻に浸るのであった。

成否

成功

MVP

イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫

状態異常

イリス・アトラクトス(p3p000883)[重傷]
光鱗の姫
オウェード=ランドマスター(p3p009184)[重傷]
黒鉄守護

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様のご活躍により、レジーナさんの領地は守られました。
 それは同時に、リーゼロッテの期待に添えた、という事にもなります。
 激しい戦い、本当にお疲れさまでした。

PAGETOPPAGEBOTTOM