PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>Mascherata

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――マルガレータ! ああ、どうして……。
 僕が、僕が悪かったんだ。君を陛下の婚約者になどと担ぎ上げたばかりに。

 ――マルガレータさまはどうして眠ってしまったのですか? ご主人様。

 ――……ああ、バッシュフル。違う、違うんだよ。眠っているのではなくて……。


「わざわざ此処まで来て貰って悪かったわね。私がミーミルンド男爵……ベルナール・フォン・ミーミルンドよ。
 何よ、その顔。驚いたって事? まあ、そうでしょうね。私、『変わった』もの」
 時刻指定は14時、幻想王国の王都に存在する中央大教会。
 その場所に立っていた『ミーミルンド男爵』はローレットの情報屋から与えられた『情報』とは大きく変化しているようであった。
 長い銀髪のすらりとした長身の男性。整ったかんばせに穏やかな笑みを浮かべた彼は『月の男爵』と渾名されていたと言う。
 だが、目の前に立っているミーミルンド男爵は女性のように華美な装飾を好み、ラベンダーピンクのアイシャドウを粧っている。薄い唇をなぞったルージュが其の美貌を引き立てる。
 夜色のインナーカラーを揺らがせたその人は何処か女性的な気配を纏わせていた。
「私がわざわざ此処を選んだのは、この空間が好きだからよ。良いでしょう? 大教会。
 心洗われるようだわ。……まあ、来たのは久々よ。私も『こんなナリ』だもの。外で歩くのは止してるのよ」
 口調は女性そのものである。その体つきと声から男性である事は理解できるが、自信満々な様子を見れば性別など関係ないと言わしめるほど。
 ミーミルンド男爵にはそんな不思議な雰囲気を感じずには居られなかった。
「それで、アナタ達がローレットですって? ああ、ごめんなさいね。私、『妹』を亡くしてからあまり外には興味がなかったの。
 こうしてここを訪れたのも彼女の葬儀以来――……やだ、しんみりしちゃったわね。こんな事を言いたいんじゃなかったの。
 仕事を頼みたいわ。詳しいことは使用人に任せてあるわ。そっちから聞いてくれるかしら? それじゃ、『成功を楽しみにしてるわ』、イレギュラーズさん?」

 ヒールの音を高鳴らせ、背を向ける男爵を見送ったイレギュラーズへと「宜しいでしょうか」と頭を下げた少女がいた。
「私、男爵閣下の秘書をしておりますシュピーゲルと申します。皆様方にはお願いさせて頂きたいことが御座います。
 それは当家が『販売』しておりました奴隷が契約違反にて『不当な扱いを受けている』との知らせを受けました。
 彼の救出をお願い致したく考えております。当家は人は人であるべきと考えております。奴隷と言えども、家族の一員として扱うべき、と」
 そう告げた少女の手の甲には奴隷であることを知らしめるように焼印で数字が押されていた。奴隷の烙印を持つ彼女は今は何不自由なくミーミルンド家の秘書をして居るという事だろうか
「不思議ですか? 私のような身分の者がミーミルンド家の秘書をしていることが。
 ……まあ、この待遇からお分かり頂けます通り、ミーミルンドでは奴隷へは不当な扱いは行っておりません。
 これも故・マルガレータお嬢様がお望みなられたことです。お優しいベルナール様はその言葉の通りに私達を取り扱って下さっています」
 淡々と告げた彼女は「こちらが奴隷商人が本日開くパーティーとなっています」と資料を差し出した。
 資料に寄れば仮面を付けての奴隷オークションが開催されるらしい。その場所で『愛玩奴隷』として販売される一人の奴隷。
 その名も『バッシュフル 』という。恥ずかしがり屋の幻想種はミーミルンド男爵家で教育を施されたことで高値で販売されるのだそうだ。ミーミルンド男爵家では『販売奴隷』は全て家族として迎え入れてくれるようにと契約している。その『仲介業者』の契約違反を見過ごせぬと言うのだろう。
「どのような場所であるかは分かりませんが、どうぞ、お気を付けて下さいませ」

●Mascherata
 入場チケットはミーミルンド家が手配した。仮面を付けての潜入を要するその場所でイレギュラーズは気付いただろう。

 ――巨人が、販売されている。

 銀髪に赤い瞳、美しい『奇妙な生き物』
 その姿を見て、イレギュラーズは息を飲んだ。それは大教会で見たミーミルンド男爵と瓜二つだったからだ。 

GMコメント

夏あかねです。宜しくお願いします。

●成功条件
 バッシュフルの確保

●バッシュフル
 ミーミルンド家の奴隷。ある奴隷商人の手に渡り、家族を探す予定でしたが、不当な扱いを受け『愛玩奴隷』としてオークションに掛けられています。美しい幻想種です。恥ずかしがり屋で口数は多くありません。ミーミルンド家の情報収集をするには打って付けの人材ですね。

●商品
 オークションでは奴隷達が販売されています。商品として売られている彼等を助ける必要はありません。
 ですが、売られている奴隷がいるのは確かなようです。また、商品には奴隷だけではなく、モンスターも存在して居るようです。

 ・『月色の巨人』
 『古廟スラン・ロウ』から現れたモンスターであると想定されます。ベルナールに瓜二つ、いえ、分かる人が見ればマルガレータ嬢と瓜二つにも思えることも……。
 鎖に掛けられ眠っているかのようです。目覚めたときにどのような行動をとるかは分かりません。最悪、この場が破壊される可能性もあります。

 ・『綺晶のかけら』
 奇妙な力を感じさせるかけらです。その神秘性から商品として販売されているようですが……。
 近づく者は悪しき気配を感じる等、嫌悪感を抱くようです。まるで、モンスターを呼び寄せるような……。

●オークション参加者
 30名以上の参加者がいます。正確な数は分かりませんが皆、仮面を付けているようです。生死については成功条件に含みません。
 奴隷商人の他、悪徳貴族なども含まれているようです。素顔がばれないように行動して下さい。

●ベルナール・フォン・ミーミルンド男爵
 王家の相談役として爵位を賜ったとされるミーミルンド家の現当主。その輝かしい経歴は過去の栄光、落魄れた一族は男爵の座に甘んじています。
 当主たるベルナールの前評判は『月の男爵』『美しき人』でした、ですが、今や女性のように化粧をし、日によってはドレスを纏う事も。
 女性的に話をし、その姿はまるで彼の妹の故・マルガレータ嬢を思い出させます。
 確保した『バッシュフル』を引き渡す際に会話することも可能です。謎多き人であるのは確かなようです。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。

  • <ヴァーリの裁決>Mascherata完了
  • GM名夏あかね
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月07日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
DexM001型 7810番機 SpiegelⅡ(p3p001649)
ゲーミングしゅぴちゃん
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
しにゃこ(p3p008456)
可愛いもの好き
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ

リプレイ


 広大なホールには絢爛なる飾り。豪奢なシャンデリアから舞い散る光雨を受けながら練り歩く仮面の人々。
 まるでデビュタントに夢を見るかのように興奮した様子の女の傍らで慣れたようにすいすいとホールを練り歩く燕尾服の男達。
 誰も彼もが顔を隠して笑い合う。入場チケットはミーミルンド男爵家の印が押されていた事を確認してから『金色のいとし子』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)はそっと仮面を付けた。
「『成功を楽しみにしてるわ』、か。祈っている、願っている、ではなく。まるで、ゲームでも仕掛けているかのよう、だな?」
 月の美貌と称された男爵の笑みを思い出す。エクスマリアが相対したベルナール・フォン・ミーミルンド男爵――彼の物言いは被害者や巻き込まれただけの存在ではなく、明確に関わりを持っているかのように感じられた。
「けれど、『奴隷を家族として』という方針は珍妙だけれど気に入りましたわ。
 勿論彼が白か黒かは定かではありませんけれど、本件に限って言えば奴隷を救い出して欲しいというお願いなのでしょう?
 そういう事であれば、依頼の解決に全力を尽くしましょう! 家族を失わずに済むのであれば、それが一番いいに決まっていますもの」
 幸福な家庭へと――そんな夢物語のような事に憧れるミーミルンド男爵の『その言葉』を信用すると『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は微笑んだ。
 彼は亡き妹・マルガレータの遊び相手であった7人の奴隷を譲る為に奴隷市に関わりを持ったと云う。それが真実であるかはさて置いて、7人の奴隷の売買の条件が『幸せな家庭に家族として迎え入れて遣って欲しい』というのだから身分や生活水準の平等を掲げる教派である『クラースナヤ・ズヴェズダー』の一員であるヴァレーリヤにとってはその行いは神も認める善行だ。
「ええ、一見すれば善行です。ですが……どうでしょうね? ミーミルンド自身の思惑がどこにあるのかは本件からは計り知れない」
 口元に笑みを浮かべた『悪徳貴族』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)にエクスマリアは小さく頷いた。信用にたる人物であるかさえも判別が付かないほどに、ミーミルンド男爵は『巧妙に表舞台には立っていなかった』。寧ろ、被害者であるかのように装っているのだ。
「いやー奇々怪々! わからないことばっかりで拙者大混乱ですよ!
 依頼は依頼でこなすとして、少々突っ込んで調べないとろくなことにならなさそうですねぇ!」
『離れぬ意思』夢見 ルル家(p3p000016)はこうなれば飛び込むしかないかと力瘤を作る仕草を見せてから快活に笑った。仮面を手にし、顔を隠すことは忘れずにとホールへと向かう人並みを眺める。
 幻想を舞台にした一件は『奴隷市』から始まった。突如として市場に大量の奴隷が流入したのだ。ラサのブラックマーケットでも時折行われる人身売買は深緑から拐かされた幻想種達が被害を受けることが多い。だが、それ以上にもっと巨大なマーケットを展開したのが幻想王国での大奴隷市だ。当時のラサでは『ホルスの子供達』と呼ばれた色宝を埋め込まれたドラゴン擬きの飛来などで人の出入りが少なく、悪事も微々たるものとなっていた。傭兵団は出ずっぱりで、その中であくどい商売など出来たものでもない。故に隣国『幻想』であったことまでは分かるが――
「『古廟スラン・ロウ』から、レガリアが奪われたり、『神翼庭園ウィツィロ』の封印が暴かれたり……まあ、盛りだくさんだよね。
 産出地が其処だろうと思われるモンスターばっかり出てきてる。アタシ達が討伐したって耐えず出てくるしこんな催し物があるくらいだ」
 困っちゃうよ、と『黒の猛禽』ジェック・アーロン(p3p004755)は肩を竦めた。ガスマスクは特徴的すぎるかと、正体を隠すために目印になる『目立たない程度に共通のモチーフ』の付いた仮面をイレギュラーズ達は付けていた。
「それにしても……ガスマスク以外で顔を隠すって……ちょっと慣れないな」
「そうですねー! でも、仮面でしにゃの美しさが隠せるかどうか……そこは疑問ですよ!
 それに美しい幻想種ですか……まぁしにゃの方が可愛いですけどね!
 貴族の競売なら高級品もありそうですね……! どさまぎで一個くらい……いや綺晶のかけらだけで我慢します……!」
 自身の美しさ(?)に似合う素晴らしいティアラなんかがあれば、と望んだ『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)に『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は「どんな商品が売られるだろうな」と笑みを浮かべた。
「だが、ミーミルンドの『取引相手』は阿呆だな。裏社会に身を置く癖に、契約違反の怖さを知らんとは……ならば、まずは因果応報の第一段階をお見舞いしよう」
「第二弾は?」
 しにゃこの問い掛けに汰磨羈は愉快だとでも云うかのように笑みを零し――そっと仮面を己の顔へと宛がった。


 喧噪のホールの前部にはステージが存在して居る。赤い仕立ての良いカーテンで飾られて如何にも一級品、贅を尽くしたと思わしき空間の中で『剣靴のプリマ』ヴィリス(p3p009671)は「悪趣味ね」と呟いた。
「まぁ……なんといいますか……『相変わらず』よね。私はこういうオークションにかけられてはいないけれど」
 車椅子に腰掛けて、何時もの仮面を付けたヴィリスは義足を隠すようにパニエでドレスを膨らまし、敢て『令嬢』を装っていた。目印の装飾品の仮面は自身のアクセサリーのように飾られている。演技は得意では無いけれど、と目立たぬようにと微笑むヴィリスの様子を眺めているのは『怪盗ぱんちゅ』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)。
「月の男爵、美しい人と呼ばれていた男が女装か……栄光を捨ててまでそうするには何かしら訳がありそうだな?
 だが、深く考えるのは目標を盗み出してからだ。久々に怪盗としての腕が鳴るぜ」
 盗み出すものが『ぱんつ』でなくとも。仮面を装着し内部スタッフになりすましたアルヴァは変装を行い、六神通を用いて内偵を行っていた。舞台裏へと向かう前に、全ての準備が整ったかを確認しなくてはならない。
 指先をぱちぱちと動かして『シュピーゲル』DexM001型 7810番機 SpiegelⅡ(p3p001649)――シュピーゲルは『霊子妖精』の霊体を呼び出した。内鍵をそっと開いて、仮面を着用して招待客を装った。無論、潜入用のチケットは胸元に隠してある。ミーミルンドの印が押された其れは些か使用するには難易度が高く感じられた。
 陽動と救出に分かれての布陣。エクスマリアは招待客の振りをしてステージをまじまじと眺めて居た。バッシュフルの競りはまだ先だろう。なるべく長引かせなくてはならないが――さて、順番的には『普通』の奴隷が先の筈だ。
 目的は『バッシュフル』――だが、それ以外にも興味深い存在は山ほど存在して居る。例えば、歪な空気を纏うモンスターを呼び寄せる可能性が示唆されている『綺晶のかけら』、そして、本日の目玉(メインディッシュ)ともされる巨人だ。
 ステージ上の商品を眺めて、ヴィリスは「綺麗だわ」と微笑んだ。宝石を好ましいと公言しておいた事もあり、車椅子の令嬢へとスタッフが直々に声を掛けてくれたのだ。曰く付きの宝石をより好む車椅子の令嬢、なんていうのは『何とも奇異』だろうと揶揄う意味があったのかも知れない。
「あの綺麗な石はなんなのかしら? 気になるわ」
 宝石好みの娘は綺晶のかけらを求めているのだと辺りに言い触れた。かけらが競りに掛けられたならば『うやむや』にして奪う予定だが、さて。
「マドモアゼル、それならばとっておきがございますよ。特別に先にご覧になりますか?」
「まあ、どのような?」
「綺晶のかけら――と、呼ばれているそうでございます」
 ヴィリスの指先がぴくり、と動く。義足はまだ隠したまま。ウィルドはそっとヴィリスの背後に立った。
「失礼? もう一つ、彼女と共に見たい商品があるのですが」
「……はあ」
 会場スタッフの男は不思議そうな顔をしてウィルドへと頷いた。堂々と仮面を付けて参加者の顔をした彼はそっと招待状を差し出す。
 同じモチーフの仮面を付けていることから、縁者であろうかと判断していたスタッフは「ああ、『ミーミルンド派』の方でしたか」と安堵したように笑みを浮かべた。
(……成程、話をスムーズに進めるならばミーミルンド派であると示せば良い、と。確かに彼の家も『奴隷販売』に一枚噛みましたからね)
 スタッフが商品を飾ってあるという裏手に近い場所へと案内する。ヴィリスの車椅子を押しながらウィルドは仲間達へと伝達した。
 目指すのは『綺晶のかけら』と『月色の巨人』だ。それらを競り落としたいと告げれば「お目が高い」と笑みを零す。
「『かけら』は次に競りに? ……どうしましょう。少しだけ順番を下げて頂いても? もっと他の商品を見てみたいの」
 お願いしますと懇願するヴィリスに「良いですよ」と『スタッフの振りをした』しにゃこは微笑んだ。スタッフ達も仮面を付けている、インスタントキャリアで自身を装った彼女の承諾に他のスタッフが「え?」と首を傾いだ。
「マドモアゼルのお願いならば、一つくらい聞いても良いでしょう。他の商品はまだあるのですから」
 ね、と微笑んだしにゃこにスタッフは「まあ」と視線を奥へとやった。
 巨大な檻がある。鍵を掛けられ、がしゃり、がしゃりと鎖が何度も音を立てている。
 月色の髪が地へと垂れ下がり、指先が檻へと絡みつき、今にも壊れそうな程に音を立てる。一瞬の後、しんと静まり返った檻にウィルドは「ほう」と興味をそそられたように声を漏らした。
「失礼、そちらの美しい巨人……眠っているようですが、危険ではないのですか?
 ええ、個人的には是非とも買い取りたくて。あとで暴れられても困るので、どうやって眠らせているのか、お教えいただけないでしょうか?」
「ああ。アレは特殊な魔法で眠らせたとか、何とか。何だったか……ほら、あれですよ。
 古代の遺跡が破られた際に出てきた術式だとかなんだとか――詳しい事は分かりませんけれどね、手に余るからと売り出されるそうですよ」
 買う人が居るんだろうかと小さく笑う声がする。
 その位置を伝えたウィルドに応えるように、そっと『彼の連れ』を装ったエクスマリアは「ミーミルンド男爵に似ている」と呟いた。
 ぴくり、とスタッフ達の指先が揺れる。
「これを買いたいのだが……」
「……そうですねえ、一先ず、巨人を売りに出しましょうか。皆さんも気になっているようですし」
 微笑んだスタッフが巨人の販売の手配をする。時間稼ぎが始まったことを感じてしにゃこはバッシュフルの確保に走った。

 ――ステージ上に『月色の巨人』が立っている。
 其れを確認しながらジェックはあれが、と顔を上げた。陽動役は皆ステージを見詰めている。
 中にはそれがミーミルンド男爵に似ていると言葉にする者も居た。口々に美しい、マルガレータ様のようだと告げる言葉が聞こえ始める。
(マルガレータ様に似てるんだね……)
 ジェックは確かめるように呟いた。どうしてそれがマルガレータに似ているのかは分からない。
 謳い文句は月の女神、『古廟スラン・ロウ』で囚われた巨人、だ。ジェックは周囲の人々が息を飲み怖れるように其れを見詰めていることに気付いた。
(まあ、恐ろしいのは当たり前。アタシだってそうだ、『どう制御されているかすら分からない眠っているモンスター』が出てくれば驚くだろう。けど――確保はしておきたい、かな)

 五感を際立たせて、用心しながらバッシュフルを探すルル家は周辺の人混みに、無数の息遣いを感じることに辟易していた。成程、人間の数は多い――だが、『仮面』を付けることで誰であるかの判別も付かなくしているのが幸いか。
(奥へは難なく入り込めそうですね。うんうん、バッシュフル殿をさっさと確保してしまいましょう)
 バッシュフルの市を確認しながら汰磨羈ははっと顔を上げる。奴隷を販売する準備をしろ、という指示が聞こえたのだ。
 奴隷に逃げられても捕まえやすそうな舞台裏は入り込んでいる。バッシュフルが競りに掛けられる前に、と走る汰磨羈と同じく死角に回り郷愁準備をするヴァレーリヤが小さく頷いた。
「奇しくも、小柄な面子が揃ったな。これは動き易そうだ」
 小さく笑った汰磨羈はスタッフの背後についてするするとついて行く。彼等は『月色の巨人』の次に販売する奴隷の準備を行うと言う。
 汰磨羈の黒猫はウィルドの傍にいる。彼等が巨人の販売で時間を稼いでくれているこの隙に標的の確保を行わねばならない。
 狙うは奴隷の檻の鍵を持っているスタッフだ。シュピーゲルがウィルドへと合図を送る。――今だ、と。
 アルヴァはと言えば、平常心でスタッフ達の中を隈無く歩き、月色の巨人の檻の前を通り過ぎる。まだ、眠っているようだ。
 その傍らには厳重に守られた綺晶のかけらが存在して居た。まじまじと其れを見遣る。スラン・ロウから出土されたと前情報で出回る其れは何らかのモンスターのかけらのようにも思えた。
(……壊す事は――今は、警備が硬すぎるか。それに、『今から』がチャンスだ)
 アルヴァがそう感じると同時、『作戦』が決行される。
 汰磨羈とヴァレーリヤの強襲に合わせてルル家は共に飛び込んだ。
 スカートの中に隠した銃を引き抜いて。参加者の中に紛れ込んでいたジェックは一度移動し、標的の前で気配を消して息を潜める。
 ばちん、と大きな音を立てジェックが撃ち抜いたのは照明だった。


 暗転する世界で、走り出したのはエクスマリア。警備員達の間を抜けて、バッシュブルの確保に走る、が――

「――――――!」

 突如として聞こえた声に耳を劈かれる。驚き振り返れば月色の巨人が目覚めている。謳う様な声音と共に、美しい其のかんばせは極上の笑みを浮かべていた。
「……な」
 月色の巨人がぐぐ、と脚に力を込めて立ち上がる。その動きにステージのバックヤードがざわめき始めることに気付いた。
 ヴァレーリヤはそっとバッシュフルの腕を掴む。こちら、と呼んだその声に少年は驚いたように瞬いた。
 汰磨羈は「立てるか」とバッシュフルに問い掛けた。
「え、え」
 アルヴァは「此方は滞りなく」と口角を上げて笑った。しにゃこもふふんと鼻を鳴らして笑っている。
「ミーミルンドさんの依頼で来ました! とりまついてきてください!」
 にんまりと微笑んだしにゃこに「立てないなら抱えてやろう」と汰磨羈がひょいと持ち上げる。
 綺石のかけらを手にしていたアルヴァとしにゃこはそれよりもステージが騒がしいのだと囁いた。
「どうしましょうね、ステージを通らずに?」
「いや、あの喧噪を活かそう。……巨人が再び眠ったなら、保護して運び出したい」
 試してみようかと呟くアルヴァにしにゃこは大きく頷いた。
 だが、それでも落ち着かない。ステージ上で暴れる月色の巨人に確保は難しいかとウィルドが肩を竦める。
 それでもまだ殺さずに居れば確保が可能かも知れないか。銃を構えたジェックが「どうする」と静かな声で問い掛けた。
「なるべく確保はしておきたいけど……無理はしない方が良い」
「そうですね。ああ、惜しい。もうすぐで競り落とせそうなものの――目覚めては生け捕りも難しい」
 ウィルドにジェックは小さく頷いた。彼女が立ち上がり暴れ出している。ハイペリオンの羽根を握りしめるアルヴァは『頭を狙え』ばいいかと感じるが――其れでも届かないか。
「男爵に瓜二つの巨人、か。かの月光人形や色宝絡みを思い出すが……それらとは違うルーツなのだろうか。何にせよ。ここまで似ている以上、男爵と無関係とは思えぬな」
「あれは、マルガレータ様、です」
「何だと……?」
 汰磨羈はまじまじとバッシュフルを見遣る。彼はそれを見てマルガレータだと言った。
 至近距離まで迫る巨人を退けねばならないか。ルル家は咄嗟に構えを変え、飛び込む。
「違うことを祈って聞きますが……貴方もしかしてマルガレータ殿ですか?」
 ――返答はない。それが『マルガレータ本人』ではないが、其れをもした存在であることは何となく予感された。
 以降、とエクスマリアが声を掛ける。巨人を畳み掛けるように一度『遠ざける』
 生け捕りを行うには時間が少なすぎる。そして、バッシュフルが居る事がある意味で足手纏いか。
「おっとー!? アルヴァさん、その石捨てません!?」
「巨人はこの石が好きらしい――まあ、モンスターを呼び寄せる石のような気はしていた、が!」
 アルヴァが投げればそれをジェックが撃ち破壊する。ぱらぱらと舞う輝く石のかけらに「ああー」としにゃこが叫んだ。
「綺麗すぎてしにゃこの美しさが引き立ってしまう!」
「あれ、ちょっぴり欲しかったのだけれど」
 くすくすと笑ったヴィリスは車椅子の上から立ち上がって巨人を退けるように足止めの術を駆使した。
「いくわよいくわよいくわよ!
 さあ、お寝坊さんはもう少し大人しくしていて頂戴な?」
 歌い踊るように。ヴィリスが蹴り飛ばす。その勢いで巨人の放った攻撃に巻き込まれぬ様にとしにゃこがバッシュフルを庇い、走り出した。
 出入り口の一つ、その場所へ向かえば立ち塞がる者が居る。シュピーゲルは威嚇攻撃を行わねばならないと眼前の追い縋る警備員――否、奴隷商人を睨め付けた。
 少女の身体を組み込むように機動兵器が展開されていく。少女の声が響く、アナウンスは淡々とその現状を伝えていた。

 装甲、展開 ―スクリプト、オーバーライド―
 戦闘機動構築開始 ―システムセットアップ―
 動作正常 ―ステータスグリーン―
 いくよSpiegel ――『Jawohl(了解)』

「――その姿は」
 何だ、と男が言う前にシュピーゲルはその眼前へと立ち塞がった。男達は破落戸と同等だ。自身らの命を守る方法も知っている――そして商品を奪われて指をくわえて居るだけではない存在だという事も確かだ。
 懐から取り出したコンバットナイフは素人よりも切っ先を定めることは出来ていた。だが、覚悟が違う。
 シュピーゲルは時間が惜しい。暗転した世界からやっと抜け出したのだ。此処で保護対象(ターゲット)を奪われるわけには行かない。
 安全装置を外すためにシュピーゲルの唇が動いた。入力コードはVOB――ヴァンガードオーバーブレイド。
『Warnung。Unbekannt Einheitの接続を確認。ナノユニットの異常放出発生。機体維持に深刻な障害。直ちに使用を停止シテクダサイ』
 撃鉄を上げろ。コアパーツから伝導する力は長期戦に適した自身の身体に不可をかけ続けた。
 それでもいいと、一気呵成に攻め立てる。身に纏う障壁は二重に、男の刃を退ける。

「――シュピが倒れる前に、シュピは貴方達を殺せます。退きなさい」
 風を切る音。そして、男が尻餅をつき、そろそろと見上げる。暗闇に浮かび上がる巨大な兵器。
「ひっ――」
 頭を抱えた商人達から逃げ出すように。ウィルドは巨人の確保を願ったが、巨人の暴れる勢いに会場が先に破壊されかねないと外へと出ることを願った。
(いや、違いますね。あれは『寧ろ此方の動きを見て放たれた』かのよう――ああ、……成程?)
 ウィルドはひとつ、合点がいったように小さく笑う。元から巨人を確保させるつもりはなかったか。
 この会場諸共、『イレギュラーズがバッシュフルを救う』という遊びに付き合わされただけなのだ。
「ミーミルンドめ!」
 やってくれたな、と男は笑った。暴れ回る巨人達から逃れながらも『商品』を奪われて堪るかと立ち塞がる商人達を前にヴァレーリヤが武器を構える。
「――3つ数えたらぶちかましますわよ。準備はよろしくて?」
 ヴァレーリヤはくるりと振り向いた。バッシュフルを抱えた汰磨羈が「構わないぞ」と微笑んだ。
「因果応報だ、ダメ商人。次は命が飛ぶぞ?」

 ―――――――
 ――――
 ――

「バッシュフル殿、お怪我は?」
 大丈夫ですか、と問い掛けたルル家にバッシュフルは胡乱に頷いた。どうやら彼は『巨人』の姿を見て驚愕したのだろう。
 まるで、マルガレータにそっくりである、と。落ち着かせるように背を撫でるルル家に「大丈夫です」と虚な瞳を彼は向ける。
「……幾つか、聴いても?」
「それより、今からどこへ……?」
 うろうろと彷徨う目線。彼の戸惑いを感じ取りながら汰磨羈は「ミーミルンド男爵邸だ」と静かな声で告げた。
「我々は『不当な扱いを受けている』と救出を依頼されただけだ。帰る先は男爵邸――だが、問題は無いな?」
「はい。……はい……! 帰れるのでしたらそれが一番です。マルガレータ様との約束を果たさなくては」
 バッシュフルは汰磨羈に有難うございますと何度も何度も頭を下げた。
 盲目的にマルガレータに焦がれた彼は不憫な身の上であったらしい。
 彼は両親に幼い頃に捨てられて奴隷として売買されてきた。ヴァレーリヤに言わせれば『良く在る、あってはならない光景』を目の当たりにしてきたのだという。だが、ある日、市場で鎖に繋がれている己を『購入』してくれたのがミーミルンド家だ。

 ――ねえ、お兄様。この子にしましょう。屹度賢い子になるわ。ね? バッシュフル。

 微笑んだ銀髪の娘が少年にとっては『かみさま』だった。聴けば、ミーミルンド家は奴隷として幼い子供を購入し『教育』し使用人に転換しているそうだ。彼等の中には教育を受けて新たな夢を抱きミーミルンド家を後見人として羽ばたいていくこともある。
 熱に浮かされた様に、自身の境遇がどれ程素晴らしかったのかを語るバッシュフルに汰磨羈は何とも言えない表情を浮かべた。
「それだけを聴けば慈善事業だよね。奴隷を購入して、育てて、それから世話をする。
 けど、どうして『バッシュフル』は売られたんだろう。……普通は成人するまで手元に置いておくべきじゃない?」
「それは……ベルナール様が変わってしまわれたから……」
 変わって、とジェックは彼の言葉を繰り返した。ヴィリスは「変わったって言うのは姿のことを指すのかしら?」と相見えたベルナールの姿を思い浮かべた。
 アルヴァとてそうだ。変わったと聞けば彼の風貌を思い浮かべる。月の男爵とまで謳われた青年がそれらしくはない化粧とアクセサリーに身を包み『妹』の姿を自身へ投影しているというのだ。どうにも、可笑しな話ではないか。
「ミーミルンド男爵家、と言えば幻想王国では『嘗ての栄光』の話を思い出しますね。
 王家の相談役であったと爵位を賜り、長く続いた王国の歴史でその栄光が薄れ、今や男爵にまで落魄れた……と。
 ベルナール・フォン・ミーミルンド男爵とマルガレータ・フォン・ミーミルンド令嬢はその末裔でしょう。それ故に、王家との婚姻話がでた、と」
 そう記憶していると告げるウィルドにバッシュフルは息を飲んだ。
「そう――そうなんです! 王家との婚姻がなければマルガレータ様は死ななかった! 僕らだって幸せに……」
「それは、どういう……? その、拙者が聴きたかったのはマルガレータ殿は本当に死んだのか。
 もしも、身罷られた事が確かなら、何故死んだのか。……此方にはその情報すらなく、ベルナール殿の事も謎だらけ」
 仕事を受けた身であれど、気になることが多いのだとルル家は困ったようにバッシュフルに言った。
 バッシュフルは恐る恐る口を開く。
 マルガレータは誓っていた。もしも、自分が死ぬ事があれば『皆には幸せな家族』を与えると。兄とそう約束したと。
 それでも、ベルナールは変わってしまった。マルガレータの面影を追うように、自身がマルガレータになる様に。
『マルガレータ・フォン・ミーミルンド』の生き写しのように鏡を見詰めて微笑んで、彼女との約束だけをなぞって自身らの家族を探している、と。
「ベルナール様は……マルガレータ様の死を悲しんでいらっしゃいました。だから、きっと……」

 ――屹度、ベルナール様はおかしくなってしまったんです。マルガレータ様をもういちど、って。


 ――ミーミルンド邸。

 イレギュラーズがその場に辿り着く前に、『奴隷オークション会場』で起こった襲撃の結果、『月色の巨人』が目覚めて暴れ始めたという報告を受けた。
 ベルナールは「ふうん」とその結果を掃いて捨てるかの様に書類を塵入れへと投げ入れる。
「それで?」
「はい。月色の巨人につきましては『処分』をしておきました。イレギュラーズは確保しようと尽力したようですが……」
「されても困るもの、ねえ? そうでしょう、フレイス・ネフィラ」
 ソファーに腰掛けて優雅なティータイムを楽しんでいる女へと、ベルナールはそう微笑んだ。
「いいや?」と女は首を傾げる。長い射干玉の髪を地へと自由に遊ばせた女はティーカップに乱雑に角砂糖を放り込んだ。
「困ることはあるまい。貴様等の勝手であろう、ミーミルンドよ」
「まあ、そうねえ。そうだわ。けれど――ねえ、どうして? 何一つも上手くいかないのよ。『足りない』?
 ねえ、人間の勝手だとそう言うけれど、教えて頂戴よ。『わたし』はどうすればいいの? ねえ! フレイス・ネフィラ!」
 声を荒げたベルナールに女が答えようと唇をゆっくりと動かした刹那――「ご主人様、ローレットの皆様がお帰りです」
 ノックの音と共に、秘書の娘の声が響いた。客人の帰還を聞き、ベルナールは「行くわ」とゆっくりと席を立つ。
「……ミーミルンドよ」
「話は、後にしましょう。……今はまだ『怪しいだけの男爵閣下』でいなくっちゃいけないのよ。
 私の個人的な目的なんて――あんな奴等に鼻で笑われてくだらないと罵られるだけなんですもの」
 声を潜めた男はゆっくりと扉を開く。戸の隙間より黒髪の女が覗いていることに気付いてエクスマリアはぱちりと瞬いた。
 直ぐさまに戸は閉められ、シュピーゲルは「帰還しました」と淡々とした報告を行う。
「おかえりなさい。どうだったかしら?」
「ええ、『家族』は無事に守りましたわ。彼に関してはどうなさるのかしら?」
 バッシュフルを連れたヴァレーリヤを見て、ベルナールは安堵したように破顔した。心の底から歓喜するかのようなそのかんばせにどこにも違和感がないことに汰磨羈は逆に違和を憶えた。
(――本当に喜んでいる? 本当に助けたかった、と……ならばどうして売りに出すのか。
 こんな国だ。手元に置いておく方が確かであろうに。それに、道中バッシュフルは巨人のことは知らなかったようだが……)
 汰磨羈の視線を受けてベルナールは「どうかなさった?」と肩を竦める。戸の向こうで女は笑うことだろう。随分な演技派だと。
「いや、来客中だったのか、と」
「ええ。まあ、彼女は当家にはよくいらっしゃるから。……気にしないで? お帰りなさい、バッシュフル。他の皆も一度帰還しているわ。
 よければ、皆と今後について話し合って頂戴ね。新しい家族はきちんと見つけるわ。マルガレータとの約束だったものね」
 微笑んだベルナールに奴隷の少年は有難うございますと頭を下げた。
「そう……そういえば、オークション会場に『男爵と似た巨人』が居たんだが、それについてなにか知っているか?」
「いいえ」
 アルヴァへと首を振る。即答にウィルドとしにゃこが首を捻った。少しも悩む素振りはない――むしろ知らないとはね除ける態度だ。
「女性でした。男爵とそっくりだというので……まるで『マルガレータ様』のようだな、と思ったのですが」
「あ、はい! そうですね。とってもお綺麗な『男爵の女性版』でした。まあ、しにゃの方が――」
 ちらり、とルル家としにゃこがベルナールの表情を盗み見る。無、だ。何の表情もそこにはない。
「そう」と小さな笑みを零した男爵は「今回は有難うね」とイレギュラーズ達の話を打ち切るように近寄ってくる。
 帰りを促すかのように前へと歩み出て、玄関ホールへと向かう脚は淀みない。
「最近は物騒ですから気をつけて下さいね」
 ぴたり、と足を止めたベルナールが「ええ、そうねえ」と微笑んだ。
 ――スラン・ロウの話は『秘匿事項』であったはずだ。周囲の貴族に漏れ出でてはいるが……さて、彼はもう知っているだろうか。
 ルル家はわざとらしく「困ったものですよね」と肩を竦める。様子を見るには、今だ。
「スラン・ロウに入り、レガリアを盗み出したものは事実はどうあれ、王族の血を引いていると主張出来ます。
 レガリアも確保しているとなれば……実際に王位に就くのは難しくとも政局的な騒乱を起こすのには、何ら不足はないでしょうから!」
「……ええ、そうね。そうだわ。王位なんて欲しているのかは分からないけれど。
 少なくとも『王国を揺らがす』事になるのは確かね。それが古い歴史を紐解いて災いを起さなければ良いのですけれど」
 星が散るようなアイシャドウに覆われた瞼がゆっくりと降ろされる。
 花瞼の白ささえ、化粧に隠されて。それは素顔を隠す仮面のようだとジェックは感じていた。
「……災い、ね」
 アルヴァは伺うように彼を見遣った。
『王家の相談役』『叡智の象徴』――そう謳われたかの家門の当主は何を考え居てるのだろうか。
「……ねぇ、あなたって本当は何がしたいの?」
 ヴィリスのその言葉にベルナールは「ただの『慈善事業家』に聞く言葉かしら?」と揶揄うように笑った。
 しにゃこは、うそつき、とは言わなかった。
 背を向けて歩いて行くベルナールを追いかけるバッシュフルは有難うと手を振っている。
 彼はこれから『また別の家族』を探すことになるのだと、秘書を名乗った娘は静かな声で言った。
 どうしても、『マルガレータの七人の遊び相手』はミーミルンドを出る定めであるらしい。
(――どうして『マルガレータの遊び相手だけ』なんて……聴いても答えないんでしょうけれどね)
 ヴィリスはバッシュフルに小さな礼を返しただけだった。
 ゆっくりと振り返る。美しい男の顔はこれ以上にない笑みを浮かべ、イレギュラーズを讃えるように。何かを、楽しむように。

「この度はどうも、感謝を。それじゃあ『また』逢いましょうね。とってもステキな何でも屋さん?」

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
巨人の確保に尽力したことで、色々と知ることができたのではないでしょうか。
様々な事に気を遣った素敵なプレイングを頂けた、と思っております。此れより先の一連の騒動で、勝利を掴めますように!

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