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シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>銀麗なるやここにあり

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「……よし、問題はなさそうですね」
 姿見の前、キュッとリボンを纏め、くるりと緩やかに回ってリュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)は小さくうなずいた。
 いつも通りの仕事着に着替えて、時計をみやって時間が十分あることを確かめてから、歩き出す。
 そのまま食事を終わらせて、いざやと町へと繰り出した。
 ここは、リュティスがイレギュラーズとして手に入れることになった領地――いや、経緯はともかく、リュティス自身にとっては違う。
 ここはご主人様の領地。誰が何と言おうと、リュティスの主たる彼の領地なのだ。
(だからこそ……御主人様の領地を荒らすような真似は許せません)
 リュティスの瞳はまっすぐだった。
 近頃はイレギュラーズの領地が魔物に襲われたり、暗殺者がイレギュラーズにけしかけられたりしているのだという。
 その毒牙が、この領地に迫ることは許せなかった。
 ここは主の領地なのだから。
 それに加えて始まった『勇者選挙』――イレギュラーズを対象として、『ブレイブメダリオン』の獲得数が関係する話は、よく聞く話だ。
 リュティスが訪れたのは金融ギルドだった。
 耳をすませれば、ここに来ている商人たちの噂話が聞こえてくる。
『聞いたか? 最近、鉱山の方で魔物の情報が出てきたらしい』
『聞いた聞いた。でも、そいつらぐらいなら、兵士が何とかできるだろ』
『まぁ、そうだろうけどさ――』
 こそこそと話されている言葉に、気になる物を見つけて、ちらりとそちらの方を向く。
「ベルンシュタイン様、こちらへどうぞ……ベルンシュタイン様?」
「え、あ、はい。すいません、少し気になることがあり、聞いていませんでした」
 声を掛けられて振り返れば、そこにはここを取り仕切っているギルド長が不思議そうにこちらを見ていた。
「ははぁ、そうでしたか……。それでは、改めまして、こちらへ」
「はい……」
「しかしまぁ、近頃は物騒なもので」
 歩き始めて直ぐ、ギルド長が声をかけてくる。
 揉み手をしながら、冷や汗を垂らし、こちらを窺うような言葉運びだった。
 ここに来るほとんどの商人は、リュティスが(リュティスから見れば名目上の)領主であることを知らないだろう。
 だが、このギルド長は、立場上、リュティスの立ち位置を知っている。
 それゆえなのだろう。こちらから見ても緊張しているのが分かる。
「そうですね。イレギュラーズの領地が狙われているのだとか」
「え、ええ。実は本日、ベルンシュタイン様にご足労頂いたのは、その件でございまして」
「どういうことですか?」
 そのまま歩き進め、ギルド長の部屋に通されたリュティスは、椅子へと腰を掛けた。
「もしかすると、執政官さまからもお話が合ったかもしれませんが……
 近頃、付近の鉱山で魔物が出没しはじめまして。
 イレギュラーズの方の領地が狙われている以上、ここも狙われるかもしれません。
 執政官様と相談いたしまして、ここはどうか、ベルンシュタイン様にお力添えを、と」
 冷や汗をだらだら掻きながら、ぽふぽふハンカチで叩く典型的な小心者といった雰囲気をみせて、こちらを窺っている・
「それは問題ありません。こちらもすぐに対処します」
「はは、それはありがとうございます。それからですね……」
 そういうや、ギルド長は直ぐに話を続けていく。

――――――
――――
――



 トントン、と扉をたたく音がして、ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)はペンを置いて顔を上げた。
「入ってくれ」
「失礼します……」
 扉を開いて、ぺこりとリュティスが顔を出す。
「ベルンシュタイン、どうかしたのか?」
「御主人様。ご領地にて、魔物の出現が確認されました。
 ご協力をお願いします」
「俺の領地はドゥネーヴと豊穣だが……いや、そういうことか」
 ハッとして、マナガルムは静かに頷いた。
「分かった。直ぐに向かおう。他には……」
「勝手ながらローレットには既に支援を要請しております」
「そうか、じゃあすぐに行こう。用意するから先に行っててくれ」
「承知いたしました」
 それだけ言って、リュティスは恭しく礼をしてから部屋の外へと消えていった。
 マナガルムは一息、呼吸を入れてから立ち上がり、外套を羽織って歩きだした。


 リュティスとマナガルム、それにイレギュラーズ6人は直ぐに鉱山へと訪れていた。
「そちらの方がマナガルム卿でございますね。よろしくお願いします。
 それでは、早速ですが、最近、姿を見せるようになった魔物達についてのお話をさせていただきます。
 こちらが現在、領地の兵士達が調査に入って姿を確認した個体の一覧です」
 そう言って握手を交わした執政官が、そのままスタスタと歩き出して、幾つものテントが広がる野戦陣地を突っ切っていく。
「彼らは鉱山付近に姿を見せるようになり、調査を進めた所、坑道の一つを拠点としているようです。
 恐らくですが、彼らには強力な力を有するリーダーがいると思われます」
「狼のような個体ばかりだ。彼らの数は?」
「分かりません。ですが、10はくだらないでしょう。
 中には美しい銀色の毛並みと紅い瞳をした巨大な狼を見たという兵士もおります。
 もしかすると、それがリーダーかもしれません」
「私達だけでそれを相手にするのですか?」
「いえ。現在、兵士の中から精兵を選りすぐっております。
 彼らを加えて、18人体制となるでしょう。さ、こちらへどうぞ」
 ひときわ大きなテントに案内され、そこには先程渡された資料以上の複数の資料が用意されていた。
「ありがとう」
 執政官に礼を言ってからマナガルムは中央の円卓に立ち、視線をリュティスに向けた。
「……それじゃあ、討伐の準備を始めようか」
 視線を前へ。他の6人を見渡して、告げた。

GMコメント

 さて、そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 1週間ぐらいオープニングの公開ペースが開いてしまいましたが、ヴァーリです。

 それでは、さっそく詳細をば。

●オーダー
【1】『銀雷を払う大狼』フロレンツィアの討伐
【2】銀狼の討伐

【1】は絶対条件【2】は努力条件とします。

●フィールド
 リュティス・ベルンシュタインさんの管理する領地に存在する鉱山。
 拠点は坑道の奥の方ですが、戦場は基本的に坑道の外、森と隣接する出入口部分になります。
 視界は抜群、遮蔽物となる物は60mほど後方の森林部ぐらいです。
 敵には退路に坑道がありますが、こちらは途中で作業が停止されたらしく、行き止まりです。

●エネミーデータ
・『銀雷を払う大狼』フロレンツィア
 怪王種。高い知性と魔力を有し、言語も解する神秘的な大狼です。
 落ち着いた性格ですが、どこか思考が歪んでいる様子。
 HP、神攻、命中、抵抗、反応が高く、それ以外は並みからやや低めです。

<スキル>
シルバーチェイン(A):迸る銀色の稲妻で周囲を焼き払います。
神自範 威力中 【ショック】【感電】【麻痺】

サンダーファング(A):対象に至近し、帯電した牙で食いついて炎症を引き起こします。
神遠単 威力大 【万能】【移】【ショック】【業炎】

クラウンアイズ(A):その眼光は他者を圧する王の威風。
神中範 威力無 【兵士特効※】【乱れ】【崩れ】【泥沼】【狂気】

※【兵士特効】
 この個体に存在する特殊なBSです。
 強い意志を持つ皆さんはともかく、
 友軍兵士には追加で【疫病】【苦鳴】【呪殺】が付与されます。

 ただし、リプレイ当初は【兵士特効】は露見していないものとし、
 BS無効が無い場合、兵士への最初の一撃では必ず付与されてしまいます。

・銀狼×10
 銀色の毛並みと黒色の瞳の狼です。
 物攻、反応、回避が高めですが、それ以外は平均的かやや低めです。

<スキル>
突進(A):対象に向け突進します。
物遠単 威力中 【移】【飛】【崩れ】【乱れ】

喰らい貫き(A):対象を噛み付き、その肉体を引き裂きます。
物至単 威力中 【弱点】【致命】【恍惚】

●友軍データ
・マナガルム領兵×10
 リュティスさんの領内の兵士達の中から選りすぐりに選りすぐった精鋭です。
 信頼のおける能力を有していますが、【兵士特効】には注意が必要です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

  • <ヴァーリの裁決>銀麗なるやここにあり完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月05日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
リック・ウィッド(p3p007033)
ウォーシャーク
秋月 誠吾(p3p007127)
虹を心にかけて
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
ヲルト・アドバライト(p3p008506)
パーフェクト・オーダー

リプレイ


 木々の音が春の風に攫われて音を立てている。
 イレギュラーズ達は坑道の一つの入り口にたどり着いていた。
 何もウチの大将んトコに縄張る事も無かろうによぉ」
 槍を肩に置くようにして担ぎ、『八百屋の息子』コラバポス 夏子(p3p000808)はやれやれという雰囲気を見せる。
 そのままくるりと構えなおすと。
「まぁ、でも。ベネディクト=レベンディス=マナガルム、黒狼隊隊長が敵首魁を討つまでの露払い。
 ……ってなモンで」
「頼りにさせて貰うぞ、皆」
 構え方こそ異なるものの、同じく槍を握る『曇銀月を継ぐ者』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)の言葉に7人が頷きあう。
 そんなマナガルムの視線の先には青年が一人。
 戦い慣れしていない彼のことは気にかかりはするものの、他の面々含めてここにいるイレギュラーズなら問題ないだろう、と思い直す。
「親愛なる先輩の預かる領地にてトラブル発生……か」
 視線の先に立っていた『Mors certa』秋月 誠吾(p3p007127)もまた、着慣れない装備と武器の調子を確かめながら、独り言ち。
(戦うのは好きになれそうにないが、世話になっているマナガルム卿や先輩達の為なら、
 頑張ろうと最近やっと思えるようになった……)
 それがイコール、人を傷つけ殺める事までは、まだ割り切れていない。
 ひとまずはこれからだ。
 ここからだ。
 向けられている視線に心配のようなものを感じつつも、握る軍刀を軽く振るってみる。
 少しばかり視線を誠吾に向けていた『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)も武器の準備を整えおえた。
「領民達に被害が出る前に発見できたことは喜ぶべきことなのでしょうね」
 とはいえ、これまで被害が出なかったことは、今後も出ないという事にはなりえない。
(であれば仕留め損なう訳にはいきません)
 リュティスの赤い瞳が洞穴を睨む。
「ベネディクトさん……いや、ここではマナガルム卿と呼んだほうがいいかな?」
 マルク・シリング(p3p001309)は杖を握り締めた。
 リュティスが管理し、マナガルムの領地であると標榜するこの土地ならば、マナガルムへも領主としての呼び方をするべきかと。
(領地の脅威を打ち払い、マナガルム卿がこの地を治めるに相応しい人だと示そう。
 ……それが僕達『黒狼隊』の役目だ)
「ここのところ、本当に魔物の襲撃が多いね……何かの前触れ……なのかな」
 戦場にて『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が思うのはそのことだ。
 イレギュラーズの領地への魔物の侵攻、或いは出現。
 これはこのほど多く確認されている事項だ。
(気になるけど……それを考える前にまずは目の前の敵をキッチリ討伐しないと!)
 魔道具を起動させつつ、アレクシアは前を見る。
「敵も味方も多い戦場、おれっちの支援がさえわたるぜー!」
 ニシシと笑う『ウォーシャーク』リック・ウィッド(p3p007033)は気合十分といった様子だった。
「狼退治か。まるで子供の頃に読んだ御伽噺だな。
 御伽噺と違うところは、血湧き肉躍るってところか」
 同じく気合十分といった言葉を紡ぐは『被吸血鬼』ヲルト・アドバライト(p3p008506)だ。
「よし、やるか」
 屈伸して準備も万端、ヲルトは視線を上げた。
『――何者ですか』
 そんな声がしたのは、その時だった。
 美しく、凛とした知性を感じさせる声。
 どことなく女性的な声。
 坑道の奥から聞こえた声の主は、直ぐに姿を見せた。
 美しき銀色の毛並みが、真紅の瞳が覗く。
「そちらがこの地で確認された怪王種か。領民達に被害が出る前に、討伐させて貰う」
 その巨大な美しき銀狼を見た瞬間、マナガルムはそう言って槍を構える。
『……討伐――私を、ですか?
 太陽の子らよ、よろしいでしょう。やってごらんなさい……ですが。
 まず、図が高いのではありませんか』
 大きな銀狼の瞳が、辺りを睨む。悪意があるわけではない。
 いや、そもそも睨む意図があったかさえ分からない。
 芯まで重く響く重圧が、眼を合わせた者の動きを抑えつける。
『……不遜な子ですね』
 それでもなお立つイレギュラーズを見て、どことなく胡乱な声色で呟き、狼が遠吠えを上げる。
 それに反応を示すかのように、坑道の奥と茂みの向こう側から銀色の狼が姿を見せた。
『我が名はフロレンツィア――忌々しき太陽の子らよ。
 屍を置いて去りなさい』
 雷鳴が大狼――フロレンツィアの全身から迸る。
「俺もまた狼の名を受けた隊を率いる身。
 例え強力な怪王種として生まれた相手だろうと、臆しはしない!
 黒狼が主、ベネディクト=レベンディス=マナガルム。貴様の相手はこの俺だ!」
 槍を構え、相手の動きを睨み据える。
『名知らぬ太陽の子よ、その身一つで何ができる!!』
 身を低くして、威嚇するようにフロレンツィアが吼える。
 注意深く相手の動きに呼応しようとするマナガルムに対して、フロレンツィアも同様だった。


 数匹の狼が各々の近くにいる者の下へ走り出す。
 何人かは体勢を崩して後退し、何人かがその牙で襲い掛かられる。
 イレギュラーズ側で最速の動きを為したのはヲルトだった。
 動きの鈍かった1匹の前に接近するや、右腕に仕込むカテーテルより放たれた血液が狼へと付着する。
 血飛沫が幾つもその毛並みを濡らし、瞳に触れた血が脳髄へと侵食する。
 ふさがらぬ傷口から滴る血液が包帯を滲ませながら、間合いを整える。
 銀浪の視線はヲルトを逃さない。
 獣の本能が血の匂いに引っ張られているかのように。
 純白の花が開く。
 幾重にも重なる花弁はその一つ一つが魔力への障壁たる守護の花。
 クロランサスが淡い輝きを放って星花を描く。
 夏子の近くで障壁を描いたアレクシアは、その視線を周囲に巡らせた。
 近くにいる兵士達はプレッシャーに呑まれたような動きの鈍さを見せている。
「みんな、怖がらなくて大丈夫! 私達がついているから! 絶対にみんなを死なせやしないから!」
 恐怖――とは少し違うように見えた。
 けれど、自分達がついていると言い聞かせれば、本の少しでも奮い立たせることができるかもしれない。
 ただその言葉のみでは難しくとも、その言葉の有無で気持ちは変わる。
「気ぃ緩めんな~? 自分達の国だ。自分達で護っちゃおうぜ」
 同じように兵士の動きに不自然さを覚えた夏子は幾分か緩い言葉で、けれど確かに告げる。
 寧ろ、緊張感を覚えすぎているようでさえある。
「今日も何事もなかった。何時も通り平穏な日が訪れた。……ってな?」
 槍を地面へ叩きつけ、狼の注意を引きつけつつ、夏子ははったりでもかますように声を上げた。
 3匹ほどの狼が音に引きつけられたように夏子の方を振り向いた。
 軍刀を握り締め、誠吾は走る。
 狙うのは夏子が注意を引くことのできなかった銀狼。
 威嚇するように身を低くし唸るその個体へ、軍刀を振り抜いた。
 銀狼の瞳には恐怖も畏怖もない。
 どこまでも遠く、ひたすらに生き抜くために前を見ている獣の眼。
 ――人を殺した。
 武器を握らなくてもいい世界で生きてきた。
 常識は揺らぎ、人を殺しても、やはり命を殺めることに慣れはしない。
 それでも、戦うと決めたのだ。
 だから、後は、泣き言を言わずやるべきことをやるだけだ。
 獣の突撃を盾で防ぎながら、誠吾はもう一度、軍刀を振るう。
 リュティスは握りしめた宵闇を構えた。
 黒弓は漆黒の魔力を靡かせ、やがて漆黒の矢を形作る。
 矢を引きながら、兵士に襲い掛かる2匹の銀狼を見据え手を放した。
 放たれた漆黒の矢は放物線を描きて空を超え、炸裂する。
 帳を降ろすかのような漆黒の輝きが2匹の狼を包み込み、撃ち抜いていく。
 位置取りを工夫するリックは握りしめた指揮杖の宿す魔性の力を振り絞る。
 そこにいるだけでも仲間や兵士達への補助を熟せるように。
 辺りを見渡せば、銀狼の突撃で体勢を崩した兵士達が見えた。
「落ち着け! 大丈夫だぜ。おれっちの指揮杖を見てな!」
 大胆にふるう指揮杖より描き出された魔性の音楽は、人々を癒す波涛の音色。
 深呼吸をした兵士達が体勢を立て直していく。
 雷霆と銀が戦場を疾走する。
 稲光を放つ牙がリックの身体に傷を刻む。
 マナガルムはフロレンツィアの眼前へ割り込んだ。
「貴様の相手はこの俺だと言った筈だ、フロレンツィアよ──!」
『良いでしょう、そこまでして私と戦いたいというのなら、貴方から殺して差し上げます!』
 フロレンツィアが吼える。
 名乗り向上に応じた銀狼の王は、空へと猛るように咆哮を上げた。
「フロレンツィアよ、何故いまになって現れた?
 知っていることがあれば教えてくれ」
『その青い瞳で私を見るな、太陽の子よ――腹立たしい』
 答えは答えになっていなかった。
 分かっていないのか別の理由か、其れも分からない。
 マルクは戦闘開始の際に兵士達が動きを鈍くした理由を分析しつつあった。
 リックの魔性さえ帯びた態勢補助を受けた兵士達は迷いのような物を振り払っていた。
(つまり、僕達には効かないけど、猟兵には通用する何らかの状態異常……)
「領兵の皆さんはフロレンツィアから離れて! 彼女の力には対応できる!」
 指示を飛ばしながら、その一方で魔力を整える。
 収束した魔力が陣を描き、2匹の銀狼をまとめて閃光の内側に呑み込んだ。


 イレギュラーズの戦いは、有利に進んでいた。
 フロレンツィア自身がマナガルムの元を離れて他の兵士やイレギュラーズへ牙を突き立てることもあったが、銀狼の過半を夏子が抑え込んだ辺りで形勢は決まったといって良い。
「我らが領民。守ってきたのは貴君等の様な勇者の活躍あればこそだ!」
 夏子が檄を飛ばす。
 それに応じるように、弓兵が雄叫びを上げ、遠く注意を引けていない最後の一匹に矢を放つ。
 続けた仲間達の攻撃でそいつが倒れていくのを見ながら、くるりと槍を持ちなおす。
「我々の親分、強ぇんだ。どっしり構えな」
 集まってくる銀狼を横薙ぎに払い、瞬く光と音に動揺を齎せば、領兵が銀狼へ攻撃を加えていく。
「後はフロレンツィアだ! 範囲攻撃に当たらないように散りながら行くんだぜ!」
 リックは仲間達へそう忠告を飛ばしながら、不滅の指揮杖を振るう。
 波涛の音色が響き渡り、大気中の魔力をさざめかせ、気力を活性化させていく。
「露払いは終わった。あとは、敵将の撃破だ」
 呼吸を整えながら、魔力を練り上げる。
 収束する魔力が揺らめき、可視化していく。
「回避も防御技術も高いわけでもないのなら、この魔術の威力を十二分に発揮できる!」
 大気中の魔力を吸いつくすかのような魔力量を帯びて、弾丸は爆ぜる。
 駆け抜けた魔法の弾丸は、大狼の前足と首の間へと痛撃となって叩き込まれた。
「オレ達が来るまで持たせるんだもんなぁ。これが領主たる姿か、憧れるねぇ。
 ここからは総力戦だ。せいぜいこき使ってくれよ」
 マナガルムの前へと躍り出たヲルトはフロレンツィアを見上げた。
「あっちの狼とそう変わんねぇな。こいよ、全部避けきってやる」
 挑発にフロレンツィアが唸り声をあげる。
 アレクシアは深呼吸をしながら魔力を籠め上げていく。
 クロランサスの淡い輝きが調和を整え、魔力を反映して花の輝きを増していく。
「私がいる限り、絶対に誰も倒させるもんか!」
 特に、今回は回復の殆どはアレクシアが担っている。
 継戦力の要は言うまでもなく自分なのだ。
 概念強化を施した白黄の花が連続攻撃を受ける夏子の身体に刻まれた複数の傷を癒していく。
『青い瞳の太陽の子よ、何故そうまでして私達の前に立つのです?
 そうまで傷を抱いて、何故立つのです』
「この土地に住まう民達に悪意が及ぶなら、俺達は守る為に戦う。それだけだ」
『なんともまぁ……不遜な。いつの時代にしろ、貴方達はそうなのですね。おろかなことです』
 フロレンツィアから雷霆が迸りだす。
 それに合わせるようにマナガルムは踏み込んだ。
 技量など捨て、穂先に込めるは己が精神性。
 自らに降りかかる困難と試練を乗り越えんと誓う制約の一閃。
 強かに打ち据えられた打撃がフロレンツィアの身体に血を滲ませる。
『貴方達はいつもいつもそうだ――苛立たしい!』
 知性が溶け、怒りに満ちた紅の瞳がイレギュラーズを見渡している。
「フロレンツィア、どうしてここに来たのですか?」
 黒弓を片手に、リュティスは間合いを開けながらフロレンツィアに問いかける。
『理由などあるものでしょうか!
 恨むなら互いにここを得たことを恨むべきでしょう!』
 猛るフロレンツィアとリュティスの視線が交わり、微かな動揺を見た。
 怪訝に思うリュティスを前に、フロレンツィアが何かを振り払うように唸り声を発した。
 それを目にしつつ、リュティスは矢を放つ。
 放たれた矢が真っすぐにフロレンツィアへ走り抜け、やがて蝶の形を作りだす。
 それは黒き蝶。死を呼ぶ不吉なる蝶。
 瞬きに合わせるように舞う蝶に震えるようにフロレンツィアが叫ぶ。
 その様子を見据えながら、既にリュティスは二の矢を引き絞っていた。
 続けるように打ち出された矢は真っすぐに走り抜け、同じように蝶の姿を形どる。
 ふわりふわりと舞い踊る蝶はその実、フロレンツィアの弱点を暴き立て、そこへと潜り込む。
 傷口が開き、大狼が悲痛に鳴く。
(いつか心配されることなく並び立ちたいが……だいぶ先になりそうだ)
 仲間たちの戦いぶりを見ながら、誠吾は思う。
 仕方ないことだ。きっと頼りないと思われても仕方ない。
 そんなことを、真っ向から口に出されることはないだろうとしても。
 いつか、経験が心得の有無を埋めてくれるのだろうとしても、背中は前にあるのだろう。
 握りしめた軍刀を構え、走る。
 至近距離まで立ち向かい、振り抜いた剣は真っすぐにフロレンツィアの身体へと吸い込まれていく。
 フロレンツィアの紅の瞳が、静かに誠吾を射抜いている。


 咆哮が響き渡り、雷霆が迸る。
 大狼はその体格に違わぬタフネスさを有していた。
 それでも圧倒的手数の差がイレギュラーズ側の有利を生み、健在のアレクシアによる支援は万全のもの。
 鮮やかに多種多様な花弁が舞い踊り、仲間達のみを蝕む異常を打ち払う。
『……はぁ……はぁ。おのれ。まだ、まだ倒れるわけにはいきませ――ごっふっ』
 瞳に怒りを滲ませる大狼が口に雷霆を収束させ――口から大量の血を吹き零す。
 ヲルトは自らの血を掻き立て、心臓が大きく鳴るのを感じながら、一気に前へ。
「マナガルム領に勝利を添えてやる」
 動きは機敏になっていく。
 相手が流した血は多く。同じように自身も流した血は多い。
 そして――流れた血の量が産む差は、対照的だ。
 独特な足運びがフロレンツィアの体を蝕む。
「いやホント、貴君等には助けられてるよ。感謝ね~」
 兵士達を鼓舞しながら、夏子は軽い調子を崩さず笑っていた。
 視界の端、眼前に、銀狼が駆け抜けてくる。
 剥かれた牙に合わせるようにグロリアスを振るえば、穂先が突っ込んできた口に入りその身をくり抜いた。
 マルクは再びあらん限りの魔力を籠め上げていく。
 その身に纏う法衣に編み込まれた護符が強烈な反応を示しながら、魔力を補填する。
 射出された魔光閃熱波が空気を割りながらフロレンツィアの身を削り落としていく。
 リックは指揮杖を握り締めると、揺蕩う波のように振るう。
 攪拌され、収束した魔力はやがて指揮杖へと収束していく。
 振り抜かれた瞬間、魔力は刃と化し、不可視のままフロレンツィアへ走り抜け、その右目に裂傷を刻み付けた。
 崩れ落ちたフロレンツィアが膝を屈しながらも起き上がる。
 そこ目掛け、二匹黒き蝶が舞い踊る。
 葬送を意識させるかのような蝶達に魅入られて、フロレンツィアが隙を作る。
 その瞬間、マナガルムは走り抜けた。
 閃く誓約の一撃がフロレンツィアの首筋を抉り、よろめかせ――大地へ落としていった。。
 崩れ落ちた大狼の瞳から怒りが消え、光が失われていく。


 倒れ伏したフロレンツィアを、銀狼を、誠吾は静かに見下ろしていた。
「すまないな……」
 漏らした言葉は、誰にも聞かれることなく消えていく。
 マナガルムは領兵達に声をかけていた。
「厳しい闘いだったと思うが良く戦ってくれた、感謝する」
 兵士達の反応は様々だった。
「それではご主人様、私はあの坑道の奥に何かないか、調査してみます」
「あぁ」
 恭しく礼をして兵士達と共に行こうとするリュティスに、マナガルムは声をかけた。
「問題なく領地を運営しているようだな。
 引き続き、君の思う通りに――いつも助かっているよ、有難う」
「これが私の仕事ですから……」
 振り返ったリュティスに声を掛ければ、少女はそう返して歩いていく。
 良く注視しなければ分からぬ程度に、その歩幅は軽かった。

成否

成功

MVP

秋月 誠吾(p3p007127)
虹を心にかけて

状態異常

ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)[重傷]
戦輝刃

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。

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