シナリオ詳細
<ヴァーリの裁決>『破滅』もたらす漆黒の巨人
オープニング
●『破滅』の巨人
ズシン、ズシン。体長二十メートルにならんとする全身が真っ黒な巨人が、何もない荒野を歩く。
否、荒野には元から何もなかったのではない。そこは、巨人によって荒野と化したのだ。
見よ! 巨人が歩みを進める度に、周囲の草木は瞬く間に枯れ果て、粉々に砕け散るではないか!
さらに、運悪く巨人の近くを通りかかった動物や鳥は苦しむ間もなく死んでいき、やはり草木と同様に砕け散った。
そこに何があろうとも、進んだ先で何が起きようとも、巨人は何らの反応も示すことはない。
村や街でさえも、巨人の足を止めることはない。正確に言えば、巨人の進行方向に村や街があっただけだったと言うべきか。
その進行を止めるべく巨人に挑みかかった勇敢な者達もいたが、動物や鳥達よりもほんのわずかに生き存えただけで、何の成果も残すことなく死んでいった。
巨人の進行速度は早くないこともあって、逃げ出すことを選んだ村や街の住民達の命だけは助かったが、その帰るべき所は塵芥に帰した。建物や設備などの無機質でさえも、命ある者と変わらず程なくして朽ち、粉々に砕けたのだ。
巨人は一方向を見つめ、急ぐでもなく、休むでもなく、ただひたすらに歩みを進めていく。
その行く先には、R.R.(p3p000021)が領地とし、復興を手がけている廃村があった――。
●聞こゆるは『破滅』の足音
「うっ、破滅の……これは、足音、だと……!?」
破滅を滅することを己が使命とするR.R.(p3p000021)は、破滅の予兆を『聴く』事が出来る。破滅の予兆たる音は、その時期が近いほど大きな音として、その規模が大きいほど複雑な音として『聴く』ことが出来るのだが、R.R.の聞いたその音はかなり大きく、しかもはっきりとした足音として脳内に響いていた。
しかも、その音はR.R.の領地から聞こえている。つまり、そう遠くないうちに巨大な破滅が領地を襲うと言うことだ。
もちろん、そのようなことを許すR.R.ではない。だが、頭の中で鳴り響く音は、領地に向かっている破滅がR.R.一人だけの手に負えるものではないことを示していた。ならば、頼れる助力を得なければならない。幸い、R.R.にはその心当たりは十二分にある。
「すまない、俺の領地に破滅が迫っている。この破滅を破滅させるため、力を貸して欲しい」
ローレットに駆け込んだR.R.は、その場にいるイレギュラーズ達に向け、訴えるのだった。
- <ヴァーリの裁決>『破滅』もたらす漆黒の巨人Lv:20以上完了
- GM名緑城雄山
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年04月04日 22時15分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●『破滅』の巨人を止めるべく
「……まずは、皆が俺の領地の危機に駆け付けてくれたこと、有り難く思う。
見てのとおり、あばら家の並びに毛が生えた程度の場所だが……それでもこの世界における、俺の帰り着く所には違いない。
それに今では人がいて、営みが回っている……滅ぼされるわけにはいかない」
これから『破滅』の巨人を討ちに行くべく領地を出ようというところで、『破滅を滅ぼす者』R.R.(p3p000021)は救援に来てくれた仲間達に深々と頭を下げた。
R.R.の言うとおり、周囲には打ち捨てられたあばら家を修繕したような建物しか並んでいない。だが、R.R.にとってここは精魂込めて復興させようとしている場所であり、帰るべき場所なのだ。
住人達は、家の中から、あるいは家の外に出て不安そうにR.R.達の様子を眺めている。中には、「領主様、頑張って下せえ」と手を振って応援するものもいた。R.R.達が敗れれば、彼らはここを捨てて逃れなければならない。それは即ち、彼らの営みが『破滅』の憂き目に遭うと言うことでもあった。
当然、それをR.R.が許せるはずがない。
「……二十メートルもの巨体、歩みを止めさせるのは簡単な事じゃなさそうだね。
でも、ここには村が……人々の生活がある。逃げて命が助かっても、その先の生活が続かなければ……辛い道になる。
だから、あの破滅は必ず止める……この仲間と一緒なら、それも出来るはず!」
周囲をぐるりと見回した『雷刃白狐』微睡 雷華(p3p009303)は、R.R.に応えるように深く頷いた。命だけではなく、その生活も守らなければ、村人達を守ったとは言えない。だが、雷華には仲間とならば『破滅』の巨人を止められると言う確信があった。
「それにしても、『破滅』とはまた、大層な敵が現れたものだね。
出来ることなら捕獲して調査をしてみたいところだが、伝え聞いた様子では鎖で縛ることすら出来なそうだ。
仕方ない、かの巨人の調査は後で文献をあたるとしよう」
『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)はふう、と大きく息を吐きながら、『破滅』の巨人の事を考えた。混沌世界の探求を求めるゼフィラからすれば、『破滅』の巨人は興味深い調査対象である。だが、その思索は後回しにせざるを得なかった。
R.R.の領地を、そして幻想を荒らされるのは、ゼフィラの望むところではない。故に、『破滅』の巨人を全力で止めるつもりでいた。
(私でも少しは皆を助けられる……レオンさんや皆さんの役に立てる。だからまだまだ頑張るのだわ、戦い続けられるのだわ)
自分よりも強い者への嫉妬が尾を引いている『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)だが、その本質は誰かが困っていると手を差し伸べずにはいられない、よく言えば面倒見が良い、悪く言えばおせっかい焼きな女性だった。なればこそ、領地の危機だと救援を求めるR.R.に迷うことなく応じた。そして、自身の力でR.R.や村人達を助けられるという事実に、華蓮の心は癒やされ慰められていた。
「戦況がひと段落しそうっていう噂もあるし……もうひと頑張りだわね!」
幻想で発生しているイレギュラーズの領地を狙った魔物の襲撃、及びそれに伴う戦闘は未だ続いているが、華蓮の言うようにその勢いが落ち着きそうだと言う噂はあった。華蓮はその噂を持ち出して、仲間達を励ました。
R.R.の領地を出発したイレギュラーズ達は、程なくして全身が漆黒を纏っている『破滅』の巨人と遭遇した。
「宛ら、『破滅』の巨人といった風情……死の概念、崩壊の概念が形を持って歩いているかのよう。
少なくともまともな生物ではなさそうですし、正面から普通に仕掛けるべきでは無さそうですね」
その姿を前に、動じることもなくじっと冷静に『破滅』の巨人を観察した『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は、そう分析してみせた。実のところ、アリシスの言は『破滅』の巨人の本質を的確に言い当てていた。
「生気を奪い、全てを破滅させる巨人……さながら、巨大な夢魔みたいなもんですか。
いいですね、燃えるシチュですよ! どっちが上か、見せてやりましょう!」
『破滅』の巨人に対して対抗心と戦意を共に抱いたのは、『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)だ。『破滅』の巨人を前にして笑顔さえ浮かべながら、利香は魔剣『グラム』を鞘から抜き放ち、その剣先を『破滅』の巨人に向ける。
「超重量級の敵が目標か……破滅だかなんだか知らないけど、殺せる存在なら問題ないわね。全力で、叩き潰してあげるわ!」
『狐です』長月・イナリ(p3p008096)も、身体中に戦意を漲らせた。元々中毒と言えるほどに激しい戦いを好むイナリが、『破滅』の巨人の巨体を目にすれば、奮い立たないはずがない。『御柱ブレード』を手に、イナリは『破滅』の巨人を見据えた。
「天突く威容とは言うもんだが、こうもでかいと本当に楽しそうじゃあないの?
破滅だかなんだか知らねぇが、この状況を打破するってのは最高にイカすだろ?
てな訳で、派手に行くぜ!」
AG(アームドギア)――三メートル級の二足戦闘ロボット――を召喚し、操縦席に乗り込んだ『倫理コード違反』晋 飛(p3p008588)は如何にも楽しそうに言った。人々を守るために巨大な敵と対峙するというのは、飛の言うとおり確かにロマンを感じるシチュエーションである。
ならばそれに相応しい活躍をするまでと、飛は意気込みつつAGを前に進ませた。
「これが……『破滅』の巨人かね。なるほど、名のとおりの厄介な敵じゃな……。
しかし飛ばない分、少しだけは勝機はあるのう……まあどっちにしろ…何としてでも倒さないといかん」
『身体を張った囮役』オウェード=ランドマスター(p3p009184)は、ドワーフのように豊かに蓄えた顎髭を撫でながら、『破滅』の巨人を見定める。以前空中で飛翔する敵に手を焼いたオウェードだったが、それに比べれば今回の相手は地に足が付いているだけまだ戦いやすい。もっとも、戦いやすかろうと戦いにくかろうと、イレギュラーズの領地を攻撃するなら倒さねばならないのであるが。
「巨人に教えてやろうかねッ! ワシらが破滅できない存在だと言う事をッ!」
両手に斧を握りながら、オウェードは雄々しく奮い立つ。
「『破滅』の巨人、か……面白い。嘗て破滅の化身<竜種>を見たが、果たしてその力どれほどのものか。
竜に並ぶというならば、その力――もらい受ける。覇竜の導きの元に」
竜の道なる竜種信仰に目覚めた『竜の力を求めて』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)は、『破滅』の巨人の力を品定めするように見つめながら薄く笑った。そして『執行人の杖』を握ると、『破滅』の巨人に告げるかのように言い放った。
●炎と毒で蝕み、雷と光の鎖で封じる
「おい! 髭のでけぇの! 勝つ必要はねぇ。
あいつらが巨人をなんとかするまで、お互い何としても気張って両の脚で立って奴らを引き付けるのが仕事だぜ!
絶対に、保たせんぞ!」
「もちろんじゃ! 任せておけい!」
まず飛がAGの両腕にそれぞれショットガンとガトリングガンを出現させ、『破滅』の巨人に向けて撃ち放つ。無数の弾丸が、『破滅』の巨人の漆黒の身体に次々と吸い込まれていった。眷属らしき小さいサイズ――とは言っても、五メートルはあるのだが――の巨人達が、何事かと言わんばかりに一様に飛へ顔を向ける。
さらに飛はAGを駆って『破滅』の巨人達の後方に回り込むと、ショットガンとガトリングガンを地に墜とし、鋼の腕で周囲の眷属に殴りかかった。殴られた眷属は、怒ったかのように飛の方を向く。
「ワシが、オウェード=ランドマスターじゃ! お前さん達の相手をしてやろう!」
飛の後を追って『破滅』の巨人達の方へと駆け出したオウェードは、高らかに名乗りを上げて眷属達の敵意を煽りにかかる。飛のAGに殴られなかった残りの眷属が、オウェードへと顔を向けた。
飛とオウェードがR.R.の領地から離れるようにして眷属を『破滅』の巨人から引き離したのを確認すると、残りのイレギュラーズ達は『破滅』の巨人へと仕掛けた。
「随分とでかい顔しやがって――破滅ごときが。あんたは、俺達が滅ぼす。ここから先へは、通させない!」
包帯が巻かれたマスケット銃『鎮魂礼装【エコー】』を構えて、R.R.が『破滅』の巨人へと狙いを付ける。破滅を纏った銃弾は、銃撃と言うよりも砲撃と言うべき勢いで『破滅』の巨人へと迫り、その大腿部に直撃した。破滅の力を撃ち込まれた『破滅』の巨人は、その衝撃に微かに巨体を震わせつつも、『破滅』の力をR.R.に返し、その身を侵食せんとする。
「ぐっ……この程度、屈するものか!」
だが、破滅を滅ぼすためにも、村人達の営みを破滅から守るためにもR.R.は負けていられない。苦痛に軽く呻くR.R.だったが、その瞳から闘志が喪われることはなかった。
「肉を切り裂き、傷を焼き、その血に瘴気を溶かしこむ……内側から貴方を蝕む甘き夢の死を、どうぞ召し上がれ?」
魔剣『グラム』が纏う魔力の属性を雷から炎へと変化させながら、利香は『破滅』の巨人に迫る。そして縦横無尽に『破滅』の巨人の足へと斬りつけた。『グラム』から燃え移った炎は、瞬く間に『破滅』の巨人の下半身から上半身を包むように燃え広がる。さらに外から見ただけではわからないのだが、『破滅』の巨人の体内には致死性の毒が巡り、その身体を蝕んでいた。
「いいですね、私とグラムに伝わってくるこのピリピリしたエネルギー、たまらないです。
多少は我が障壁を打ち破る能があるみたいですが……あぁ、下品、下手糞――砕くだけの綺麗な破滅です」
『破滅』の巨人は利香にも破滅の力を返したが、利香からすれば取るに足りないものでしかなかった。
「いくよ……この雷で、その動きを止める……!」
利香が『破滅』の巨人の足を斬り刻み燃やしている間に、全身と刀『黒金』に雷を纏わせた雷華が『破滅』の巨人に急接近していた。その勢いのままに、雷華は『黒金』の刀身を『破滅』の巨人の脛に突き立て、鍔が当たるまで押し込んでいく。ズブズブと埋まる刀身と雷華自身が纏う雷が『破滅』の巨人へと伝わると、『破滅』の巨人はビクン! と大きく身体を震わせた。
「うっ……でも、負けない!」
雷華にも破滅の力が返されてきたが、この程度は何ともないと言わんばかりに、雷華は歯を食いしばって耐える。
「神の戒めよ。彼の者の罪を暴き、其の身体と霊魂を縛り封じたもう――」
味方と一緒に範囲攻撃で攻撃されないように『破滅』の巨人から少し離れた斜め前方へと移動したアリシスは、『破滅』の巨人を縛りつける鎖の顕現を求めて神に祈りを捧げた。アリシスの祈りは通じ、天から七色の、七本の光の鎖が地へと降りる。鎖は『破滅』の巨人の四肢を絡め取り、その行動を束縛せんとした。
「この程度の力に……負けてはいられません」
『破滅』の巨人から返されてきた破滅の力を、アリシスは微かに表情を歪めながら、覚悟の上と言わんばかりに受け止めた。
「破滅だかなんだか知らないけど、殺せるなら倒せるわねぇ! その足を削って、削って、削り切って、その図体を切り倒してあげるわぁ!!」
イナリは『破滅』の巨人の後方に回り込むと、四足歩行する魔種へとその姿を変えた。そして異界の炎神迦具土を宿し、『破滅』の巨人の足首のある一点――アキレス腱を狙う。人型生物ならアキレス腱を破壊すれば歩行がままならなくなると言う読みの元、イナリは執拗にアキレス腱へと猛攻をかける。だが――。
「おかしいわね……手応えがないわ」
『破滅』の巨人の、アキレス腱があるであろう部位をその爪牙で斬り刻み食い千切ったイナリだったが、『破滅』の巨人の肉体はあくまで同質で、腱らしき手応えもをそれを切ったと言う手応えもなかった。どうやら、人の形をしていても内部は人とは違うようだと、イナリは認めるしかなかった。
しかし、破滅の力はイナリにしっかりと返される。アキレス腱を切ることは出来ずとも、イナリの猛攻が巨人にしっかりとダメージを与えていた証拠だ。
「くっ……私達が先に力尽きるか、そっちが力尽きるか我慢比べよ!」
返ってくる破滅の力は痛いが、イナリに対抗手段はない。ならば体力が続く限り切り刻むまでだと、イナリは吼えた。
「人の形をしているが……人と同じとはいかないか」
『破滅』の巨人の足首への、イナリの猛攻を目にしたレイヴンは、そう結論づけた。そして何処を狙うか少しだけ思案する。
「……ならば、物理的に断ち切ったらどうなる?」
だが、すぐにレイヴンは決断を下した。狙うは、イナリが攻撃した方の足首。上手く断ち切れれば、左右のバランスが崩れて歩行が難しくなるはずだ。
狙いを決めたレイヴンはすぐさま、歴史から消えた"無銘の執行者"を、自身に宿らせる形で召喚した。その手には、召喚した執行者の武器であった大鎌が握られている。
ブン、と大鎌が横薙ぎに振るわれた。その一閃からは鎌鼬の如く斬撃が飛翔し、『破滅』の巨人の足首へと向かっていく。斬撃は『破滅』の巨人の足首を、前からズッパリと抉った。『破滅』の巨人の足首を切断するまでには至らなかったものの、もう何度か同じように仕掛ければ断ち切れるだろうと言う手応えをレイヴンは感じた。
「うっ……これは、なかなか厳しい。だが!」
一方で、技の反動と『破滅』の巨人からの破滅の力が、同時にレイヴンを襲う。苦痛に顔をしかめるレイヴンだったが、痛みに耐えて次に備えた。
『破滅』の巨人は鎖によって束縛されている身体を強引に動かし、口を大きく開くと、R.R.に向けて破滅の力を宿した漆黒のブレスを吐いた。
「うぐっ……! 俺を狙ってきたか……!」
ブレスを受けたR.R.は、生命力を大幅に削り取られた。もう一撃ブレスを受ければ、間違いなく倒れてしまうだろう。
「そう来たか……でも、キミは私が支える。やらせはしないよ」
「ええ、大丈夫……必ず、支え切って見せるのだわよ!」
大きく生命力を削られたR.R.を癒やすべく、ゼフィラと華蓮が動いた。自らの持つ調和の力を治癒の力へと換えて、R.R.の身体を癒やし、生命力を回復させていく。R.R.自身も、傷が癒えて身体に活力が漲るのを感じていた。完全回復には到らないまでも、これならもう一撃を受けてもなお倒れずにすむことだろう。
「ありがとう……助かった」
R.R.は深々と頭を下げて、ゼフィラと華蓮に感謝の言葉を告げた。
●『破滅』の巨人の消滅
『破滅』の巨人をこれ以上進ませまいとするイレギュラーズ達は、猛烈な攻撃を仕掛け続けた。
R.R.の破滅の力を宿した砲撃をはじめとして、利香の桃色の剣閃、雷華の雷を纏っての斬撃の連続、アリシスの喚んだ告死天使による『神の毒』の刃が、そして既に与えられた炎と毒が、『破滅』の巨人の生命力を削り取っていく。
イナリの爪牙とレイヴンの大鎌からの斬撃は、『破滅』の巨人の足首を断ち切った。片方の足首から先を喪った『破滅』の巨人はバランスを崩して転倒し、四つん這いになってR.R.の領地へと進もうとする。
だが、雷華が浴びせた雷と、アリシスが降らせた七本の光の鎖は、『破滅』の巨人が思うように動く事を許さない。時々ではあるが、『破滅』の巨人は何も出来ずに硬直するか、自分を殴りつけるかした。
それでも、『破滅』の巨人はR.R.を狙って執拗にブレスを浴びせかける。R.R.が狙われたのは、R.R.から受ける一撃のダメージが大きいことと、R.R.に与えた一撃のダメージが大きいことが原因だった。ゼフィラと華蓮が調和の力を癒やしの力と換えて必死にR.R.を癒やし、華蓮は『ゼピュロスの息吹』まで用いたが、それでもなお回復は追いつかず、R.R.の傷は次第に深くなっていった。
『破滅』の巨人を守るべき眷属達は、飛とオウェードによっていいように『破滅』の巨人から引き離されて、助けに向かうことが出来なかった。
さらに戦闘が進むと、イレギュラーズからの攻撃を受け続けた上、炎や毒に生命を蝕まれ続けた『破滅』の巨人の動きが完全に止まった。生命力が尽きようとしているのは、誰の目にも明らかだった。しかし『破滅』の巨人は、最期の力を振り絞ってR.R.に漆黒のブレスを吐く。
もう耐えられないかと思われたR.R.だったが、可能性の力を費やして、なおその場に立ち続けた。すかさず、ゼフィラと華蓮がR.R.の傷を癒やす。
「これで……終わりだ……!」
R.R.は荒い呼吸を整えながら、マスケット銃の引金を引いた。破滅の力を宿した砲撃と言うべき銃撃が、『破滅』の巨人の眉間を貫いた。それが、とどめの一撃となった。
『破滅』の巨人の遺体は、瘴気が霧散するかの如く空気中へと溶けていく。同時に、眷属達の身体も空気の中で拡散し、消えていった。
(ほら、ただその時に合わせ壊そうとするから下品なのですよ。
じわじわと、じわじわと。気付いた時には、もう、お終い……それが、夢魔の破滅でございます)
その様を眺めながら、利香は狙いどおりと言わんばかりの笑みを浮かべた。利香からすれば、炎や毒に蝕まれた時点で、『破滅』の巨人は破滅する運命にあったと言えた。
「『破滅』の巨人の最期は自ら破滅か……よく言った物じゃな……」
オウェードは、消えゆく『破滅』の巨人の遺体を前に、しみじみとした口調で独り言ちる。
(貴方がお家から出ないで関わらずにいれば、それぞれで幸せに暮らせたかもしれないのだわよ……)
華蓮は、憐憫を込めた視線を『破滅』の巨人の遺体へと向けた。
(思ったほどではなかったな……竜の破滅には、とても及ばない)
『破滅』の巨人が期待したほどではなかったことに、レイヴンは失望しながらこの場を去った。レイヴンが『破滅』の巨人を振り返ることは、もう無かった。
「思ったより上手くいって、よかったわねえ」
「全くだぜ。早く終わってくれて、こっちも助かったぜ」
R.R.の領地にあまり近付かせることなく、早期に戦闘を終えられたことをイナリが喜べば、飛は賛意を示しながら頷く。『破滅』の巨人が早く倒れた分、眷属を引き付けた飛としては思いの外楽に戦いを終えることが出来たのだ。
「巨人という存在が、神話において凡そ神に準じるものか精霊的なものとして描かれている通りに概念的な存在である……という型が、この世界においても同様であるのなら。
『破滅』の概念……或いは破滅の精霊……そのようなものが、巨人の姿を象って顕現しているのはある意味納得というものですが……。
同様に何らかの巨人が出現しているという話も聞きますし、この国……この地にはどうやら古にそういう歴史があるようですね」
「幻想の古の歴史……興味深いね」
アリシスの考察に知的好奇心を刺激されたゼフィラは、この後文献を調べたら何か見つからないかなと期待する。
領地に戻ったR.R.は『破滅』の巨人による被害が皆無であることを確認して、胸を撫で下ろした。
「ノブレス・オブリージュを気取るわけじゃないがな。
俺達イレギュラーズには破滅に抗える力があり、守れる命がある。なら戦うには十分な理由だ。
ここの人々は、こんな辺鄙な場所にわざわざ居を構えに来た。それはそれで、守ってやりたいと思うものだ」
「うん、そうだね……」
安堵混じりのR.R.のつぶやきに相槌を打った雷華だったが、この後、今度は自分の領地を守るために戦うことになるとは、未だ知る由もなかった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
シナリオへのご参加、ありがとうございました。皆様の活躍によって『破滅』の巨人は破滅を迎え、R.R.さんの領地と領民達は守られました。
何方の活躍も素晴らしくMVPの選出は非常に迷いましたが、鎧の効果や携行品まで用いての回復によって、『破滅』の巨人に狙われたR.R.さんを最後まで倒れさせないことに寄与した華蓮さんにMVPをお送りします。
それでは、お疲れ様でした!
GMコメント
こんにちは、緑城雄山です。今回も<ヴァーリの裁決>のうちの一本をお送りします。R.R.さんが復興させようとしている廃村に向かっている『破滅』の巨人を討伐して下さい。
●成功条件
『破滅』の巨人の討伐
●失敗条件
『破滅』の巨人がR.R.さんの領地の廃村に進入する
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●ロケーション
R.R.さんの領地である廃村付近です。地形は平坦な荒野です。
時間は昼、天候は晴れ。環境による戦闘へのペナルティーはありません。
●初期配置
『破滅』の巨人の至近に、『破滅』の眷属が固まっています。
イレギュラーズは『破滅』の巨人からR.R.さんの領地側に40メートル以上離れていれば、配置は自由です。
●『破滅』の巨人 ✕1
全てを『破滅』させんとする巨人です。全高約20メートルの巨体を持っています。
R.R.さんの『破滅を破滅させる意志』、そしてその意志によって再生しつつある廃村の存在を感じ取り、R.R.さんの領地を『破滅』させるべく歩みを進めています。
攻撃力と生命力が極めて高くなっている一方、回避や防御技術は皆無です。さらに常に回避補正値は0として扱われる上、防御技術判定は一切行いません。
OP中で生物がほぼ瞬殺され砕け散り、無機物も同様に砕け散っていますが、イレギュラーズ及びその装備についてはこのような事態は発生しません。
特に移動が遮られなければ、21ターン後にはR.R.さんの領地に進入します。
・攻撃手段など
肉弾戦 神近範 【識別】【必殺】【弱点】【変幻】【鬼道】【ブレイク】【侵食】
攻撃力の由来が筋力ではなく『破滅』の力であるため、神秘攻撃となります。
『破滅』のブレス 神超扇 【識別】【必殺】【弱点】【鬼道】【ブレイク】【侵食】
破滅の力を宿した漆黒のブレスです。
【棘】
マーク、ブロック不可
【怒り】無効
●『破滅』の眷属 ✕8
『破滅』巨人の眷属です。全高は約5メートルほどです。戦闘開始直前に『破滅』の巨人が周囲に召喚します。
攻撃力と生命力が極めて高くなっている一方、回避や防御技術は皆無です。さらに常に回避補正値は0として扱われる上、防御技術判定は一切行いません。
『破滅』の巨人が死亡すれば消滅します。
・攻撃手段など
肉弾戦 神至単 【識別】【弱点】【変幻】【ブレイク】【侵食】
攻撃力の由来が筋力ではなく『破滅』の力であるため、神秘攻撃となります。
『破滅』のブレス 神遠扇 【識別】【弱点】【ブレイク】【侵食】
【反】
巨体(マーク、ブロックには2人必要)
ヘイト:中距離以遠から『破滅』の巨人に攻撃を行う者
【怒り】が付与された場合、【怒り】を付与した対象の方を優先して攻撃します。
●BS【侵食】
このシナリオ限定のBSです。『破滅』の力で侵食することで、スリップダメージを与えてきます。
●ブレイブメダリオン
このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
このメダルはPC間で譲渡可能です。
それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。
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