シナリオ詳細
<ヴァーリの裁決>陽光を望む
オープニング
●
檻の中。美しいパライバトルマリンの鱗。
潤む涙の雫を掬い上げ。
必ず護ってみせると、言葉に乗せた――
「カレイドワルツアクセラセーション~」
つるりとした水色の肌。
同じ色をした指先が唇に押し当てられて柔らかい粘膜を弾く。
「ん~、かんだ~?」
この無辜なる混沌には世界法則『崩れないバベル』がある。
どのような言語体系をしていようとも、意思の疎通は図れるだろう。
されど、このロロン・ラプス(p3p007992)は間延びした口調で運命蒐集型何とかと口にした所で、己の舌の長さに疑問符を投げかける。
自由自在に変形するスライムの身体なれど、細かな発声の繊細さにこてりと首を傾げた。
もう少し早口で言ってしまえば誤魔化せるだろうか。
だが、そもそもの前提としてそんなに早く舌が回らないだろう。
「うーん……」
思考をぐるぐると回しているロロンの身体が連動するように左右に振れ始め、やがてやわらかな丸いスライムとなってしまった。
何を隠そうこれがロロンの本来の姿である。しかし、このフォルム何処か親近感がある( ・◡・*)
「ぁ、今日はギストールの街に出かけるんだった……準備しなきゃー」
ぽるんぽるん跳ねながらロロンは『美少年牧場』を後にする。
「どんな子が居るかな~。可愛いかな~、綺麗に仕上げたりぃ、してぇ~?」
幼気な奴隷でも良いだろう。成長途中の儚さも捨てがたい。低身長童顔成人男子という単語が頭を過るがきっと気のせいだろうと首を振るロロン。
「セット買いもあり~? あ~、ゆめが膨らむよ~?」
ロロンはまあるい頬をぷるぷるさせながら、まだ見ぬ出会いに思い馳せた。
●
「ギストールの街が壊滅的な打撃を受けたのは、知っています、か?」
ギルドローレットのテーブルに座った『Vanity』ラビ (p3n000027)こてりと首を傾げる。
「しってるよ~、ボク、その直前に、ギストールの街に居たんだよ~」
ロロンは襲撃を受ける寸前に運良く街から帰路に着いていたらしい。
ギストールの街が襲われたと聞いたのは、そのすぐ後だ。
「間一髪って感じだったみたいだよ」
「そのギストールの街の混乱で有耶無耶になってしまった、ですが、奴隷達が別の場所に連れ去られて行ったと報告がきています。複数居るようなのですが、そのうちの一人の人物の手がかりを掴み、ました」
「はは~、大変なんだねぇ」
ラビの言葉にロロンはこくりこくりと頷いた。
「その人物は、ギストールの街で奴隷を買い漁り、自分の領地で飼育しているという噂があります」
「飼育?」
イレギュラーズは大凡人間に使うには物騒過ぎる単語に怪訝な表情を浮かべる。
「はい。中の様子は分かりませんが、周辺の住民に聞いたところ奴隷の子供達が運ばれて行ったそうです。
その中には、美しい人魚や豊穣のゼノポルタも居たのだとか」
恐らくその奴隷の子供達が虐げられている事は想像に難くない。
「奴隷を玩んでいるのか」
「……分かりませんが、そう考えるのが妥当、かと思います」
「くそう! 悪逆非道な事をするヤツも居るもんだ!」
「そうだねぇ~、そんな、ひどいことを、するヤツはだれだ~」
イレギュラーズの憤りにロロンもとりあえずこくこくと頷く。
「俺からもお願いする」
獄人(ゼノポルタ)の少年は頭を下げる。この所、カムイグラからゼノポルタが奴隷として幻想に流れているという噂が立っていた。それを調査するために海を渡ってきたのが『柊 吉野』だった。
「俺の主は心優しい方で、この一連の奴隷流出に大層憂いている。だが、事を大きくすれば要らぬ争いが起こることは避け得ない。だから、こうして俺が調査の為に先遣として来ている」
ゼノポルタの子供として潜入し奴隷と共に海を渡ってきた吉野。彼の主人が側仕えである吉野を使わせたのは内密に事を運びたかったからだろう。ギストールの街の混乱に乗じてはぐれてしまったが、一緒に渡って来た二人のゼノポルタを探しているのだという。
「俺の目的は奴隷流出の調査と、もしその二人が望むなら連れ帰ること」
「望むなら?」
「……豊穣の地は、獄人にとって少なからず住みにくい側面がある。だから、大陸に渡ったのならば自由を望むかもしれない。それは俺が強要するべきことではないからな」
イレギュラーズはちらりと吉野の顔にある傷を見遣る。少なからず住みにくい事に由来するものなのだろうかと思案した。
「頼む。奴隷にされてしまった同胞を助けてくれ」
吉野の言葉にイレギュラーズは頷く。
奴隷はゼノポルタだけではない。他の種族の奴隷も同じように囚われているのだという。
イレギュラーズは吉野の肩に手を置いて「大丈夫」だと微笑んだ。
――――
――
「あれぇ?」
寝ぼけ眼を擦りながらロロンは馬車の中から顔を出す。
馬車に揺られてイレギュラーズは王都の北。アーベントロート領へと進んでいたはずだ。
ロロンは心地よい振動にゆっくりと瞼を落とした所までは覚えて居る。
だが、しかし。
視界には『美少年牧場』と書かれた看板が飛び込んできた。
此処はロロン・ラプスの領地。
とあるイレギュラーズに触発されて始めた牧畜業。買ってきた奴隷をいかに美しく育てるかを競う場。
「ん~?」
眠っている間に依頼は終わって、家まで送ってくれたのだろうか。
首を傾げるロロンの目の前に吉野がゆっくりと歩いて来る。
「ここが、『ギストールの街で奴隷を買い漁り、自分の領地で飼育している人物』が居る所か」
吉野はその人物が近くに居ないかと周囲を警戒している。
「んん?」
「情報によると、その人物は人魚の奴隷を見て『美味しそうだ。どう調理しようか』と呟いていたということだからな……虐げるつもりだったのかもしれない。警戒したほうが良いだろう」
「????」
吉野の険しい顔を真似するように表情を変えたロロン。
「あ、奴隷の子供があそこにいますね……え、そんな、もしかして深杜……ですか?」
ヴァールウェル (p3p008565)は封印が施されたままの子供へと駆け寄る。
数ヶ月前から行方知れずとなっていた、九野 深杜が目の前に居る事に動揺を隠せないヴァールウェル。
「どうして……」
胸の無い少女だからだろうか。手違いで『美少年牧場』に運び込まれて居たのかも知れない。
以前は赤かった髪も白く染まり、呪術の影響で左目も黒く変色していた。
ヴァールウェルが直ぐに気付かなかったのも無理は無い。
「……っ、深杜!」
「あ……ヴァールウェル、なのか?」
「そうです。前はよく遊びに来ていたでしょう。貴方を探していたんです」
「っぅ、う……ヴァールウェル」
ヴァールウェルの腕に抱かれ深杜は透明な涙を流す。
感動的な再会。
しかし、魔の手はそんな美しい思い出を引き裂くように迫り来る。
「待て、あれは何だ!?」
吉野の声に視線を上げれば蒼穹の空に黒い影が連なっていた。
何羽もの鳥の大群。それがこの場所目がけて飛んでくる。
「ごめん、な、さい。この身体に、施された呪術が……」
「深杜!? まさか貴方を狙って来ているのですか?」
その身体に呪術を施されてしまった深杜は、この地にいる魔物を呼び寄せてしまうのだろう。
『ギストールの街で奴隷を買い漁り、自分の領地で飼育している人物』は何処に居るのかは分からないが、奴隷達の命を危険に晒すわけには行かない。
「大丈夫ですよ。安心してください。必ず、僕達が守ってみせます」
この場にはイレギュラーズが居るのだ。力を合わせればどんな敵だって倒してみせる。
子供達を建物の中に避難させ、イレギュラーズは迫り来る敵に向きなおった――
- <ヴァーリの裁決>陽光を望む完了
- GM名もみじ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年04月04日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
時は少し遡る――
奴隷の行方を追って美少年牧場へと足を踏み入れたイレギュラーズ達。
僅かに砂が混ざる風の匂いが鼻腔を擽る。
冬の乾いた空気ではない、生命の息吹が詰まった春先特有の香りだ。
お昼寝には最高のお天気だろう。
馬車から降りた『無垢なるプリエール』ロロン・ラプス(p3p007992)は柊 吉野の言葉を聞きながら険しい顔をしていた。水色のぷるんとした顔が何時になく真剣な面持ちになっている。
この美少年牧場を宣伝していたわけではない。隠していたつもりもないが、こうも簡単に牧場の存在が露見するとは思ってもみなかった。
とはいえ奴隷達はロロンが適正価格で買ってきたモノである。つまり、ロロンの私財だ。
感情や倫理を理由に解放を交渉されようともロロンには応じる道理が無い。
自分が店で買って来た高級な牛肉を牛が可哀想だから回収すると言われても理不尽であるのと同じだ。
――さて、どうしたものか。
きっとこの場にイレギュラーズが来てしまったのは何か誤解があるに違いない。
水色のぷるぷるした眉毛がムムンと谷型に形を変えた。
『優光紡ぐ』タイム(p3p007854)は遠巻きに奴隷達に視線を向ける。
どんな理由にしろギストールの襲撃から逃れられたのは運が良かったと言えるだろう。タイム自身その惨状を目の当たりにしたのだ。
「あの場にいれば命は無かったかもしれないもの。それにしても奴隷を飼育して弄んでる領主がいるなんて! 連れてこられた奴隷の子がひどい目にあっていないかしら」
タイムが心配そうに奴隷達を見つめる。美しいパライバトルマリンの鱗を持つディープシーとそれに寄り添うゼノポルタが見えるが、外傷などは無いようで一安心だと胸を撫で下ろす。
彼等は飼育されているということだが、どうやら、この地の領主は虐げるつもりは無いらしい。
「奴隷を買い集めて何をしようというのか……後で裏で糸を引いている人物を探らねばなりませんね」
美少年牧場の看板を見つめる『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)は幻想の地で起こる数々の事件に思いを馳せていた。この地だけではない。自身が身を寄せる屋敷も幻想に存在している。
いつ攻めてこられてもおかしくない状況なのだ。情報はいくらでもほしいとリュティスは頷く。
「美少年牧場。童顔成人低身長男子奴隷とかいるのだろうか」
広い牧場を見渡して『弱さを知った』恋屍・愛無(p3p007296)が呟いた。オレンジ色の圧の強いまあるい何かの意志を感じる様な気がしないでも無い。
「奴隷男子と主人男子の禁断のらぶすとーりーとか始まるんだろうか」
「愛無? どうしたの?」
大凡隣に立つ愛無から聞かぬような言葉が飛び出して『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が振り向く。
「いや、深い意味はない。場を和ますための怪生物じょーく」
「嘘でしょ……あの愛無がジョークを? 悪い物でも食べたのかしら?」
「じょーくぐらい言うさ。最近は会話も少し嗜んでいる故に」
「何の心境の変化かしらね」
怪物だった愛無の内側に、響く何かがあったのだろうとイーリンは口の端を上げる。
「それはさておき獄人の扱いは僕も豊穣で見てきた。此処のコンセプトを考えるなら、肉体的には酷い扱いはされていないとは思うがね。所詮は愛玩家畜のような物だろうが」
美少年牧場と言うからには、粗末な扱いはされていないだろう。現に此処から見える二人の奴隷は普通に綺麗な見た目をしている。
イーリンと愛無の後ろから牧場を見つめるのは『コレクター』静寂 寂寥(p3p009688)だ。
美少年牧場の看板を視線でなぞりながら、行き場が無くなった奴隷が居れば連れて帰るのだと心に留める。その為の準備は常にしてあるつもりだった。
勿論、愛情を込めて育む事が大前提だ。だから『飼育』しているというこの牧場の情報には憤りを感じていた。自分が助けなければならぬのだ。
そもそも、奴隷は愛するべき対象であり飼育なんて言語道断なのだ。自分ならば誰にも見せぬように監禁して愛を囁き抱きしめてあげるというのに。傷つける事なんて以ての外、誰かの目に止まってつれて行かれでもしたら大変なのだから、大事に大事に家の中に閉じ込めておくのだ。
そう、例えば鳥籠の中に居る少年の、美しい羽根に巻き付く鎖は寂寥にとての愛の証だった。
「しかし、この牧場の領主はいったい誰なんだ」
吉野が辺りを警戒しながらイレギュラーズに問いかける。
「あ、えっと……」
「どうしたのロロンさん」
おずおずと手を上げるロロンに気付いたタイムが首を傾げた。
「いや。ここはボクの領地なんだよ……」
「え?」
ロロンと美少年牧場の看板を交互に見つめるタイムと吉野。
「ここってあなたの…? えっやだ勘違い?」
「なんだって!? じゃあ、奴隷を虐げて売買している悪いヤツじゃなかったのか!?」
「えっと~? 何か誤解があるような?」
吉野は口を大きく開けて吃驚したような怖い顔をした。
「此処に居る子達はボクが私財を叩いて買って来たものだ。えっと、外からじゃ分かんないかもしれないね。ここの領地について、ちょっと話しておこうか」
買って来た奴隷達に市民権は与えられないこと。飼育員である牧場スタッフが市民であり、様々な分野のスペシャリストである彼等が奴隷達を美少年へと磨き上げる。
「丹精を込めて丁寧に、とても大切にしている。システムとしては貴族の英才教育を参考にしているよ。なんでそんなことをしているか、と聞かれたら趣味としか答えようがないのだけど」
「それってつまり、引き取って里親になっているということ?」
イーリンの問いかけにロロンは首を振った。
「慈悲とかそんなのではないことは確かかな。ただこの方が将来的なリターンが大きく効率がいいと考えただけだよ」
「そういう考えもあるでしょう。理に適っていると言えるわね」
「まぁ買い取りなら応じるけれどね? イレギュラーズの仲間なら原価で譲ろう。いくらかの飼育費くらいはサービスするさ」
ロロンは柔らかい見た目に反して強かに微笑む。
スライムという性質上、自分以外のものは全て『食べ物』だ。
無辜なる混沌に来てからは世界法則に縛られる身となった。そして、他者と交流するうえで不利益だからこそ、イレギュラーズを食べるということはしない。
否、食べられはするが、後々面倒事になるのが目に見えているからだ。
この牧場の在り方とて、人知を超えた、超然的な思考で奴隷達を飼育しているのかもしれない。
「深杜……何故こんなところに……こんな幼い子に呪いとは酷いことを」
驚嘆の声がイレギュラーズの耳に届く。『妖精医療』ヴァールウェル(p3p008565)はかつて豊穣で知り合いだった深杜を見つめていた。
「獄人を奴隷にするなんて……同胞として絶対に許しません!」
『天色に想い馳せ』隠岐奈 朝顔(p3p008750)が拳を握り憤る。
「早く助けなくては。しかも、深杜さんにこんな改造するなんて尚更です!」
朝顔の声に首を傾げるロロン。見たことの無い奴隷が何故か存在する。何故だ。この深杜という『少女』は買っていない。
「え~? その子は知らないんだけど」
「もしかしたら、間違えて積み込まれたのかしら?」
「だったら、その子はボクのものじゃないね」
深杜を抱きしめるヴァールウェルは視界の端に見えた魔物から少女を隠すように立ち上がる。
「とにかく、まずは貴女の安全確保が優先です。私から離れないように。必ず守りますからね」
「うん……」
ひしとヴァールウェルに抱きつく深杜。
「あー……奴隷はともかく人命優先!」
イーリンは近づいて来る何羽もの鳥の大群の前に身を晒す。
「神がそれを望まれる――」
黒鳥の群れが羽ばたきを轟かせ濁流の如く押し寄せた。
●
タイムは呪いを帯びる深杜に視線を流す。
「深杜さんが魔物を呼び寄せているの……?」
少女の身体を覆う呪いは魔物を引き寄せる力があるらしい。
「わかったわ、ヴェールウェルさんは傍で守っていてあげて。吉野さん武器はある? あなたもわたしの近くで二人を守るのを手伝ってほしいの」
「了解した!」
腰の刀を滑らせて吉野がタイムの前に立つ。
「詳しい話はあとで聞かせて」
タイムは愛無と朝顔に加護を授け彼等の背を押した。
「二人ともお願いね!」
「はい!」
「任せたまえ」
愛無と朝顔は先んじていたイーリンの横に追いつく。漆黒の牝馬が首を捻りオニキスバードの爪を軽々と避けてみせた。
「いやぁ、愛無と並び立つのにも慣れてきたわね?」
「ま、郷に入れば「業」に従え。オフェンスはイーリン君。ディフェンスは僕というわけだ。悪くない。適材適所。それでは一つ仕事といこう」
愛無の黒い腕が空を切る。続けざまに繰り出されるイーリンの紫光の奔流。光を帯びて空を駆け抜ける魔力は、射線上のオニキスバードを一瞬にして蒸発させた。反転する魔力術式はイーリンの身体を焦がすけれど、尚余りある戦力を持って此を覆す。
「ま、ここまでは想定の範囲内、よっ!」
イーリンは不敵に口角を上げて見せるのだ。
「他に痛いところはありませんか? もう大丈夫ですからね」
ヴァールウェルは深杜に琥珀糖を渡す。
「これでも食べて落ち着いてください。甘いですよ」
深杜はヴァールウェルから貰ったお菓子を口の中に含んだ。蕩けるような甘さにほっと息を吐く。
されど、目の前に迫る敵の凶刃に目を瞑った。
「安心してください深杜。僕はこう見えて頑丈ですし、仲間も強い。すぐ終わりますよ」
深杜に牙を向けるオニキスバードをヴァールウェルが捕まえる。
彼の言葉に安心したように少女は頷いた。
「貴方の相手は、ヴァールウェル先輩でも深杜さんでも有りません! 私ですよ!」
朝顔はオニキスバードに大太刀を振り上げる。少しでも深杜から注意を逸らす為だ。
「ヴァールウェル先輩、絶対に倒れたら駄目ですよ!
大切な人が自分の為に傷つくのは凄く辛いんですから」
何度もそれを目にしてきた朝顔が言うのだから言葉の重みが違う。
「もちろんです。こんな所で倒れる訳にはいかない!」
朝顔と愛無が引き寄せた敵へ寂寥の照準が合わさった。
引き金を引く指が折り曲げられる。
「オニキスバード20匹は結構骨が折れるだろうが、まぁ、後ろからやるにはこれくらいで丁度良いだろ。俺は他のやつより経験が浅いし、後方支援して行くかな」
「後方支援は大切です。少しでも仲間の負傷を抑える為にも効率良く敵を倒すべきですから」
寂寥の呟きにリュティスが応える。
「そりゃそうだ。なら、合わせる」
「チャンスがあれば大胆に攻めるように致しましょう。覚悟はよろしいでしょうか?」
「問題無い。いくぞ!」
寂寥はリュティスが放つ魔力の一矢に己の弾丸を重ねた。
空を覆い付くさんばかりの黒い鳥達へ穿たれる閃光と弾丸。
「さて、そんなボクの領地に入り込んだ鳥を退治しなくてはね。領民や奴隷も見ているわけだし少しばかり力強い領主を印象つけておくのも悪くはなさそうだ」
ロロンはコミュニケーション・ボディを戦闘形態に最適化させる。
「奴隷に人権はないが、だからこそ飼い主がその全ての責を担うのが道理だ。
ボクの子供たちを傷物にすることだけは許さないよ」
――――
――
「オーダーは撃退。敵が退くならば深追いはしない」
匂いの一つでも覚えておけば巣を殲滅出来るだろうか。
傷を負い飛び去っていくオニキスバードを愛無のアメジストの瞳が追う。
「つっか、まえ、た――!!」
イーリンから放たれる閃光に当たりは光へ白ずむ。
イレギュラーズの圧倒的な戦略と力の前に、黒き鳥は為す術も無く打ち倒されたのだ!
●
イーリンは辺りに散らばった黒鴉の肉片を拾い上げる。
「戦闘用の突然変異というのは知っているけど今回はどういう変化があるのかしら」
誰かが裏で糸を引いてる可能性もある。この黒鴉の肉片をサンプルとして持ち帰れば何かが分かるかも知れない。こういう手合いは一つ一つの積み重ねなのだとイーリンは肉片を袋に詰め込んだ。
愛無は牧場に佇むラクリマとバイラヴアを一瞥する。
彼等は異国の地で『商品』と買われこの美少年牧場へやってきた。
帰りたいと思って帰れるものではないだろう。『牧場主』次第なのだ。
身も蓋もない話ではあるが、今の天香に他国の領主が所有する『物』を奪い取る力は無い。
それ故に、イレギュラーズを頼ったのだろう。されど、尊厳や綺麗事では物事なぞ進まぬが道理。
「まあ、さておき吉野君と言ったか。僕が調査したギストールの街の奴隷の動向を纏めた資料がある。君にあげるよ」
愛無は資料として纏めたメモをポケットの中から取りだし吉野の手に乗せる。
「良いのか? 大事なものじゃないのか?」
「まあ、僕が分かる範囲だけどね。闇雲に探すよりはマシだろう。少々、事は面倒そうだ。君も動向には気を付けたまえ。木乃伊取りにならぬよう」
愛無の隣に居たタイムは吉野が受け取った資料に視線を重ねた。
「獄人の奴隷流出について調べていたのね」
「ああ。俺の主が気に病まれていてな」
「確かに豊穣から獄人の奴隷がこちらに連れてこられるのは何者かの手引きがなければ難しいわ。今分かってる調査内容を教えて貰ってもいいかしら」
タイムの言葉に吉野は頷く。
「吉野さんは奴隷と共に海を渡ってきたそうだけど、どんな大人達によって連れ出されたのかしら」
「八百万の商人達だった。他の色々な商品と一緒に荷物に紛れ込ませて商船に乗せられたんだ。船員は雇われたような奴らかもしれない」
豊穣側は八百万の商人が他国へと売りさばいているのだろう。それを幻想の奴隷商人が買い漁っているらしい。カムイグラのゼノポルタはまだまだ物珍しい。
「それにギストールの街では何を? 他にも沢山の奴隷がいたって聞いたわ」
「ああ。他にも奴隷が居たんだ。ギストールの街で俺達が集められていた場所は、市場のような所じゃ無い。首都へ向けての選定場所みたいな所だったのかもしれない。リルという灰色狼の少女が俺達を守るように居てくれた。でも、何処かへつれて行かれてしまった……それですぐに街が襲撃にあったんだ」
されど、はぐれてしまった二人の奴隷と再会する事が出来てよかったと吉野は胸を撫で下ろした。
「はぐれた二人の子が豊穣に戻るかどうかは本人の気持ちをきいてみないとね。この領地ならきっと穏やかに暮らせると思うけれど……」
「ああ、そうだな」
吉野はバイラヴアと深杜に視線を向ける。
「とにかく深杜の話を聞いて落ち着かせてやるのが一番かと思いますので、彼女の身柄は私の方で預からせて頂きたいです」
ヴァールウェルは深杜を抱き上げて吉野の元へやってくる。
「ここに来るまでにたくさん傷ついたでしょうし、すぐに豊穣に戻るかどうか決められる状況ではないと思います。子供達には安全な場所での休息が必要かと」
「そうですね。まずは身の安全が重要でしょう」
ヴァールウェルの言葉にリュティスが頷いた。
「私が近くに居ると、また、呪いで迷惑が掛かってしまう……他の子が怖がってしまう」
深杜はバイラヴアとラクリマを見つめる。
「あの……、深杜さんバイラヴアさん。私は同胞としてお二人にお伝えしたいことがあります」
朝顔は同じ獄人である二人に語りかけた。
「今の豊穣は一部を除き獄人が住みやすいとは言えません。そこは吉野さんと同意見ですが……例え豊穣に戻っても。遮那君は貴方達の望みを最大限叶えようとし、絶対に不幸にさせません」
少なくとも遮那と出会い幸せになったのだと朝顔は微笑む。
「だから、出来れば消極的な理由で決めるのではなく。今、有りの儘の望みを教えてくれませんか?」
朝顔の言葉に深杜はこくりと頷いた。
「この身を癒すには、時間が掛かってしまう。その度に戦いが起こるかも知れない」
ぎゅっと裾を握った深杜の背をヴァールウェルは優しく撫でる。
「大丈夫です。私の傍に居れば、問題無いですよ」
「ヴァールウェル……私も傍に居たい。ヴァールウェルの傍は安心する」
彼が豊穣の地に居るのであれば、其処へ身を寄せれば良い。幻想に居るのであれば幻想に留まる。
戻る戻らないではなく。ヴァールウェルの傍に居たいのだと深杜はイレギュラーズに伝えた。
「僕は、ロロン様に食べられる心配がなければ、バイラヴアと一緒に居たい」
「俺は故郷から追い出されたクチだからな。待遇が余程悪いってんなら話しは別だけど、ご飯も食べられるし温かい布団もある。色々な事も教えて貰えるし、何より、ラクリマが居るから。俺は豊穣には戻らない」
この美少年牧場で力をつけて成り上がる道。いつか権利を買い戻し飼育員になる道。
「怠惰に沈んで観賞用のアイドルへなる道もあるかもね。
……たまにアーベントロートに消されるリスクだけはついて回るね、うん」
二人の獄人の決意は聞く事が出来たと吉野は肩の荷を降ろす。
「さて……」
寂寥は混乱のどさくさに紛れて、愛らしい見た目の奴隷の手を取る。
「こら~! それはボクのものだよ~。勝手に持って行っちゃダメダメ」
「はは、冗談冗談!」
ぱっと手を放した寂寥はにっこりと笑顔を浮かべた。
家につれて帰り、愛する事が出来れば何れだけ素敵だろうか。
寂寥を知る前に、皆彼の前から居なくなる。だから、閉じ込めて一緒に居る時間が必要なのだ。
――きっと、知ってさえくれたら相手も俺を愛してくれるに違いないのだから。
「吉野さんはこれからどうするの? この幻想は広いわ。わたしにも手伝える事はあるかしら」
「そうだな。もう少し情報が欲しい」
タイムの問いに吉野は視線を合わせた。
「そうですね。ロロンさんの他に奴隷を買い集めている人の情報を集めましょう。買う人が居るということは売る人が必ず存在します」
リュティスは奴隷を運んできた馬車を目撃したスタッフから話しを聞いてみる。
「少なくてもここに連れて来た人はいるはずですので目撃情報を集め、そこから絞り込んでいきましょう」
運んできたのは何時もと違う業者で深杜をわざと積み込んだ可能性があるということ。
幻想国内で起こっている事件なのであれば、主人の領土も無関係とは行かないはずなのだ。
「ここで真相を突き止めねばなりません。相手が悪人、盗賊などなら多少乱暴してでも吐かせてしまいましょう」
主人が安心して暮らせるように奮闘するのも、メイドの役目であるのだから。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
奴隷達はそれぞれ自らの意志で居場所を決めたようです。
GMコメント
もみじです。
ギストールの街で奴隷を買い漁り、自分の領地で飼育している人物は誰なんだ!
ともあれ、奴隷の子供達を魔物から守ってください。
『<琥珀薫風>闇夜を纏い』と設定的にリンクしています。排他では無いです。
●目的
魔物の撃退
●ロケーション
幻想国アーベントロート領にある『美少年牧場』です。
ロロン・ラプスさんの領地です。
日中で広い敷地なので、戦闘に問題ありません。
●敵
○黒鴉『風切』×1
大きな黒い翼を持った鳥型の魔物です。
強力な固体です。
鋭い爪で流血系のBS攻撃を持ちます。
○オニキスバード×12
空中に居る時はよく狙い、撃ち落としてしまいましょう。
そこそこの強さです。
●EXプレイングについて
消息不明の奴隷の行動を指定するEXプレイングにつきましては、受付対象外とさせていただきます。あらかじめご容赦の程をお願いいたします。
ただし、消息不明の奴隷の内、その場に居る九野 深杜、バイラヴア、ラクリマは可とします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●ブレイブメダリオン
このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
このメダルはPC間で譲渡可能です。
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