シナリオ詳細
<ヴァーリの裁決>月極領地、累卵の危うき
オープニング
●月極領地
オランジュベネ――そう呼ばれたその地には名義貸しを行っている一人のイレギュラーズが居た。
「それでは契約はこの通りで」
「分かりました。1月辺りの金額は……」
月極ヘイゼル領。ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)が貸し出しを行っている領地である。絢爛なる花畑に整頓された街道筋、光の裏には存在すると言いたげにスラムをご丁寧に用意したそのフィールドは『月極契約』で領地を借り受けることが出来るそうだ。
貴族達の鳥渡したバカンスに使用される其の土地は程良い程度の『領地運営』を楽しめるとして話題であった。
その管理者が名義貸しとは言えども幻想では名を轟かせるローレットのイレギュラーズ、その一人であると言うだけでも話題性はある。
契約書を手にしたクローム・グリーンの眸の娘へと「ヘイゼル様」と声を掛けられたことに顔を上げる。
「どうかしたのでせうか?」
結わえた射干玉の髪には真紅のリボン。肌に奔った刺青がトレードマークの娘だ。
領主による領地の視察――と言うわけではなく『契約関係の確認』の為に月極ヘイゼル領を訪れる予定であったヘイゼルがぴたりと足を止めれば執政官はぎこちない笑みを浮かべてみせる。
「その……契約をなさっている方からクレームが出ておりまして」
「クレーム」
「はい。近頃、幻想各地の領地にモンスターが出没する事件が頻発しております。
それは我々の領地にも変わりなく。契約者様から契約事項に違反しているとクレームが入ったのです」
――甲(お客様)は領内で起こる領民の叛乱や其れに類する事項は対処しなくてはならない。外的要因に関しては乙(弊社)が対処すること。
「……つまり、そのモンスターの対応を行って欲しいと言うことですか。成程、一理あります」
「はい。そのモンスターですが近隣で確認されているものと類似の案件であるそうで……領民役のキャストから命の危険を感じると意見も飛び出るほどに……」
さて、問題は山積みだとヘイゼルは頭を痛ませた。花唇をつんと尖らせて、整ったかんばせに苦い色を浮かべる。
「一先ずは対処を行いませう。契約違反など言い触れられては今後に関わってしまいますから――」
●管理業務
「――と、言うわけでして」
月極で領地を貸し出しているという事例は初めて聞いたと情報屋は「へええ」と唸った。眠たげな赤い瞳を更に幾つかの隈を粧って『サブカルチャー』山田・雪風 (p3n000024)は「モンスター、出たんだ」と呟いた。
「そうなんです。お陰で利用者からクレームが出ていまして……まあ、此の儘では領民役のキャストや管理職――いえ、執政官も犠牲になる可能性があります。対処をしなくてはなりません」
「まあ、まあ、そう。……執政官って管理職なんだ……」
そう言われればそうなのだろうと雪風は唸った。眠たげな青年は資料をぺらりぺらりと捲ってみせる。恵風の吹いたオランジュベネ、その地にも無数のモンスターが出現していることはローレット内でも確認されている。
王家のレガリアの一つが眠る『古廟スラン・ロウ』の結界に何者かが侵入し、レガリアが奪われたという。更には伝説の神鳥が眠る『神翼庭園ウィツィロ』の封印が暴かれた、其れ等のことに起因してのことだろうと判断されているが……。
「怪王種(アロンゲノム)が出たっぽいね。うんうん……えーと、これはヘイゼルさんの領地、というか、便宜上はそうだけど、実情は名義を貸して月極で領地を賃貸契約している場所があるんだ。其処に怪王種の出現が確認されたよ。出てきたのは巨大な猪――」
「害獣ではないですか」
そう、害獣駆除だ。
『神翼庭園ウィツィロ』よりやってきたと思われる巨大な猪は金の鎧をその身に付けて武装を行っているらしい。堂々たる居住まいの彼は領内を荒らし回っているらしい。
「利用者のクレームにも繋がってるし領内で猪ハントをして欲しいんだって。害獣駆除も立派な領主の仕事だしさ。
それに……『怪王種』であるなら、見逃せないよ。特にウィツィロからやってきた可能性があるっていうなら」
雪風はお願いしますと頭を下げた。眩い花を開かせた、美しい土地『月極ヘイゼル領』――利用者を護る為にも出陣しなくてはならない。
- <ヴァーリの裁決>月極領地、累卵の危うき完了
- GM名日下部あやめ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年04月04日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
「月極、とは珍しい形態の領地もあるのですね」
そう呟いたのは『罪のアントニウム』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)。柔らかな濃紫の瞳を細めて資料を眺めやる。
「いやはや、これは何とも発想の勝利と言いますか! 面白い領地の運用ですね!
此度のような事が起こるのは稀ですし、ほぼ手を離した状態で所得を得るのは素晴らしい商才!」
恐れ入ったと大きく頷いて『離れぬ意思』夢見 ルル家(p3p000016)が視線を送ったのは『月極ヘイゼル領』の一応の名義人、『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)であった。名目上はイレギュラーズへと与えられた領地であるが、彼女は全ての権限を貸与する形での領地経営を行っていた。
「ええ。ええ。あらかじめ決められた期間だけ領地運営を行うというのも、社会経験やらを積むためとか色々需要がありそうですね」
「領地 賃貸 ナルホド 勉強 ナル 領地 色ンナ形態 有ル」
イレギュラーズも十人十色。領地には様々な形態があるのだと『青樹護』フリークライ(p3p008595)が頷けば、元世界では姫君であった『淑女の心得』ジュリエット・フォン・イーリス(p3p008823)にとっては未だ見ぬ試みであると月色の瞳をきらりと輝かせる。
「月極で領地を貸し出し……ですか。私の世界の国では考えられなかった事ですね。混沌ならではの柔軟な考え故でしようか」
学ぶきっかけであったと姫君が感嘆すると同時に浮かんだのは自身の国の公爵の顔であった。嗚呼、屹度『領地の賃貸契約』と聞いたら彼は卒倒してしまうのであろう――
そう考えるだけでも唇は三日月を形作る。此度の依頼は当然のことながら名義人であるヘイゼルではなく管理を委託されている管理職に当たる執政官からの物であった。蒼褪めたかんばせは痩せ細り、顧客クレームに追われていることが目に見えて分かる。
「執政官って管理職だったんだ……胃薬でも差し入れてあげようかな?」
「それは良き考えです」
『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は頷くヘイゼルに「ががーん」と返した。
委任統治を任せて居れども未曽有の危機は聞いていないと顧客からクレームが来ても困るのだろう。執政官の顔を見てヘイゼルはうんうんと頷いてから対処へ向かうことを決定した。
「昨今、幻想の領地を魔物が襲撃する件が相次ぎ。私も対応したこともありますが……私の処にも来ますとは。
まあ、私の領地と申しましても名目だけで委任統治に任せていたのですが、自身で対処に当たれるタイミングで助かりましたね、経済的に」
損害はそれなりに。ならばこそ、今すぐにでも対処をせねばならないのだ。若葉色を細めたヘイゼルに同意して『騎士の忠節』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)は小さく笑みを零す。
「おう、ヘイゼルん所の貸出領地で害獣駆除だって? 困った時はお互い様だしなァ。助太刀に参上、と。 猪を狩った後は……ぼたん鍋にしようぜ!」
揶揄うように笑った『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)の悪戯めいた言葉に幾人かが同意する。
クラリーチェは「怪王種は食べれるのでしょうか」と僅かに慌てた様子だが、食欲の波に押されるように言葉は喧騒へと消えゆく。
「へぇ、物件じゃなくて領地賃貸なぁ……領地運用は齧った程度だが、勉強になるやり方だ。
で、そんな領地を荒らし回るイノブタが居るらしいな? 放っておくと被害も増えそうだし、さっさと倒して鍋にしようぜ!」
――果たして、美味しいのであろうかは定かではないけれど。少年の提案に「領地のイメージ回復につなげませう」と『名義人』は微笑んだのであった。
●
若草の香がする街道は喧騒も遠く、しじまが落ちる。流石は『月極』であるだけあってある程度の整備が行き届いていた。借主の責任の範囲で様々な政策が行われているのだろう。それらは決して派手なわけではない。幻想らしさを感じさせる街並みに、似合わぬ獣が鼻息荒く練り歩く。
周囲の人影が失せていることは幸いか。ヘイゼルが契約時に使用する土地説明を頭に叩き込んだレイチェルは特異な種であるとされようとも大きさが尋常でなかったり、頭が良いだけで獣は獣。猪の狩猟知識を生かして罠を設置し、猪の生け捕りを狙っていた。
「いやー、スラン・ロウの盗難事件からこっち、幻想各所で問題が山積みですが一つずつ解決していくしかありませんね!
土竜は倒さずともアバガルドさえ倒してしまえば問題ありません! さあ、イノシシ殿……は、此方に向かってきているようですね……」
声を潜めて囁くルル家へクラリーチェはこくりと頷いた。カモフラージュされた罠にかかる事を狙い続ける。あまり動き回られても予後の損害が大きく面倒になると領民達を動員し、柵や塀を設置しておいたヘイゼルは無事に猪を追い込めることを狙っていた。
「損害の補填としてのぼたん鍋(材料)です。さっさと、捕えさせて頂きませう」
やる気を漲らせるヘイゼルをちら、と見遣ったジュリエットはアバガルドの足元でぼこりと頭を出した土竜に気付き肩をびくりと跳ねさせた。
柔らかな七色が波を打ち、驚いたようにぱちりと瞬かれた月色。予期せぬ失敗を遠ざける指揮棒をぎゅうと握りしめた彼女は「これが土竜……」と呟いた。
「練達で拝見したことはありましたが、土竜叩きという例えは本当ですね……」
「土竜がいるとのことで、そちらも気になりはするのですが…。とにかく視界に入れば……よし、一緒に攻撃してしまいますね」
全て諸共にやってしまえば問題はないだろうとクラリーチェは微笑んだ。癒し手も数多く万全の布陣だとクラリーチェはそっと永訣の音色を響かせた。
土竜達は顔を出してはまたも潜る。そうして繰り返して生まれる穴を眺めているにも『損害』が大きくなるのだとアルヴァは地を蹴った。
踊る砂埃と、街道の固い感触が靴裏より伝わってくる。風神の加護を纏い構える全距離万能型魔道狙撃銃。
「やれやれ、これ以上荒らされると領主が困るもんでね。おらこっちだ!」
堂々たる名乗りと共に。アルヴァはアバガルドを含め土竜達を誘い込む。罠へと引き摺り込む様に展開された魔力障壁は傷を受ける事はない。
駆けるアルヴァを追ってぼこりと土から飛び出してくる土竜を見れば『土竜叩き』を益々と彷彿とさせる。くすり、と小さく笑みを零して。ジュリエットがタクトを振るえばアルヴァを支援するフリークライが統率の鬨の声を上げた。
生命の躍進に。静寂さえも生温く感ぜられる戦の教本。堅く纏う装甲は竜が如しと神霊の加護を受けた秘宝種はその場に坐する。
華やぐ心を躍らせながら『罠にかかったイノシシ』を目指すルル家は勢いよく前線へと異能を放つ。
「さぁイノシシ殿! ここであったが100年目お命……って聞いてませんねこれ! そこには元気に駆け回るアバガルドの姿が!」
――中々凶暴な存在だと、少女はぱちりと瞬いた。
揺らぐ陽の色。陽光にひかりを返した髪を揺らがせて、少女は小さく笑う。不可避の剣は余人には再現不可能とされた旅人の異能力。
ばちり、と。音を立ててぶつかるアバガルドが怯えた様に声を上げた。
「さて、土竜を相手している間に猪を押え続けるのは大変ですので、散発的な土竜の攻撃は必要経費として猪の一点狙いで参ります」
土竜の『ちょっかい』など気にしている暇はないのだとヘイゼルは錆びた棒切れを手にした。錆を取れども棒は棒。それに違いはありはしないと知りながら魔力糸を通わせてヘイゼルは肩を竦める。
「中々罠にかかりませんね」
「賢いな。……ま、アロンゲノムが相手だし。奴に罠を壊されるのは承知の上さ。一手でも稼げりゃ上々だろうなァ」
からからと音を立てるように笑ったレイチェルは頭を掻いた。飄々としている尿に見え、その右半身の紋様へ緋色の光を辿らせる。吸血種のおんなは宵の衣に身を包みアバガルドを静かに見定めていた。
「――一発喰らったらデカそうだしなァ」
呟くや否や、大輪咲き誇る弓を構え黒き血潮を紅蓮の焔へと変化させる。赫々たる焔は怒りの証。憤怒は煌々と燃え盛りアバガルドのその身を焼いた。
スティアは『楽し気な猪退治』となって居るこの状況に執政官の胃腸が更なる痛みに襲われるのではと考えた。お労しや、と考えながらも土竜は必要経費と割り切って。
魔力の残滓は白き羽となりて、アバガルドの体を切り裂いた。想いを糧にしながら、リインカーネーションをぎゅうと握りしめ、祈る。
レイチェルの罠の位置を確認し、飛び込まんとしたアルヴァの脚を竦ませたのはアバガルドのけたたましい叫び――
「―――じゃあかぁしいわ、ぼけ!」
――であった筈だった。負けず劣らずの声で叫んだアルヴァ。保護の陣を張り巡らせれども、領地が荒れ続けたら更に執政官の胃薬の量が増えてしまう。自身の領地でも執政官は胃薬を飲んで苦し気に呻いていた事を思い出してどこも似たり寄ったりなのだと少年はぼんやりと考えていた。
(……ああ。驚いた)
びくり、と肩を跳ねさせるクラリーチェはアルヴァへと治癒の魔法をかけた。指先より、静謐なる祈りへ。そうして支える担い手であるクラリーチェは突然の大音量に呆気を取られたかのように小さく笑みを零した。
そうして、アバガルドの声を遮る。周囲のモンスターを誘い出さんとする声音はアルヴァの大音量に遮られ土竜達は慌てふためき土から勢いよく跳ね上がる。まるで陸へと打ち上げられた坂の様に見えたその光景に驚くジュリエットが振り返ればルル家は「焼きましょうか」と揶揄い笑った。
奔るのは、クラリーチェの鮮やかなる光。びたん、と勢いよく土へと叩きつけられた土竜達はある種、愉快な光景に見えた事だろう。
●
「味方 猪 喉・口 狙イ 効果 確認 鎧 喉元ガード 可能性有リ 砕ケソウ?」
神翼獣が示す様に、聖なる力がフリークライへと与えた天啓はアバガルドを倒すヒントであった。攻撃に自身の意識を割かないからこそ見えるものがある。それが信条であるように見逃すまいと意識を配る。
「お困りになられている方達の為ですが、仕方が無いとはいえやはり殺生は心が少し痛みますね……」
ジュリエットが眉を寄せ刹那気に呟いた。降り注いだ一条。撃たれるアバガルドがびくりとその体を跳ねさせる光景に僅かな罪悪感が芽生える。
暴れまわる猪は今だ留まる事を知らない。追い縋るそれをいなしながらもアルヴァは喧しい獣だとそれに負けず劣らずの声を発し続けていた。
「うーん、猪も疲弊が見えてきた気がするけど、罠は直ぐに抜け出しちゃうんだね。大声対決みたいになって来たね?
向こうが『ぶおー!』って言えば、こっちでは『うるせー!』って……周りのモンスターも反応してるし、速攻戦術が一番っぽい」
小さく笑ったスティアにレイチェルが「違いねェ」と笑う。息を吸う音がする。その鼻先が空気を勢いよく求め広がったのを見逃さずレイチェルは自身の右半身の術式のリミッターを解除した。
魔力が巡る負荷を気にすることなく言霊を、ヨハンナをレイチェルとして留める糧をひとつ、ひとつと消して行く――復讐するは我にあり。
「……その声、厄介だなァ。少し黙って貰おうか」
赤き血潮が焔の如く襲い往く。アバガルドを焼く気配。飛び出してきた土竜達を包み込む激しく瞬く聖光。厳かなる葬送の鐘の音色を響かせてクラリーチェは支援の光を放った。
クラリーチェは周囲を見遣る。アバガルドの声に反応示した獣たち。其れ等がこちらへと襲い来るのも必要コストと割り切って回復の層を厚くするイレギュラーズ達とて流石にその数は無視も出来ず。
ヘイゼルはアバガルドだけを見ていた。他は必要経費だと割り切って、棒切れをアバガルドの眼前へと投げつける。驚き竦み立ち止まった猪の注意を逸らし隙を作る。
触れたその位置から怪王種の体を蝕むのは呪いであった。言葉も少なく、赤い魔力糸で結界を編み出した。アバガルドを受け止めた小規模な障壁がぱちり、と弾け音を立てる。
「こんなにも沢山……」
困った様に肩を竦めたジュリエットは土から顔を出しては直ぐに姿を潜めるそれらにどうしたものかとほっそりとした指先を唇に当てて思案する。
「ン。土竜 多イ フリック達 無視スル。ミンナ 維持」
「ええ、支えます」
フリークライと共に。癒しの響きを他方へと。光を放ったクラリーチェは土竜達の鳴き声も響き大合唱になって来たと喧騒の月極領地の様子を眺めて小さく笑った。
騒音で何らかのクレームが入る事はあるのだろうか。もし、そうだというならば動きの鈍くなりつつあるアバガルドのとどめを急がねばならないか。
アルヴァが引き寄せる巨躯の猪へレイチェルとヘイゼル、スティアの攻撃がかなり続ける。
「全く……どれだけの損害が出るのかと」
溜息を一つ。蝕みはアバガルドを包み込む。ヘイゼルの瞳とタトゥーが赤い光を帯びた。独自魔紋は彼女の体に力を与え続ける。
「貴殿に恨みはなけれどもこれも世の習い! さよならです!」
何の恨みもなくとも、そこに存在した事が罪であるとルル家はそう言った。ゆめうつつは『むげん』の如く。
無数の可能性はずるりと引き寄せ夢を見せる。アバガルドが感じたのは何かに切られたという感覚であった。それ以上もそれ以下も無い。
脚が、まだ走り出さんと動いている。それでも、徐々に速度が落ちて追い縋る事も出来ないとレイチェルの仕掛けた罠へと飛び込んだ刹那、獣は沈黙した。
●
「猪を落とせば、こちらを攻撃していた他のモンスターたちは大人しくなるはず……追撃は不要ですよね」
「ン。土竜 影響 脱シ 去ッテク 期待」
じい、とフリークライが土竜を見遣れば土の中に潜り逃げ往くのが確認された。残ったのは――『巨大な猪の死骸』
今後は土竜も寄り付かない様にと『害獣駆除』の事後対応も確りと行うヘイゼルはこれにもコストが掛かって予算オーバーだとがくりと肩を落とす。
出来る事なら今後も領地を利用し続けてくれと良いけれど。そう考えた彼女の側でアルヴァが「食事だ」と領民達へと大声を掛けた。
「ところで猪を鍋にすると『ぼたん鍋』って言うらしいな。怪王種らしいし食えるか分らんけど、死なば諸共って言うし皆で食べようぜ?」
いいよな、と指さしたアルヴァにクラリーチェは「食べれるのでしょうか」と問いかける。このままにしておけばヘイゼル領のクレームが一つ増えるだけだ。ならば、その命を無駄にせずきちんと糧にするのが立派な弔いに為る筈――だが……。
「命を奪ったならば、それを頂くことは一種の弔いにもなるのですが……食べていい種別なのでしょうか?」
「まあ、猪ですし! 食べられない事はないでしょう! 屹度! さぁ、運動の後はごちそうですよ!」
心を躍らせたルル家は解体を進めていた。先ほどまで元気よく動き回っていた猪があれよあれよと云ううちに肉へと変化していく様子を修道女は茫とした表情で眺めている。
「ここは私の出番だよね!? 大丈夫、味は保証します。……ってことでスティアスペシャルを皆にご馳走するよ。
領民役のキャストさんとか執政官さんにも振る舞ってあげた方が良いよね。皆で食べた方が美味しいからね」
『スティアスペシャル』と名の付くだけあってすごく量の多い彼女の手料理は食べ切れる様なものでもないだろう。手際よく調理を続けるスティアの手元を覗き込んでジュリエットは不思議そうに首を傾いだ。
「イノシシさんは食べるのですか? 食べた事が無いので、どの様な料理かも想像できません。
ぼたん鍋……聞いたこともない料理です。折角ですし、作り方を見学しても良いでしょうか」
「うんうん! あとは串焼きとかかな? まだ肌寒い季節だし、温かいスープとして飲める物があった方が良さそうだし!
ガッツリ食べたい人用サイズも用意してもいいかも! いろいろと作って、その後で皆と食べてもいいかも!」
「成程……」
思ったよりも『がっつり』サイズを作成するスティアにレイチェルは小さく笑う。作り続ける彼女が食にありつけるまで今暫く時間がかかるだろう。
未だ見ぬ料理を興味深そうに眺めるジュリエットは獣臭さが緩和されていく様子にもあ、と驚いた様子であった。
フリークライが楽し気な調理現場を眺めて見遣れば小さな鳥たちが彼の背へと留まり喧騒が去った事を伝えてくれる。
「さあ、準備を手伝って頂いた領民に振舞って、領地のイメージを回復しておくのですよ。それでは、頂きませう」
にんまりと微笑んだ『一応』領主のヘイゼルの声で食事会が始まって此度の仕事は終了であると執政官から感謝の口上が何故か長々と述べられたのだった。
――医者であるレイチェルの見立てでは今回は人体に有害がない事が後記として報告書に記されたのだった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
この度はご参加ありがとうございました。
とても楽しい領地防衛(?)になって驚きました。特製ぼたん鍋は屹度、契約者の皆さんも喜んでくれた事だと思います。
皆さんには『お手当』として少しいいものを。
この度はありがとうございました。
GMコメント
設定に一目惚れ致しました。宜しくお願いします。
●成功条件
『疾く猪』アバガルドの討伐
●月極ヘイゼル領
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)さんの領地。月極契約で領地を賃貸することが可能です。
管理職である執政官のヘルプ対応に皆さんは参加して下さい。美しい花畑、スラム、整頓された街道通り、其れだけ見れば普通の領地です。
キャストである領民の避難誘導は済んでいます。これ以上領地が荒らされないように対応してあげてください。
また、このヘルプ対応では僅かながらのお手当とブレイブメダリオンを取得することができるようです。
●モンスター:『疾く猪』アバガルド
素早く走り回り、強烈な体当たりを行う猪型の怪王種です。意思疎通はとても難しいでしょう。
田畑を荒らす他、手当たり次第に体当たりを行ってきます。その勢いと通り名より、速度を活かした戦いを行う事が推測されます。
その声を使用して周囲のモンスターを自身の味方に付けることが出来るようです。
●モンスター:土竜 10匹
ぴょこりと出てくるモンスターです。アバガルドに影響されて飛び出してきます。
モグラ叩き。遠距離攻撃でちょこちょことした嫌がらせを行います。
●怪王種(アロンゲノム)とは
進行した滅びのアークによって世界に蔓延った現象のひとつです。
生物が突然変異的に高い戦闘力や知能を有し、それを周辺固体へ浸食させていきます。
いわゆる動物版の反転現象といわれ、ローレット・イレギュラーズの宿敵のひとつとなりました。
●ブレイブメダリオン
このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
このメダルはPC間で譲渡可能です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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