PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>華詠みの地

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 そよ風さわやかに。
 窓辺の本のページをパラパラと捲っていく。

 ひらり、ひらり――

 湖を抱くコテージに、春を告げる花びらが一枚舞い降りた。
「ふふ、どこから来たんですか?」
 本のページに挟まった花びらを摘まんでリンディス=クァドラータ(p3p007979)が微笑む。
 てのひらの上にのせて、息をふぅと吹けば、また風に乗ってひらひらと飛んで行った。

 ここは幻想国にある華詠みの地。
 大きな図書館を擁するリンディスの領地だ。
 住人は沢山の本が並んだ図書館を自由に使え、希望した図書の複製品を進呈してもらえる。
 その為、本好きが多く集う、ゆっくりと時間が流れる場所。

 近頃は春の兆しが見られる日が多くなった。
 だから、あたたかい陽だまりで本を読むのも良いかもしれない。
 ハーブティの香りと甘いチョコレートをお供に。
 ページを捲っていく時間が、リンディスはお気に入りだった。

 ふと、視界の端に何かが横切った気がして顔を上げる。
 鳥が一羽、湖のほうへ飛び立っていった。
「あれ?」
 リンディスは目を擦って、もう一度鳥に目を凝らす。
 よく見ると、その鳥は本のページが集まって出来ていた。周りにはぐるぐると文字が回っている。
 それらは、どこからか集まってきて群れを作った。おおよそリンディス一人では対処出来ない数。
 本の鳥の中心には光り輝く白鳥がいるようだ。
「もしかして、あの鳥に操られているのでしょうか? でも変ですね。共食いでしょうか?」
 光り輝く鳥は周囲の本で出来た鳥をぱくりぱくりと食べ始めた。
 もし、あの本の鳥が図書館にある蔵書が解けたものだったとしたら……。
 リンディスは自分の想像にぷるぷると震えた。
 本を紡ぐ者として、許されざる状況。
 ともあれ、リンディスは助けを呼ぶためにローレットへと向かう。


 幻想のメフ・メフィートにあるローレットはいつにも増して人で溢れていた。
 最近幻想では大奴隷市が開催されたり、王家のレガリアが盗まれたりと大忙しらしい。
 リンディスと同じように領地を襲われたイレギュラーズも居るようだ。
 彼女は早速、ローレットのカウンターに居る『旅の占い魔女』セスカ・セレスタリカ(p3p007979)に事情を説明する。

「というわけですねー。リンディスさんの領地が光り輝く鳥と、本のページで出来たモンスターに襲われているんですよー。それを、皆さんで退治して欲しいんですー」
 のんびりした間合いでセスカはイレギュラーズに依頼内容を説明した。
「その光り輝く鳥って、どんななの?」
「えっと。それは私から説明します」
 イレギュラーズの問いかけにリンディスが立ち上がる。
「光り輝く鳥はどこかから飛んで来て、私の領地の上空に居座りました。
 どうやら住人が持っている複製書から飛び出したページが鳥の形となって、その光り輝く鳥の周りに集まっているようです。その本の鳥を養分としているのか、時々摘まんで食べて居るようです」
「本がたくさんあるから食料には困らないんですねー」
 複製書ならまだ良いが、図書館の本書まで飛び出してしまったら大変な事になってしまう。
「まだ人的被害は出ていませんが、いつ攻めてくるかわかりません。
 どうか、被害が出る前に光り輝く鳥を追い払うのを手伝ってくれませんか」
 お願いしますと頭を下げるリンディスとセスカ。

 目指すは美しき湖のほとり――華詠みの地。

GMコメント

 桜田ポーチュラカです。華詠みの地の光る鳥を追い払ってください。

■依頼達成条件
 光輝く鳥を撃退する

■フィールド
 幻想にある華詠みの地。リンディスさんの領地です。
 時間は昼です。広場があり、その周りにはお花が咲いています。

■敵
 光輝く鳥×1
 大きな光輝く鳥です。
 調査の結果、雷の化身のようです。
 雷の技を使ってきます。痺れたりするかもしれません。
 周りの本の鳥をぱくぱくつまみ食いします。
 つまみ食いすると少し体力が回復するようです。

 本の鳥×15
 住民の持っている複製書がバラバラに解けて鳥の形になっています。
 体当たりをしてきたりします。
 文字を飛ばして近~遠を攻撃してきます。

■同行NPC
『旅の占い魔女』セスカ・セレスタリカ(p3n000197)
 世界中を旅して占いなどをしている魔法使いの女の子。
 旅の路銀も少ないため、もっとギルドに顔を出そうと決意した。
 魔法を使って攻撃や回復を行います。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

  • <ヴァーリの裁決>華詠みの地完了
  • GM名桜田ポーチュラカ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月30日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
傲慢なる黒
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
セリカ=O=ブランフォール(p3p001548)
一番の宝物は「日常」
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)
航空指揮
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
しにゃこ(p3p008456)
可愛いもの好き

サポートNPC一覧(1人)

セスカ・セレスタリカ(p3n000197)
旅の占い魔女

リプレイ


 幻想国は華詠みの地。
 春を告げる風が『夜咲紡ぎ』リンディス=クァドラータ(p3p007979)の艶やかな髪を揺らす。
「まずは集まってくださった方々にお礼を……ありがとうございます」
 例え図書館にある原本の複製だったとしても、それはこの地を選んで過ごしている領民が時間を使って選んだ宝物だ。複製された時点から、その人の物になり、同じ時を刻んでいくのだ。
 選んだ人にとっては大切な本。煤けてしまった表紙もくたくたになった紙もそれだけ同じ時間を過ごした証拠なのだ。
「これ以上の被害を及ぼさない為にも頑張りましょう」
 リンディス達が救うのはそういった思い出のページだ。
「本って凄いですよね! 読んでると眠くなるし、そのまま枕にしてもヨシ!
 睡眠の強い味方です! そんな本を食べるなんて許せません! しにゃが退治してあげましょう!」
 勢い良くぴょんぴょんと跳びだした『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)はうんうんと頷いたあと、くるりとリンディスに振り返った。
「あれ、なんかリンディスさんの視線が痛い!」
 リンディスはしにゃこに近づき、ほっぺをむにむにと挟み込んだ。
 百歩譲って読んでいると眠くなるのは仕方の無い事なのかも知れない。だが、枕はいただけない。
「本は大切に」
「は、ひゃぁ~い」
 ぺいっと手を上げて返事をするしにゃこ。

「花咲き乱れる綺麗な領地を荒らすものは許せません……なのですが。これは……」
 目の前に広がる光景に『罪のアントニウム』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)は目を奪われる。
 リンディスの領地から飛んで来た本『だった』であろう鳥のようなものと、光を纏った鳥のようなもの。
 物珍しさにクラリーチェは圧倒されていた。
『一番の宝物は「日常」』セリカ=O=ブランフォール(p3p001548)もじっと上空に飛んでいる光る鳥を見つめる。
「あれが、本を鳥にして、食べちゃう鳥!?」
 思った以上に大きくてパチパチと光る鳥に、あわあわとセリカは慌てた。
「本を鳥の形にする、鳥……?」
「食べる鳥でしょうか。なんとも珍しい鳥ですね」
『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)と『月下美人』雪村 沙月(p3p007273)も上空に居座る光る鳥に首を捻る。
「なんだか不思議な存在だね。そもそもその鳥自体も本当に鳥なのかな……?」
 何か本に由来のある生き物なのだろうか。何を目的としてこの場に留まっているのだろうか。
 本のページに書かれた知識を吸っている可能性もあるとアレクシアは考え込む。
「とはいえ、捨て置くわけにはいきませんね。書物は先人達の知識が形になったものですから……」
「うん。興味は尽きないけど、本を台無しにされるのは黙ってみてられないし、なんとかしないとね!」
 沙月は落ち着きを取り戻すように深呼吸をする。
 クラリーチェも目を瞬かせ、一息吐いた。
「できれば本と言いますか、ページと言いますか……紙? は傷つけたくありませんが……難しいかもしれませんが、気持ちだけでも」
 リンディスの領地に住む人々が大切にしてきた本の一ページなのだ。
 そこには思い出が詰まっているに違いない。日々の生活に疲れ癒やしを求める人も居ただろう。冒険譚に胸を躍らせる子供も居ただろう。誰かの夢であったり、拠り所であったりするのだ。
「リンディスさんの大切な本の為にも、何とかしてあげないと!」
 セリカは拳をぐっと握って走り出す。

「難儀な魔物もいたものだ」
 二つの刀を構え『死神二振』クロバ・フユツキ(p3p000145)は上空に舞う光の鳥を見据えた。
「本をついばむとか俺にしてみればあまり読む機会がないのでそこまでとしか思えないんだが、きっと本が好きな人間にしてみれば驚天動地っていうか不倶戴天というべきか」
 人それぞれ大切だと思うものは違うだろう。
 クロバにとっては『本』はそれ程重要なものではない。けれど『大切なもの』を大切だと思う気持ちは分かっているつもりだ。造られたものとして存在する自分にも、感情や情動があるのだから。
 仲間のピンチを助けるのも、自分の意志なのだ。
「よし、なんとか早々に撃破して少しでも被害を減らそう」
 クロバは先んじて前に走り出す『騎士の忠節』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)を捉える。
「大事な本を食われたりでもしたら地獄絵図だな。俺も書庫に籠りっぱなしになることが多いしさっさと追っ払うぞ」
「おうよ!」
 魔道狙撃銃を構え、光の鳥をスコープで覗き込むアルヴァ。
「てか、コイツ何処から飛んできたんだ? 本の鳥と群れているが怪王種とはまた違う、のか?」
 怪王種(アロンゲノム)は進行した滅びのアークによって世界に蔓延った現象の一つだ。
 生物が突然変異的に高い戦闘力や知能を有し、それを周辺固体へ浸食させていく。いわゆる動物版の反転現象といわれ、ローレット・イレギュラーズの宿敵のひとつだ。
「どうでしょうか。怪王種とはまた違ったものの様な気がします。ただ、これから変じる可能性は十分に有り得るでしょう」
 アルヴァの問いかけにリンディスが答える。
「既に食われた本は元に……戻らないよなぁ?」
 覗き込むスコープに光のロチが映り込んだ。大きい的は当てやすい。
「恐らくは元には戻らないでしょう」
「まぁ。これ以上、本をつまみ食いされては堪らない、か」
「飛んでるけど、届くか? アルヴァ」
 アルヴァは暗い瞳でクロバに頷く。クロバでは上空に飛んでいる光る鳥を攻撃するとこは出来ない。
 頼みの綱はアルヴァなのだ。
「問題無い」
 狙い澄ましたアルヴァの弾丸が空を飛んでいく。
 空を裂き走って行く弾丸は光の鳥に当たった。
 戦闘の幕が上がる――




「食いもんが紙で大人しければ、捕獲して飼ってやるんだけどな」
 アルヴァは光り輝く鳥を見上げてそんなことを呟く。
「雷の化身ってちょっと格好いいし、怪王種とかでもないのなら」
 本を食べるのは厄介だし、凶暴だと変えないがペットに出来たら楽しいだろう。
 研ぎ澄まされたアルヴァの攻撃が上空の光り輝く鳥に的中する。
「やるな。だったら、俺達は周りの本をなんとかするぜ!」
 アルヴァの攻撃を見ていたクロバが頼もしいと頷いた。双剣を掲げ本の鳥へと襲いかかる。
 クロバが放った刃が本鳥を刻み、バラバラとページが舞い散った。
「保護結界を張ってるから被害は多少抑えられるけど、あんまりデカい攻撃は防げねぇからな。皆も一応気を付けてくれ!」
「分かったよ!」
 クロバの言葉にセリカがこくこくと頷く。
「セスカさんも本好きですか? なんか見た目的に滅茶苦茶読みそうですね! 魔法使いと言ったら本かなって! 偏見ですか!?」
 しにゃこは『旅の占い魔女』セスカ・セレスタリカ(p3n000197)に食い入るように問いかけた。
「あははー、本を読むのは大好きですよー。魔術書もそうですけど、冒険譚も好きですねー」
 のんびりとした口調でしにゃこに返事をするセスカ。
「セスカさんには回復メインで動いて貰いましょう! 前はしにゃ達にお任せです!」
「あ、でも最初は攻撃に回ってもらった方がいいんじゃないかな?」
 アレクシアは頭上の本鳥を指差して円を描く。
「魔法使いってことでちょっと親近感を覚えるね! っと、今はそんな場合ではないけれど!」
「いえいえ。大丈夫ですよ。うーんと、じゃあ最初は攻撃からでー!」
「そうだね! まかせるよー!」
 アレクシアの合図と共に魔法を空へと打ち上げるセスカ。
 それに続くように、アレクシアの足下に巨大な魔法陣が展開する。陣から現われた茨が本鳥に絡みつき、状態を保てなくなったページがぱっと弾けるように飛び散った。
「元々が本、ということでちょっと攻撃するのは気がひけるけれど……そうは言ってられないものね
 あとで直してあげるから、今はごめんね!」
 次のターゲットへと狙いを定めるアレクシア。
 本鳥はしにゃこへと急降下して体当たりを仕掛ける。
 だが、余裕の表情で本鳥の体当たりを受け止めるしにゃこ。
「本を枕にして寝た時のリンディスさんが放つ本の角の方がまた痛いですよ!」
「どういう事ですかー!」
 回復を施しながら、リンディスはしにゃこにツッコミを入れた。

 沙月は嫋やかな指先を凜と張り詰めて本鳥に相対する。
 狙いは本鳥が沢山集まっている場所だ。
 流れる様な所作から放たれる連撃。捉えることが難しいその所作は、水面に映る月影のよう。
 沙月の攻撃によって桜の花弁が舞うように、本のページがひらひらと宙を流れて行く。
 ふと、沙月の視界の端にイレギュラーズでは無い誰かが居るのに気付いた。
 戦闘の物音に気付いた住民が何事かと見に来たのだろう。自分の大切な本のページを追いかけて来たのかも知れない。
「ここは危ないですから、避難してください。終わるまで暫しお待ち頂ければと」
「え、ええ。すみません。お願いします!」
 イレギュラーズが居るなら安心だと、足早に去って行く女性。
「じゃあ、出来るだけ多くの敵を巻き込めるようにねらっていくけど。その前に!」
 セリカはポーションを魔力を込めて振りまき、光の帳に変える。
 彼女の魔力を取り込み膨らんだ防御結界が一番攻撃を受けるであろうアルヴァへと降り注いだ。
「すまない」
「ううん。大丈夫。皆で一緒に力を合わせてがんばろー!」
 セリカの隣に立っているクラリーチェは本鳥へと手を翳す。
「大人しくしてくださいね」
 なるべくなら誰かの大切な本を傷つけたくない。
 だから早急に終わらせるのだとクラリーチェは狙いを定める。
「狙うは本の鳥。これを残しておけば、輝く鳥が体力を回復してしまうようですので……」
 クラリーチェは攻撃集中からの、一撃を本鳥に叩きつけた。

 ――――
 ――

 しゃにゃこの傷をリンディスが癒していく。
「ははー! 流石リンディスさんの回復ですね! すっかり痛くないのです!」
「良かった……あと少しです。頑張りましょう」
 本の鳥はイレギュラーズの連携で数を減らし、とうとう光り輝く鳥だけになっていた。
「雷を切れるかどうかがわからないけど、やってやれないことはないと思えばなんとか……!」
 クロバは双剣を振り翳し、地上に降りてきた光り輝く鳥を切り裂く。
「うん、きいてるね! 一気に畳み掛けてしまおう!」
「おう! そうだな! 行くぞ!」
 アレクシアとクロバのかけ声にイレギュラーズは拳を上げた。

 空をクラリーチェの一撃が駆け抜け、追従するよに沙月の手刀が叩き込まれる。
 セリカが放った光は戦場を包み、リンディスとしにゃこのコンビネーションが花を添えた。
「悪いね、本の恨みってことで勘弁してくれや」
 狙い澄ましたアルヴァの刃は、全てを断ち切る光となる。
 弾けるように飛び散った光り輝く鳥。
 あとに残ったのはヒラヒラと風に舞う沢山の本のページ。


「あーあー、ええと……本は直した方がいいよな?」
 アルヴァは地面に散らばった本の鳥だったものを見つめる。
 地面には沢山の紙が所狭しと落ちたいた。結構な量である。
 本の鳥を撃破したのだ。仕方の無いことだろう。
「とりあえず集めるか」
 複製書とはいえ、修理が出来れば良いんだがとリンディスの元へ集めるアルヴァ。
「……破けていたらテープで、ページは紐で纏めておくとしよう」
「あっ、待ってください。テープはだめです」
「む……そうなのか?」
 テープを手にしたアルヴァをリンディスが制止する。
「紙が劣化してしまうんです」
「じゃあ、ガムテープなら問題ないのです!」
 ビッっと茶色いテープを手にしたしにゃこにリンディスの殺意の籠もった視線が突き刺さる。
「こら! めっですよ!」
 口調は比較的優しいものだが、リンディスの目は本気だった。
 しにゃこはガムテープを持ったまま、頷く他なかったのだ。
「成程。それは大変だ。ここ以外のページは全部あるみたいだからな。どうしたら……?」
「わたしに任せて!」
 セリカは破れたページを手にして意識を集中させる。
 それはセリカのギフト。使い手や作り手の「思い出」の光景と共に、道具を「壊れる前の状態」に蘇らせる能力だった。
 光に包まれた本のページは元通りになる。
「おお」
「すごいですね」
「えっへん! 『思い出』が強く、たくさん詰まった物ほど成功させ易いんだけど、特殊な物だと失敗し易くて、1つの物に使えるのは1度だけなんだ。それでも、リンディスさんや、ここにある本を書いた人や読んだ人の思い出の結晶、破れたままにはさせないから……!」
 セリカはぎゅっと拳を握り、リンディスに頷く。
「ありがとうございます。セリカさん」
「じゃあ、俺はまたページを集めてくる」
「お願いします!」

 クロバは飛び散った本のページを拾い集める。
 修繕出来るものはできる限り手助けをするつもりなのだ。
「ホッチキスで止めるのはさすがにダメだよな……っていうかあるのかここに?」
 練達であればよく見かけるものだが、幻想の華詠みの地にあるかは疑問が残る所だ。
 書類を留めるのに便利ではあるので、イレギュラーズであるリンディスが持っている可能性はあるかもしれない。
「まぁどうやらなんとかなるみたいだからページ数とかには気を付けてまとめておけばきっと大丈夫なはず……だよな?」
 地面に落ちている絵本の一ページを拾い上げて、クロバは懐かしさに目を細める。
「そういえば絵本とか妹に読んでやってたな」
 小さい頃の思い出が胸を擽った。セピアに色あせる光景の中に妹の笑顔と読み聞かせる自分の幼い声が耳の奥に木霊しているようだ。

「複製ということは原本があるという事ですよね。補修できればいいのですが、それがかなわない場合
せめて原本から再度頁を複製して製本。ご本人にお渡しする……等はできないでしょうか」
 バラバラになった本のページを両手一杯に抱えたクラリーチェがリンディスの元へやってくる。
「えっと、出来ます」
「本当? 良かった。なら、どんどん集めてきますね」
「はい!」
 本は捲る度にその世界に飛び込める素敵なものなのだ。
「その本を手にした経緯そのものが、その人にとってかけがえのない思い出だったりしますから」
 クラリーチェは一つの絵本のページを手にして微笑んだ。
「――なるべく、大切に」
 この本を待っている誰かのために。
「何か特別な技術を持ってるわけじゃないから完全に元通り、とはいかないかもだけど……」
 アレクシアは地面に落ちているページを一枚ずつ拾い上げていた。
 自分は特別な技術を持っている訳では無い。しかし、出来る範囲なら手伝える事があるはずだから。
「それにしても、光輝く鳥はどこから来たんだろう? ちょっと気になるね……」
 アレクシアは空を見上げて光輝く鳥が来た方向を見つめた。
 同じように沙月も地面に落ちているページを回収していく。
「傷まないように丁寧に拾い集めるようにします……おや?」
 沙月は視界の端に通り過ぎたしにゃこを追いかける。
「えっとーですね。屋根の上にページがいっぱいあるのです!」
「なるほど。屋根の上に引っかかってるのですね。ここは私にお任せ下さい」
 ふわりと飛び上がった沙月は屋根の上に引っかかったページを一枚一枚丁寧に回収していく。

 しにゃこは両手一杯のページを抱えてリンディスの元へやってきた。
「しにゃは細かい事苦手なんであとは応援するだけです! がーんばれ! がーんばれ!」
 言いながらしにゃこはページを一枚拾い上げ、紙ヒコーキにしてみたいという欲求に駆られる。
「1ページくらい紙ヒコーキにして遊んでもバレませんかね……?」
「しにゃこさん?」
 悪戯心を敏感に察知したリンディスはしにゃこの脇腹をトンっと突いた。
「しにゃ……」
「もう。これ上げますから。一枚だけですよ?」
 弱点である脇腹を突かれ沈んだしにゃこにリンディスは紙ヒコーキ用の白紙を一枚手渡す。
「本の補修まで気がけて下さってありがとうございます」

 抜けてしまったページはリンディスのギフトで複製を作り、補完する。
 修復は進んで行きついに最後のページをアルヴァが寄越した。
「これで全部か。少し眠いし、どこか昼寝ができそうな場所は無いか?」
「えっと、湖畔のコテージはとても寝心地がいいですよ。
 良かったら皆さんにも本を一冊いかがでしょうか。
 せっかく助けて頂いたんです。少しだけでも―ゆっくり、読書されて行きませんか?」
 リンディスの声に、仲間はお気に入りの本を一冊手に取る。
 春を告げる風が華詠みの地に吹いていた。

成否

成功

MVP

アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)
航空指揮

状態異常

アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)[重傷]
航空指揮

あとがき

 イレギュラーズの皆さん、お疲れ様でした。
 無事にリンディスさんの領地を守る事ができました。
 MVPは奮闘した方へお送りします。
 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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