PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>死人の襲撃

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●それは死して腐りし屍である
 足音が響いた。それも大量の。
 地響きは重く、そして行軍のような規則正しい音を立てている。
 集団で現れたソレらは、腐った臭いを撒き散らし、その腐乱した足で場所を荒らしていく。地面にまで腐った臭いが染みつくのではないかと思うほどの。
 先頭をゴブリン、次にオーガが歩き、最後尾に魔術師風の骸骨が宙に浮いて進んでいた。
 腐った臭いからわかる通り、ゴブリンとオーガの体は虫がたかっている程に腐っていた。目に生きているような光が見えない事から、アンデッドであろう。その数は双方共に十体程度。
 オーガは金属製のハンマーや斧といった武器を所持し、ゴブリンは棍棒やスリング、弓矢を所持している。
 魔術師風――――フード付きの黒いローブを纏った骸骨は二体。空中に浮き、ゴブリンとオーク達の後ろを追う彼らの手には、わかりやすく杖が握りしめられていた。指揮棒のような形をした木の杖だ。
 「キェェェェ……」と奇声を発し、杖を振る。進め、というように。
 彼らは進む。何かを目指して。
 その足が進む先には――――

●急募! 応援!
 次から次へと依頼が舞い込むローレットは今もてんてこ舞いだ。
 何せ、幻想の闇市における奴隷事件の勃発に加えて、先日『古廟スラン・ロウ』から王家のレガリアが一点盗まれたという極秘情報がイレギュラーズに伝えられた。
 そして、最近あちこちの領地に怪物が襲撃しているという事も。
 無論、貴族達の領地ばかりではない。イレギュラーズの一部が治める領地にも襲撃の矛先が向けられている。
 そういった事が立て続きに起きている為、依頼が今も途切れる事は無い。
 次にイレギュラーズが受ける事になった依頼は、その一部のイレギュラーズが運営している領地についてだ。
 呼ばれたイレギュラーズの中にヒィロ=エヒト(p3p002503)と美咲・マクスウェル(p3p005192)の姿がある。
 情報屋の優男は伊達眼鏡を小さく直すと、改めて目の前の人物達に目的の場所を告げる。
「襲撃者達が向かっているのはヒィロくんの領地みたいだね」
 呼びつけられた本人――――ヒィロはそれを聞いて眉を顰めた。
 彼女の領地に居る執政官より届けられた火急の知らせ。
 情報屋より渡された執政官からの手紙を読むと、アンデッドのオーガとゴブリン、それから魔術師風の骸骨(仮称としてリッチと呼ぶ事にする)がヒィロの収める領地に向けて進んでいるようだとの情報が入ったとの事。また、情報から推察するに、進行方向は花畑のある方面らしい。
 このまま進めば家屋だけでなく水田などの場所も踏み荒らされるであろうし、何よりそこには水田や人々が暮らす為に用意した上水がある。そこを破壊されては元も子もない。
 なので、早急に討伐してほしい事の嘆願が綴られていた。
 読み終えて、ヒィロは大きく頷く。
「皆を守るためにも倒さないといけないね?」
「そうね。人の平和を脅かす者は倒さないとね」
 美咲からも賛同の意を得て、彼女は情報屋の男を見据えた。
「急いで倒しに行くよ!」
「よろしく頼むよ。……まったく。なんでこんな事になったのやら」
 情報屋の後半の言葉に答えられる者は誰も居ない。

GMコメント

 ヒィロさんの領地に向かう襲撃者が現れました。
 ゾンビ化しているゴブリンとオークはリッチの指揮の下進んでいるようです。
 上水が破壊される前に討伐してください。

●達成条件
・リッチ、オーガゾンビ、ゴブリンゾンビの討伐

●敵情報
・リッチ×二体(AとBに分かれる)
 アンデッド系の魔術師タイプです。
 A:回復(神・遠・範)に長けています。主に体力やBSの回復を行ないます。
 B:支援(神・遠・域)に長けています。味方には【追撃・中】や【弱点】などで支援し、イレギュラーズへは【混乱】や【不運】を仕掛けてきます。
 どちらもMPは高めですが、HPはさほど高くありません。
 共通して【精神無効】を所持しています。

・オーガゾンビ×十体
 主にリッチの護衛として動いています。自分達からは積極的には動きません。
 金属製のハンマーや斧といった近接武器を扱います。
 振り回す事(物・至・範)が得意で、力任せに振るう事が多いようです。
 また、巨躯を生かして地鳴り(物・近・範)をする事もあります。こちらは【体勢不利】を伴う事があります。
 HPは護衛なだけあり、かなり高めです。
 また、全員に共通して【EXF】が高めとなっています。

・ゴブリンゾンビ×十体
 尖兵として動いています。積極的に仕掛けてきます。
 棍棒やスリング、弓矢などの武器を使用します。
 棍棒では単純攻撃(物・至・単)を行なってきますが、木の棒に石を括りつけているので、当たればかなり痛いと思われます。
 スリング(物・近・単)では、主に石を使って攻撃してきます。
 弓矢(物・近・単)では、普通の矢に混じって【猛毒】か【痺れ】を伴う矢を放つ事があります。
 HPはそこそこに高いですが、オーガほどではありません。
 また、全員に共通して【EXF】が高めとなっています。

●リプレイ開始時
 花畑の入口にて待ち構える状態からの戦闘になります。
 対面する形での戦闘です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

  • <ヴァーリの裁決>死人の襲撃完了
  • GM名古里兎 握
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月30日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

R.R.(p3p000021)
破滅を滅ぼす者
レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
シャルロット・D・アヴァローナ(p3p002897)
Legend of Asgar
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
ソア(p3p007025)
無尽虎爪

リプレイ

●その腐臭の進軍を止めよ
 花畑の入口に到着したイレギュラーズ。
 向こうから見えてくるのは魔物の進軍。それと同時に風に乗って運ばれてくる腐臭。
 思わず誰もが顔をしかめる。
 『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)が鼻を押さえながら呟いた。
「うわキッツ、結構腐臭が鼻に来るっスね……。
 アレだと死んでそれなりに経つかもな、いやだから何だって話っスけど」
 『虎風迅雷』ソア(p3p007025)も鼻を押さえつつ、見えてきた敵の姿に眉を顰めた。
「うっ、臭そうな敵がいっぱい!」
 嗅ぎたくないと顔が言っていた。
「どこぞの再現性東京でもゾンビ騒ぎがあったが……幻想でもか」
「アンデッド軍団とか、どうやっても歓迎できないやつ……」
 『破滅を滅ぼす者』R.R.(p3p000021)の呟きに続き、『あの虹を見よ』美咲・マクスウェル(p3p005192)が溜息交じりに呟く。
 R.R.にとっては、別の場所で遭遇したのにこんな所でもかという心境だろう。
 美咲の場合は、親しい間柄である『ハイパー特攻隊長!』ヒィロ=エヒト(p3p002503)の領地に足を踏み入れた時点で不快なものと認識している。
「……アンデットか」
 『竜の力を求めて』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)は、確認するように呟いた。今の彼の姿は黒翼を背に携えた天使のような姿を取っている。
「不死に近い存在ならば、しかとデータを取らせてもらう」
 その前に、と彼はドローンを飛ばす。上水地点に別動隊が居ないかどうかを監視させる為だ。
 命令を下されたドローンが飛んでいく。
(憐れな……)
 死してなお利用されるアンデッド達に、憐憫を覚えつつも、『オトモダチ』シャルロット・D・アヴァローナ(p3p002897)は彼らを安らかな眠りにつかせる為戦う事を決意する。
 『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は、アンデッド達の数を見て眉を顰めた。
「アンデッドがどこからこんなに……」
「うん? どゆ事?」
「何も無い所から現れたりはしないでしょう……?」
 横から質問してきたソアへ、アレクシアは疑問の理由を答える。
 そういえば、という顔をするソア。
 そこへヒィロが現れて、口を開いた。
「どこから来たかはわからないけど、せっかくたくさんの領民が集まってくれた領地だもん。
 絶対守り切るんだ!」
 領主として意気込みを見せる彼女へ、美咲も「同意ね」と頷いた。
「あちこちの領地に襲撃が来てるそうだけど、全くお呼びでない来客は、土に還ってもらいましょ?」
「うん!」
「まずは、数の劣勢を何とかしていこう」
「あ、それなんだけど、提案があります!」
 挙手したヒィロへと注目が集まる。
 彼女は不適な笑顔で言葉を続けた。
「ズバリ! 美咲さんの最大効率『連鎖行動』で一気に叩き潰しちゃおうストリーム!」
 作戦名に周囲からもう少しネーミングどうにかならなかったのかという視線が来たが、それはさておき。
 ヒィロと美咲の二人ならば連携は上手く取れるだろうし、自分達も戦いには覚えがある。何とかなるだろうという雰囲気になってきた。
「まぁいい、どこに何が出てこようとも、そいつが破滅をもたらす存在であれば滅ぼすのみだ」
「そうだよね。理由は気になるけど、まずはここを凌がないといけないね」
 R.R.の言葉に対し、アレクシアも頷く。
 葵が右の拳を左の掌に叩きつける。
「あんなのが居座られたら、領地に入りすら出来ねぇな。
 ここできっちり叩き潰して、平和を取り戻すっスよ!」
「ええ、そうね」
 シャルロットも彼の言葉に頷いてみせる。
「まずは仕掛けてくるゴブリンを綺麗に片づけよう」
「わかった! ゴブリンゾンビからだね!」
「了解だよ!」
 美咲の提案を聞き、ソアとヒィロが元気よく返事した。
 まずはゴブリン、次にオーガ、リッチ、という順で片付ける事になったのだった。
 花畑を荒らす輩達には土にお還りいただかねば。

●腐ってもなお強き存在
 尖兵として前線に立つゾンビゴブリン達。
 先に彼らを片付けるべく、イレギュラーズの何名かが前に出た。
 ゴブリンゾンビ達の内、弓矢を構えた者達が弓矢を放つ。回避に強い者達ならばそれを避けるのは容易い。
 振り回される棍棒やスリングを受ける前に、まずはヒィロが彼らの中央に向けて躍り出た。
「ボクが相手だよ!」
 発された闘志。振りまかれるは彼らへダメージを与える為の布石。
「ギ……?」
 知性が僅かに残っているようなゴブリンゾンビ達が首を傾げる。
 そこへ叩き込まれる、後衛からの攻撃。
 R.R.による破滅の魔弾。構えたマスケットから撃ち出されたいくつもの魔弾はヒィロの周りのゴブリンゾンビ達へと命中する。彼らは今の自分達に入ったダメージが思った以上に大きい事に困惑しただろう。
 彼らの視界に映る多頭海蛇の頭。レイヴンが召喚した八つ頭の大蛇だ。八つの頭はゴブリンゾンビ達を見つめ、その顎を開き、息を吸う。
「肉は無いが、歯ごたえだけはある連中だハイドロイド。
 最も、お前にはただうっとおしいだけだろうがな」
 召喚者であるレイヴンの言葉にハイドロイドと呼ばれた大蛇は何も返さず、一瞥するだけだった。
 尖兵達が大蛇へと注意が向いたのを見逃すはずもない。
 シャルロットがその内一体の前へと踏み込み、二本の妖刀を操る。斬りつけられたと認識するまでに僅かな時間がかかり、その後に悲鳴が上がる。
「隙だらけね……。いくら死体と言えどもあまりに武がない……」
 意外だ、という顔を一瞬だけしてみせた後は、すぐに戦いの顔つきへと戻る。
「シャルロット! 避けて!」
 美咲の一言が彼女を横へと走らせる。今し方まで居た場所に、先程の八つ頭の大蛇が放った魔力水の一つが着弾した。
 圧縮された魔力水は砲撃かと思う程の速度で放たれ、着弾する。八つ分の魔力水が広い範囲で着弾し、ゴブリンゾンビ達へ深手を負わせる。
「なかなか倒れないね! さあ、今度こそおやすみ! いっくよー!」
 ソアが走り、至近距離まで近付く。もう一人の自身の力を発揮して、彼女は光の一撃をお見舞いしてみせた。時間さえ置き去りにする一撃は敵を地面に沈めるのだった。
 ここまで至近距離で近付かれては弓矢を使うのは悪手と判断したのだろう。棍棒やスリングへと持ち替え、イレギュラーズへと襲いかかるゴブリンゾンビ達。
 しかし、度重なるダメージを受けている為か、動きの精彩さは欠ける。結果、避けられる者が多い。
 背後からゴブリンゾンビ達に向けてリッチ達の支援が入る。体力を回復させる魂胆らしい。
 だが、一体を沈めた以上、他のゴブリンゾンビ達も地面に沈むまでは時間の問題。
 もう一度ヒィロの闘志が周囲へと発され、次に葵が赤いエネルギーを纏ったボールを放った。跳ね返りなどを計算しつくしたその一撃はゴブリンゾンビ達の二、三体へと入った。
 そこへ、美咲がトドメを刺すべく前へと踏み出した。
「こいつらには細かく指示していなさそうかな?」
 最初の一手で複数を沈める事は出来なかったし、回復もされたが、自分達の攻撃以上の回復はされないと踏んだ。
 故に、彼女は振るった。ラヴィアンローズと名付けられた腐食の結界を。死へ誘う為のエンピレオの薔薇を伴って。
 一体ずつ苦悶に顔を歪めて地面へと倒れていくゴブリンゾンビ達。
 尖兵を倒した後の次なる敵はオーガ。彼らに対してリッチが支援するだろうが、そうはさせないようにするしかない。
 また、自分達への妨害も考えられる。だが、自分達にはアレクシアがが居る。彼女の力は自分達にとって助けとなる。
 ヒィロはオーガとリッチ達を見据えて口を開く。
「ゴブリンゾンビ如きじゃボク達の相手にならないね。
 そっちの骨とデカいのは多少歯応えがあるかな? あはっ」
 どこか楽しそうに言うヒィロ。しかし、顔は真剣そのもの。
 オーガを引きつけるべく、ヒィロが再び前に出る。既に魔力障壁は展開済みの為、オーガが攻撃してきても問題は無い。
 振り下ろされる金属のハンマー。魔力障壁が彼女を護ってくれる間に、彼女は闘志を発する。その闘志が煩わしく感じたか、オーガ達が彼女へ向けて歩みを進める。
 それは即ち、リッチから離れるという事。
 リッチが持つ指揮棒のような木の枝が動く。オーガゾンビに向けられたのを見て、「おっ」という顔をするヒィロ。
 しかし、そこへハイドロイドによる圧縮された魔力水が放たれた。
 着弾し、オーガ達だけでなくリッチも巻き込んだその数多なる一撃は、彼らにとって予想以上のダメージを与えるに至る。また、オーガゾンビがリッチを庇う真似も見られる事を確認した。
 R.R.がいくつもの魔弾を放ち、オーガゾンビやリッチを狙う。
 もう一体のリッチがイレギュラーズへと木の枝を向ける。放たれたものはイレギュラーズに混乱をもたらそうとする。
 だが、彼らを支援するアレクシアがその効果を打ち消した。
 前線へと進んだ彼女は、オーガ達と対峙する仲間達を最大限支援する。
「私がいる限り、絶対に誰も倒れさせやしないんだから!」
 それは特異運命座標として活動する道を選んだ自分の決意。
 「兄さん」と呼び慕った冒険者のように、一人でも多くの人を護りたい、助けたい。それが彼女の決意。
 故に、彼女は支援する。仲間が倒れぬように、少しでも多く回復させるべく。
 ソアがオーガ達の後ろに回り、ニヤリと笑う。
「びゅーん! これで丸裸になっちゃえ!」
 魔を宿した爪で虚空に次元の裂け目を刻む。そこから現れたのは異界より吹き荒れる瘴気。そしてそれに巻き込まれたオーガゾンビ達の体が飛んでいく。ゴブリンよりも体躯が大きい為にそこまで飛ぶ事は無かったが、リッチと引き離す事には成功した。
 オーガゾンビ達に向けて、シャルロットが問う。
「混沌の世に蘇りはない以上、お前は死体を介する何かでしかない……。その動きに微かな知性を感じるがゆえに問う、お前は何か?」
「ギ……ギィ……」
 返答は無く、ただの声のみがオーガゾンビから発された。
 溜息をつきたいのを堪え、彼女は一体を少し離れた場所から不知火で斬りつける。膨張した黒の大顎を形作りしそれは、オーガゾンビを貪り食らっていく。
 残るオーガゾンビの内一体が足を振り上げ、下ろした。踏み鳴らされた地面は揺れ、オーガゾンビ達の周囲に居るイレギュラーズの体勢を崩す。
 他のオーガゾンビ達が斧やハンマーを振り回す。かろうじて避けたものの、衝撃は体に走り、傷となる。
 それをアレクシアが癒やし、感謝の言葉が彼女に贈られた。
 更なる攻撃を防ぐべく、葵の赤いエネルギーのボールがシュートされ、オーガゾンビやリッチ達を牽制した。
 そして、その間にリッチへと近付く影が一つ。
 上空から近付くのは黒翼の天使――――レイヴンだ。痛む体に鞭打って、彼は回復支援を行なうリッチを視界に捉え、急降下する。
 気付くリッチに対し、R.R.が牽制する。放った強力な砲撃はオーガゾンビに阻まれたものの、リッチの気が一瞬そちらへ移ったのは好機であった。
「終わりを知れ、死にぞこない。カタチがある以上、消え去るのが道理だろうが」
 自身の過去を投影召喚したそれは、竜の爪が如くの斬撃となり、リッチを捉える。
「ギッ……」
 だが、まだ倒れない。
 追撃するにはもう一度溜めが必要だ。
 その間の隙を、シャルロットが埋めた。黒き顎でもってリッチに襲いかかる。堪らず後ろへ下がるリッチ。
 シャルロットへと木の枝を向けたもう一体のリッチへ、今度は美咲の魔砲が命中する。
「付与も回復もさせてたまるものか」
 ここまで出来れば十分。
 レイヴンのもう一つの自己投影が力となり、大鎌が振り下ろされる。
 今度こそ、回復支援をしていたリッチの骨が砕けた。
 こうなってしまえば、後はどうとでもなる。
 オーガゾンビ達へと集中する数名と、支援しようとするリッチを妨害する数名に分かれ、戦う事となった。
 イレギュラーズを回復させるアレクシアへ攻撃しようとするオーガゾンビも見られたが、彼女の防御能力も高く、簡単には倒れない。
 傷が蓄積しているのが分かるオーガゾンビに対し、前線に参加した葵がオーガゾンビの足を粉砕する蹴りをお見舞いした。崩れた足を嫌そうに見つつ、彼は足を軽く振る。
「シューズに臭い染み付いたらどーすんスか、ったく……」
「余裕だね! 負けないよ!」
 何をどう見たら余裕と取ったのか。ソアが負けじとばかりに光の一撃をオーガゾンビの一体へと食らわせた。
 R.R.のマスケットから放たれた必殺の一撃がリッチを射貫き、骨を砕く。
 リッチが斃れてしまえば、あとはもうオーガゾンビのみ。
 ただ体力が高いのみの敵ならば、イレギュラーズの敵では無かった。 

●死者よ安らかに眠れ
 アンデッドの集団を全滅させた後、レイヴンが彼らに駆け寄り、検分を開始する。
 不死に近い存在であるアンデッドは、以前なら魔物の一種として興味も無かったが、今は事情が変わり、興味の対象となっている。
 彼の行動を咎める者はおらず、その様子を見守る者や別の行動に移す者など様々だ。
 再々利用されてはかなわないと考えていたシャルロットだけは、彼に「後で火葬させてね」と声をかける。返事は手を振り返すのみ。
 火葬という単語に反応したソアが、シャルロットに話しかける。
「土に埋めなくてもいいの?」
「埋めたら誰か掘り起こしてまた再々利用するかもしれないわよ。それは避けたいから、一箇所に纏めて燃やした方がいいと思うのよね」
「そっかぁ。じゃあ、燃やした後にお花を飾ってもいいかな?」
「好きにしたら、と言いたいけど、よく考えたらここの領地はヒィロのだものね。彼女に聞いた方がいいわね」
 ぽん、と手を打つソア。二人は振り返り、ヒィロに考えを告げる。
「燃やしたいのだけど、ここで燃やしてもいいかしら?」
「あと、お花も飾りたいなって。……いい?」
「全然オッケーだよ! 燃やすのも、火事にならないように気をつけてくれればいいしね!」
 ヒィロからの許可を得て、内心胸をなで下ろすシャルロット。ソアは無邪気な笑顔で「ありがとう!」とお礼を述べた。シャルロットからもお礼を言われ、ヒィロは「どういたしまして」と返す。
 横から、R.R.が被害状況の確認を進言する。
「無事ならばいいが、被害状況があるなら設備の修繕を試みたい」
「そうだね! 大事だね!」
「それならば、ドローンで偵察させよう」
 横から口を挟んだのはレイヴンだ。検分はまだ終わらないが、彼は戻ってきたドローンからの情報をまず得る。上水の方に別動隊が居なかった情報を得られて一安心した。
 AIM PRIMALと名がつけられているそれは、簡単な非戦闘命令であれば人間並みの知能で遂行できる。人間ほど器用ではないが、そこはドローンである以上仕方ない部分だ。
「被害状況の確認を頼む。修繕の必要がある場所が複数あれば優先順位の確認もしてほしい」
 その命令を受けて、ドローンが飛び立つ。あとは報告を待つだけだ。
 ヒィロが彼にお礼の言葉を告げる。
「助かったよ! これで被害があったらすぐに向かえるよ!」
「被害が無いといいな」
「うん!」
 気遣う言葉をかけるレイヴンと、それに頷くヒィロ。
 二人の近くでは、美咲がリッチ達を確認していた。
「術式を知りたかったけど、死体からじゃ分からないわね」
 肩をすくめてみせる美咲。
 そんな彼女の背中に十数秒後、ヒィロが激突するとはこの時の彼女には分からなかった。
 離れた所では、自分の靴を確認しながら、葵が愚痴る。
「あーあ……臭いついてねえといいっスけど……」
「洗えば落とせるんだよね?」
「出来なくはないっス。時間はかかるかもしれないけど」
 溜息を零す葵に、アレクシアは、今度臭い落としでも見つけたら教えようかななどと考える。
 レイヴンの検分も終わった所で、リッチ達アンデッドを燃やす為一箇所に集めた。
 消火の準備も万端にして、早速燃やすイレギュラーズ。腐臭と燃える臭い対策にばっちり口と鼻は覆ってある。
 燃えていくアンデッド達に向けて思い思いに祈りを捧げていく。
 丁度ドローンの偵察も終了し、戻ってきた。レイヴンによると、特に大きな被害も無く、細かいところを修繕すれば大丈夫との事で、後でR.R.が向かう事になった。他の皆も手伝うという。
 アンデッド達が灰になり、ソアによって花が手向けられた後、ヒィロから皆へお礼の言葉が贈られる。
「領民の暮しと命を守れたのは、駆け付けてくれた皆のおかげだよ!
 本当にありがとー!」
 どういたしまして。
 その返答をそれぞれより貰い、改めて彼女は笑顔を見せた。
 ドローンとR.R.の後をついていくイレギュラーズの後方で、シャルロットは密かに溜息を零す。
「貰えるものは貰うけども、権威高揚だとしてもこんな異常事態の中で勇者選定を行える幻想は暢気なものよね……」
 彼女の呟きは、誰にも届く事は無く、風の中にかき消えた。

成否

成功

MVP

ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
イレギュラーズ容赦ないですね……。
ゾンビ達の後処理もありがとうございました。
無事に領地も守れたようで何よりです。

PAGETOPPAGEBOTTOM