シナリオ詳細
<ヴァーリの裁決>キルロード農園の危機! 酷寒もたらす白き鷹を討て!
オープニング
●作物の種を蒔き、苗を植えたばかりの農園に迫る危機
整然と整えられた畝が、見渡す限り続いている。畝にはトマト、人参、大根、茄子、胡瓜、キャベツ、etc……と、様々な作物の種が蒔かれたり、苗が植えられたりしている。これらの作物がすくすくと育てば、豊かな実りをもたらすことだろう。
「ふぅ……やっと、一段落しましたわね」
ガーベラ・キルロード(p3p006172)は、額の汗を腕で拭うと、種蒔きや苗植えを終えた畑を満足そうに眺めた。厳しい冬が終わり、命が芽吹きはじめる春になった今、ガーベラの農園では作物の種蒔きや苗植えで大忙しだったのだ。
巷では、傭兵から流入した奴隷商人による『大奴隷市』や、幻想貴族あるいはイレギュラーズの領地への魔物の襲来など、情勢は騒がしいものになっている。だが、それが農園での種蒔きや苗植えに何ら影響することはなかった。農業において、種蒔きや苗植えの時期を逸することは、作物の成長や収穫に重大な影響を及ぼしてしまうのだ。故に、世情がどうであれ、種蒔きや苗植えの時期を外すわけにはいかなかったのだ。
幸い、従業員達の働きもあって、ようやく種蒔きや苗植えもひととおり終わった。もちろんこれはまだ始まりに過ぎず、実りを迎えるまでにこれから様々な世話をしていかねばならないが、それでも一区切り付いたと言う達成感は大きい。
「これからが楽しみで……くしゅん! ……何だか、妙に寒いですわね?」
作物の成長に、そして実りに心をわくわくとさせていたガーベラだったが、くしゃみと同時に身体をぶるっと震わせた。太陽は変わらず照っているのに、何だか辺りが急に寒くなった気がする。農作業でかいた汗が、急速に冷えて体温を奪っていく。
その時、ガーベラの側に音もなく一人の女性が現れた。キルロード家の抱える闇組織『キリングロード』の創設者にして頭領であるくノ一、『惨忍の魔女』カレンデュラだ。
「――お嬢様。巨大な白い鷹が、全てを雪と氷に閉ざしつつ、ここに向かっています。
拙者の直感が危険だと告げております故、至急、ローレットに救援を求めて下さい」
「変に冷えるのは、そのせいと言うわけですの? そんなのが、ここまで来てしまったら……」
せっかく植え付けたばかりの作物は、大ダメージを受けてしまうだろう。下手をすれば枯れてしまい、そうでなくても成長に重大な影響が出てしまうのは想像に難くない。となれば、農園の、そして男爵領の受ける被害は甚大である。
「ご安心下さい、お嬢様。そのようなことには、決してさせません。
拙者の命に代えましても、お戻りになられるまで、その鷹を食い止めて時間を稼いで見せましょう」
「……すぐに、ローレットから応援を連れてきますわ。ですが、一つだけ約束なさい」
「何でしょうか?」
「必ず、生き延びることですわ」
「承知、仕りました」
闇組織の長たるカレンデュラの実力を、ガーベラはよく知っている。それでも、一人で足を止めるとなれば――。
重苦しい表情になったガーベラを安心させるように、カレンデュラは余裕の笑みを浮かべた。
●くノ一の奮闘
白雪鷹フロストブルク――『凍気の城』を意味する名を持つ白い鷹は、周囲を取り巻く吹雪の精達と共に、行く先々を雪と氷の世界に閉ざしながら真っ直ぐにキルロード農園を目指していく。だが、その進行はカレンデュラによって食い止められた。否、カレンデュラはフロストブルクの進行をただ止めただけではない。巧みにその敵意を引き付けることで、キルロード農園からフロストブルクを遠ざけるように誘引することに成功していた。
だが、その代償としてフロストブルクや吹雪の精達の攻撃を幾度も受けてしまい、カレンデュラは満身創痍となっていた。嘴や爪による傷が無数に刻まれ、身体の至る所が絶え間なく浴びせられた冷気によって凍傷を起こしている。くノ一として俊敏さに長けているとは言え、数に勝る相手から集中攻撃されてはさすがに全てを避けきることは出来なかったのだ。
「花さん、無事ですの!?」
花と言うのは、キルロード家の者にしかそう呼ぶことを許していないカレンデュラの本名だ。そして、自らの無事を案じる『お嬢様』の声を耳にしたカレンデュラは、フロストブルクに向けてニヤッと不敵な笑みを浮かべた。
「――拙者の、勝ちです」
稼ぐべき時間は稼いだ。あとは、『お嬢様』達がフロストブルクを仕留めるだろう。
「花さん! ああ、ああ。こんなに――」
「……忍が傷つくのは当然です。稼ぐべき時間は稼ぎました……が、申し訳ございません。
拙者は、どうやら……ここまでのようです。お嬢様……後は、お願いします」
雪で全てが白く染まった世界の中、応援のイレギュラーズ達を引き連れてカレンデュラのもとに駆けつけたガーベラは、その有様に胸を痛めた。だが、カレンデュラはガーベラの言葉を遮り、にこりと微笑みかけてから、後を託す。
「ええ、ええ……ここまで、よく頑張ってくれました。貴女の働き、決して無駄には致しませんわ。
下がって、傷の手当を受けてきて下さいまし。」
ガーベラはカレンデュラをきつく抱きしめると、その働きを労いつつ、後退して救護を受けるよう指示。
「……よくも、花さんをあそこまで痛めつけてくれましたわね。その報い、しかとくれてやりますわ!」
カレンデュラが指示に従い男爵領へと下がるのを見届けたガーベラは、キッとフロストブルクを見上げてそう告げた。
- <ヴァーリの裁決>キルロード農園の危機! 酷寒もたらす白き鷹を討て!完了
- GM名緑城雄山
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年03月25日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●季節が戻りし如く
イレギュラーズ達がそこに着いた時、辺りは季節が逆行したように雪と氷に閉ざされていた。
「やっと春がきたと思ったのにまた雪が……植えたばかりの作物を台無しにはさせないよ!
それに、カレンデュラさんの引き付けも無駄にはしない!」
「冬かね、雪景色は好きじゃがのう……でも作物を枯らされては困るのは同感じゃな。
なら、ワシの目の黒い内は雪国にはさせんッ!」
この状況が『noblesse oblige』ガーベラ・キルロード(p3p006172)の領内まで及べば、キルロード農園に植えられた作物の苗も、蒔かれた種もことごとくダメになってしまうのは容易に想像出来た。『炎の守護者』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)も『身体を張った囮役』オウェード=ランドマスター(p3p009184)も、その原因となっている『白雪鷹』フロストブルクをここで討ち、農園の作物に被害を及ぼさせないと気炎を上げる。
「春……出会いの季節……満開の桜と和やかな風、穏やかに散る桜吹雪……。
って空気じゃないんですけどもっ! どうみても猛吹雪なんですけどもっ!
肉食系であることには違いないですが、あれは猛禽系じゃないですかねっ!
しかも周囲にふわふわ浮いてるあれって、ラスボスの周囲にあるクリスタル的何某ですよねっ!
曲がり角で出会って最終決戦は展開がハイペースですよねっ!」
最初は静かに穏やかに、しかし自分でツッコミを入れてからはハイテンションな早口で、『自称未来人』ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)がまくし立てる。曲がり角ってどっから出てきたとツッコミたくなるが、それさえも勢いで押し流すほどにヨハナの口調の方がハイペースだった。
「……ようやっと春になってきたっつーのに、くっそめんどい敵がいたもんだ。
食い物の恨みは恐ろしいってのを、教えてやらねぇといけねぇよなぁ?」
『黒花の希望』天之空・ミーナ(p3p005003)は気怠げに空を見上げ、フロストブルクの姿を見据える。そして、未だ受けていない食い物の怨みを晴らすべく、『希望の剣 【束】』の剣先をフロストブルクへと向けた。
「怪王種……俺は直に見るのは初めてだが、随分と巨大だな。
成程、確かにこいつは“破滅的”だ。こいつの冬の力が領地にもたらされれば、被害は尋常では収まるまい」
『破滅を滅ぼす者』R.R.(p3p000021)にとって、フロストブルクは正に滅ぼすべき破滅であった。ならばこそ。
「今がまさに、力を振るうべき時というものだろう。破滅に滅びを知らしめる為に」
そう独り言ちたR.R.は包帯に包まれた朽ちかけのマスケット銃『鎮魂礼装【エコー】』をその手に取った。
「うーん……ちょっと、というか、かなり面倒な敵だよね。
こんな敵に狙われるなんて。ガーベラさんって、実は何かに呪われてたりしないかなぁ?」
フロストブルクを見上げながら首を傾げたのは、『赤い頭巾の悪食狼』Я・E・D(p3p009532)だ。幻想のイレギュラーズ達の領地に魔物が襲撃する事件が発生しているのはЯ・E・Dも知っていたが、それでもフロストブルクは群を抜いて厄介なように思われた。
だが、別にガーベラが呪われているわけではない。たまたま、ガーベラの領地に来たのがフロストブルクだったと考えるべきだろう。
(さて、状況としては余り此方に優位とは言えない状況だな……。
何処までやれるか──やって見せねばなるまいか)
上空のフロストブルクとそれを取り巻く吹雪の精霊達の姿に、『曇銀月を継ぐ者』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は戦況が厳しいものになるだろうと予想する。何しろ、敵は飛行している上に数に勝るのだ。
しかし、フロストブルクは放っておけば間違いなくキルロード農園に至るだろう。少なくとも、積極的に仕掛けてその注意を引き、この場に留めておかねばならない。
「戦場に立った以上は、成し遂げねばなるまい──目標は、奴か」
覚悟を、標的を敢えて口に出すことで、ベネディクトは己が決意を固くした。
「我がキルロード領内に侵攻し、農園の作物を駄目にし掛けるだけでは飽き足らず、我が家の忠臣である花さんをあそこまで痛めつけるなど……ええ、到底許せることではありませんわ!」
フロストブルクの所業に、ガーベラはわなわなと肩を怒りにふるわせる。領土を荒らされようとしている領主としても、深く傷つきながらもフロストブルクの足を止めんとした『惨忍の魔女』カレンデュラの主人としても、捨て置くことなど出来るものではなかった。
「フロストブルク……この報いは受けてもらいますわ!
皆様、どうか力を貸してくださいまし。私が、皆様の盾として守りますわ!
ですから……この無礼な鷹を、完膚なきまでに叩き落としてくださいまし!」
ガーベラの懇願に、元よりこの場に来た時点でそのつもりであるイレギュラーズ達は、皆深く頷いて応じた。
●吹雪の精霊から滅すべく
チャロロは空へと飛び立ちながら、絶対に負けないと言う闘志、気迫を体内にあるコアの力で紅い結晶に変換する。
「行くぞ、フロストブルク! 灼熱の気迫をくらえ! うおおおっ!」
その結晶を、チャロロはフロストブルクの方へと殴って飛ばす。結晶はフロストブルクを中心として、吹雪の精霊を巻き込んで爆ぜた。撒き散らされた炎はフロストブルクにも吹雪の精霊にも燃え移る事はなかったが、その際にわずかながらその身体を溶かした。そして何より、イレギュラーズ達に目もくれる様子もなかったフロストブルクが、明らかにチャロロの一撃に憤激し敵意を露わにしたのが大きかった。
「よくやった、チャロロ! 俺も続くぞ!」
チャロロがフロストブルクに敵意を抱かせたのを称えながら、ベネディクトは短槍『グロリアスペイン』の柄を握りしめる。そして渾身の力を込めて、天へと投擲した。放たれた矢は狼の如き咆哮を上げながら空を駆け上り、フロストブルクの真下にいる吹雪の精霊を穿つ。
「さぁて、こいつがどこまで通用するかは一種の賭けだが……それはそれとして本気でいくぜ!」
ミーナは自身の身体に魔力を満ちさせると、ベネディクトが短槍で穿った吹雪の精霊を狙い、膨大な熱量を伴った光条を放つ。光条に撃ち抜かれた吹雪の精霊は、ジュッ、と蒸発して消滅した。
「空中戦はそこまで得意じゃないんだけどね。攻撃が届かないと、そもそも戦いにならないから」
Я・E・Dはぼやくように呟きながらも、フロストブルクやその周囲を固める吹雪の精霊達と同じ高度まで飛翔した。
「数が多いね。エレメンタルだけでも早めに減らさないと、こっちが削られて大変かも」
そして魔力の砲弾を放ち、フロストブルクをその前後にいる吹雪の精霊もろとも貫く。
「……二体目、仕留める」
Я・E・Dの魔力の砲弾に貫かれた吹雪の精霊の内、フロストブルクの前にいる方を狙い、R.R.は『鎮魂礼装【エコー】』の銃口を向ける。そして破滅の力を充填した弾丸を放った。R.R.の銃撃は最早砲撃と言うべき威力で吹雪の精霊に直撃し、その存在を消滅させる。
「うぉーっ! 吹雪がなんぼのもんですかーっ! ヨハナは風の子、未来の子ーっ!」
ヨハナがテンションを上げていけば、杖を思わせる大きな鍵『アインシュタイン=ローゼン鍵』に、山吹色のオーラが纏わり付いていく。そしてフロストブルクの真後ろにいる吹雪の精霊に飛翔して急接近すると、ゴスゴスと殴りつけていった。何度目かの殴打を受けた時点で、吹雪の精霊の氷の身体は粉々に砕け散り、舞う雪と同化するように散った。
「遠くの敵は、不得手なんじゃがのう……」
ぼやきながらライフルを構えたオウェードは、また別の吹雪の精霊を狙って撃つ。弾丸は吹雪の精霊に命中し、その氷の身体を穿つと同時に着弾点を中心に亀裂を発生させた。
「続きますわ! 邪魔者には、さっさと消えて頂きますわよ!」
さらにガーベラが飛翔し、オウェードが銃弾を撃ち込んだ場所を狙って火の一撃を叩き付けた。炎はジュウゥ、と吹雪の精霊の大部分を溶かしていったが、惜しくも消滅させるまでには至らなかった。
フロストブルクは大きく羽ばたいて、チャロロに猛烈な吹雪を叩き付ける。範囲を狭めた分吹雪の勢いは強烈であり、チャロロの体力を大幅に削っていく。さらに、吹雪の精霊が主に追従するかの如くチャロロを狙って吹雪を浴びせかけた。だが、常人なら凍死してもおかしくないほどの吹雪を受けてなお、チャロロは地に墜ちることもなく空を飛び続けていた。
●地に墜ちた白雪鷹
イレギュラーズ達からの攻撃も、フロストブルクや吹雪の精霊からの攻撃も、いずれも熾烈であった。
吹雪の精霊は程なくして半数の五体までに減ったが、一方で集中攻撃を受けたチャロロも、その堅固な守りと潤沢なタフネス、ガーベラからの癒やしを以てしても、深手を負うところまで追い込まれた。
吹雪の精霊が半減したところでイレギュラーズ達はフロストブルクを直接狙い始めた。狙いは、ヨハナが予め皆に伝えていた翼の後列の羽、風切羽だ。翼を全て狙わずとも、この風切羽さえ潰してしまえばフロストベルクは飛べなくなる。だが、イレギュラーズ達は思うようには風切羽を攻撃出来なかった。主を庇うように、吹雪の精霊が盾になったからだ。
一方で、チャロロへの攻撃も勢いが大きく落ちていった。ただでさえ吹雪の精霊の数が半減しているのに加えて、フロストブルクの守りにまで手を割けばそうなるのは当然である。だがそれでも、フロストブルク自体からの攻撃は未だ厳しい。盾となり得る吹雪の精霊が全滅するのと同時に、チャロロはパンドラを費やさざるを得なくなった。
「あまり良い様にされては困るのでな、撃ち落とさせて貰うぞ。白雪鷹よ──!」
もう、フロストブルクへの攻撃を遮るものはいない。ベネディクトは、未だ空を飛び続けるフロストブルクに向けて槍の穂先を向けると瞑目した。そして、所持しているハイペリオンの羽に心の中で訴えかけた。
(――大空よ、白雪鷹にあの空を自由にさせる事を俺は望まない。
もし俺達に力を貸してくれるというのであれば、その心を俺達に教えてくれ!)
ベネディクトの訴えに、ハイペリオンの羽に宿る大空の心は応えた。ベネディクトの、そしてミーナ、オウェード、Я・E・Dら同じくハイペリオンの羽を持つ者達の脳裏に、攻撃するべき部位が浮かぶ。それは、風切羽の中でも翼の先端寄りにある十本――初列風切と呼ばれる羽だった。
「やはり、そこか! これ以上、農園に近づけさせてなるものか、うおおおおおっ!!」
ヨハナの知識も、ハイペリオンの羽も示すところが同じとなれば、もうベネディクトに迷いはない。ベネディクトは全身全霊を込め、この一撃でフロストブルクを地に墜とす意気で、槍を初列風切に向けて投げつけた。槍が初列風切の一本をその半ばで貫くと、フロストブルクはわずかにバランスを崩した。
「悪いが、その翼は二度と大空を駆ける事ができねぇように、させて貰うぜ!」
「そうかッ! そこを狙えば、フロストブルクを地に墜とせる――!」
迷いがなくなったのは、ミーナもオウェードも同様だ。ベネディクトが貫いた羽の周辺を狙い、ミーナは熱量を宿した光条を放ち、オウェードはライフルを撃った。いずれも、初列風切をさらに一本、また一本と穿っていき、フロストブルクをぐらり、と傾けさせる。
「こいつは、ここで墜とす……!」
R.R.は、チリチリと肌が熱く灼け、憎悪が肚からこみ上げて吐きそうな感覚を覚えていた。上空のフロストブルクと言う巨大な『破滅』に身体がそう反応したからだ。だが、それを感じさせる存在であるだけにここでフロストブルクを地に墜としておきたい。
身体を襲う不快感と破滅への嫌悪を、奥歯を噛みしめて圧し殺し、己をただただ冷徹な『破滅』を滅する機械と言い聞かせる。そして、R.R.は『鎮魂礼装【エコー】』の引金を引いた。
『破滅』を宿した砲撃が、別の初列風切の一本を吹き飛ばしていく。水平な状態から三十度ほど、フロストブルクの片翼は地へと下がった。
「猛禽系も飛べなくなれば、狩られる側でしかないですねーっ!」
自身の知識が当を得ていたことにヨハナは満悦し、ハイテンションで明るい黄色のオーラを纏った『アインシュタイン=ローゼン鍵』を振りかぶる。そして、全力で振り下ろして残る初列風切の一本に叩き付けた。『アインシュタイン=ローゼン鍵』を叩き付けられた初列風切はポッキリと折れ、揚力をさらに失った片翼は地面の方に四十五度まで傾いていく。
「わたし達の勝ち、だね」
そう告げたЯ・E・Dの身体から黒いオーラが噴き出すと、大狼の顎を象る。その顎はまだ無事な初列風切の一本を食い千切り、貪っていった。
「羽はあまり美味しくないかなぁ」
Я・E・Dがそう言っている間にも、初列風切の半ば以上を喪ったフロストブルクの片翼は揚力を得られなくなり、クルクルと螺旋を描くようにして地に墜ちた。
その間に、ガーベラが既にパンドラを費やしたチャロロの盾となるべくその側へと近付いた。
「……ガーベラさん? オイラ、まだまだ行けるよ!」
「いいえ、チャロロ様はこれまでよく耐えて下さいましたわ。あとは、私にお任せ下さいまし。
引き続き、フロストブルクの攻撃を引き付けるのだけはお願いしますわ」
「わかったよ。――炎の勇者は、吹雪なんかに負けたりしない! 悔しければ、オイラを倒してみろ!」
チャロロはガーベラの意図を察して拒絶しようとするが、ガーベラは静かに首を横に振りながらチャロロに応えた。
ガーベラとて、元よりR.R.やЯ・E・Dらがフロストブルクに狙われれば、身を挺して盾となる心積もりでいたのだ。それだけに、既にパンドラを費やしているチャロロがどんなに言い張ろうとも、これ以上盾役を任せる事など出来ようはずがなかった。
ガーベラの言を受け入れたチャロロは、炎の勇者としての闘志、気迫を漲らせて紅い結晶を精製すると、地に墜ちたフロストブルクに向けて殴り飛ばした。結晶はフロストブルクの上で爆ぜると炎を降り注がせる。自身に降り注ぐ炎に、フロストブルクは改めてチャロロへの敵意を抱いた。
フロストブルクはチャロロに向けて吹雪のブレスを吐いたが、これはガーベラが盾となって受け止めた。
●農園の作物は守られた
Я・E・Dが確信したとおり、地に墜ちた時点でイレギュラーズ達の勝ちは決まったようなものだった。フロストブルクは飛べるからこそ俊敏に、素早く動けたのであり、地に墜ちればただの大きい的でしかなかった。しかも、空中にいるチャロロに敵意を釘付けにされていることもあり、攻撃手段は吹雪のブレスのみに限定されてしまっていた。
それでもなおフロストブルクの生命力は強靱で、倒しきるまでには時間を要した。その間、吹雪のブレスがチャロロの盾となったガーベラを襲い続けたが、カレンデュラやチャロロが同じ目に遭いながら自分の領地のために耐え続けてくれた事を考えれば、ガーベラが倒れられようはずがなかった。
戦局はガーベラとフロストブルク、どちらが先に力尽きるかとなったが、最後まで耐えきったのはガーベラだった。
フロストブルクの討伐を終えてキルロード領に戻ると、ガーベラは皆に救援への感謝を込めてキルロード農園で採れた野菜をふんだんに使ったスープを振舞った。
野菜の素朴で自然な甘味が感じられる温かいスープは、雪と氷の中で戦って冷え切った身体を内側から温め、戦いの緊張を気持ちよく解してくれる。
はぁ……、と、スープを飲み干して陶然とした息を吐くイレギュラーズ達。
「おかわりはたくさん用意してますから、遠慮無く飲んで下さいまし」
ガーベラは仲間達にそう告げると、スープを椀に注いでカレンデュラの元へと向かった。
医者の治療を受けてベッドに伏せっているカレンデュラに、ガーベラは優しく声をかける。
「……花さん、私達が来るまでフロストブルクを引きつけてくれて、本当にありがとう。流石、我が家の忠臣ですわ」
「臣下として当然のことです、お嬢様。ですが、そうですね……一つだけ、ご褒美を頂いてよろしいですか?」
「何ですの? 何でも用意しますわ」
「そのスープを、お嬢様の手で食べさせて下さい」
「……もう! 仕方ありませんわね。……お疲れ様、花さん」
カレンデュラは、雛鳥が親鳥に強請るようにあーんと大きく口を開けて、褒美を強請る。思わず噴き出してしまったガーベラは、微笑みを浮かべながらスープを一杯スプーンで掬い取ると、カレンデュラの口へと運んで飲ませるのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
シナリオへのご参加、ありがとうございました。皆さんの活躍によってフロストブルクは討伐され、キルロード農園の作物は守られました。秋には、きっと豊かな実りがもたらされることでしょう。
MVPは、フロストブルクと吹雪の精霊の攻撃を引き受け続けたチャロロさんにお送りします。
それでは、お疲れ様でした!
GMコメント
こんにちは、緑城雄山です。カレンデュラさんに「お嬢様、拙者が倒してしまっても構わないのでしょう?」と言わせようかと思ったのですが、フラグっぽいので我慢しました(笑)
それはさておきまして、今回も<ヴァーリの裁決>のうちの一本をお送りします。『キルロード農園』に迫っている白雪鷹フロストブルクを撃破し、『キルロード農園』に植え付けられた作物を酷寒の世界から守って下さい。
なお、今回の敵は空中敵でそこそこの高度を取ります。飛行スキルあるいは射程超の遠距離攻撃の用意をお勧め致します。
●成功条件
白雪鷹フロストブルクの撃破
●失敗条件
白雪鷹フロストブルクの『キルロード農園』到達
●注意!
ジェットパックなどによる簡易飛行、あるいは媒体飛行は戦闘で用いることは出来ません。
もしプレイングでこれらを使おうとした場合、GM判断で命中と回避に通常の飛行ペナルティーに加え重篤なペナルティーを課すか、簡易飛行あるいは媒体飛行の部分をスルーするかして戦闘に参加させます。
くれぐれもご注意下さい。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●ロケーション
ガーベラさんの領土『キルロード男爵領』の、『キルロード農園』近くの平原です。雪が降り積もり、雪原となっています。
時間は昼、天候は雪ですが、これらの環境による戦闘へのペナルティーは発生しないものとします。
白雪鷹フロストブルクの初期位置はイレギュラーズの上空20メートルです。
●白雪鷹フロストブルク ×1
『神翼庭園ウィツィロ』から飛来した雪のように白い巨大な鷹の怪王種です。嘴から尾の先端までの全長は10メートルあります。
あらゆるものを雪と氷の冬の世界に閉ざさんとしており、キルロード農園をはじめキルロード男爵領を冬の世界にしようとしています。
能力傾向としては高命中高機動力、高生命力高EXA。一方、防御技術と回避は皆無です。
飛行はしますが、地表から40メートル以上には上昇しないものとします。
キルロード農園に向かおうとするフロストブルクを足止めするには、【怒り】などで攻撃を誘導する必要があるでしょう。
・攻撃手段/特殊能力(※爪以外の攻撃は1ターン1回まで)
吹雪の羽ばたき 神/至~超/単~域(※1) 【必殺】【弱点】【災厄】【移】【凍結】【氷結】【氷漬】
羽ばたきによって吹雪を巻き起こします。距離や範囲を使い分けることが出来ます。
ブリザードブレス 神/至~超/域 【必殺】【弱点】【災厄】【凍結】【氷結】【氷漬】
体当たり 物/超/単 【弱点】【移】【凍結】【氷結】
嘴 物/超/単 【弱点】【移】【凍結】【氷結】【出血】【流血】
爪 物/至~超/単 【移】【弱点】【凍結】【出血】
飛行
水、氷属性無効(※2)
弱点(※3)
・【怒り】を受けた場合の挙動について
通常、【怒り】を受けた場合の挙動は可能な限り接近した上で【怒り】を付与した敵を攻撃となっていますが、フロストブルクは【怒り】を付与した敵を優先的に攻撃はしますが、必要が無い限り接近することはせず適切な距離を維持します。
※1:威力は範囲が狭まるにつれて大きくなります。また、【氷漬】は範囲単体のみ、【氷結】は範囲域以外で適用されます。
※2:【凍結】【氷結】【氷漬】属性を持つ攻撃、あるいはフレーバー含めて水、氷属性と判断される攻撃は、物理神秘問わずフロストブルクに一切ダメージを与えられません。また、BS【凍結】【氷結】【氷漬】は無効となります。
※3:【火炎】【業炎】【炎獄】属性を持つ攻撃、あるいはフレーバー含めて火属性と判断されうる攻撃は、フロストブルクに追加ダメージを与えます。
また、BS【火炎】【業炎】【炎獄】はフロストブルクには無効とはなりますが、その代わりさらに追加でダメージを与えます。
●ブリザード・エレメンタル ✕10
フロストブルクの取り巻きの吹雪の精霊です。吹雪を吹きかけて攻撃してきます。
フロストブルクの身体の中心から上下前後左右と、左前、左後ろ、右前、右後ろにそれぞれ10メートルの距離にいます。この配置は戦局によって変わることはありますが、基本的にはあまり固まろうとはしません。
また、フロストブルクの飛行を支えており、仮にフロストブルクが翼を失ったとしても、ブリザード・エレメンタルが一定数減らないとフロストブルクは地に墜ちません。
命中が特に高く、その他の能力も防御技術以外はバランス良く高くなっています。
・攻撃手段など
ブリザード・近(通常攻撃) 神近域
【識別】【災厄】【恍惚】【凍結】【氷結】【氷漬】【足止】
ブリザード・遠(通常攻撃) 神超域
【識別】【災厄】【恍惚】【凍結】【氷結】【氷漬】【足止】
飛行
水、氷属性無効 フロストブルクと同じです。
弱点 フロストブルクと同じです。
精神無効
【怒り】無効
●「惨忍の魔女」カレンデュラ
ガーベラさんの関係者で、キルロード家が抱える闇の組織『キリングロード』の頭領にして創始者です。
諜報・暗殺集団のトップだけに実力はかなり高く、ガーベラさんがローレットに救援を求めに行く間、フロストブルク達を一人で相手取り、キルロード農園から引き離しつつ時間を稼ぎました。
しかしその代償として満身創痍となったため、ガーベラさんの指示もあって後をイレギュラーズ達に託して後退しています。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
●ブレイブメダリオン
このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
このメダルはPC間で譲渡可能です。
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