PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>膝を守りつつ、薙ぎ払え!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 羊飼いは、目をこすった。ありえない眺めだった。
 そろそろ萌え出でる新芽でこの辺りの野原は緑になるはずなのだ。
 それが、茶色と白と黒がもこもこ波打っている。
 話に聞いたことがあるオオタビネズミの「渡り」だ。
 一匹ならかわいいかもしれないが、数匹なら厄介者。数十匹なら災難。こんな――地を覆い尽くすような――数なら、災害だ。
 羊飼いの男は踵を返した。早く、助けを呼ばなくては。
「戻れ! 羊を追い立てろ! 逃げろ。早く!」
 犬笛を吹き鳴らし、今連れてきた羊を元来た道に追い立てる。羊達を逃がすんだ。どこへ? このままでは飲み込まれる。とりあえずは牧場まで。
 じゅうじゅうとかん高いはずのオオタビネズミの威嚇音が地面に轟き重低音になって大地を揺らす。
 近づいたらいけない。羊飼いは死に物狂いで逃げる。あのノタノタしたでっかい毛玉は足にまとわりついてきて、生き物をひっくり返すのだ。
 一匹やそこらなら、羊飼いと犬でかかればどうにか倒せなくはないが、あんな数はあり得ない。
 だが、逃げたとしてどこまで逃げればいいんだ?
 苦しい息の中、羊飼いは考える。
 この野原の草を食いつくしたら、きっと農場までやってくる。
 そして、干し草も、羊も牧羊犬も、羊飼いのことだってみんな食べて、後には喰われしゃぶられ踏み割られた骨の粉しか残らないだろう。


「旅の恥は掻き捨て」
 『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)は、今日も茶をすすっている。
 幻想なので優雅にミルクティーだ。
「領地経営している皆さん、ご自分の領地はダイジョブですか。ああ、そのあたり。はいはい。ええ、予想ルート上ですね?」
 日頃ぞんざいな口調の奴がいきなり敬語でしゃべり出すのはろくでもないことを言い出す時だ。
「普段はそれほど脅威になるようなモンスターじゃないよね、オオタビネズミ」
 オオタビネズミ。駆け出しのイレギュラーズならスライムの次位に駆除に行くスタンダードな中型犬くらいのでっかいレミングだ。野犬よりは動作が鈍いので比較的倒しやすい。 数匹から十数匹の家族単位で活動し、大食かつ雑食なので、畑や牧草地をハゲにしたりするので、よく農場から依頼が来る。そんな感じだが。
 気をつけるべきことは、とにかくちょうどいい高さなのか、ヒトの膝にまとわりついて動きを邪魔してくることだ。数匹にまとわりつかれると、訓練されていないものはこける。こけることを甘く見てはいけない。無数の雑食性の植えた獣にたかられたら無事では済まない。具体的に言えば柔らかい腹から食い破られる。
「それが大集結しまして、なぜか幻想を横断中です。辺り一面オオタビネズミ。当然飢えてますので、なんでも食べます。行き倒れた仲間も食べる勢いです。雑食だからね」
 繰り返すが、オオタビネズミは肉も食う。
「一匹一匹は大したことないオオタビネズミだが、数が洒落にならない。なぐりゃ当たるんだけどね。でもご安心。ある程度やっつければ、元の家族単位でどっかに行くから。蹴散らしてくれる? そうだな、また後続と合流されても困るんだよな。合流しても、個別に対処できるぐらいにぼこぼこにしてほしい。そしたら、駆け出し連中に仕事をふれる。――え~っと、壊滅! 壊滅くらいまで!」
 つまり、いま見えない地面を半分見えるようにしろってことだな?
「基本、大技で一気に処理してくことになると思うけど、足元マジで気を付けてね。いいかい。君らを転がすのに一匹。はらわた抉るのにもう二匹。三匹いれば一人やられるんだからね。後、大技と言えば、ガス欠。弱い奴がたくさんを相手にすると謎の万能感で慢心しがちだから自分を律してね。わかってると思うけど」
 情報屋は苦虫をつぶした顔で菓子をつまんでいる。情報屋はイレギュラーズの顛末を色々見がちだ。
 色々な意味で明日は我が身だ。ほっといたら自分の領地になだれ込んでこないとも限らない。ここで、被害の芽は摘んでおこう!

GMコメント

 田奈です。
 足元に絡みつくもふもふのオオタビネズミの大群を半分くらいに減らしてください。
 一匹一匹じゃ切りがありません。地平線の端から端まで薙ぎ払ったりするのが正解です。
 気を付けないと、文字通り足元をすくわれますのでご注意、ご注意。

●成功条件
 モンスターの討伐。半分くらい倒すと、後は三々五々散っていきます。それは、他のチームが各個撃破してくれるので心配いりません。

●地形
 薄曇り。天気の心配はいりません。
 牧草地帯。ゆるやかな起伏はありますが、戦闘に影響がある程ではありません。遠距離攻撃で視界が妨げられることもないでしょう。


●敵の情報
 オオタビネズミ×見渡す限り海の波のようにたくさん。
 OPを参照ください。見た目はでっかいレミングです。
 ひざかっくん:崩れ、泥沼付与攻撃
 おなかのりのり:停滞 呪縛付与攻撃
 柔らかいとこからもぐもぐ:致命攻撃

 レンジ2の間合いからスタートです。
 そのまま、ローレット・イレギュラーズの至近距離に入ってきます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

  • <ヴァーリの裁決>膝を守りつつ、薙ぎ払え!完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月29日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
奥州 一悟(p3p000194)
彷徨う駿馬
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
水瀬 冬佳(p3p006383)
水天の巫女
マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)
彼方への祈り
夕星(p3p009712)
幻想の勇者

リプレイ


「うおー! なんじゃこりゃー!」
『宵の明星』夕星(p3p009712)が草原を埋め尽くす毛玉の群れに声を上げた。
「眼前に迫る大鼠、ざっと数百? 個を失っていそうな、アロンゲノム?」
 『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)は首をかしげた。
「イレギュラーズってこんなわけわかんねえヤツの相手とかすんのか!」
「モフモフの波にのまれてもみくちゃにされたい…」
『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)の望みは、オオタビネズミ単体なら、ほほえましいものだった。
「とまれ、んなこと言ってる場合じゃねぇ!」
 大群の狂乱に呑まれたモフモフは雑食である。
「他のとこの、巨人やら狂王種に比べれば随分とファンシーな……と思ってたんだけど……」
『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)にして歯切れの悪い受け答えだ。
「もっとこう……なんというか、強そうな敵をかっこよく倒したり、人助けをしたり、そういうもんだと思ってた!」
 夕星の言い様はもっともである。
「小さなネズミも集団となれば巨大な魔物を相手にするのと変わらないのかも知れませんね。同じ集団でもイナゴとかよりは……可愛くなかったですね。実物を見ても」
『永久の新婚されど母』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)は、一瞬の老化と引き換えに状況を視認した。
 犬のような鼠の群れが暴食衝動に駆られて津波緒ように押し寄せてくるのだ。かわいらしいわけがない。
「鼠もここまでの大群となると、もはや天災ですね。道すがらのもの全てを食べ尽くしながら進むなんて、まるで蝗害のよう――食べる対象が幅広い分、蝗害よりも性質が悪いかもしれません」
『転輪禊祓』水瀬 冬佳(p3p006383)の評価では、イナゴ以下になった。
「……見渡す限りの群れとなると、さすがに胃が縮む気持ちになるな……やべえ」
 その縮む胃の辺りからやけにさわやかなミントの香り。鼠が嫌う臭いでちょっとは狙われにくくなるかも知れないという周到な準備だ。
「しかも雑食、肉もめっちゃ食うっていうんだから、もうホラーだなこれ。気ぃ引き締めていかないと」
 一瞬でも腹に食らいつくのがおくれれば御の字だ。馬鹿にしたもんじゃない。
「うう、でも報酬は前払いでもらってしまったし、頑張るしかありませんわね」
『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は憂い顔だ。ぜひその金子を居候先に収めていただきたい。
「こりゃ骨が折れそうなくらいに忙しくなりそうだけど……まぁ、やってやれないことはない、って事だよな!」
『死神二振』クロバ・フユツキ(p3p000145)は、淡々と熱いせりふを吐く。
「膝に関しては……コサックダンスしながら剣振れないかな? そうしたらなんか膝カックンされにくいと思うんだけど――ダメ?」
 足を前に投げ出すようにしながら剣を振れるか。降って触れないことはないだろう。斬れないこともないだろう。だが、顔面ダイブされたら確実に重心を崩されそうだ。そして絶対効率が悪い。
 誰も何も言わない。沈黙は金。
「まぁ素直にヒット&アウェイのが安定するよな……」
 黒羽が見事な真顔だったので、今のが本気だったのか冗句だったのか。その場にいた誰も確信が持てなかった。


 膝を砕いてしまえば、すぐ地面に転がって柔らかい腹をさらす。
 オオタビネズミはそんなことは考えない。ただ柔らかい腹を食い破れ、うまいはらわたが食えることを知っているだけだ。
 
「よっし、行くぞみんな! ネズミ狩りだーー!!」
 隕鉄から作られた槍を肩に追い、風牙が声を上げる。
 こういう時、檄を飛ばせる人間は貴重だ。
「ひええ、ネズミ……特別嫌いというわけではないけれど、これだけいっぱい居ると背筋がゾッと致しますわ」
 風牙の横に立つヴァレーリヤが首をすくめる。同じサイズ、同じ色の者が無秩序にうごうごしているのに生理的嫌悪感を感じるのはよくある生理的反応だ。酒瓶ならいくらごろごろしていても全く問題ないのだが。
「お前たちに恨みはねぇ。できるなら一匹も殺したくない。迂回してくれ」
 一悟は、祈るような気持ちでオオタビネズミに話しかけてみた。地面を揺るがす唸りが答えだ。敵意と害意と食欲。立ちふさがる者は蹂躙して食う。
「無理か……」 
 ならば、仕方ない。
 自由なる攻勢。自分にいつの間にか染みついた手癖から解放されて新鮮な気持ちでトンファーを振り回せる。目から鱗が落ちるような未視感が一悟を解放した。
 体中の力が右手に集中する。右手であふれて爆ぜて――。
「バーンアウトライト――っ!」
 自分以外を焼き尽くす。
 オオタビネズミの断末魔。あふれる炎にモフモフが焼けていく。
 いっそ、あおむけに寝っ転がって腹の上に載ったオオタビネズミをモフモフしたとさえ思っている一悟は、我慢の二字を繰り返しながら空にのがれ、次なる得物を探した。
 永く長く続く新妻であるマグタレーナには、伴侶のために自分を守る権利と義務がある。自己再生を賦活すると、白鉄の杖をかざした掌に黒いかりそめの小天体を形成した。
「――まきこんでしまうことはありませんね、この方向なら」
 周囲の動きを確認し、力を解き放つ。
 黒い月が、オオタビネズミばかりにありえないはずの黒い光を照らしつけ、ありえない不幸を塗り付ける。
 塗りつけられたばかりの災厄の匂いを嗅ぎつけて、クロバという名の死神がオオタビネズミにすれ違いざま死をもたらす。
 一角にぽっかりと穴が開き、ゆるゆるとその穴が埋められる。キリがない。
「いひひ、最高で楽勝ですね♪ 的が向こうから死にに来てくれるんなんて!」
 利香は、弾む声を押さえられない。
 低空飛行に徹し、きっちり地面から3メートル。
(戦いに不利にならず、足元をもぞもぞ動き回らわられず、味方から盾役の私が良く見えて、そして私に飛び掛かる為に…そうそう、ちょうど真下にいてくれる高さですよ!)
 オオタビネズミが互いの背中にマウントし合う。覆いかぶさるその上に別のオオタビネズミ。更にもう一匹オオタビネズミ。
「山が出来てますわね」
 利香のやや後方。ヴァレーリヤは、でっかいのをぶっ放すための下準備に聖句を唇に上らせた。
『主の御手は我が前にあり』
 かざされた手指。
『煙は吹き払われ、蝋は炎の前に溶け落ちる』
 顕現する炎の壁がオオタビネズミに主の偉大さを知らしめる。オオタビネズミは吹き払われる煙であり、溶け落ちる蝋である。
「なんつうか、こう、いい感じに均一にはならねえんだな」
 遠くから見るとぴしーっと均一に分布しているように見えていたが、同じフィールドに立ってみると大分むらがある。
「――これ、範囲攻撃だと、骨折り損のくたびれ儲けに――」
「なりそうだな。いっぺんベタ打ちすると、そこが埋まらねえからこっちが移動しなくちゃならない奴?」
 広範囲すぎると逃げられる。当初の予定の家族単位で散り散りならまだしも、大群レベルで辺りに拡散は一番避けたい。
「仕方ないですわね。主の御威光をわかりやすく知らしめたかったのですけれど」
 わかりやすさはパワーである。色々な意味で。
「いえ。つみ重ねられる善行もまた大切なものですわね」
 宣教の心得は常に胸にある。手間を厭わず立ちふさがる困難を排除するガッツが、迷ねる民衆を主の救いに導く指針となるのだ。
 炎の壁に区切られた領域はヴァレーリヤの得物だ。
「どぅおっ――」
『私、気合が大きいのでお気になさらないで下さいね』
 獣を引き付ける――つまり、獣の攻撃衝動を誘発くらいおヤバい――気合。事前に聞いてなければ、振り返って攻撃の手が止まりそうな音の暴力。
「――りゃあああああああああああっ!」
 炎風と衝撃でミキサーだ。聞いている方の焦燥感。殺さなきゃ。次の瞬間、殺される。大鼠の流れが変わる。ヴァレーリヤを数の暴力で殺そうとオオタビネズミが流れてくる。
「ひええ、気持ち悪い!」
 生理的嫌悪感に悲鳴を上げる。
「誰か、早く片付けて下さいまし! 私もう限界でございますわ! 気持ち的に!!」
 このモフモフは何だったかしらと認識機能をぶっ飛ばす集合体。殺意に支配された獣の無数のヴァレーリヤを見据えて突進してくる。
 全方位からバインバインとこづかれ回されれば、暴走満員電車でもみくちゃにされているようなものだ。
「ええいくそっ! 膝から下がめっちゃもふもふで気持ちいい!」
 風牙の叫びに、声なき同意が追従する。転んだら最後だ、めっちゃもふもふに包まれながらがぶがぶされる。
 アルヴィオン産の華麗な闘衣は、回避に優れていて、そのなんだ、モフモフは伝わってくるのだ。足元を蹴散らしながら、
「そのくせ食欲による殺気がひでえ! 天国と地獄が同時に脳に入ってきて気持ち悪い! 吐きそう!!」
 ゆるりと風牙が腰を落とした、すわ陥落か。マグタレーナがかば和ねばと一歩踏み出し――。
「――絶対吐かないけどね!」
 オオタビネズミの足を刈る。大胆に地を舐める軌道。大気圏突入の熱を内包する槍の穂先がオオタビネズミの腹を側面から切り払う。

 もっふもふに足をこすられながらの蹂躙戦だ。
「無益な殺生――等と、言っていられる状況ではありません。これは……仕方が無いでしょうね。やるしかない」
 大量の生命を奪うことには罪悪感が付きまとうものである。冬佳は覚悟を決めた。
 魔を退ける神の剣の光の御業。切っ先が描く五芒の星の陣に閉じ込められたオオタビネズミはぼてりぼてりと歩みを止めて横倒しになる。
「迎撃なんてなまぬるい! 俺は突っ込むぜ!」
 夕星は、白い神虎所縁の刃を握りしめてオオタビネズミの密集地帯に躍り込む。
 使おうとしている技は手当たり次第に敵味方の別なく巻き込む技だ。味方を巻き込まないため距離を置く必要があるし、自分が邪魔で技が放てないなどということのないように場所どりを考える必要があった。
「夕星君!」
 冬佳の指し示す先。不殺の光で死んではいない大量のオオタビネズミ。とどめを刺さなくてはならない。
 単騎で飛び込むリスクが、大分軽減されている。
「よっしゃ、まっかせろ―!」
 片足を後方に一度引いて力をため、軸足をしっかり踏ん張る。ここぞとばかりに変え点を加え、夕星の手足が、刃が、暴風を起こす。
 ぼとぼとと鼻づらから地面にめり込むオオタビネズミ。
 追い打ちに、氷刃がオオタビネズミを撃ち落とす。
 夕星を避けて飛ぶ氷の鳥の羽根。受けたオオタビネズミは互いを襲い始めた。
「冬佳ー!」
 夕星は、パッと笑ってぶんぶんと手を振る。
「はい、夕星君、次、そっちに行ってください」
 利香が新たな嵐の行き場所を指し示す。
「この辺、私が焼くんで」
 ブーツをずり上げる利香の指先でバチバチ火花が散っているのが見えた。溜めているのだ。
「……牧草が痛んじゃうんで、できれば防ぎたいんですけどねえ。効率よく集めてベルトコンベアのプレス機みたいに優しく整えてあげましょう」
 愛想よく笑う利香にうなずき、夕星は次の嵐を呼ぶ場所に飛んでいく。
「――ってこらあ!? 何度も私のブーツ持って行くな?! 膝カックンをしたい意志に満ち溢れすぎてませんかね、こいつら!」
 転がした奴から食べてもいい。食欲に直結しているのだ。
 振り返ると、利香が積み重なっったオオタビネズミタワーを蹴散らしているのが見えた。
「だあもうじれったいですね! こうなったら半分といわず逃げる奴もチャームでとっつかまえてやっつけてやります!
 ――大丈夫。元気そうだ。
 夕星は自分にできること――嵐を起こすことに専念することにした。

 荒れ地を開墾するように、ローレット・イレギュラーズは得物をふるい続けた。萌えいずる新芽で緑になるはずの大地は獣に蹂躙され、焔と雷によって清められた。


「――後の掃討は任せて大丈夫そうですね」
 数匹単位で逃げていくオオタビネズミを視認しながら、冬佳は吐息を漏らした。
 夕星も元気に走り回っている。大技が使えなくなってからは地道にとどめを刺して回っていた。
「しかし、一体なぜこんな大規模な『渡り』という呼称があるからして初の異常行動という訳でも無さそうですけど、さりとて自然に何度も発生するにしては……」
 何か、急いで逃げなくてはいけないような自称が広範囲で――。
「起きた際に、という事かしら」
「気持ち悪かったですわああああああああっ!」
 冬佳の考察をぶった切る様に、赤い修道女のうめきが禿ちょろげになった草原に木霊する。
「うう、酷い目に遭いましたわ。しばらくげっ歯類は見たくありませんわね……」
 言葉にしない方がいい。招くぞ。
「あああーー!! 帰ったらポメ太郎抱っこするぅぅぅ!!」
 風牙は、振り切るようにひざ下を手でこすっている。
オオタビネズミのもふもふの虜になってなどおりません。早く帰ってポメ太郎の毛並みで上書きしなくては。
「害をもたらすなら討伐もやむなしですが、逃げた家族は安らかに過ごせると良いですね」
マグタレーナの瞳は再び固く閉ざされた。ヒトの領域に侵入しなかったオオタビネズミは次の世代を残す猶予を得ることができるだろう。
「なあ。今、ひとっ飛びして、戦意を失ってるオオタビネズミに聞いてみたんだけどさ」
 一悟は、声を振り絞った。
「すごく声が大きなオオタビネズミが『いた』って――どうしても言いなりになるしかなかったって。そいつがどうなったかはわからないけど、いつの間にか声は聞こえなくなってこうなったって――」
 いやな感じが止まらない。
「――やっぱりアロンゲノム?」
 利香がうめくように言った。倒したのか逃げられたのかわからないがこの地を去ったのだけは確かだ。
 クロバは、オオタビネズミが逃げていく方向を把握した。
 幻想での経験は多いし、ローレット・イレギュラーズとしてそれなりに顔は利く。
(あまりにも酷い状態ならなんとかなるように手配しないと、この先もあるわけだから大変すぎるだろう)
「倒して終わり、ってわけじゃないと思うんだよ。この相手の場合は」
 来年、再来年、この先もあの生物と共存していくなら必要なことだ。
 追加依頼を受けたわけでもないのに、より良い未来を考えて行動出来るクロバのようなヒトを、世間では「おひとよし」というのだ。

 獣にもローレット・イレギュラーズにもしばらくは安寧を。そう、せめて、このまだらになった草原が生えそろうくらいまでは。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。オオタビネズミの群れは散開しました。ゆっくり休んで、次のお仕事頑張ってくださいね。

PAGETOPPAGEBOTTOM