PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>命、過つ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 晴天の下に、彼女はいる。
 爽やかな昼下がりだ。ほんの少し、目のやり場に困るドレスを着て、空の様な青い瞳がその平和を眺めている。
「あらあら」
 くすっ、と吐息の笑みを漏らして、一息。
「これは大変な事になりそうね」
 と、振り上げた爪先が鈍い音を立てた。
 優雅で軽やかな、しかし重たいその一蹴が打つのは、肉を腐らせたゾンビだ。
 吹き飛び、大きな山なりの軌道を辿るソレは、ベチャリと地面に激突して潰れる。
「困ったわぁ」
 戻した足を軸に前へ一歩。体重を乗せて、逆の脚を引く動きで身体を回し、鞭の様に振り抜く。
「ォ」
 群れて来たゾンビを払い、彼女――ライラは、手のひらを頬に当てて溜め息を吐き出した。
 今ライラがいるのは、『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が治める領地の一区画だ。
 王都への接続部とも言うべき路で、民間人や施設も近く、整備もされている場所になる。
 そこへ、何故だか魔物がやってきていた。
「最近、そんな話は聞いたけれど、ちょっとイヤらしいですわ」
 それも、複数箇所からだ。まるでこちらの戦力を休ませない様な波状攻撃もあり、警戒と迎撃に兵を割いているので原因を仕留めに行くのも勝手が悪い。
「私とは相性も悪いですし……」
 もちろんライラも、手をこまねいているだけではない。ゾンビ達の頭を足場に掛け、元凶と思わしき存在へ直接拳を叩き込んだりもしている。
 ただ、手応えは芳しくなかった。
 人の様なシルエットは半透明で、全体的に黒か紫の色に似ていて、見た目通りに実体の薄い存在だったのだ。
「死霊、幽霊、精霊……と言うよりは、怨念の塊と言ったところですわね」
 加えて、その位置は守るべき地区から離れ過ぎている。
 庇護が必要な民を置いて掛かりきりになるというのは、ライラの性質上、有り得ない選択だ。
 だから、まあ。
「うふふ、面倒ごとはいつも通りに、と。そうさせていただきましょう……ねぇ、イレギュラーズ?」
 吹き飛ばした死肉の塊に形ばかりの合掌をして、ライラはおしとやかな笑みを浮かべた。


「では、いいかな」
 そう前置きをした『情報屋見習い』シズク(p3n000101)は説明を始める。
「王都の郊外にある領地で、魔物の襲撃が報告されている。そこの執政官が撃退をしているそうだが、手が足りないと言うのでね。みんなで、救援してほしい」
 魔物は主に、ゾンビや死霊の混成部隊らしい。
 人の集まる場所を目指して襲ってくるのだという。
「どうやらその発生は、意図されたものみたいだ。執政官がボスと思わしき魔物と交戦した際、十体前後のゾンビが周囲に出現したらしいから、まあ間違いないと思う」
 つまり、手勢を生み出す事が出来るタイプだ。
 加えて。
「物理的な攻撃があまり通じない様だね。全く効果が無い、という訳でも無さそうだけど」
 有効な手段を選んだ方が良さそうな相手だと言うことだ。
「現地の執政官や兵達もいるから、襲ってくる魔物は任せてもいいだろうけど、判断は任せる。
 ただ、ボスのいる場所へ向かう為にある程度は蹴散らした方が良いと思う」
 言葉を切ったシズクは、一通り見回して質問が無いことを確認して頷く。
 説明は終わりだと、雰囲気でそう伝え、
「じゃ、検討を祈っている」
 と、軽い感じで送り出した。

GMコメント

 お世話になっております、ユズキです。
 今回の補足は以下。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 敵の戦闘データに関する部分が不明です。

●依頼達成条件
 魔物のボス、怨霊塊のゴーストを討伐。

●現場
 メフ・メフィート郊外、イーリン・ジョーンズの治める領地、その交易路。

●NPC
 指示を出す事も可能です。

【ライラ・クラナーハ】
 現地の執政官。
 民を守る事を最優先に物事を判断しています。

【兵士達】
 およそ40人程。
 キチッと着飾った物腰柔らかい見た目は普通の紳士淑女。
 ライラと同様に民の防衛として迎撃の体制を整えています。

●出現敵

【魔物集団】
 一度に出てくる魔物は20体程度。
 ただし全滅するか、もしくは2ターン経過するごとに所定の位置から補充されます。
 ゾンビ、死霊など。
 タフですが動作は緩慢です。

『怨霊塊のゴースト』
 1体。
 大きさは成人男性より一回り大きい、怨霊の集合体。
 実体を伴っておらず、触れる事は出来ても手応えは緩く、物理攻撃はあまり効かない特殊なエネミー。
 一撃で霧散するゾンビを10体呼び出す技や、広範囲にランダムな状態異常を付与する技を得意としています。
 

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

  • <ヴァーリの裁決>命、過つ完了
  • GM名ユズキ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月25日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
シラス(p3p004421)
竜剣
クリストフ・セレスタン・ミィシェール(p3p006491)
ぷるぷるおじいちゃん
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
カナメ(p3p007960)
毒亜竜脅し
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
アルヤン 不連続面(p3p009220)
未来を結ぶ

リプレイ


「オ」
 呻き声の様な断末魔でゾンビが吹き飛んでいく。そんな姿を見た『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は額に手を当てながら深く溜め息を吐いた。
「それなりにそれなりな状況だと思ってたんだけど?」
 隣で、『never miss you』ゼファー(p3p007625)が苦笑いともドン引きとも取れそうな言葉を漏らしている。
「クライアントさん、余裕たっぷりに見えるのは気のせいかしらねぇ」
「ライラめ……」
 向けられた視線から顔を逸らしたイーリンは、ゾンビを蹴り飛ばして文字通りの昇天を与える女を改めて見た。
 背後に3名程の部下を控えさせてはいるが、実働はほぼ彼女だ。討ち漏らしというか、体勢的に無理な個体を処理するのに配しているのだろうと思う。
「イーリン……」
 ふと、背後からか細い声がある。ゼファーと二人で振り返ると、そこには『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)の目が不自然に泳いでいた。
「……死霊の類いは苦手じゃとあれほど……」
「ああ、うん」
「まあでも、ねぇ」
 気持ちはわかるつもりの二人だ。この世ならざる存在を厭うのは当然。
「……殴って死ぬ部類なだけマシとでも言うつもりか」
「いえ、蹴って、になってはいるけれど」
「はぁ……もういい、乗り掛かった船じゃ!」
 嘆息一つ。覚悟を決めた自棄みたいな叫びに頷いて、イーリンは漆黒の馬を口笛で呼ぶ。
 小気味のいい蹄の音を上げ、牝馬でありながら美しく雄々しい気配には、さしものライラもゾンビを蹴り飛ばすのを止めて振り返って。
「あらあら、お早いご到、ちゃ、く……」
「誰かの大切な場所を汚されるのは辛いっすよね、自分、司書先輩の力になるために頑張るっすよー!」
「なんですのソレ――!」
 イーリンの馬、ラムレイに騎乗する『扇風機』アルヤン 不連続面(p3p009220)は、扇風機である。台座が鞍に鎮座し、尾の様に伸びるコードが胴体に二周程していて、挿されることの無いプラグが揺れていた。
「シュールですよね」
 ライラがなんとも言えない顔をするのを見て、『癒やしの聖歌』クリストフ・セレスタン・ミイシェール(p3p006491)は鷹揚に頷く。数多存在するウォーカーの中でも、あの姿はインパクトが強いでしょう、と。
「それにしてもゾンビに幽霊……一体、何があって残っちゃったのかな」
 同じブルーブラッドでも、クリストフと首を傾げる『二律背反』カナメ(p3p007960)も対極の姿形なのだし、まあ、そういうものなのだろう。
「理由はともあれ、襲ってくる存在は見過ごせないよ」
 幻想領地が襲われるのは、初ではない。『希う魔道士』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)も、この国に自身の管理地域を持つ一人である。猫好きが高じて、かなりの猫と猫好きが集まっている場所だ。
「だな。ボスはこの先にいるんだろ?」
 押し寄せるゾンビ達。その数は多く、蹴り飛ばされた個体ものそりと立ち上がって、再度の進行をしている。
「ええ、いましたわよ?」
 確認する『先手必勝!』シラス(p3p004421)の言葉にライラは頷き、「大体あっちかしら」とゾンビの向こう側を指差した。
「いましたわよって……ライラ、やっぱり手を抜いたわね?」
「あらあら、民の守りを疎かにしなかっただけですわよ?」
「はぁ……いいでしょう、そういうことにしておいてあげる」
 ラムレイに騎乗したイーリンは、優雅に佇む女性を見下ろして、一息。
「そこで見ていなさい」
 胴を足で打ち、馬を走らせる。
「私達の凱歌を――神がそれを望まれる」


 先頭へ出たイーリンとアルヤンは、その第一歩目から全力だった。
 向かう方向自体は大体分かっているので、後はそちらへ行く為の道中を作り出せればいいだけなのだから、躊躇うこともない。
「合わせなさいアルヤン」
「了解っす、首振りうぃーんと方向セット」
 一度、溜めの合間を作る。その際に定めた狙いは、二人、範囲を横に並べた射線に現れた。
「ぶっぱなすっすよー」
 言葉通りの事が起きる。紫白の光が二条、直線上に居たゾンビ達を貫いて放たれた。
「ォ……!」
 絶大な威力を誇るそれは、群体を散らばらせる事に成功する。だが敵の抱えた念を消し去るには至らず、破損した身体でそれらは迫ってきた。
「臭えな、消毒してやる」
 しかし到達は出来ない。
 迫り上がる紅の光が壁の様に立ちはだかり、円状にゾンビ達を囲って焼いたのだ。
「いや、火葬の方が合ってるかもな」
 シラスの魔術だ。両目が捉えた視界の中、その空間に光の焼却を発生させた。
「進め……!」
 死にきれない個体には追い討ちの光を見舞わせる。ペース配分など考えていないと、そう見える戦い方だった。
「必殺技ってやつは最初から使うもんだぜ」
「でも討ち漏らしたら、必殺ではないんじゃない?」
 それでも、ゾンビは死ななかった。
「いや、もう死んではいるけど、ね」
 動きは遅いが歩みは止まらず、部位欠損程度では活動を止めない。
「チームプレーっていいよな」
「はいはいそうね」
 軽口を交わしてゼファーは前へ出た。タフだ、とは聞いていたし、実際、シラスの攻撃の意味はあったと知っている。
 だから、更に前へ、群れの中へと。
「お陰で、纏めて薙ぎ払えるってワケよ!」
 槍の穂先を敵の頭へ突き刺し、横へ斬り抜き、返す動きで一閃。
 一歩を大きく下がり、腰を落としながら回転して、周囲を巻き込み斬り開く。
「おお、なんと嘆かわしい事か。神が定める摂理に逆らい、迷い、蠢く存在がここまでいるとは」
 ゼファーが跳躍で後ろへ戻る動きをクリストフは確認して、入れ替わるように行く。
「死の安らぎを、必要としている者にだけ」
 神への祈りを、静かに捧げる。その想いは淡い光となってクリストフを中心に広がり、群れ為す存在達を包み込んだ。
「――安息を」
 静かに倒れる遺体は崩れて壊れる。体力の許容を越えたのか、それとも神に導かれたのかは定かではない。
 が。
「ここは綺麗サッパリと消えておこうよ」
 ナニかへの執念がそうさせるのか、死に抗い、死を与えるクリストフに飛び掛かるゾンビも居た。
 それはもはや肉を持たない死霊に等しかったが、
「事情があってもなくても知らないし、さ。あんまり居座られると困っちゃうんだよねー」
 割り込むカナメの無造作な一太刀が、それを問答無用に祓い落とした。
「進みにくいしー。ねえ?」
「そうじゃなぁ」
 同意を求められたクレマァダは、頷きの代わりに呟きを返す。
 目を細めて視るのは、敵ではなく戦場にある音だ。
 魔砲の響く音。肉を打つ音。呻き声。
 それらの音の跳ね返りを感じ取り、脳内で俯瞰のイメージ図を作り上げる。
「薄くなった所を突破、と。そういう段取りじゃろう?」
 空気を中へ取り込み、「る」と言う一語の声を発した。真っ直ぐ伸ばすように、特定の地点で広がるようにと出したそれを、ある所から揺らす。
「――」
 震えた音の波は不可思議なリズムになって、群れの奥側、開き切らない敵の集合箇所を打つ。
 そうして起きるのは、既に機能として失くなった脳髄の喚起だ。
 隣のモノを敵と思い、殴り合う。精神に作用する力は、塞がれていた道筋を狭く広げた。
「開けに行こうか」
 押し広げる為の追撃が必要だ。ヨゾラは跳び出して身を宙に踊らせて行く。
 夜色の魔術紋を光らせながら発現させた光の翼は、空を打たずに落ちて、
「倒させてもらうよ」
 その羽ばたきは亡者を蹴散らした。
「前へ……!」
 誰かが言った声にイレギュラーズは応じる。
 前へ。
 前へ。
 もっと速く、未練が追い縋る間も、与えぬように。


「邪魔だ!」
 シラスがこじ開けた先を、イーリンとアルヤンを載せた馬が駆ける。並走するクレマァダがチラリと背後を振り返ると、一息。
「お主のところの執政官、腕が立つのう……どこから拾ってきたのじゃ」
「拾ったというか、捕まったというか」
「人身を物とするのはいけませんよ?」
 イーリンの答えは煮え切らない。クリストフの言葉も、本気でそう思っている訳ではなく、回答しない間を埋める心遣いだろう。
 異端者さえ絡まなければ、彼は間違いなく善人なのだ。
「見えてきたっすよ、本命のゴースト」
 そうして、皆の行く先に、それは居た。
 黒のシルエットは、ゾンビを侍らせている。自分を囲わせ、明確な敵意と悪意を振り撒くそれが、元凶のゴーストであるのは一目瞭然だった。
「じゃ、打ち合わせ通りでいいかしら?」
「ん、カナはいつでも行けるよ!」
 そこから、八人の速度が変わる。先に行く者と、後に続く者と別れる動きだ。
「纏めて遊んであげますよ――っと!」
 一足跳びでゴーストの眼前に出たゼファーは、揶揄する様に槍を一振りする。
 当てるつもりのない所作に、見下す様な気配を発してから、仲間と距離を開けるために右側へと跳ねて立ち位置を調整。
「オォ」
 意気に釣られるのは怒り――と言うよりは、生を欲する願望だ。ゼファーを追った8体程のゾンビが、ゴーストから引き剥がされた事になる。
「参りましょう皆さん、迷える者達を導くのも我等がお役目」
「応とも」
 聖者の導きに、意識の冴えを感じる。
「ふー……っ」
 距離を開けて半身を前に出す構えを取ったクレマァダは、指を揃えて伸ばした手をゆらりと打ち上げ、鋭く打ち下ろす。魔力で空気を固定化し、波濤として放つ独自の武術だ。
「邪魔はさせないっすよ、ばりばりばりーっと狙わせてもらうっす!」
 盾になろうとするゾンビの行動を、アルヤンの雷が阻害。器用に仲間達の合間をすり抜けていく光は、思惑通りに敵を撃つ。
「一気に叩き込む!」
「さっさとあの世に帰っちゃいなよ!」
 目映さの影からゴーストへと肉薄するシラスとカナメは、徒手と紅雀の閃撃で挟み込む。
 そこに居るのに不確かな手応えは、しかしゴーストの吹き飛びで効果があるのだと実感させる。だから、ここは詰め込むべき場面であると、
「そう判断したよ!」
 手のひらに破邪の術式を込めて、ヨゾラの追撃が行く。負の塊であるゴーストに、特に効きの強いその力を、殴り付ける動きでぶちこんだ。
「視えていたわ」
 宙へ踊るそのシルエットを、イーリンは知っていた。
 拳に溜めた魔力を握り、固体化させて、引き絞って。
「喰らいなさい」
 放つ一矢が貫いた。
 重ねられた猛攻に、存在を揺らがせたゴーストは墜落して――ふ、と。空中で止まる。
 頭を下にしたその体勢で、ベリッと閉ざされていた口を開く。
『キヒャハハハ。キヒャハハハ。キヒャハハハ』
 重ね連ねた抑揚の無い嗤い声が木霊する様に広がって。
「え……?」
 その場の全員が、血を吐き出した。


 これ、は……。
 ガクリと下がった視線は自身の動きではない。騎乗したラムレイが膝を折ったからだ。
 辺りを確認するべくカチカチと首を動かしたアルヤンの視界には、イレギュラーズの苦しむ姿が見える。
 目や鼻、耳、口から流すドロリとした液体は、ゴーストの声が起こした不幸の現れだろう。
 特に酷いクリストフに至っては、両手を重ねて仰向けに倒れている。
 唯一、ゼファーだけは難を逃れた様だが、今は残りのゾンビに相対している状況だ。
「ここまで……!」
 カナメも、足が重くなっているのを実感していた。抵抗力の高さで言えば自分が一番なのだろうが、それでものし掛かると言うことは、敵の力は想像よりも強かったのだろう。
「それが怨念、ってことかなー」
 だが、動ける。
 踏み出した一歩に体重を掛けて、倒れるようにして前進し、跳ぶ。
「それでも今更、こんな所に居た所で……なんの価値もない存在なんだよ、ザコゆうれいくん!」
 打ち込む拳に感覚は薄い。しかしその景気付けでカナメは、身体を苛む呪いを振り祓う事に成功する。
 続けて繰り出す妖刀の一閃は、やはりゴーストを斬れない。
『!?』
 が、効く。
「あっはは、邪魔じゃーまー!」
 受肉していない身体に打ち込む呪いは、静か浸透していく。カナメを難敵と定め、ゴーストはそこへ注力する。
「まんまとしてやられたね」
 敵を惹き付けている間に、鼻から垂れる血を親指で拭いたヨゾラは苦笑と同時に、背から光翼を広げた。
 片翼でゴーストが侍らせていたゾンビを消し飛ばし、片翼の羽ばたきで仲間を撫でて呪いを軽減させる。
「でも、まだ倒れるには速いようだよ?」
「……ッハ!」
 それは、意識を飛ばして神のようなナニカを降ろしていたクリストフをも起こさせる。
「……情けない事だわ」
「ああ、全くな」
 躱せると、そう思っていた。
 それだけの実力も、経験も備わっていた。
 だが事実として、イーリン、そしてシラスは敵の不幸に侵されている。
「けど、反省は後。まだやれるわね?」
「当たり前だろ?」
 ガス欠の身体に雫を滴し、応答して。
「まだ、止まらねえ」

『ah――』
 喚び声に、土壌を押し上げてゾンビの群れは現れる。
 ゴーストを囲み、盾となる配置だ。
「また来たのね。いいわ、何度でも叩きのめしてあげる」
 指で槍を器用に回して遊ばせ、ゼファーは一呼吸で意識を整えて行く。そこに、快復したアルヤンが息を合わせる。
「自分今回、連携が活きてる感じっすね……!」
 先と同じ雷撃だ。ただし今度は、ゴーストを含めた敵全てへと範囲が届く。
「恨みマシマシってわけ?」
 だが攻撃され消えたゾンビが、殺されまいと再度の出現をする。死んでも死にきれないその姿に薄く笑んだゼファーは、
「でも、消えてもらうわね」
 一突きを叩き込み押し入る。敵の陣形に切り込む形で行った位置で、引き抜くと同時に石突きを別の個体へ打ち込み、攻撃してくるゾンビの腕を掻い潜りながら裏拳で葬った。
「ここだ!」
 盾を無くした標的に向かって、シラスの肉薄は行われる。力強い踏み込みから放たれる一蹴は、ゴーストの首を刈る軌道だ。
 しかし、その一撃は逃げるような後退で躱される。
 と。
「実体が無い、のじゃったな」
 とん、と。ゴーストの背中へ押す様な打撃を当てたクレマァダは確認の言葉を呟く。
「ふん……じゃが問題は無いぞ」
 そして、突き飛ばす動きで放たれた一撃が、ゴーストの存在そのものを震わせて貫いた。
「お主もこれくらい出来るようにな、イーリン」
「ノーコメントよ」
 反動で跳ねるその身体が帰るのは、次撃の体勢に移っていたシラスの前だ。
「綺麗サッパリ成仏しな、怨念!」
 足刀を胴に一打、蹴り上げを顎に入れ、踵落としを脳天に。
「破邪の光よ……彼の怨念、苦しみ、悲しみ怒りその他諸々纏めて祓え!」
 畳み掛ける連撃に、ヨゾラの聖撃が混じる。
「残された僅かな力……全てここに振り絞りましょう!」
 苦しみに天を仰ぐゴーストが見るのは、降り落ちる十字の光。
 負を固めて生まれたそれは、その存在を明滅させた。
『キヒャ――』
「貴方の恨みを吐いてみなさい」
 それでも嗤おうとしたゴーストの胸を、イーリンの手のひらが打った。呪いの塊を前にしても、先程とは違い、彼女に災いは起こらない。
「……いえ、最早、それすらわからないのね」
 蓄積された魔素の爆発、それを消費しようと励起され放出された魔力が呪いを弾いている。
 間近で感じる、その空虚な存在にイーリンは溜め息を一つ吐いて、当てた手に逆の手を添えた。
「ここは、私の街よ。私にも、背負ってる物の重さがある」
 膨大な魔力を前方へ発射。何もかもを強制的に無へ還す光を放って、敵を消滅させる。
「だから、貴方達はここで終わりよ」


「あらあら」
 目の前で、ゾンビの群れが吹き飛ぶ。それは群れの向こう側から起きていて、それを成したのは三色の三人だ。
「さぁて、と。お返しのお時間よ」
「流れに乗っかって叩いてれば、すぐ終わっちゃうよねー」
 ゼファーとカナメが左右に分かれて殲滅を開始。中央ではヨゾラの光翼の羽ばたきが連続している。
「さようならゴースト立ち位置……色々忘れて、生まれ変わったらのんびり過ごしなよ……猫とかにね」
 ……終わったようですわね。
 その姿に、ライラは事態の終息を察した。小さく息を吐いて、緩やかな笑みで死霊を踏み均す。
「いあ いあ こん=もすか。この程度の安い怪異ごとき、我が祈りは阻めぬ」
「あれ、でも最初は苦手って言ってなかったか?」
「……しかし件の原因はやはりよくわからんの」
「ああ……でも今は、何より身を清めたいな、流石に」
 面白い人達だと、そう思う。
「ライラ」
「あら?」
 興味深く注視していると、不意にイーリンからの声掛けがある。ラムレイとアルヤンも、出立の時と同じ配置だ。
 可笑しいな、とは思うけれど、慣れもある。
 流石に干し肉が吸い込まれていくのは見た目、どうかとも思うが。
「貴方、どういうつもりかしら? 今回の件、手を抜いていたわね」
 思考が寄り道をしていると、咎めるというよりは真意を探る目に射抜かれる。
「いいえ、誤解だわイーリン」
 嗚呼、抱き締めたい。
 そう願うライラは、微笑でイーリンの言葉を否定した。胸に手を当て、心底そう想っている、と態度で示す。
「私、貴女が勇者を目指すと知っておりましてよ。そのための機会を一つ、増やしたのですわ」
 実際、全くの嘘ではない。ただまあ、
「その御礼がハグ一つと考えて頂ければ――それは安いものではなくって?」
「イ・ヤ・よ」
「あらあら、うふふ」
 ぷい、と顔を背け、イーリンは敵集団の殲滅を完遂した仲間、それにライラの配下達への御礼に歩いていく。
 今回の損害や、修復等、彼女は恐らくこちらへ投げてくるのだろう、と。
「押し付けているつもりなのでしょうけれど……ふふ」
 そんな予想にライラは、浮かべた笑みを深くした。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

参加ありがとうございました。
またご縁がありましたら、よろしくお願いいたします。

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