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シナリオ詳細

<子竜伝>Red Eyes Diabolic Statue

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●それは赤い目の不吉
「リリアナ! リリアナはいるかい!?」
 と、貴族邸宅内に声が上がる。それは、リリアナ・フォンターナが仕える、とある貴族の男で――彼の名誉のために、今回名は伏せておくことにしよう――なんともな上機嫌な様子に、リリアナは少しだけ嘆息した。
 彼が上機嫌な時。それは、彼にとっては素敵な事、そして大体の場合、リリアナにとっては厄介ごとのタネが持ち込まれたことを意味しているのだ。彼は、人は良い。決して悪人ではない。だが、領主としみれば、些か頼りない……口を悪く言えば、無能、の領域に片足を突っ込んでいる。
「はい、リリアナはこちらに居りますよ」
 そう返事をしながら、声のした方へと向かう。どうやら玄関ホールで騒いでいるようで、リリアナは足取り早く、玄関へと向かい――そこで顔をしかめた。
「どうだい、リリアナ。立派なものだろう?」
 得意げに、彼は言う――その横には、大きな怪物の石像……いわゆるガーゴイル像が鎮座していた。
「まさか。購入されたのですか」
 頭に手をやり、リリアナは言う。この大変な時期に、なんて出費を……そう頭を痛めたが、彼から帰ってきた言葉はさらに予想の斜め上を言った。
「いや、違うよ。これは、彼の貴族の方からの贈り物なんだ」
 弁明する彼の言葉を聞いてみれば、これはとある貴族からの贈り物なのだという――だが、その貴族の名を聞いた瞬間、さらにリリアナの眉間にしわがよった。
「主様。その方は確か、先日まで我々と領土問題で対立していたはずの――」
「そう、そうなんだよ! 色々と険悪な雰囲気で分かれてしまったけどね、こうして贈り物を送ってくれたんだ! 仲直りって事でね!」
 そんなわけあるか、リリアナは胸中で嘆息した。件の貴族とは、それはもう、最悪の別れ方をしている。遺恨を残さずに解決することは、リリアナにも無理だった案件だ。加えて、リリアナたちが属する『フィッツバルディ派』とはまた対立している。この件、お互い相応の傷を負った……それを気にせず仲直りできると無邪気に喜んでいる彼の性質は、人としては好ましいものだが、政治屋としては愚鈍に過ぎる。ああ、彼はもっとこう、領主とかではなく、一市井の民として生まれればよかったのだ。リリアナはそう思う。素朴に生き、素朴に恋愛をし、素朴に家族を作る……だとすれば、この上なく幸せな人生を全うできただろうに。領主という地位が、彼にはあまりにも見合わない。
「それで……その象は、何方に?」
「うん、街の公園に置こうと思ってね! ほら、こう言うのって魔除けだろう? 民の皆のために、力を発揮してくれればと思って!」
 いい人なのだ。いい人なのだ……其処はリリアナも認めるところではあるのだが。
 リリアナは諦めたように頷くと、今後確実に起きるだろう何らかのトラブルに、胃が痛くなる思いだった。
 そんな彼らを、ガーゴイル像は赤い瞳で見つめていた――。

 その数日後、ガーゴイル像のおかれた公園は、封鎖されることになる。
 なんでも、突如として魔物が現れ、公園内を闊歩しだしたとの事だ――。

●リリアナからの依頼
「そいつ絶対領主に向いてないって」
「おっしゃる通りです」
 後日。ローレットの出張所にて、リリアナはシラス (p3p004421)の言葉に深く頷いた。
「でも……決して悪い方ではありません。致命的に政治ができないだけで」
「政治家が政治ができないって本当に致命的ですね……」
 流石の夢見 ルル家 (p3p000016)も些か呆れ気味である。
「話を戻しましょう」
 ヘイゼル・ゴルトブーツ (p3p000149)が言った。
「突然の魔物の発生……それは、件のガーゴイル像が原因、と見ているわけですね?」
 リリアナは頷く。因果関係は、子供で分かるだろう。まぁ、『彼』は「どうして魔物が発生したんだろう?」と頭を抱えているらしいが。
「呪い……のようなものなのでしょうか? 本来、ガーゴイル像のようなものは、本当に魔除けを意味しているはずです。なんらかの魔術的素養は持ち合わせているものですから、それを触れば、魔物を呼び寄せるようなこともできるかもしれません」
 ふむむ、と唸る、リースリット・エウリア・ファーレル (p3p001984)。
「或いは……ガーゴイル像そのものが、魔物のガーゴイル、という可能性もあるね」
 マルク・シリング (p3p001309)が言った。
「いずれにしても、皆さんにはその調査と、現れた魔物たちの掃討をお願いしたいのです」
 リリアナが言った。今は公園の外に出ないように騎士たちが封鎖しているが、何時その包囲から抜け出し、街へとなだれ込むか分かったモノではない。
「そうですね。経緯はさておき、皆さんが困っているのは事実のようですし。まだ被害が出ていないうちに、解決してしまった方がいいでしょう」
 ドラマ・ゲツク (p3p000172)の言葉に、仲間達は頷いた。
「それじゃあ、リリアナさん。この依頼、ローレットのイレギュラーズとして、受諾するよ」
 スティア・エイル・ヴァークライト (p3p001034)が笑って言うのへ、リリアナは深く頭を下げた。
「申し訳ありません、主のしりぬぐいを手伝わせるようなことを……」
「まぁ、魔物となれば、俺達のような専門家の出番だ」
 ベネディクト=レベンディス=マナガルム (p3p008160)は少し苦笑しつつ、
「では、早速現場へと向かおうか。案内してほしい、リリアナ」
 その言葉に、仲間達は頷き、早速現場へと向かうのであった――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 此方は、イレギュラーズ達のへの依頼(リクエスト)により発生した依頼になります。

●成功条件
 すべての魔物の撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 とある領主の下に送られた、魔除けのガーゴイル像。それを領内の公園に置いてみれば、突如として魔物がわき出してくるという異常事態に。
 今は騎士たちが包囲して押しとどめていますが、これが外に出てしまえば、一般市民に被害が出ることは確実です。
 そうなる前に、皆さんはこの魔物たちを全滅させて、魔物が発生した元凶を取り除いてください。
 作戦決行時刻は昼。周囲は広い公園で、特に戦闘ペナルティなどは発生しません。
 なお、魔物たちは、ガーゴイル像の近くをうろついているようです。

●エネミーデータ
 フライング・アイ ×5
  巨大な目玉にコウモリの羽が生えたような、小型の魔物です。
  その目から、魔術的な光線を放ちます。
  主に神秘属性の中~遠距離攻撃を使用。すばしっこいですが、HPなどは低いです。

 ビッグアーム・オーガ ×6
  巨大な腕を持つオーガ(人食い怪物)型の魔物です。
  見た目通りに、巨大な腕から振るわれる物理攻撃が特徴です。
  主に物理属性の至近~近距離攻撃を行います。タフですが、此方は逆に鈍重です。

 レッドアイ・ガーゴイル ×1
  これはPL情報なのですが、ガーゴイル像は魔物が擬態したもので、その魔力を使って上記魔物を生み出しています。
  皆さんはこの情報を、推理や直感、資料などの記述から理解しているものとして構いません。
  様々な神秘属性の攻撃を繰り出してきます。防御技術も高め。とはいえ特殊抵抗は低いようです。


 以上となります。
 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。

  • <子竜伝>Red Eyes Diabolic Statue完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年03月28日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
シラス(p3p004421)
超える者
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

リプレイ

●石像のある地へ
 領内、中心街でも最も大きな公園。普段は散歩者や子供達の姿で賑わっているその場所は、今は入り口に騎士たちが詰めかけ、入園を阻んでいる。
「ここが現場です」
 リリアナの案内に従い、イレギュラーズ達は騎士たちの規制線の入り口へとやってくる。あたりを見回しながらいうのは『離れぬ意思』夢見 ルル家(p3p000016)だ。
「しかし、御領主さまは何というか。フォルデルマン陛下と同じタイプの方ですね!」
 政治家としては最悪なタイプ、という言葉はどうにか飲み込んだ。とはいえ、『フォルデルマンと同じ』と言われれば、それはもう、ダメな政治家、と言ったのとほぼ同等である。
「返す言葉もありませんね」
 ルル家の言葉に、しかしリリアナは苦笑して返すのみだ。それは誰よりも、リリアナが分かっている。
「……でも、善人ってことは、それはそれで得難い素養だと思うんだ」
 フォローするように言うのは、マルク・シリング(p3p001309)である。お世辞のように聞こえるかもしれないが、しかしそれはマルクの本心に違いなかった。幻想貴族社会など、魑魅魍魎の渦巻く魔境に違いない。そこで善性を保ち続けることができるのは、確かに得難い素養だと言えただろう。リリアナも、それをわかっているからこそ、全力でサポートしているのだ。マルクは思う、足りないのが能力であるのならば、周りのものがサポートできる。現に、この領内で『領主への不満はさほど聞こえない』。善性を持つ領主と、有能なサポート役。其れは其れで、領民にとっては良い統治を言えただろう。
「ですねぇ。そういう方って、下の方は苦労しますが、人に好かれる才能はありますから。
 リリアナ殿が頑張ればきっといい方向に収まりますよ!
 これは心ばかりの胃薬です! どうぞどうぞ!」
 と、ルル家が差し出す胃薬へ、リリアナは笑顔で首を振った。
「医師に処方されたものがありますので」
「ああ、やっぱり胃は痛めてるんだ……」
 マルクも思わず苦笑する。
「あの。今度、身体にいいお茶、送るね」
 同情するように、『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が言った。
「疲れも取れるし、リラックスできるから……たまにはゆっくり休んでね?」
「ありがとうございます……休み、取れればいいんですけどね」
 リリアナは微笑んで感謝の言葉を述べる。とはいえ、お仕事は大変である。
「しかし……何らかの手は打たねばならんぞ」
 『曇銀月を継ぐ者』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)が、苦笑を浮かべつつ、些か同情的な視線をリリアナへ向けて言う。
「領主に向いていない……と言われると、我ながら耳の痛い言葉だが。こうして領民に被害が出かねない事態になっている。確かに善性であるのは良い事だが、政治家である以上、己と、そして民を守る力は必要だ」
「ええ。主はその気概があるのは良いのですが」
 リリアナが苦笑する。マナガルムもまた、苦笑を返した。とにかく苦労しているらしい。これには全く、同情的にならざるを得ない。
「まぁ、その話はあとにしよう。今は目の前の問題を解決しなくてはな」
 マナガルムの言葉に、仲間達は頷いた。リリアナに見送られ、規制線の中へと入っていく。
 公園は広く、一件すれば穏やかな景色が広がっていたが、しかし中央に近づくにつれた、何かまがまがしい空気が漂ってくる。現場に到着してみれば、なんとも如何にもな怪物の群れが、ガーゴイル像を前にあたりを睥睨していた。
「像が原因かどうかは知らないけどさぁ。
 見た目がもう公園に置いとけるものじゃないよな」
 『鳶指』シラス(p3p004421)が胡乱気な瞳でガーゴイル像へと視線をやった。
「あえて恐ろしい怪物や顔などを、魔除けや厄除けに使う風習は確かにあります」
 『春告げの』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)が言う。その眉を顰め、ガーゴイル像を見やる。
 背中に翼をはやした、人型の悪魔のようなデザインである。ガーゴイル像としてはよく見るデザインかも知れないが、醸し出す禍々しさは、どうにも、リースリットにも違和感を抱かせる。
「ですが、これは……魔除けならぬ魔寄せと言った所ですね。
 ……嫌がらせにしては直接的過ぎて、かといって攻撃にしてはお粗末に過ぎる。
 足がついて証拠も残ってと、何とも残念な方なのですね、送り主も」
 呆れたように肩を落とした。攻撃方法に呆れたのも事実だが、仮にこの事実が発覚しても、リリアナの主は、攻撃者の言い訳を信じるんだろうな、という妙な確信があって、それにも呆れていた。
「実際見てみるとわかります。禍々しい魔力の流れ……確実に、あの像に何かがありますね」
 『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)が言った。まあそうだろうな、あの像が原因だろうな、と全員がうすうす感づいてはいたが、其れは其れとして確信に至る。
「……しっかりと証拠を保全しましょう。先方にお返しもお送りしませんと」
 ドラマが言う。このままなあなあではすませたくない。リリアナに説明し、何らかの『お返し』はしたい所だ。
「まー、あの像を壊すのは確定として」
 シラスが言った。
「サクッと周りから片付けるか。皆、準備はいいか?」
 その言葉に、仲間達は頷いて武器を構える。
「おや、敵もこちらに気づいたようですね」
 『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)が、ふむふむ、と唸る。飛来する大きな目玉、そして巨大な腕を持つ悪鬼が、こちらの戦意を感知したのか、威嚇するように、吠え声と羽ばたきをあげる。
「あちらは招かれざるお客様。此処は速やかに退場していただきましょう。では、ゆるりと参りませうか、皆さん」
 ヘイゼルの言葉に応じるように、イレギュラーズ達は一気に駆けだした。迎え撃つ怪物たちが、その腕を、翼を大きく広げて、イレギュラーズ達を迎え撃つのであった。

●公園の激闘
「まずは、あの飛んでる鬱陶しいのから落としましょう! すばしっこくても、拙者のクリティカルの前には無力!」
 駆けながら、ルル家が言う。
「ではその間、私たちで大腕の方を抑えましょうか」
 ヘイゼルが目くばせをするのへ、マナガルムが頷く。
「了解した。スティア、サポートを頼む!」
「はい!」
 スティアは頷き、その手にした『本』を掲げた。途端、足元に広がる『聖域』。本より迸る魔力が聖域を走り、そこから放たれた魔力が、舞い落ちる花弁となって、辺りに吹き荒れた。ぶあっ、と風と魔力に乗って、花弁が踊る。マナガルムとヘイゼルはその花弁を背に受けながら、オーガへと対峙する。
「そんな像を眺めているより、此方で踊りと参りませんか?」
 ヘイゼルがくすりと笑い、その足で軽くステップを踏む。そのまま、大仰に一礼をして見せた。シャル・ウィ・ダンス? その誘いに、オーガたちが大腕を振るい襲い来る!
 大上段から振り下ろされる、その巨大なハンマーにも似た腕の一撃、ヘイゼルはまさに踊るように跳躍して、それを回避してみせた。ずん、と振り下ろされた大腕が地を抉り、その威力を想起させる。
「おっと、無粋ですね。もっと軽やかに参りませう?」
 ヘイゼルの挑発。オーガはさらに腕を振り、ヘイゼルへと迫る。跳躍(ステップ)。跳躍(ステップ)。ヘイゼルは軽やかに、オーガの攻撃を引き付けて見せた。
「さあ、暫くは俺に付き合って貰おうか。どうやら力自慢らしいが、俺が倒れるかそちらが俺を倒しきるか──試してみようか」
 一方、マナガルムはその手に青銀の槍を携え、オーガと相対する。振るわれる大腕。そのインパクトの瞬間、マナガルムは槍を振るい、その一撃をずらした。ずん、とマナガルムの左手前に、腕が落着する。ずぶ、と地に沈む腕。マナガルムは間髪入れずに、その腕に槍を叩き込んだ。鋭い一撃が、オーガの腕を貫き飛ばし、オーガは痛みに絶叫する。
「自慢の腕も、こうなっては発揮できまい」
 激情のまま奮われるもう片方の腕を、マナガルムは槍で受け止めた。がん、と激しい音が響き。マナガルムの腕に衝撃が走る。マナガルムは槍を振り払うと、後方へと跳躍すると。
「さぁ、こちらも踊りを踊ろうか。とはいえ、俺のダンスは激しいぞ?」
 蒼銀に輝く手甲に包まれた手で手招きをしつつ、マナガルムは不敵に笑う。
 イレギュラーズ達と怪物たちの戦いは続く。敵の攻撃は激しく、確かに傷を負って言ったイレギュラーズ達であったが、だがここで果てるような実力のものは、この場には誰一人として存在しない。
「我が眼は蛇王の魔眼、ってな! 睨まれれば逃げられねぇ!」
 シラスが、己の視線を媒介として魔力をほとばしらせる。その黒い目が、魔力を帯びて赤く光ったとも思いきや、視線をトリガとして放たれる赤い光芒が、小悪魔たちをなぎらはう。一度目は右側から左へ。視線とともに光芒は次々と小悪魔たちを打ち据えて行った。ぎぃ、と声なき声をあげる小悪魔たち。だが、シラスの攻撃は一度では終わらない。神が許す限り、それは何度でも敵を打ち据えるのだ!
「もう一撃っ!」
 今度は視線を左から右へ。大きく往復すように薙ぎ払われる光芒! 赤のそれが小悪魔たちを再度叩き伏せた!
「見たか!」
 シラスが得意げに言うのへ、
「お見事です。では、彼らにはそのまま這いつくばていてもらいましょう」
 リースリットが言って、小悪魔たちに攻撃を仕掛ける。クリスタルの細剣を掲げれば、その刀身に走る風火の理。転じてそれは雷となり、鎖のごとく敵を打ち据え、絡めとる雷の鎖となる。
「打ち据えなさい、縛鎖!」
 細剣を鞭のように振るう。伸びる雷の縛鎖が、横なぎに小悪魔たちを薙ぎ払った。小悪魔たちは悲鳴を上げ、次々とはじけるように消滅していく。イレギュラーズ達の快進撃。だが、異変はその時に起こった。がぁ、と突如として甲高い吠え声が上がった。イレギュラーズ達がその方を見てみれば、確かに石像であったはずのガーゴイル像が、ミシミシと音を立てながら、台座の上へと立ち上がったのである。
「……あれは! 前に書物で呼んだことがある。本当に実在していたなんて」
 マルクが驚くように声をあげるのへ、
「知っているのか、マルク?」
 マナガルムが相槌を打った。
「あれはガーゴイル像に擬態した、いわば『偽ガーゴイル』だよ」
 マルクが言う間にも、偽ガーゴイルは石のような外見とは裏腹に、まさに生物のように滑らかに立ち上がり、こちらを睥睨してみせた。
「ガーゴイルはダンジョンなどの守護者として存在する生きた石像が有名だけど、
 別の意味として、雨樋などに飾られる魔除けの像を指すこともあるんだ。カムイグラでいう鬼瓦みたいなものだね。
 あの偽ガーゴイルは雨樋や魔除けの像に偽装する事で人々の目を欺きながら、眷属の魔物をじわじわと増やす生態の持ち主なんだよ!」
 間違いない、練達書房刊の『混沌世界の奇妙な怪物~幻想編~』で読んだ! ……かどうかは定かではないが、さておきマルクの言う通りの生態を持つのが、この偽ガーゴイルである。
「マルク君は博学ですね!
 しっかり勉強されているのです」
 感心したように、ドラマが言う。
「そしてはっきりしましたね! これは送り主からの明確な敵対行動です。リリアナさんに証拠を渡して、相応の対応をとってもらいましょう!」
 その言葉に反応したみたいに、偽ガーゴイルは吠えた。ばさり、と滑らかに石の翼をはためかせ、ドラマへ向けて突撃してくる!
 ドラマは小蒼剣を構えると、すれ違いざまに一撃を加えた。きぃん、と高い音が鳴る。小蒼剣は刃こぼれひとつせぬ業物であったが、今の一撃で大ダメージを与えられたとは考えにくい。
「……! 見た目通り、硬いようですね!」
「ああ、偽ガーゴイルの皮膚は見た目通りに石のごとしだよ。その分、からめ手には弱いはずだけれど……」
「ならば! 拙者の出番というわけですね!」
 ルル家が言って、駆けだした。
「ドラマ殿、抑えをお願いいたします!」
「分かりました! ――絶望を湛える黒き立方体、現れいでよ、その内に全てを飲み込みなさい!」
 ドラマがその刃を掲げる。途端、生み出された黒のキューブが、偽ガーゴイルを包み込む。讃えられた苦痛が、偽ガーゴイルをうちより叩いた。
「教えてあげましょう! 防御が高くて抵抗が低いという事は……拙者垂涎のおやつですよ!」
 ルル家が跳躍、空中でその手を突き出した。途端、輝く魔眼――刹那、無数の斬撃が、偽ガーゴイルを千々に切り裂いた! があ、と偽ガーゴイルが悲鳴をあげる! それは、ルル家の魔剣! あらゆる可能性の中から、『敵を斬った』可能性のみを選び出し、現出させる斬撃! それは正しく魔剣の類!
「おまけっ! もう一撃っ!」
 ルル家がその手を振り下ろした。再度会心(クリティカル)の斬撃が、偽ガーゴイルを切り裂いた! 偽ガーゴイルは攻撃に耐え切れず、その身を文字通りにバラバラに分解されていく。ルル家が着地すると同時に、粉砕されたガーゴイルの石片があたりへと散らばった。
「ま、こんなものですよ!」
 得意げにルル家が笑う。
「ナイスルル家!」
 シラスが言った。
「やれやれだな。生態とは言え、公園に居座ってないで逃げるべきだったんだよ、テメーは」
 肩をすくめるシラス。いずれにせよ、戦いは終わり、あの禍々しい空気はイレギュラーズ達によって払われたのである――。

●新たなる守護像
「あの。これは」
 すべての敵、そして原因のガーゴイル像を破壊したイレギュラーズ達は、後片付けと報告のために一度規制線へと戻り、騎士たち、そしてリリアナと共に元の場所へと戻ってきた。が、リリアナは現場に到着して開口一番にそう言った。
 目の前にあったのは、巨大なシラスの像。それとサメの置物であった。

 時刻は少しさかのぼる。すべての敵を討伐したイレギュラーズ達は、ひとまず息を整えていた。戦いの余韻が身体を火照らせる中、ふと呟いたのは呟いたのはシラスであった。
「何もないと何もないで、殺風景だな」
 確かにそこは公園の中央であって、何らかのオブジェくらいあってもおかしくはない場所である。設置されたオブジェは今しがたイレギュラーズ達が破壊してしまったわけだが、それはそれとして確かに、なんというか。何かワンポイント欲しいかもしれない。
「そうだなぁ、ガーゴイル像は壊しちまったし。ここは、将来きっと有名になるこの俺のシラス像を設置しようぜ?」
 いたずらを思いついた子供のような顔で、シラスは言う。マナガルムは苦笑した。
「おいおい、他人の領地に設置するようなものでは――」
「いいですね!」
 声を張り上げたのはルル家であった。
「これからフィッツバルディ派の中核として活躍するシラス殿には黄金子竜の名こそ相応しいと思いませんか! ここは拙者が、拙者の領地の領民から血税巻き上げて全経費持ちましょう! そう! 等身大黄金シラス像の作成です!」
「えっ」
 マナガルムが真顔でルル家を見やる。が、ルル家は本気のようであった。
「なるほど、面白いかもしれませんね」
 くすくすと笑ってそう言うのは、ヘイゼルである。
「どういった来歴の人の像なのか所見の人にも分かる様に、私が解説の看板も立てておきせうか……筆と、墨を用意して、っと……」
 ガサゴソとカバンを探り出すヘイゼル。
「……確かにシラス君は将来有望な若者ではありますが……まぁ、それも面白いかも知れませんね。
 折角ですから、とびきり豪華な作りにしましょう!」
 ぽん、と手を叩くのはドラマである。
「ではシラス君、モデルをお願いします!」
 ドラマの言葉に、
「え、あ、ああ、こうかな?」
 とポーズをとるシラス。
「いいですね! そのまま固定でお願いします!」
 ドラマがにこにこと笑いながら言う。
「え、ええ……ほんとに作るんだ……?」
 困惑する様子を見せるマルクへ、答えたのはリースリットだ。
「シラスさんが、何れ更に名を高めるのは間違いない所です。
 そういう意味では、これはこれで面白いかもしれませんよ」
 微笑みながら言う――過半数のイレギュラーズ達が乗り気であるので、マルクやマナガルムにも、特にいえることはない。
 というわけで、急ピッチでシラスの像が作られていく中、
「そうだ、偽ガーゴイルを送ってきた領主さん! その人にもお返ししなくちゃね」
 と、スティアは小首をかしげつつ、うーん、と思考。しばしの後に、
「そうだ、私お手製のサメの置物を贈ってあげよう!
 サメに好かれるようになるかもしれないご利益がある……ような気がする?
 多分! きっと! めいびー!」
 そう言ってさっそくいそいそとサメのお着物を作り出すスティア。ツッコミを欠いた一同の暴走はとどまることなく……。

 かくして。
 リリアナの前には、可愛らしいサメの置物と、黄金のシラスの等身大像(『世紀末小魚伝説』の看板付き)が設置されていたのである!
 リリアナは無の表情を浮かべたのに、無言でお腹を押さえた。胃が痛かったのである。
「どうしましたかリリアナ殿!
 胃薬いりますか!? 」
 そう尋ねるルル家へ、
「いただきます」
 ひきつった笑みを浮かべながら、リリアナは答えた。

成否

成功

MVP

シラス(p3p004421)
超える者

状態異常

なし

あとがき

 リクエスト、ご参加ありがとうございました。
 かくしてこの公園には黄金のシラス像が設置され、住民たちに親しまれ。
 偽ガーゴイルを送ってきた領主の屋敷には、なんかサメが出没するようになったらしいです。
 めでたしめでたし。

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