PandoraPartyProject

シナリオ詳細

legame di famiglia

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「幻想のとある村の話だ。聞いていってくれないか?」
 そう口を開いたのは『黒猫の』ショウ(p3n000005)であった。
 ギルドローレットはいつも通り忙しない。コルクボードに張られた依頼書とは別に、直接持ち込まれた依頼は急を要するものであった。
「盗賊団が村を襲ったらしい――という情報が、『盗賊』から寄せられた。
 何とも可笑しな話だろう? 村を襲った不届き者がローレットにその情報を寄越すなんてさ」
 ショウの言葉は尤もだ。だが、此処から続く話が『良く在る事』ではなくしてしまった。
「盗賊達は命辛々逃げ延びてきたらしい。村を襲うのは何時ものことだ。彼等だって引き際は弁えている。情報だって得ていた。
 だと言うのに。両親と子供1人の三人家族の家を襲った時に、彼等は二人で盗賊団を壊滅させたんだ。
 如何した原理かは分からないけれどね、『最近、その周辺で魔種』が確認されていた――まあ、盗賊達は上手いこと利用されたんだ」
 元からその村の情報が多く流れていたことが不思議であった。
 だが、盗賊達も生きる為には必要な行いだ。武器を手に襲い掛かった――が、両親は『魔種の思惑通り』に反転したのだろう。
 絶望し、強欲にも子供を守る力を求めた。
「盗賊を撃退して三人で仲良く暮らしていきますなんて優しい世界があるわけがない。
 分かるかい? 魔種になった両親と三人で仲良く暮らしていきます何てことが有り得るわけがないんだ。
 子供が反転するのだって時間の問題だ。そして、魔種になった両親がどのような行動に出るのかも分からない」
 ショウは困ったように言う。情報を多く得ることは難しい。
 何せ、一つでもアクションを起せば両親は子の為に暴れ回る可能性だってあるのだ。
「親は子を護るものだ。だから、戦闘が苛烈になる事は想定されている。子供にとっても突如親を殺しに来た『わるもの』が目の前に現われることになる。
 イレギュラーズにとって魔種は世界の敵だ。けど、子供にとっては――……それでも、村の人々が巻き込まれることは避けたいんだ。
 ……余りに急で申し訳ない。けれど、行ってくれるかい?」

●legame di famiglia
 盗賊だ、と父さんと母さんが叫んだ。
「大丈夫よ、大丈夫だから、レオーネ」
 ぎゅうと抱き締めてくれる母さんの腕の中で僕は震えていた。
 護らなきゃ。か弱い母さんを、もうすぐ生まれてくる妹を。僕が護られるんじゃない。僕が、護らなきゃ――
「レオーネ、静かに」
 父さんの声にぎゅうと目を瞑った。
 盗賊の笑い声がする。
 がしゃん、がしゃん、何かの倒れる音がして――――

 ―――――
 ――――
 ――

「レオーネ……もう、大丈夫よ」
「ああ、大丈夫だ。母さんも、妹……リリアンも無事だよ」
 大きな腹をそっと撫でた母に、愛おしそうに目を臥せった父。
 僕は、周囲に倒れる盗賊を見てぞっとした。
 父さんと母さんが、やったの……?
 けど、二人が生きてくれたなら、それでいい。リリアンが生まれてきたら教えてやろう。

 僕らの父さんと母さんはとってもとっても強いんだ! 僕らも頑張ろうね、って。

GMコメント

 夏あかねです。人殺しになりに生きましょう。

●成功条件
『魔種となった夫婦』の殺害

●魔種となった夫婦
 幻想のとある村に住んでいた夫婦です。7歳になったばかりの息子リオーネと、腹の中にもうすぐ生まれてくる娘・リリアンが居ます。
 大変幸せそうな夫婦でしたが、魔種の呼び声で反転し盗賊を皆殺しにしました。
 呼び声を発し続けながら『平凡に暮らしています』。但し、その平穏がいつまで続くか、彼等が正気であるかの保証はありません。
 息子を護る為ならば驚異的な戦闘力を見せるでしょう。『戦闘の仕方』によってはHard相応です。工夫して下さい。
 夫婦の実力は勿論、魔種であるために高いのですが『一般人』であった事や『なりたて』であること、何より二人が求めるのが平穏であるためにその実力が全てを発揮することは難しいようです。

 ・父
 一家の大黒柱。膂力を活かした戦い方を行います。ダメージディーラー。BSは出血系、火炎系、麻痺等々所有します。
 必殺を駆使して戦ってきますが、それは『家族を護る為』の力なのでしょう。『家族』を護る為に驚異的な力を発揮します。

 ・母
 腹に娘が居る事で後衛にてバッファー・ヒーラーとして立ち回ります。BS種類も豊富です。
 息子を護る為に盾となる事も厭いません。父を癒やし支える役割を担っているようです。

●レオーネ
 魔種となった夫婦の息子。心優しき少年。やんちゃな男の子です。妹が生まれてくるのをとても楽しみにしています。
 そんな、何気ない普通生活を送っている少年です。
 ……両親の変化にも何気なくは気付いていますが、それを受入れろというのは酷でしょう。
 彼にとって皆さんは紛れもなく親を殺しに来た悪者です。両親を庇う可能性もあります。

●現場情報
 村の片隅の『魔種になった夫婦』の家。それ程広くありません。
 村にはある程度の根回しが済んでいるために近隣は『できるだけ』避難をしてくれていますが、あくまで怪しまれない程度です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 それでは、いってらっしゃい。

  • legame di famiglia完了
  • GM名夏あかね
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年03月30日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
シラス(p3p004421)
超える者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)
願いの先
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

リプレイ


 これがもし、身勝手な強欲だと蔑まれようとも。
 生まれてくるはずの子供には、何の罪もない。
 人は皆、誰かに祝福されるために、生まれてくるのだから。
 だから、主よ。
 お願い、どうか――


 客人がやってきた、と。扉を開いた父親は「失礼」と声を掛けた青年の顔を見てどのような用事であるかを理解は出来なかった。
 身重の妻を慮ってやってきた医者と言った風情ではない。武装をした八名である。
「失礼ですが、何方でしょうか」
「ローレットよりやって参りました、イレギュラーズです」
 柔らかな声音を心がける。警戒されぬようにと歩み出した『罪のアントニウム』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)の表情は些か強張っていた。修道女の身形の娘の傍らで、小さく頭を下げたのは絵本の魔女のようなとんがり帽子を被っていた『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)であった。
 此の地に赴くまでに意見がぶつかり合った。苦心し、答えを導き出そうとも――一番辛いのは父親の背の向こうから此方を伺っている幼い少年・レオーネで、自身らの応対をする父と、膨らんだ腹を擦り伺い見る母親だ。
 どう言葉を繕おうとも、イレギュラーズは『奪う側』で、彼等が『奪われる側』で在ることには変わりない。毅然とした態度を取らねばと自然と伸びた背筋は力が込められていた。
「ローレット……ああ、王都に存在する冒険者ギルドですよね。どうかしましたか?」
「知ってくれているのならば喜ばしい。先ずはこの様な人数で突然押し掛けた事、謝罪する。
 ……改めて、初めまして、俺の名前はベネディクト。少し話をさせて貰いたい、お願い出来るだろうか」
 表情が強張った。敵意はないと告げたつもりではあるが、それでも不審がるのは産み月の近くなる妻が居るからであろうか。『曇銀月を継ぐ者』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は頭を下げ、自身らの話を聞いて貰えるかどうかの判断は家人へ――『討伐対象』へ委ねる事にしていた。
「おとうさん、だぁれ?」
 柔らかい少年の声だった。甘えたい盛りであろう幼い子供はベネディクトをまじまじと眺めてから首を傾げる。「あっちに行っていなさい」とも云えないで父親は途惑ったように妻を振り返った。
「どのような用事であるのかは分かりませんがお入り下さい。周囲の目も、気になります」
 警戒した様子の母親に「お邪魔します」とぎこちなく告げた『青と翠の謡い手』フラン・ヴィラネル(p3p006816)は室内に入ってから息を飲んだ。室内では子を迎える準備が整えられている。
「お姉ちゃん、あのね、もうすぐ僕に妹が出来るんだよ」
 微笑んだ少年がフランの手を握り見て欲しいと室内へと引っ張る。母親の「レオーネ、お客様よ」と叱る声も少年には聞こえないのだろうか。そんなあどけない姿にフランは唇を噛んだ。
 幸せそうな、どこにだって存在する家族――
(……あたしのお母さんとお父さんが魔種になって、倒しに来る人が来たらそれを許せるのかな。
 今なら『ならあたしが倒す』って言える、けど……やだなぁ。あたしは護る為に強くなったはずなのに、この子から両親を奪わなきゃいけないんだ)
 微笑みを向けてくるレオーネを見れば見るほどに、フランは苦しくなるなった。
 説明を行うと決めたのはイレギュラーズ側だった。紡ぐ言葉も無いままに『雷はただ前へ』マリア・レイシス(p3p006685)は「お茶でも出しましょうか」と微笑む夫妻を見詰めていた。
 今からイレギュラーズは彼等に死んでくれと願うのだ。一体どれだけの一般人が世界のために死んでくれと言われて死ねるのか。
 死ねるわけがない。もうすぐ生まれてくる愛しい娘と、護るべき最愛の息子を置いて行けと求められて戦から遠い普通の人間がその理不尽を飲み干せるのか。
(――無理だ。私ですら死は恐ろしいものだ。大事な人が出来てより恐ろしくなった。彼らもきっとそうだ。
 彼らが生きようと……レオーネと、生まれてくる娘との、家族との時間を守る為に必死に戦うことは何も間違ってはいない)
 普通に客人を迎え入れるような、当たり前の日常。それが『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)の前にはあった。

 魔種は倒さなくっちゃならない――

 そんなことは知っていた。其れは分かった上で、家族と暮らしたいと願う人を、幸せだった有り触れた日常に居たはずの人を。
 家族みんなで平和に暮らしたい。家族を護りたい。たった其れだけのための力が、欲しい。
 そうして声に応えた彼等と、世界を護る為に彼等を殺す自分たちに、何か違いはあったのだろうか――?


「数年前のサーカス団の一件についてはご存じでしょうか? 王都を中心に起こった連続的な殺人や暴行、そうした一連の事件です。
 元凶の魔種は元は善人であったと聞いています。善き人であっでも、魔種になったら周囲に破滅を齎してしまうのです」
 説明の台詞は淡々としていた。『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)はベネディクトの説明に余り理解を示さない夫妻へと実例を告げた。
 それならば、レオーネの生まれた頃の話だと夫妻は大きく頷く。特異運命座標とは何か、魔種とは何か、それを説明しようとも日常の中に居た彼等には理解するにも程遠いことで。
「――それは、私達が『魔種』であると、そう言いたいのですか」
 腹を庇う様に、そして――『魔種を殺す役目を担った者』を睨め付けるように母親はそう言った。クラリーチェは唇を噛み締める。
「家族を守る力を手に入れたいと願ったことを、誰が責められましょうか」と、紡いだ言葉は自分たちにも言い聞かせるようだった。
 不倶戴天の敵だ。そうなった以上殺さなくてはならないと『先手必殺!』シラス(p3p004421)は知っていた。転じた彼等を『仕事』で殺す事に迷いなど抱きたくはなかった。抱けば刃が迷うから。
「……もう自分らがどうなったのか分かってんだろう。このままでいたら命がけで助けた子供まで巻き込むぞ」
 紡いだ言葉は、端的だった。目的は『死んで貰う事』だ。好意的な笑みを浮かべていた父親の表情が変化する。怯え、そして怖れる普通の人間の顔をして。
「はあ……」と間の抜けた声を吐いてはシラスとクラリーチェをまじまじと見る。まだ、年若く見える子供達から紡がれるとは思わなかった言葉を反芻するように。
「その力は人の手に余るもの。故に……このままにしてはおけないのです。息子さん『たち』は、責任をもって保護いたします。ですから……」
「『たち』?」
「はい。お二人にふたつお願いがあります。ひとつは、お腹のお子さんを私に取り上げさせてください。
 あなた方は殺さなければならない。ですが、お腹の中の罪無き命を手に掛ける訳にはいかないのです」
 リアを見遣ってから母親は叫んだ。どうしてそれを納得できようかと、どうしてそれを『信用』できるのかと。
「っ……もうひとつは、レオーネとお腹の子を私達に託してください。
 2人はわたしの領地へお招きします。あなた方に代わり、生涯を掛けて2人を支えていくと誓います」
 リアに父親は、怖れるように問い掛けた。
「ならば、腹の子が――リリアンが私達と同じであったなら? ご説明の通りの呼び声を知らず知らず娘にも掛けていたならば?」
 ――誰も、応えることは出来なかった。言ったはずだった。魔種は、殺すのだと。
 毎日よかれと思って子へと声を掛け、囁いて。幸福を願い続けたその言葉が不幸をもたらしているなどと、思いたくなかった。
「おとうさん? おかあさん?」
 子供の声に、夫妻は何も言えないままだった。


「どうか貴方方ご夫婦のお名前を聞かせて欲しい。恨むなとも許してくれとも言わない。私が君達に敗れ、命を失ったとしても君達を恨まない。
 それから……レオーネ君を物理的に傷付けるつもりはないし、お腹の子は全力で救う努力をしよう。それは約束しよう」
 マリアは静かな声音でそう言った。父は「エミールと言います。妻はルネ。私以上に妻の方が『受入れられない』でしょうね」と笑った。
「……受入れてくれたわけではないだろう」
「勿論。逆に冷静になりました。盗賊達を返り討ちに出来た理由なのでしょう。少しだけ長く生き延びれただけだった」
 エミールの言葉にベネディクトは唇を噛んだ。保護の術を施させて欲しいと彼へと許可を得てからベネディクトは「そうだな」と目を伏せた。
「それに、先程の彼女が言ったように『貴方方を返り討ち』に出来たら、まだ生きながらえる。それでも、屹度……」
 ――その先に、明るい未来は存在して居ない。
 フランは彼が言おうとした言葉を理解して息を飲んだ。そう、一つでも多くの命を救うなら彼等が此処で死なねばならない。正しい答えなんて、なかった。
「どうして」
 ルネが言った。
「どうして、私達なの?」
 焔は目を見開いて「どうしてかなあ」と笑う。どんな言葉を掛けても、どんな言葉を重ねても。人殺しになる事は変わりなくて。助けられる人を助けるなら、目の前の人を殺さなくてはならないことは分っている。
「二人が護りたかったものを護る為に……ボク達は、貴方方を、殺すよ」
 重たい言葉だった。理解も出来ないままのレオーネの手をぐっと引いて、危険域から抜け出すように。
 アレクシアが「こっちへ」と別の部屋へと彼を押し込んだ。抱き締める腕に力がこもる。「おねえさんどうしたの」と、問う声に唇噛んだ。
「子供は此方で一度保護する。やることは変わらない、けど、巻き込まない事は此れで確かだ」
 シラスは攻撃の構えをとった。必要以上に刺激はしたくなかった。それ以上にシラスは個人的にこの場所を穢したくなかった。此処に存在するのは家族の平穏。
 思い出したのは、兄と、母。それ以上は何も要らなかった、何も知らないままの力のない弱い自分。平穏があれば、幸せだった。
 そんな感傷を追い遣ってシラスは集中の領域へと至った。胸に過ったのは彼等は魔種で、手を抜けば自身らが死ぬという事実だけだった。
「――私は送り人。死せる魂に安寧を。遺される人に慰めを。それが役目。しかし……」
 皮肉な運命に、クラリーチェは頭を振った。永訣の音は、清く響く。迷いなど打ち消すように美しく。
 白い指先が魔術を手繰るよりも早く、聞こえたのはルネの泣き声であった。
「どうして」
 応えることも出来ないままに、焔は己の身に宿した加護に包まれる。
「どうしても、だよ」
 そうとしか応えられないまま。神子は、神託を告げるようにぎこちなく笑った。
「どうしても、死ななくっちゃいけないんだ」
 誰かの為に、死んで下さい。
 そんな曖昧な言葉と共に男の身体が炎に包まれた。唸る声と共に、父親の身体が前線へと飛び込んでくる。
 その行く手を遮るように父を受け止めたベネディクトは眉を寄せた。彼は、受入れられないなら抗うことを知っていた。
 家族を護る為にエミールが戦うなら。仲間を護る為にフランは祝福を呼ぶ。仲間を支えることが、人の命を奪う事に繋がっている事から目を背けられなかった。
 フランが、クラリーチェが。仲間を癒せば、人殺しと呼ばれた彼等は、誰かの命を奪う。ヒーラーは戦場で誰かを護る為に、誰かに傷付ける力を授けるようにフランは感じていた。
(あたしは、皆みたいに誰かを傷付ける力を持ってない。あたし以上に皆の方がずっと辛い。辛い、のに――)
 自分が、誰かを支えれば。
 その誰かが、誰かを殺す。
 その様子をフランは見て居た。
(涙は見せるな。これから命を奪う者に対してあまりに失礼だ。慣れたものだろう?歯を食いしばって最後まで軍人たれ!)
 慣れているだろう。マリアは自分にそう言い聞かせた。ベネディクトの背後から放ったのは蒼き雷。
 脳裏にちらついたのは『マリィ』と呼んで微笑んだ彼女。彼女の為に殺されろと言われたら――その後、誰が彼女を護る?
 首を振った。エミールの叫ぶ声が聞こえる。蒼き雷と、男の身体がぶつかった。「痛い」と戦になれない男の叫声が頭を揺さぶった。
「ッ、とうさん!」
「だめ!」
 アレクシアはレオーネを抱き寄せた。信じなくても良いよ、君を護りたい。そんな言葉を否定するように少年は藻掻く。
「だめだよ、だめ……今までと、ご両親は違うんだよ」
 人間じゃないなんて、アレクシアには云えなかった。彼等は魔種であって、人であって、少年の両親で。
「レオーネ、ごめんなさい……貴方にとって、私達は盗賊と変わらない悪者ね。
 でも、ご両親を止めるにはこうするしかないの……! 無力で、本当にごめんなさい……!」
 少年が叫んだ。

 ――ひとごろし!

 リアは、唇を噛んで「そうね」と小さな声で返した。


 泣き叫ぶ母の声、やめろと叫んだ父の声。戦になれぬ彼等は何処までも『普通の人間』だった。
 倒れたエミールが「やめろ」と手を伸ばし縋る。その腕を払ってからシラスはルネを見て居た。彼等を苦しめたくはなかった。だからころ、命を削ってでも、エミールの相手をした――だと、言うのに。
「やめて」と女がすすり泣く声に複雑な気持ちが湧かないわけがない。腹の子を取り上げると説得する『人殺し』に愛しい我が子を委ねられるものか。
「私達が、母が、父が居ないで、どうやって子供は生きていくの……?」
(そうだ、そうだ。『子供を助けてくれたら良い』なんて、そんな優しい言葉で生きていける世界じゃないだろう、此処は。
 声を出せない赤ん坊だって母親と一緒に居たいというかも知れない。もし、俺ならば――?)
 シラスはぐ、と息を飲んだ。クラリーチェは首を振る。
「ごめんなさい」
 その言葉に頷けなかった。やめて、と叫んだレオーネにマリアはぎこちない笑みを浮かべるだけだった。
「君が私達を恨むのは当然だ。ただ……君が復讐したいなら……君の意思で向かって来てほしい。
 どうか君の両親を魔種にした連中と同じにはならないでおくれ……」
 そんな、嘘みたいな事を願うように。マリアは少年に乞うた。彼にはそんな力なんてない。彼には『そうなるしか』方法がないのを知っているのに。
「ねえ、ルネさん。お腹の中の子を絶対に助けてみせるし、絶対兄妹元気に暮らしてもらうから! だから、だから――」
 すすり泣く声が、途切れた。事切れたことに気付いてからフランは唇を噛んだ。
「やるよ」とそれだけ告げてから、ベネディクトが外で警戒をし、フランが飛び出す。
「二人は倒したよ! お願いします、タオルとかお湯とか貸してください!」
 子を産む作業を――魔種の子と言われようとも。
 死後。胎内の子の救命のためにその腹を切り直ぐにでも取り出さねば行けない。子を護る為ならば、致し方なかった。医療の知識を用いて、母体の循環維持を行うマリアは、胎児蘇生の溜めに力を尽くすフランを懸命にサポートし続けた。
 刻が迫る。子を救う為に、軌跡が欲しかった。

 ――腹の中の子が魔種だったら?

 そんなこと、有り得ない出欲しかった。この子達の、道を歪めてしまった報いは受ける。だから、どうか、どうか。
 お願いしますと応えやしない神様にリアは乞うた。親を亡くした子供らのこの先の苦難を知りながら。
 両親を殺した自分たちが願うには烏滸がましい願いを掲げ続けて。
(……お腹の子を救うんだ。ボクには言えなかった、言えるほどの覚悟はなかった。
 でもリアちゃんはやろうって言った、それを聞いてもボクはやっぱり一緒に背負える覚悟は出来ない――けど。
 だけどリアちゃんが潰れないように支えてあげたい、強くて優しくい大切なお友達を。だから、だから、生きて)
 焔は願った.お願い、と。リリアンと名の付くはずだった子供を。
「……なにしてるの」
「今ね、リリアンちゃんに生きてねってお願いしてるんだよ。ねえ、レオーネ君。恨むなら恨んでくれていい。
 いつかそれを晴らしに来るというなら、私は正面から君を受け止めるよ。……だから、生きていてほしい。生きていれば、絶対に希望はあるから」
 わるものだった。彼にとって『わるいやつ』だった。それでも、わるものだけで終わりたくなかった。
 其れで終わったら、余りにも――余りにも、彼に辛さしか残らないではないか。
「神よ。どうかこの家族に慈悲を。そして私たちに『奇跡』を」
 願うクラリーチェの傍らで、シラスはレオーネと呼んだ。「負けるなよ、お前だけがあの子のお兄ちゃんなんだぞ」と、脳裏に浮かんだ兄のぬくもりを消し去るように、ぎこちない笑顔を浮かべて。
 幾度経験したって慣れないものだと、ベネディクトは打ち倒された夫妻を眺めて居た。クラリーチェは埋葬をし、死後の安寧を願った。


 物言わぬ赤子が生まれたのは、それから直ぐの事だった。
 レオーネは思い出す。母と父が愛おしげに語りかけていた言葉。

 ――ずっと一緒よ、大切な愛しい子。

 その声に応えるように。妹が、魔種で、『殺されるべき存在』になるなんて、思っても居なかった。
 たったひとりだけ残った家族。

「どうして」
 母と同じ言葉だけが唇から滑り落ちて。
 少年の身体を抱き締めていたアレクシアの腕に力が込められた。

 神様は、いつだって優しくない。
 春風が吹いた。生暖かさが肌にやけに纏わり付いた。

成否

成功

MVP

アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)
願いの先

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
リクエスト頂いた『皆で悩んで苦しんで、心に傷が残るような依頼』をお届けできたのならば光栄です。

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