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シナリオ詳細

あの夜に落ちて

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●あの夜に落ちて
 救いなんてなかった。
 何も出来ない子供だったから。

 助けてくれる人も居ないから。
 この夜は、もう、どうすることもできなかった。

●父への宣告
 おとうさまがあいしてくださるこのさいわいに――

 帰る家もなく、抱いてくれる腕もなく、襤褸のように扱われたいのちへと愛を育む父の優しさに。
 我らは報いなければならないのだ。
 何も与えずに無償の愛を頂けると信じた産みの母は先の大戦で死に、庇護と言う鎧を与えてくれる父は姿を消した。
 その様な我らを、本来の血のつながりなどない我らを、愛してくれた父に。
 我らは報いなければならないのだ。

 子供が愛されるのは当たり前のことでしょう。
 そう告げる者に言ってやろうと思う。ああ、馬鹿者め。
 真に無償の愛を下さるのは神だけ。人は簡単に誰かを愛せるようには出来てなどいないのだ。

●アドラステイア
 それは天義に存在する塀に囲まれた『独立』都市――架空の神ファルマコンを崇拝し、子供たちが毎日のように魔女裁判を続ける閉じられた世界。
 嘗て、天義を襲った災厄は人の心に惧れを芽生えさせた。尊ぶ神を信じる白き心に陰りを見せたのは神の膝元に存在した人々が『悪』であったからである。
 浅ましい程の神への冒涜。それをグレーとして黙認していた神への忌避は新たな神を作り出した。天義から見れば、それは反乱分子でしかなかった。
 その娘は神の国・天義の『聖女』だと持て囃されたことがあった。それも人間の身勝手さで簡単に剥奪されるような称号として。『聖女の殻』エルピス (p3n000080)は「ひとには感情という最も度し難いものがあります」とそう言った。
「……そうだね」
「けれど、それがなくては、ひとではないのかもしれません」
 エルピスの言葉に苦しげに眉を潜めたのは『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)であった。
「そんなふうに、感情(こころ)ができているから。愛されることを知ったこどもたちは、その愛を失いたくはないと、戦うのかも知れません。
 アドラステイアの近郊の村に、『針水晶(ルチル・クォーツ)』を名乗る聖銃士の一団が姿を見せました」
「針水晶が――! それで、また今度も聖獣を使って断罪をしてるの?」
「いいえ、次は『孤児』の勧誘を、しているそうです。アドラステイアの内部に人員を引き入れる為のしごと、でしょうか」
 首を振る。用心棒として聖獣を連れ歩いて居る彼等は親を無くした子等をアドラステイアへと引き入れようというのだ。
 衣食住は課せられる『仕事』を対価にすれば与えられる。そも、子供が庇護されていられるのは親の力が強いのだから。
 無償の愛を与え、育む両親が存在しない子らは、どうにか生きる道を探さねばならない。彼等にとっての『慈善事業』
「……知ってしまったなら、見過してはいれません。アドラステイアへと入るという事は、あちらの戦力をふやすということ。
 ですが、こどもたちが選ぶことはわるくはありません。どうか、こどもたちに選択肢を与えてやってくれませんか?」

GMコメント

 日下部あやめと申します。宜しくお願いします。

●成功条件
 ・勧誘される子供に『自分の意志』で選択させること
 ・針水晶(ルチル・クォーツ)に人を殺させない

●アドラステイアの勧誘
 冠位魔種による『大いなる災い』にてこれまでの神を信じられなかった者達が、自身らの依存先を探すように『新たな神』を創造したことで作り上げられた都市国家です。
 幼い子供であれど、きちんと『定められた行動』をすれば生きていける。だから、中で幸せになろうと誘いをかけているそうです。
 邪魔をする大人も、子供達が恨む相手も、必要ありませんから殺してしまおうと考えるでしょう。丁度、聖獣様もお腹が空いています。

 郊外の村にはぽつぽつと家屋が存在し、子供達が身を寄せ合う廃屋が立っています。
 周囲では大人達が忙しなく日々の生活のために営みを行っていますが、子供達には興味を示しません。
 現場到着時、針水晶は廃屋に向かって進んでゆきます。ついでに進行経路に居る大人は『ご飯』にしてしまうかもしれません。
 どうか、関係の無い、いいえ、関係のなさ過ぎた大人をまもってあげて下さい。

●勧誘される子供 5名
 天義に訪れた『災厄』の一件で親を亡くし郊外の村まで逃げ果せてきた子供達です。
 不遇な扱いを受け続けた事もあり大人には余り良い顔をしません。恵まれた子供に対しても、です。
 リーダー格であるイレイサと名乗る少年を中心に10歳位の子供達が身を寄せ合っています。
 生きる為には人を殺すしかないような、そんな境遇の子供達です。
 子供達には声を掛けてあげて下さい。
 例えば、非戦スキルでの効果や、皆さんの領地での保護やローレットでのお仕事、孤児院の斡旋など。生活の支えを提案することが説得に繋がると思います。

 ・イレイサ
 説得はとても難しく、最も針水晶に考えが近い少年です。他の子供達を生き延びさせるために人を殺した事が、恐ろしい想い出です。
 針水晶とローレットの何方にも警戒心を抱いていますが、選択は其れ其れが行うべきと考えています。

 ・メアリ&ソマリ
 双子の姉妹です。イレイサにとても懐いている幼い女の子。人攫いの手に落ちかけたところをイレイサに助けて貰いました。
 二人出なくては何も出来ず、保護されるだけの愛されるだけの存在。二人セットであれば説得は容易です。

 ・シュン
 イレイサと同い年の少年です。両親は聖職者。天義の大災で死亡しました。その境遇故にアドラステイアのことは警戒しているようです。
 説得は容易ですが、他の子供達の境遇を見定めてからでなくては選択しないでしょう。
 とても心優しく、この中では最も常識人です。

 ・『三つ目』
 名前を名乗ることのない異形の姿をした少年です。額に目が存在し、体中にもそれがある為に大人用の衣服で隠して居ます。
 口を利かず情報も少ないです。どうしてここに居るのかも分かりません。ですが、他の子供達を護ろうという意志は感じます。

●『針水晶』の騎士たち 5名
 針水晶(ルチル・クォーツ)と名乗る騎士達です。彼等は『断罪の聖銃士』として自身らを定義しています。
 全員が幼い子供ですが、全員が金紅石を思わせる美しい石をはめ込んだ白い鎧を着用しています。聖銃士として認められた存在だそうです。
 彼等は皆、断罪を正義であると信じています。彼等の行いは父への報いで、愛情であると。
 故に、勧誘をします。新たな、父の『子』となるために。
 説得が失敗した場合は『イレギュラーズ』を手土産にしようと聖獣さまを放ちますが彼等は戦う気は余り感じません。まるで、言い訳を探すかのようです。

●聖獣さま(ルチル)
 白い毛並みの獅子です。金の眸に、水晶がはめ込まれたようにきらり、きらりと輝くからだをもっています。
 針水晶の聖銃士たちが連れる聖獣に個別の名前は存在しておらず『ルチルの聖獣さま』と呼ばれています。
 周囲に邪魔立てする人間を殺す為に存在します。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • あの夜に落ちて完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
私のイノリ
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
シュテルン(p3p006791)
ブルースターは枯れ果てて
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)
孤独の雨
鏡(p3p008705)

リプレイ


 ぽつりぽつりと民家が建ち並ぶ、荒んだ土地に踏み入れてから『こころの花唄』シュテルン(p3p006791)は花唇を引き結んだ。
「アドラス、テイア……悲し。悲しみ、から……幸せ、生まれる、しない……!」
 苦しみを逃すかのように。蔓延する不幸を拒絶するように大きく首を振った。頬を擽った光の色、春色の瞳は苦しげに細められる。
 アドラステイア、其れがこの国の中に存在する独立都市であることを天義の貴族の一員である『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)はよく知っていた。そのやり方は赦すことが出来ない。悲しみの連鎖、不幸を産み出し続ける象徴。だが、それを赦せないというのはスティアにとってのエゴ。
「……けど、それでしか生きていけないという人がいるのも事実。だからどんな選択をしたとしても尊重はしてあげたいな」
 エゴイズムは行動力となる。正義と道徳で窘めるならばアドラステイアなど捨ててお終いなさいと善人の顔をしなくてはならないだろう。だが、鏡(p3p008705)はそれが人のためにならないことは善く善く分かっていた。結局、人間なんてものは利己主義独善的で生きて往かねばならないのだから。自己肯定から来る幸福感で子供達が是とするならば鏡はその背を押すと決めていた。
「まあ、そうですね。子供たちが心からアドラステイアの庇護を、と望むならそれでいい。
 依頼内容は、この子達の選択を尊重し、大人を殺させない事、それだけです」
「依頼内容――……そう、そうよね」
 此れが仕事であるからこそ、少年少女に善性を振り撒いて。もしも、彼等を討伐せよと指令が下ったならば『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)は戯れの様にその命を奪わねばならない。天義という国の中での常識は、特異運命座標の中での常識に酷似している。『神様(オーダー)で断罪(ころ)す』事は否定は出来ない。
「ええ、そう。そうなのだわ。私が知らないだけで、これはきっと世界中で起こっている事……。
 一人一人皆を救える程には私の両手は今はまだ広くないのだわ。だから出会えた彼等には、せめて選択のチャンスを」
 掌か毀れ落ちそうな、そんないのちに。少しでも手を伸ばしたいと願う華蓮の声音は僅かに震えていた。じんわりと滲んだ不安は、数多くの選択という岐路に立つことを怖れるかのようで。選ぶのは相手で、選んで貰うために手を伸ばしたそれを握ってくれるとは限らないという事が酷く恐ろしいのだ。
「子供であっても、大人であっても、道を違えるのは同じだ。けど、子供達は知らない事が多い筈なんだ。
 ……子供たちと話がしてみたい。どんな答えを出すにしても……まずは、自分で考えることが大切だからさ」
 子供達には無関心であった大人達。関係なさ過ぎて、子供達にとっては多くの不安を生み出した存在を護る事もオーダーであれば是とすると『青葉の心』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は唇を引き結んだ。殺す為に擁する力が、護る為となる戸惑いをぐ、と嚥下してから「良いかい?」と問い掛ける。
「……孤児の為の墓が家の霊園にもあるんだ」
 ぽつり、と『誰かの為の墓守』グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)は溢した。
「俺はまだそんな子達を埋葬したことは無いけど、それでも、確かに彼らは死に近かったんだ。
 だから彼らが『あちら』に行きたいのならそれもいいんだろうな。……俺に出来るのは世界を語るだけだ」
 幼い子供達が死に絶えていく。其れがどれ程に有り触れた現実であるかをグリムは示した。世界中で当たり前のように存在するそれを華蓮は噛み締める。
「わたしは両親がいるかどうかもわからない。だからといって自分を不幸に思ったことはない。
 思ったことはないけれど、皆がそうだと限らないことも知っている。無償の愛を得られなくても、愛情が貰えるときもある」
 それでも、と『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は唇を震わせた。眼前には、小さな影。幼い子供達を振り返ってから、ココロは『彼等』にも言うように囁いた。コバルトブルーの瞳に、決意を乗せて。
「でも――手を挙げてここにいるよと知らせなければ、誰も気がつかずに通り過ぎる。だから愛を満たしてほしいと声を挙げて欲しい」
 愛して欲しいなんて、言えないのは誰だって。それでも、今が其の手を伸ばすときだと、知って欲しかった。


 雑踏に混じる獣の息遣い。白い毛並みに黄金の瞳、水晶が輝きルチル・クォーツの存在をアピールするかのような。
 金紅石を填め込んだ鎧を着用した子供達が引き連れる其の獅子は腹を空かせて餌を強請るように静かに唸る。それがルチルの聖獣様と呼ばれる存在であることを視認して『《戦車(チャリオット)》』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)は溜息を吐いた。
「懲りませんねー針水晶。聖獣に貴重な脚たちを食い散らかされる訳にもいかねーですから何とかしなきゃですねー」
 獣が狙うのは『関係ない』と目を逸らして過ごしてきた大人達だ。アドラステイアには大人は必要ないから。何の罪も存在しない。
「何方ですか」
 冴えた声音だった。それがアドラステイアという場所で育った子供なのだとピリムは針水晶を観察する。
「いいえ」と首を振れば針水晶は「そう」と目を逸らす。鏡は針水晶の目が『日常』を過ごす大人へと向いて居ることに気付いた。

「今まで通り自分達の生活をしていてくださいなぁ。ここで何が起きてもです。見るな、近づくな、責めるな、護るな」
 それは、鏡が大人達へと言い放った言葉だった。無情なる声音に大人達は如何したことだと問い掛ける。グリムは「怖いなら離れるが良い」と僅かながらの暖かさを滲ませたが――鏡はそうは言わなかった。
「今までも、これからも、そうして生きていてください」
「どうして」だなんて、大人に聞かれようものならば、鏡は惑うことなくこう言うだろう――邪魔だから。

「村人をご飯にでもするつもり?」
 スティアの柔らかな声音が針水晶の少年へと降った。足を止め、振り返った少年は「其れが何か?」と問い掛ける。
「聖獣様はお腹を空かせていらっしゃいます。それを止めなければならないという理由は存在しますか?」
 注意を引くねと小さく囁けばシキと心が頷く。魔力の旋律が福音となり響き渡る。白羽根舞い落ちる魔導の力の中でスティアは「交渉決裂だね」と囁いた。
「聖獣は止めさせて貰う。人を食べることを赦さない」
 スティアの傍らから飛び込んだピリムは柄を強く握り込む。聖獣を覗き込む。その美しき月色よりも白き毛並みに『脚』が心を躍らすように。
「美しい毛並み、引き締まった筋肉……フフ……相変わらず良き脚ですねー」
 急所や関節を狙うが如く。脚を駆使したピリムの一撃に続くのはグリムの暗闇の剣。世界の残響に夜明けを乞うた勝者の杖は人ならざる力をグリムへと与え続ける。死者からの祝福に、人々の道外れた願いが加護のようにグリムを包み込む。
「俺としては子供はあんまり殺したくないんだ、出来れば退いてくれると助かる」
 退くものかと告げる声音は淡々と、落ちる。至近距離へと飛び込んだ少女を弾き鏡は首を振る。「今、.お呼びじゃあないんですよぉ」とツレない声音と共にその刀は奇跡など入り込む由もなく、絶ったという事実を残すように振りかざされる。因果より外れるその一撃は殺人に最も適した形をしていて。
「たかが獣相手に構えるなんてぇ……特別ですよ?」
 ひゅう、と風が吹く。間に合うと、飛び掛かって来た少女の意識を刈取ってシキは息を吐いた。殺すのは、屹度違う。それを知るための感情(こころ)が何処に在るかは定かにないほどに――そうするのが人であると、感じていた。
「あなた達が成すべきは聖獣の餌番でも『断罪』じゃないでしょう。わたしの話を否定する根拠がないならすぐに帰って考えてみて」
 ココロが言い放つと同時に、聖獣が音を立てて地へと落ちた。あっさりと、その命の終を迎えたように。
 どすん、と音を立てたそれを見遣ったルチル・クォーツの子供たちは「目的は彼方ですもの」とその先頭の様子を眺めていた子供たちを指さした。


 開口一番に「誰だ」と警戒したように衆目を見遣る少年は、その背に幼い少女を二人隠していた。ローレットのイレギュラーズを確認して『見知った顔』に驚いたように瞬いたシュンは『三つ目』を庇う様に立つ――が、その動きを制して三つ目がだらりと衣服を引きずってイレギュラーズの前に立った。
「こんにちは。貴方達がイレイサくんと……お友達よね。私達はローレット。イレギュラーズよ。
 針水晶の皆にとっても私達は憎い敵でしょうけれど、まずは食事をとろうと思うのだわ。いいかしら?」
 持ち運びのしやすいサンドウィッチを作ってきたのだと微笑んだ華蓮はすぺしゃるさんども買ってきたのだと柔らかな笑みを浮かべる。
 警戒する針水晶の中で最も新入りであろう少女が、くい、と少年の服を摘まんだ。手作りの料理は『孤児』であった子供たちには夢の様で。
「針水晶の皆も良ければ。毒なんかは言っていないのだわ。ねえ?」
「……ん、シュテ、一緒、食べる! おいし、よ?」
 こてんと首を傾いだシュテルンに華蓮は頷いた。レジャーシートを広げて先ほどまでの戦いなんて知らんふりをして華蓮は「どうぞ」と席を勧める。おずおずと腰かけたのはシュン、次いで三つ目が腰かける。イレイサと双子の少女は立ったまま見つめていた。聖銃士側も少女が一人腰かける。
「いきなり食事だなんて、何の用事だ」
「此方はアドラステイアの『針水晶』、聖銃士です。皆さんを我らが街へ迎え入れるために参りました」
「私達はローレット。君たちを保護するためにやって来た。勿論、悪い話ではない様に、待遇についてはこれから話そう」
 一方は宗教国家の中の特異的な都市への勧誘。もう一方は其れに反発しての『子供の保護』なのだろうと少年は聡く察していた。
「食事はね、その勧誘を選ばなくっちゃいけない皆にプレゼントなのだわ。心に余裕がない時は自分の意思で選択なんてできないのだわ。
 だからまずは……お腹をいっぱいにしましょう。当たり前の欲求が当たり前に満たされる……それが必要な事なのだわ」
 微笑んだ華蓮にイレイサはふん、とそっぽを向いた。
「怖がる、しなくていーの。シュテね、きっと、守る……する。泣かなくて、いーの……皆笑顔……それが、幸せ。シュテ……ここに来て、知ったの!」
 柔らかなシュテルンの微笑へと反発する様に針水晶の少年がサンドウィッチを地へと叩き付けんとする。その手を制したココロは首を振った。
「どちらを選んで……なんて私からは言わないのだわ。でも……お腹いっぱいになってから選んだって、遅くは無いでしょう?」
 華蓮は叱ることもせずに、そう微笑んだ。三つ目がしずしずとサンドウィッチを手に取って俯く様子を眺めていたココロは「ねえ」と小さく微笑んだ。
「そうやって姿を隠すのは、見られるのが怖いから? 自分が変わっていて迫害されると考えてないかな。だったらローレットで働いてみない?
 見た目で迫害されたりとかないから。とんでもない見かけの人が沢山いる所なので。ふふ、実際に鯛焼きとか扇風機とか沢山可笑しな人がいるんだよ」
 ココロに三つ目はおろおろとした様子でシュンの手をぎゅっと掴んだ。元聖職者の息子であった少年はスティアを見遣る。
「ヴァークライト家のお嬢様ですよね。天義では有名で、知ってる」
「そう。知ってもらってるなら早いかなあ? 私の家は慈善活動にも手を出しているの。
 だからもし良かったら保護できるけど、どうかな? これからのことも考えると仕事も手伝いながら勉強もするってことになると思うけど……。
 そこで暮らしながら今後どうしたいか、考えてみるのも良いんじゃないかなって、もちろん希望する人は全員一緒に面倒をみるつもりだよ!」
 微笑んだスティアにシュンは「これが、言っていた待遇ですか?」とシキを確認する。
「そう。最初に生活についてを保証しよう。スティアの領地で保護してもらえるし、ローレットで仕事を紹介できる。なんなら私のところでもいい」
 そう言ってイレイサを見遣れば、少年は「そんなのをしてもらう様ないい人間じゃないっすから」とそっぽを向いた。
「この中で人を殺した事がある人ぉ」
 鏡の問い掛けに、イレイサが手を上げた。石ころを投げた、たったのそれだけで人間が簡単に死ぬ事を彼は知っている。
「ねぇ、どっちでしたぁ? 気持ちよかった? スッとした? それとも辛かった? 怖かった?
 仕方ない、で人を殺した事もあるでしょう。でも今日はダメです、望みなさい、選びなさい」
 酷く、恐ろしい問いであっただろうか。メアリとソマリはイレイサの服をぎゅうと握って怯えたように鏡を見遣る。その問いが、酷く歪な人間の願いに沿ったものであることをシキは――命を奪う為に剣を振るった処刑人は知っていた。
「境遇を呪った、大人を呪った。……友達の為、汚した手をちゃんと見なさい。その手の汚れに快感はありませんか? 本当に、仕方なかったですか?」
「殺しを楽しむヤツは変態だよ。それ以上に、それ以外にない」
「ええ、ええ! そうでしょうとも。 もう、汚したくないですか?
 アドラスティアに、ローレットに、我々に――護られたいですか? 護りたいですか?
 選びなさい、アナタがどこで何をするかを、自らの意思で……応援しますし、応戦しますよぉ?」
 こてん、と首を傾いだ鏡の瞳に光が宿る。シュンは鏡の様子に怯えるように一歩退き、イレイサが睨め付ける。酷く、恐ろしいものを見るような顔をして。
「人を殺した事を悔やんでいるかい? ……それでも守る為だったのだろう? なら俺は君を責めないし君を赦すよ。
 上から目線だけど君は後悔しなくていい。守る為に奪ったのなら君は背負わなくいい。だから気楽に考えろ、死を背負うのは墓守だけで十分だ」
 柔らかに囁いたグリムへとイレイサは噛み付くような勢いで「お前らは」と叫んだ。
「お前等は何が言いたいんだ! 道徳を説くくらいなら昔の聖人が飽きるほどにやってきた! そうだろ、そうだろっ!?
 仕方がないから人を殺した事を赦されて……それが心地よかったかを聞くなんて――お前は、なんなんだよ!」
「私が育った場所では、『己の欲に素直になりなさい』と教わってきましたー。私はそれに従い今日まで生きてきましたが、とても充実した日々を過ごせていますよー」
 ピリムは首を傾いだ。欲求に素直であればあるほどに、それは簡単だ。世の見え方だって変化する。
 イレイサの余りの剣幕におびえたような顔を見せたシュテルンは「イレイサ」と彼を呼ぶ。
「幸せになる為、誰かを苦しめる、する……望む、する……?
 シュテ、選んで欲しくない、する……シュテ、皆が笑顔なる、その方が、いー、する!」
 ぐ、とイレイサは息を飲んだ。背後で双子の姉妹が「イレイサ」と心配する様に見遣る。
「……誰かを殺した君の過去を否定する気は全くないけど、恐ろしく思うならする必要もないさね。
 ただどうしたいかを決めるのは君自身さ。君の頭で考えて、君の心で言葉にして。
 私は君が何を選んだとしても抱きしめて”わかった”っていうよ。君が恐れる君の過去も未来も今も……ひっくるめてぜんぶ、私に肯定させて欲しい。
 無償の愛を信じろとはいわない。私は人殺しの処刑人だからね。信じられない気持ちも知ってる」
 人殺しだから。分かっていると笑ったシキにイレイサは息を飲む。ココロはそっとイレイサの顔を覗き込んだ。
「生きるためだけに誰かを傷つけるのなら、最後には自分で敵を探して作らないといけなくなる。あなたはそれでいいの?」
「――……」
「私はね、君に笑って欲しい、君に幸せになって欲しい。そう想う気持ちは、君が他の子どもたちに生きて欲しいと願うのと同じだって信じてる。
 ま、判断材料が足りないなら一緒に知っていこう。ローレットの話くらいならできるさね。アドラステイアに行くのは後だっていい」
 シキの微笑を遮るように針水晶が「ローレットは断罪されるべきです。人を殺しても依頼だと是とする集団だ」と毒を吐く。
「『一時的』でいいならば。食事も、恵んでもらって感謝してる。だから、ヴァークライト家に寄せて欲しい。
 メアリとソマリが落ち着けるようになるまでだ。その後、俺は、俺で決める。俺には救いなんてなくていい。でも、メアリとソマリは――」
 シュンは優しくメアリとソマリの背を撫でた。涙を流した双子の姉妹をシュテルンは優しくぎゅうと抱きしめる。
「……怖い、したね。辛い、したねもう大丈夫、いれぎゅらーず……皆、守る、だからっ!」
 もう用事はないと針水晶が歩き出す。ああ、けれど、近いうちにイレイサは『もう一度』を求める様にこの地の土を踏むだろう。
 彼は選択を保留にした。それが彼の選択であったとでも言うように。
「では、また」
 背を向けた針水晶に、華蓮が囁く言葉は――屹度、届かないけれど。
「流されないで……考える事を止めないで……あなた達も、幸せを勝ち取る事ができますように」

成否

成功

MVP

華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人

状態異常

なし

あとがき

 この度はご参加ありがとうございました。
 MVPはお弁当を下さったあなたへ。それがなければイレイサは『保留』を選ばなかったでしょう。
 イレイサは『一時的に両者を学んだ後に選ぶ』こと選びました。
 メアリ&ソマリ、シュンはスティアさんに保護されることを求め、『三つ目』はローレットで生活しながらココロさんと共にと望みました。
 彼らは、未だ迷いの中に。どうか、その先に幸福が待って居ますように。

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