PandoraPartyProject

シナリオ詳細

薬の魔女の不気味な愛情

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●魔女マルガの独り言
 ああ、可愛いイーハトーヴ。オマエが最後にアタシのとこに貌を出してから、一体、どれだけの時間が経ったものだろうねぇ?
 オマエが召喚されてすぐの頃、息も絶え絶えのオマエを見つけた時は、柄にもなく神に感謝したものさ……アタシをこんなにも可愛い生き物と出逢わせてくれるだなんて、偶には粋な計らいをするものじゃないかい、とね。
 しかもね……オマエは介抱してやればやる程、見る見る可愛いさを増していった。元気になったオマエが出ていった時はそりゃあ寂しく感じたものだけれども、それでも、外での生活がオマエをもっと可愛くしてくれると思えば、さほどの苦にはならなかったさ。

 そんなオマエが……ローレットでは、どうやら、大切なお友達に恵まれているそうじゃあないかい。
 それは嬉しくて、同時に、心配でもあるよ……だって、そうだろう? オマエは自分自身の心身の容態も解ってないんだよ。
 お友達は、皆オマエを気にかけてくれるだろうさ。けれど――気を悪くしないでおくれよ――オマエを救ってやれるのはアタシの薬だけなんだ。

 だから……会いに来ておくれ。
 アタシにオマエの心身を診させておくれ。
 オマエにはオマエの都合もあるだろうけれど、これは必要なことなんだからね。
 そうだ。ローレットにオマエを指名した依頼を出すことにしよう……そうすればオマエは他の用事を断って、アタシに会いにくる口実ができる。オマエのお友達も皆そうだ。
 ああ、オマエがどんなお友達に出会えたのか知る日が楽しみで仕方ないよ。オマエはどんなお友達に恵まれているんだろうねぇ?

 さあ、可愛いイーハトーヴ。アタシの処へ還っておいで。
 お土産に、たんまりと特製の薬を持たせてあげるよ。

●魔女マルガについて
 その資料はローレットの資料棚の一角に、ひそかに収められていた。
 表題は、『薬の魔女マルガについて』。この資料の中では今回の依頼人であるマルガは、とある薄気味の悪いじめついた森の奥に棲む、異様な魔女として名指しされている。
 それが“可愛らしい”からという理由で、ぬいぐるみに仮初の命を吹き込み小屋の庭で遊ばせて、部屋には人の頭蓋骨を飾って愛でる不気味な怪物――それが常人から見た魔女マルガの印象であろう。記録によれば彼女の常軌を逸した美的センスを邪悪さと関連付けたのか、かつて近隣の領主が討伐を試みたことがあったとされている。
 ……が、送り込まれた騎士たちは、誰もその任務を遂げられなかった。誰もが口を揃えてこう報告したという……「彼女は、決して危険な存在ではない」、と。

 それが彼女への誤解が解かれたことを意味していたのか、それとも騎士たちが薬物による洗脳を受けていたのかは今も定かではない。ただ、彼女に命を救われた『秋の約束』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)はきっと、前者だと信じて疑わぬことだろう。
 マルガからの依頼書には、「来てくれたら、皆に薬草鍋を振る舞ってあげるよ」とも添えられていた。
 それは、彼女から息子同然のイーハトーヴの友達に対する厚意だろうか? それとも、独自に調合した薬品で特異運命座標たちを支配して、いつしか彼女の“可愛いものコレクション”に加えてやろうと目論んでいるのだろうか?

 明白な真意など何もない――君たちが、自ら見いださぬ限り。

GMコメント

 不気味な魔女が皆様に、奇妙な依頼を持ち込んできました。
 成功条件は、「マルガに会いにいく」、これだけ……難易度NORMALなのに……あ、あやしい……。

●本シナリオに関する注意
 今回の依頼は「マルガに会う」時点で達成されるため、その後はマルガと楽しく会話しながら薬草鍋をつついても、会話の中でマルガの真意を探るのでも、とっとと帰ってしまっても、マルガと戦い倒してしまうのでもかまいません。
 もっともリプレイは、マルガと合う直前ないし会った直後から始まる予定ですので、すぐに帰ってしまうと登場シーンが極めて少なくなってしまう恐れがあります。
 また、マルガを討伐してしまうとイーハトーヴさんの心身に重篤な悪影響を及ぼす可能性があります。このためマルガ討伐が実施されるのは、皆様のうち棄権者を除いた全員が賛成した場合に限られます。ご了承ください。

●マルガについて
 彼女が理解し難い美的センスの持ち主であることと、薬学や呪術に秀でた魔女であること以外、よく知られていません。
 彼女は薬草鍋を準備して皆様を待ってくれていますが……適切なスキル等を持つ者が材料を分析すれば、トリカブトやワライタケ等の毒劇物も含まれていることが明らかとなるでしょう。もっともマルガに言わせてみれば、「薬になる範囲でだけ使っている」とのことですが……?

 プレイヤー情報にはなりますが、詳細はこちらのSSもご覧ください。
 https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/1160

●情報精度
 このシナリオの情報精度はDに限りなく近いBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点しかありません。

  • 薬の魔女の不気味な愛情完了
  • GM名るう
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月21日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サンティール・リアン(p3p000050)
雲雀
リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
ジル・チタニイット(p3p000943)
薬の魔女の後継者
古木・文(p3p001262)
文具屋
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
夜剣 舞(p3p007316)
慈悲深き宵色
ブライアン・ブレイズ(p3p009563)
鬼火憑き
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ

リプレイ

●不気味な森
 魔女マルガの棲む森は、どこか異様な雰囲気を醸し出していた。
 節くれ立って捻れた枝に、子供の丈ほど大きなキノコ。獣道同然の小径を進みながらどこか薄ら寒さを感じるのは決して、季節だけが理由ではなかっただろう。
 ならば……何故か?
 その理由を『薬の魔女の後継者』ジル・チタニイット(p3p000943)は知っている。この森は、どこか異質な魔力に満ちているのだ。
 幾つかの文献は、この森を禁足地と見做す。この地が禁断の魔力を帯びていたからマルガが棲み着いたのか、マルガが棲むから森への立ち入りを禁じられたのかまでは文献にも残らない。が……ジルが目で見た限りではこうだ:
(直ちに害がある……というわけではなさそうっすが、この環境で育つ植物や鉱物は、協力な作用のものが多そうっすからね)

 思えば、この森そのものも奇妙ではあれど、その中を進む8人が奇妙ではないと言い切れただろうか?
 先導するのは少年とぬいぐるみ。いや、年齢だけで言えば『秋の約束』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)はとうに青年を卒業する頃合いであったのだろうが、ぬいぐるみ――彼だけに声の聞こえるウサギの『オフィーリア』を大切そうに抱き、疑いのない目でマルガの小屋を目指している彼の印象は、どうしても純真無垢な少年の領域を出ない。
 そして、彼のすぐ後ろをどこかうっとりとした様子でついてゆく少女。もっとも、魔力を湛えた長い黒髪と深い瞳、それらを引き立てる落ち着いた装いが、彼女が見た目どおりの存在ではないことを物語っている……そう、彼女は『慈悲深き宵色』夜剣 舞(p3p007316)。永劫の刻を生きる宵闇の魔女。彼女にとってもイーハトーヴは大切なお友達で……ああ、そんな彼の可愛さを知っているだなんて、きっとマルガさんとも仲良くなれるに違いないわ!
 そう。きっとかの魔女とは仲良くなれる。
 ……本当に?

(少なくとも、今ボクたちをこの世ならざる場所に連れてゆくつもりはないようですが)
 『無敵鉄板暴牛』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)は思索を巡らせた。
 友人による手放しの信頼と、世間による印象との差に抱く違和感。よもや、イーハトーヴは既に魔女の薬物による精神的影響を受けているのではないか? 決めつけたいとは思っていないが、万全の防備も忘れはしない。いわば、マルガ宛の手土産を積むほどドスコイマンモスの背に用意したのも、ある意味ではいざという時のための備えのようなものだ。
 その中には『想心インク』古木・文(p3p001262)の、とりどりの絵の具も載せられていた。
(マルガさんがこの手土産を気に入ってくれるなら、今回はきっとイー君にとって、楽しい帰省になってくれるのだろう)
 確かに魔女は疑わしいが、だとしても彼女は友人の命の恩人だ。真実は他人の言葉などでなく、自分自身で確かめる必要がある……文には、そのための目と耳が備わっているのだから。
 大丈夫。万事は上手くゆく。
 そう思えば『剣靴のプリマ』ヴィリス(p3p009671)の足取りも、どこか軽くなるようにさえ感じられる。
 木の根が車椅子の立ち入りを阻む森。剣の義足による旅路が痛みを生まないとは言わないが、あの悍ましい日々と比べれば遥かに快適だ。
 だから、マルガがどれほど恐ろしい魔女だったとしても、彼女はこう軽口を叩くことだろう。
「ええ。きっとどうにかなるわ」
 ……と。

●魔女マルガ
「ほら、見えてきた!」
 嬉しそうなイーハトーヴの声が、“とびきりゆかな『化かしあい』”の始まりを告げた。
「やあ、やあ。魔女さま、ごきげんよう!」
 先手を取るのは『雲雀』サンティール・リアン(p3p000050)のボウ・アンド・スクレープ。イーハトーヴの到来を待ちきれなかったか、そわそわと庭仕事をしていた魔女に、気取った慇懃な自己紹介を決める。
 するとマルガも口許を引き攣らせて嗤い。
「サティと云うんだね。こんな辺鄙な処まで佳く来てくれたよ。今、魔術の徒で語り部のたまごと云ったねぇ。アタシの我流のまじないが、どう語られちまうのかハラハラするよ」
 森でも見かけた魔草の葉を手に取りながら、魔女はうっとりとした表情を見せた。

 つぎはぎだらけのぬいぐるみ、それから骨と皮と藁で作られたウサギたちが遊ぶ女の庵の庭に生えていたのは、確かに薬にもなる植物ばかりのようだ。けれどもその名を聞いた者の多くは、毒としての側面ばかりを思い浮かべるに違いなかった。
 もっとも、それらはジルやサティが警戒すればいいのだが。『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)の役割は、魔女に自分たちは敵意を持っていないと信じさせることだ。
「折角だし、いいワインを仕入れてきたぜ! 最近ハマってるワイナリーがあるんだ……折角なら魔女サンの生まれ年の、なんてことも考えはしたんだが、流石にそんなことのために女性の秘密を暴くわけにもいかないからね」
 代わりに自分の年齢と同じ21年モノを見繕ってきたと語るブライアンの口調は、確かに、裏なんてさっぱりないように聞こえた。実際、彼はマルガに何かをされる瞬間まで、自分がいざという時のための備えをしてきたことを意識することもないのだろう。

 そんな訪問者たちの目の前で、魔女はさも当然のことであるかのように、幾つかの葉を摘んでみせた。
「さあて。今日必要になる薬草は、これと……これと……これかねぇ?」
 8人の顔を順番にまじまじと見つめ、それから楽しげな手つきで“薬草”を選んでゆくマルガ。
(まさか、これを鍋に混ぜようとでも言うつもりっすか!?)
 熟達の薬師の手にかかれば毒草さえ薬膳に変わるということは、ジルだってよく知っている。どんな薬も悪影響が出ない分量に抑えた毒にすぎないものだが……そのことと、薬師が薬の分量を“間違え”ない保証との間には、無論、一切の関連はない。……ただ。
「あのねマルガ。リュカシスはこの世界の最初のお友達! 色んな場所へ一緒に行って、トレーニングの先生でもあるんだよ。
 文は優しくて頼もしいお兄ちゃん! だから、つい甘えちゃうんだ……」
 マルガと彼女にひとりひとり仲間たちを紹介するイーハトーヴはまるで母と幼子のようにも見えた。その関係が真実であるのなら、母は子の大切な友達を、奪ってしまおうとは思うまい。
「サティとは初めての依頼からのご縁で、すごく頑張り屋さんでね……それで、舞は一緒にいると心が柔らかくなる、素敵な魔女さんなんだよ」
 ……ただしそれは、マルガが本当にイーハトーヴを我が子として愛していたならばの話。もしも、魔女が彼のことを、ただの所有物としてしか見做していなければ……?

 8人が招き入れられた小屋の中では、8人の来訪者のぶんとマルガ自身のぶん、9つの鍋が、テーブルの上に並べられた火の魔法陣の敷布の上で湯気を立てていた。
 中身は……火が通るまで時間のかかる根菜類が各種。肝心の薬草の類はまだほとんど含まれておらず、けれども部屋の奥の扉の先からは、ほのかに刻んだ葉の香りが漂ってくる。
「最後の準備が必要だねぇ。薬膳をワインと合わせようって時は、少しばかり調整が必要になるからねぇ」
「あっ、手伝うよマルガ!」
 マルガが摘んだばかりの薬草――毒草を手にしたまま奥の部屋へと消えていったなら、そのすぐ後をイーハトーヴが追いかけていった。その隙に……部屋の中の調度品を幾つか鑑定してみるのがこれからの文の仕事だ。
 どこからか取り出したルーペをコレクションへと向ける。部屋の中に所狭しと並べられている、おそらくはマルガにとって“可愛いもの”たちは……おそらくはマルガ自身の他には、誰にもその価値なんて解らないだろう。
(引き千切られた携帯ゲーム機の片割れ。古い動物の頭蓋骨。骨には呪術か何かの形跡があるけれど、見たことのない様式だね。これはこれで個人的に気になるけれど……)
 だが最も知らなくてはならぬのは、やはり、乾燥のため天井から吊るされた葉の束のほうだ。
「この植物は?」
「外で栽培してたのと同じものっすね。薬草でもあるっすけど魔術触媒としての効能のほうが強いっす」
 ジルが答えればサティも引き継ぐように。
「そう。貴重な魔術の媒体さ! そればかりじゃない、この部屋にはそういうものがいっぱい!
 ……真剣にあとで商いのご相談をしたいところだな。魔女さま、僕にも準備を手伝わせてくれないかい? ついでに僕のアップルパイと香草茶用のティーポットも見てくれるといいのだけど――」

●団欒
「改めて……初めまして、マルガさん。私は深緑の宵闇の森に住む【宵闇の魔女】、夜剣 舞と云うの」
 立ち上がって優雅に一礼する舞に目を細め、食卓に戻ってきたマルガは感謝の言葉を述べた。
「聞いてるよ。イーハトーヴが随分とお世話になっているらしいねぇ。それに、好い櫛まで貰っちまうだなんて……礼をするのはアタシのほうだってのに」
 マルガが舞から贈られた黄楊の櫛で、薬草を燻した煙でべたつく髪を梳いたなら、海洋の潮風すらものともせぬ櫛は流れるように黒髪へと通る。
 マルガが、櫛にあしらわれた妖精の羽根のブランドロゴまで気に入ったのかは判らなかった……けれども彼女の無邪気な表情は、少なくとも彼女が櫛の性能を――彼女自身が最も可愛らしいと信じる、彼女自身をより可愛らしく変えてくれることを喜んでいるようにリュカシスには見える。
 もっとも、その無邪気さが純真無垢さに属するものか、それとも子供が蟻を踏み潰す時に似たものであるのかまでは、疑い始めればキリがなかっただろう。
 だから……リュカシスが為すべきはその判断材料を集めることだ。そのためにお土産をマンモスに積んできたのだ。
「魔女様は可愛い物がお好きと伺いましたので、ラド・バウで一番可愛いマイケルさんの人形焼きを持参しました」
「おや! あの鉄帝の幽霊と一緒に出てくるって子だね!」
 だがやはり、見た目に喜んだのかどうかは定かではない……唯一、明確に彼女が喜んだように見えたのは、彼がイーハトーヴは得難い友人であり、それを得たのはマルガいてこそだと伝えた時くらいだ。
 ……いや、もうひとつ。
 ヴィリスが、招待の礼として踊りを土産とさせてほしいと申し出た時には、マルガは傍目からでも思わず身を乗り出しそうになるのをどうにか堪えたことが判るくらいに、彼女に強く興味を抱いたようだった。ぎこちなくスカートの裾をつまみ上げてのカーテシー。大きく露わになった彼女の義足は、どうやらマルガに強い印象を与えているらしい。
「その踊りとやらも気になるけれど、まずはアタシにご馳走させとくれ」
 それぞれの鍋に、彼女にしか判らぬ基準で異なる薬草を加え、薬膳を完成させる魔女マルガ。
「いよっ、待ってました!」
 いそいそとグラスにワインやグレープジュースを注いで回るブライアン。早速、音頭を取って宴前の挨拶をして……乾杯の合図とともにぐっとグラスを呷る!
「んー! いい香りだ! さすが21年モノ。けど、フルーティで瑞々しい……まったくクドくない。まいったな! 同い年なのに俺の口上の方がよっぽどしつこいぜ! ハッハー!」

 元より楽しい席として設けられたことは間違いのない食卓ではあったが、薬草鍋を食べ、ワインを飲めば、ますますブライアンは楽しさでいっぱいになるようだった。
 もちろん、それは今回の主賓であるイーハトーヴも同様だったろう。
「うーん……やっぱり、マルガの料理は美味しいね。久々だから、嬉しくてたくさん食べちゃう! ところでマルガはどうかな、俺が手伝ったところ……この間、舞とポテサラを作ってね。全然できなかった料理も今は少しお手伝いできるようになったから、マルガに味を確かめてほしいんだ」
「そうなのよイーハトーヴさんったら。初めてだから楽しいって、私の好きなポテサラを作って食べられるのが嬉しいって言ってくれるのよ……」
 皆が喋っていた間は邪魔をせずに耳をそばだてていた舞も、イーハトーヴのこととなると堰を切ったかのように、どれほど彼が可愛らしいかを怒涛のごとく語る。
(怪しげな魔女サンかもしれないけど、イーハトーヴにとっちゃあここが故郷だからな……)
 元の世界に帰る術がない自身に代わり、どこかで彼に“里帰り”を託してしまっているからだろうか。どこか耐え難い喜びがブライアンを襲う。
 はっとして、サティやジルの顔色を覗ってみる。
 するとジルがちょいちょいとサティの肩をつついた後に、彼女に鍋の中のキノコを指差してみせる。すぐに、サティから念話が飛んでくる。
『いわゆる、マジックマッシュルームだね……多幸感と、多く摂取すれば幻覚も出るかも知れないけれど、量としては恐らくそこまでじゃない。安全ではあるね』
「じゃあ、あれもその影響ってところかな」
 横から文が小声で尋ねた。『あれ』というのは……彼がマルガに贈った絵の具のことだ。もちろん、彼女は彼からの贈り物もまた、本心まではどうかは判らぬが少なくとも表面上は喜んでくれた。だが次の瞬間彼女は……それを頭蓋骨に塗りつけて、何かの模様を描いて愉しげに笑ってみせたのだ! ……まるで、薬物中毒者が奇行をする時のように。
 ぞくりと密かに体を震わせた文に代わって、ジルがマルガに訊いてみる。
「マルガさんは、いつもこのキノコとかを食べてるっすか?」
「それは今日ばかりの特別なものさ」
 マルガの興味がジルに向く。彼女が鍋の材料を言い当てて、マルガに効能を確認している間、リュカシスはマルガの態度と自身を蝕まんとする感覚の中から、真実を探らんと思索する。
(お薬にお詳しいジルサンが、これは毒草だと仰っている……魔女様もそれは認めてらっしゃるというのに、ジルサンは平気でお召し上がりになる。
 実際、ボクも毒を食べた時のような感覚はありませんから、魔女様は毒草さえ薬に変えているというのは確かなのでしょう)
 けれども、ジルとマルガの話を注意深く聞きながら鍋の中の材料と見比べていた者は、リュカシスに限らず誰もが気付いただろう。
 彼女らの会話に出てくる材料が、自分の鍋に入っていないことがある。そして全く触れられない材料が、逆に入っていることがある……?

●幸せを求めて
 幾ばくかの不信の種が撒かれる一方で、食卓は幸せに包まれていたと言ってよかった。文がマルガの“呪術”について尋ねれば、彼女は喜んで彼の興味を満たすよう秘密を囁いてくれる。
「毒が体を縛るものなら、呪いは心を縛るもの……謂わば、心の毒ってところさ。けれども、病によっては毒が薬になるように、心が悪しき方向を向かないよう縛る呪いは、心の薬になってくれるものじゃないかい?」
 そう言って簡単な手法まで教えてくれるのは、マルガが彼を好いてくれたからだろうか? あるいはそれだけでは自分の術は破れないという、絶大な自信が為すものか。
 ただ……文は、今は前者であると信じることにした。その方が可愛い弟分にとって良い結果に繋がるだろうし……何よりマルガとサティのやり取りは、本当に心優しい女性と少女のもののように聞こえるからだ。
「魔女さま、僕の手伝いはどうだったかな?」
「その調子で練習するといいよ……お母君のレシピを再現できたら、イーハトーヴにもご馳走してあげておくれ」
 そんな幸せそうに見える宴の中だったから、ようやく始まったヴィリスの踊りも、ますますマルガを喜ばせる結果となったようだった。楽団の奏でる舞曲の代わりに、皆のざわめきが音楽となる。その中での『脚を使った剣舞』とでも呼ぶべき舞いは、マルガに大いに手を叩かせるほど。
「手を煩わせてごめんなさい。手を患っているのは私の方だけれど」
 食器を上手く掴めなかった際の、これまで多くの人を逆に引かせてきた冗句さえ、マルガは面白がって甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。贈りものであり、その礼でもあるダンスをしながら……ヴィリスは不意に気付いてしまう。
 脚が、普段よりも、痛まない。

(もしかして鍋の『調整』って……それぞれに合わせた薬を見抜いて調合してたってことっすか!?)
 軽やかに踊るヴィリスを見ていれば、ジルもそのことを知ってしまった。
 無論、それ自体は悪しきことじゃない。……が、そこにあるのは薬師としての悪魔的技量。
(もしもマルガさんがその気になって毒を盛れば、今の僕には見抜ける気がしないっす……)
「やっぱ、世間の悪評なんてのは当てにならんもんだぜ!」
 魔女ではなくブライアン自身が口を滑らせている。それでもマルガが上機嫌なのは、人々にとっての幸いだったろう。

 いつしか日も大きく傾きかけており、夜の森を帰る羽目になるのではという恐ろしさからリュカシスの指先がイーハトーヴの手のひらを求めた。
「もう少しだけ待って! あとはこのボールペンの話だけ終わったら帰るから!」
 イーハトーヴはそう返し……マルガの表情が寂しげに曇る。
 その腕の中に、舞が何かをそっと抱かせた。
「また、いつか会いましょう……私たちの可愛いイーハトーヴさんのために!」
 別れゆく8人を見送るマルガの手の中で、それはイーハトーヴのぬいぐるみへと姿を変えた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 まだまだ伝え足りないこと、調べ足りないことも多かったかもしれませんが、ひとまず今回の遭遇は友好裏に終わりました。マルガは皆様にまた何時でも来てほしいと言っており、その時彼女は再び薬草鍋を振る舞ってくれるでしょう。
 今後もマルガはローレットとある程度の関係を持ち、貴重な薬を取引してはくれるようですが……それを服用し続けた場合、一体どうなってしまうのでしょうか?

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運営より:『マルガの秘薬』がショップで販売開始しました。

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