PandoraPartyProject

シナリオ詳細

スナック『AROUND30』

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ここは夢の入り口。スナックAROUND30へようこそ
 再現性東京夜の裏通り。半地下一回への階段を下ったなら、そのレトロモダンな扉が見えるだろう。
 木製のドアにかかったパネルには『AROUND30』の文字。
 開いた先には、一夜の夢が待っている。
 さあ、ドアノブに手をかけて……。

 ウェルカムベルの音に振り返る彼女の名はアーリア・スピリッツ (p3p004400)。
「あらぁ、いらっしゃい。久しぶりねぇ」
 蜂蜜のようにとろけた声と、蜂蜜種のように流れる髪。
 カウンターの向こうではマニエラ・マギサ・メーヴィン (p3p002906)がグラスを布で磨いている。
 ホンキのカラダを見せつけるためか、全裸のほうがまだ健全ではと思えるようなマイクロビキニで堂々と立っていた。
 しかも脇には彼女の伝説かつ異名ともなったタペストリーが下がっている。
「よく来たな。外は寒かったろう。……コルネリア、ブレンダ。客だ」
 裏口からはマニエラの呼びかけに応じて二人の美女コルネリア=フライフォーゲル (p3p009315)とブレンダ・スカーレット・アレクサンデル (p3p008017)が現れ、あなたを席へと誘っていく。
 胸に『I♡AKU』の缶バッジをつけたコルネリアが、かけていたサングラスを外してあなたの隣へと座った。
 田舎暮らしが嫌で都会に出てきてワルい男と一通り付き合ってアンダーグラウンドに精通したみたいな目つきをしているが根が良い子すぎてかえってアングラから放り出されたみたいな、ちょっと爽やかな空気を纏っている。
「いらっしゃいませ。もしかして初めて会うお客さんかしらぁ?」
 反対側には眼鏡をかけ、胸に『I am gori』のバッジをつけたブレンダが色っぽい笑みを浮かべて腰掛ける。
 こちらはと言えば武闘派すぎて男っ気が無いサバサバした風格をもってるにも関わらずボディの女子力が強すぎてはぞの反作用を起こしていた。中学生のそばにこんなオンナいたら後の性癖がねじれにねじれるに違いなかった。
「外では色々あったろう。ウシビキニを着そびれたりスク水になり損なったりしたかもしれないが……なあに、ここへ来れば皆同じ。一夜の夢で過ごそうじゃないか」
 そしてこの店で客を歓迎する四人の美女。
 彼女たちすべてに共通することは……。
 自ら業火へと飛び込む魂。
 西に服を溶かすスライムが居れば素手でダイブし、東にスク水を着せられる依頼あれば行って早き替えし、北に魔法少女を求める声あれば歳を忘れてフリルに包まれ、それらの依頼に落ちようとも自ら作って飛び込んでいく。ソウイウフモノ――。

 そう、ここは再現性東京の中に偶然にも生まれたスナック『AROUND30』。
 自ら業火の中へと飛び込む女達が、身を焼くために自然と集まった都会の片隅。
 その炎は、きっとあなたの心を温めるだろう。

 さあ、まずはその席に腰掛けて、注文をどうぞ。

GMコメント

■スナック『AROUND30』
 この依頼はマニエラ、コルネリア、アーリア、ブレンダの四人が共同店主として経営するスナック『AROUND30』での日常を描くシナリオです。

 マニエラ、コルネリア、アーリア、ブレンダの四名は店員として客を出迎え
 参加した他四名は客としてこの店のサービスを受けます。
(※このお店は風営法が仮にあったとしてもひっかからない程度に健全な商売をしています。嘘じゃありません。壁のタペストリーと僕の目を見てくださいハァハァ)

■スタッフとして
 四人のスタッフはそれぞれ客との会話を楽しみましょう。というより楽しませましょう。
 都会のっていうか混沌のっていうか現実の風にあたりすぎてすり減ってしまった人々の心を業火の温かさで癒やすのです。
 特に制限はありませんがマンツーマンで会話パートを作っておくとはかどります。なにがはかどるんだろう。心……か……?

■客として
 この店に来たお客さんは日頃不満に思っていることや愚痴なんかを聞いて貰いましょう。
 好きな飲み物を注文して、隣に座る美女に胸の内を語るだけできっと心の隙間に暖かいものが埋まっていくことでしょう。

■おまけのかいせつ
●再現性東京(アデプト・トーキョー)とは
 練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
 主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
 その内部は複数のエリアに分けられ、例えば古き良き昭和をモチーフとする『1970街』、高度成長とバブルの象徴たる『1980街』、次なる時代への道を模索し続ける『2000街』などが存在している。イレギュラーズは練達首脳からの要請で再現性東京内で起きるトラブル解決を請け負う事になった。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 AはアダルトのAです。オトナです。

  • スナック『AROUND30』完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年03月16日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
八田 悠(p3p000687)
あなたの世界
御堂・D・豪斗(p3p001181)
例のゴッド
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
※参加確定済み※
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
※参加確定済み※
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
※参加確定済み※
コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤
※参加確定済み※
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
駆ける黒影

リプレイ

●スナック『AROUND30』
 扉を開くと鳴り響くウェルカムベル。
 その音に気付いた『猪突!邁進!』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)がちらりとこちらを見ると、どこかハンサムに笑った。
 カウンターの裏でグラスを磨き、酒瓶を並べる。すらりと整ったスタイルには、しかし溢れんばかりのパワーがみなぎっていた。
「壁のポスターか? オーナーの命令でな。
 さぁ、注文を聞こうじゃないか。未成年にはソフトドリンクもあるぞ?」
「いやなにを普通に流そうとしてるんだ。乳にドアノブカバーのっけた女のポスターが命令で片付くか」
 ポスターをビッて指さす『あなたの世界』八田 悠(p3p000687)。
「もはや全裸のほうがまだ健全だぞ」
「それをあながたいうか」
「大体実物もなんだこれは」
 ビッと実物の『こむ☆すめ』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)を指さしてみると、マニエラは『本気の身体見せつけポーズ』をしていた。
「マイクロビキニってなんだ。下手に『そういう用途』の服を着ているほうがよっぽど全裸よりエロいんですぅー。というかポスターも全部ヤバいよ、ヤバすぎてラバになるよ」
「ラバにはならんだろう」
 ストンと腕を下ろすマニエラ。
「オーナー絶対許さん。私だけマイクロビキニなのおかしいだろ」
「『何着ても痛くない』とかいうからなのだわ……」
 ポンと肩に手を置いてやる『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)。
 その手に、マニエラはそっと自分の手を重ねた。
 手の温かさが伝わる。
「さみしいだろ?」
「えっ」
「全員平等に地獄に堕ちないと、寂しいだろォ?」
「くっやめろHANASE!」
 ぐぎぎぎぎって手をプレスして離さないマニエラ。
「兎は寂しいと貴様を道連れにして死んじゃうんだよォ!」
「バニーちゃんはそんな凶悪なこといわない!」
 お前もウシビキニになれよゃぁ! とかいって襲いかかってきたマニエラにAKUチョップをたたき込み昏倒させると、コルネリアは額の汗を拭って爽やかに笑った。
「いらっしゃいませぇ。ご新規さんなのだわ」
「今すげえ音してすげえ格好した女がカウンターの後ろに倒れた気がしたんだが……」
 『月夜に吠える』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)がドアの前に立っていた。
 ルナ、女に詮索しない性質(たち)。
「コホン。アンタ、たしかシスターじゃなかったか? なぁ、コルネリアよぉ。なんだ、酒の飲みすぎで破門でもされたか? ハッ! 面白れぇなアンタ」
 話題を露骨に変えると、フードパーカーのポケットに手ぇ突っ込んだ『オギャって万馬券』キドー(p3p000244)がちゃらちゃらした足取りで店に入ってきた。
 堂々とした歩き煙草。一応希望ヶ浜市民への配慮なのか目深にかぶったフードは、店に入ると同時に背へ払った。
「たまには河岸を変えようかと再現性東京くんだりまでやってきたが……いい店があるじゃあねェかよ。ローレット・イレギュラーズの店ならこのツラでも平気だしよ。よくある地元感アウェー感が薄くて最高だな」
「あらぁ、キドーさんいらっしゃい」
 カウンター席で早くも飲んでいた『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)が、腰をひねるようにして振り返った。かくんと垂れた頭からピンク色の髪が流れ、手の中で同じ色をしたカクテルが揺れる。
「しかもAROUND30? スナックにしちゃぴっちぴちじゃねえかよ。でも娘はねえわな流石に。ガッハッハ」
 誰からうつったのか下品な笑い方をするキドー……の財布をそっと抜くアーリア。
「えーっと、パッション下北沢、アカチャンポンポ、ペロリスト、モハメド・カリ……」
「ヤメロァ! その名刺はもらっただけだから! まだ行ってないから! モハメド以外は!」
 アーリアはうふふと笑うと、キドーを手招きして隣へと座らせた。
 と、そこへ。
「諸君! ゴッドである!」
 ドアをバーンと開け放ってゴッドがスナックにインした。
「ビューティフルエンジェル達よ、まずは一枚、ファイヴショットといこう!」
 くるりと入り口で反転。スマホをかざして自撮りスティックゴッド仕様をかざすと横ピースした。
「いやファイブどころかエイトショットである!」
 今にもピンにしたいこの有様。スナック『AROUND30』、開店であります。

●乾杯から始まる夜
「ヒーローアンドエンジェルたちよ、グラスをハブしライズしたか! それでは今宵のパーティーをセレブレイトして――『ゴッドブレス!』」
「「ゴッドブレス!!」」
 グラスを打ち合わせ、ゴッドは謎めいたカクテルを一気飲みした。
 腰に手を当て、カッと後光を光らせる。
「んんんー、デリシャス!」
 あまりの眩しさにレンズ部分に『悪』って書いてあるサングラスをかけていたコルネリアはそれをクールに外し、クールに胸元へと引っかける。胸元にはI♡AKUの缶バッジ。ちょい悪を超越したモテカワスゴ悪コーデである。
 スナック『AROUND30』を支えるメンバーのひとりコルネリアの特技。それは激ウマAKUトーク。希望ヶ浜の夜を彩るAKUスマイルと自らのAKUプロフィールやAKU持論を語るAKUトークはAKUなコルネリアちゃんがAKU可愛いと客達に評判であった。
「アタシはAKUネリア。アンダーグラウンドからも恐れられる女……何でも聞いてあげるわ、話してご覧なさい」
 実際いるよね、30台くらいでAKUを醸してるけどかわいさと根の良さが全面にでて愛されちゃう人。
 マジモンのシリアスパートではバチバチにノワールかつクライムな空気がバチバチに出る筈なので、今宵は楽屋裏感覚でAKUネリアをお楽しみ戴きたい。
 一方こちらはブレンダ。
 カウンターの裏でイケメンバーテンダーみたいな雰囲気メリメリに出しつつ、土鍋を手に持った。
「今日はこれだけ集まったんだ。きりたんぽ鍋にしよう」
 説明しよう。きりたんぼとは潰したうるち米を棒にくるむように巻き付けて焼く秋田県の郷土料理で味噌と一緒に土鍋に入れてちくわみてーな形に竹切りしたスタイルが有名である。
 ビッと親指をたてる悠。
「なるほど、鍋はいいね。一つの鍋を囲むっていうのもお会計がうやむやになりそうでグッドかな」
「素直すぎないか?」
「素直さは相手によって違うんだ」
 とはいえ鍋はいいね的感想に全く異論はないようで、ルナは割り箸を袋からスッと取り出した。
 取り出してから、ブレンダの手元と顔を交互に見た。
「一言いいか」
「なんだ」
「今まさにグツグツ音をたててる土鍋を、さも当たり前みたいに手のひらにのっけて持ってるアンタはなんなんだ」
 イケメンバーテンダーみたいなツラしたブレンダが『右手をご覧ください』のポーズで、右手の平にグツグツの土鍋(十人前)を載せていた。
「なにか不都合でも」
「ないほうがおかしいんだよ」
 ぽん、とルナ肩を叩く悠。
「諦めろ。彼女は天然だ」
「ま、まあ、本人が問題ねえならいいか……」
 一旦は矛を収めたルナ。矛はしまって割り箸をと身を乗り出したところで、ブレンダは鍋をテーブルにおいて自分は別の調理に移ろうとしていた。
 具体的にはリンゴを手に取っていた。
「あ、なんだ? リンゴ剥いてくれんのか?」
「フッ。この私ブレンダ、料理は不得手なれども刃物の扱いは――得意ッッ!」
 て言いながら左手でリンゴを握りつぶした。
 一個丸々グシャアっていった。
「…………」
「…………」
 沈黙のルナ。
 その肩に手を置く悠。
「全く、仕方ない……。ここは推定年長者である私がやってやろう」
 腕まくりして鍋作りにいそしむルナのその一方、マニエラは『マニエラ用』って書かれた一人用冷蔵庫の扉を開いた。
 中身が缶ビールでいっぱいだった。
 それを一個取り出し、何年も毎日繰り返したみたいに人差し指だけでカシュッと開き、グツグツ煮え立つ鍋の上に掲げ――ようとしたところでガシッとキドーがその手を掴んだ。
「お前は次にこう言う。『隠し味に』」
「隠し味に――ハッ!」
 キドーはやれやれといった様子で首を振った。
「おめーこんな全裸が水着きて歩いてるような女に料理任せちゃ駄目だぜ」
「誰が肌面積90%の女だ。オーナー命令でなきゃこんな格好で接客しな――あっづあ!?」
 鍋からはねた熱湯に悶絶してころがるマニエラ。
「フフ、仕方ないわねぇ。けどこのくらいは許してあげて。みんなそこまで下手っぴじゃあないのよ。ちょっぴり不器用さんなだけ……」
 オトナのお姉さんみたいな余裕を、ビールカラーの髪をふぁさぁって見せつけるアーリア。
「「アーリアママー!」」
 キドーは心の中のベイビーを刺激されつつ、苦笑ぎみに首を振った。
「ま、そうだよな。料理が下手っていっても、ちょっと味覚がゆるかったり基礎を知らねーだけさ。ヤベーやつは味噌汁に茶色い絵の具入れるらしいぜ。あとスッポン鍋と称してミドリガメ入れたりな。ハハハッ、そんな奴実際にいるわけ――」
 振り返るキドー。
 右手に茶色絵の具、左手にミドリガメをもったアーリア。
 この瞬間、全員の心が一つとなり、アメリカンスーパーボウル‎なみの一斉タックルが決まった。
 アーリアなりのジョークである。ジョークだよね?

 結局ルナが『今から俺が鍋奉行だ!』といって鍋を作り始めた。けっこう上手だったし美味しかった。
「このお店にゴッドの祝福があれば繁盛間違いなしねぇ……」
 メカバーテンダーにカクテルを作らせ、髪色を淡いブルーのグラデーションにするアーリア。
 その横では、カクテルをちびちびやりながらキドーが背を丸めている。
「先のラサの大鴉盗賊団にはさ、凄え気が合いそうなって連中も居てさ。
 やっぱ俺あっち側なんだなって思ったワケ。
 ローレットに入らず気ままな盗賊稼業に専念してたら今ここで飲んでなかったかもな」
 がははと笑ってグラスをあおる。
 ローレットとは不思議な場所だ。どんな世界でどんな過去を持っていようとも、召喚されたというそのただ一理をもってのみ仲間とし、時に天を突き海をわる巨竜と戦い時に国滅の大悪魔と戦い、時にスナックで鍋をつつくのだ。
 『もし召喚されていなければ』。そんなIFは、アーリアの胸にもちいさな棘のように刺さった。
「今夜は、とことん聞くわよぉ」
 ちょいっとグラスを掲げ、小首をかしげてみせるアーリア。
 そのなんだか好きだらけな仕草が、いかにも彼女らしくてキドーは笑った。今ではぺたんとしてしまった元モヒカンヘアーをかきあげて。

●夜は心に更けてゆく
 フルーツを切るのは任せろといって、ブレンダが包丁でスイカを八つ裂きにしていく夜。
 コルネリアがもう何杯目かわかんないグラスを空っぽにした頃のこと。
 豪斗はグラスのなかの氷をカランと鳴らして目を細めた。
「ゴッドはゴッドゆえに、デッドを迎えることはあってもエンドはない。
 故にリミットのある人の子が愛おしく……ライフとしてのタイプが違うというのはビッグウォール!」
「そうか……」
「なるほど……」
 ブレンダはバナナをかじりつつ。コルネリアはウーロンハイを空っぽにしつつ、同時に頭上にハテナを浮かべていた。
 しかしそこはスナックのガール。
「ゴッドの悩み……ちょっと分かるわ。アタシもZENのピーポーとは相容れないAKUたる存在、ポジションのタイプが違うのはビッグなウォールを感じてしまうのだわ」
「おお、わかってくれるか」
「すげえなどうやって会話してんだあれ」
「ミラーリングは基本」
 鍋タイムもほどほどに終わり、つまみをつまつましながらお酒飲む時間になっていた。
 ルナも水割りをちびちびやりながらローレットあるあるトークに移ってみる。
「アンタら、空中庭園に呼び出されてどう思った。俺としちゃあ良くも悪くも身の丈に合った感じだがよ」
「そうねぇ……」
 話の温度を探ってみるコルネリアだが、ルナは案外自分のムードを外に出さないタイプらしい。ゲスト側であるにも関わらず相手にあわせて喋るつもりのようだ。
 というわけでハードル低めのさわり方をしてみることにした。
「喚ばれた時は丁度金勘定してて、庭園にばらまかれた札や硬貨を集めるのに必死だった事しか覚えてないのだわ……」
「異世界出身と混沌出身で召喚の受取方はかなり変わりそうだな」
 ブレンダは核心に触れているんだかいないんだか、触れようものなら握力でガッっと行く気満々のタッチをしていた。
 空気を読んでというべきか、話題の転換をはかる悠。
「ここで訊いて意味があるのかってヤツでさ。……いやあ、僕にはどういう服が似合いそうかなって。
 もう最近はそもそも服を着ないことも増えてるけどさ、公的に人前だと流石に何時も全裸はヤバいじゃん? 5割程度がギリ許されるラインな気がするし」
「ふむ」
 今まで通りでいいんじゃ? とか言おうとしたが、悠の普段通りのコスチュームって結構な割合で全裸だった。全裸にエフェクトかけて合法化したようなスタイルがごろごろある中で、ファッションセンスとか言われても確かに困る。
「それなら心当たりがある。メイクや服の相談なら再現性で見つけたお勧めを教えておこうか。ここは他よりもいいものが多い」
 ブレンダがそういって急に女子力を発揮し始めた。
 リンゴを素手で握りつぶすが、なにげにいろんな服を着こなす女子なのである。
「ファッションに関してはここが一番だと私は思っているよ。
 気になるなら今度一緒に行くのもいい。人を着飾るのも好きの性分なのでな」
「悠さんにはそうねぇ……敢えてスーツとか着てみない? スタイル良いし映えるわよぉ」
「スーツ……」
 希望ヶ浜スタイルとして女性用のスーツを着てみたことはあったが、手足が半透明になったせいでとんでもなく浮世離れしたものである。
 ブレンダが切るようなややボーイッシュなパンツスーツできめてみるのもアリかもしれない。
 マニエラはそんな会話をぼんやりと聞き流しつつ、つまみの補充やら皿洗いやらを率先してこなしていた。
 エプロンつけて。
「今更だけどマニエラ。その格好でエプロン着込んだらもう犯罪では」
「隠した上に更に隠したのに何が不満だ!?」
 格好が一番どうかしてることでバランスをとっているのか、マニエラは店の中でもっとも常識的なガールであった。
 そんな彼女が透明な液体のゆれる瓶をキドーの前にドン。
 アーリアはそれをとると、キドーのグラスに注いでやった。
「どーしても殺したくて堪らないんだけど、同時にこう……なんだ。好意?も感じてる相手を殺したこと……ある?
 やだなんか重くなっちゃったわ。そんな重たい話したかった訳じゃないのよ。
 おれ、そんなグタグタ執着するような男じゃないんらけど……。
 コルボ……あの、あいつ。大鴉のお喋り金歯ハゲ
 あいつから届いた手紙を……未だに持ってゆ……燃やそうと思ってたけろ……」
 途中からへろへろになりつつあるキドー。お酒もっとちょーだいと言い出す彼に、アーリアは黙って瓶の中身を注いだ。
 ラベルには日本酒の銘柄が書かれていたが、瓶底にはそっと『水』と油性ペンで書いてある。
「……ま、私だってもしかしたらこんな店やらないで敬虔なシスターだったかもしれない
 そんなの全部「もしも」の話よ、三賊のキドーさん?
 殺したいけど好意……そうねぇ、殺そうとして失敗しちゃったことなら、なぁんて。
 どうぞどうぞ、とは言えないけど……全部背負って、生きていきなさいなぁ」
 アーリアはマニエラにウィンクし、マニエラは酔い止めに聞くドリンクをそっとカウンターに置いた。

 希望ヶ浜の夜は更けてゆく。
 スナック『AROUND30』の看板を、暗い街路に明滅させながら。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――またのご来店をお待ちしております

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