シナリオ詳細
悪魔の球根
オープニング
●悪魔の球根
大樹ファルカウより広がる大森林。
深緑は東の森のはずれに位置するフェザースの村で、一つの事件が起こっていた。
事の始まりは村の南に住むモーリア夫妻が、朝自らが世話をしている畑へと出向いたところから始まる。
深緑の民は大樹ファルカウの恵みに感謝しながら、農作物を育てる。ファルカウの恵みと深緑の民の愛情を目一杯受けた農作物は、これ以上無いくらい豊潤に育ち、深緑のみならず、混沌各地で歌になるほどの名産となる。
だが、これはどうしたことだろうか。
モーリア夫妻が目にした手ずから育てた畑が、砂漠の如く枯れ果て死に絶えている。
収穫目前だった作物達が、干からびその価値をなくしているのはなぜか。
昨日確認したときは元気だった農作物達が、一夜にして全滅している。そんなことは通常起こることのない出来事だ。
何かが起こったのだと、モーリア夫妻のみならず共に村で暮らす人々は思った。
予感は翌日、現実となる。
村の他の畑も同様に砂漠化し、死に絶えたのだ。
村人達は、ファルカウの恵みが途絶えたのか、はたまた呪いにでも掛けられたのかと悲嘆し、助けを求めるように村に住む博識な呪い師の老婆を尋ねた。
老婆は状況を確認し、自らの記憶の中からかつて読んだ本の記憶を掘り起こした。そして、これはファルカウの恵みが途絶えたわけでも、呪いに掛けられた訳でもないと、村人達に言った。
そうこれは「悪魔の球根」の仕業なのだと。
●
ローレットにその依頼が持ち込まれたのは、すぐのことだった。
「悪魔の球根……聞いたことのないものだったけれど、調べて見ればそいつはすぐに見つかったわ」
情報屋『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)は依頼書と共にその資料をテーブルの上に滑らせた。
「悪魔の球根――スティールバルブか」
なんでもその球根を栄養ある土地に埋めれば、小一時間もしないうちに周囲の栄養を全て奪い取って成長し、同時に子種を残していくという。
また帰巣本能も持ち合わせているため、一度発生すれば生まれた土地周辺を完全砂漠化するまで居座り続け、ねずみ算式に増えていく子とともにあらゆる土地の天敵と言える害悪な魔物と言えるだろう。
「発生した原因は不明だけれど、放って置けば被害が大きくなる一方ね。そう数が増えてない今のうちに駆除したいと、村人達は思っているわ」
「スティールバルブが潜んでいる位置はわかっているのか?」
イレギュラーズの質問に、リリィは一つ頷くと新たな資料を提示した。
「スティールバルブは夜行性で、昼間は周囲の森に潜んでいることがわかっているわ。確認したところ、親バルブ一体に子バルブが五体。計六体のバルブが潜んでいるようね」
「潜伏位置は村から南に小一時間ってところか……」
深緑の森は迷いやすいが、幸いにも村は物資の流通ルート上にある要所だ。バルブ達の潜伏位置もルート上に近しい位置にあり、迷うこと無く見つけられるだろう。
「昼間に潜伏先を奇襲するもよし、村に罠を設置して夜間現れた所を迎え撃つもよし、作戦は特異運命座標ちゃん達に任せるわね」
日数が立てば立つほど脅威が増える相手だ。迅速に行動するのが正解と言えるだろう。
席を立ち準備を始めるイレギュラーズにリリィが一つ情報を付け加えた。
「一つ気になることがあって……どうも最初の畑の周辺が綺麗すぎたのよね。丁寧に作業をしていたのだろうけど……うーん」
小首を傾げるリリィの言葉を頭に入れつつ、イレギュラーズ達は現場となるフェザース村へと向かった。
●
現場となるフェザ-ス村の最初の畑。
イレギュラーズは膝をつき、砂漠化した畑の砂を手に取る。
「なるほど、ラサの砂漠にも劣らない干からびた砂だ」
畑の周辺をぐるりと歩きながら周囲を観察する。
リリィの言うように、最初の畑は妙に綺麗――つまり、人が踏み荒らした形跡がなかった。
「毎日農作業を行うモーリア夫妻がいるのに、か?」
何かがおかしい。そう、これは不自然だ。
そう思い始めれば、止まらなかった。最初の畑周囲を隈無く調査し、そして小さな魔術的痕跡を見つけた。
「人の足跡が隠蔽されている。三人分か。それもこの村では見慣れない足跡だ……」
足跡は森の先、バルブ達の潜伏先とは別の場所だ。
村に立ち寄った他国の者か、あるいは某かの悪意を持つ者か。
イレギュラーズは、これにどう対応するか相談を始めた。
- 悪魔の球根完了
- GM名澤見夜行
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年03月13日 22時03分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●事前調査
イレギュラーズがフェザース村へ辿り着いたのは、まだ陽も高くない午前中のことだ。
やや涼しいそよ風が髪を揺らし額を擽る。
なるほど、話に聞いてた通りの長閑な村のようだ。
もし事件の前に来ていれば、豊潤な土地の栄養を吸収して育った作物が実り、村も活気に溢れていたことだろう。どのような原因が引き起こした事態なのかはこれからの調査次第だが、忍びない村の現況を少しでも回復させてあげたいと、依頼を請け負ったイレギュラーズは思った。
「さて、そんじゃ始めるか」
『風の囁き』サンディ・カルタ(p3p000438)が手を叩いて仲間に促す。
目の前は事件の最初の現場。モーリア夫妻の畑だったと思われる砂漠化した土地だ。
「今わかっているのは、この砂漠化の原因がスティールバブルという魔物の仕業だったということ」
「それに、これだね。魔術によって隠蔽された足跡。行き先は村の外の森だ。バルブ達が住処としている場所とは少し離れている。明らかな人為的な痕跡だ」
『死神二振』クロバ・フユツキ(p3p000145)と『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)が砂漠化した土を手に取りながら確認する。
「ずいぶんと杜撰な隠蔽工作ではあるね。僕らイレギュラーズのような存在であればすぐに気づくことができるし、そうでなくてもある程度の魔術的素養があれば見抜くことは容易そうなものだね」
『澱の森の仔』錫蘭 ルフナ(p3p004350)の言葉通り、それは素人の隠蔽のようにも思えた。力はあるがこういった使い方に慣れていない。もし、そう思わせるのが狙いなのだとしたら――それは油断できない相手ではあるが、十中八九不慣れな者の仕業だろう。
ルフナに同意するように『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)が頷く。
「そうだね。平易に予想できるのは、この足跡の主達が悪魔の球根を植えた者達に違いないということかな。
であれば足跡の向かう先が、隠れ家となっていると考えるのが自然だろうね」
「森のどこかを隠れ家にする……あまり考えたくはありませんが同族であるハーモニアの可能性も高くなりますね。
私達ハーモニアは森で生活を得意としていますし、迷宮森林ないで迷うこともないでしょう」
『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)が風に揺れる白く輝く髪を梳りながら言う。森の恵みを大切にするハーモニアの犯行だとは思えないが、外部の人間が迷宮森林を自由に行動するのはやや不自然だ。
リュティス同様、清廉な白髪を持つ『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)も同意見だ。
「確かに。環境的な面を考えれば同族が関わってると考えるのが自然でしょうね。ただ私自身がハーモニアなのも多分にありますが、ハーモニアが森を穢すという行為を積極的に行うとはやはり考えられないところです」
だとすれば、やはり外部の人間の仕業だろうか。可能性として高いのは隣接国であるラサの人間か。深緑との同盟がある以上、ラサに属している者がある意味侵略的行為を行うのは考え辛い。なれば、組織から外れた者。傭兵を抜けた外れ者の仕業という線は十分にあり得る話だ。
「とはいえ、犯人の狙いがあまり見えてこないわ。物資の流通ルートって考えると、確かに盗賊達が好みそうな気はするけれど、その村を壊滅させるような魔物を放つ意味がわからないものね?」
『謡うナーサリーライム』ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)の疑問はもっともで、スティールバルブを村に放つ行為は略奪目的として見れば不適当だ。村が砂漠化し壊滅してしまえば、奪える物が無くなるし、もしかしたら流通ルートも変わってしまうかもしれない。
何かを奪う目的ならば、バルブを使うのは悪手でしかない。
そこまで考えてサンディは、はたと気づく。
「なんつーか、犯人は追い詰められてるって感じだな?」
「というと?」
サイスに聞き返されてサンディは体験からの経験を話した。
「俺も盗賊あがりだから色々追い詰められることもあったわけなんだが、そういう時って視野が狭くなるんだよな。
練りに練った計画が上手くいかないときはより顕著だ。切れる手札を使って強引に計画を達成しようとしちまう」
「なるほど、わからんでもない話だな」
誰しもが一度は感じる話だとクロバが頷き、ドラマが小首を傾げ犯人像を思い浮かべる。
「この事件の犯人も何か思い通りにならなくて……そして持っていた悪魔の球根を使わざるを得なかった……というわけですか」
「そう考えていくと、外部犯の可能性は高くなっていきますね。悪魔の球根なんて代物をハーモニアが好んで所持するとは思えませんし、生きていく糧を自ら潰してしまう真似はしないでしょう」
そう、リュティスの言うように畑はこの村の資源だ。村人達がこれを自らの手で放棄することはやはり考えられそうにない。
「考えがまとまってきたね。
犯人は恐らく外部犯。某かの理由で追い詰められて切り札である悪魔の球根を使った。
村人かどうかはともかくハーモニアの関与も否定はしきれないけど、この場合は意に沿わず手を貸してると考える方が妥当なところかな?」
ウィリアムのまとめに一同は頷く。おおよその犯人像が掴めたところで、ルフナは行動指針を確認した。
「良い線行ってる気がするね。それじゃどうしようか陽も高くなってくる頃合いだけど」
犯人を追うか、それとも当初の目的通りバルブを処理するか。事前に相談していた部分だが、改めての確認だ。
「やっぱりバルブの方からが良いと思うわ。一番の問題でもあるし、村の人達を安心させてあげたいもの」
ポシェティケトの言葉に、仲間達は同意する。
「そうだな。何より犯人達はあまり頭の方はよくなさそうだ。バルブ達を処理してからでも十分追い詰められるだろうさ」
サンディがそうまとめて、イレギュラーズ達の行動指針は固まった。
バルブ達が動きを止めている今、奇襲をかけることに決めたのだった。
●簒奪の終わり
ハーモニアの多い今回のパーティーは、迷宮森林を進むには十分すぎる。
自然との会話を得意とし、森林の草木と対話しながら進むドラマ、ルフナ、ウィリアム、リュティスのハーモニア'sを筆頭に、サンディのエネミーサーチを駆使するなど必要十分以上の索敵は、すぐにスティールバルブの一群を発見した。
事前情報通り、養分を吸い一際大きくなった親バルブ一体を中心に、子バルブ達五体が
群れを成している。
夜行性という情報もまた正確だ。緩慢に蔓をゆらりと動かす様は、まるで穏やかな海に浮かぶ小舟のようで、完全な無警戒であることをイレギュラーズに悟らせた。
奇襲の判断はこれ以上無くベストであったと言えるだろう。
先陣を切ったのは死神の名を持つクロバだ。
「――ッ!!」
息を飲む一息を残し、草木広がる森の中を音も無く疾走する。彼我の距離は、まるで空間を飛び越えたかのように縮まり、クロバの必中間合いとなった。クロバの鬼気迫る殺気が爆発的に膨れあがる。
その瞬間、バルブ達は危機反応を走らせ慌てふためくように動き出す――が、遅い。
「――オォォッ!!」
裂帛の気合いとともに両の手に握る愛刀、愛銃剣を横薙ぎに振るう。足は止めない。駆け抜ける疾風の如く、身を寄せ合っていたバルブ達を複数巻き込んで切り裂いた。最大効率のダメージを与える完璧な奇襲成功だ。
バルブ達に痛覚があるかは定かではないが、自らの命を脅かす危険を感じて防衛反応を見せる。
親バルブそして子バルブに備わっている四本の触手のような茎が、一斉に鞭のようにしなって振り回される。
クロバがそれらを躱し受け流しながら後ろの気配を探れば、頼もしき仲間が位置を入れ替えるように踏み込んでくる。
「こちらの体力活力を奪うのが得意なようですが――ッ!」
踏み込んだドラマが手にした蒼き刀身の魔術礼装を切り上げる。茎触手を切り跳ねガラ空きとなったバルブの胴体へと肉薄、同時に生み出した影人形との一糸乱れぬ同調攻撃を見舞い、トンッと音を立てて残身を残して一歩さがる。
「奪われるのは慣れていないでしょう……それにこういった”呪い”にも」
千篇万歌を詠うドラマの身体を満たす知識の泉。そこより組み上げた魔性の呼び声が呪詛を含有する亡霊達の慟哭を響かせた。声帯を持たないバルブ達だが、確かに呪いに怯み怨嗟の嗚咽をもらしたと、ドラマは確信する。
「所詮は本能のままに動く植物だな。動きが大味だな――っと!」
大振りに振るわれる茎触手を手にした――自らの身体たる――鎌で受け流し、そうでないものを自身の身体を覆う氷のバリアで弾きながら、サイズが子バルブへ接近。全身を回転させ威力を高めた横薙ぎで切り裂くのに合わせて魔力を圧縮、純粋なエネルギーとして叩きつける。
独自のコンビネーションを見切るのは、熟練した戦士であっても難しい。ましてや、たいした知能をもたないバルブならなおさらだろう。サイズの連撃は面白いように命中し、子バルブを追い詰めていく。
「サイズ様、助太刀失礼します」
「おっと、よろしく!」
リュティスの声掛けに反応してサイズが子バルブから距離を取る。瞬間、対峙していた子バルブ達がリュティスの放つ神聖なる閃光に焼き焦がされる。
「勝機は逃しません――ッ!」
仲間達の攻撃で弱り、自身の放った閃光によって子バルブを追い詰めたことを確信すると、リュティスは指先に止まった黒き蝶を解き放つ。
美しき黒き蝶は死の香りを孕む。本来蝶を誘惑するのは植物の役目だが、この時ばかりは立場が逆転していた。黒き死蝶は子バルブの伸ばす茎触手の間をすり抜けながら、子バルブを誘惑する。
「――死を誘う黒き蝶。魅入られれば、気づく間もなく冥門を通り過ぎることでしょう……」
瞳を伏せるリュティス。黒き死蝶が子バルブに取り憑き翅を広げる。その影が空に墨汁を垂らすように、黒いシミとなって子バルブの胴体、そして茎へと一瞬にして広がって――後には枯れ果て生命を失った子バルブの成れの果てが残るのだった。
子バルブから処理を進めていくイレギュラーズ。
中距離を維持しながら援護火力をだしていくのはウィリアムだ。
「一つ、華を咲かせてみせようか。
――ただし、その身体を貫く雷の華だけどねッ!」
ウィリアムの周囲に多重積層魔方陣が展開され、一つの術式を完成させる。手の先に生み出された雷迸る一本の槍。それを子バルブへと向けて一直線に投げ放つ。稲光が走り、子バルブの胴体に直撃すると雷鳴と共に無数の電雷が花弁を描くように華開く。強烈な電撃は鋼の刃を物ともしないバルブの剛皮を突き破り、茎、母球、そして木子や根の内部を走り抜け、感電を与えると共に焼き切った。
「良い火力だね、後のことは気にせずどんどん使っていこうじゃんか。体力も魔力も減ったら減った分だけ支えて見せるって!」
仲間達が立ち回る中心にルフナは位置取り、魔力を編む。
魔力を介した周囲環境との同調、一時的に意識の座標を転移さえあらゆる能率をアップさせるルフナの得意技だ。
そうして最大効率に編み込んだマナを解放し、戦場にルフナの故郷たる『澱の森』を再現する。
「この場一体の霊力は変質を嫌う。お前達がいくら傷つけたって無駄だ」
奇襲が成功しているとはいえ、スティールバルブは厄介な魔物だ。強烈な範囲攻撃を繰り返し、体力気力を吸収する力を持つ。
どんなに火力に優れる者であっても、息継ぎは必要だ。ルフナのようにパーティーの中心で総合的なサポートを行う役割は貴重であり重要だ。
「おっと――!」
ルフナの腕に茎触手が絡みつく。
そうしたリソースコントロールをしている者は狙われるのが常である。だが――。
「えいっ!」
最後衛に控えるポシェティケトが、まるで月光を受けキラキラと光るような金色砂のクララ――”鹿の牙”を使って、ルフナの腕に絡みついた茎触手を引きちぎる。
「助かるよ!」
「ええ、みんなの背中は、私が守るわ」
決意が瞳を輝かせ、紡ぐ魔力がバルブ達を包み込む。
「さあさ、こちらへ。向かう先は、あなた達の大好きな、栄養溢れた森の中。だけど、気をつけて、迷えばきっと、後戻りはできないのだから――」
歌うように、踊るように。ポシェティケトの誘う声に導かれるようにバルブ達が霧に飲まれて前後左右を見失う。
敵の機動力を奪い、行動機会すら失わせるクラウドコントロールは強烈であり、味方の後押しとして申し分ない。そうして余裕を手に入れればポシェティケト本来の役割である回復行動も十全に機能すると言うものだ。
「慌てず、確実に、支えていくわ」
ポシェティケトの強い想いを背に受けて、仲間達は遺憾なく力を発揮する。
一体ずつ確実に。戦闘力が相対して低めな子バルブからイレギュラーズは処理していく。
経験の多いメンバーで揃ったパーティー。無駄なくスキルを駆使し、各個人が自身の役割をしっかりとこなしたことで、生命力の強いスティールバルブ相手にも、追い詰められることなく戦うことができた。
「さぁ、こっちだ――ッ! って、何が悲しくて球根に予告状叩きつけてんだ俺……っと!」
死を告げるカードが空を裂き、後衛へと向かおうとする親バルブに突き刺さる。サンディの”切り札”は確かな宣告となって、親バルブの動きを転じさせ、簒奪の力を奪う。
振り返った親バルブの茎触手を軽やかな身のこなしで受け流し、ダメージを最小限としながら、同時に反撃加えていく。
「ウネウネと触手みてぇなの振り回しやがって、よく絡まらないものだな――ッ!」
多くの茎触手のブン回しを受けながらも、サンディは一歩も譲らず敵視を集め、バルブ達の根幹とも言える吸収能力を阻害する。
「ま、女の子を守るのが俺の役目ってね」
「なんだ、男は守ってくれないのか」
「そんな趣味はねぇよ!」
クロバとサンディの冗談が程よく緊張を解きほぐす。
数を減らしていく中、バルブ達の一斉範囲の連携に崩れかけ、敵視を背負ったサンディが可能性の輝きに手を伸ばすハプニングもあったが、イレギュラーズ達のチームワークは親子バルブのそれを上回り、ついに親バルブを追い詰める。
「終わりだ――ッ!!」
「植物を刈るのも鎌の役目ってね」
クロバとサイズの連撃が球根である胴体を切り裂いて、悪魔の球根スティールバルブは沈黙のままに枯れ果てるのであった。
●事の真相
精霊と自然達に導かれた先に、打ち棄てられた廃屋を見つけた。
元は森人であるハーモニア達が休憩所に使っていたのだろう。中にはまだ使えそうな家具やベッドが残っていた。
気配を達中を覗いたイレギュラーズは、そこに三人の男を見る。
一人はテーブルに突っ伏して酒のボトルを転がしている。残り二人は奥のベッドで寝息を立てていた。
(警戒心なさすぎだな……制圧は容易いか?)
あまりにも意識に差がありすぎて、逆に警戒するところだが、イレギュラーズは意を決して廃屋の中に飛び込んだ。
テーブルに突っ伏していた男の胸ぐらを掴み上げ、クロバが一撃で昏倒させる。その頃にはサンディとサイズが奥の二人へと駆け寄って、何もさせることなく拘束した。
「大人しくしてくださいね。雷撃はいやでしょう?」
猿轡を咬まされ身動きの取れない男達は、しばらくの間何が起こったのか理解してないようだった。
男達が何者か、それはすぐにわかった。
「やはり傭兵くずれ、と言った所でしょうか。その装備、ラサではよく見ましたから」
ドラマの予想の一つは的を射ていた。
ラサ出身の傭兵くずれ。
しかし熟達した傭兵では無いことは、装備を蔑ろにボロのように着込んでる様から明らかだ。
「それでは、話してもらいましょう。何を狙っていたのか」
「……実は……」
事の真相は単純な話であった。
ラサで傭兵デビューした三人だが、実力不足と度胸のなさから死に直面にラサから逃げ出したという。
そのまま深緑の国境を越えるも、迷宮森林で迷い死を覚悟した時、モーリア夫妻に救われたらしい。
「恩を仇で返したのか? 小心者のクセに心は真っ黒じゃんか」
三人は村が物資の輸送ルートであることを耳にし、モーリア夫妻に商団が通る日時を知らせるように脅した。
だが、モーリア夫妻は頑なに口を割らず、恩人の命を奪うこともできない三人はラサから持ち出した例の球根を思い出し、こう告げたのだ。
「商団が通る日時を教えないと、村が大変なことになるぞ、と」
あとは想像通り。
村から追い出された三人は、数日間モーリア夫妻が口を割るのを待つが、ついに待ちきれず当てつけのようにモーリア夫妻の畑に、悪魔の球根を植え証拠を消して逃げた。
球根は一夜にして畑を砂漠にし、子を増やして森へと消えた。
「それで、ビビって廃屋で飲んだくれてたってわけか。かーっ! だっせーな!」
サンディが悪事するならもっとでかいことやれ、と説教してるなか、ポシェティケトとサイズが村の畑のアフターケアを行う。
「元通りになるかはわからないけど、ファルカウの恵みがある土地だ。可能性はあるさ」
「そう、よね。もう悪魔は、去ったのだから」
村人達に感謝される中、イレギュラーズはギルドへと戻るのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
澤見夜行です。
依頼お疲れ様でした。MVPだしてます。
ご参加頂きありがとうございました! また次の依頼でお会いしましょう!
GMコメント
こんにちは。お久しぶりです。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
なんでも砂漠化する悪魔の球根。
フェザース村を救うために、この球根を倒しましょう。
●依頼達成条件
スティールバルブ計六体を全て倒す。
・オプション
スティールバルブの発生原因の特定、及び原因の排除。
●情報確度
このシナリオの情報精度はBです。
情報は正確ですが、情報外の出来事も発生します。
●スティールバルブについて
あらゆる栄養素を奪い取る球根型の魔物です。
親バルブ一体に子バルブ五体の計六体います。
胴体の球根から伸びる四本の触手のような茎を使って攻撃します。
またこの触手に捕まると、HPとAPを毎ターン吸収します。
単体攻撃のみならず範囲攻撃も得意としています。
当然ですが、子バルブより親バルブのほうが強いです。
●戦闘地域
深緑内フェザース村周辺の森になります。
木々は多いですが、迷い無く自由に立ち回れるでしょう。
ただし深緑内ですので火の使用は最小限にとどめましょう。
そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。
皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
宜しくお願いいたします。
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