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シナリオ詳細

<リーグルの唄>天義の白き彗星よ! かつて救いし少女を救え!

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●攫われた看板娘
「お疲れさん。今日はもう、上がっていいよ」
「お疲れ様でした。それじゃ、失礼しますね」
 夜も更けて日が変わろうという頃、ウェストヒルの街の酒場はようやく店じまいに入ろうとしていた。馬上槍試合がこの街で開かれた日は、酒場はその興奮冷めやらぬ客で一杯になり、遅くまで酒を友に語らい合う。故に閉店時間も遅くなるのだが、店主も看板娘もそれは慣れたものだった。
 店主の言葉に、看板娘セーラは今日の仕事も終わりだと、酒場を出て自宅に帰ろうとする。夜は遅いが、ウェストヒルは治安が良いことに加え、セーラの住む家は酒場から近いため、こんな夜遅くに街を歩いても危険に見舞われることはなかった。この日までは。
「~♪」
 幸せそうに、夜道を歩くセーラ。実のところ、セーラはこの生活を幸せと感じていた。一つ運命の歯車が狂えば、親の遺した借金のために労務奴隷とは言え奴隷とされるところだったのだから。だ見ず知らずの娘のために馬上槍試合に身を投じた『天義の白き彗星』によって、セーラは救われたのだ。
 そのセーラを、夜闇に紛れて尾行する男達がいる。彼らは、セーラが家の扉の前に差し掛かったところで、その後ろから襲いかかり口に布を当てる。
「んんっ!?」
 突然のことに困惑するセーラだったが、布に染みこんだ薬品によってガクリと意識を喪う。そしてセーラを捕えた男達は、そのまま夜の闇に消えたのだった。

●デュシスの依頼
「俺を指名で依頼があると聞いたが……一体、如何したんだ?」
「久しぶりだな、アークライト卿。私が、彼に依頼を出したのだ」
 『真昼のランタン』羽田羅 勘蔵(p3n000126)に急に呼び出されたリゲル=アークライト(p3p000442)は、依頼主だと言う男を見て驚いた。かつて、馬上槍試合の決勝で戦った真紅の鎧の騎士、デュシス=ドゥリンダナだったからだ。
「さて、早速本題に入ろう。ウェストヒルで卿が救った少女のことを覚えているか?」
 もちろん、リゲルが忘れるはずがない。そして、デュシスの表情が重苦しいのを見て、リゲルは嫌な予感に囚われた。
「……まさか、彼女に何かあったのか?」
 デュシスはその問いを肯定し、勘蔵に依頼を出した経緯を説明した。
 馬上槍試合の調整のためにウェストヒル入りしたデュシスは、困惑する酒場の店主からセーラがいなくなったことを聞かされた。傭兵から幻想に奴隷商人が流れている噂を聞いていたデュシスはもしやと部下に命じて近隣に網を張り、近隣で商売しようとしていた奴隷商人がセーラを『仕入れ』たことを知る。
 だがデュシスが救出に動いた時には、既にセーラは売られてしまっていた。デュシスは奴隷商人を締め上げて、セーラがオージ領主バックスの元に売られたことを知る。
 しかしバックスは一帯では権勢を誇る貴族であり、兵士もそれなりに揃えていることから、部下と一緒とは言えデュシスだけで乗り込んでセーラを救出するのは困難だ。
「そこで、卿に手伝って欲しいのだ」
 デュシスの描いた絵図は、リゲルを含むイレギュラーズ達がバックスの屋敷で騒いで陽動し、その隙にバックスと部下達がセーラを救出するというものだ。
「何の罪もない少女を攫って奴隷とすること自体、騎士として許しがたい。だが、それ以上に私にとっては卿との試合を穢されたように思えてならんのでな」
 話の締めくくりに、デュシスはリゲルに握手を求めて手を差し出した。

GMコメント

 こんにちは、緑城雄山です。今回はリゲルさんに書いた設定委託をフックにしてシナリオを用意しました。
 リゲルさんがかつて救った少女を救うため、デュシス達が救出に向かう間、オージ領主バックスの注意を引き付けて下さい。

●成功条件
 戦闘開始から16ターン目を迎える

●失敗条件
 イレギュラーズ5名以上の戦闘不能

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 バックスの屋敷の庭です。陽動は成功し、バックスと一部の部下は外へと引きずり出されています。
 時間は夜間ですが、バックスの部下が松明を焚いていることと月明かりがあることから、暗視が無くても戦闘にはペナルティーは発生しないものとします。暗視があれば、遠距離以遠の射撃及びそれに対しての回避については有利な補正が付きます。

●オージ領主バックス
 近隣で権勢を誇る領主です。デュシスも勘蔵も知らないのですが、実は魔種です。属性は強欲。
 盲目ですがそれを補う眼鏡のような魔導具を着けていることに加え、感覚が鋭敏になっているため、命中と回避が極めて高くなっています。
 また、物理神秘問わず攻撃力と生命力も高くなっています。一方、防具は着けていないため、防御技術は低めです。

・攻撃手段など
 ハルバード 物至単or範 【弱点】【災厄】【出血】【流血】【失血】
  ※【失血】は範囲が単の時のみ
 魔導具からのビーム 神超貫 【万能】【防無】【災厄】【感電】
 魔導具からのビーム 神超貫 【万能】【必中】【災厄】【弱点】【ショック】
  眼鏡のような魔導具からのビームを放ちます。相手の回避の技量によって、2つのパターンを使い分けてきます。
 爆炎符 神遠域 【災厄】【火炎】【業炎】
 【封印】耐性(高)
 部下を盾にする
  未行動で至近にいる部下を一人盾にします。これは、パッシブで発動します。
 
●バックスの部下 ✕30
 バックスに使える兵士達です。実力は普通の兵士より高く、油断は出来ません。
 剣装備が20、弓装備が10います。それぞれ、【出血】付きの攻撃を行ってきます。

●デュシスとその部下
 かつてウェストヒルの馬上槍試合の決勝でリゲルさんと戦った、真紅の鎧の騎士です。
 部下を含めて、実力は高いです。が、さすがに魔種に及ぶほどではありません。
 成功条件を満たせば、無事にセーラや他の買われた奴隷を救出します。

 それでは、皆さんのご参加をお待ちしています。

  • <リーグルの唄>天義の白き彗星よ! かつて救いし少女を救え!完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年03月13日 22時03分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
杠・修也(p3p000378)
壁を超えよ
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者

リプレイ

●バックスの出撃を待つイレギュラーズ達
 かつて、『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)は見ず知らずの少女を奴隷となる運命から救うべく、馬上槍試合に挑んで優勝した。しかし、その決勝戦の相手であるデュシス=ドゥリンダナから、救った少女セーラが攫われ奴隷として売られたことを知る。
 セーラを救出すべくデュシスはリゲルに協力を要請し、リゲルはその要請を快諾する。かくして、セーラを買ったオージ領主バックスの屋敷の庭でリゲル達イレギュラーズが騒いで陽動を担い、その隙にデュシスと部下が屋敷の中に潜入してセーラや他の囚われの奴隷を救出するという作戦は決行された。
 そして、陽動は成功した。バックスの屋敷の中は蜂の巣をつついたような騒ぎになっているのが、外からでもわかる。もうすぐ、出撃してくるバックスとの戦闘が始まるだろう。

(セーラ……君は奴隷となる義務からは、もう解放されたんだ。君の平穏と幸せを、取り戻す!)
 子供を攫って奴隷とするとは、何とあるまじき所業だろうか。ましてや、その被害に遭ったのがかつて救った少女だとは。非道によって歪められた少女の運命は、元どおりに正されねばならない。バックスの屋敷を注視しながら、リゲルは静かに意気を高めていく。
(……本当に、リゲルさんはいつでも騎士様をしているわね)
 『舞蝶刃』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)は、そんなリゲルの様子をちらりと見ると、微かに笑みを浮かべた。リゲルの言動は、まるで物語の騎士がそのまま現実になったようにさえ思える。それにしても、とアンナは思う。
(その子も運がない……いえ、女の子としてはある意味ツイてるのかしら。二度も、素敵な騎士様に助けられるのだから)
 二度も奴隷にされかけると考えれば確かに不運ではあるが、女性なら夢見ても経験出来ないような体験を一度ならず二度もしているのである。ほんの少しだけ、アンナはセーラが羨ましく思えた。
(天義の白き彗星、か。良いじゃない。流星の私より、ずっと高く飛んで行けそうね)
 デュシスから聞かされたリゲルの馬上槍試合での異名を思い出しながら、『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)はリゲルの姿を眩しそうに見つめていた。きっとこの若き天義の騎士は、自分の届かぬ高みに至る英雄となるだろう。
「囚われのお姫様の救出劇かい。戯曲的で素晴らしいが、ボクが脇役っての納得はいかないね」
「セレマ ソレ 違ウ。主役 リゲル ダケ 違ウ。此処ニ 居ル ミンナ 主役」
 依頼の内容はいいとしても、リゲルが主役であるかのような流れに、『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)は気に入らないとばかりに口を尖らせた。自分以外の美少年が大嫌いであることからもわかるように、周囲からの賞賛を集めるのは自分であるべきだとセレマは考えているのだ。
 それを、『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)が宥める。あくまでセレマは脇役ではなく、セーラを救うために戦う主役の一人であるのだと。
「……そう言うことに、しておくよ」
 フリークライの言葉に、セレマはフンと鼻を鳴らしながら、不承不承ながらも納得することにした。
(異世界では知らないが、少なくとも俺の故郷で奴隷ってのは、最高にダメなことの一つだな)
 ならばこそ、その被害者となったセーラを救出するべく。『壁を超えよ』杠・修也(p3p000378)は今回の作戦に全力で協力する意を固めている。いつでも戦闘に入れるようにと、修也は妖刀『不知火』の柄に手を添えた。
(その女性がどなたか、私は知りません。けれど、彼女の救出が依頼で、同行者にもそれを強く望む方がいる。
 でしたら、それを支援するのが、私の務め)
 『白き不撓』グリーフ・ロス(p3p008615)も、自らの役割を全力で全うするつもりでいる。セーラと直接の面識はなく、リゲルやデュシスから聞いた以上のことは知らないが、そんなことはグリーフには関係ない。表情には全く出さないながらも、これから始まる戦いに向けて自らを落ち着かせるように、自らの核たる左胸の宝珠の上にそっと手を置いた。
「人を捕まえて売る人も売る人だけど、買う人も買う人だよ! 助ける為の名目ならまだしもそうじゃないなんて……。
 貴族としての誇りとかは、ないのかな?」
「残念ですが、そんなものは持ち合わせてない貴族が多いですね」
 憤懣やるかたない様子の『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が発した疑問に、『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)は溜息交じりに首を横に振って答えた。
 先にも奴隷絡みの依頼を成功させたばかりの利香だが、奴隷オークションの会場となった劇場の客席に、どれだけの悪徳貴族が『観客』として参加していたことか。その一事だけでも、幻想にろくでもない貴族が少なくないことの証明となろう。
「そっか……何はともあれ、無事に助けられるように頑張らなきゃね!」
「ええ、やってやりましょう。まあ、悪徳貴族に雑魚数十人程度なら、私達の敵では無いですよ」
 利香の説明に、スティアは失望して項垂れる。だが、そうしてばかりはいられない。スティアは気を取り直すと、セーラを無事に救出するためにも励もうと気合いを入れた。余裕の微笑みを見せてスティアに応じる利香だったが、敵がそう簡単な相手ではないことをすぐ後で知ることになる。
(一度ならず二度までも、何の罪もない少女が恐ろしい目に合うなんて……。
 他にも囚われている人がいるとのことだし、彼女たちを助け出すために頑張ろう)
 『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)は、デュシスがセーラ他、バックスに買われた人々を救出する時間は必ず稼ぐと固く心に誓い、傍らのリゲルに声をかける。
「――行こう、リゲル。もう一度リゲルの光で彼女たちを照らすんだ!」
「ああ――行こう」
 目と目をしっかりと合わせながら、アークライト夫妻はこくりと頷き合った。

●不撓不屈の盾を前に
 屋敷から出撃したバックスとその兵士達は、素早く戦列を整えるとイレギュラーズ達に襲いかかろうとする。が、機先を制したのはイレギュラーズ達だった。
「リカ・サキュバスが悪徳貴族を狩りに来たわよぉ。魂と精を奪われたくなければ、下がってなさい?」
 夢魔の姿に返信しているリカは前に進み出ると、前衛の兵士達に向けてパチリ、とウィンクを仕掛ける。リカの言葉も相まって、兵士達はそれを挑発と受け止めた。
「恨みを買った心当たりくらい、いくらでもあるでしょう? ツケを払う時がきた、それだけよ」
 アンナは、バックスと後衛の兵士達をジッと見据えながら、不吉を呼ぶ舞を舞う。後衛の兵士達はその舞にゾクッとするような恐怖を感じ、舞を舞うアンナを倒さねばならないと意識した。
「ぬぅ……此奴らを、やってしまえい!」
 リカとアンナによる挑発を目の当たりにしたバックスは、兵士達に号令を下す。兵士達はバックスの命令を受け、リカとアンナに敵意を向けた。だが、イレギュラーズ達の挑発はまだ終わらない。
「不正義を、糺しに参りました」
 さらにリゲルが、端的にバックスにそう告げると、剣を抜きその切っ先を向ける。さらに前衛の兵士達の右半分に向けて、火球を嵐の如く降り注がせた。炎の熱気と身を焼かれる苦痛は、彼らの敵意をリゲルに向けるに十分だった。
「美少年の力、見せてあげるよ」
「アンナさんとリゲルさんは、私が護ります」
 続いて、セレマが前に出てリカを、グリーフは物理的な力を遮断する結界を展開してアンナとリゲルを庇う盾となる。
 機先を制されたバックスと兵士達だったが、リカ、アンナ、リゲルにそれぞれ敵意を煽られたこともあり、前衛の左半分がリカに、右半分がリゲルに、そして後衛とバックスはアンナに攻撃せんとする。当然、セレマとグリーフがそれを素通しにするはずがなく、盾となって攻撃をその身に受ける。だが。
「……な、何だこいつは! て、手応えはあったはずなのに!」
 リカに斬りかからんとする前衛の兵士達の剣を、セレマはことごとくその身で受け止めたのだが、美少年であるセレマは一向に傷つくことはない。攻撃は確実に命中しており、手応えはあるのだが、不思議なことに傷が残らないのだ。これには、さすがに兵士達もざわめいた。
 実のところ、セレマは傷を受けるには受けている。だが、魔性との契約によってセレマの肉体は瞬時に再定義、再構築される。そのため、攻撃した側からすれば手応えがあったのに傷つけられていないとしか思えない結果となるのだ。
 一方、グリーフはリゲルに向けられた前衛の兵士達からの剣に加えて、アンナへと撃たれた後衛の兵士達からの矢もことごとく身体で受け止めようとする。そして、グリーフの身体に展開されている結界はそれらを全て弾き返し、グリーフの身体に傷をつけることを許さない。
「ええい! ならばこれで仕留めてくれる!」
 物理的な力は結界で弾かれるのを見ていたバックスは、眼鏡の如き魔導具からの光線を受けた。太い光条が瞬時にグリーフに命中し、グリーフは深手を負うが、まだ倒れはしない。
「誰も倒れさせないし、誰も奪わせはしない。必ず、この手で守って見せる!」
「フリック 皆 回復スル。バックス 首取ル 任セタ」
 すかさず、ポテトとフリークライが深手を受けたグリーフの回復に回る。癒やし手の誇りをかけて誰一人倒させはしないと言うポテトの、そして戦いの目的はあくまでバックスを討つためだと匂わせるフリークライの、癒やしに転換された調和の力による治癒が、グリーフの受けた傷を完全にではないが癒やしていった。
「邪魔する人達は、まとめて倒してあげる!」
「ぐぬっ、小癪な!」
 スティアは、バックスと後衛の兵士達に向けて、邪悪を灼く神聖なる光を放つ。眩い破邪の光は、バックスと後衛の兵士達の身体をジュウ、と焼いていった。
(あの眼鏡っぽい魔導具……気になるな。同じく眼鏡をかけている者として、ほんの少しだけ欲しく感じる)
 そんな雑念に囚われつつも、修也の行動は的確だった。リゲルに押し寄せんとした前衛の兵士達に、鋼の雨を降り注がせる。
「ぎゃあっ!」
 頭上から降り注ぐ鋭い鋼に傷つけられた兵士達は、苦痛に悲鳴を上げ、傷口を手で庇うように押さえた。
 味方を射線に巻き込まない位置に移動したイーリンは、掌に魔力を集め塊とする。そして、剣の形へと精製する。
「――相手をしてあげるわ、三下」
「うぐあっ!」
 バックスに対し不敵に言い放ちながら、大きく大上段に魔力の剣を振り上げたイーリンは、勢いよくその剣を振り下ろす。その直線上に迸る魔力の光が、射線上の兵士もろともバックスを貫いた。だが、兵士達の何人かが倒れ伏すも、バックスは未だ平然としていた。

●兵士達、逃亡
 バックスの従える兵士達は、はっきりと言ってしまえばイレギュラーズ達の敵ではなかった。セレマやグリーフに傷を負わせられないでいる間に、スティアの破邪の光、リカの影より呼び出したる無数の手、修也の鋼の雨、イーリンの魔力の剣から放たれる光、リゲルの審判の一撃、アンナの舞いながらの剣閃によって、さらに言えば、バックスが手近な兵士を使い捨ての盾として使ったこともあって、みるみるうちにその数を減らしていった。
「貴方達、味方を盾にするような人に従っていて、本当に良いの? このままだと貴方達も使い捨てにされちゃうんじゃない?」
 バックスが何人かの兵士を盾として使ったタイミングで、スティアが兵士達に訴えかける。その言葉に、兵士達は目に見えて動揺した。そもそも、自分達の攻撃はまともに通じていないのに、味方がバタバタと倒される時点で、戦況は不利などと言うレベルではない。それに加えて、イレギュラーズの側にはリゲル、ポテト、イーリン、リカ、アンナ、スティアと言った幻想でも活躍がよく知られたメンバーがいるのだ。残りの四人についても、おそらく同じ程度の力量はあるのだろう。
 勝ち目の見えない戦いの最中に、護るべき主人が味方を盾にして使い捨てている。そんな状況でただでさえ落ちている兵士達の士気は、スティアの一言で脆くも瓦解した。
「何処に行く! 貴様ら! 逃げようなど、許さんぞ!」
 兵士達は我先にと逃亡を図る。叱咤してそれを食い止めようとするバックスだったが、誰もそれに従おうとはしない。このまま残っていても、イレギュラーズに倒されるかバックスに使い捨てにされるしかないのだから、当然であった。
 そうして味方の兵士を全て失ったバックスは、すかさずセレマとグリーフに挟みこまれてその場から動けなくされてしまう。今屋敷に戻られては、潜入してセーラ達を救出しようとするデュシス達が妨害されてしまいかねない。ここで何としても足を止めておく必要があった。
 イレギュラーズ達の攻撃を一身に受け続けることになったバックスだったが、いくら攻撃を受けても平然として戦闘を継続している。過去にも、イレギュラーズ達はそんな敵と戦ってきていた。そう、それは――。
「随分と手間取ると思ったら……コイツ、魔種だったのね。ああ、反吐が出るわ。屑の上に反転しやがるとか」
「驚いたな……魔種か。いいね、ボクに相応しい舞台だ」
 リカやセレマの言うように、バックスは魔種だったのだ。リカは蔑むように吐き棄て、セレマはむしろ自身の活躍がさらに際立つと奮い立つ。
 そのバックスは、最初のうちは爆炎を撒き散らす符を自らを中心として使い、移動を遮っているセレマ、グリーフ、すぐ側まで距離を詰めてきたリゲル、修也、リカ、アンナ、味方の回復のために射程に入っているポテト、フリークライ、スティアを炎に巻き込んだ。だが、避けられるかそうでなくてもすぐさま天使の如き救済の歌声によってまとめて回復させられ、大したダメージを与えられない。
 そうと知ったバックスは、すぐに対象をリゲルに絞り、魔導具からの光線を浴びせていく。直撃を避け、三人がかりの回復を受けてもなお、リゲルの負っている傷は次第に深くなっていった。だが、そこでアンナがバックスの敵意を自身へと引き寄せる。
 既に符による爆炎をアンナに回避されているバックスは、アンナの回避の技量が高いと判断し、魔導具からの光線を威力重視から速射性重視に切り替えて放つ。その射出速度はアンナの技量を以てしても回避しえぬものであったが、一方で威力も貫通性も落ちており、アンナの受ける傷はリゲルが攻撃されていた時よりも軽いものに留まっている。
 一方、流石に魔種とてもその間中イレギュラーズ達からの攻撃を受け続ければ、無事では済まない。バックスの受けている傷は、次第に深くなっていった。

●最後の攻防
 さらに戦闘は続いて、これだけ時間を稼げばデュシス達もセーラ達を救出したであろうと言う頃合いに至る。深手を負っているバックスだったが、まだその生命力の底は見えない。
「すっかり泥仕合だね。こう言うのは好きかい?」
「――好きでなくても、逃がしはしませんけどね」
「ええい……貴様ら、鬱陶しい!」
 セレマとグリーフは、変わらずバックスの移動を遮り、その場に縫い付ける。バックスは苛立ちながらセレマとグリーフを振り払おうとするが、どうにも出来なかった。
「領主バックス。貴方が奴隷を買い集めている事は存じています。貴方ほどのお方であれば、人事の調達は何なく行えるはず。
 何を企んでいるのです?」
「ぐぬっ……貴様如きが、儂の心を覗こうと言うか!」
 リゲルはそう問い、バックスの心中を読まんとしながら、正しき審判の一撃をバックスの横腹に放つ。奴隷を贄として捧げて何かを願うイメージを読み取りながらの、リゲルの一撃はバックスの脇腹に深々と突き刺さり、バックスを苦痛に呻かせた。
「奴隷の購入などに手を染めたこと、地獄で悔いるがいい」
「うぐっ……儂は」
 修也は、断罪の言葉をバックスに向けながら、妖刀『不知火』を幾度も閃かせる。乱舞する剣閃は、次々とバックスの脇腹に幾つもの斬撃の跡を刻んでいった。新たに刻まれた傷から血を流しよろめくも、バックスはふらつく身体を支えて持ち堪える。
「そうね、私が地獄に送ってあげるわ」
「ぐあっ……この程度では」
 バックスを挟んでリゲルと修也の反対側では、リカが魔剣『グラム』に雷を纏わせている。リカはバックスの斜め後ろから『グラム』を大きく振り上げて、一気に振り下ろしながら斬りつけた。桃色の剣閃が、ザックリとバックスの背に深く大きな傷を刻む。
「さようなら、盲目の領主様」
「がっ……ふざけるな、死なんぞ!」
 リカに続いてアンナが別れを告げるように言い放ちながら、三日月の弧を描くような剣閃を舞を舞うような動きで繰り出していく。『夢煌の水晶剣』の剣先が、スパッとバックスの横腹を斬り裂いた。
「アンナ……これで、耐えてくれ!」
「フリック アンナ ヤラセナイ」
「もう少しよ、頑張って!」
 立て続けにイレギュラーズの攻撃を受けたバックスだが、よろめきつつも体勢を整え直し、魔導具に魔力を収束させる。それを察したポテト、フリークライ、スティアが、それぞれ調和の力を転換した癒やしの力と舞い散らせた花弁の魔力でアンナを癒やしていく。
「……来なさい。耐えてみせるから」
「小娘が……消えろ!」
 三人がかりの癒やしに支えられたアンナは、真っ直ぐにバックスを見据えた。その態度が癇に障った様子で、バックスは魔導具から光線を撃った。だが、アンナを狙う以上は命中させることを重視し、威力は犠牲にせざるを得ない。果たして、アンナはバックスの光線に耐えきった。もし直前の回復がなければ、アンナは可能性の力に縋らざるを得なかっただろう。
「消えるのは貴方の方よ、三下」
 イーリンは魔書から召喚した戦旗の竿を握り、旗全体に雷の波を纏わせる。そして、バサリ、とバックスに向けて戦旗を振り下ろした。
「ぐおおおおおっ!!」
 戦旗から雷光が伸びて、バックスを襲う。雷に撃たれたバックスは大声で絶叫し、その周囲には肉の焼け焦げた匂いが漂った。

●撤退、そして合流
 もう一押しすれば討伐も見えてくる、と言う状況だったが、イレギュラーズ達は撤退を選択した。もう一押し二押しは可能だが、まだバックスの生命力の底が見えきっていない以上、それで片付くとは限らない。稼ぐべき時間は間違いなく稼いだのであり、目的は達成したのだ。
 有利であったのに勝利を棄てて突然退却したように見えるイレギュラーズ達に、バックスは首を捻りつつも命拾いをしたと安堵したが、屋敷に戻ってから奴隷の姿が全て消えていることを知り、イレギュラーズ達の本当の狙いに気付き地団駄を踏んで悔しがることになる。
 
 その後イレギュラーズ達は、デュシス達、そしてバックスの屋敷から救出された人々と合流する。
「大丈夫、もう大丈夫だ。怖かっただろうけど、良く頑張ったな」
 持参していたチョコと温かい紅茶を渡しながら声をかけるポテトをはじめ、イレギュラーズ達の姿に、奴隷として売られていた人々はようやくホッとした安堵の表情を見せ、ある者は喜び、ある者は嬉し泣きをした。その光景に、イレギュラーズは彼らを無事に救い出せて良かったと達成感に包まれた。
 その中でも幼い一人の少女が、リゲルに駆け寄ってひしと抱きつく。セーラだ。
「セーラって子は、リゲルにお熱なの?」
 イーリンはその様子を見ると、頬を緩めてクスクスと笑いながら、誰ともなく問いかけるのだった。

成否

成功

MVP

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女

状態異常

リゲル=アークライト(p3p000442)[重傷]
白獅子剛剣
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)[重傷]
無限円舞
セレマ オード クロウリー(p3p007790)[重傷]
性別:美少年
グリーフ・ロス(p3p008615)[重傷]
紅矢の守護者

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。皆さんの活躍のおかげで、バックスの屋敷に奴隷として売られた人々は無事に救出されました。
 MVPは、兵士達がバックスを見捨てる決定打となった一言を放ったスティアさんにお送りします。

 それでは、お疲れ様でした!

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