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シナリオ詳細

<希譚>死にぞこない狩り<呪仔>

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●さざれやこんぱいるもげてきよめ
 いとしいとしいとしいとしい『お嬢さん』。
 あなたと出会って真の喜びを知りました。まるで第三の目が開かれたかのような心地です。
 やひぎのれむ、もちろん、十日ほどです。ほね。
 空いた手を夜空に掲げてでねべらのようそうろをおびき出しましょう。
 さながらはちめきたる黒電話ごと『お嬢さん』へ供物を捧げます。ほね。ほね。
 こんなにもしあわせでいっぱいなのです。頭が割れて脳がせりでた。ひんやり、気持ちいいです。
 夜気を胸いっぱいに吸い込んだら、今夜も明日も明後日も肺胞がぶじゅぶじゅと潰れるに任せて歩き回ります。
 こんなに楽しいのに、胸がはちきれるほど幸福なのに。かわいそう、かわいそう、かわいそうなあなた、みぃつけた。
 こっちにおいでなさい、仲間にしてあげましょう。めくるめく幸いの海へ共に沈みましょう。さながらわいとうの軒下で弾ける猫のように。
 ねえ、ほね。ほね。ほね。

●カフェ・ローレットにて
「こちらへお越しになったということは、このエリアが『再現性東京2010街:希望ヶ浜』と呼ばれる練達の一区画だとご存知ですよね?」
『孤児院最年長』ベネラー (p3n000140)はあなたの前へ四隅を揃えて地図を置いた。
「希望ヶ浜には冠婚葬祭を請け負う『阿僧祇霊園』があります。今回の事件はその霊園の近くに設けられた『石神地区』で起きています。そこで……」
 簡単に言うと、とベネラーは眉を寄せた。
「ゾンビが大量発生しました」
 どうしてそんなことになったのか、話せば長く、聞けば短い。犬神の一族でも巣食っていそうな八方ふさがりの田舎を意図して作成された石神地区は、様々な要因が重なり真なる怪異を孕んでしまった。
「かみさま」と呼ばれるそれが何者であるのか情報は少ない。だがしかしその動き回る屍の大量発生は「かみさま」の影響と見ていいだろう。それが神威なのか祟りなのかすらも、現時点では断定できないが。
「希望ヶ浜はイレギュラーズとしての使命から目をそらしたウォーカーたちの最後の砦です。彼らは故郷を模した日常が壊されることをひどく恐れている。石神地区からゾンビがあふれ出してしまったならば、希望ヶ浜の秩序は砂の城のように崩れ去るでしょう」
 ベネラーは目を伏せた。
「……ここに住まうのは、弱い、悲しい人たちだと思います。だけどみんながみんな強いわけじゃないから」
 これはあなたたちにしかできない、と少年は言葉を区切った。
「この地点でゾンビを撃退し、ウォーカーたちの平和と安寧を、希望ヶ浜を守ってください」
 そう言うとベネラーは戦場となる草原へ印をつけた。

GMコメント

ワクワクゾンビパニック(本当)
みどりです。ゾンビ相手に無双しましょう。

●戦場
100m*100mの正方形とします。
エネミーの集団が←の方向から→を目指してやってくるのでかたっぱしからやっつけましょう。エネミーが戦場から抜けてしまうと失敗扱いになります。

●エネミー
・ゾンビ 緩慢な動きで噛みつきや締め付けなどの至近攻撃を行ってきます また、捕まると万力のような力で抑え込まれ、行動不能になります 振りほどくのに1~2Tかかるのでご注意
・ヒダル神 発酵したお猿さん 非常に素早く回避・機動が高いのが特徴 超距離から至近までレンジを問わない攻撃をしてきます 一撃が非常に重いので油断は禁物 さらに高EXF低FBです

●エネミーの出てくる順
第一波
足の遅いゾンビ 5~6体の群れがぽつぽつとやってきます。

第二波
足の遅いゾンビ 10~15体の群れがざくざくやってきます。

第三波
ヒダル神数体+足の遅いゾンビ大量 肉の壁が迫ってきます。

●戦場
深夜 遮蔽物の一切ない草原
暗視などがない場合、回避・命中にペナルティ

●希望ヶ浜学園
 再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
 夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
 幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
 ローレットのイレギュラーズの皆さんは入学、編入、講師として参入することができます。
 入学/編入学年や講師としての受け持ち科目はご自分で決定していただくことが出来ます。
 ライトな学園伝奇をお楽しみいただけまーーーーいつからそうだと思いこんでいた?

  • <希譚>死にぞこない狩り<呪仔>完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年02月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
武器商人(p3p001107)
闇之雲
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士
ホロウ・ゴースト(p3p009523)
幽霊少女

リプレイ


「急げ急げ!」
「言われなく、とも」
『大阪人』ユウキ(p3p004465)の声に『金色のいとし子』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は短く答えた。
 エクスマリアは長い髪をいくつにも分けて穴を掘り、掘り返した土を土嚢にして着々と落とし穴と遮蔽物を作っている。彼女の周りは工事現場のようだ。
 ユウキのほうは持ち込んだ建築資材を使い、バリケードを築いていく。ここにゲバ棒とヘルメットがあれば学生運動でもしているかのようだが、相手は機動隊などではない。神に触れ、神に狂ったもの、人間から怪異へ落ちた存在、ゾンビだ。
 風にのって腐臭がただよってくる。甘いような苦いような、全身へへばりつくような臭いだ。『未来を、この手で』赤羽・大地(p3p004151)は前方を注視しながら「鼻が曲がりそうだ」とこぼした。数体のゾンビでこれなら、第三波で迫りくる肉の壁の異臭は想像も絶するだろう。
「めんどくさいことになったな」
 なぁ、赤羽と声をかけそうになって、相手が眠っていると今更ながらに気づく。
(そうだ。俺一人でやらなきゃならないんだ。赤羽のサポートはないし、俺が倒れればそこでゲームセットだ)
 緩慢にやってくる死に対して、大地と赤羽が取ったのは生命の選択だった。拳を握り込み、顔を上げる。戦場にはぽつぽつとゾンビが湧いて出始めていた。
「あらあらもうお客様ですかー。まだ半分も済んでおりませんのにー」
『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)はいつもどおりのおっとりした声音のまま陣地構築を手伝う手を早めた。見目にあわない怪力を駆使し、丸太をがこがこと組み合わせていく。
 その傍らへ足止めの罠を仕掛けていくのは『闇之雲』武器商人(p3p001107)だ。
「忙しないねぇ。けどまァ、足の速いゾンビでないだけマシということにしておこうか。ゾンビ狩りが徒競走になってしまうからね」
「うん、でもヒダル神には気をつけないと」
『幽霊少女』ホロウ・ゴースト(p3p009523)が明るく笑いかける。
「あっちはすっごく脚が速いんでしょ? 抜けられないようにしないとね」
「まー、わたしがいれば百人力だけどね?」
『汚い魔法少女』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)が胸を張って答えた。
「ゾンビだろうとヒダル神だろうとわたしの術でイチコロよ」
「双輪のダリアには毒。ゆめゆめ侮ることなかれ、です」
『L'Oiseau bleu』散々・未散(p3p008200)が長い髪をかきあげる。バリケードはいまだ完成には至っていない。
「第一波、来るぞ!」
 大地が声を張り上げた。攻撃組が振り返る。
「こっちはまかしとき!」
「ああ、頼むよユウキの旦那。それじゃせいぜい死にぞこないを狩りに行こうか」
 武器商人の足元から影が伸びる。キャハハッ、キャハッ! 場違いな笑い声が戦場へ響いた。


(くう~このままやと強度がたりひん。保護結界を仕掛けてもゾンビはアホやから目の前にあるもんはみんな壊してしまうやろし、そもそも100mのバリケードはやっぱ無理があったか?)
 いやしかしと、ユウキは思い直す。
「半分でも十分や、そのぶん俺らが動いたらええ! もとが足止め狙いやさかいな、バリケード前に溜まったゾンビへ範囲攻撃を集中させられたらもうけもんやでえ!」
「だな」
 エクスマリアが機嫌悪そうに髪を揺らめかせる。彼女の自慢のダークゴールドの髪は土にまみれてどろどろだ。しかしなおも彼女は掘る、掘る、掘る。
「知能の低下したゾンビ、しかも夜間。足元への警戒はほぼない、筈。土嚢は……壊されるかもしれない、が、速やかに殲滅していけば済む話、だ」
「だといいな。ゾンビがタフだったらどうしよう……」
「その時、は、マリアが、支えよう」
 ホロウのつぶやきにエクスマリアは長い髪を一房彼女に絡ませた。
「わあ、きれい! いいなあ、私もヘアケアしたらこんな風になれる? なんてね、幽霊だけど!」
「かわいい幽霊はたくさんいるから、いけると、思う、ぞ」
「女子力高いトークはあとにしてぇな! 今は陣地作って!」
「はーい」
 半分泣き入ったユウキの懇願に、ホロウは自分の掘った穴の中へギトギトした油を撒いた。
「なんやそれ」
「ふふっ、細工は流々、仕上げを御覧じろ! ってね!」

「慈術!」
 メリーは第一波の敵めがけ術を放った。しかしゾンビの群れはゆらいだものの倒れない。ずるりずるりと腐りかけた体を引きずり近づいてくる。
「フン、威力が足りないとか言いたいわけ? ふざけてるわ。それなら泣いて謝るまで打ち込んでやるわよ、なんのための消費0だと思ってるのよ! っやぁ!」
 もう一発、さらにさらに怒りに任せて力をぶつける。本来ならスタミナを奪うだけの、まさに慈悲の一撃ではあるが、今はメリーの怒りを乗せて赤黒い雷と化しゾンビの群れを灼いていた。
「これでまた数が増えるわけ? 少し厄介ね。その割には殺したっていう実感が無いのが少しつまらないかな」
 愛くるしい顔立ちで眉を寄せ、不機嫌を丸出しにしてメリーは術を放つ。
 別の群れを大地が焼いていた。
「さあ、見たいのはアネモネか? それとも『お嬢さん』か『かみさま』か?」
 死人に半ば踏み込んでいる大地の耳には、ゾンビどもの意味をなさない歓喜の歌が流れ込んでくる。わけがわからないうえに何重にも重なって押し寄せてくる思念はうざったらしいほどだ。
(ろうでいがこれをほしがりません勝つまではやがて母なる胸を開いて)
(ひたすらに方角を北へ向けて右手で参入をするのです、ひらにひらに)
(わやないて口上の月が赤突きますればこだわりのへいほうを輪に詰めま……)
「うるさい」
 言い捨てて大地は九字を切った。ご来光を思わせる黄金の光が天上から差し込み、純白の花びらがゾンビどもの上に舞い落ちる。
「今頃どんな夢を見ているゾンビども。あいトチ狂った楽園か?」
 その夢がくたくたとしぼんでいく。蝕まれていく。雲に飲まれる月のように形を失っていく。ゾンビどもの断末魔は、嘆き声に似ていた。
「あいにくお優しくしてやる義理はないんでね。……俺も誰かに似てきたか?」
 とんと地を蹴り、未散が前に出る。奥の群れを捕捉したのだ。うっすらと銀色に色づいたまぶたが、暗闇をも見通していた。もげかけた翼が空を切る。大きくそれを開いて、未散は息を吸った。樹の実がなるように、白い熱球が翼の周りに生まれる。
「ぼくは言った、行けと。わたしは言いました、行きなさいと」
 熟れて七色に光る木の実からは正方形の光弾がフルオートマチックのように連射される。吐き出された神気はゾンビどもを次々と滅していった。ぞろりと立ち上がりかけた体を粉々にしていく。
「いまだ砦は不成、しかして攻めの手は功を奏し屍のさまよい歩くは直進のみ。闇のあなたから姿を表すはぽつらぽつらと夏の夜の火垂るの光のようです」
「だけどもすこぅし数が増えてきたようだよ、青い鳥。そろそろベネラーが言っていた第二波というやつかねぇ」
 もぞりと闇が動いた。今までの倍の数が視界の中、立ち上がり両腕を突き出して、のたのたと歩き出した。ひときわ強い腐敗臭が風にのって流れてくる。
「よいしょっと」
 武器商人は神気や慈術が打ち込まれたゾンビの群れへ、風のように切り込んでいった。片手でゾンビの額を掴み、力をこめる。ゾンビの頭がはぜた。ソレ自体は「軽く」力を入れたに過ぎないのだが。空中蹴りの要領でゾンビの体を駆け上がり、両足でもって腐りかけた頭をはさみ、ひねる。ごきりと太いものが折れる感触。そのまま用無しになった足場を蹴り、ふわりふわりとゾンビどもの頭を踏み抜いてまわる。さながら花畑でスキップ、散歩でもしているかのようだ。だがその動きは確実にゾンビの数を減らしていった。
「その調子でお願いいたしますわー」
 ユゥリアリアがバリケードを駆け回り、壁の薄い部分へ資材を打ちつけている。木工ドリルで次々ネジを巻いていくうちに隙間からゾンビが顔を出した。
「失せなさいー」
 ユゥリアリアは木材でその顔面を殴り、ついでにその穴を塞いだ。
 がばあああああ。
 あうぉおおおお。
 みいいぎいいい。
 バリケードの向こうから潰れたうめき声が響く。彼女はドリルを投げ捨て、バリケードの前側へ回った。無数の頭部が関節を無視して彼女を見据える。彼女は氷の眼差しでそれを見やった。魂の抜け落ちた、無意味で理不尽な肉の塊たち。ユゥリアリアは美しい顔へはっきりと嫌悪を浮かべた。
「随分と身勝手で、横暴で、独善的ですこと。お父さまの術式とは比べるべくもないですわー」
 そして両手を豊満な胸の上に置く。
「異界への扉開き給え開かせ給え。我が心臓は暗黙の鍵、鼓動は通行証、承認せよ承認せよ、無限の力を我へ」
 両手の下からボタニカルモチーフの入れ墨が広がっていく。世界樹を思わせる複雑な文様が胸から下を覆い尽くす。海色に輝く線の一本一本が手袋を通して氷水晶の騎兵槍へたどりつく。さやかな音を立て、槍が柔らかな描線に包まれ夜明けの海色へ染まっていく。
「待ち続けたとまどいも、追いかけた悲しみも、とりかえした嘆きも、真なる絶望の前には無に等しい。歌いましょう、ほがらかに、華やかに、這い寄る不吉も混沌も、もはやそれ以外なす術はないのだから」
 口ずさむ呪歌が槍を通して増幅されゾンビへ浴びせられる。あまりの威力に吹き飛んだゾンビの群れ。衝撃で空高く舞い上がった手足がぼとぼとと落ちてくる。別の群れへ槍の穂先を向け、ユゥリアリアはおだやかに話しかけた。
「ちゃんと眠らせてさしあげますわー。このような姿を晒すのも、きっと辛いでしょう?」


 それが見えたとき、ホロウはあんぐりと口を開けた。
「きたきた来たよー! 第3波! すっごい、やだあもう、あんなの相手にしなきゃいけないの!?」
 視界を埋め尽くすゾンビの、群れ、群れ、群れ。分厚く、緩慢に、ゆっくりと、何もかも飲み込みながらやってくる肉の壁。頭が痛くなるような強烈な腐臭。ホロウが仰天するのも無理はない。
「やれ、これだけ多いとB級ホラーの様相を呈してしまうね」
 武器商人ののんびりとした声に、ホロウも気持ちを切り替えた。
「ゾンビ退治をする幽霊なんて、なんかおかしいね? ふふっ。がんばろーっと! まずは……」
 ホロウはマジックフラワーで落とし穴の油へ着火した。そこへはまったゾンビもろとも炎を上げて燃え盛る。
「えいっ、ファイヤー! みんな燃えちゃえ!」
「ほう、これは、明るくていいな。ゾンビも倒せて、一石二鳥、だ」
 エクスマリアが長い髪を広げた。
「ついでに、これも、だ。せいぜい、脚を、引っ張りあえ。起動、ディスペアー・ブルー」
 髪の先が絶望色の青へ染まる。その髪が落とし穴にはまったゾンビどもへ鋭い針のように突き刺さる。魅了を植え付けられたゾンビは燃える体のまま手近にいる仲間を穴へ引きずり落とし始めた。その様子をしみじみと眺めながらエクスマリアは思った。
(ゾンビ、か。幻想等で湧いて出る、アンデッドとは、また趣が異なる、な。こちらの『神』は、マリアの知るソレとは、随分違う、が……神の怒りが面倒なのは、同じだ、な)
 だが。
 ぼおおああああ。ぼおおああああ。ゾンビが叫んでいる。
「起動、光翼乱破」
 エクスマリアの長い髪が、光の蝶々で彩られる。エクスマリアが髪を振り回すと、蝶はいっせいに飛び立ちゾンビの群れへ取り付き、爆破した。
(これで、やっと、半分、か?)
 肩で息をするエクスマリア。イレギュラーズはバリケード側まで押し戻されていた。
「出ます」
 未散が短く宣言する。
 そのまま戦場の縁へ陣取った。
「土の暖かさを感じ乍ら、家族や友人達が啜り泣く様を聴いたと? 嗚呼、其方のあなたさまの顔の疵は、成る程。納棺の時に杭を打った誰かさんが下手だったからですか」
 冷ややかな声音でまるでその身を案じているかのようなセリフを吐く。手が、腕が、救いを求めるように伸ばされ、未散へ迫りくる。
(然して、こうも甦っているのを見ますと、何だか、生と死の境界が曖昧に成ります。まあ、ぼくを構成するものも、経た、プロセスも、其方側に近いですから、何とも、言い難い『来いよう』でしたか。呼ぶか、呼ばまいか、生憎其れ位しか違いはない)
 枯れた翼へ手を伸ばし、かさついた感触を手のひらに感じる。その姿がゾンビに飲まれていく。未散の華奢な影がすべて覆い尽くされようとした時、爆発が起きた。妖しい緑をまとった爆発の光は、着火点から前進して地面をえぐり、ゾンビというゾンビを消し飛ばした。
「あたかもほほえみはあなたさまのためかのよう、怖気走る救済の技法をもってあるべき場所、いるべき箇所へいざないましょう。何たって、ぼくは葬儀屋だから。未練を残す魂を弔おう。何たって、ぼくは王さまだから。臣民たる魂に再び輝きを与えよう」
 未散は駆け出し、二発目の魔砲の準備に入った。
「まあー、効率的ですこと。こちらも負けていられませんわー」
 ユゥリアリアが肉の壁へ向かってディスペアー・ブルーを打ち込んでいる。エクスマリアとの魅了の波状攻撃によって、ゾンビの行軍は血で血を洗う修羅場に成り果てていた。共食いする仲間(そんな意識があるのかすら不明だが)を踏み越え、さらに奥のゾンビが進んでくる。その肉の壁から数体の影が走り出た。機動力に優れた俊敏な動きだ。
「来やがったなヒダル神!」
 ユウキは腰を落とした。聖剣の輝きがきらめき、彼の全身を包む。
「ユウキの旦那、そいつはなんだい?」
 金銀二重の惑星環をはりめぐらせた武器商人が三日月の形の口で問いかけてきた。
「こ、これは! おまじないや! 道中安全のおまじない! ちょっとええ神社の御札持ってきたんや!」
 といいながらネメシス聖紋章を掲げてみせる。まあたしかに御札っちゃ御札だと、武器商人は腹を抱えて笑い出した。
「いやまァ、ほんとは何がどうなっていようが我(アタシ)はどうだっていいんだけど、あんまり一生懸命だからねぇ、からかってみたくなるじゃァないか、ヒヒヒヒヒ!」
「なっ、もしかして自分気づいて……!」
「いやいや我(アタシ)はただの傍観者さ。ちょっとつついてみたりはするけどねぇ。お気に召すまま気の向くままにやればいいと思ってるよぉ、うんうん」
(くっ、こいつ何もかもお見通しや! あとで何ふっかけられるやろ、覚悟しとこ……)
「それよりもぉ」
 武器商人の足元から鋭く影が伸びた。遠く離れていたヒダル神が転倒する。
「我(アタシ)の目を逃れられると思ってか」
 意識を武器商人へ縫い付けられたヒダル神が一直線に武器商人へ向かってきた。ヒダル神の右脚がシオマネキのように膨れ上がり、圧倒的な筋力を持って武器商人へ殴りかかる。黄金の環からチリンと涼やかな音がなった。それだけだった。駄々をこねる子どもじみた動きで、ヒダル神は無意味な攻撃をくりかえす。その間も足元からは影が伸び、次々とヒダル神を狙い撃ちする。
「ええ調子やな! ほなこっちは任せたで、俺はあっち側を抑えてくる!」
「頼んだよ、ユウキの旦那」
「おお、男気見せたらぁ!」
 両手を広げて回転したユウキの周りに透明な青い刃が浮かんだ。闘気を練りあげて作られたそれが、すさまじい速さで地を蹴るヒダル神のもとへ飛んでいき包囲する。
「脚は追いつかんでもこっちは届くでぇ!」
 青い刃がヒダル神へ飽和攻撃を仕掛ける。その刃が孕むのは戦闘狂の毒蜜。全身からユウキの闘気を注ぎ込まれたヒダル神は毛を逆立て、口を限界まで開けた。咆哮とともに光弾が口内に生まれ、大砲のように発射される。
「ッシャオラア! その挑戦受けてたったる!」
 ユウキは正面からその光弾を受けた。聖剣のきらめきはこの程度では陰りもしない。
「はあ、なにそれ!? あんたどういう体してんの!?」
「ぎゅ、牛乳飲んでるから平気やねん!」
「ガチで? わたしも牛乳飲もうかしら」
 思わずそうつぶやいたメリー。その背後をゾンビに取られていたことに彼女は気づけなかった。
「何すんのよ! 離しなさいよ!」
 視界が腐肉に塞がれていく。首を絞められ、必死にもがくも抵抗できない。右足に焼けるような痛みが走った。骨が折れたらしい。
「くああああああああ!」
 叫ぶメリー。彼女の後方で、巨大な氷塊ができあがりつつあった。大地が人差し指を天へ掲げ、小さな声で祝詞を唱えている。
「大祓の神うずまる地よりおいでませい荒御魂、清らなる気閃きたまいし時に生りあがりて、光あらんをば願い罪という罪はなべて祓い清めたまへ」
 大地が利き手を振り下ろした。重量のある氷塊がメリーにたかるゾンビの群れへ向かっていく。やがて氷塊は細かく割れ、幾千もの刃となってメリー以外の異物をすべて排除した。それを皮切りにイレギュラーズたちの反撃が始まった。


 ひとり、未散は虚空を見上げ、泡を吐くように言葉をこぼす。
「お嬢さん、お嬢さん、ぼく怒られちゃったんです。でも、ぼくの友達に悪い人は居なくて、皆んな、皆んないいひとだから──……」
 風が吹いた。何者かの視線を感じた。皆が振り返った。だが破壊されたゾンビが果てしなく広がっているだけで……。

「ね」

 未散の一言が風に溶けた。

成否

成功

MVP

散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士

状態異常

メリー・フローラ・アベル(p3p007440)[重傷]
虚無堕ち魔法少女

あとがき

おつかれさまでしたー。
ギリギリ成功です。
怖い話は大好きだけど、ホラーはもうぜんぜんだめで、今回は資料探しに苦労しました。しょうがないので「か●らをと●るな」を再視聴しました。

またのご利用をお待ちしています。

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