古代図書館グラ・フレイシス

オープニング

●古代図書館グラ・フレイシス

　遺跡にも種類がある。
　お宝が眠っているもの。
　未知の技術が眠っているもの。
　古代の危険な何かしらが封印されたもの。
　非常にどうでもいいオチが待っているもの。
　斯様に、実に様々だ。
　
　しかしながら、その中には少しばかり不思議なものもあったりする。
　たとえば、お宝的な価値が不明なもの。
　無限に腐ったお菓子を製造し続ける工場……なんていうものもあったとか、なかったとか。
　しかし、今回はそうではない。そうではないのだ。
　本の眠る遺跡。
　そうしたモノが発見されたという噂も、あるにはある。

「此処、何処ォ!?」

　そんな噂を信じて飛び込んで、迷った人間も……居たり、する。
　何処を見ても本、本、本。
　本好きが見れば狂喜乱舞するかのような場所に取り込まれた少女は今、半泣きである。

●古代図書館への誘い

「古代図書館グラ・フレイシス。そう呼ばれる場所が、存在している」

　情報屋の男は、溜息交じりにそう切り出した。
　古代図書館と呼ばれるような場所は、別にこれが初めてではない。
　歴史的価値を認められた場所もあれば、資料として驚くような発見をされた場所もある。
　しかし、グラ・フレイシスは少々趣が異なる場所であるらしい。

「蔵書のジャンルはバラバラ。落書きのような本からハッとするような本まで……まあ、歴史書の類がないのは確かだろうと言われている」

　趣味の類……まあ、そういう知識が欲しい人には喜ばれるような類の蔵書は特に充実しているらしい。
　そして趣味とは人の数だけ存在するとも言える為、その蔵書は無駄に多く……他にも童話やイラスト集、何故かちょっとエッチな本まで網羅しているらしい。
　しかし、そんな無数の本の中に実用書があるかどうかは……ちょっとばかり不明だ。
　一言で言ってしまえばマニア向け。そんな場所だ。

「そのせいか、趣味人が迷い込むことでも有名だが……どうにも、それだけではないらしい事が分かってきた」

　その図書館は人を食う。そんな噂が立ったのだ。
　そしてそれは、どうにも事実であるらしい。
　古代図書館グラ・フレイシスには「客」を殺す何かが潜んでいる。
　
　見つけなければならない。
　滅さなければならない。
　それが何であろうと、だ。

「その『原因』を調査し、可能であれば排除してほしい」

　そうすれば、平和なグラ・フレイシスが帰ってくるかもしれない。
　あるいは、そうではないかもしれない。
　今は、それは分からないけども。

「お前達だけが頼りだ」

　情報屋の男は、そう告げるとグラ・フレイシスへの地図を差し出すのだった。

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第3章

第3章 第1節

謎の白い表紙の本「グラ・フレイシス」。
奇しくも図書館の名と同じ名を持つ本を見つけ、しかしその不気味さは一度撤退を決意させるには充分であった。
趣味人達に避難を促す者達、そして迷子の救助のおかげで、今古代図書館グラ・フレイシスの中には人はいない。

この本の発見を鍵にグラ・フレイシスを巡る一連の騒ぎはいよいよ終結へと向かうのだろうか。
それがどのような結末かを語る本は……今、此処にはない。

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第3章 第2節

「まさか魔書が相手になるとは――私が持ってるのとは法則性が随分違うとは、興味深い」

　言いながら『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ（p3p000854）は奥へと進む。

「仲間が一時撤退する必要があるほどの魔書、実に『興味深い』わね。もしかしたら『他に魔書と呼ばれるものがあるかもしれない』わね」

　イーリンは、当然ながら知っている。
　自分一人で出来る事は限界があると。
　それでも、彼女が単独行動を選んだのは。

「今の私の立ち位置は、試金石で十分」

　ゆっくりとイーリンは、自分の武器を握る。
　趣味人達の居なくなったグラ・フレイシスの中……数冊の本が、バサリと捲れて。

「やはり出たわね」

　挑む。戦う。それが無謀であるとは知っていてもだ。

　

成否

成功

状態異常

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第3章 第3節

「あの白い本を開きに行く前に……この図書館のルールを確認しに行こう」

　普通は騒がしくしない、駆けない。飲食禁止。本は元の場所へ返す。持ち出し禁止の本は持ち出さない。
『神は許さなくても私が許そう』白夜 希（p3p009099）は仲間達が本に襲われた状況を思い出しながら、そんな事を考える。
　
　最奥の本、グラ・フレイシス。
　図書館と同じ名を持つその本を守るための防衛機構が襲ってくる本たちなのではないか……そんな風にも思えたのだ。

「私は一応静かにしてるし、低空飛行の魔法で静かだし、飲食もしてない……図書館から攻撃される理由は持ち出し禁止の本に触れることくらい？」

　持ち出さずに読むだけだよ、と伝えればいいのか。それとも、それではダメなのか。
　分からない。分からないが……確かにこの図書館には、何かのルールがあった。

「あったはず……だよね」
「かもな。だがまあ……そのルールはどうやら、期限切れらしい」

　希の隣を歩いていた『聖断刃』ハロルド（p3p004465）が、自分の剣を鞘から抜き放つ。
　ハロルドの視線の先には、バサバサと棚から落ちてくる本。
　そして……捲れていくページ、中から飛び出してくるのは金髪の騎士、雄々しき古代兵器、そして魔法使い……！

「いくぞ、竜よ！　我が聖剣の一撃を受けよ！」
「ラスターカノン、戦闘出力」
「氷の矢よ！」
「ははははっ！　おら、かかってこいよ！　『隠れんぼ』はもう終わりにしようじゃねぇか！」

　凶悪に笑うハロルドと、本の戦闘が始まる。
　どうやら……確かに、このグラ・フレイシスのルールは変わり始めている。
　それを、希は実感していた。

成否

成功

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第3章 第4節

「死者の霊はどこに行ってしまったんだろう……グラ・フレイシスに取り込まれたとか？」

『海を越えて』ドゥー・ウーヤー（p3p007913）の言葉が、グラ・フレイシスの最奥に響く。
　数々の調査で分かったこと……それは、この場所に死者はいても、その霊はいないということだった。
　それは何故か。それを、ドゥーは考えていた。

「或いはこれまでの本はこの図書館で殺された人かもしれない。本を読みに来たと思ったら本に読まれていた、なんて……そういう可能性もあるかな」

　分からない。分からない。
　この古代図書館グラ・フレイシスは全てを見ていたはずだ。
　しかし、その記録は何処にもない。
　このグラ・フレイシスにはあらゆる「歴史」が記録されていない。
　それでも、もし可能性があるのならば。

　危険を承知で「グラ・フレイシス」を読んでみたい。

　そう、ドゥーは願って……本を開く。
　白い本グラ・フレイシス。
　触れて、開いて。

「任務開始。グラ・フレイシスが全てを記録し編纂しよう。全ては、損失を許さぬために」

　グラ・フレイシスのページが捲れ、白い影のような巨人が姿を現す。

　ドゥーが見極めたいと願ったグラ・フレイシスの正体。
　それが……此処にあった。
　

成否

成功

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第3章 第5節

「おやおや、謎の白い本にして、この遺跡の名を冠する本でごぜーますか。それはあきらかに怪しいでごぜーますねえ？」

　趣味人のいなくなった図書館の中を、『Enigma』ウィートラント・エマ（p3p005065）は歩く。

「その本に何が書かれているのか、興味は尽きないでありんすが……」

　ズン、と。何処かで何かの攻撃音が響く。
　明らかに戦闘中……それが分かる状況に、ウィートラントは小さく溜息をつく。

「一人で相手取るのは危険でごぜーますねえ。如何したものか」

　ウィートラントの視線の先に、『神は許さなくても私が許そう』白夜 希（p3p009099）の姿が映る。

「そこで何をしてるのでごぜーますか？」
「せめて散らかってる本だけでも、とりま棚に戻しながら進もうと思って」
「棚に、でごぜーますか」
「これ以上の怒りを買わないために、ね」

　響く戦闘音。地響きは本棚からそれなりの数の本を落下させており……希は、それを棚に戻していたのだ。

「まだ図書館は本気を出していない。その気になればここにある全ての本が恐らく敵……無理無理」
「なるほど、納得できる話でごぜーますねえ」

　そういう戦い方もあるかもしれない。そう納得させる希の行動にウィートラントが納得している、丁度その頃。

「ミルヴィちゃんよぉ、デートに付き合ってくれるとか男を誘っておいて、こーんな色気のねぇ場所とかそりゃあないぜ……あ、おい一人でスタスタ進むんじゃねぇよ！」
「グラ・フレイシス……あの怪しげな本を見つけるためにもう一度潜る」

『マジ卍やばい』晋 飛（p3p008588）をスルーしながら『暁の剣姫』ミルヴィ＝カーソン（p3p005047）は進む。
　白い本「グラ・フレイシス」に再び出会うために。

「あの本は力を求める心に反応するって話……」

　それならアタシは力が欲しい、そうミルヴィは願う。
　敵を傷付けること無く征する力を。
　大切な人達を守る力を。
　みんな幸せを目指すための力を。
　奪われないための力を。

　だから、アタシの声に応えろ、と。そうミルヴィは叫ぶ。
　そして……そんなミルヴィの姿に、飛はしょうがねえな、と呟きながらフォローを決意する。

「力ねぇ、あったって大抵利用されるか力に振り回されて不幸になるのがオチだぜ」

　続けて、飛が何かを言おうとした……その矢先。
　破砕音が響き『黄昏夢廸』ランドウェラ＝ロード＝ロウス（p3p000788）が飛たちの前に転がり出てくる。

「僕がこんぺいとうの本を探してる間に、こんなことが……！　なんだ、お前……寂しがり屋か？」
「記録する」
「うおお、邪魔者か！　ならば倒すしかないぞ！」

　白い影のような巨人の攻撃を回避しているランドウェラだったが、その巨人を挟み込むようにして駆けてくるのはエステル（p3p007981）と『同一奇譚』オラボナ＝ヒールド＝テゴス（p3p000569）の２人だった。
　エステルは盾に出来そうな分厚い表紙の本を片手に持っていたが……どうやらソレは普通の本のようで、エステルに襲い掛かってくることはない。

「ただの興味でしたが……やはり本には攻撃してこないようですね」
「しかしまあ、燃やすのも破るのも得策ではない。そうなった場合のリスクも考えねばならんだろうよ」

　エステルの放ったソウルブレイクは、効いてはいるのだろうがあの白い影の巨人相手では効果を目測しにくい。
　そしてオラボナもまた、中々上手く白い影の巨人の移動を阻害しきれていない。
　まあ、それも仕方のない話だ。こうも障害物の多い場所でそれをしろというのは、余程の達人でも至難の業だ。

「あ、綺麗な本……まさかこんぺいとうの本！」

　突然奇妙な動きで本棚の向こうへと消えていくランドウェラは何かを抱えてすぐに戻ってくるが、それはさておき。

「飛おにーさん……あれ！」

　そう、白い影の巨人の足元に浮いているのは間違いなく白い本……グラ・フレイシス。
　あれに再び出会えたと、ミルヴィは剣を握って。

「ところでミルヴィちゃんよ。それで力を得て、それでいいのかい？　アンタの親父のこた知らねぇが誇り高い性格だったってんならきっと言うぜ」

　飛の言葉に、ミルヴィは動きを止める。
　オラボナが、エステルが、ランドウェラが白い影の巨人に相対しているというのに、その言葉を無視できなかったのだ。

「借り物の力で成し遂げた所でそれは本当にやりたい事なのか？　ってよ。お前さんがここにきた理由はなんだ？　犠牲を食い止める為と単なる好奇心、だろ？」

　白い本グラ・フレイシス。
　それの持つ力は見たままだが……ミルヴィにとってそれは、それほど求めるものではなくなっていた。

「ん……確かにあいつならそう言うだろうネ」

　目指すもの、求めるもの。
　それを思い出したミルヴィは、迷いなき瞳で剣を握り直して。

「嗚呼。我々は同じモノだろうよ」

　そんな、自身以外には理解できない……させるつもりもないのであろう言葉を呟くオラボナが、エステルを庇い吹き飛ぶ。
　何が何でも『ひと』殺しはさせない。その決意の表れだったが……その倒れこんだ先には、本棚に本を戻していたウィートラントと希の姿があった。
　それはただ、それだけの話。そこから何も発展するはずのない……攻撃の手数がこれから増えるだけ、のはずの話。
　しかし……白い影の巨人の動きが、ピタリと停止する。

「……グラ・フレイシスは本への敬意を評価する」

　白い影の巨人が消え……白い本「グラ・フレイシス」が浮遊する。
　それを見て……誰もが思い出す。
　此処は図書館であると。つまり……此処で殺人が起きたその発端の理由は……もしかすると。

「燃やさなくて……正解、でしたか」

　エステルの言葉は、実にぞっとするものだったが……もしそうなっていたら、グラ・フレイシスはこれで止まっただろうか。
　そうとは思えない。思えないが……それによって得られるものも、もしかしたらあったかもしれない。
　正解がどれであったかなど、分からない。
　分かるはずもない。
　人生は本のように結末の決まったものではない。
　完結へと向かい今この瞬間も描き続けられている……そういう、ものなのだから。

成否

成功

状態異常