PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<グラオ・クローネ2021>起てチョコに飢えたる者よ

完了

参加者 : 21 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●革命の刻は来ぬ
 万国の独身者諸君! 我らは今、人類が生得すべき温もりを収奪されて居る! 我らがこの冬、寒気と寂寥に打ち震えるのは、我らより異性の温もりを搾取せんとする、恋愛的ブルジョワジーの陰謀である!
 シャイネンナハトは年末の、グラオ・クローネは真冬の街角を破廉恥に染め上げる、桃色テロルに他ならぬであろう! 恋愛ブルジョワジー共はそれらを通じ、人と人との階級を区別せんと目論むのである! 浅ましくも我らを非搾取階級に貶めんと欲し、恒久の人類の自由を毀損せしめんとするものである!

 万国の独身者よ、我らこそ呪いに囚われし灰色の王冠(グラオ・クローネ)の少女である! 罪無き罪に苦悩する犠牲者である!
 一方で、我らは無力なる少女に非ず! 前進のための脚、連帯のための腕を持つ者である!

 団結し、闘争せよ!
 我ら同胞の心の叫びこそ、恋愛資本主義の豚どもへの抵抗の革命の旗印である!
 奮起せよ! 恋愛的ブルジョワジーを粉砕せよ!
 我らより恋愛を収奪せしめんとする反革命分子らに、真なる愛の鉄槌にて勝利せよ!

GMコメント

●最初に
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 参加時には『天義』における悪名が増加しますのでご注意ください。

●あらすじ
 この無辜なる混沌世界が人々の愛で満ちるグラオ・クローネの折、聖教国ネメシスの一角に、謎のシュプレヒコールを上げるデモ隊(自称)が現れました。
 デモ隊は数の暴力に酔いしれているので、チョコを得るために商店を襲ったり、子供たちの手からひったくったりといった悪事を働いて、人々からチョコを強奪しまくっています……さあローレットの皆様も、お気に召したならご一緒にどうぞ。

 プレイングでは、1行目に以下の番号を、2行目にグループ名や同行者のIDをお書きください。

【1】デモに参加する
 商店や通行人からチョコを奪って、存分にヒャッハーします。
 ただし、目的はあくまでも『チョコを奪う』ことであり、金目のものや殺人ではありません……チョコを奪った拍子に怪我させてしまうとかは仕方ありませんが、必要以上の暴力には相応の報いがあるかもしれませんので悪しからず。

【2】デモを制止する
 平和のために頑張りたい、という方はこちらへ。
 ただし、数の暴力が相手ですので、絶対に勝てません……その点だけはご了承ください。

【3】カップルでイチャつく
 モテないデモ隊参加者たちに見せつけるように、とにかくイチャつきたい方はこちらへ。
 もちろん死亡フラグです。いや実際には死なないけどパンドラはたくさん減るでしょう……。

  • <グラオ・クローネ2021>起てチョコに飢えたる者よ完了
  • GM名るう
  • 種別イベント(悪)
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2021年02月25日 22時05分
  • 参加人数21/30人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 21 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(21人)

リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
コレット・ロンバルド(p3p001192)
破竜巨神
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女
虚栄 心(p3p007991)
伝 説 の 特 異 運 命 座 標
イロン=マ=イデン(p3p008964)
善行の囚人
エクレア(p3p009016)
影の女
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女
ゲンゾウ(p3p009219)
特異運命座標
マリカ・ハウ(p3p009233)
冥府への導き手
ネリウム・オレアンダー(p3p009336)
硝子の檻を砕いて
インベルゲイン・浄院・義実(p3p009353)
破戒僧
アナト・アスタルト(p3p009626)
殺戮の愛(物理)天使
白妙姫(p3p009627)
慈鬼

リプレイ

●革命の勝利……?
 突如押し寄せてきた喧騒に、コレット・ロンバルドは怪訝に眉根を寄せた。
「貴方たちは誰? 私は最近誰かの恨みを買うようなことをした覚えはないのだけど……」
 彼女は――そう。ただこの街で、限定品の自分で食べるためのチョコを買っただけ。

 それは全くもって正当な権利であって、しかし、あまりにも間が悪かった。暴徒らは彼我の体躯の差に怯えることもなく、純粋なる数の暴力を身に宿す!
「どうせ誰かに贈るものだろう! 違うというなら俺たちにも贈れ!」
 何この団結力。あの時の聖獣より普通に強い――底知れぬ恐怖に襲われる中、コレットの意識は途切れ……。

●革命の夜
 時は少しばかり遡る。街の中央広場には、異様な集団が現れていた。
「恋愛弱者に愛の再分配を!」
「恋愛的ブルジョワジーに鉄槌を!」
 プラカードを掲げシュプレヒコールを上げる一団は、どこか昏い熱気に包まれている。その口では愛を説きながら、実際の原動力が『ひがみ』に過ぎぬ……カムイグラを出て今年グラオ・クローネに初めて触れた白妙姫にさえそれが容易く見てとれるほどに。
(さみしい話じゃのう)
 とは思ったが当の白妙姫も、ちゃっかりとその集団に混ざっていた一人だ。正面の壇上にて集団に呼びかける少女型の人形が、かくの如く説くからだ。
「弱者はこんなにも不満を溜めている……それを世間に知らしめることは、紛うことなき善行なのです! 一大事です! 決起の時です!」
 いやイロン=マ=イデンのそこらへんの主張は、白妙姫にとっては極めてどうでもよかったのではあるが。
 だが……彼女が次に語った言葉、「ですがデモにも作法というものがあります。これが無秩序な悪行ではないことを知らしめるため、チョコは正々堂々と一騎打ちによりいただき、それを再分配してみせましょう!」の最後の部分にはちょっと抗えなかった。
「だってこの一揆に加われば、タダでチョコを貰えるのじゃぞ? チョコでなくとも甘い菓子であればよいぞ? くるしゅうない、くるしゅうない! さあ、わしにも菓子をよこせー!」

 始まりは、平和的な集会とデモ行進に過ぎなかった。
 主義を声高に主張して、ただ街中を練り歩くだけ。時に頭お花畑なカップルが不用意に彼らを見物しようとし、小さないざこざの末に決闘の末にチョコを奪われたりする(しかも難癖つけて決闘に持ち込んだのはああ演説したイロン当人である)など、全体から見れば些末なトラブルである。
 しかしそれは……デモ隊が内在的なエネルギーを持たぬことまでは意味しなかった。全ては集団の内に秘められており、いつか爆発する時を待っている。
「さあ、貴方たちに神の祝福を!」
 突然、そんな声がデモ隊にかけられた。デモ参加者たちが何事かと振り向けば……そこには光輝くチョコをこちらに差し出す2人の“シスター”たちの姿。
「愛されていない人間などいないのです! 貴方たち全てに愛を捧げましょう! どうか穏やかなる心を取り戻してください!」
「気持ちの悪い裏声出すんじゃねえよ。お前男だろ」
「その顔……騎士のリゲル=アークライトさんじゃねえか! 妻帯者め、俺たちを馬鹿にしに来たのか!」
 ほうら、やっぱりこんなやり方じゃ無理だったじゃないか……天を仰ぐ友人、トマス・フィデントゥス。膨れ上がってゆくデモ参加者の憎悪。済まない、無理を言って連れてきた君だけは責任持って守ってみせよう……リゲルは友に累を及ばせないために、敢えて自ら名乗りを上げる!
「いかにも、俺は妻と娘を持つリア充だ! 爆発させたくば此方へ来い!!」

 トマスが扮装を解いてデモ隊に紛れ込み、教えた通りに「リア充爆発!」と叫んで難を逃れたのを確認すると、リゲルは暴力の波が広がってゆくデモ隊を引きつけるように駆け出していった。
 次第に暴徒へと化してゆくデモ隊ら。徒党を組んで付近の商店へと雪崩れ込み、チョコというチョコを奪ってゆく彼らの姿は、グドルフ・ボイデルにとっては痛快の一言だ。
「カネも酒も盗らずにチョコだけってのだけがつまんねぇ限りだが、かっぱらうのも取り上げるのも山賊のおれさまの十八番よ。ゲハハハッ、俺にも奪わせろ!」
 よー、おめえら。こんな日に出歩いてるなんて災難だねェ。
 どうやら告白を成功させたばかりらしい睦まじいカップルの前に立ちはだかって、ひらひらと斧をちらつかせてみせる。チョコを放り投げて逃げていったカップルが守衛所に駆け込んでいった様子が見えるが、騎士たちが押っ取り刀で駆けつけた時には既に、グドルフはとっとと群衆の中へと紛れ込んで次の獲物を見定めている。

 かの“破壊神”でさえ暴徒らに囲まれ倒れたという情報が、騎士たちから暴徒集団に飛び込む勇気を奪い去っていた。チョコだけを求める暴徒らがいつしか破壊と殺戮の快感に身を委ねるに至るのを、彼らは指を加えて見ているしかないのだろうか――騎士たちが無力を噛み締めたその時。
 ひとつのテント内からの絶叫が、暴力を掻き消さんが如くに辺りに響く!
「全世界の悪属性ファンが待ちに待った、真のゲス野郎決定戦。
 第一回、グラオ・クローネ・クライム杯……世界で最もゲスいのは誰なのか!?
 ここ聖教国ネメシスには数千の大観衆が詰めかけ、その歴史的瞬間を固唾を呑んで待っています。実況は私、マリカちゃんと……」
「わたくしシスター・テレジアがお送りいたしますわ!」

 なんかマリカ・ハウがイベント化を目論んでいた。
 だが存外、馬鹿にはできない効果を持っている……急に自分たちの暴力にポイントを定義されてしまった暴徒らは、何となくペナルティのある一般人への攻撃を避けてポイントの高い阻止役の特異運命座標たちへの攻撃を優先するようになるものだ。
 ……にやり。
 ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤの表情が、一瞬だけ下衆に歪んで見えた。
 だがすぐに神妙な聖女の顔を作って神に祈ってみせる。
「チョコを羨む気持ちが憎しみを生み、憎しみが争いを生む。私には分かります、主が嘆き悲しんでおられるのが……!」
 だからデモ隊の意識が逸れたこの瞬間に、『美聖女の手渡しチョコレート』の販売を開始する。
「聖女の祝福、聖女の祝福でございますわー! たった500Gを支払……いいえ、寄付していただけるだけで、恵まれぬ子らが救われるのです! ほらテレジアも実況ばかりでなくこちらを手伝ってくださいましー!」
「今すぐ参りますわ! さあ皆様も、神の愛を存分にご堪能くださいまし!」


 ヴァレーリヤの言う『恵まれぬ子ら』がデモ隊でなく、理由は違えど万年金欠の自分とテレジアを示していることまでは、さしものアナト・アスタルトにも見抜けなかった。
 それでも……これだけは確かに言える。彼女らのチョコが愛の賜物などでなく、所詮は紛い物の義理チョコに過ぎないことを。
「愛無き哀しき者たちの愚行は争いを生みますが……『バール教』の教祖たる私の真のアガペーは皆を救います。ですので、たった500Gで愛を売ろうなどという冒涜を私はいたしません。人々を救う愛とはもっと高価なもの……3000Gのお布施をくださった方には、このハイクオリティなお味な手作り『愛天使アナトチョコ』をお配りしましょう」
 アガペー(無償の愛)#とは
「『無償の愛』と『無料の愛』は違うのです……努力を怠り、対価を支払わない者達のへの愛など、赤子や子供に対する親のストルゲー(家族愛)以外にないと知りなさい」

 アナトのチョコが馬鹿高いと知って二の足を踏んだデモ参加者の口に無理矢理愛天使チョコを突っ込んだ上にきっちりお代を強奪するアナトの愛(暴力)を見かねてか、遠巻きにしていた騎士たちがこっちなら与しやすそうと怒涛のごとく襲いかかってきた。
 ……すぐに関わっちゃいけない奴だと気付いてヴァレーリヤに矛先を変えた(テレジアは見捨ててまた実況に戻った)。
 ああ……なんとネリウム・オレアンダー好みの混乱だろう? だからこの乱痴気騒ぎをもっと盛り上げるため、ネリウムは暗躍を開始する。
「そこの君……本当は彼らと同じ想いを抱いているけど、人類が定めたに過ぎない規範に囚われて混ざれないでいるね? 神はチョコを求めんとする気持ちは汲み取ってくださるよ。だから僕らと一緒にチョコを得よう? 恐れることはないよ」
 原罪の呼び声じみた“スカウト”で“素質ある”人々を次々に暴徒に合流させながら、自身も恋人たちのチョコを奪って甘さに舌鼓を打って。はて、次は誰を“スカウト”しよう? あの破戒僧――GMのプレイング確認ページに「すました顔をしているがまだプレイングを提出していない」前景つきバストアップが表示されていると思ったら本当に白紙プレイングだったインベルゲイン・浄院・義実などはどうだろうかなどとも考えながら。

 もっとも、これ以上は敢えて暴動の規模を広げてやらずとも、巷ではさらに多くの混乱が始まるようになっていた。
「人を愛することの素晴らしさがわからねーとは……哀れですねー」
 建物の上からその様子を伺っていたのはピリム・リオト・エーディと古ロリババアの陽炎のコンビ。時折思いついたように眼下の小集団にチョコを放り投げてやったなら、愚民どもは紛うことなき女性からの無償のチョコに群がって奪い合い始めた。
 その様子をしばらく堪能した後に、追加で全員に行き渡るようにチョコを再投入。……今度は彼らは打って変わって、揃ってピリムに忠誠を誓った。愛を知らぬ人間というものは、全く面白いピリムの玩具だ。

 そうして投げ込まれる餌を求めて、デモ隊はますます過激さを増してゆく。グラオ・クローネなんて恋愛なんぞにうつつを抜かすガキ共の祭りだぜと鼻で笑うゲンゾウも、顔を壮絶に歪ませる。
「ああ、興味ねぇ……興味はねぇが、そこら中でイチャついてるカップルどもはイラつくぜぇ!」
 爆破! それから銃弾の嵐!
「おらおら、チョコ置いてけぇ! それとも俺様のSADボマーとD・ペネトレイションの鉛弾アソートが欲しいかぁ!?」
 身を持ち崩したまま還暦近くまで過ごしたゲンゾウの標的はいつしかカップルからチョコ屋にまで広がって、目聡く見つけた高級チョコの数々が彼の懐に収まってゆく!
「よし、このまま闇市に売っ払ちまうかぁ! そんで売り上げは俺たちで山分けだぁ!」
 ……その時。
「え? そんなことよりもっとダメージ大きい方法があるでしょう?」
 下卑た笑みを浮かべたゲンゾウに輪をかけた悪人顔で返した虚栄 心は、すいと視界の片隅でイチャつくカップルの元へと近付いていった。
「に わ か カ ッ プ ル 死 す べ し」
 殺意満々に手を伸ばし、男が貰ったばかりのチョコへと掛ける……が、敢えてすぐ奪わずに引っ張り合いに持ち込んでやる。
 ほうら、女の方が心に蹴りを入れてきた。攻撃されたら反撃してしまうのは正当防衛の一種よね?
 だから無罪。ついでに奪ったチョコを食べるでもなく倒れた女の目の前で踏み潰してやるのも無罪。

 さらに……女がムキになって別のチョコを買って彼氏に贈り直そうと店に入ったならば、そこではメリー・フローラ・アベルが店員たちを無力化し、売り物のチョコを傍らに積んでほくほくしていた。
「あなたも食べる?」
 自分が一口齧ったチョコを女に差し出して、それから答えも聞かずにゴミ箱へとダンクシューッ! 全てのチョコがそうやってダメになってしまったら、彼氏に贈り直せるチョコなんて店にはなくなってしまう!

「聖戦だ!」
 ラクリマ・イースが高らかに、今宵の勝利を呼びかけた。
「今宵はチョコに浮かれる者どもとの聖戦だ!」
「恐れるな哀しき盟友諸君!」
 エクレアも続けて呼びかけた。
「僕達には灰冠の加護がある。ならば脚を上げ、野獣の如くチョコレートを食い荒らすのが道理」
 折れし剣――名もなき英雄の遺産を高らかに掲げ、それから前方の高級チョコ店へと倒す。
「さあ僕に続け、幸福は目の前だ!」
 カップルを無言で取り囲んで圧を加えていた者たちが、店のお洒落さに目を焼かれていた者たちが、それから「メリーたんとの間接キスぺろぺろ」とか言いながらメリーがチョコを捨てたゴミ箱を漁っていた者たちが、勢いよく店へと突撃していった。
 律儀に代金だけは置いて高笑いするエクレア。
「僕は僕は戦闘向きじゃないから、抑えようと思えば簡単に抑えられるぜ。しかし食べたチョコは戻ってこないのだよ……残念だったなリア充諸君! わーっはっはっは!!」
 もっとも彼女自身を抑えるのは容易でも、それをラクリマが許さなかった。
 大音声のクラッカーにて我ここに在りと知らしめる。誰かがラクリマに瑕を与えても、幻雪の歌はその瑕を冷たく癒やしてしまう。
 そして、儚き氷雪の歌を身に纏いし彼は、一時の縛めさえをも受けつけはしない。彼の、そして嘆きに包まれた者たちの勝利を阻まんとするものへと、ラクリマの雪は吹きすさぶ!
「振り返るな! 進め!!
 ここは戦場だ! 俺の屍は乗り越えていけ!!」

 ラクリマに勇気づけられて邁進するデモ隊を抑え込むことは、もう、ベルナルド=ヴァレンティーノにも難しくなっていた。
「毎年のことながら、しょうもねぇ奴らが沸いてくるモンだ」
 悪態を吐きながら自身に鞭を打つ。ああ、どうしたらこの状況を打開できるのか……そう思って辺りを見回した時、ふと、とある人物と目が合った。
「あらあら、騎士たちだけでは荷が重いでしょうと思って来てみたら……私の小鳥までデモに加わっているとは」
「馬鹿言え! どこをどう見たらこいつらの仲間に見えるんだ! たかがチョコレートぐらいでぎゃあぎゃあ騒ぐ奴らと一緒にするな……んなもん食いたきゃ自分で買えばいいだろうが!」
 ス、と異端審問官――アネモネ=バードケージの両目が細められたのをベルナルドは見て取った。ヤバい、と本能が警鐘を鳴らす……こいつは、何故だか激しく怒っていやがる!
 アネモネの不正義認定がベルナルドに下る中、デモ隊の憎悪も遂に頂点に達した。
(この女……こっそりチョコを隠し持ってやがるじゃねえか! しかも男の方は気付いてない、だと!? 俺らの前で痴話喧嘩するとは、どうやら命が惜しくないようだなぁ!)

 デモ隊の暴走が臨界点を突破するのは、今や当然の理とさえ言えた。
「あの……チョコを売るって聞いたんですけど。どうしてこんな……ことになったんだ……」
 マニエラ・マギサ・メーヴィンが巻き込まれ、銀色の耳をすっかり垂らす。
 だが勘違いとはいえ一度依頼を受けてしまった以上、デモ隊の力にならなければハイ・ルール違反というやつだ。……この混乱を? さらに拡大させろって?
 なので「統率する」という名目で彼らを秩序に組み込んでゆくことで、混乱を収めつつ依頼を成功に導いたというアリバイを作っておいた。その後は……知ったこっちゃない。私はチョコ齧っておくからその間に色々と済ませておくれ。
 回言 世界も体を張りながら、どうにかこの過激化したデモを抑え込もうと悪戦苦闘させられていた。
「なんてこった……普通に世間に訴えかけるだけかと思ってたのに……っておい! そこの! 子供から巻き上げてんじゃねえ! せめて16歳以上からにしやがれ!
 そっちは……おい女性に怪我させてるじゃないかまったく。俺たちは本物の紳士のはずだろう? 多少は仕方ないとはいえ気を付けてくれよなぁ」
 休む暇もなく右に左に奔走させられる苦労人、世界。1ヶ月分くらいは駆け回った気がして参加するんじゃなかったという後悔で一杯になる。家に帰ったらとっておきのチョコでも食うか。

 そんな彼らの努力の成果もあって、一時は街中の至るところで暴発していたデモ隊は、次第に少しずつ熱を失っていった。
 いや……それは彼らだけの力ではないだろう。白夜 希のように彼らに理解を示した者もまた、確かにデモの沈静化に貢献していたはずだ。
「さあ、盗れるものならいくらでもどうぞ」
 挑発的な笑みを浮かべる彼女から、チョコを奪える者はいなかった。何故なら彼女の用意したチョコは、全て熱々の大きなフォンデュ鍋の中。
 ……が、無理して奪う必要もない。何故なら彼女はこう囁くからだ……グラオ・クローネとは感謝の気持ち。握手でも、お金でも、頭を撫でてくれるのでも。暴力でさえなければそれはチョコに値するギブアンドテイクだ……普段は人に囲まれることのない希にとって、そこにいるのが僻みに凝り固まった者たちであっても自分を求めてくれる希少な相手であるのと同様に。
 ……が。
「しまった。もう材料が切れてしまった」
 まるでチョコフォンデュが行き渡らない人たちを仲間外れにしてしまったようで、希は少しばかり顔を曇らせた。
 ……が、すると新たな材料が鍋へと投入されてゆく。出元は――今日ばかりは詮索せずともいいだろう。
 そうこうしているとチョコが飛び、希の指へと付着した。
 すかさず、誰かが咥えつく。
「待って!? 私の指は食べ物じゃな──」

●美人局
 多くの破壊痕の残る街中も、今やすっかり静かになっていた。
 空には冬の澄んだ星々が輝いて、灰色の王冠の夜を静かに照らし出している。
 そんな星降る街角に、一組の男女が姿を表した。どこか緊張した様子のふたりは、きっとこれから、一世一代の告白劇でも繰り広げるつもりなのだろう。

「……おっと」
 その様子を少し離れて眺めていた極楽院 ことほぎが、わざとらしく煙管を地面に落とした。彼女はそれを拾うため、胸元を強調する前屈みの姿勢を作る。
 音に気付いて振り向いた男に、ことほぎは顔を上げて微笑みかけた。妖艶に。そして誘惑するように。

「酷い……私がどういうつもりで呼んだのか解ってるでしょ!?」
「違う! 俺はあんな男を取っ替え引っ替えしてる間に年食ったような女……」
「……ああ? 今オレに喧嘩売ったのか!?」

 後にはボロ布になった男と、泣きながら駆け去る女の姿が残された。
 女が落としたチョコのお味は……畜生、肥溜めにでも捨てちまえッ!!

成否

成功

MVP

なし

状態異常

極楽院 ことほぎ(p3p002087)[重傷]
悪しき魔女
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)[重傷]
アネモネの花束

あとがき

 かくして彼らの苦しみは世に知らしめられた……。

 ……一部にさらなる哀しみを残し。

PAGETOPPAGEBOTTOM