シナリオ詳細
<Rw Nw Prt M Hrw>屍人と、あの絶望の風の中
オープニング
●屍男はただ笑う
「ヒヒッ、畜生、畜生畜生、まんまとあいつら殺されちまったし頼みの鼠もスカったかァ、いよいよ俺もヤベぇなあ……!」
薄暗い部屋でろうそくがひとつ、静かに揺らめく。それを前にして大鴉盗賊団の1人、反転した男――ヴィヒトは引き笑い気味に笑いながら顔を覆った。
今しがた、さきのファルベライズにおける戦闘の一翼を担った男……ダーエルを『還して』やったところだ。主人と運命を共にしたオウムともども、今回は使う予定がない。そも、あんな弱気で使い物にならない男は、どう料理しても美味くはならぬ。
それにしても、とヴィヒトは思う。
必勝とは言うまい、必殺とも言うまい。強い言葉というのは往々にして『弱い』。それなりに被害を与え、あわよくば奥に踏み込もうとしたはずなのだが、中々どうしてイレギュラーズというやつはバケモノだった。
奴等は屍を全て潰したばかりか、内側から現れた魔物すらも倒してのけたのだ。
「……いやァ、笑っちまう。ああいう奴等がいるならもう少し早く知りたかったぜ。それじゃあ、行くか『お前等』。俺もそろそろ待ちきれねえんだ」
ヴィヒトは大儀そうに立ち上がると、背後に居並ぶ屍達に声を掛けた。まだだ。まだ戦える。まだ生きられる。まだ、まだ、まだ……屍達からは口惜しそうな声が響く。やりたかったこと、できなかったこと、今からでもできること。未練と執着の塊というのは、実に耳障りがいいものだ。
ああ、……まるで、あの夕暮れを思い出す。
●その夜から逃げて
遺跡群「ファルベライズ」、その中核を担うクリスタル遺跡――その更に最奥にほど近い一室に足を踏み入れいた一同は、流れ来る乾いた風と遠く地平線へ身を隠そうとする太陽とを見た。
「砂漠の昼は身を灼く炎、その夜は心締め上げる酷寒の世界……その2つが入れ替わろうって時間だぜ。良く出来てるもんだと思わねえか?」
そして、その空間で出迎えたのは、どこか諦めの色の濃い男の声。そして彼の周りを徘徊する屍達と、今まさに姿を変え続ける『ホルスの子供達』だった。それらは狂気の色が濃いのか、発現するなり屍達に向かっていく。だが、屍達は動じた様子もなくそれらから距離をとると、ヴィヒトと対峙するイレギュラーズを見た。
ホルスの子供達も、新たな侵入者にむしろ興味が強くなりつつある。生きている人間のほうが殺し甲斐がある、とか。そんなところだろうか?
「ああ、名乗ってなかったなイレギュラーズ。俺はヴィヒト。『傲慢』の魔種だ、って言やぁ分かるか? こいつらはお前達に殺された連中……が起き上がって殺した家族だよ。そこの泥人形はそんな哀れな家族が呼び起こした、死んでいったクソ共さ」
そこまで聞いて、地底湖に現れた屍兵と戦った、或いは見聞きした者達は眉根を寄せる。傲慢の魔種。
屍を起こして自分たちにぶつけた裏で、そんなことをしていたとは。
「……で、だ。この『砂漠』はもうすぐ日が落ちる。そしたら来るのは残酷なほどに寒い夜だ。お前らが長く生きてられる環境じゃねえ。そしてこの夕暮れは俺のものだ」
つまり、この環境を作り出したのはヴィヒトの心象風景……ということだろうか? 彼を殺せば、この状況は終わると。
「俺の死のイメージの中でお前等が死ぬんだ。最高だよ、俺は」
彼の偏執的な会話を背景に、沈みかけの太陽がじわりと傾いた。
- <Rw Nw Prt M Hrw>屍人と、あの絶望の風の中Lv:25以上完了
- GM名ふみの
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年02月23日 22時11分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●それは狂人の目をした
「死者の眠りを妨げるとは……中々趣味が悪いようですね」
「屍を弄ぶか……天義の戦いを思い出すな」
『月下美人』雪村 沙月(p3p007273)と『神威の星』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)は、ともに天義で起きた『月光人形事件』を思い返す。『ホルスの子供達』と似て非なる魔種の行い。眼前でヴィヒトが生み出した者達は、それらよりも踏み込んで醜悪……ネクロマンシーと呼ぶのも烏滸がましい、雑な死者操術なのだから。
「だがそれ以上に、夜が死を加速させる、としても。星は夜を照らし、希望を示すものだ」
「幸せな生き方をしてきたお坊ちゃんには分からねえ世界だろうな。分かってもらう必要はねえぜ」
星を、夜を弄ぶヴィヒトをこそ許せない。ウィリアムの言葉は、しかし魔種の琴線を震わせることはなかった。
「傲慢ねえ。確かに独り善がりって感じするよね。現実見えてないんだろう、可哀想に」
『澱の森の仔』錫蘭 ルフナ(p3p004350)は膨大な魔力を用いて戦闘態勢に入りつつ、ヴィヒトのスタンスを鼻で笑う。死者を操り、物量で攻め入って、イレギュラーズを翻弄した。そんな彼の脳内のストーリーはしかし、思っている以上に、ルフナにとってチープな筋書きであったらしい。
「これはどうも、自己紹介ありがとうございます。ヴィヒト様、でしたか。
昼は灼熱、夜は凍えるほどの――ですか。生憎ですが暑さよりも寒さのほうが動けるのが鉄帝の人間でして」
「ハ、北で年がら年中ドンパチやってる連中の言いそうなことだぜ。だが『俺の』イメージの中で同じ事が言えるか?」
「夜の中で凍えていくことが貴方の死のイメージであるのであればボクはその暗闇を照らしましょう。
冷たい夜に爛々と輝く神の加護を。愛を。貴方の死を受け止めてなお光を失わぬ黄金でありましょう」
『黒鉄の愛』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)は鉄帝に生きた者として、ヴィヒトの想う『死』とは相容れることはなかった。仮にそれが正しい死のイメージであったとて、ヴィクトールは屈すまい。光を失わす生を諦めない、その意志は闇にてなお強く輝く。
「要するに……死者は死者らしく墓地で眠ってればいいのよ! 過去の連中が、今を生きる人達を妨げる事は許されないわ!」
『狐です』長月・イナリ(p3p008096)は『御柱ブレード』を構え、じわりと動き出した屍の群れに敵意を顕にする。「傲慢」とはよく言ったものだ。死者が聖者の時間を差配するなど許されてたまるものか。
「ボク、事前の情報を集めてきたんです。手加減なんてしませんよ――貴方はここで、砂海に溺れて死ぬんです」
「このチャンスを逃すワケにはいかねえ。ここで倒す!」
『護るための刃』アイラ・ディアグレイス(p3p006523)と『日向の狩人』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)とは互いに視線を交わし、それからヴィヒトに啖呵を切った。じわじわと陣容を固める相手方の屍に合わせ、仲間とともに距離を取る。肌感覚で分かる。未だ『カウントダウン』は始まっていない……果たしてこれは彼の奢りか?
「この夕暮れも、この砂の地平も俺の死だ。お前達に好きに歩かせやしねえ」
「なら、この夕暮れは君の死をもって終わらせよう」
『萌芽の心』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は処刑剣を振るってヴィヒトへと刃を向けた。乾いた風が吹き抜けるなか、その目は屍と、不幸な『ホルスの子供達』、そして魔種との死だけを見ている。
「処刑人の名にかけて。傲慢な君に死をあげるよ、ヴィヒト」
「やってみなイレギュラーズ。夜に圧し潰されて死ね」
●3分20秒の死闘(1)
ヴィヒトの放った術式は、最前線にあった沙月を中心に球形に広がり、土塊人形ごと複数のイレギュラーズを呑み込んでいく。深手を負ったかと思われた沙月はしかし、ヴィクトールが即座にかばえる位置に陣取っていたために事なきを得る。
「……殺せるようなら、まずは私を殺してみろ」
「君なんて死体に囲まれててもひとりぼっちで、世界の誰からも生を望まれない可哀想な存在で、無力に僕達にやられる中ボス以下なんだよ。分かったら殊勝にしてれば苦しまずに終われるかもしれないよ、なんてね?」
「口の減らねえガキ共だ」
「君よりは生きてるつもりだけどね」
ヴィクトールの挑発に合わせるように、ルフナも首を振りながら鼻で笑う。彼もまたヴィヒトの術式に巻き込まれた1人。だが、それに籠められた悪意は些かも彼の動きを鈍らせることはなかった。あるとすれば、多少体が痛むくらい。
「ふたりとも大丈夫……みたいだな。本当、味方でよかったよ」
ウィリアムはルフナとヴィクトールの2人を見て、ほっとしたように胸を撫で下ろす。治癒は後回しだ。今は目の前の厄介事が先――放たれた砂嵐は、ヴィヒトとその側の屍を巻き込もうと襲いかかる。だが、受けたのは屍兵のみ。自分を庇わせたか。
「ヴィクトールさんがいるからこそ、私も存分に……舞えるというものです」
沙月は軽やかな身のこなしから舞を舞い、近場にいた土塊と屍に自らの存在を刻みつける。生者を己の領域へ引き込もうとするそれらは、彼女へと殺到する。が、それらすべての攻撃はヴィクトールが受け持ち、爪のひとかけらすらも彼女に通さない。
「死んだのに、死にきれない。死んだのに、模倣される。本当に不幸しか呼ばないね、ヴィヒト」
「死んでも俺(だれか)の糧になれんだ。本望だろうよ」
シキは沙月に群がる者達目掛け処刑剣を振るっていく。当たるを幸いに振り回される猛攻は、しかし屍兵の一部をすり抜け、或いは硬い手応えを返してくる。数打ちの雑魚が得ていい強度ではない。
「ミヅハさん!」
「分かってるよ、アイラ!」
アイラとミヅハは、タイミングをあわせ狙いを重ね、雷撃を放つ。かたや宝石剣を振るった純然たる魔力の雷。かたや、鏃を起点として着弾点から吐き出される雷撃……こちらは、僅かながら連射が利くらしく、二の矢が素早く紡がれた。
「砂の下で眠りなさい、もう2度と目覚める必要なんてないわ」
イナリは自らに迫る個体目掛け、身にまとった炎を叩きつける。砂地に脚を着ける刹那にドライブユニットを駆使し地上から逃れるが、自らに向かってくる銃弾を――『ホルスの子供達』が為したソレを避けるには隙が大きかった。
「長丁場なんだから、張り切りすぎたって疲れるだけだよ? ……まあ速攻で片付けたいけどさ、僕は」
「大丈夫、わかってるわ……ありがとう」
堪り兼ねたように聞こえたのは、癒やしの波長と合わせて流れ込んだルフナの声。周囲に鎮守の森を顕現させ、その地の加護と能動的治療とを組み合わせることで不調から復帰したイナリは、その驚異を改めて理解した。今の攻撃は、単発。だが、彼等が学習すればその限りではない。
前に出る分、危険度は増す。恐らく盗賊型の土塊共は、今の攻防で彼女をこそ狙い易い的と判断しただろう。厄介この上ない。
「そっちの死に損ない共に遊ばれて大変だなあイレギュラーズ?」
「五月蝿いわよ、この程度で勝ったつもり!?」
そこに挟まれたヴィヒトの挑発に、イナリは思わず言葉を荒げる。そして、彼女は……ヴィヒトの目の奥に儚(くら)い炎を見た。ヴィクトールにとりついた、怒りに身をやつした屍。イナリの直ぐ側で彼に取り付いた屍のなかに、同じ色の炎を知覚した。
自らの『性質(ソフトウェア)』のひとつと酷似したその悪意は、明らかに……屍を使って相手を殺す道理の発現。EX(とどめ)ではなく、隠し手。
「イナリッ!」
ミヅハがその時、太陽弓を鋭く引けたのは直感あってのことである。多分、読んでいなければ多分、対処はできなかった。放たれた切札(ミストルテイン)は屍の胴の向こうにヴィヒトを臨む。
ヴィクトールもまた、手を広げイナリと屍の間に体を割り込ませた。死なせぬために、己を削る。己すらも死なぬため、全霊を賭けて……二重に巡らせた魔力の鎧は、その爆発を受け止めた。
●3分20秒の死闘(2)
屍兵の自爆。ヴィヒトの持つ能力、その奥の手の1つとして隠し持たれたそれは、範囲術式『変転する屍と肉』よりもずっと限定的なものだ。魔力消費もバカスカ撃っていい量ではない。その分、局所火力を強化したことで確実に1人、ないし2人は動きを止めるつもりでいた。
……だというのに、ヴィクトールはそれに耐えた。
狙い通り吹き飛ばそうとしたのに、ミヅハの手によって威力を減衰させられた。それどころか、彼の一射は小賢しいことに己の腕の肉をいくらか千切り取って行った。
「驚いているのか? 俺達の仲間はこんなもんじゃないんだよ」
「貴方のやったことは知っています。こうして屍を沢山使って、沢山殺そうとしたんですよね」
ウィリアムはルフナと連携して相互に魔力を循環させつつ、周極星の加護を以てヴィクトール達の治療に回る。小爆発で空いた空間を埋めるように突っ込んできた屍は、アイラの放った雪銀の剣によって傷口に瑞花を芽吹かせてふらりと蹌踉めく。
「1体でも屍がいればいい、っていうのかい? 本当に趣味が悪い」
「足元は悪いし、砂は吹き付けてくるし、このまま陰気な夜になるなんて面倒だから、みんな早く終わらせてよね……もう1分くらい経つんじゃない?」
爆発と呪いと敵意、土塊の放つ銃弾と刃と屍の狂気。ルフナは手を変え品を変え襲いかかるヴィヒトの手練手管にうんざりしつつ魔力を練り上げる。もうずっと、治療に魔力を費やしている。どんどんと傾く太陽は、生者の時間の砂時計の如く。……本当に気に食わない。
(仕留め損ねたらそこでやられる……もっと高い精度で、もっと、全力で……行けるわよ、それくらい……!)
イナリは身に纏った炎を引っ込め、その全てを身体強化に費やした。先程の爆発に感じた死の触覚を、自らの意識に。御柱ブレードを振り上げた手は、都合3度翻り屍へと叩き込まれた。最後の一撃に合わせるかのように頭頂部に突き刺さったミヅハの矢は、屍を砂の奥へと追いやった。
「あと一歩――必ず、倒す……!」
屍、そして土塊の残数はおおよそ想定していた数の倍近く。このまま徒に時間を浪費すれば、ヴィヒトは積極的に前に出てくるだろう。アイラはこここそが分水嶺と見た。日没まで残り2分を切ったこの状況こそが、もう一歩踏み込むべき一線だと悟った。突き出した宝石剣と魂と、それらに響く大号令。それが彼女の放つ雷の威力を大きく引き上げ、薙ぎ払う。
「チッ……」
爆音と共にオゾンの匂いが砂漠を満たし、ヴィヒトとイレギュラーズの間に大きな間隙を生む。屍達はアイラの雷で大きく数を減らし、ヴィヒトが呼び戻すには距離がある。駆けてくるシキ目掛け、彼は狂気の波濤を放つ。が、彼女はその手前で足を止めた。……空振りを生んだのは、ただ彼女の戦意がゆえに。
「関係ないねぇ。すべて斬り伏せていくだけさ!」
振るわれたシキの処刑剣が黒き大顎を生み出しヴィヒトに食らいつく。首筋を捻って躱したヴィヒトは、殺意露わに身構えた。
シキの背後から迫るのは、ヴィクトールを伴った沙月だ。今まさにヴィヒトへと向かおうとした屍へ肉薄した彼女は、一瞬だけ歩を止める。
「合わせて下さい」
「勿論ですよ、おまかせを」
簡潔なやり取りのあと、弛緩から緊張へ切り替えられた動きを以て突き出された沙月の手刀が、屍の首筋に触れ、一息で両断する。彼女を狙った銃弾は、ヴィクトールの防御術式が叩き落とす。
「傲慢、傲慢、素敵な傲慢ね! どこまでその傲慢が続くか、楽しみだわぁぁぁ!」
「……なんていうか。本当、度し難いことをするよね」
イナリは砂に両腕を、否、『前足』をつけ、四足歩行の態勢を取る。『傲慢』に『憤怒』する。
魔力を絞り出し、数十秒前に味わった死の感触を擬似的な悪意へと変換。爆発的な敵意で以てヴィヒトに襲いかかった。その有様は、ヴィヒトの方が人間らしいと思えるくらい。暴力的停滞(るふな)には永遠に相容れない性質である。
(皆がヴィヒトに集中できなければ負ける……ここは)
「俺達が最後の1人まで潰す。そうだろ、アイラ?」
「……そうですね。手伝ってもらえますか?」
アイラは宝石剣を手に、仲間達の勇姿、その背中を見ながら息を吐く。英雄になる必要はない。今は、まだ。そして、その意志はミヅハも同じこと。先程の小爆発をまた使われれば……多分、勝ちの目は限りなく薄くなる。
倒して倒して、また倒す。
最後の1体が潰えるか、自分達の魔力が尽きるか、もしくは夜のなかで全員倒れるか。
そんなの、選択肢は1つしか無いに決まっていた。
「星の魔術師として、奴(おまえ)には負けられない」
「夜を希望なんてホザく魔術師風情が、俺達が味わってきた砂漠の夜を語るなよ」
ウィリアムにとって――否、少なからずローレットで神秘を嗜む者達にとって、夜と星とは特別な象徴である。
それへの冒涜は許せない。それを死の象徴としかみられないのは許せない。
だから絶対負けられない。ウィリアムの視線(てきい)は、ただヴィヒトへ放つ不可視の刃に乗せて。
ヴィヒトもまた、彼のような……夜の恐怖を、悪意を、絶望を知らない(とヴィヒトが認識した)相手が許せない。
だが、ああ、なんということか。
いま魔種の男は、もっとも許せぬ魔術師などではなく、目の前で処刑剣を振るう小娘と、徒手空拳にて舞い踊る女とに翻弄されている。
「ああ、気に入らない。本当に気に入らないね。死人の体を……魂を。なんだと思っているわけ?」
シキが問う。底冷えのする声で、処刑剣を握った手が白くなるほどに力を込めて。
「体は通貨、魂は器だよクソガキ。どいつもこいつも逆だと思ってやがる。一遍死んで考えが変わった。体を後生大事に扱うのは馬鹿のやることだ。体(うつわ)が割れれば魂(なかみ)が溢れる? 何も分かっちゃいねえ。小銭のように雑に体を使ってやればいい。器(さいふ)がなくても金は回る。違うか?」
「じゃあ、死は? ……死者に祈りのひとつも捧げられないような奴が『死』を語るなんて、百年早いってものさ!」
魂に号令を。
黒き顎は再び処刑の一振りとともに閉じられる。
失敗も後悔も敗北も、すべての可能性を振り切って、振り下ろされた刃がヴィヒトに噛み付く。
……暗くなり始めた空の下、ヴィヒトは「ここぞ」という顔で笑みをうかべ、フィンガースナップを放つ。
閃光、爆発。
ヴィクトールが伸ばした手がもう少し遅ければ、死に際の夜と閃光とは、魔種の近くに居た者全てを呑み込んだことだろう。
「……現実に耐えきれなくなって自爆なんて、本当に何も見えてなかったのかな」
砂漠がただの迷宮へと変わるのを見たルフナが、魔種の残骸を踏み越えながら肩を竦めた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
魔種の持つ「死のイメージ」にイレギュラーズの「生への執念」が上回ったゆえの勝利です。お疲れ様でした。
GMコメント
参照(しなくてもいい)シナリオ:『<アアルの野>進軍を鎮魂に変えて(OP、2章1節)』
●達成条件
敵性存在すべての沈黙(ヴィヒトは確実に殺す必要あり。最悪ホルスの子供達は残しても突破可能)
●敗北条件
ヴィヒト生存のまま20ターン経過後、重傷者+パンドラ消費後HP2割を割り込んだメンバーが計6名以上発生する
●ヴィヒト
傲慢の魔種。
死者を操るすべを持ち、地底湖に屍を送り込んだ張本人。なお、口ぶりからして前回手駒にしたオウム使いの男は屍を量産するベースにした可能性が高く、生存は絶望的です。
大量の屍を引き連れてウッキウキです。
・ステータスはHARD相応に高いですが、特に神攻と抵抗が極めて高いです。
・すべての攻撃に「災厄」が乗ります。
・狂気の呼び声(特レ・自身より1レンジ全周:狂気、Mアタック微弱。準種の場合低確率で呼び声判定)
・腐食血解(神遠範:万能、猛毒、流血、呪い)
・死の掌握(神近単:多重影(中)、呪殺、必殺、HP吸収(大))
・EX 変転する屍と肉(屍兵消費(大)、物中域:詳細不明。BS複数+呪殺?)
●屍兵×20
反応と回避がそれなりにあり、武器は様々。基本的に接近しての肉弾戦のみです。
主に通常攻撃で「出血」を付与してきます。
彼らがヴィヒトとの間にいるので、接近には工夫が必要です。また、かばってくる場合もあることを留意ください。
ヴィヒト死亡後2ターンで全滅します。
●ホルスの子供達(狂気)×10
手当たりしだいに攻撃してきます。が、生存者優先なのでどちらかというと皆さんメインで襲ってきます。
通常攻撃しかありませんが遠近自在に使いますし、ホルスの子供達の間で思考して連携(集中攻撃など)も考えられます。
屍兵よりは強度は一段落ちます。
●戦場:夕暮れの砂漠(初期)・夜の砂漠(20T経過後)
昼から夜に代わりつつある砂漠です。
夕暮時は足元の不安定さと吹き付ける砂嵐に注意して下さい。これは敵味方双方に影響します。
夜に切り替わってからは、ヴィヒトの死へのイメージが加速し、多大な重圧のもと戦うことになります。この際、ヴィヒトの残HPの有無により危険度が大きく変化します。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
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