PandoraPartyProject

シナリオ詳細

エディ・ワイルダーは愛のキューピッドとなるか?

完了

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オープニング

●お見合い早々即失恋
「エディ様。どうかこの話をご破算にしていただきたいのです」
 エディ・ワイルダー(p3n000008)がお見合いの席につくなり、対面の人間種(カオスシード)の女性からこう切り出された。
 身分の高い相手とのお見合いだから、身なりを凜々しく整えてきたエディはこの言葉を聞いて、生真面目に保っていたその表情と共にそれが崩れた。
「あー……犬はお嫌いですか?」
「違います」
「では俺が何か粗相を」
「違います」
 とりあえず、エディはそれ以上何も言わずに相手の言い分を聞いてみた。
「……わたくしには、お慕いしている殿方がいるのです」
 
 エディがお見合いをするハメになった経緯について、話は少し遡る。
「いやはや狗刃の傭兵、エディ・ワイルダーさん。わざわざ我が宅までご足労ありがとうございます」
「……あぁ」
 エディ・ワイルダーはイレギュラーズの支援以外にも、ギルドの傭兵として個人的に仕事を請け負う事はしばしばある。今回はこの老齢の豪商の護衛を請け負い、彼の身柄を奪おうとする盗賊団を見事撃退してみせたわけだ。
 それで、まぁ、エディはその商人からいたく気に入られた。やたらデカい屋敷に招かれて、ご馳走を用意されたりした。
 特定の傭兵に目をかけてておくというのは、この業界では別に珍しい話ではない。護衛させる傭兵と信頼出来る関係を築いておけば、それだけ商人は多くの金を抱える時に後ろを任せられるのだ。
 この件で特筆すべきは、商人の側が信頼以上の『一蓮托生』を望んだ事であろうか。
「俺と、貴方の娘を?」
「えぇ、ぜひとも婚姻を結んでいただきたく」
 そう言われて、エディは慌てたように傍らの席にいる商人の娘を見た。
 種族は人間種、年頃は十五かそこいらの、まだ大人にはなりきっていない少女といったところだろうか。
 物憂げなその表情に金糸のような細い髪、まるで出来の良いビスク・ドールのようである。いくら種族が違うといえど、エディ・ワイルダーは一人の男として若干惹かれる部分があった。
「…………」
 とはいえ、下手すれば親子ほどの年の差がある少女と婚姻を結ぶというのは――こう、なんか、エディ・ワイルダー個人の倫理観として色々とまずい。
 どうにかその場で断ろうと考えたが、貴族や豪商の機嫌を損ねた傭兵達の末路をエディは多く知っていた。狗刃の傭兵は、傭兵や隠密としての実力は確かだが口が上手い方ではない。
「あぁ、いえ、分かっております。お互いの事をまずは知らねば! 百戦危うからず、でしたかな? 後日、改めてお見合いと致しましょう。なに、その席もこちらで用意致しますゆえ……」
 対して、豪商はその口先で生きているような人間である。それで身を立てたのだから立派な事だが、エディはそのよく回る舌に捲し立てられて「あぁ、うん」とか「そうだな、そうしよう」とか適当な返事しか出来なかった。

 そういうわけで、とんとん拍子で進んだお見合い当日となったわけだが。
「開口一番フラれるとは思わなかったな。どうして親にそう言わないんだ」
 その少女へ、「むしろ助かった」とぎこちない苦笑を向けながら聞き出そうとするエディ。
「その殿方は、父からいわせれば『一銭の価値にも値しない人間』なのです……」
 少女――リンはその男性について語り始めた。

 父の抱える小作農の一人に、ランカという少年がいた。
 齢はつい先日十六になったばかり。これから若い農民として周囲の信頼を築いていく年齢ではあるが――リンが父親が所有する畑の視察に付き合っている時に、お互いに一目惚れをした。
 それから、リンは畑の視察に付き合ってる体で、ひそかにランカは二人きりの逢瀬を楽しんだ。
 少年少女らしく森の野山を駆け走ったり、お嬢様の身分ではやれなかった川釣りや木苺狩りなどのアウトドアを楽しんだり――そして、人に言えない事も色々やった。

 それがつい先日、父親にバレた。

 当然、父親は激怒した。娘を自分の屋敷に閉じ込め、父親は自分の所有している畑からその少年を放り出して、彼の行方は知れない。
「まぁ、父親の気持ちはわからんでもない」
 父親の視点からすれば、まだ成人もしていない愛娘を自分の知らないところで拐かしていた男がいたのだ。そこに真実の愛があったのであれ、なかったのであれ。父親の感情は理解出来る。
 それならまだ信用のおけるエディと早々婚姻と結ばせようとしたのも、納得がいく。
「それでも、私の事を家柄抜きに女性として愛してくださったのは彼だけでした!」
 それを言われると、エディは言い返せないところがある。自分も彼女の事を『女性』として愛せるかどうかというと、無理かもしれない。種族が違う。年齢も離れている。
 だが、それを知っていたとしても果たして穏便にこの婚姻を断れるか? 相手の方にもやむにやまれぬ事情とやらがあるのだ。エディ個人がどうこう言えば余計にこじれる可能性もある。
 ――彼らならどうするだろうか。
 エディの頭の中に、一つ考えが思い浮かんだ。
「……もしかしたら、もっと良い形でキミの願いを叶えてやれるかもしれん」
 リンは目に涙を浮かべた顔を、バッとあげてエディの顔を見つめた。エディは彼女を安心させるように笑みを浮かべる。
「その為には、少しの間……時間をくれ。数日間。あくまで、俺達が上手くいってる素振りで時間を稼ぐんだ」
 エディは、そのリンという少女に自分の考えた計画を話した。

●犬も食わぬ
「……まぁ、結局は君達を頼るわけなんだが」
 ギルドに戻って来たエディは、事のあらましをイレギュラーズに打ち明けた。
 エディの考えた計画としてはこうだ。時間を稼いでる合間、どうにか婚姻を破談させる方法を見つけ出して欲しいというのだ。
 解決方法については色々考えられる。まず真っ先に思いつくのがランカという少年を見つけ出して、その男と添い遂げられる道筋を作るだとか。あるいは、豪商を誰かが説得するだとか……。
 とにかく、婚姻が破談に至ればなんでもいい。方法はイレギュラーズに任せられる。
「得意分野によっては、色々出来る事はあると思う。最終的な解決方法は委任する。俺はどうなっても構わん。だが出来る事なら、リンという少女が一番幸せになる方法を考え出して欲しい。それが依頼人である俺の望みだ」
 そういってエディ・ワイルダーは少女の事を想い、自分の婚姻を破談させる為に詳しい情報をイレギュラーズに説明し始めた……。

GMコメント

 稗田ケロ子です。今回はラリーシナリオです。
 シリアス? ギャグ調? どっちに転ぶかはイレギュラーズさん達次第。

 総章数は2章予定。
 採用人数は章毎に10~20人程度を予定しています。

●依頼内容
・エディ・ワイルダーとリンの婚姻を破談させる事

●章説明
1章
 エディが時間を稼いでいる間に、婚姻を破談させる準備や活動をします。
 手段は必要以上に一般人を害する方法でなければ、なんでも構いません。
 作戦によって必要なスキルやステータスが変わるでしょう。また、取った行動にとって後々の作戦にも影響を及ぼす可能性があります。

2章
 ――時間を稼いでイレギュラーズさんが行動を起こした後の話。1章の流れから状況は変わります。

●NPC紹介
『狗刃』エディ・ワイルダー:
 いつものブルーブラッド。三十一歳独身。
 恋愛観についてはカタブツ寄りの価値観をしているが、他人の恋愛事は大体「幸せになって欲しい」と考えている。
 護衛の仕事で活躍して豪商に気に入られたが、そのせいで婚姻を強引に進められつつある。
 期間中は頻繁にリンの元に会いに行って、良好な関係を装って時間を稼いでいる。彼の付き添いでリンや豪商の元へ会いに行きやすいかもしれない。
 何事も、作戦の為とあらばイレギュラーズの要求に応じるだろう。

『豪商』グンラット:
 何代にもわたって幻想国家の経済に貢献してきた商人。商人ながら貴族に近い権限を持っている事から、彼に真っ向から逆らえる人間はそう多くない。
 立場に相応しい豪邸をかまえ、そこで一人娘のリンと暮らしている。妻は既に他界。
 その人柄については判然としない部分もある。実際に会いに行けば分かる事もあるかもしれない。

リン:
 豪商ランラットの一人娘。人間種の十五歳。
 ランラットの寵愛を受けてすくすくと育った才女。農民のランカへ一目惚れし、それに激怒した父親は半ば彼女を軟禁状態にしている。
 本心からランカの事を愛している様子だが、それと同時に世間知らずでもある。
 彼女から何か行動して欲しい場合は、イレギュラーズの方から働きかける必要があるだろう。

ランカ:
 人間種の若い少年。十六歳。雇用主の娘であるリンへ一目惚れし、その末に農地から追放された。現在現在行方知れず。
 追放されて日が浅い事からそう遠くには行ってないとは思われるが……。

  • エディ・ワイルダーは愛のキューピッドとなるか?完了
  • GM名稗田 ケロ子
  • 種別ラリー
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年02月10日 21時40分
  • 章数2章
  • 総採用数22人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

グレイル・テンペスタ(p3p001964)
青混じる氷狼
灰羽 裕里(p3p009520)
期怠の新人

「……はあ……なんでいつもエディさんは……こういうのに巻き込まれるかな……」
「すまない……」
 屋敷にやってきた二人のブルーブラッド、エディとグレイル。傭兵仲間を紹介するという体で一緒にきたが、それを聞いた豪商はイレギュラーズ達にまで恩義を売っておこうと飲めや歌えの宴会を開こうとした。
 慌てた二人はその場しのぎの嘘を使って宴会をご遠慮し、とりあえずリンとだけ話を交わす。
「まぁ、エディ様。その方は、お仲間の傭兵さんですか?」
「……リンさん、ちょっと聞きたい事があって……」

 リンから聞き出した情報を手に、そのまま農地へとやってきた。農地を囲むように家々が建っており、そこに小作農達が住んでいる。
「取り敢え、ず、ランカさん、に、ついて、調べよう、か」
 三人はランカの足取りを調べるべく家に踏み入ろうとした。
「誰だいアンタら」
 イレギュラーズを呼び止めたのは三十歳後半くらいの妙齢の女性。見かけない人間が家に勝手に立ち入ろうとして、怪しまれたのだろう。エディは事情を話そうとした。
「俺達は――」
「ランカさん、行方不明、なったと、聞いて、心配なって尋ねにきた」
 エディの代わりに一歩前に歩み出る裕里。「なんだなんだ」と集まってくる農民達。裕里は酒瓶を取り出して、それを彼らに振る舞う事にした。

「……じゃあ、ランカさんは……資産目当てで言い寄るような人じゃない……って事……?」
「あぁ、そうとも。なよっとしてて冴えねぇ野郎だが、ランカはそんな事企てるほど野心家じゃねぇ」
「そんな事企むほど見た目良いってわけでもねぇのによう。お嬢様もなんでアイツに……」
 裕里の持って来た酒で口が回るようになった農民は、ランカの人柄について色々話してくれた。なんか悪口じみた事をたくさん言われてたが――その〆に必ず“そういう事を企む人間ではない”と言い切られていた。
「ランカさんの、足取り、分かる?」
「いや」
 農民達全員が首を横に振った。“密会の事がバレたその日、皆が寝てる間に急に居なくなった”らしい。
「……うーん……じゃあ、持ち物を調べたいから……家に入って構わないかな……?」
「あぁ、鍵なら今はウチが持ってるよ」
 怪しまれてはいないのか。纏め役の村人から鍵を受け取れた。
 そのまま家の中に入る。家財道具が特に持ち出されている様子はない。グレイルはタンスから衣服を取り出す。その匂いを嗅いで、ランカの移動経路を辿る事にした。
「ブルーブラッドの嗅覚、鋭いから、すぐ見つけられる?」
「…………」
 裕里の期待を背に、グレイルは少し顔を顰めていた。
 ……“衣服から真新しい血の匂い”?
 獣を狩る猟師とかなら分かるが、畑相手の農民はそうそうこういう匂いがつくものであろうか。
 グレイルは農地の近隣に広がる“森林地帯へランカが向かっていった”であろう事を仲間に打ち明け、これかららどうするか再び考えた。

成否

成功


第1章 第2節

ラクロス・サン・アントワーヌ(p3p009067)
ワルツと共に
郷田 京(p3p009529)
ハイテンションガール

「ふーん、なんか面倒くさいなー、そのグンラットとかいう親父。エディさんぶっ飛ばしちゃだめなの?」
「おまっ」
 改めて農地で聞き込みを始めている最中、京はエディにそんな事を提案した。
 エディは農民達に聞かれてないか大慌てをする。
「可愛い顔してお堅いなー、エディさん」
「じょ、冗談じゃない。ローレットの庇護下にある俺達はまだしも、そんな後ろ盾がない傭兵なんかは機嫌損ねただけで殺される事さえあるんだぞ……」
「え、やったらお仕事干されるどころか殺される事さえあんの? まじか……」
 実際、フリーランスの傭兵が悪人の貴族に逆らったりしたとしたら嫌な末路しか想像出来ない。
「ところで、アントワーヌは何故そのように俺に引っ付いて……」
「いーや? 怯えていたようだから慰めてやろうとな」
 髪は降ろして仕草も妖艶な女性を演じるアントワーヌ。農民が仕事している目の前で、エディ相手に擦り寄っていた。
 回り回ってこの有り様がグンラットの方へ伝わり婚姻がご破算になる事を期待している。あとエディの態度や仕草が段々ロボットじみたものになってきているのは見ていて面白い。
「体裁を気にして結婚に乗り気じゃなくなるかもしれんからな」
「あはは、エディさんお堅いフリしてやっぱ可愛いー」
 農民の一人が咳払いして近づいてきた。
「おなごさ侍らせるなら帰ってくんろ」
「違っ」
 三人はとりあえず農民に対して再び事情を説明した。“真新しい血の匂いがついた服”の事だとか、“ランカが森林地帯に行った”だとか……。
「ねぇ、ランカ君が夜中に森林地帯へなんで抜け出したのか……誰か見ていないかな?」
「見つけたら説教よ。バレたら逃げ出すなんてあんたの気持ちはそんなものか! ってね」
「いんやぁ、オラ達は朝早ぇしねむりこけとったから……」
 そんな事を聞き回っている内に、一人の青年が気になる事を言った。
「ランカが何処行ったかわかんねぇが、ちょいと思い当たる事が」
「え、なになに?」
 曰く、その住民は夜中に厠へ行く途中に“ランカの家に何者かが尋ねていた”のを見かけたという。
「え、どんな人? まさか女? 浮気?」
「まさか姫君のリン君、なんて事はないよな……」
 顔を見合わせる京とアントワーヌ。
「いんや、どんな風体かは暗がりで詳しい事はわかんなかったけどよう……体格がやたら良かったから男だった、ってくらいは分かる。あと、一人だった」
 つまりは“ランカが失踪する直言、一人の男が夜中に彼の元を尋ねていた”。
「……お前、それなんで先に言わんかった」
「いやぁ、ランカは見てないのはほんとやけ。それにべっぴんさんに恩売っとこう思うて……」
 その青年は気恥ずかしそうにアントワーヌの方を見ていた。視線に気付いて、「あぁ、成る程」と納得する京とエディ。
 ともかくして、イレギュラーズは以前の情報と併せて不穏なものを感じた……。

成否

成功


第1章 第3節

グドルフ・ボイデル(p3p000694)
アト・サイン(p3p001394)
観光客
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣

 それから少し時間が経ち、先発組の話を聞いたイレギュラーズの何人かは行動を起こす。
「エディは何やってるんだ全く」
 アトはファルケの紹介状を片手に、愛無と共に屋敷へ赴く準備をしていた。
「実際問題、財産を奪うくらいの気概があった方が良い気もするがね。いかにも『若気の至り』だ」
「とはいえ権力者の娘を拐かした咎で殺されていても何らおかしくない……とにかくランカの身が危ういな」
 以前の手に入れた情報から、彼の身に何が起きたかはある程度の範囲に絞れる。二人はそれを確かめる為に、屋敷へ踏み込んだ。

「海洋の地方会社ポドールイ海上保険組合の保険外交員の者です~」
 アトと愛無の二人はアノニマスやインスタントキャリアやら、そんな技術を使ってひとまず架空の海洋の会社になりすました。
「あぁ、私はグンラット・ランラットである。……ポドールイ……? はて、そんな場所と結んだ覚えは、…………。まぁ良い、何の要件だ」
 相手側も商人としてはやり手の部類。一瞬疑われもしたが、紹介状を見た豪商は話を聞いてくれた。
 とりあえず保険外交員という体で、愛無は彼から話を聞き出す。
「グンラット殿、貴方に恨みを抱く方などに心当たりは?」
「ごまんとおるだろうな。戦争においては武器を多く仕入れたりもした。傭兵ビジネスにも一枚噛んだ事もあったか。それで失われた命の仇討ち、金目当て、狙われる理由はいくらでも思い当たる」
 この辺りは特に不審な点は無い。二人はそう納得し、次の質問に進んだ。
「貴方が抱えている農地の近隣にある……森林地帯。あそこには何が?」
「あぁ、盗賊の根城があったようですな。――つい先日まで」
「というと?」
 豪商曰く、自分の所有する農地に視察に行くというのは農作物を確認する大切な仕事でもあり、同時に金算用をする楽しみでもあった。
 しかし、“その帰りを狙う盗賊団が森林地帯を拠点にしていた”のだ。
 娘と一緒に視察から帰る際、ついに盗賊達に取り囲まれて多勢に無勢……あわやこれまで、というところで。
「貴様らには指一本触れさせん」
 その時に雇っていた『狗刃のエディ』が盗賊達をやっつけてくれた。

「あー、うん、エディらしいというかなんというか」
「それが厄介事に繋がってるのだから笑うに笑えんな」
 グンラットの話を余所に、アトと愛無はヒソヒソと話し合う。
 ここまで聞いたアトは勝負を仕掛ける事にした。
「――グンラットさんは何というヤクザ者を雇ってどう一人の農民を襲撃しました?」
 護衛達の顔が強張る。相手から抜刀されかねない雰囲気だった。
「うむ、そうしようとしていたが――」
 グンラットは素っ頓狂なほど真正直に“人を雇ってランカを殺すつもりだったが、その前に逃げられた”と答え、場が凍りついた。
「グンラット様!?」
 グンラットは護衛に大声をあげられてハッとし口を覆う。アトはニコリと笑った。催眠術の類でも使ったか。

 アトと愛無が追い払われるように退席させられた際、グドルフとエディは聞き耳を立てていた。
「オウ、ワン公。見合いしたオンナに開幕ソッコーフラれたんだって?」
「ふ、ふられたわけでは……」
「やあ、辛ェなあ、イッパイ引っ掛けに行くか? ゲハハハッ!」
「ぐぅ……」
 実際、エディはお見合いで開口一番に振られたのは辛かったが……さておき、先の事を受けて作戦を話し合った。

「ほう、これは美味い! グドルフ殿は、珍しい酒をお持ちですな!」
 それからグドルフはグンラットと対面し、その席で極楽印の祝酒を振る舞った。
 相手は大変機嫌を良くしている。これなら先の話を掘り返してもいけるはず。
 グドルフとエディはお互いに顔を見合わせ、頷いた。
「先の、人を殺すだとかいう話は……」
「む、聞かれておられましたか。お恥ずかしい」
 グンラットは父親の立場から、既知の事を語ってくれた。盗賊ギルドなりで暗殺者を雇うつもりだと、打ち明ける。
 ……このままだとランカが生きていたとしても、いずれ追っ手によって死ぬ。あるいは追っ手と交戦する必要が――
「オウ、それなら俺が請け負ってやるよぉッ!!」
 グドルフはドン、と胸を叩いた。
 『汚い仕事も真っ当する傭兵』と有名なグドルフだ。これにはグンラットも二つ返事で、彼にランカの襲撃を頼んだ。
 顔面蒼白で依頼締結をありがたがるエディ。とりあえず、“追っ手の心配は要らなくなった”という事に安堵した。

成否

成功


第1章 第4節

オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護
エドガー(p3p009383)
タリスの公子

 アトらが屋敷に踏み込んでいる同時期に、エドガーとオウェードは森林地帯でランカを捜索していた。
「……ふむ。何やらきな臭くなってきたようだな。追放するだけで済んでいればまだマシ、などといった事態になっていなければよいのだが」
「うむ、ランカ殿を探しに行こうかね? こういう時は、頼りになる技を知っておるんじゃ」
「ほう?」
 オウェードがいうには、一定範囲内で助けを呼ぶ者を察知出来る技を持ってるという。
 状況からして、その範囲に捉えればランカの元へ辿り着ける可能性は高いだろう。
 だがしかし、森林地帯は相応に広い。ある程度の目星を付けておくべきだとエドガーは考えた。
「手がかりもなく森へ向かったところで、だが……ランカが何か機転を効かせて目印などを残していてくれることを祈るか……?」
 二人は周囲を見回す。
「む……」
 エドガーは目印になるものを探していたが、地面に点々と血痕が残っている事に偶然気付いた。
 これは意図してランカが残した者かは分からぬ。しかし、グレイルが調べてくれた“衣服から真新しい血の匂い”という情報を思い返し、それの痕跡を辿る事にした。

「む、助けを呼ぶ声が聞こえる。こっちじゃ!」
 一定進むと、オウェードが声をあげた。どうやら『人助けセンサー』なる技の反応があったらしい。
 その元へ行ってみると、そこは自然的に出来たであろう洞穴があった。中に進んでみようとすると、何者かとぶつかってしまう。
「うぐぉ!?」
「あっ……!」
 オウェードとぶつかったのは、十六歳ほどの少年。リンや農民の話を思い返すに、容姿から彼がランカで間違いなかろう。
 エドガーは彼の様子を窺う。
「驚いた。キミが大怪我をしていると思ったが……」
 ランカという少年の体は、傷を負っている様子はない。
「ム……では誰が助けを?」
「え、えっと、家に、怪我をした友人がやってきて……」
「怪我をした友人?」
 洞穴の奥を見た。そこには“ランカと同年代くらいの少年がいた。彼は刃物傷だらけで瀕死の重体だ”。
「彼とは知り合いかね?」
「えぇ、農地に来る前の……同郷の親友で。ウチで血だらけの人なんて匿えないから、森の奥に運んで看病を……」
 なんとも歯切れの悪い言い方だったが、とりあえずエドガーは瀕死の少年を調べてみた。
 身なりは農民のランカよりも貧相で、少なくとも富裕層の人間でなかろう。
 この様態では“話を出来るようにするには何らかの形でちゃんと治療する必要がある”。
 あるいは、“何か考えがあればこのままにしておく”べきか……。
 エドガーとオウェードはお互い顔を見合わせたが、あいにく治癒術の類は持ってなかった。
「とりあえず、エディ達に報せよう。ランカはここで待っていてくれ」
「は、はい。お願いいます!」
 そのように言いつけて、エドガー達は仲間へ報告をしに行った……。

成否

成功


第1章 第5節

浅木 礼久(p3p002524)
海賊淑女に愛をこめて
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年

 怪我人がいると聞いた礼久は、すぐにその場所へ向かう事にした。
「街角で軽く聞いてはいたけど、例え話じゃなかったのか……しかし、そうか、こう言う事情なら現実的に考えて下賜は無理だな」
 とりあえず、他のイレギュラーズが暗殺者役を担っている事を思い返した。
 ライカが死んだという偽装を他者と協力して行うとして……相当の準備が必要だろう。
「何にしたって、怪我人を治すのが先か」

「あ、あぁ。ローレットの方ですか!?」
「……そうだけど」
 肯定するとすぐ洞穴の中に通されると、怪我人と対面させられた。
 聞いていた通り身なりは貧相、刃物傷による瀕死の状態――だが来る時間が早かったオカゲで治せないわけでもない。
「うん、治せる。安心して」
「よ、よかった……」
「キミは、こんな目に遭ってもなお本当に彼女が好き?」
 血まみれの人間を運ぶ事への指摘と併せ、商人が放った暗殺者から殺される予定だった事を打ち明ける。人前に出ない方がいいとも。
「自分自身の面倒を見るのと、他人の面倒を見るのは違う。ましてや育った環境と価値観が異なれば、そこに深い愛があっても、辛く険しいものだ」
「それでも、ボクはリンの事が好きです。険しい未来が待っていても、ボクが彼女を支えてみせます!」
 彼のまっすぐすぎる眼差しをみて、礼久は思わず苦笑した。

 ところ変わって、豪商の屋敷。今日もリンの元へ逢いに行っている体でセレマと共に豪商に探りを入れていた。
「親友としてどんな人なのか是非とも一目見たくなった」
「ほほう、それはそれは、エディ殿はよき友人をお持ちですな」
「あ、あぁ……」
「ハハハそう緊張するなよエディ君、ボクとキミの仲じゃないか」
 エディは針の筵に放り込まれたような顔をする。セレマは合図を送って、リンに気遣わせる体でエディを退席させた。

「えぇ、エディはカタブツにみえて繊細なところがありまして。この前も」
「ぶわはははっ!!」
 エディや今後の話について盛り上がってる体で、セレマは言葉巧みに場を湧き上がらせた。
「しかし、そのエディが婚姻とは。決め手はやはり先日の?」
「あぁ、えぇ。少々打算的でございますが」
 セレマはそのまま聞く素振りで姿勢を正した。
 曰く、“先日の盗賊団に襲われた際に、率先して娘の身柄を誘拐しようとする盗賊がいた”との事。
 セレマの頭に思い当たる事があった。しかしそれは、今は礼久に任せるほかない。
「つまり、常時雇える無料(タダ)のボディガードですか」
「ははは、個人的に縁を築いておきたい部分も大きいですがな……」
 理由は分かった。実力があって、尚且つ丸め込めやすい『口下手な傭兵』、娘に付き纏う悪い虫を払う事も併せて、彼は選ばれたのだ。
 打算的だが、事は単純だ。セレマは好機とばかりに言い放った。
「ボクになにかできることはありませんか? ボクは親友として彼とその家族の幸福を願う務めがあります。なんだってやってみせます」

成否

成功

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