PandoraPartyProject

シナリオ詳細

エディ・ワイルダーは愛のキューピッドとなるか?

完了

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オープニング

●お見合い早々即失恋
「エディ様。どうかこの話をご破算にしていただきたいのです」
 エディ・ワイルダー(p3n000008)がお見合いの席につくなり、対面の人間種(カオスシード)の女性からこう切り出された。
 身分の高い相手とのお見合いだから、身なりを凜々しく整えてきたエディはこの言葉を聞いて、生真面目に保っていたその表情と共にそれが崩れた。
「あー……犬はお嫌いですか?」
「違います」
「では俺が何か粗相を」
「違います」
 とりあえず、エディはそれ以上何も言わずに相手の言い分を聞いてみた。
「……わたくしには、お慕いしている殿方がいるのです」
 
 エディがお見合いをするハメになった経緯について、話は少し遡る。
「いやはや狗刃の傭兵、エディ・ワイルダーさん。わざわざ我が宅までご足労ありがとうございます」
「……あぁ」
 エディ・ワイルダーはイレギュラーズの支援以外にも、ギルドの傭兵として個人的に仕事を請け負う事はしばしばある。今回はこの老齢の豪商の護衛を請け負い、彼の身柄を奪おうとする盗賊団を見事撃退してみせたわけだ。
 それで、まぁ、エディはその商人からいたく気に入られた。やたらデカい屋敷に招かれて、ご馳走を用意されたりした。
 特定の傭兵に目をかけてておくというのは、この業界では別に珍しい話ではない。護衛させる傭兵と信頼出来る関係を築いておけば、それだけ商人は多くの金を抱える時に後ろを任せられるのだ。
 この件で特筆すべきは、商人の側が信頼以上の『一蓮托生』を望んだ事であろうか。
「俺と、貴方の娘を?」
「えぇ、ぜひとも婚姻を結んでいただきたく」
 そう言われて、エディは慌てたように傍らの席にいる商人の娘を見た。
 種族は人間種、年頃は十五かそこいらの、まだ大人にはなりきっていない少女といったところだろうか。
 物憂げなその表情に金糸のような細い髪、まるで出来の良いビスク・ドールのようである。いくら種族が違うといえど、エディ・ワイルダーは一人の男として若干惹かれる部分があった。
「…………」
 とはいえ、下手すれば親子ほどの年の差がある少女と婚姻を結ぶというのは――こう、なんか、エディ・ワイルダー個人の倫理観として色々とまずい。
 どうにかその場で断ろうと考えたが、貴族や豪商の機嫌を損ねた傭兵達の末路をエディは多く知っていた。狗刃の傭兵は、傭兵や隠密としての実力は確かだが口が上手い方ではない。
「あぁ、いえ、分かっております。お互いの事をまずは知らねば! 百戦危うからず、でしたかな? 後日、改めてお見合いと致しましょう。なに、その席もこちらで用意致しますゆえ……」
 対して、豪商はその口先で生きているような人間である。それで身を立てたのだから立派な事だが、エディはそのよく回る舌に捲し立てられて「あぁ、うん」とか「そうだな、そうしよう」とか適当な返事しか出来なかった。

 そういうわけで、とんとん拍子で進んだお見合い当日となったわけだが。
「開口一番フラれるとは思わなかったな。どうして親にそう言わないんだ」
 その少女へ、「むしろ助かった」とぎこちない苦笑を向けながら聞き出そうとするエディ。
「その殿方は、父からいわせれば『一銭の価値にも値しない人間』なのです……」
 少女――リンはその男性について語り始めた。

 父の抱える小作農の一人に、ランカという少年がいた。
 齢はつい先日十六になったばかり。これから若い農民として周囲の信頼を築いていく年齢ではあるが――リンが父親が所有する畑の視察に付き合っている時に、お互いに一目惚れをした。
 それから、リンは畑の視察に付き合ってる体で、ひそかにランカは二人きりの逢瀬を楽しんだ。
 少年少女らしく森の野山を駆け走ったり、お嬢様の身分ではやれなかった川釣りや木苺狩りなどのアウトドアを楽しんだり――そして、人に言えない事も色々やった。

 それがつい先日、父親にバレた。

 当然、父親は激怒した。娘を自分の屋敷に閉じ込め、父親は自分の所有している畑からその少年を放り出して、彼の行方は知れない。
「まぁ、父親の気持ちはわからんでもない」
 父親の視点からすれば、まだ成人もしていない愛娘を自分の知らないところで拐かしていた男がいたのだ。そこに真実の愛があったのであれ、なかったのであれ。父親の感情は理解出来る。
 それならまだ信用のおけるエディと早々婚姻と結ばせようとしたのも、納得がいく。
「それでも、私の事を家柄抜きに女性として愛してくださったのは彼だけでした!」
 それを言われると、エディは言い返せないところがある。自分も彼女の事を『女性』として愛せるかどうかというと、無理かもしれない。種族が違う。年齢も離れている。
 だが、それを知っていたとしても果たして穏便にこの婚姻を断れるか? 相手の方にもやむにやまれぬ事情とやらがあるのだ。エディ個人がどうこう言えば余計にこじれる可能性もある。
 ――彼らならどうするだろうか。
 エディの頭の中に、一つ考えが思い浮かんだ。
「……もしかしたら、もっと良い形でキミの願いを叶えてやれるかもしれん」
 リンは目に涙を浮かべた顔を、バッとあげてエディの顔を見つめた。エディは彼女を安心させるように笑みを浮かべる。
「その為には、少しの間……時間をくれ。数日間。あくまで、俺達が上手くいってる素振りで時間を稼ぐんだ」
 エディは、そのリンという少女に自分の考えた計画を話した。

●犬も食わぬ
「……まぁ、結局は君達を頼るわけなんだが」
 ギルドに戻って来たエディは、事のあらましをイレギュラーズに打ち明けた。
 エディの考えた計画としてはこうだ。時間を稼いでる合間、どうにか婚姻を破談させる方法を見つけ出して欲しいというのだ。
 解決方法については色々考えられる。まず真っ先に思いつくのがランカという少年を見つけ出して、その男と添い遂げられる道筋を作るだとか。あるいは、豪商を誰かが説得するだとか……。
 とにかく、婚姻が破談に至ればなんでもいい。方法はイレギュラーズに任せられる。
「得意分野によっては、色々出来る事はあると思う。最終的な解決方法は委任する。俺はどうなっても構わん。だが出来る事なら、リンという少女が一番幸せになる方法を考え出して欲しい。それが依頼人である俺の望みだ」
 そういってエディ・ワイルダーは少女の事を想い、自分の婚姻を破談させる為に詳しい情報をイレギュラーズに説明し始めた……。

GMコメント

 稗田ケロ子です。今回はラリーシナリオです。
 シリアス? ギャグ調? どっちに転ぶかはイレギュラーズさん達次第。

 総章数は2章予定。
 採用人数は章毎に10~20人程度を予定しています。

●依頼内容
・エディ・ワイルダーとリンの婚姻を破談させる事

●章説明
1章
 エディが時間を稼いでいる間に、婚姻を破談させる準備や活動をします。
 手段は必要以上に一般人を害する方法でなければ、なんでも構いません。
 作戦によって必要なスキルやステータスが変わるでしょう。また、取った行動にとって後々の作戦にも影響を及ぼす可能性があります。

2章
 ――時間を稼いでイレギュラーズさんが行動を起こした後の話。1章の流れから状況は変わります。

●NPC紹介
『狗刃』エディ・ワイルダー:
 いつものブルーブラッド。三十一歳独身。
 恋愛観についてはカタブツ寄りの価値観をしているが、他人の恋愛事は大体「幸せになって欲しい」と考えている。
 護衛の仕事で活躍して豪商に気に入られたが、そのせいで婚姻を強引に進められつつある。
 期間中は頻繁にリンの元に会いに行って、良好な関係を装って時間を稼いでいる。彼の付き添いでリンや豪商の元へ会いに行きやすいかもしれない。
 何事も、作戦の為とあらばイレギュラーズの要求に応じるだろう。

『豪商』グンラット:
 何代にもわたって幻想国家の経済に貢献してきた商人。商人ながら貴族に近い権限を持っている事から、彼に真っ向から逆らえる人間はそう多くない。
 立場に相応しい豪邸をかまえ、そこで一人娘のリンと暮らしている。妻は既に他界。
 その人柄については判然としない部分もある。実際に会いに行けば分かる事もあるかもしれない。

リン:
 豪商ランラットの一人娘。人間種の十五歳。
 ランラットの寵愛を受けてすくすくと育った才女。農民のランカへ一目惚れし、それに激怒した父親は半ば彼女を軟禁状態にしている。
 本心からランカの事を愛している様子だが、それと同時に世間知らずでもある。
 彼女から何か行動して欲しい場合は、イレギュラーズの方から働きかける必要があるだろう。

ランカ:
 人間種の若い少年。十六歳。雇用主の娘であるリンへ一目惚れし、その末に農地から追放された。現在現在行方知れず。
 追放されて日が浅い事からそう遠くには行ってないとは思われるが……。

  • エディ・ワイルダーは愛のキューピッドとなるか?完了
  • GM名稗田 ケロ子
  • 種別ラリー
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年02月10日 21時40分
  • 章数2章
  • 総採用数22人
  • 参加費50RC

第2章

第2章 第1節

●エディ・ワイルダーの受難
 ――どうしてこうなった。
「おめでとーブルーブラッドさーん!! 新郎姿もステキだよー!」
「なんでエディさんが先に女性と結婚するんですか!!? ボクの方がよっぽど女の人と縁ありそうじゃないですかうわああああん!!」
 ――どうしてこうなった。
 エディ・ワイルダーは新郎衣装でキャリッジ(馬車)に乗り込まされ、その傍らにはリン・ランラットという十五歳の少女が、ウェディングドレス姿に身を包んで顔を俯けていた。
 お互いこの場から逃げ出したいという事は伝わり合っている。なにせリンにとって意中の相手は他にいるのだ。
 だが自分達を取り巻く事情を知らないギルド員や一般人といった周囲の人間が……というより『ムード』がそれを決して許す様子はない。
 ――どうしてこうなった……。
 エディ・ワイルダー三十一歳は、何故こうなったのかを思い返した。

●時系列と依頼内容
 エディ・ワイルダーが諸事情でギルドに居られなくなり、代わりに『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)が依頼の状況説明を務めた。
「婚姻をぶっ壊すお手伝いなんて、エッグシェルみたいに少女的な事を求めるのね……まぁ、当人達が望んでるならその方がいいのかしら?」
 まず手始めに、彼女はイレギュラーズが入手してきた情報と――浅木 礼久(p3p002524)が治療した『盗賊の少年』の言葉を頼りに、事態の時系列を明確にした。

「リン、ボクはキミを愛している」
「私も、ライカの事が……」
 まず、『小作農の少年ライカ』と『豪商の娘リン』が互いに一目惚れをした。密会の場所は、森林地帯の近く。
 そこを偶然――『盗賊の少年』が見つけた。彼は『豪商グンラット』の戦争ビジネスの一環で、ライカと同じく自分の村を間接的に焼き払われた境遇にあった。

 盗賊の少年は彼らを目撃して一計を案じた。
 まず、ライカに接近して「次にいつ視察にきた彼女と逢う予定だ?」とか「あぁいう女が好きそうな言葉を教えてやる」だとか――吹き込んだ。
 ライカとリンが逢瀬をする日にちが分かれば、盗賊団の皆とグンラットを襲う計画を立てやすい。
 次にリンからライカの方に熱中すれば、彼女を誘拐する手段の一つとして使える。
 無論、ライカとは昔のよしみ。何処かに駆け落ちさせてやるつもりだった。グンラットからは身代金をたんまり貰って、お互いとんずらでwin-win。

 だが事態はそう甘くなかった。
「きさまッッ!! 私の娘に何をしている!!!?」
 リンとランカの逢瀬が、バレた。
 グンラットは少年に対して、その場で追放する旨を叩きつけた。
「殺されたくなければ今日中に荷物をまとめて出て行け!!」
 盗賊側はこれに困った。次にいつ来るかが分からなくなる。もしかしたら、使者を遣わせるだけで二度と来ないかもしれない。
 焦ってしまった盗賊団は、その日の帰り道を急ぐ馬車を襲った。
「貴様らには指一本触れさせん」
 ……そして偶然、『エディ・ワイルダー』が彼らを撃退した。

 撃退された彼らの唯一の生き残りである盗賊の少年は――ランカに助けを求めようと、彼の家へ向かった。
 おそらく、農民に目撃されたのはこの辺りだろう。
「……お前! どうしてそんな大怪我を!!」
「ワリィ、しくじっちまった……」
 ここで盗賊の少年は計画を洗いざらい話した上で、匿ってくれるように懇願した。
 瀕死の彼の血液が、ランカの家財道具だとか衣服だとかに付着した。イレギュラーズの一人がそれを嗅ぎ取った。

 盗賊を匿っておけるわけがない。もしここで死なれでもしたら、自分がその一味だと誤解を受けるのは明白であった。
 されど、ランカという人間は同郷の友を見捨てられるほど薄情でもなかった。
 そして――彼は友人を看病するべく森の奥へ行方を眩まして、周囲の人間に「追放された」あるいは「夜中の内に逃げた」と誤解させた……。

「そういうわけね。それで、礼久さんが治療してくれた子だけど……そのお礼というわけで協力してくれるそうよ?」
「ボクが治療という力を貸して、彼もそれに応えてくれたというわけかな……」
 具体的には、盗賊団側には彼らを国外まで駆け落ちさせる算段があった。移動手段だとか、偽造した身分証明書だとか……用意したそれがまだ残ってる。つまりは彼の指定した屋外まで花嫁を連れ出せば、この依頼は事実上達成というわけだ。
「問題は、『リンをどうやって連れ出すか』という事。この前の襲撃もあって彼女の傍は護衛がびっしり控えてて、中々連れ出せる状況にないわ」
 そこに『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)が一計を投じた。
「……それで、結婚式なのね」
 早期に開始された結婚式は、既成事実を早々に作ってエディやリンを逃げられない状態にしておきたいグンラット側の思惑もあった。
「ああほんと。愛なんて下らない。どいつもこいつも馬鹿ばかりさ」
 だが、同時に付け入る隙がおおいにあった。イレギュラーズと親交を築いておきたいグンラットは、セレマの手伝いを快く受け入れたのだ。
 セレマが招待・招集した体でイレギュラーズがその警備の一員として参加するだとか、結婚式でウェイターといった従業員の役割を任されるだとかも可能なはずだ。
 重要な役割を任される為には、相応の技術が必要となるだろう。何にしたって、『リンとエディの婚姻を破談にする』という依頼を達成する道筋は見えた。
「結婚式から花嫁を連れ出して駆け落ちさせるなんてね、いかにも御伽噺でありそうな菜の花色の計画じゃない。上手く行く事を期待しているわよ? イレギュラーズさん」

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●第二章
・成功条件:リンを結婚式場から屋外に連れ出す事
 イレギュラーズ以外の部外者に追跡されている状態だと、脱出経路である盗賊の少年と接触出来ません。
 リンを逃がす事が出来れば事実上駆け落ちが成功し、大目的である『リンとエディの婚姻が破談させる』が達成され依頼成功となります。

●ロケーション
 ホテル式の結婚式場です。四階建てであり、屋上に夫婦の婚姻を宣誓する場所やお色直し場があるので二人ともそこに押し込められています。
 リンの方をどうにかして屋外に連れ出す事が目的となります。
 当然の如くイレギュラーズ以外の侍女や警備員、一般の従業員などが彼女の事を甲斐甲斐しく世話しています。それ以外の階層も、新郎新婦を祝う会席場や、一般客と従業員が別日に自分達の結婚を執り行う相談をしていたりなど、人の目は尽きません。
 時間が経つにつれ、事態は良くも悪くも進行していきます。


第2章 第2節

浅木 礼久(p3p002524)
海賊淑女に愛をこめて

 そして結婚式直前、礼久はローレットギルドにやってくるなり、プルーや皆に向けてチェスボードのようなものを広げた。
「再現型黒白盤で今回の『戦場』を整理をするよ」
 曰く、彼は式の前日から装飾役に務めていた。
 だから、その務めで得られた結婚式場の情報をこの場で提出し、自身は舞台裏に潜む手筈だ。
「人の目が多さを逆手に取り、此方に都合の良い錯覚・勘違いをするように誘導できるようにしたいね」
 その上で彼にとって気をつけたいのはエディ本人が犯人だと思われること。
「まぁ、それはそうね」
「だから、彼のアリバイ工作は慎重に行いたい。いざという時のために人通りがない所に『設置型音爆弾』を仕掛けておこう」
 そしてイレギュラーズに向けて、それを設置してある位置を報せた。『罠設置』が上手い者が手を加えればなお有効活用出来るかもしれない。
 
 それらを伝え終わった礼久はチェスボード――再現型黒白盤を動かして階層の様子を説明し始めた。

 四階。先に「婚姻を宣誓する場所やお色直し場」と説明された通りである。現在、エディとリンは此処に押し込められてる。
「おぉ、娘よ。ほんにお前のウェディングドレスを見られるとは。うう……」
「…………」
 そこには無論、グンラットなどごく近しい人間や侍女だとか従業員だとか、そういうのがわんさかいる。護衛もだ。
 まずはこれらを引き剥がす事が先決であろう。集ったイレギュラーズ達にそう説明を向けた。


成否

成功


第2章 第3節

リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
エドガー(p3p009383)
タリスの公子

 仲間の情報を受けたエドガーは、ひとまず仲間を引き連れてグンラットの元へ挨拶に向かった。
「やぁ、グンラット殿」
「おぉ、エドガー様。セレマ殿からお話は伺っております。お越し頂きありがたき――」
 豪商は涙を拭いて、エドガーやセレマの方に長々とした挨拶口上を向けた。
 ここまで堂々と踏み入って怪しまれないのは、前日のイレギュラーズ達やセレマが上手く立ち回ってくれたからか。
 そういう風に安堵しながら、エドガーはひとまずグンラットやその関係者達の注意を惹いた。セレマが何かしら策があるという。
「そうだ、エドガー殿は立派な軍馬をお持ちでしたな。如何でしょう、帰り道は貴方にも護衛していただければ娘の結婚式に箔がつくというもので……」
「えぇ、もちろんお受け致しましょう。なにせローレットの同志が噂に名高い豪商グンラット様の娘と結婚するというのですから――」
 エドガーはへりくだりおだてたり、そういう風に注目を集めた。しばらく経った頃合い。
「きゃあ!」
 祝いの品々を整理していた女中から声が上がった。
 何事かとエドガー達が集まってみれば、その中には奇妙な事が書かれた手紙があった。
『披露宴の当日、美しき方をお迎えに参ります。 サン・テオフィール・ド・アムールヘィンより』
 エドガーは「成る程、セレマ殿のいっていた事はこれか」と納得しながらも、表面上は困惑した素振りを装った。周囲の人物達もグンラット含めて困惑の色を見せ始める。
「豪商殿にはかの吸血鬼がいかに恐ろしいか説明しよう。あれに魅染められた恋人たちは夜の住人として消え去るか」
 彼らの不安が最高潮に達した時、多少演劇調子の語りで話を始めるセレマ。この状況において周囲の不安を煽るに十分だった。
「ど、どういう事だ……」
「そに披露宴を悍ましい血の惨劇へとかえてしまうと娘も無事では済まされない……『使用人や側仕えに様子がおかしい人がいましたよね? ご安心ください。魔種さえ退けるローレットが味方です。全てボクたちに委ねて』」
「で、では警備員を早急に集めろ、下の奴らも呼べ!!」
 このやり取りにより、二階と三階の警備をしていた私兵らが四階のリンを守る為に招集される事になった。グンラットの判断は、多少早急な気が……。
 ふいにセレマの瞳を窺うエドガー。何をやったか悟り、苦笑した。
「『魔眼』ですか」
「アトが同じような事やってたらしいからね。耐性無いって分かってるなら、利用しない手はない」

「あーうんなるほど。大体の経緯は聞いたけど纏めると滅茶苦茶複雑ね?」
 ざわざわと警備達が集まってきた頃合いで、一人のイレギュラーズが大袈裟な手振り身振りで周囲を煽るように言った。雨宮 利香だ。
 こういう風に警備員達が集まってきたのは偶然だが、むしろ自分の作戦において好都合。
「……ふふ……公衆の面前ってのはやぁねぇ」
 そんな笑みを浮かべながら擬態を解除し、人々の目の前で青肌の夢魔へと変身を遂げた。
 一般人は怯え竦み距離を取り、警備者達は武器を構えながら利香を取り囲む。
「お、おまえがサン・テオフィール・ド・アムールヘィンだな!?」
「えぇ、そうよ。私は色恋沙汰は好きだけどぉ、そうじゃないみたいみたいだから……ぶっ壊してアゲル?」
 彼女は豊満な胸の谷間から、鞭を取り出して警備らへ振るう。
「う、うわ!」
 男達の鮮血が飛び散る。利香はその返り血を浴びて、自身の青肌を赤く染め上げた。
 中々に興が乗ってきたが、後続のイレギュラーズが準備を整え終えたのを確認して利香は窓から飛び降りる。
「フフ、追いかけっこと行きましょう」
 飛行技能を使い、利香は無事に地面に着地。そのまま四階で手をこまねいている彼らを挑発した。
「どう致しましょう? サン・テオフィール・ド・アムールヘィンは蛇のように執念深い女ですよ」
「い、一階と四階に警備を集中させろ! イレギュラーズと共にヤツを、サン・テオフィール・ド・アムールヘィンを必ず討ち取れ!!」
 セレマに煽られたグンラットは、そのように周囲に激を発した。

成否

成功


第2章 第4節

アト・サイン(p3p001394)
観光客
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
ラクロス・サン・アントワーヌ(p3p009067)
ワルツと共に

 利香やセレマ達によって騒ぎが起きている最中、リンをに接近したイレギュラーズが複数いた。
 フラーゴラはその一人で、彼女はスタッフの一人として紛れ込む。その後、仲間と協力しながらリンを女子トイレに連れ込んだ。
「……リンさんのドレス、素敵だったなぁ……」
「まぁ、ありがとう。でも、貴方の髪も凄く綺麗よ?」
「えへへ……今は纏めてるけど普段は……はっ! 今は仕事に集中しなきゃ……」
 和気藹々とした女子トークが繰り広げかけるが、それはともかく。フラーゴラはこれからどうやって脱出するか彼女に説明した。

「……………」
「……ちょっと高いけどがんばって……!」

 まず、窓からへりを伝って別部屋に移動する。
 身軽なフラーゴラはなんでもない風にへりを伝って別部屋の方に移動し終えたが、リンの方は真っ青に青ざめて窓のへりを渡るのを躊躇っていた。
 高さは四階。一般人ならば下手すれば死ぬような高さだ。
 リンは意を決して壁に張り付いて、へりを歩き始めるリン。少しずつ、落ち着いて――あと一歩! そういう形で渡りきる寸前、足を踏み外した。
「あ」
 その拍子に、リンはへりから身を投げ出した。

 ――――死ぬ。

 そういったところで、フラーゴラともう一人のイレギュラーズが空中に投げ出されたリンの腕を咄嗟に引っ掴み、彼女の体をどうにか引き上げた。
 ぜぇ、ぜぇ。息を荒げる三人。フラーゴラとリンはイレギュラーズが誰か確認する。ラクロス・サン・アントワーヌだ。
「……ご、ごきげんようプリンセス。此の度貴女を迎えにまいりました」
「ありがとう……アントワーヌさん……」
 フラーゴラは彼女の手助けに感謝する。彼女は踊り子として式に参加していたが、先の吸血鬼騒ぎである。花嫁の身を案じる体で四階を探し回っていた。
「まぁ、精霊達が気付いてくれなかったら今頃……ははは」
「そうだ……アントワーヌさんに頼みたい事があるの……!!」
「ん? あぁ、私からもフラーゴラ君に伝えなければいけない事があるんだ」
 そういう形でお互いの要件を伝え合う。

「踊り子ならば楽器を運んでいても怪しまれない、か。成る程」
「よ、よろしくお願いします……」
 リンを押し込めた大型の楽器ケースを、キャリーで運んでそのまま四階からおさらばする。
 上手くいったか、四階の人間らに怪しまれている様子はない。
 ひとまずこのまま下に運び続けるか、他の人間に任せてみるか一旦様子を見て考えよう。

「どうしてこうなった……どうしてこうなるんだ……?」
「はい、準備できましたわ、エディ様。私との素晴らしい結婚式を楽しみましょう?」
 ところ変わって、お色直しの方に押し込められているエディへ視点は移る。
 ウェディングドレスを着た花嫁がエディの元へ押しかけてきた。
 中身については――無論、リンではない。抜け出す合間にアトが衣装ごと入れ替わり、顔をレースで隠して「自分が花嫁だ」という風に振る舞っている。……非戦スキルを多重に使っている辺り、アトは本気だ。
「リン様、吸血鬼の眷属が潜んでるやもしれませぬ」
 そう忠告をする護衛相手に、花嫁はエディと腕を組んで意味ありげに言葉を紡いだ
「申し訳ありません、少しばかり緊張してしまいまして……暫くエディ様と一緒にいてもよろしいでしょうか……二人っきりにさせてほしいのです……だって私は……この方と……」
「……あ、あぁ、そういう事ですか。ならば、えぇっと、何かあればお呼び下さい」
 護衛らは顔を背けて、扉の外に待機する。
「……この状態では俺達が逃げる事はできんぞ」
「別に、時間稼ぎができりゃ十分さ。あとはボク達は“吸血鬼にまんまとやられた”っていう素振りでいればいいさ」
「ほう、外が騒がしいと思えばそういう状態になっていたのか……」
 そのように作戦を話し合う。とりあえず、自分達がやるべき事はやったので後は他の味方に任せる他ないだろう。
 
「えっえっアトさんとエディさんが結婚? 嫌ー……!  ……アトさぁぁああああん!!!」
「む、な、なんだこの小娘!? お前も吸血鬼の眷属か!!」
 なんか扉の外が騒がしい。フラーゴラの悲痛な泣き声が聞こえてくる。
「……おい、これも吸血鬼のせいにしてていいのか?」
「あー、どうしようかなー?」
 苦い顔をしているエディに、アトはくすくすと笑いながらフラーゴラをどう助け出すべきか考えていた。

成否

成功


第2章 第5節

 ――イレギュラーズは楽器に押し込めたリンを三階に運ぶ。
「吸血鬼が出たってよ」
「おいおい、警備がいないぞ。俺達はどうでもいいってか……?」
 周囲を見渡すと、戦闘能力があるような人員のほとんどは四階、及び一階に向かったようだ。
 ランラット家を祝いにきた一般客が現状の安全性に不服を述べているが、リンの移送に気付いてる様子はない。
「……このまま、二階にいけそうですわ……」
 仲間達の行動が影響しての好機である。楽器に押し込んだリンはそのまま二階に運ばれた。

「お待ちを」
 二階にて、招待客として入り込んだイレギュラーズは全員警備や傭兵から立ち止まるように制された。
 見たところ警備人数はごく少数である。そしてその場のイレギュラーズが怪しまれたという様子ではない。
「外周の方でサン・テオフィール・ド・アムールヘィンとその眷属が暴れ回っている様子です。ですので、念のため安全が確保出来るまでどうかそのままご辛抱を」
 そのような理由で、イレギュラーズとリンは二階にて足止めを喰らう事になった。

 さて、ここにやってくる前に聞いた礼久やプルーの説明を思い返す。
「二階は、式場から離れていて一般客やホテルの従業員が多数いる。人の目は多いってわけだね」
 彼らは再現型黒白盤にて二階の状況を示していた。その二階自体は普通のホテルと同じような間取りだ。
 策を打つべきは一般人を気遣う数人の警備。それを誤魔化して“旅人風の衣装に着替えているリン”をどうにか一階まで運ばねばならない。
 彼らを排除するには何かしら手を打つ必要があるだろう。
 そしてリンを楽器に押し込んだまま運ぶか、それとも……。


第2章 第6節

グドルフ・ボイデル(p3p000694)
セリア=ファンベル(p3p004040)
初日吊り候補
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護

「ここにいるエディ・ワイルダーを引き渡してください! 彼には複数の容疑がかけられています! 年端もいかない少女に手を出して、奪ったぱんつを闇市に流したり依頼と称して女性を騙してスライムの巣に送り込んだり……」
 一階入り口の警備でガッチガチに固められているところに、何か抗議じみた叫び声が聞こえて来た。セリアだ。容疑が羅列された偽造書類を片手に警備に迫っている。
「あと、花嫁の人もなにか被害を受けていないか事情を伺わせてください! プライバシーを保護できる場所を用意してあります!」

「……と、ローレットのご友人が申しておりますが」
「セリアァアアアアア!!!!」
 抗議内容を伝えるグンラットと、それに悲鳴をあげるエディ。
「あぁ、エディ様。貴方はそのような方だったのですね……くすくす」
「あー、もう分かった! 何やりたいか完全に分かったぞ! 俺が対応に行く!」
 花嫁(?)に茶化され、半ば本心半ば演技で一階へ直接文句を言いに行くという動きに出た。
「そ、それは。吸血鬼やその眷属が出たというのですぞ! 今も大暴れしているとの話で……」
「俺が吸血鬼にやられるとでも? それにローレットの者達が来ているんだ。事情を話せばこちらに加わってくれるはず!」
「う、うぅむ……」
 エディはこの場から抜け出す為にヤケになっていた。グンラットはその態度にをみて、半信半疑のエディが逃げ出さないか監視する体で、護衛を引き連れて一緒にローレットへ救援を求める事にした。

 さて、彼らが二階に辿り着いた辺りだ。
「テメェら静かにしろ! ブッ殺されてぇか!」
 一般客だと思われていた者の何名が、突然刃物を取り出して他の一般客を取り押さえた。
「エディを出せ! さもねぇとこいつら全員殺してやる!」
 そうやって騒ぎ立ててる者の顔を見ると――イレギュラーズのハロルドだった。
 おそらく、他の何名かも彼らの仲間なのだろう。『生き残りの盗賊団』という体で、エディ逆恨みから刺し殺そうとする演技を繰り広げている。
「う……」
 一般人を人質を取られた警備は、どうするべきか逡巡した。そんなところにグンラットやエディが降りてくる。エディはハロルドが一般人を人質に取っているのを見てすぐに事態を把握した。
「ま、待て! 俺はどうなっても構わん! だから、人質を解放してくれ!」
 エディは武器を床に放棄しながら、大慌てでそう叫んだ。この状態ではグンラットや他の警備員達もどうしようもない。ハロルドはニヤリと笑い、エディを縄で縛り上げる。
「ハハハ、素直が一番ってな。おい、そこの。何人かのイレギュラーズもこっち来い! どっか部屋に押し込んで、変な事しねぇように閉じ込めておくんだ!」
 結果から言えば、ハロルドの打ってくれた手段は非常に効果的だった。エディを外に運び出して、その上で“旅人風(もといアト・サイン)に扮装したリン”や仲間のイレギュラーズを一階の部屋への隔離を装った。

 さて、この状況に一番青ざめたのはグンラットだ。
 吸血鬼に大暴れたされた挙げ句、事実上『自分達の不手際でエディやイレギュラーズの数名を人質に取られた』とあっては、他の貴族やローレットへの体面として色々とまずい。
 セリアなどのイレギュラーズに助けを求めるべく、グンラットは大急ぎで入り口の方へ向かった。

「ヤアヤア、グンラットサマ、ご機嫌どうだい。あのライカとかいうボウズ、ぶっ殺しておいたぜ! 泣いて叫んでたぜえ、ゲハハハッ! で? 報酬は?」
「お、おおぉ! グドルフ殿! ちょうどよかった! ランカなどはもはやどうでもよいのです! エディ殿や他のイレギュラーズが……」
「なに? 報酬はいただけないってのか?」
「それどころではないだ!! 第一、ガキ一人殺したくらいで報酬を貰えると思うな!! 汚い仕事を貪る傭兵風情が、話を――」
 失言だった。表向きの状況からして態度を繕う余裕がないのも致し方ないかもしれぬ。
 居丈高に威圧して言う事を聞かせようと振る舞ったが、グドルフ相手には逆効果だった――というより、大義名分を与えてしまった。
 次の瞬間、グンラットの身体が真後ろに吹き飛ばされた。受け止めた傭兵が何事か確かめる。グンラットは山刀の棟打ちで、肋骨が折れるくらい力一杯ぶん殴られていた。
「き、きさま……」
「フン、最初から見下すような目が気に食わなかったんだ。このおれさまをタダで使おうとしやがって。てめえの大事なモン、全部ぶち壊してやるぜ!」
 グドルフがそう叫ぶと、野次馬と思われていた一般人から何人かが刃物を持って護衛やグンラットに食ってかかった。グンラット自身が恨みを買う仕事をしてきたから、多少探してみればすぐにこういう襲撃へ賛同する輩が見つかった。
「ら、乱心!! グドルフが乱心した!! 護衛らは全員グンラット様を守るのに当たれ!!」

「……やれやれ、一階の警備を請け負っておいてよかったわい」
「おう、あとは任せたぞオウェードのオッサン」
 入り口の方でグドルフが騒ぎを起こしているのを受けて、リンを別方向から脱出させるハロルドとオウェード。
「……お父様……」
「り……リン殿……父上がか、心配かね……?」
 オウェードはどもりながら、リンが心配している素振りなのを気遣う。
「えぇ。しかし、もう心配する事も甘える事もこれからは出来ぬのですね」
 リンは一旦俯いて、大きく息を吐く。顔をあげた彼女の表情は、これから待ち受ける苦難に対して覚悟を決めたような表情だった。
「オウェード様、国外に脱出する場所へ……ランカの元までご案内をお願いします!」
「お。おお……おう、心得た!!」
「こっちの事は任せな。エディも、サインの野郎も無事に脱出させといてやるよ」
 お互いやるべき事を任せると、護衛達に気付かれない内に一気に走り出す。
 オウェード、リンはそのまま郊外まで走って行った……。

成否

成功


第2章 第7節

●エピローグ
「さ、さぁ……ももも、もう少しですぞ……」
 郊外で待ち合わせている盗賊の少年の元まで、リンを急がせる。
 たかだか十五歳と十六歳の少年少女が、親の支援なしにやっていけるのか。それどころか0からのスタートで生きていけるか。
 彼女と共に向かう間、イレギュラーズの頭の中にそんな心配事が思い浮かんでくる。このまま引き返させるべきではないかとすらも。
「……大丈夫です」
 ふと、リンはそんな事を口にした。そうして、イレギュラーズに向けてキュッと引き締まった顔を向ける。
「何が待ち構えていようと……私はそれを受け止める覚悟を致しました。イレギュラーズ様に手伝っていただいたこの恋路、無碍にするわけには参りません」

 郊外へ行きしばらくすると、一体の幌馬車がそこにポツンとあった。御者に盗賊の少年が乗っている事から、あれで間違いないだろう。
「リン!」
「ランカ……無事だったのね!」
「あぁ、ボクは大丈夫。もう二度と離したりするものか……」
 ランカはリンの姿をひとめ見るなり、幌馬車から飛び降りて彼女の体を抱き締めた。リンもそれを抱き締め返した……。

 二人を幌馬車に無事乗せて、盗賊の少年はイレギュラーズの方へ向き直る。
「さて、まぁイレギュラーズさん。こっからは俺の仕事、っつーわけだ」
「うむ、ワシらが付き添えるのはここまでじゃ。歯がゆいのう……」
「なぁに、命を助けてくれた礼さ。それに命を追っ手がいない今なら随分楽な仕事じゃねーか、ハハ」
 そういって、少年は馬を歩かせ始める。「また会いましょう」と誰かが言った。
 自分達に彼らの居場所は伝えられてない。彼らが成功するにしろ野垂れ死ぬにしろ、たぶんもう二度と会う機会はないのだろう。
 それでも、これは彼らが選んだ道だ。二人が行く末を見守る。
「私達は、どんなこんなにも立ち向かっていきます。――その上でイレギュラーズ様やエディ様のご武運をお祈りしております。どうか、我々の恋路を救って下さった方々に幸あらん事を」

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