シナリオ詳細
シニュ=マニュラの悲劇
オープニング
●シニュ=マニュラ
昔々、あるところに貴族の令嬢が居ました。
令嬢は生まれつきとても病弱で、20歳まではとてもじゃないが生きられないだろうと医者に言われていました。
けれども令嬢は貴族の1人娘であり、両親は深く彼女を愛していました。彼女が苦しんでいる時にはさすってやり、彼女の気分が良い時には共に散歩へ出てやり、そして少しでも生きる気力を持つようにと外の出来事を聞かせ続けていました。勿論、同時に金と権力を行使し有名な医者や薬師、果てには魔女まで呼んで娘を元気にしてやれないかと頼み込んでいました。
その中の1人――魔女とは限りませんが――が効果的な治療法を見つけたのでしょう。娘は徐々にですが苦しむ時間が短くなり、外へ出られる時間も長くなり、そして以前よりもより生き生きと外の出来事へ耳を傾けるようになりました。両親は全快とはいかずとも元気になっていく娘の姿に感動し、涙したそうです。
しかし、同時期から奇怪な事が起こるようになったと当時の使用人は語っていました。怖くなったから早々に辞めて逃げてしまったというその使用人は、けれどその口から語るだけでも十分『異質』な内容を聞かせてくれました。
令嬢が健康を取り戻していき、両親も喜び、普通ならば屋敷の空気自体も明るくなるもの。けれどもその3人を除いた屋敷はどこもかしこも驚くほどに重たく、暗い雰囲気を纏っていたと言います。それからはその使用人が辞める前にも、何人かが体調不良で辞職を申し出ていたと。これが偶然か必然かは逃げ出した使用人の言葉だけではわかりません。それでも、新聞を読んでいた者であれば気づいた者もいたでしょう。
使用人が辞めてから約半年後――一家は病で亡くなったそうです。
これは昔々の、とある話。
けれど知っていますか? この屋敷、今でも残っているんですって。
●マニュラ子爵の悲劇
「やれやれ、なんでこんな話が今更持ち上がっているのか」
「ぴよ? ショウさん、どうかされましたか?」
呆れた顔で1枚の羊皮紙をつまみ、紅茶を口にする『黒猫の』ショウ(p3n000005)はちょこちょことやってきたブラウ(p3n000090)へ視線を向けた。ひよこの小さな体を抱き上げてやり、カウンターに載せてやれば彼もまた依頼書を読むことができる。
「シニュ=マニュラの悲劇?」
「ああ、知らないかい? 随分昔にあった話らしいよ」
シニュ=マニュラの悲劇。マニュラ子爵とその家族の身に起こった事故のことである。かの子爵は愛娘が1人いたが、成人できないと言われるほどに病弱だった。それがあらゆるツテを使ったことで快方に向かい喜んだのも束の間、別の病によって一家全滅したという。幸せの掴める寸前で絶望へ叩き落された――そう世間が評したことからこの事故はそう呼ばれるようになったのだ。
「元々娘のために自然豊かな場所へ屋敷を構えていたらしいんだが、一家が亡くなった直後に魔物の巣窟と化していてね。まあ、死の気配っていうのは好ましいものなんだろうな」
「そうですねえ……その屋敷に潜入してマニュラ子爵の宝を取ってくる、ですか」
依頼書を読んだブラウはふぅん、と目を瞬かせる。どこにあるかは定かでないが、マニュラ子爵には代々受け継がれている家宝があるはず、ということらしい。もう盗賊に盗られているのでは、とも思ったがショウは絶対にあると断言した。
「あの屋敷、近頃は別の意味でも有名なんだ。『令嬢が生き返って魂を抜く』ってね」
「怪談です?」
「事実だよ。半分くらいはね」
屋敷に盗賊が入ることはある。けれどそこから帰ってこられるのはせいぜい入った全体の1割――何も持って帰れず、仲間も見捨てて逃げてきたその1割は皆してそう言うのだと。
「生き返りなんて存在しない。令嬢の姿をした何かは大方、魔物の擬態か……魔物が遺体に憑依したとか、その類だろう」
ショウは視線をブラウから、ちょうど通りがかったイレギュラーズへと巡らせて依頼書を差し出す。
「キミ、この依頼を受けてみないか?」
- シニュ=マニュラの悲劇完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年02月17日 21時55分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
『シニュ=マニュラの悲劇』と呼ばれる事故には、おおよそ不可解な出来事がある。皆それを知っていて、けれど分からないが故に放置されていたのだ。
だからここに来るのは怖いもの知らずな盗賊ばかり。それも出てこられないか、逃げてしまうかのどちらかで。そして2度とは足を踏み入れられない不可思議な屋敷に、8人のイレギュラーズたちが潜入した。
「いい? カット」
『暁の剣姫』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)はファミリアーであるねずみのカットに4枚のカードを見せて教え込む。
「うん、大丈夫そう」
ミルヴィは頷き、立ち上がって視線を巡らせる。一同は運よく何者とも接触せず、2階の日が当たる――というか天井が崩れて半分室外である――部屋まで到達できたが、この屋敷からはよくないものを感じる。それにこうして日の下にいるのに、どこか闇に包まれているようなもやもやとした感覚も。
「悲しいお話、で済めばいいんだけれど」
「でもお化けが出るってんなら、なんかそこにあるんだろうさ」
『風の囁き』サンディ・カルタ(p3p000438)は皆を安心させるよう平常心を見せるが、それでもかすかにザワザワと落ち着かない。しかしこのような場所に忍び込んで漁ることなら、サンディはこのメンバーの誰よりも群を抜いて『慣れている』と言えるだろう。故にこの程度の落ち着かなさは予想の範疇だ。
『テスト対策中』糸色 月夜(p3p009451)は視線を巡らせ、近くにまだ彷徨っている霊魂がいないか探る。盗賊たちが殺されているのなら必ずここで魂は肉体と分離し、魂は現世を彷徨うか川を渡りに行っているはずだ。
(それにしても、嫌な気配だ)
ここは日が当たっているから『そこまで』でもないのだろう。しかし屋敷の奥の方では明らかに奇妙な、何かが動いている気配がある。
「初っ端から戦闘は避けたい。あっちから行こうぜ」
その空気から逃げるように――言い換えればより敵性存在が少ないと思しき方を指し示した月夜に一同は頷き、移動し始める。何時までも日の当たる場所でのうのうとしているわけにはいかない。
「その辺りの家具とかアンデットとか食べてて良い? あ、探し物はちゃんとやるよ」
ジイイと千切れたカーテンを見ていた『赤い頭巾の悪食狼』Я・E・D(p3p009532)の言葉に他の3人は何とも言えぬ表情ながら頷く。マニュラの宝を持ち帰れとは言われたが、他の宝や家具などについては指示を受けていない。アンデットが食えるのか否かは不明だが、それでどうなろうと自己責任である。つまるところ――この依頼に影響しなければ良いのだ。
彼らの返答に頷いたЯ・E・Dは躊躇なくカーテンをむしゃむしゃ。それを持ちながら移動するЯ・E・Dと共に、一同はひとつめの部屋に入る。
「書斎か」
至る所に収められた本は、持ち出せば歴史的価値を見出せるものもあるかもしれない。しかし一同が望むのはそれらでない。
(仲は良さそうだな……)
すっかり埃塗れになった額縁を手に取り、サンディはそれを払う。すっかり色あせた写真だが家族で映っているそれはどれも笑顔だ。
「この辺りは……普通のメモ書きだね」
Я・E・Dは書斎にあったデスクを見て、そこに記されているものが古い年代の領地経営についてであることを知る。それなりに経営の手腕は良かったようだ。領民たちも人柄がよかったのか、大きな反対もなく着実に発展させていたことが伺える。
「ン、いるじゃねェか。オイ、テメェ。テメェだよ」
不意に月夜が声を上げる。サンディなどには見えず、聞こえもしなかったが、どうやらそこに霊魂が在ったらしい。月夜は暫く霊魂から情報を聞き出そうと粘っていたが、やがて疲れたように肩を落とした。
「なんだって?」
「生きてる間の事はすっかり忘れたってよ。ったくよォ、何に殺されたのかくらい覚えとけってンだ」
不発だったらしい。しかしさっさと気を取り直して月夜は周囲を警戒しつつ、書斎の調査に回る。
「日記とかは私室かな」
「みたいだね。ここはなんだろ……執務室、みたいな?」
ミルヴィは本を閉じて部屋を見渡す。どの本もプライベートではなく、参考書ばかり。ならば魔術の類もあるだろうかと月夜は踏んでいたのだが、それも見当たらない様だ。
「カルトに嵌ってたとかもなさそうだしな」
サンディは考え込んだ。少しでもそういうものが関わっていたのなら、その片鱗や空気があると思ったのだが――驚くほどに、一切なしである。
「それじゃあ次の部屋に行ってみようか?」
Я・E・Dはランプを齧りながらそう告げる。彼――或いは彼女――曰く、古い物には古い物の良さがある、だそうだ。
「じゃあこの隣は――」
ミルヴィが出ようとした時である。月夜が即座に皆へ静かにするよう合図し、影になる場所へ隠れる。
『静かに。……ヤツら、徘徊してやがる』
その存在はすぐに知れた。薄く開いた扉の外、よろけながら複数のアンデッドたちが進む姿が見える。息を殺し、気づかれないようにとやり過ごす4名。暫くして通り過ぎて行ったことを確認した彼らは、小さくため息をついた。
「……次、行くか」
サンディの言葉に一同はようやく隣室へ進む。ここも埃っぽく、蜘蛛の巣が張られているところがあったが窓から入る日差しの量は多い。おかげでアンデッドたちも入り込んでいないらしい。
「小娘の部屋か」
「みたいだね。日記とかあるかな?」
Я・E・Dと月夜は彼女の日記を探して引き出しなどを開け始める。ミルヴィも同様だ。
令嬢の日記である必要はない。使用人が書き記したものでも、死した子爵が遺したものでも構わないのだ。令嬢ミリアが元気になり始めた前後、その方法。そしてマニュラの宝について知ることができるなら。
(恐らく、マニュラの宝はミリアが持っているんだろうね)
Я・E・Dは棚を丁寧に調べながらそう仮説を立てる。指輪という話だが、加工・改造されている可能性もある。爵位を象徴するものと言われて思いつくのは印章や宝石。アクセサリーの類ではありそうだが。
(小娘の生きる時間が増えた方法なんて、まともな方法じゃねー)
月夜は魔術の痕跡を探すべくそれらしき書物や物品を探す。そうして行き当たったのが1冊の日記だった。
「だいぶ状態が悪いな」
月夜が慎重に棚から抜き取り、近くの机でゆっくり開く。女性らしい筆跡に、ミルヴィは傍らのサンディへ視線を向けた。
「ね……これ、どう思う?」
「まず読んでみねーと。だが……有力な情報が得られるんじゃないか?」
この部屋にあるのだ、令嬢のもので間違いないだろう。いつまで日記を記せたのか定かでないが、そこに隠された情報がある可能性は高い――。
不意にがくん、とミルヴィが座り込む。驚いた3人が見やると彼女は焦った声を上げた。
「ご、ごめん。なんだか震えが止まらなくて……なんだろ」
自身も困惑する様子に3人は顔を見合わせる。これが屋敷に踏み込んだ時から迫る不安感の正体だろうか?
暫しして立ち直ったミルヴィと共に再び日記を読み始める。それを見てЯ・E・Dは振り返った。
「じゃあ、皆が読んでいる間にわたしはこっちを食べちゃうね」
Я・E・Dの身体から黒のオーラが噴出する。それは狼の口のような形を取り、部屋へ侵入したアンデッドへ顎を開けた。
どうしてその口は大きいの?
それはね――お前を食べるためさ。
●
「気味の悪い昔話だな」
シラス(p3p004421)はカンカンカン、と階段を降りながら呟く。多少蝙蝠の群れ――勿論モンスターである――に襲われはしたものの特段支障はない。他の3名もシラスに続いて階段を降りてきている。
2階へ続く階段と比べ、地下への階段は若干見つけづらい場所にあった。もともと誰かを案内するような場所でもないのだろう。
(こんな形で屋敷が残ってるなら、昔話も粗方は事実ってことか)
「お話を聞く限り『治療法』とやらが怪しいですね」
『悪徳貴族』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)の言葉にシラスは頷く。病弱な令嬢が快方へ向かい始めた事、それに対して屋敷が暗い雰囲気に包まれたという事。これらはバラバラに起こったことではなく、繋がっていると考えた方が自然だ。
「何か頼ってはならない手に縋ったんじゃないかな」
「ええ。……どんな技術かというのも気になりますが、『理由』もまた気になるものです」
ふふ、とウィルドは笑う。どこか楽し気に。だってどんな思惑がこの一家を狂わせたのか知ることができるのだ。きっと面白い話になる。
「こちらの呪いや魔術に関しては素人だけど、どこまで力になれるかしらね」
『灰色の魔女』タイガ(p3p009549)は階段を降りながら身の内にある力に意識を向ける。それはこの世界に来る以前よりずっと小さく、大きくまとめようとしても力が霧散してしまう。混沌肯定『レベル1』が機能しているのだ。
さりとて、この状況を看過できるわけではない。呪いなどが関わっているのならば破壊し、断ち切ることも考えなくてはならないだろう。
「暗いわね……」
『狐です』長月・イナリ(p3p008096)は暗視の効いた視界で辺りを見渡すが、それでも暗いものは暗い。少しでも平常心を保とうと深呼吸するが、如何せん暗がりというのは不安を増長させるものである。それでもその不安を押し込めるようにして、一同は地下へ辿り着いたのだった。
タイガは刀を地面へ落とし、反響した音を『記録』する。あとは思う場所で再生させるだけで良い。
『何か、いるわね……』
耳を澄ませたイナリは奥に蠢く存在を感知する。元より相手が気配を消すようなつもりがない、というかそこまで考える程の知性がなさそうだ。
『腐敗臭ばかりで気が滅入りますねぇ』
ウィルドも臭いで敵を察知した。とはいえそもそも臭う。換気も難しいだろう地下では服にまで臭いが染みつきそうだ。ウィルドのスーツも新調しなければならないだろう。
「行くぜ。止まってるのは危険だ」
何が起こるかわからない――シラスの言葉に一同は動き始める。盗掘者の手が入った痕跡がない場所へ慎重に向かい、時にはタイガが先ほどの音をイレギュラーズがいない方で再生させ敵の陽動を図る。そこへイナリが蹴撃の軌跡を叩き込む。沈黙したソレを一瞥し、一同は歩を進めた。
「ここは……既に荒らされたあとですか」
ウィルドは金庫らしき場所を見て興味が失せたように視線を逸らす。実際、興味が逸れている。必要なのは手つかずの情報だ。
「一体この屋敷から何が見つかるのかしらね」
イナリは小さく口端を上げる。楽しみである一方で、この屋敷に纏わりつく過去の残影は失くしてしまうべきだろう。令嬢のような妖魔がいるということだが、本人でないというのなら払いのけるのに容赦はいらない。
(姿だけ借りた魔物なら、いつも通り怪物の相手って話だ)
ドリームシアターで映し出した自分たちによって敵がそちらへ向かっていく。その姿を見ていたシラスはふとその服装に目を留めた。どれもすっかり擦り切れてみすぼらしくなっていたが、比較的新しい服を着ている者がいる。そしてそれは他のアンデッドとは違う服装のようだ。
(あれは盗賊か……それに、他のアンデッドはもしかして)
――当時、逃げ出した使用人がいた。つまり『逃げ出せなかった』使用人もいたのだろう。それらの末路はどうなったのかと疑問を抱いてはいたが、その体を朽ちらせることなく彷徨っていたか。
「ここは……む」
タイガが扉のドアノブに手をかけ、眉根を寄せる。振り返って呼んだのはイナリだ。
「鍵がかかっているようだ。内側から開けられないか?」
「やってみるわ」
イナリは頷き、壁へ集中する。押すように突き出した手は扉の向こうへすり抜け、イナリは部屋の内側へ潜入した。
(汚い部屋。でも情報はありそうだわ)
いかにもと言った部屋である。内側から鍵を開けたイナリは一同を部屋の中へ招き入れた。それに気付いたアンデッドがいくらか向かってくるが、ウィルドのレジストクラッシュに撃沈する。
「今のうちです」
ウィルドの言葉に一同は今度こそ部屋の中へ入る。早めに調べ物は済ませた方が良さそうだ。
イナリは本や書類をぱらぱらとめくり、瞬間記憶して後ほど見返せるようにと覚えておく。タイガは周辺に儀式の痕跡がないかと探した。
(甦りやそれに並ぶ魔術なんて、何処の世界でもデメリットしかない)
だから禁忌なのだ――とタイガは丹念に調べながら目を細める。どこの世界でだって、間違いを犯す者はいるのだ。
「……ふぅ。こんなものかしらね」
パタンと本を閉じたイナリは仲間たちへ視線を向ける。そしてふと気づいた。タイガが何かをぶつぶつと呟いていることに。シラスもそれに気付いて声をかけるが返事がない。何を言っているのかは聞き取れないが――。
「……っ、あ」
不意にタイガが大きく目を瞬かせ、呟きを止める。そして自身を見る仲間たちを見て何でもない、と首を振った。
「本当にですか?」
「勿論。けれど……この屋敷、長居はしない方が良さそう」
視線を巡らせる。発火で火を灯しても闇は暗く、重くのしかかってくる。これが精神を少しずつ蝕んでいくのだ。
「上に行きましょう」
「そうだな。合流した方が良さそうだ」
イナリとシラスの言葉に部屋を出た一同。そこでふとウィルドが声を上げた。次いでイナリも。
「霊がいるわ」
「失礼。貴方はここで働いていた方でしょうか?」
ウィルドの問いかけに、しかし霊は何とも答えなかったらしい。こちらも――この時点で連携はされていないが――2階にいた霊同様、自身を忘れてしまっているようだった。
「……思い出せないようです。行きましょう」
暫ししてウィルドが首を振った。時間はあまり残されていない。早くマニュラの宝を回収しなければ。
●
かくして、一同は1階で合流を果たした。周囲を警戒し、時たま襲いくるモンスターやアンデッドを撃退しながらも情報の擦り合わせを行う。
「小娘はまだ正常だったみてェだ。屋敷の違和感にも気づいていたらしい」
月夜は読んだ日記の内容を思い出す。元気になって喜んだのも束の間、屋敷の暗さに驚いたらしい。しかし両親からは原因を濁されたようだった。
「魔術痕跡は特にナシ。お宝もね」
あるのは価値のなさそうな過去の残骸ばかりだとミルヴィは肩をすくめた。2階には使用人たちの部屋もなかったため、あるとすればまだ調べていない1階やもう一方の向かった地下か。
「地下にはそれらしい資料が沢山あったぜ」
「ええ。人体の活性化、甦り……とか」
記憶したページを思い出すイナリの言葉に一同は表情を険しくする。やはり、手を出してはならないものに触れてしまったか。
「宝はミリアが持ってる、のかな」
「いや、そうとは限らないよ。呪具として機能しているのかも」
Я・E・Dの言葉にシラスが首を振る。勿論、シニュ=マニュラの悲劇と宝が無関係とは思っていない。
「でも、あるとしたらここだよね?」
「ああ。ミリアちゃんに良い影響を与えるためのものなら、そう遠くには置かないだろ」
ミルヴィの問いに答えながらサンディは寄ってきた蝙蝠を引きつけ、仲間たちの攻撃が滅多打ちにした。情報共有の最中にも調査を続けなければ時間がない。どちらのグループでも一時的に変調をきたした物がいると言う。全員がそうなってしまったら格好の獲物となるだろう。
「次は……ここだ!」
シラスが勢いよく開いた扉の先。2階に行った者たちはそこがミリアの部屋の真下であると気づく。そして――テーブルへこれ見よがしに置かれた台座と、妖しげな少女にも。
「よお、俺はサンディ。ここで何してるんだ?」
そこへ躊躇いなく声をかけに行ったサンディは、しかし彼女の纏うオーラに背筋を粟立たせた。
「わたし? ここをね、『守って』いるの。あなたたちは?」
「俺たちは探し物をしていて――」
殺気。突如放たれたそれにイレギュラーズもまた動き出す。
「抑えこむぞ」
月夜とサンディでミリアの動線を邪魔する。ウィルドも併せて参加し、3人がかりで周りを固められた少女は突風を巻き起こした。あわや後方へ飛ばされそうになる一同はしかと足を踏ん張る。
「――そこ!!」
風の止んだ瞬間、ミルヴィが鋭く攻め込む。花吹雪のような剣舞に合わせ、雷電を纏ったイナリが獣の如く攻め立てた。
(……誠に、自分が弱くなったことを実感させられる)
魔法を練り上げる集中力、そして魔力。以前とは比べ物にならぬほどの疲弊。早く力を取り戻さなければ――だが、それよりも。
「皆、撤退だ!」
一同の攻撃にミリアの注意が逸れた一瞬を突き、シラスが指輪を手に入れる。なるほど、宝はシグネットリングか。
返して、という声と共にミリアが撤退を図る一同を追いかけてくる。そこへ立ち止まった月夜はニッと後端を上げた。
次、確実に屠るために。今ばかりはその身を彼女の前に晒す。何、仲間が逃げ切るまででいい。
「血濡れたダンスパーティと洒落込もうぜ、クソガキ」
こうして、1人が重体を負う事態にはなったものの。イレギュラーズたちの活躍により宝は回収され、屋敷にかかった不可思議な状態も解けたと後の報告書に綴られた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした、イレギュラーズ。
魔物は残っているようですが、再びの立ち入りが可能になったようです。
それではまたのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●成功条件
マニュラ家の宝を持ち帰る
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。不測の事態に気をつけてください。
●エネミー
・一つ目コウモリ
ぎょろりと大きな一つ目を持つコウモリです。屋敷の暗がりに住み、目から不思議な光を放ってきます。
そんなに強くありませんが沢山います。
・アンデッド
屋敷を徘徊するアンデッドです。その身なりはかつて使用人だったことを思わせます。意思らしい意思はなく、生者を見ると襲いかかってきます。日の光がある場所へは向かいません。
そこまで機敏ではありませんが、力はかなり強いみたいです。
・『令嬢』ミリア=マニュラ
亡きマニュラ子爵の愛娘らしい姿をとった妖魔です。美しい少女ですが、その身から漂うオーラは人の感覚を狂わせます。
彼女は今日も屋敷のどこかを彷徨っているのでしょう。
複数人で相対しても十分危険な相手です。
●フィールド
マニュラ子爵邸。もはや廃墟であり、魔物の巣窟です。
貴族らしい内装ですが埃を被り、また朽ちている場所もあります。灯りはつきません。また、遺体が転がっていることがあります。
下は地下1階、上は2階まで。書斎、食堂、応接室……おおよそありそうな部屋はあります。調べたらこの屋敷で起こったことについても知ることができるかもしれません。
この屋敷では特殊ルールが課せられます。
敷地内にいる限り、一定時間ごとに【不安度】が生じ、上昇します。
【不安度】は敷地を出ることで解消されますが、代わりに【金縛】が生じます。
また、夜が来ると強制的に【金縛】が生じます。
【不安度】はその累積数によってキャラクターへデバフを付与することがあります。何が起こるかはわかりません。
【金縛】の付与されたキャラクターは今後、敷地へ踏み入ることができません。敷地内で【金縛】になった場合、動くことができません。
※特殊ルールの【不安度】、【金縛】、及び関係するデバフについては回復スキルで治癒できません。
●マニュラの宝
子爵家に代々伝わる宝であり、その爵位を象徴するものです。指輪だと伝わっていますが、マニュラ子爵の遺体は指輪を身に付けていなかったそうです。
どこかは置いておいたのか、或いは……。
●ご挨拶
愁と申します。
朽ちた屋敷での宝探しです。強敵にしっかり準備をして向かいましょう。
到着は距離的な問題で午後になります。必ず夜が来るまでに敷地を脱出することを忘れずに。もしかしたら――食べられてしまうかも。
ご縁がございましたらよろしくお願いいたします。
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