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シナリオ詳細

ブラッディマリーは夜更けまで

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●チョコレートクッキーの忘れ物
 ホールデン秘密教会スナーフ神父より、アーリア・スピリッツ(p3p004400)へ。
 至急。
 妹メディカ氏が昏睡状態から回復。覚醒した。
 しかし覚醒から二日後、教会から失踪。天義の町ヴァルピイへ向かった模様。
 捜索を願う。

●『神の鉄槌』メディカ
 知らせを受けたアーリアが仲間を集めヴァルピイの町へ向かったのは、手紙をうけてすぐのことだった。
 失踪がわかってからそれなりの日数が経ってしまっているとはいえ、目覚めた妹を放っておける筈が無い。
 もしあなたがことの事情を知らないのであれば、当事者である彼女から聞くべきだ。
 そう、この揺れる駅馬車の中で。

「この子は私の妹、メディカ。二つ名は『神の鉄槌』。
 仲は……そうねぇ、とても良いとは言えないわぁ。
 最後に会話をしたときが、殺し合ったときだったから」
 遡るは月光人形事件。死者を摸した人形が現れるという事件に遭遇した際に、メディカはそれを神の奇跡だと信じてしまった。今思えば天義転覆を狙う枢機卿派の情報工作があったのだろう。結果として法王たちより月光人形破壊の依頼を受けたアーリアたちと対立し、互いに信じるもののために殺し合うこととなった。
 結果、メディカは深い昏睡状態に陥ったまま事情を知る神父によって国民から隠蔽、保護されたのだった。それは彼女への断罪を避けるためだったが、何よりも問題だったのは、彼女が目覚めたとき自分の行いをどう考えるかだった。
「あの子は昔から敬虔な神信者だったわぁ。少しでも不正義のあるものを見つければ、それを破壊した。実の母親でさえも」
 そんな彼女が事件に巻き込まれる以前に担当していた仕事が、ヴァルピイという町に巣くう『吸血鬼』の退治であった。
「吸血鬼といっても、ニンニクを嫌ったり十字架を恐れたりする怪物じゃあないわぁ。
 人間に擬態して、血液を吸い上げる習性をもつモンスター。以前にもそんなモンスター退治をローレットの依頼として受けたこともあったけど……まあ、この話はいいわね」
 小さく首を振って、アーリアは一番大事なことを言った。

「あの子は、やり残した仕事をしようとしてる。
 自分への断罪や、私への……『何か』よりも、優先して」

 ――さて、ここまでが前置きである。
 ――では今回の事件に触れよう。

●吸血鬼喪失
 ヴァルピイの町へ到着したイレギュラーズたちが聞かされたのは、三つの情報であった。 町に暗躍していたモンスターである『吸血鬼』は半月ほど前から忽然と現れなくなったこと。
 この調査のため町に入った異端審問会イスカリオテ第十三部隊は、一人また一人と姿を消し、今ではその全員が行方不明になっていること。
 そしてメディカという女は確かにこの町にやってきたが、彼女もまた消えてしまったということ。
 いや、もう一つだけあった。
「いま、この町に沢山の怪物が入り込んでいるんです。町の情報屋の話では、あれは『聖獣』というらしいんですが――」

 聖獣『ストリゴイ』。
 膨れ上がった手足をもち首をもたない人型のモンスターである。
 人間を喰らう性質をもち、その怪力と自由な変形能力によって獲物(人間)をとらえ、へし折り、動けなくなったところを食うと言われている。
 独立都市アドラステイアから生まれたといわれ、やや離れたこの町へピンポイントに発生している理由は不明である。

「騎士さんが対応しましたが、怪物との戦いに敗れて……。
 もう町の東側は奴らのせいで放棄せざるをえない。まだいくらか住民が残っているのに……。
 連中を倒してはくれませんか。このままでは、この町は……」
 町民の言葉に、あなたは。

GMコメント

■オーダー
・成功条件:ストリゴイ全固体の排除(撃破、または町からの逃走)
・オプションA:ストリゴイ全固体の撃滅
・オプションB:取り残された住民を5割以上生存させること
・オプションC:取り残された住民を全員生存させること
・オプションD:異端審問官たちが失踪した理由を調べるor考える
・オプションE:吸血鬼が姿を消した理由を考える
・オプションF:メディカの行方について考える、または調べる

 オプションを満たそうとすればするほどプレイング難易度が上昇していきます
 あっちこっち手を伸ばしてしまうとバーストして依頼失敗のリスクを負うことになります
 まずは参加者の皆さんで相談して、最終的に目指す目標を定めておくのがベターです
(余裕があったらやっておく。余裕がなければ諦める、といったスタイルはプレイング空振りリスクを負うのでお勧めしません)

■これまでのあらすじ
 アーリアによって急ぎ集められたローレット・イレギュラーズは妹捜索のため天義の町ヴァルピイへ入ったが、町へ入ってから消息が掴めなくなってしまった。
 そんな町に時を同じくして多数発生した聖獣『ストリゴイ』。
 常駐していた騎士も倒されてしまった以上、このまま放置すれば町は怪物に滅ぼされてしまう。
 ローレット・イレギュラーズは行動目的を一時変更し、聖獣討伐のために動き始めるのだった。

 この町から忽然と消えた吸血鬼たちの謎とは。その直後に発生したという異端審問官たちの失踪の謎とは。そして妹メディカの行方とは。
 謎を胸に抱えたまま、しかし戦いは始まる。
 とても、これが『無関係』とは思えないまま。

■フィールドデータとオーダー内容
 オーダーの正しい内容は『聖獣ストリゴイの討伐』です。
 町にいる全固体を撃破、ないしは逃走させれば成功条件が満たされます。
 ヴァルピイの町東側全体が今回のフィールドとなります。
 町中には取り残されている住民がいくらかいます。数は分かりませんが、確実に助けを求めているので『人助けセンサー』や『感情探知』が有効です。
 実際見つけた際に襲われている可能性を考慮して、横から割り込んだり最悪庇ったりすることも検討しておきましょう。
 また、もし住民をできるだけ多く保護するなら、できるだけ多数にチームを分断する必要が出ます。ただしその場合戦力の低下も発生するので、リスクと相談しながら決めましょう。

 ストリゴイ全体の個体数は(厳密な理由は定めませんが)皆さんが走り回った結果わかるものとして判定します。

■エネミーデータ
・聖獣『ストリゴイ』
 膨れ上がった手足をもち、首をもたない人型の聖獣です。
 アドラステイアから生まれたとされており、アドラステイア周辺でも同一種が目撃されています。
 二足歩行し、怪力によって人間を叩き潰して喰らう習性があります。
 また肉体を変形させる能力をもち、長く触手を伸ばしたり翼をはやして一時的に浮遊したり、腕を巨大化させてハンマーのように振るったりと多彩な利用をします。
 最も直接的に利用されるのは捕食時で、獲物を自分の肉体にずぶずぶと埋め込んで内側で溶かすという方法で人を喰らいます。

●独立都市アドラステイアとは
 天義頭部の海沿いに建設された、巨大な塀に囲まれた独立都市です。
 アストリア枢機卿時代による魔種支配から天義を拒絶し、独自の神ファルマコンを信仰する異端勢力となりました。
 しかし天義は冠位魔種ベアトリーチェとの戦いで疲弊した国力回復に力をさかれており、諸問題解決をローレット及び探偵サントノーレへと委託することとしました。
 アドラステイア内部では戦災孤児たちが国民として労働し、毎日のように魔女裁判を行っては互いを谷底へと蹴落とし続けています。
 特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/adrasteia

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • ブラッディマリーは夜更けまで完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年02月17日 21時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

リプレイ

●「間違えたのなら、やり直せば良いのです。けれどやり直せもしないなら……取り返すしかない。そうしなければ、生きていけないから」
 風にふくらむ窓辺のレースカーテンと、お皿に積み上がったチョコレートクッキーが、まだ心の中にたゆたっていた。
 血塗れの石畳の上で。
 ひどくひしゃげたガス灯と、ショーウィンドウの砕け散った洋服店と、ただひとつ飾られた赤黒いドレス。
「…………」
 優しく微笑む母の偽物と、自分たちを『断罪』しようと襲いかかった妹の風景が、まだ心の中にくすぶっている。
 きっとみんな、彼女を責めるだろうけれど。
 彼女はあのとき、確かに、正しさのために戦っていた。
 それが間違っていたからって……。
「ん、んん……」
 スキットルに手を伸ばして、中身が空だった事に気付いた。
 『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は力なく腕を垂らし、目を伏せた。
「アーリア……」
 『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)は幼子のように囁いて、続けて述べようとした言葉を飲み込んだ。
 そして二度ほど瞬きをすると、アーリアの隣にたって無表情のままクイッと自分を指さしてみせる。
「妹は可愛いものでありますよね。わかるであります。
 その子もきっと自分の次くらいにはカワイイでありますよ」
「そうねぇ。エッダちゃんは可愛いものねぇ」
 いつものように、蕩けるように笑うアーリア。
 これでいい。
 今は。
 後ろから様子を見ていた『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)は、腕組みをしたままあえて声をかけなかった。
(はっ、寝かすまでも苦労したのに起きたら起きたで勝手に行動ですか。アーリアさんには悪いですけど精々起きたらこっちに迷惑かけた分は生きて苦しんで貰う心算だったんですけどね)

「今回の目的は聖獣ストリゴイの撃滅ですが、東地区にはまだ取り残された方も居ると聞きます」
 『折れぬ意志』日車・迅(p3p007500)は軍靴の踵でドンと床を叩くと、いつでも駆け出せるよう全身に気合いをみなぎらせていた。
 こっくりと頷く『太陽の勇者』アラン・アークライト(p3p000365)。
「半端はしねぇ。全員救出するのが目標だったな」
 アランたちはこれより東地区を右左中央と三レーンにわけて探索し、生存者を発見し次第退避させるという方針をたてていた。
 道中ストリゴイと遭遇した場合はこれと戦闘し、撃滅してから再び探索を進めるというものである。
 アランの感情探知をはじめ、各チームに生存者を発見するのに適したスキル持ちが配置されたことで取り逃しを回避している。
 この作戦のネックになるのはやはり、ストリゴイと遭遇した際の『処理速度』だろう。序盤で足止めをくっていては、端まで探索を終えるまで時間がかかり、それだけ犠牲者が出るリスクが高まる。
 生存者の探索とストリゴイの撃滅にチームを分けたり、遭遇するたびに一人ずつあてて探索速度を優先させるという選択はしなかった。その点は安定性を重視した作戦だと言えるだろう。
 そうした作戦を一通り頭にたたき込んだ後、『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)はチームメイトの利香や迅たちと共に歩き出した。
(考えたくはないが……異端審問官や吸血鬼たちがイコルによって聖獣にされた可能性もあるな)
 昨今、聖獣も元は人間であったのではという疑惑がローレット内で広がっている。実際目の前で子供が聖獣に変化したという仲間の報告も得ていることから確実だが……根拠という意味では弱い段階にあった。
 アドラステイア内部で製造されているイコルという薬品の過剰摂取、ないしは長期摂取によって肉体が聖獣化するというデータは得ているが、それだけが原因であると考えるのは早計だった。そも、イコルの成分は半分まで多幸感を得る『ある意味普通の薬品』だが、もう半分の『血液らしい何か』が厳密に何かは分かっていないのだ。
 さて、おき。
「失われていい命なんて何一つないんだ。
 まだ間に合う。残された人々を、守りきるんだ」
 天義の騎士として。ひとりの男として。
 『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)は強い使命感と正義感を輝きに変え、歩き出す。
 それは彼のチームメイトである『黒狼領主』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)も同じことだった。
「まだ残されている命があるならば、是非も無し。
 騎士としてこの町の住人を守る、それだけだ」
「ああ、その通りだマナガルム」
 かざしたマナガルムの槍に、リゲルの剣が交わる。
 それは国を超えた二人の偉大なる騎士が、無辜なる生命を救うべく協力する姿そのものであった。

●「断罪はされるべきです。頭を叩き潰し、次なる不正義への抑止とすべきです。ただし私自身が不正義であったなら、頭を叩き潰すなど生ぬるい」
 扉をノックする音がする。
「ここを開けてください。ネメシス正教会の者です。もう外は安全です。あなたがたを保護しに来ました」
 ドンドン、ドンドン。定期的に、まるでそう整えられた機械のような正確さで扉をノックしている。
 ノックの音は次第に大きくなり、やがてハンマーのようなもので扉を強く叩き始めた。
 チェーンをかけていたドアノブが破壊され、玄関へと転がる。
 開いた穴から、真っ赤な目が覗いた。
「ここを開けてください。ネメシス正教会の者です。もう外は安全です。あなたがたを保護しに来ました」
 全く変わらないトーンでいう。そう整えられた機械のように。
 次なる打撃によって扉は壊され、玄関に押し当てた棚やテーブルといったバリケードを粉砕しながら真っ赤な物体が屋内へと侵入してくる。
 まるで血を固めたような色と質感。2m強の人型をしているが、首に顔らしきものはない。代わりに胸元から浮き出た腹話術人形の口めいたものがパクパクと動き、こう発した。
「ここを開けてください。ネメシス正教会の者です。もう外は安全です。あなたがたを保――」
 右腕が膨らみ、タコ足のように分裂する。その先端が槍のごとく尖り、身を寄せ合い震える親子めがけ――。
「そこまでだ」
 反対側の窓を突き破り、ポテトが屋内へと侵入。
 割れたガラスで頬をきりつつも転がって、親子の前へと割り込んだ。
 放たれた槍触手の一本を手で掴み、のこる数本が身体に突き刺さる。魔法の鎧によって貫通はとどめたものの、血を吐くほどに苦しい。
「ここを開けてください」
 全く同じトーンで声を発しながら、触手によってポテトを絡め取り胸元の口を強大化。飲み込もうと口を開く。
 と、そこへ利香と迅が全く同時に攻撃をしかけた。
 玄関口から回り込み背後から迫った利香の剣が赤い怪物――聖獣『ストリゴイ』の背に突き刺さり、そうして固定されたストリゴイのヘッドへ迅の飛び膝蹴りが打ち込まれる。
 ばきんという音をたてて砕ける頭部。
 しかし迅の表情は渋かった。
(手応えを感じない……! 脳はここにはないのか!?)
 ズッ、と両肩から新たな腕が生えたのを目にした所で、迅は大声で叫んだ。
「利香殿、ポテト殿! 一般人を庇って外へ!」
 対して利香の行動は早かった。剣を素早くストリゴイから抜き、飛行によって天井すれすれまで飛び上がると直角なカーブをかけて壁際の親子をキャッチ。窓から二人を放り投げると、自らの飛び出し混乱する親子を抱えたまま猛然とダッシュをかけた。
 直後、背後で家屋が崩壊する。
 掴んだ迅を振り回し投げ飛ばしたことでの副次的な倒壊である。大事な柱がいくつかやられたのだろう。
 ポテトに回収された迅は口元に流れる血を拭って立ち上がった。
「この辺りにまだ二人ほど隠れている一般市民がいます」
「そうだね。怖がってる」
「ですがその方々をストリゴイから庇い続ければ……」
 言わんとすることを察して、親子を背後に庇う姿勢をとった利香が眉間に皺を寄せた。
「大丈夫。幸いまだストリゴイはこの親子以外の市民に気付いてない。三人で倒せばこの場はしのげる筈です」
 退けば人が死に、時間をかけてもまた死ぬ。かといって汗って振り回せば他の生存者の存在に気付かれてしまうかもしれない。
 今居る親子だけでも保護しながらこのエリアを脱出すれば、確実にこの二人は助けられるが……。
 ポテトたち三人は、瓦礫のなかから這い出るストリゴイへと身構えた。
「これ以上誰も死なせない。退かない。ここで倒す! 今すぐにだ!」

●「あなたの弟さんが『どう』なっていたとしても、私は必ず断罪するでしょう。私に出来るのは、叩いて潰すことだけ。それが不服であれば、あなたが先に断罪するしかありません。あなたのやり方で、この国の正義が納得する形で」
 蜘蛛のように脚を増やし民家の屋根上を走るストリゴイ。
 エッダは同じように屋根の上を走り、屋根から屋根へと豪快にジャンプした。彼女の腕の中には幼い子供。
 さして間があいていなかったこともあってうまく着地できたが、その直後にストリゴイもまた跳躍。エッダの真上に影がかかった。
「は! この攻撃はもしかしたらお前らにゃ『効く』かもなぁ!?」
 と、その瞬間横から割り込んだアランの『アクセル・ジャベリンEX』が炸裂した。
 貫いたストリゴイをそのままかっ攫う形で路上へと転落。
 アランは敵を下敷きにした状態で無理矢理に着地した。
「アラン様、お早く。雑魚にかける時間はないでありますよ。
 腕っぷしの見せどころであります」
 声をかけてやると、アランは『分かってる』と言うように視線を反し、手のひらをふることで『さっさと行け』と示した。
「狙うなら俺らを狙えや、美味いぞ? ってなぁ!!」
 あとをアランに任せ、彼らが転落したのとは逆方向へと飛び降りるエッダ。
 地面に子供を下ろしてやると、小鳥を呼び寄せたアーリアが彼の肩に小鳥をとまらせた。
「安全なルートをこの子が教えてくれるわぁ。この子を追いかけて走ってね。決して、振り返らずに」
 『できる?』と微笑んで語りかけるアーリアに、子供は涙ぐみながら二度だけ頷いた。
 そして、予め上空から確かめた安全ルートをたどるように小鳥が飛び立っていく。
 直後、アランを掴んだまま民家の壁を破壊し、ストリゴイが現れる。
 掴まれた腕を切り裂いて離脱するアラン。
 その隙をつくかのように殴りかかるエッダ。
 インパクトの瞬間、アーリアは二本指で投げキスを放った。
 黒い星型の魔力塊が生まれ、弾丸のようにストリゴイへと打ち込まれる。
「あの子は追わせないわぁ」
「おまえは死ぬのであります。いや……もう死んでいたでありますか?」
 一般市民を見つけ次第敵からの攻撃より庇い、迅速に敵を撃滅する。
 このプランは撃滅に要する時間もさることながら、一般市民を逃がすのに正しいルートを選定しなければならないことや、その際ストリゴイの追跡をさせないために押さえ込む必要が生じていた。
 速さ、正確さ、そしてある意味での『取捨選択』。
 それらを背負った上で、エッダたちは踏ん張ることにした。
「一つでも多く救う……否、全員救う。
 それと勿論、貴女も護るでありますよ。アーリア」

●「私はあの『吸血鬼の王』を討たねばなりません。私が誤り、その取り返しがつかない以上、残した仕事は完遂しなければなりません。まずは、然るべき武器を手に入れるところからでしょうか」
 六つの翼でホバリングをかけながら、六つの腕を剣に変え高速かつ連続で斬りかかるストリゴイ。
 血のように赤い刃を剣と盾でそれぞれ受け流しつつ、リゲルは奥歯をかみしめた。
「俺達が守ります! 落ち着いて避難してください!」
 背後には、ぺたんと地べたに座り込んでしまった男とそれにすがりつく女性。恋人同士なのだろうか。互いに身を寄せ合い、震えているように見えた。
「に、逃げるたってどこに! この町はもうバケモノだらけなんじゃないのか!?」
「いいえ、私たちが通ってきたルートを逆にたどれば敵はいないはず。私たちを信じて!」
 リゲルのまっすぐな言葉に勇気をうけたのか、男は女の手を握ったまま立ち上がった。
「わ、わかった。ヒューガー通りの二番を西にぬけてまっすぐ……だったよな」
「そうです。お気をつけて」
 走り去る音と『あなたも!』という返事を聞きながら、リゲルはストリゴイの剣を払いのける。
 直後、同じように敵の攻撃を払いのけたマナガルムが後方飛びによってリゲルと背をあわせるように立った。
「他にも我々の様な者が動いている。すまないが、我々はこいつらの相手をしなければならない。走れるか?」
 マナガルムが呼びかけたのは、大型犬のリードを握った少女だった。
 涙をたたえた顔をぬぐい、頷いて走り出す少女。
 それを一旦見送ってから、『もう一体』のストリゴイをにらみつけた。
「……」
 ストリゴイはマナガルムと少女を交互に見た後、腕を大砲に変えて少女へと向ける。
「させない……!」
 判断は一瞬。決断は刹那。行動は音を越え、槍を斜めに構えたマナガルムが少女との間に割り込んでいった。
 放たれる血色の魔術光線が直撃し、マナガルムは数メートルほどを吹き飛ばされる。
 ガス灯の柱にぶつかって地面に転がるが、すぐに槍をとって立ち上がった。
「マナガルム、こいつらは……」
「ああ、一対一で持ちこたえるには厳しい相手だ」
 大抵の相手ならば完封しかねない堅牢さをもつマナガルムとリゲル。
 しかしそんな彼らをもってしても厳しい戦力を、このストリゴイはもっているようだった。
 だが、ここで退くことはない。
「生憎と諦めは悪いほうでな、例え救う可能性が低いと言われようとも──俺になし得る何かがあるなら、俺はこの手を伸ばすだけだ」
「騎士の双璧、この剣と槍を折れるものならやってみるがいい!」
 少女や恋人たちを追いかけようとするストリゴイに立ち塞がり、マナガルムとリゲルは誇りをもって吼えた。

●「罪は罪であることが最大の罰なのです。すなわち罪を罪と認めぬことは、最大の罰を逃れること。私の鉄槌は、罪認の代行なのです」
 死屍累々の町を走り、ストリゴイを狩る。
 ポテトは潤沢な魔力を惜しげも無く解放して『天使の歌』を連発すると、空中より大砲を三つに増やして血色の光線を浴びせてくるストリゴイの攻撃をギリギリのところでしのいだ。
 いや、ギリギリとは言いがたい。
 迅は血を吐き折れた片腕をぶらさげながら、獣のように吼えて走り出す。
「飛べば済むと思って調子に乗ってんじゃないわよデブ野郎!」
 光線のダメージをはねのけて飛び上がった利香が、空中のストリゴイを斬り付けて墜落させ、その隙に迅のパンチが胸の中央を貫いていく。

 と同時に、リゲルの白銀に輝く剣とマナガルムの勇猛な槍がそれぞれストリゴイの胴体を貫き、ナイフとフォークの要領で真っ二つに切り裂いていく。
「なん……とか」
「ああ、倒しきった……」
 崩れて動かなくなったストリゴイ固体を見下ろし、その場にばたんと仰向けに倒れるマナガルム。
 ぜえぜえと荒い呼吸をし、髪は汗でびっしょりと濡れていた。
 リゲルから水筒をうけとり、自分の顔に水をかぶる。
「確かこの町は、メディカが異端審問官として赴任していた場所だったな。拠点となる教会があるはずだ」
「それについては調べがついています。この地図の場所へ行くといいでしょう」
 渡されたメモを受け取り、マナガルムはリゲルの顔を見た。
「リゲルはどうする」
「私は聖獣を解剖してみます。仮にこの地の審問官が聖獣にされたのであれば痕跡が見つかるかもしれない」

 倒したストリゴイを切り刻んだアランは、ストリゴイの肉の中に埋まっていた丸眼鏡を手に取った。
「こいつは……『食われた』奴の残骸か?」
「だったら、『マシ』なんですがね」
 エッダはそう言って、アーリアへと振り返った。
「分かってる……分かってるわ。まずは聞き込みを始めましょう」
 考えるべきことはあまりにも多い。
 そのすべてを一人きりで抱えるのは困難だった。
 けれど、ひもとくことはできる。
 屍に寄生する魔物『吸血鬼』、それを狩る『イスカリオテ第十三部隊』、そして生きたまま吸血鬼になったという『ブラムス』。
 これらの中にある矛盾を、アーリアは戦いの中で思い出していた。
「ブラムスは言っていたわ……自分は吸血鬼になったあと倒され、人間としての意識を取り戻したと。それを信用されず命を追われたと。けど、その特徴って……」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

日車・迅(p3p007500)[重傷]
疾風迅狼
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)[重傷]
戦輝刃

あとがき

●リザルト
 ――成功条件達成:ストリゴイ全固体を排除しました。8割の固体を撃破し、残り2割は町から逃走した模様です。周辺騎士たちに通報し、包囲を固めさせました。近いうちに残る固体も撃破されるでしょう。
 ――オプションB達成:エリアに取り残された住民のうち約9割を生存させました。
 ――オプションD達成:ストリゴイの死体から異端審問官イスカリオテ第十三隊隊長スティーブンの遺品が発見されました。審問官は死亡したものと思われます。
 ――オプションF達成:メディカの務めていた聖ムロニ教会の証言により、メディカが教会を訪れ古い『銀の鉄槌』を持ち出したことが判明しました。行き先は告げませんでしたが、その他様々な聞き取り調査の結果、高確率でアドラステイアへ向かったとされています。

 ――シークレットオプションH達成:ブラムスの証言を思い出し、ローレット内で共有しました。
・『吸血鬼』は人間に寄生すること。屍のみに寄生すると思われていたが、生きた人間にも寄生が可能であった。
・多くの場合殺され宿主も生き残らないが、偶然不殺攻撃によって倒されたブラムスは寄生状態が解かれ人間に戻ることができた。
・肉体に僅かな変異が残ったことから審問会は彼を継続して吸血鬼と認定し、抹殺をはかっていた。
・当時全く未知の存在であった『吸血鬼』が解明されることを願ってローレットたちにこれを打ち明けたが、謎のピースは今現在揃いつつある。
・『吸血鬼』の特徴は、非常に『【複製】肉腫(ペイン)』のそれに近い。

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