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シナリオ詳細

<アアルの野>砂上の楼閣

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●憧憬
 かつての憧憬。
 異形の怪物と、一人の女剣士が向き合っている。
 怪物の黒い身体に三日月のような口が浮かんでいた。
 その身体からは、不気味な音がこだましていた。怪物は、飢えているのだ。
「ふむ、手配書の通りじゃのう」
「団長、そいつだ! そいつは討伐対象だ! 旅商人の家畜を襲ったモンスターだ! いいか野郎ども、合図で一斉に」
「待て、”撃つな”」
「へ?」
 ルウナ・アームストロングの声に、団員たちはぴたりと弓を引き絞る手を止めた。ルウナはゆっくりと、化け物の前に歩み出る。
「お前、こちらの言葉が分かっておるんじゃな?」
 異形は様子を見ながら、じり、と下がる。今にも飛びかかるのではないか――。傍目にもそう思われた。しかし、ルウナには隙がない。
 本能により、怪物は嗅ぎ取っていた。
 ルウナは、強い。事実、傭兵団「幻戯」の団長として、荒くれ者たちをまとめ上げるルウナ・アームストロングの腕は並ではなかった。
(ならば、逃げるべきか。しかし――)
 怪物には理解できないことに。その剣士には、敵意というものがまるでなかったのだ。
「ふーむ、モンスターとは思えんのじゃよなあ。なあ、お前、口はきけるか?」
「?」
「会話はできるか、と聞いているのじゃが」
 発生器官による意思疎通のことか――怪物は理解し、似た姿をとる。
『……可能だ』
「ほう。話が通じそうじゃのう。要求はなんじゃ?」
『要求?』
「何がしたい?」
 少々面食らって、怪物は考える。他者にこの衝動を伝えようとしたことはなかった。
『はらがへった』

●傭兵団「幻戯」
「まーた団長がへんなのを連れて帰ってきたよ」
「お前たちと似たようなもんじゃろう」
「ど、どこがです!?」
「食い意地がはっとるじゃろうが」
「ええー」
 数奇な運命をたどり、恋屍・愛無(p3p007296)は先ほど殺し合いをするはずだった傭兵団と食事をとっていた。
 討伐対象を連れて帰ってきたことに、傭兵団の連中はぎょっとするが、不思議なことに、すぐに受け入れているようだ。
 牛一頭を平らげていたが、それでもまだ食事を続ける。
「一つ。教えておいてやろうかのう。食事の時は、いただきます、ごちそうさま、じゃ。ほれ」
『……いただきます』
「うむ」
「団長、こいつ、スカウトするんですか?」
「お前なんぞよりもずいぶん見所があるぞ。事実、強い。モンスターと間違われるくらいにはのう。どうじゃ? 悪いようにはせんがのう? というかお前、もっと強くなるとみた。鍛えてみたい、鍛えてみたいのう」
「……いや、さすがにこれは」
「姿形がちと変わっててもじゃ、言葉が通じれば十分じゃろ。というか強ければいいじゃろ、めんどくさい」
「俺たち、いつか食われるんじゃねぇか」
 愛無はちらりとそんな軽口をたたいた男を見る。
『……まずそうだ』
「ぶっはは、言えてるなあ」
「ほれ、お代わりはどうじゃ。酒はいけるくちか?」
 その集団は、奇妙で、おそらく居心地がよかったと形容するのだろう。
 いつしか、共に過ごす時間は、かけがえのないものになり――。

●ホルスの子供達
「のう、愛無。あの頃は良かった――などと聞いたら笑うじゃろうか?」
 あの頃の「幻戯」は良かった。一癖も二癖もあったけれど、気の良い者ばかりで。黄金を求めて一晩の酒代に消えたこともあったし――盗賊団を壊滅させて地元の住民から歓迎されたこともあった。好きに生きて、そして――。あの時。
「のう、愛無。――お前の言葉に、心が揺らいだと知ったら笑うじゃろうか。儂は今も……裏切られて、全てを失った今も――まだあの日のことを夢に見る。栄光にあふれていて、何でもできると思っておった、あの日のことを、じゃ」
 振り返りはせぬと決めた。
 土塊が起き上がる。
 力が、全てだ。力がないから「幻戯」はなくなった。だから求めて、求めて、求めて――ルウナは魔種にまで身を落とし、強くなりたいと求めて。ここまでやってきた。
 ファルベライズ中核。
 この土くれは、博士と呼ばれる錬金術師の作品らしい。そのなり損ないがうち捨てられている。屍があちこちに転がる風景は、まるで、あのときのようじゃないか。思わず名前を呼んでいた、のかもしれない。
 また、名前を呼んだのか。無意識のうちに。
 起き上がった一人を、ルウナ・アームストロングは斬り捨てた。
「今の儂には、必要のない感傷じゃのう」
 中核に向かう。
「のう、愛無。儂は、力があればほかにいらんよ」

GMコメント

●目標
 ホルスの子供たち『幻戯』のなり損ないの討伐
 そして、ルウナに追いつくことです。

●登場
『愛無』×3
 恋屍・愛無(p3p007296)さんとよく似た『ホルスの子供たち』です。
 おそらくは、ルウナが名前を呼んだことにより発生しました。幻戯を守ろうとしているように思えます。
 3体はおそらく、出会ったばかりのもの。戦いに慣れてきたころのもの。そして――今の状態に近いものです。
 しかし、不完全でもあり、本人よりは弱いでしょう。話はまともには通じません。

ホルスの子供たち『幻戯』×10
 うち捨てられたホルスの子供たち。
 ルウナ・アームストロングがかつての傭兵団の団員の名を呼んだことにより、偶発的に中途半端な土塊となってよみがえりました。強さは、廃棄品であるために中途半端です。
 もう数名いましたが、ルウナが切り捨てた形跡があります。やはり、話はまともには通じないでしょう。

●ルウナ・アームストロング
 力を欲して、中核へと進んでいます。

●場所
 中核内部クリスタル遺跡です。ルウナの心を映しだしたかのように、襲撃を受けた戦場です。

  • <アアルの野>砂上の楼閣Lv:10以上完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年01月24日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
エル・エ・ルーエ(p3p008216)
小さな願い

リプレイ

●ひたむきに続く道
 かつての「幻戯」。その団員たち――。
 これはルウナの見た夢なのだろうか。
 敵意を向けるどころか、彼らはあの、人なつこい笑みを浮かべて。
 在りし日のまま。
「よう、愛無! おっきくなったか?」
「へえ、やる気か、それじゃあちょっと遊んでやるよ」
「よく言うわね、アンタ一度でも勝てたことあるの……」
『砂の幻』恋屍・愛無(p3p007296)は呼びかけに応えない。
 振り返らず、戦場を駆け抜けていく。その両手は前腕へと変じた。
 姿勢は低くなり攻撃をかわす。感傷を振り払うように、触手をそのまま叩き付ける。
――ルウナが、もう振り返らぬと決めたもの。
 愛無の攻撃は正確だ。
 動揺はしていないはずだ。頭の中は冷静で、反射的な判断は常に正しい。
(彼らの意志は僕と共にある、などと言わないが。彼らは、ただの「障害」だ。邪魔をするなら容赦はしない。戦うだけだ)
 けれど、思考はあふれ出す。否応なしに考えてしまう。
 強さということを。
 弱さというものを。
 愛無は壁にとりつき、そのまま跳躍する。
 ただの「人」であれば対応できない動き。
 愛無の戦い方を知っている団員であれば――。でも、やはり。やはり人形は、みてくれだけの土塊に過ぎない。ぽかんと口を開けていて、やはり彼らではない。
(だが。ある意味で僥倖か。僕は超える。過去を。僕は殺す。弱かった己を。全てを取り戻すために)
 ルウナがそうやって前に進むというのならば、愛無はそれを追う。
「っと!」
 団員の攻撃は弾かれた。
『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)の結界によって。
「ここは、通せないのだわ」
「見所のある連中みたいだな! いつもの"手"で行くぞ!」
 彼らが生きていれば、きっとそうやって楽しそうに武器を構えたのだろう。
 二度と会うことのない人々との邂逅。
 こんにちは、と言ったって……それはただの独り言だ。
 華蓮は目を伏せる。
 確かにいた人々。きっと、彼らはこんな風に笑ったんだろう。
「とてもとても寂しくて、悲しいお話なのだわ……。
輝いていた頃に戻りたい、そんなの誰だって思う当然の気持ちな筈なのに……」
 終わった日々。
 もう、彼らと出会うことはない。
(彼には心安らぐ未来が待っていて欲しい。でも、今の彼の願いを通す訳にはいかないのだわ。
全てをハッピーエンドにする力なんて、私には無いのだから)
 奇跡があれば。
 都合の良いデウス・エクス・マキナがあれば。
 団員が振るう剣を、小気味の良い金属音が受け止めた。
 run like a fool。
『never miss you』ゼファー(p3p007625)の振るう古びた槍は、まっすぐに道を切り拓く。ゼファーは団員を翻弄し、不敵な笑みを浮かべる。
「感傷って奴はどうにも厄介なもんよね。
もう、其処には無いものを想っては心削られて行くんですから」
 その光景が大切であれば大切であるほどに、振り切れない重力が身をさいなむようになる。
(嗚呼……だけど。そうして心を削り続けた先に残るものって、何なのかしらね?
決して、綺麗なものではないのでしょうけれど)
 insatiable。
 強欲な心は求め続けることをやめられないだろう。
 風に身を任せるように身軽に、ゼファーも重いものを捨てて生きてきた。
 そんなことは無理だと思っていても、奇跡があれば良いのに、と華蓮は願うことを止められない。
(妬ましいのだわ……きっとこの世のどこかに居るだろうそれを成す事の出来る誰かが、とてもとても妬ましい)
「愛無」
 ルウナの紡いだことばが形を成した。
 立ち上がったのは、愛無の姿。
 自分自身の似姿に、愛無は迷うことなく一撃を入れていた。
(呼んだのか)
「いたぞ! こっちだ!」
 団員たちがやってくる。
「素通りとはひどいじゃねぇか、もっと遊ぼうぜ、愛無」
「させないさ」
『騎士の忠節』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)の仕込み杖が、団員のサーベルを受け止めた。
 背後からの愛無の形をした異形が迫るが。そちらは、『折れぬ意志』日車・迅(p3p007500)が一撃を受け止める。
「なるほど……記憶にあるものならどんな姿でも、生者でも良いのですね。
今まで亡くなった方ばかり目にしてきたのでそういうものかと思っていました」
 手応えは本物の愛無にはおよばない。
 だが、強敵には違いない。
 迅は呼吸を整えると、アルヴァに背を任せて敵に向き直る。
「……ったく、さっさと片付けて追いかけさせてもらうぞ」
「……偽物だってわかってても、知ってる人と戦うのはやり辛いね」
「うん。仲間と同じ姿ってのはやりにくいね……」
 ひらりと、勇気づけるように花弁が舞った。
『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)の花々の中で、『暁の剣姫』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)が華麗に舞う。
「遠慮は、いらない」
「覚悟を決めて拳を振るいましょう!」
「ここで立ち止まるつもりはないよね。この先に何が待っていて、何が起こるかはわからないけど、きっと放っておくわけにはいかないもの!」
「愛無、恩人とやり合うのは辛いかも知れないケド、思い残す事がないようやっていこうねっ!」
「……ありがとう」
 愛無は、ルウナを追いかける。
 ルウナの足跡。
『ふゆのこころ』エル・エ・ルーエ(p3p008216)のファントムチェイサーがあとを追う。
(うーんうーん。
力は、捨てていくだけでは、手に入らないって、エルは思いました)
 言葉にするのはむずかしいけれど。
 たしかに、動きはとても速くって。無駄なモノを排除した動きで――でも。
(経験が、力になるって、エルは考えています、から。
積み重ねたものは、いらないものでは、ありません)
 捨ててきた感傷をひとつひとつ拾い上げて。
(エルはその事を、ルウナさんに、伝えたい、です)

●置いてきたもの
(のう、愛無)
 捨ててきたつもりで染みついていた。忘れることなどできなかった。
 だからこうして黄泉がえる。

(彼らが死んだのは彼らの弱さだ。守れなかったのは僕の弱さだ。
彼らはいない。もう死んだ。同じ過ちを繰り返すな)
 愛無は彼らの名前を呼ばない。
 鋭い聴覚が音を拾う。文字列に過ぎない。そう言い聞かせる。
(僕は戦える。僕は戦える。戦わねばならない。戦え。戦え。戦え。僕は化物だ。感傷などウェイトにすぎない。捨てろ捨てろ捨てろ捨ててしまえ。僕は化物なのだから)
「ルウナ殿に追いつかねばなりません。電撃戦です! いけますか?」
「もちろん!」
「当然だ。俺は騎士だ。しっかり責務は果たさせてもらおう」
 迅の呼びかけに戦友が。アレクシアとアルヴァがそれに答える。
 ファミリアーは迅の手を離れた。
 開戦の狼煙は迅の繰り出したブルーコメット・TSだ。神速の一撃。約束された先手が団員を貫いた。
「さあいくよ! あなたたちの相手は私!」
 アレクシアの誘争の赤花が、火の粉のようにあたりを舞った。怒り、いや、強い者と戦える喜びか。
「俺と戦いたい者はいるか?」
 アルヴァは盾を構え果敢に名乗りを上げる。我もと名乗りをあげかえし、敵がやってくる。
「さあ、受けてたつっ!」
 きっと在りし日の光景の残り。誰かが望んだ、物語の続き。
(電撃戦……という方針なのだわ)
 華蓮は前を見据える。
 身を危険にさらしてでも、先へ進むというのなら。仲間が、その身を盾にするというのなら。支えることはできる。……ほんとうは傷つく前に、癒やしの力を使えたら良いのに。
 迷いを振り払い、凜として、天使の歌を紡ぐのだった。
 躊躇すればそれだけ取りこぼしてしまう。
(今の私では、本当に回復が得意な人たち程の効果は出せないのだわ……ああ、妬ましい……)
『愛無!』
 ミルヴィが、愛無の名前を呼んだ。
『ここはアタシに任せて! ルウナの事を任せたよ!』
「……わかった」
 愛無は跳ぶ。
(貴方は最初は怪物だったかも知れないけれど。それでもアタシ達とには仲間なんだ!)
 愛無は止まらない。止まることはない。
 匂いがする。団長の匂いが。後悔は見せないだろう。だが、迷っているのだろうか。
――そこで止まるようであればもう二度と会うことはない、と言っているように思えた。
 影。
 自分自身が立ちはだかる。
 今の愛無。強くなった、と目を細めたルウナが浮かんだ。
(ボクを、超えなくてはならない)
 口腔から大音量で放たれる咆哮は脳を砕くかのよう。
 相手もまた同じ咆哮を上げた。
 遺跡が揺れる。
 分かっていたことだが、タダでは通してくれないらしい。
(ホルスの子供達は倒す。
愛無はルウナの元に届ける。
なあに、両方やって見せるのがイレギュラーズってやつだわ)
 ゼファーのH・ブランディッシュが一陣をなぎ払う。
 今の愛無を模したもの――は跳んでかわした。未熟なホルスは、避けようとして失敗する。
 ああ、不慣れな頃は。そんな戦い方をしたこともあったかもしれない。懐かしい記憶は心の奥底に。今は前だけを見た。
「さっさと決着を付けられるほうが良いに越したことはないからね!」
(ルウナさん……)
 この遺跡はとても暗いけれど、エルにはわかる。見えている。
「……ルウナさんは、さきにすすんでいるみたいです」
「わかった」
 その返事は、「追いつく」という決意。
 パーフェクトフォーム。エルは失敗しないように、冬のおとぎ話に祈った。
 ピューピルシールが愛無の影を狙った。異形の変化は阻害される。吠える声は愛無のひとつだけとなった。
 影がちぎれる。
 足場が崩れる。攻撃の代わりに、横に跳んだ。

●一直線に
「急ぎましょう!」
 動ける。とわかった瞬間、迅は己の中でリミットを外す。危険であろうとも構わない。
 刀に対して、迅は無手で果敢に飛びかかる。
 金属と腕がぶつかって、なおも。
 べきりとへし折れたのは刀の方だった。
「馬鹿な……」
(やはり、俺の武器はこれです……!)
「あの構え……見たことねぇぞ!」
「いや、傭兵の仲間が話してた。 あれは――」
 軍事国家『鳳圏』に伝わる技。
 飛虎八閃拳。
「はああああ!」
 岩をも砕く、全てを退ける一撃。
 勢いを増したブルーコメット・TSが炸裂した。
 
 傷ついた仲間を見つめながら、華蓮は歌を止める。
 進むと決めたなら、追い風を与えよう。
 不意に、名前を呼んでしまいそうになってこらえる。
 代わりに、忘れることはない少女の恋心に己の心を重ねる。
(ねぇ、もしかしたら、なのだわ)
 あなたもここにいたら、泣きじゃくって”彼”の名前を呼ぶのだろうか。それとも?
 一途な彼女を通して見えてしまった、自分の姿を思い出す。
 小さな棘を解き放つ。
(私の心に刺さった棘の一本を、せめて未来を拓く為の力に変えて)
 人形は崩れ落ち、もう二度と立ち上がることはない。
「ごめんね……せめて、安らかな眠りを……」
 傭兵たちは笑っている。
「ああ、「楽しい」」
 正々堂々と、傭兵ならば死地はいつか訪れるだろうと思っていた。
 幸せそうに崩れていく。あるかもしれなかった未来。
「どいてもらおうか!」
「私は……引かないよ!」
 防御魔装【五分】が熾烈な攻撃を受け止めた。
 花弁が散る。
 そのたびに、アレクシアは呼吸するように魔力を集めて、誘争の赤花を咲かせる。
 茨の鎧が、身を守ると同時にいくつもの傷を与える。
 幻想の泡花。白き星のような花弁が舞い散った。いつかあり得た姿、幻想の具現。つくりものではない、自らが映し出す理想。
「そう簡単にはやられてあげないからね! やれるものならやってみなさいってね!」
 空を求めて、空色の瞳が光り輝いた。
「威勢がいいねえ。団長は俺たちもよりも強いぞ!」
 ここが踏ん張りどころだ、と、アレクシアは力を込めて立ち続ける。
(できるだけ仲間の余力は残せるようにしないと!)
 たとえ、その前に何が待っているとしても。
 追いすがる団員を、ゼファーの一撃がのした。
「ステージを降りるにはまだまだ早いわよ?
最後まで踊って、此処でカーテンコールを迎えようじゃないの」
 風光る。
 そこにはやはり、誰かの面影がある。
 形がなくても生きている。
 ミルヴィがすたり、と着地した。
「消費度外視の全力でいくよ!」
 愛無の似姿を、曲刀の二本が受け止める。飛び込み、くるりと舞う様子に、つくりものは対応できなかった。
 動く。
 殺人鬼ミリー。鋭い舞い。人を致命に至らしめるその技は、覚えた剣筋だった。
 力への渇望を。止められないあふれるような情熱をミルヴィは経験で知っている。
 たった一人の少女に対して手練れの傭兵十数名は皆殺しに遭った。
――力がほしいと、心から願ったことがある。

●先へ進もう
 道を。
「ルウナ、さん……」
 迷いを捨て、ルウナが足を速めている。
 急ぎ足をエルが告げた。
「お願いします、行ってください! ここは絶対に通しません」
 迅は敵の前に立ち塞がる。一歩も引くつもりはない。
「ああ、わかった」
 アルヴァが続く。道を作る。
 ファミリアーがアルヴァを追う。
 団員たちは徐々に打ち倒され、土塊になっていく。
「護り切れるものなら……!」
 ヴァルハラ・スタディオン。英霊の魂を手にして、立っているのはやはり英雄だった。押し寄せる敵に向かって。焔華皇扇が通路を一閃した。
 ホルスの子供を焼き尽くすまで。
 一度見た夢は、土塊にもどる。
「こんなところでは止まれないわ」
 黄昏の曲刀と暁の曲刀が交わった。
 ミルヴィの手に持った二刀の剣が交差した。
 ここには届かない、ラサの太陽を思わせる。
 ここは舞台。視線は吸い寄せられるように、ミルヴィを向く。
 一跳び。
 戦いの鼓動にあわせるように、ステップは正確に繰り出される。
 幾多もの連続斬り。
  その名はファム・ファタル。 魔性を思わせる程の剣技。
 誰かが剣に愛された舞姫に賞賛の口笛を吹いた。ミルヴィは微笑み、観客への返事にメナス・ルーヤを贈る。美しい肢体を躍動させる。
『これでも腕を磨いて来たんだ! ただの踊り子と思ったら怪我するよ!』
 立ち止まらない。返事はいらない。こんなもので取り戻せるほど、軽いものじゃない。
(ただ殺せ。ただ壊せ。それが彼らへの手向けなのだから)
 愛無は正確無比に急所を狙う。土の人形に急所があるのかは分からないが。それでも、身体は自然とそう動いた。
 ああ、都合の良い幻だ。何か言いたそうでも。
 音だ。空気の振動だ。ただの情報だ。次にどう動くかのみに集中して参照しろ――。
「愛無」
 名を呼んで溶けていく言葉に。
 会いたいと、エルには聞こえた気がした。そう思えたのだ。でも、足を止める理由がないというのなら。……つららを呼んだ。
「これは……」
 あたりに、幻の雪が降り注いだ。
 冬の気配が差し込んだ。
「なんだ……!?」
 ウサギ型召還獣「つらら」。全身にびっしり氷の棘が生えた冬の生き物。
 つららはくんくんと匂いを嗅いだかのように鼻を動かして、主人の望みのままに駆けて敵をなぎ倒していく。
 冬のおとぎ話は分け隔てなく。ひつようならば、停滞を。
 捨ててなんていかなくていい。きっとそれだけ強くなれるから。
 空いた隙間に花弁が舞い降りて。
 一歩をアレクシアが埋める。
(ここは絶対にたどり着かせてあげないとって思うもの!
そのためなら、多少の傷くらいどうってことないんだから!)
 愛無の触手が愛無を模した自身の心臓部をとらえていた。
 傷口にえぐりこむように腕を伸ばす。
 色宝のかけらが、見えた。
 粘膜を流し込む。これは僕じゃない。ここにいるのも仲間たちではない。
 だったもの、は生命活動を止めた。団長と夢を見ていた幸せな頃の自分の人形。 
「これ以上、足止めを喰らっているわけにはいかないな」
 アルヴァは愛無に手を差し伸べた。
 愛無は、ためらいなく人の姿を止めた。
 アルヴァは飛び上がった。
(団長とて、この遺跡においては「異物」である事には変わりない。必ず追いつく。追いつける。必ず彼女を止めて見せる。這い蹲るだけの僕ではないのだから)
 前へ。前へ。ただ前へ。
(立ち続けるためには、強さが必要なのだわ)
 そのせいでたくさんの傷を負うことになったとしても……。
 今は、倒れてはいけない。
 華蓮のミリアドハーモニクスが、アルヴァを癒やした。バトンを渡すように。
(さようなら)
 そっくりさんに、別れを告げる。さようなら、弱かった自分を。一人一人の顔をエルの瞳は映す。
「通すなーーーー! かかれ!」
 団員に別れを告げる。
「感傷なんて決してロクなもんじゃないけれど。
其れでも、大切な過去との繋がりだもの。
切っても切れずに何処までも追い掛けて来るものだわ」
 敵の最後の雪崩を引き受けて、ゼファーが背を押した。
「だから悔いのない様にケリを付けてらっしゃいな?」
「力を貸して!
私達みたいな悲しい事を繰り返させないために!」
 ミルヴィに応えるように身体は動いた。おおおお、と団員たちが声を上げる。

●生まれるはずのなかった言葉、邂逅
「……足の速さだけが俺の領分だ、少し失礼するぞ」
 アルヴァの制御不能なブリンクスターが輝いた。鋭い加速が距離を縮めていく。
 人々。
 過ぎ去った日々が逆向きに、流れていく。
 過去から、今へと。
 愛無はその匂いをたどる。右か、左か。音速に近いようなこのスピードの中。伝える暇も惜しんで、進行方向ではない壁を腕を伸ばして殴りつけることで示した。
「頼むから追い付いてくれよ……!!」
 あったかもしれない分岐の道が、がらがらと崩れていく。

 雪。
 雪の気配に、ルウナは足を止める。
「愛無、来たのか」
 まさか来るとは思わなかった。すでに心の中で別れを告げていたのだから。
「ルウナさん、エルの声が、聞こえますか?」
 エルが囁く。その声は降り積もる雪のように静かで、ただ、そこにあるかのように、ルウナのもとに届いた。
 責めるようなものでも、諭すようなものでもない。ただ、祈りに近い。
「どうか、大事なものを、簡単に捨てないで下さい。
たとえ失ったものでも、積み重ねた事を、なかった事にしないで下さい。
だって、思い出は力に変わりますから」
 ルウナは自嘲して笑う。
 力がほしかった。仲間のために……。
(魔種になったのはわかるよ……。もう多分戻れないことも……)
「それでも!」
 ミルヴィは叫ぶ。
 ねぇ、きっと。無駄なんかじゃない。
(仲間の恩人が魔種になって更に間違いを犯して堕ちていくなんて事はアタシだけで十分なんだ!)
 ミルヴィは思う。
「仲間を護れなかった悔やみ、哀しみは理解しよう。
でも、魔種に堕ちたお前は、もう何も護れない」
「……」
「そして昔の仲間も、もう戻ることはない
キミが本当に欲していたのは、そんなものだったのかい?」
『力が欲しいなんて嘘つくんじゃないよ!
きっと貴方は仲間達との輝いてた時間を取り戻したかったんだ!
……それを、汚すなっ!』
「それができたなら」
(――気持ちは痛いほどわかる……だってアタシも同じだったから)
「強いな。どうしてそんなにもまっすぐな目が出来る? 手足をもがれるほどの痛みを得ておきながら、どうしてそう動けるのじゃろうかのう……」
 迅が追いついた。上手い言葉は思いつかない。ただ、不測の事態に備えて拳を構えた。
 電撃が道を分かつ。ぐらりと揺らぐ水晶の一本道。
「ともに来るか、愛無」
 返事はきっと分かっていた。
 彼らが団長の無念だとしても。
(僕の未練だとしても)
「僕の名前は恋屍・愛無。人でなしの化物だ」
 決別を。
 もう戻れない日々に別れを告げて、一撃を。
「愛無」
 愛無は叫んだ。
 脳を揺らす。
 かつての思い出とともに、遺跡はガラガラと崩れ落ちていった。迷宮だった場所。見失えば二度と会えなかっただろう道。道筋は得た。

成否

成功

MVP

アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮

状態異常

恋屍・愛無(p3p007296)[重傷]
終焉の獣

あとがき

お疲れ様でした!
結果としては、遺跡を踏破し、無事にルウナ・アームストロングに追いついた状態となります。

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