シナリオ詳細
トアの心臓
オープニング
●ローザミスティカ
監獄島、という言葉を聞いたことがあるだろうか。或いはローザミスティカ、の名前は。聞いたことがないのであれば、ここで知っていくと良い。
監獄島とは小島の通称名である。幻想沿岸部に位置したその小島内はその名の通り『監獄』であり、罪人たちが収監されているのだ。
彼らに完全な自由はないが、それでもいくらかの自由は存在する。そのキーが『薔薇のコイン』と呼ばれる通貨だそうだ。これは実質的支配権を握るローザミスティカの監視におかれつつも、罪人たちはそれを使用して娯楽を楽しんでいると言う。
ローザミスティカ。この女性こそが監獄島で一番にえらい人間である。元々は貴族だと言うが、この場所にいる時点でロクでもない――普通の人間ではないことは確か。謎の多い存在だ。
さて、どうしてこのような説明が入るに至ったか。だいたいの者は気づいているだろう。
――これから紹介される依頼が『監獄島絡みだから』だ。
●ローレット
「やあ。ちょっと悪いことを頼まれてくれるかい?」
『黒猫の』ショウ(p3n000005)はイレギュラーズを見て目を細める。悪いこと、とは悪名馳せてしまうような依頼ということだ。
「監獄島からの依頼さ。依頼主は『No.19637』」
随分と桁の多い番号だね、なんて呟いたショウはイレギュラーズの視線に目を留める。小さく首を傾げた彼は、やがて「ああ」と納得した声を上げた。
「彼らはドッグタグで識別されているようだよ。同じ番号でも同じ人間なのかはわからないけれど」
もしもその番号の人間が死んだのなら、番号は次に入ってきた人間に当てられるのか。はたまたそのまま空き続けるのかは定かでない。けれどおそらく、あの監獄島には驚くような人数が収監されているのだろう。
「話を戻そうか。依頼主はトアの心臓と呼ばれるものを欲しがっている。これだね」
ショウが差し出した新聞は少し前のものらしいが、鉄帝にあった遺跡から発見されたものであるらしい。鉄帝技術のこもった機械のコア部分と見られているようだが、詳細はこれから調べるのだとか。
「今は鉄帝で管理されているそうだ。君たちはそこへ忍び込み、或いは無理矢理突破して奪い、逃げるってことになる。
ああ、大抵のことはこちらで揉み消せるが……間違ってもイレギュラーズだとかローレットを匂わせることだけはやめてくれよ」
ローレットという組織は小さなものではない。故に多少の不祥事――怪しまれる程度――ならなんとでもできるが、明言されてしまってはどうしようも無い。それどころか『ローレットとそこに属する者』を守るために切り捨てなければならないかもしれない。
逆に言えば、そこさえ気をつければ多少無理をしても構わないということでもある。過信は禁物だが、そこまで堅く考える必要もないだろう。それにこういった後ろ暗い仕事というのは――その分、報酬も弾まれるというもの。頑張ればいいことがある。
「トアの心臓は研究所で管理されているようでね。障壁なんかも作動するらしいが、基本的にはそれだけだ。障壁が出てくる……気付かれるまでは密やかに進んで、気付かれたなら武力行使、なんてことになるんじゃ無いかな」
障壁は鉄帝人が数人がかりで壊せると『実証』されている。というのも、以前障壁が作動した時に解除コードを打つのが面倒くさく、物理的破壊で解決した記録があるそうだ。ちなみにその際は誤作動だったため、それ以上何もなかったと言う。
「警備員の巡回は常にあるみたいだけれど、うまくすれば躱せるだろう。トアの心臓はそれなりに重いらしいから、落とさないように気をつけてくれよ?」
それじゃあ、いってらっしゃい。ショウはそう言ってイレギュラーズを見送った。
- トアの心臓完了
- GM名愁
- 種別通常(悪)
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年01月19日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
人気もない枯れた森の中。冬の鉄帝は厳しい土地だ、寒さも相まって余計に閑散とした雰囲気を与えている。
その中を――人目を避けて、8つの影が動いていた。
「はぁ、古代兵器のコアか……」
『策士』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は今回のターゲットを思い出して思わず遠い目になる。いかんいかん、気を抜くわけにはいかない。さりとてそのアイテムとそれを所持する国家を思えば遠い目もしたくなるもの。
(練達がその手のことでほぼ毎日厄介ごとを起こしているのに……やっぱり脳筋しかいないのか)
練達といえば様々な研究が行われている場所、というイメージが強い。もちろん再現性東京のような生活区画もあるわけだが、やはりヘンテコなものを作って爆発なり騒ぎを起こすなりしている印象は拭えないだろう。
同じようなことを起こしたいのか、とマニエラは考え込みかけて――やめた。だって今回の依頼とそれは全く関係がない。ならば気にしなくて良い事柄である。
「まだ調査も済んでねェ採掘品だろ? 確か」
「随分と厳重に管理されているみたいだよな」
『座右の銘は下克上』袋小路・窮鼠(p3p009397)の言葉に『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)は頷く。そう、ことのほか厳重な警備のもと保管される代物だというのに、依頼主はその正体もわからないうちから盗ってこいとオーダーを出している。調査結果を待つ時間も惜しいのか、或いは結果が出てからでは遅いのか。
(ま、金が貰えりゃいーや)
こういう仕事は深く詮索してはならない。触らぬ神に祟りなしである。特に後ろ暗い仕事で下手に探ろうものなら――下手すれば消されるだろう。
窮鼠も近い考えであるらしい。報酬が出るなら見合うだけの仕事をする。この世界に来てまだそう長くはないが、故に情勢などで左右されない仕事こそやりやすいというものである。
「ぼちぼちだ、準備はいいか?」
「もちろん。ギアバジリカを思い出しますね」
ことほぎが顔を隠すのを見て『離れぬ意思』夢見 ルル家(p3p000016)は首肯する。鉄帝の潜入捜査といえば――もうだいぶ経ってしまったが――去年起きた騒動が思い起こされる。最も、感慨にひたっている時間はなさそうだ。ターゲットたる『トアの心臓』が保管された研究所は近い。
(用心に越した事ァねーな)
呪言はしっかりと顔に覆いをつける。悪名高く知られているのは幻想国だが、鉄帝でも知られていないとは言えない。しかもギフトを思えば尚更。
「要は見つからなければ良いんだろう?」
『特異運命座標』影縫・纏(p3p009426)は目を細める。見つからなければやられることもない。纏にとってそれは得意分野である。
「戦うことになったらその時はその時だ。受けたからにはこなすさ」
見えてきた、と『フォークロア』スカル=ガイスト(p3p008248)が告げ、一同は木々に隠れつつ足を止める。前もって齎されていた情報通り、出入り口には警備員が立っているようだ。正面からの突破はまず難しい、とイレギュラーズたちは気配を殺しながら建物の側面へ回り込んでいく。
いつでも動けるように、とマニエラは自らへ特殊支援を施す。その視線はルル家とシラス(p3p004421)へ。彼らもそれなりに消耗が激しくなるはずだ。
(私の代わりにも、是非頑張ってもらわないとね)
自らは侵入や探索に向いていない、とマニエラは周囲の警戒へ。その間にスカルは身を隠しながら窓のひとつを覗き込む。残念ながら遮音性ばっちりな窓は人の足音などを完全にシャットアウトしているらしい。同時に――こちらの音も室内へ聞こえるか、定かではないが。
(研究員が1人、こちらに気付いた様子はない……か)
素早く見回して『トアの心臓』らしきものがないと知れるや再びスカルは身を隠す。視線をマニエラへ向けると、彼女はまだ大丈夫だと言うようにひとつ頷いた。
「メリー殿。この部屋なら侵入できそうです」
「わかったわ」
ルル家が示した窓を見た『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)はするりと壁を通り抜ける。透視であらかじめ見て貰っていたおかげで人気はなし。耳を澄ましてみてもこれといった音は聞こえてこない。どうやらここは物置部屋らしい。研究所らしい、といえばらしいが雑多である。
(さっさと鍵を……)
振り返ったメリーは目を瞬かせた。その向こう側では仲間たちが様子を窺っているのがわかるが――ない。窓の鍵が存在しない。窓の縁を見るにはめ込み式のようだ。さて、外へ報告しに行っても割ることは変わらないしこのまま――といきたいところであるが、如何せんこれはパーティを組んでの依頼である。彼女1人での行動は仲間のみならず、巡り巡って自身を危険へ曝すやもしれない。
(本当に、いい子でいるのって大変だわ)
一旦外へとすり抜けて状況報告をするメリー。仲間たちとしても、窓が開かなければ割るしかあるまいと言う認識は共通だ。
「出来るだけ音を立てずに壊したいな」
「それならこれを」
スカルの視界に纏の出した布が入る。これを当て、窓を叩くようにして割ればいくらかは音が吸収されるはずだ。
「OK、それでいってみよう」
「他に良い方法も思いつきませんしね」
シラスとルル家も頷き、一同はそれを使って窓を割った。小さく、くぐもった音が一同の耳に入る。暫く辺りを警戒し、特にマニエラは本能的に感じるものがないかと探ってみたが特に気づかれたという様子はなさそうだ。
「よし、今のうちだよ」
マニエラをしんがりに窓から侵入を果たすイレギュラーズ。窮鼠は透視で部屋の外――通路を誰かが通りかからないかと探りを入れる。
『どうだい?』
『巡回で2人。こっち側へ向かってきてる』
ことほぎへ小声で返した言葉に一同が緊張の色を浮かべた。けれどまだ、できる事なら交戦回数は減らしていきたい。
扉の近くで武器を構え、息を殺すイレギュラーズたち。頼む、通り過ぎてくれ。入ってきた暁には――。
「……過ぎたみたいだ」
窮鼠の言葉にほう、とため息をつく一同。侵入早々戦闘は回避できたようだ。盗む前に倒されてしまう事態は可能な限り避けていきたい。
(鉄帝人がどう強いのかはわからんが)
視線を扉の外へ向ける纏。召喚されて日も浅い彼女からすれば、鉄帝人は強いと言われてもイマイチぴんとこないだろう。けれども油断ならない相手であるということは聞いて伝わっている。
「さて、侵入できたなら次はトアの心臓の位置だ」
シラスは一同を見渡した。想いは皆同じであるらしい。
今回のターゲットは非常に目立つ品であり、間違ってもポケットに隠せるような代物ではない。とはいえどこにあるのか皆目見当もつかないのが現状だ。
ならば、どうするか?
「こういうのは知ってる奴に聞くのが一番早いよね」
●
『大丈夫そうだ』
スカルが音で通路が無人である事を確認し、一同は素早く出る。途中の空き部屋を見つけるのは透視を持つ窮鼠とルル家だ。纏は照明の影へ音もなく踏み込み、目立たないように隠れていく。直射日光による影ではないものの、いちいち空き部屋へ8人が隠れるよりは動きやすいだろう。
『何よ、小さな虫すらもいないわけ?』
ふわりと低空飛行で移動するメリーは辺りを見て口を尖らせる。先ほどの雑多な様子を見るに虫の1匹、いやネズミの1匹だっていてもおかしくなさそうなものであったが――厳しい寒さのせいだろうか。
(じゃあ仕方ないわよね。トアの心臓探しは任せちゃいましょう)
そう、これは仕方ないのだ。だから他の皆、よろしくね。
『あの部屋には誰も居なさそうだが……』
『拙者の見ている方は丁度、いるみたいですよ』
次に忍ぶ部屋を探す窮鼠はルル家の言葉に視線を向ける。あそこです、と示された先はどうやらそれなりに大きい一室であるようだ。
『見取り図で言うならここ、か?』
スカルは外から観察した情報で作成した見取り図を広げる。窓のない部屋もあった上、コの字型の内側に面している部屋は調査出来ていないが、侵入口から大体の位置は割り出せる。
『む。皆、奥へ潜んでください!』
小声で、しかし口早にルル家が一同を奥の暗がりへ促す。再びの巡回だ。息をひそめる一同の内、ルル家とスカルは彼らの話している内容を朧げに耳にする。
「そういや……の心臓……実験……」
「……移されて……もうすぐ始まるんじゃなかったか? ……ったら……」
近づいた時の一言は全員に聞こえただろう。けれども全てを把握しているのは2人のみ。ルル家とスカルは顔を見合わせた。
『……今の、トアの心臓についてですよね?』
『恐らくは』
場所の話こそ出なかったものの、恐らく本来あった場所から移されている、という話だったのだろう。そしてもうすぐ始まるのは実験とやらではないだろうか。
『そこに行けば研究資料もありそうだな』
ことほぎは2人の聞いた話を共有されるなりにやりと笑う。依頼人の思惑を探る気はないが、金の出そうなことなら喜んでやろう。
『何にせよ、まだ聞き込みは必要そうかな?』
やるのは私じゃないけど、とマニエラが視線を向ける。先ほど『いる』とルル家が言っていた部屋だ。彼女曰く、あの部屋には1人きりでなんらかの作業をしている者がいるという。
「そんじゃ、オレの出番だな」
任せろ、とことほぎは笑い、巡回の過ぎた廊下を横切って――普通に扉を開けた。
『『えっ』』
あまりにも堂々とした入り方に思わず――勿論小声だけれど――仲間の何人かも声を上げる。その先でことほぎは非常に友好的に片手を上げた。
「だ、誰だ君は! 侵入者か、」
「よう、先任の人?」
「……せ、先任? え?」
戸惑う研究員の声。透視持ちには本当に戸惑っている姿も見えた事だろう。こんなに友好的な侵入者がいてたまるか。
「今日から配属になったんだが、どこに何があるかわからなくってよォ」
「今日から? あれ、そんな人いたっけ……いたっけかぁ……?」
面白いくらいに騙され始める研究員。そのクマの濃さが思考能力の低下を物語っている。
「ちょっと名簿探すからそこに座りなさい。ああ、君の名前は――」
そう顔を上げた瞬間。ことほぎの目が怪しく光を帯びた。研究員の力が抜けたことをルル家たちが見て取り、空き部屋から素早く移動してくる。シラスは『使用中』のプレートが下がった扉をしっかりと閉めた。
「ああ、君たちも新人か……?」
「ああ。教えて貰おうか」
「本日はトアの心臓を用いた実験があるのですよね? 何処で予定されているのでしょう?」
「いざってときの障壁解除コードも教えてもらいたいな」
口々に魔眼を発動し、また要望を口にするイレギュラーズたち。研究員は解除コードについては教えた者の、トアの心臓となると首を横に振った。
「あれは……新人に教えるようなものじゃ……」
「やっぱり言葉だけじゃダメか」
小さく息をついたシラスは想像を頭の中へと描き――具現化する。ひぃ、と研究員が息を呑んだ。
「あ、や、やっぱり侵入者か……!?」
「おっと、逃がすわけにはいかないな」
窮鼠が使役する式神へ命じて拘束させる。研究員はシラスの出した幻を幻と気づいていないようだが、それならば都合がいい。
「トアの心臓はどこだ、まだ喋れるうちに素直になった方がいいぜ。……『こう』はなりたくないだろ?」
シラスが示した幻は徹底的に痛めつけられ、顔の判別もつかないほどになった研究員の姿だ。辛うじて息はあるようだが、すっかり痙攣してしまっている。
これでもダメなら本当に尋問する他ないが、正直そんな時間も惜しいのだ。
「あ、わかっ、わかった、トアの心臓はこの先の大会議室だ! そこで実験の準備をしてるんだ」
「大会議室?」
「場所がなかったんだろうな」
目を瞬かせるルル家に纏が肩を竦める。まあ、場所が分かったのならこれでこの研究員は用済みだ。さっさと行きましょうとメリーが踵を返す。
「ありがとよ。アンタは寝ててイイぜ」
ことほぎはそう笑って――研究員は死角からシラスに殴り倒され、気絶した。
巡回を躱し、時に部屋にいた警備員を抹殺しつつイレギュラーズたちは奥の大会議室へ向かう。上にそのプレートが掲げられた扉は半分ほど開いていた。中をルル家が透視と超視力で覗くと色々なコードが散らばり、よく分からない機械も用意されている。そして1人、見張りの為だろうか――だがすっかり寝こけている研究員が1人。
『お疲れですね』
『ま、今なら簡単に持って行けそうね』
『動くなら早めに。いつ誰が来るか分からないし』
マニエラの言葉に一同は頷き、素早く部屋へ入る。罠の類も特にない。言うなれば床に散らばったコードこそが天然の罠だろう。
(まあ、盗み出すってことに罪悪感を覚えない訳でもないが……)
死人の出ない仕事だ。割り切ろうと纏もまた部屋の中を忍び足で進んでいく。――が。
ジリリリリリリリリリ!!!!!
「早っ!?」
「何かしら気づかれたんだろ」
ことほぎの声にシラスが冷静な言葉を返す。割った窓か、気絶させた研究員か。いずれにせよここまできたのだ、さっさと頂いて帰るに限る。
「誰だ!?」
先ほど居眠りしていた研究員も起きたらしい。壁に設置されている通信機らしきものへ駆け寄ろうとするが、スカルが先んじてそちらへ回り込む。
「悪いな」
向けられるBB。研究員は昏倒した。スカルが視線を向ければ、窮鼠の式神がトアの心臓と呼ばれるものを抱え込んだところだった。
「それじゃ、全力で撤退しましょう!」
ルル家が透視で先を見つつ告げる。どうやら先ほどの警報で障壁が作動したらしいが、こっちには解除コードがある!
メリーが壁に埋め込まれたタッチパネルへコードを入力し、1つ目の障壁を解除する。向こうの方で騒いでいる声も聞こえるが今のところは順調も順調。
だが、障害は最後に立ちはだかるものである。
「流石に戦わず、というわけにはいきませんか……!」
「援護する。前は任せたぜ!」
ルル家が武器を構えるより早く、ことほぎの監獄魔術が飛ぶ。傷を付けぬ魔術ではあるが――その次はどうか。硬そうな肉体はなかなかに難敵だが、手元の狂った警備員が強力に、そして惑わされた警備員が咄嗟に庇うこともできず同士討ちをし始める。
「っ! 後ろからも……!」
纏は咄嗟に振り返るが、それよりも敵の武器の方が早く空気を薙ぐ。痛みに負けぬよう歯を食いしばり、纏は踏ん張った。そこへ極限の集中状態へ至ったシラスが躍り出る。
「目的は達成したんだ、さっさとおさらばさせてもらうぜ!」
たん、と地を蹴ったシラスの輪郭が一瞬ぶれる。否、それは残された影。次の瞬間警備員の1人が唐突な打撃に呻き声を上げた。
「道を切り開く! 皆、遅れないように!」
マニエラが叫んだ直後、狭い通路を雷撃の蛇がのたうち回った。味方を避けたそれは確実に警備員のみを苛む。その隙にと1人、2人、イレギュラーズは最初に侵入した物置部屋へ――その先の窓へと飛びついた。
「来ないでくれる?」
メリーの放った衝術が警備員を吹っ飛ばす。ここで捕まるわけにはいかないのだ。そこへスカルもディスピリオドで敵の命を仕留めにかかる。
「先に行け」
「あら、じゃあ行かせてもらうわね」
まずトアの心臓を持たせている式神とその主たる窮鼠が。そのあとにメリーやことほぎたちが続いていく。
「どうぞお先に!」
ルル家は纏を背に鴉天狗の瞳を見開く。それを媒介に放たれる虚無の波動が警備員たちを襲い、同時に素早く身を翻した彼女もまた、窓の外へと躍り出る。
「逃げたぞ!」
「回り込め!」
そんな言葉が割れた窓の中から聞こえて来るけれど――もう、遅い。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
トアの心臓を一体何に使うのか……定かではありませんが、ええ、オーダークリアです。
それでは、またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●注意事項
この依頼は『悪属性依頼』です。
成功した場合、『幻想』と『鉄帝』における名声がマイナスされます。
又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。
●成功条件
トアの心臓を奪取する
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。不明点もあります。
●エネミー
・警備員
この研究所を守る警備員です。常に廊下を巡回している他、出入口にも2人ずつ立っています。
防御がやや薄めですが、動き出しはとても素早いです。鉄帝人のため、基本能力はそこらの人間と一緒にしてはいけません。
また、2人までブロックすることができます。
警報:遠方の仲間へ侵入者の存在を知らせることができます。
切り払い:近くにいる敵を素早い一線で払います。【飛】【体制不利】
・研究員
昼夜問わず研究している人たちです。目が死んでいます。警備員には劣りますが戦闘能力を持ちます。
精度に欠けていますが威力はそれなり。徹夜続きで特殊抵抗が落ちています。
●フィールド
鉄帝に位置する研究所。小規模ですが、非常に設備は整っています。
全体は1階のみでコの字型になっており、2画あるうちのそれぞれ書き始め部分が出入り口です。
【イメージ】
出入口 ーーーー|
|
|
出入口 ーーーー|
障壁がどこから出てくるか、どれだけ出てくるか不明ですが、出入口のどちらから入っても壁沿いに複数の部屋があります。各部屋には窓があったりなかったりしますので、窓があれば(割って)侵入することができるでしょう。
トアの心臓がどこに保管されているのかは不明です。
●トアの心臓
鉄帝の遺跡で発見された部品。なんらかの機械のコアだったと考えられています。
見た目は大人が両手で持ち上げられるほどの歪な赤い石ですが、思っているより重いです。
●ご挨拶
愁と申します。
トアの心臓の詳細は未だ分かっていないそうです。ここで奪取できたなら、判明するのは監獄島の中で……かもしれません。
それでは、ご縁がございましたらよろしくお願い致します。
Tweet